夢なのか現実なのか。一瞬僕は、目の前で起こっている出来事に戸惑いを覚えた。
初めて見る白銀の髪に、瞳の色は赤く宝石のように輝いていた。さっきまでいるのかどうか疑っていた存在は今目の前に立っている。どうしてこんなところに魔女が?なんで僕の家に...
「すみません。驚かせてしまいましたよね。いきなりこんな姿...」
「...」
10年前、国を滅ぼしたあの魔女が、目の前に魔女が目の前に立っている。
恐怖で体が動かなかった、なんてことはなく自分でも驚くほど冷静で恐怖という感情はなかった。
まだ状況が分かっていない?いや、はっきりと理解している。ならなぜ、落ち着いているのだろうか。
頭を抱え、考えてみるがどうしてもわからない。
そんな僕を美玖さんは見て、困ったげに話す。
「ごめんね、こんな醜い姿。思い出したくないこと思い出しちゃったよね。けど、この姿をあなたに見てほしかった、あの人ににも。」
僕には心を読むなんて芸当は決してできない、だが表情を見て察することはできる。
何かにおびえているのだろうか。腕を組み、震えていた。
「...教えてくれないか。10年前美玖さんの身に何が起こったのか」
たった20分足らずで美玖さんのことを分かったなんて言いきることはできないけど、今思えば10年前のニュースで見た美玖さんとは印象がまるで違った。
昔の美玖さんは、感情がない少女だった。泣き声が聞こえようとも悲鳴が聞こえようとも、迷うことなく破壊を繰り返す人形のようだった。だけど、今は喜んだり、悲しんだりちゃんと感情があった。人形じゃない。僕は人としゃべっていたんだ。
美玖さんの赤く光る瞳をまっすぐ見て返事を待つ。
「...気づいたら、こんな姿になっていたんです。」
「えっ?」
「昔の私は、こんな赤い目じゃなかったし髪もこんな白っぽい髪じゃなかったんですよ?友達と学校に行って、勉強して家に帰ればお母さんがいて夜にはお父さんが会社から帰ってくる。そんな普通の生活を送ってた。だけど、あの大規模事件が起こる1か月前に私は知らない人に連れていかれて...気づいたら。
10年前のことは、私の意志でやったことじゃない!私はあの時の自分が...今の自分が怖い」
「親御さんとは今一緒に住んでるのか?」
美玖さんは、首を横に振る。
「私を連れ去った男が用意してくれた家に住んでる。」
「...」
美玖さんが両親と距離を離すのは考えれば当たり前だった。あんな事件を起こして家に帰ることなんてできない。たとえ帰っても最悪の場合怖がられて国に通報される可能性だってある。
「大変だったんだな」
嘘のようで本当の話なんだろう。
自分の意志と反してあの事件を起こしまった罪悪感、強大な力を有している自分への恐怖。いろいろな感情が美玖さんの中でごっちゃになっているんだろう。
何を言ってあげればいいい?僕なんかが彼女の事情に首を突っ込んでいいのだろうか。
「良かったらさ、明日の昼に...」
普段は静かな住宅街。風と生活音で奏でられる音は心地いい。だけど今、心地いい音に不快な音が入り込む。高く響く金属音は話しかけていた僕の声を遮ってしまった。
「ターゲット捕捉」
金属音が聞こえる先を僕と美玖さんは振り返る。そこには、150㎝代の小柄な少女が立っており、手には少女の体よりも一回り大きな鎌を持っている。
「だれだ?」
ゆっくりと僕らに近づくその少女は、ある程度近づいきその場で静止する。その時だった。
「相馬くん離れて!」
美玖さんが僕を突き飛ばす。美玖さんの力は思っていた以上に強く僕は頭部を強く打つ。
美玖さんの秘密、突然出てきた謎の少女。
「意味わからん」
理解できない事態が続く僕の一日。僕の頭を打ったせいで視界はぼやけ、ついには意識を失ってしまった。