情けない。
あと一歩踏み出せば届くような距離にいるのに、その一歩が果てしなく遠い。
魔女は一国を一人で滅ぼしてしまうような力の持ち主だ。そんな相手を倒すために集められた精鋭である『魔女狩り』。おそらくこの場にいる、僕と美玖さんを除く他の4人がそれなのだろう。
何も持ってない僕なんかがあがいたところで美玖さんを助けるどころか、押さえつけられている状況から抜け出すことすらできないことは分かっている。
それでも、ここで諦めてしまったら一生後悔するんだと思う。
だから僕は手を伸ばし続けた。
「なぁ、お前はなぜ魔女をかばう?お前もニュースを見たんだろ?子供の泣き叫ぶ声。人々がおびえる姿。それの状況を作ったのはこの魔女のせいなんだぜ?さっさとこの魔女殺しちまおーぜ!」
顔を近づけ寄ってきた別の男は、僕に軽蔑のまなざしを向ける。そして、この場にいる全員に向けて大声で殺しの賛同を得ようとしようとする。言動、美玖さんに向ける眼差しに僕は男に殺意を覚える。
「ふざけるな...」
最初は僕だって美玖さんのことが怖かった。ニュースを初めて見たのは、7歳のころでテレビに映ってていいな、そう思っていた。だけど、年を重ねて色んなことを考えることができるようになってから恐怖の感情が芽生えた。冷酷無慈悲な人間だと目の前の男のように軽蔑していた。
それでも僕は美玖さんと出会い、話して印象が一転したんだ。
「お前たちが美玖さんに向ける敵意、殺意は仕方ないと思う。やったことがやったことなんだし、それに関しては僕は口出しできない。でも、美玖さんを殺すというのを行動に起こすのは僕は反対だ。お前たちはまだ美玖さんのことをまだほんのわずかしか理解していないんだ。そういったことを口に出すのは、美玖さんのことをもっと知ってからでも遅くはないよ。少なくとも僕は話して印象や考えは変わったから」
言い切った。少しでも分かってもらえたのだろうか?
上に乗り拘束していた男の力は緩まっているように感じたし、目の前の男は顔を下にして表情は見えなかったがさっきまでの荒々しさはなくなったように感じる。
このまま変な気を起こさないでくれ。そう心で強く願うが、今からそれが起ころうとしていることを男の表情からすぐに察した。
満面の笑顔でどこからか刃物を取り出し、美玖さんに刃物を向ける。
「おいっ!」
「寒いんだよ、お前」
男は、上から下へ美玖さんに向かって振り下ろした。
僕は最後まで見ることしかできなかった。
抗うこともままならず、そして目の前で守ろうとした人が殺されるのを見てるだけしかできない。
もっと力があればこんな奴ら...
「貴方は力が欲しいのですか?」
誰の声だ?透き通るような声が僕の脳へ直接語り掛けてくる。
この時、僕だけが時間に取り残されたのか、はたまた周りの時間が遅くなったのかどちらかわからないが、美玖さんに振りかざされた刃物はゆっくりと降りおろされていた。
何が起こっているのか全然理解できなかったが、ふつうあり得ないことが起こっているのは間違いなかった。
そして、力が欲しいか?という質問に対して僕は、小さな声でつぶやく。
「欲しい」
答えるまでに時間はかからなかった。現状、力が無くて殺されそうになっている女の子を守れていないのだから当然だ。
「問おう。貴方は、その力を使って何を成す」
「僕はただ、目の前の女の子を救ってあげたい。それだけだよ。それ以外は今はない」
「いいでしょう。貴方を魔女『美玖』の眷属として認める。貴方の覚悟を私に見せなさい」
そうして、時間は元の速さで進み始める。
僕は、さっきの現象が何なのか皆目見当はつかない。でも、ひとつだけ分かったことがある。
体にめぐる温かい力。それが、生まれたときからあったかのように自然に使える気がする。
この力なら、
「守れる」
拘束していた男を振り払い、男が振りかざす短剣を僕は気づけば、はじいていた。
僕がやったのか?一瞬疑問が生じたが間違いない。僕がやったんだ。
二人の男はもちろん、美玖さんやその周りの魔女狩りたちも驚きを隠せず動揺する。
「なんで、お前が魔力を持っている。隠していた?いや、こいつはただの一般人のはず。魔力を持ってるなんてありえない」
「相馬くんだよね?」
「当たり前だろ?僕は美玖さんが知っている相馬だ」
「くそ、お前は何なんだ!」
なぜかキレている男は、短剣を構え僕に問う。
僕だって、こんな力を使って何者か分からなくなってきているのに。
「やるんなら、相手になる。お前だけは許さない」
周りには4人の魔女狩りがいる。数だけで見れば絶望的だ。だけど、今の僕ならなんだってできる。そう思えるほどの力を感じる。
今にも襲ってきそうな4人は、殺気で満ちていた。だけど、そこに何者かが近づいてくる足音が聞こえる。トントンと、テンポよくどんどん足音が大きくなっていた。
「素晴らしい、魔女契約をまじかで見れるとは!期待以上のことをしてくれた相馬くん!」
僕らが入ってきた扉から、見知らぬ年配の男が拍手をしてはいってきた。
「ねぇ、相馬くん。魔女狩りに入らないか」
その一言で殺気で満ちていたこの教会内は一気に驚きの空気に変わった。