僕の彼女は曜ちゃんです⚠再編集中 詳しくはあらすじへ 作:ゆうきoog3
――数日後の屋上――
夕暮れ前の風が、校舎の上を静かに吹き抜けていく。
屋上には、小さなスピーカーから流れる伴奏と、Aqoursの歌声だけが響いていた。
曜「♪ 大好きよっもう隠さないっ──♪」
千歌「曜ちゃん、今のすっごくよかった!」
花丸「サビの入りがキラキラしてたずら〜!」
ルビィ「ほんとに水の中にいるみたいだった!」
曜「えへへ……ありがと♪」
汗を拭きながら笑う曜の姿は、いつもよりずっと眩しく見えた。
その視線の先にいるのが誰なのかも、梨子にはもう分かっている。
曜「ゆうくん! 今のどうだった?!」
雄飛「かなりいい。前より感情が乗ってる」
曜「ほんと?! やった!」
嬉しそうに笑う曜。
その笑顔を見た雄飛も、自然と笑っていた。
その空気感が、あまりにも自然で。
あまりにも近くて。
梨子の胸が、少しだけ締めつけられる。
梨子(……曜ちゃん、ほんとに雄飛くんのことが好きなんだ)
分かっていた。
ずっと前から。
でも、こうして目の前で見ると、思っていた以上に胸に刺さる。
曜「ねえねえ! ここの歌詞ね、もっと“届きそうで届かない感じ”を出したくて!」
雄飛「あー……だったら、少し歌い方柔らかくしてみるとか?」
曜「なるほど!」
二人が自然に並んで話している。
その距離感が、どうしてか眩しかった。
梨子の口から、ぽつりと本音が零れる。
梨子「……うらやましい」
その瞬間。
自分で言った言葉に、自分が一番驚いた。
梨子「っ……」
曜「梨子ちゃん?」
梨子「な、なんでもない! ご、ごめん、ちょっと音楽室行ってくる!」
千歌「えっ?! 梨子ちゃん?!」
梨子は逃げるように屋上を飛び出した。
階段を駆け下りる音だけが響く。
曜「……?」
雄飛「……梨子?」
果南はその背中を見送りながら、小さく息を吐いた。
果南「……気づいちゃったか」
鞠莉「みたいね」
二人だけが、梨子の感情に気づいていた。
曜はまだ分かっていない。
雄飛も、きっと気づいていない。
けれど。
鞠莉には分かってしまった。
あの“うらやましい”が、どんな意味だったのか。
――音楽室――
夕陽が差し込む音楽室。
梨子はピアノの前に座ったまま、鍵盤に触れず俯いていた。
梨子「……最低」
ぽつりと零れる。
曜を応援したい。
本気でそう思ってる。
曜は大切な友達だ。
だから、うまくいってほしい。
なのに。
梨子「……私も、あんな風に笑いたいって思っちゃった」
雄飛の隣で。
あんな風に自然に。
特別みたいに。
そう思ってしまった。
もう、自分の気持ちは理解している。
分かっているからこそ、苦しかった。
ガラッ
扉が開く。
鞠莉「やっぱりここにいたのね♪」
梨子「……鞠莉ちゃん」
鞠莉はゆっくり隣へ歩いてきて、ピアノにもたれかかった。
鞠莉「青春してる顔してるわね〜♪」
梨子「からかわないで……」
鞠莉「からかってないわ。本当にそう思ったの」
鞠莉は優しく笑う。
鞠莉「梨子、曜のこと応援したいんでしょ?」
梨子「……うん」
鞠莉「でも、自分の気持ちも本物」
梨子「……」
鞠莉「それって、悪いこと?」
梨子は答えられなかった。
鞠莉「好きな人を好きになるのって、止められないもの」
梨子「……分かってる」
鞠莉「曜も本気。梨子も本気」
夕陽が、静かに音楽室を赤く染める。
鞠莉「だったら、悩んで苦しくなるのも当然よ」
梨子「……私、どうしたらいいのかな」
鞠莉は少しだけ考えてから、優しく笑った。
鞠莉「簡単よ♪」
梨子「え?」
鞠莉「ちゃんと自分の気持ちから逃げないこと」
その言葉に、梨子は目を見開いた。
鞠莉「諦めるのはいつでもできる。でも、“好きだった気持ち”を無かったことにはできない」
梨子「……っ」
鞠莉「だから今は、いっぱい悩みなさい♪」
梨子の瞳が少し揺れる。
そして。
小さく笑った。
梨子「……ほんと、鞠莉ちゃんってずるい」
鞠莉「ふふっ♪ よく言われるわ♪」
音楽室に、柔らかな笑い声が響いた。
その頃、屋上では――
曜「……梨子ちゃん、大丈夫かな」
雄飛「あとで様子見に行ってみるか」
曜「うん……」
その会話を聞きながら。
果南だけが、静かに空を見上げていた。
果南(……これ、思ったより複雑になりそうだね)
千歌「果南ちゃん?」
果南「ん-ん、なんにもないっ」
…
――数日後・浦の星女学院 屋上――
潮風が吹き抜ける屋上に、九人分のステップ音が響く。
「せーのっ!」
曜の掛け声に合わせ、全員が一斉にターンを決める。
スカートがふわりと舞い、汗が夕日に照らされてきらめいた。
「はぁっ……はぁっ……!」
ルビィは肩で息をしながらも、懸命に次の立ち位置へ走る。
花丸「ルビィちゃん!あと少しずら!」
ルビィ「う、うんっ!」
ダイヤ「遅れていますわよ!次の振り付けに入ります!」
善子「ヨハネは堕天使だから疲れなど――はぁっ、はぁっ……」
果南「めちゃくちゃ疲れてるじゃん」
鞠莉「でも最初の頃よりずっと動けるようになったわよ?」
千歌「うんっ!みんな、本当にすごいよ!」
少し前まで、一曲通すだけで息が上がっていた。
けれど今は違う。
足は震えても、誰も止まらない。
苦しくても、前を向ける。
Aqoursは確実に成長していた。
その少し後ろで、雄飛は腕を組みながら全体を見渡していた。
雄飛「曜、今のターン良かった。でも次の移動、半歩だけ内側入れるか?」
曜「了解っ!」
雄飛「梨子は次のサビ前、呼吸を整える時間を一拍作れ。歌声はかなり安定してる」
梨子「う、うん……!」
雄飛「ルビィちゃんと花丸ちゃんは、体力配分を意識な。最後まで踊り切るのが今の目標だ」
花丸「了解ずらぁ……」
ルビィ「が、がんばる……!」
以前なら感覚だけで動いていた。
けれど今の雄飛は違う。
誰がどこで息が切れるのか。
誰が不安を抱えているのか。
誰が今、一歩前へ進もうとしているのか。
それを自然に見抜けるようになっていた。
果南はそんな雄飛を見ながら、小さく笑う。
果南「なんかさ」
鞠莉「んー?」
果南「ほんとに“監督”っぽくなってきたよね、雄飛」
鞠莉「ふふっ♪ 最初はただの世話焼きBoyだったのにね♪」
雄飛「聞こえてるぞ」
千歌「でもほんとだよ!ゆうくん、最近すっごく頼りになる!」
曜「うんうん!」
梨子「……そうね」
梨子は小さく頷きながら、少しだけ視線を逸らした。
曜を見る。
楽しそうに笑っている。
雄飛を見る。
そんな曜を自然に目で追っている。
その光景が、少しだけ胸を締め付けた。
でも――。
梨子(……それでも、私はこの場所が好き)
そう思えた。
――そして。
そんな日々を繰り返すうちに、気づけば地区本選前日になっていた。
――放課後・部室――
千歌「よぉぉぉし!!」
突然、千歌が机を叩きながら立ち上がる。
全員「!?」
千歌「今日はみんな十千万に泊まりです!!」
善子「は?」
ダイヤ「……はい?」
花丸「急すぎるずら」
ルビィ「お、お泊まり会!?」
鞠莉「Sounds fun♪」
果南「また急に言い出したねぇ」
雄飛「お前なぁ……もっと前から言えよ……」
千歌「だって絶対楽しいじゃん!」
曜「あっ……!」
その瞬間、曜の顔が少し赤くなる。
十千万に泊まる。
つまり――雄飛もいる。
曜(ゆ、ゆうくんとまた一緒……!?)
思わず意識してしまい、慌てて顔をぶんぶん振る。
梨子はそんな曜を見て、小さく苦笑した。
梨子(わかりやすいなぁ……曜ちゃん)
でも、その真っ直ぐさが少し羨ましくもあった。
千歌「ライブ前日にみんなで集まったら、絶対気合い入ると思うんだ!」
果南「まあ、悪くないかもね」
鞠莉「青春って感じデース♪」
ダイヤ「……たしかに、士気を高めるという意味では合理的ですわね」
善子「フッ……堕天使ヨハネの力を最大限解放する儀式としては悪くないわ!」
花丸「ただ泊まりたいだけずら」
善子「ちがうわよ!!」
ルビィ「あははっ♪」
曜「ゆうくんはどうするの?」
雄飛「どうするも何も、俺ん家みたいなもんだろ」
千歌「そうだった!」
曜「そ、そうだよね……」
少しだけ残念そうにする曜。
その様子を見て、鞠莉と果南が目を合わせる。
鞠莉「……ふふっ♪」
果南「青春だねぇ」
梨子はそんな二人の反応を見て、少しだけ視線を落とした。
けれど――。
梨子(……ううん。今はこれでいい)
Aqoursとして、九人で前に進む。
それが今、一番大切だった。
千歌「よーし!じゃあ今日はライブ前夜祭なのだー!」
全員「おーーーっ!!」
夕焼けに染まる部室に、九人の声が響いた。
地区予選を突破してからの日々。
Aqoursは、止まらなかった。
走って。
踊って。
歌って。
何度も何度も練習を繰り返しながら、
九人は少しずつ“本当のAqours”になっていった。
夜。
旅館の廊下には、疲労と緊張が混ざった静けさが漂っている。
数日前までの騒がしさとは違う。
明日が、本番。
その現実を、全員が理解していた。
部屋では千歌たちが明日の流れを確認している。
ダイヤは最後まで立ち位置表を見直し、
善子と花丸は眠そうにしながらストレッチ。
ルビィは大事そうに衣装袋を抱えたまま、こくこく船を漕いでいた。
曜「ルビィちゃん、寝るならちゃんと布団いきな?」
ルビィ「は、はいぃ……」
そんな中――。
梨子は、一人で旅館の廊下から窓の外を見ていた。
夜風が静かに髪を揺らす。
遠くから波の音が聞こえた。
梨子「……」
手には、『恋になりたいAquarium』の歌詞ノート。
曜が何度も書き直した跡が残っている。
“恋の魔法”
“近づきたい”
“恋になりたい――”
読み返すたびに、
曜の想いが伝わってくる。
雄飛へ向けられた、
真っ直ぐで、眩しい恋心。
梨子「……ほんと、曜ちゃんらしいなぁ」
自然と笑みが漏れた。
悔しいわけじゃない。
否定したいわけでもない。
ただ――。
曜が、あまりにも真っ直ぐだった。
自分の好きという気持ちを、
歌に変えて。
ステージに乗せて。
届けようとしている。
梨子には、それが少しだけ眩しく見えた。
でも同時に、
自分ももう逃げないと決めている。
雄飛を好きな気持ちを、
無かったことにはしない。
Aqoursの仲間として、
曜を応援したい気持ちも本物。
だからこそ――。
梨子「私は、私のままでいい……」
小さく呟いた、その時。
雄飛「お、梨子じゃん」
聞き慣れた声がして、梨子は振り返った。
梨子「っ……ゆうくん?」
廊下の向こうから、
缶ジュースを片手に雄飛が歩いてくる。
雄飛「なんだ、一人か?」
梨子「うん、ちょっと風に当たりたくて」
雄飛「そっか」
雄飛は自然な動きで梨子の隣へ立ってまっすぐ前を見つめる。
近い。
それだけで、胸が少し高鳴る。
雄飛「……緊張してるか?」
梨子「少しだけね」
雄飛「まあ、そりゃそうか」
雄飛は夜空を見上げながら笑った。
その横顔を見て、
梨子は改めて思う。
やっぱり、好きだな――と。
梨子「ねぇ、ゆうくん」
雄飛「ん?」
梨子「曜ちゃんの曲、すごく素敵だよね」
雄飛「ああ。今回マジですごいと思う」
即答だった。
雄飛「曜らしいっていうか……気持ちが真っ直ぐなんだよな」
その言葉に、梨子は少しだけ目を細めた。
まだ雄飛は気づいていない。
曜の“好き”そのものには。
でも。
曜が特別な存在になっていることには、
きっともう無意識で気づき始めている。
その事実に胸が少しだけ痛む。
それでも――。
梨子「ふふっ、明日楽しみだね」
雄飛「ああ。絶対成功させような」
雄飛「……やれるよ、お前らなら」
静かだけど、力強い言葉。
その言葉を残し、
雄飛は「飲み物追加してくるわ」と軽く手を振って廊下の奥へ歩いていった。
廊下には、再び静かな波の音だけが残る。
梨子「……」
胸の奥が、少し苦しい。
でも嫌な苦しさじゃない。
曜の想いも。
自分の想いも。
全部が本物だからこそ、
簡単には整理できないだけ。
そんなことを考えていると――。
鞠莉「リ〜コ♪」
後ろから、聞き慣れた明るい声がした。
梨子「っ、鞠莉ちゃん?」
振り返ると、
鞠莉がジュース片手にニコニコしながら立っていた。
鞠莉「となり、いい?」
梨子「う、うん」
鞠莉は雄飛と同じように梨子の隣に立った。
少しだけ沈黙。
夜風が二人の髪を揺らした。
鞠莉「……優しい顔してたわね」
梨子「え?」
鞠莉「さっき、雄飛と話してる時」
梨子の肩がぴくっと揺れる。
鞠莉「でも同時に、ちょっと切なそうだった」
見透かされた気がした。
梨子「……鞠莉ちゃんには敵わないなぁ」
鞠莉「ふふっ♪ 大人だからね♪」
そう言って笑ったあと、
鞠莉は少しだけ真面目な表情になる。
鞠莉「ねぇ梨子」
梨子「……うん?」
鞠莉「あなた、雄飛のこと好きでしょ?」
ど直球だった。
梨子「っ……!」
顔が一気に熱くなる。
否定しようとして――やめた。
もう、自分の気持ちは理解している。
梨子「……うん」
小さく頷く。
梨子「好き」
その言葉を口にした瞬間、
胸の奥が少しだけ軽くなった。
鞠莉は驚く様子もなく、
静かに笑う。
鞠莉「そっか♪」
梨子「でもね……曜ちゃんも、同じなんだよね」
夜空を見上げながら梨子は呟く。
梨子「今回の曲を見てたら分かるの」
梨子「曜ちゃん、本気なんだって」
“恋になりたいAquarium”
あの歌詞全部に、
曜の想いが詰まっている。
鞠莉「うん。曜も本気ね」
梨子「だから応援したいの……ちゃんと」
梨子「でも――」
そこで言葉が止まる。
鞠莉「でも、自分も諦めたくない?」
梨子は静かに目を見開いた。
そして、困ったように笑う。
梨子「……うん」
鞠莉「それでいいのよ」
即答だった。
梨子「え……?」
鞠莉「恋ってね、順番とか正しさだけじゃないもの」
鞠莉「誰かを好きになる気持ちって、止められない。そうでしょ?」
梨子「……」
鞠莉「だから、無理に我慢しなくていい」
鞠莉「曜を応援したい気持ちも、本当に好きな気持ちも、どっちも大事にしなさい」
梨子の胸が少し熱くなる。
鞠莉「Aqoursってね」
鞠莉「そういう“本音”が集まってできてるグループだから」
梨子は小さく笑った。
梨子「……ありがとう、鞠莉ちゃん」
鞠莉「どういたしまして♪」
そして鞠莉は、
少し悪戯っぽく笑う。
鞠莉「ま、でも」
梨子「?」
鞠莉「雄飛、かなり鈍そうだから大変そうだけどね〜♪」
梨子「ふふっ……それは思うかも」
二人は顔を見合わせて笑った。
その笑い声は、
静かな夜の波音に優しく溶けていった。
そして――翌日。
地区本選当日。
巨大なステージ。
眩しいライト。
会場を埋め尽くす歓声。
ステージ袖で、
Aqoursの九人は円陣を組んでいた。
千歌「ここまで来たんだもん!」
曜「絶対成功させよう!」
梨子「うん!」
ルビィ「が、がんばルビィ!」
ダイヤ「今までの努力を信じますわよ!」
鞠莉「きっと、大丈夫よ♪」
果南「楽しもう」
善子「堕天使ヨハネの力、見せてあげる!」
花丸「みんなで輝くずら!」
そして最後に。
全員の視線が雄飛へ向く。
雄飛は少し驚いたあと、
ふっと笑った。
雄飛「……やれるよ、お前らなら」
その瞬間。
曜の胸が熱くなる。
曜(……やっぱり、好き)
この曲を。
このステージを。
全部、
この想いごと届けたい。
ステージ袖のカーテンが、ゆっくりと開いていく。
歓声が、一気に押し寄せた。
ライトが九人を照らす。
水をイメージした青い演出がステージを包み込み、
会場全体が“海の中”へ変わっていく。
センターに立つ曜は、
一度だけ客席ではなく後ろを見た。
そこには、スタッフ席でAqoursを見守る雄飛の姿。
雄飛は何も言わず、
小さく親指を立てた。
その瞬間。
曜の中から、不安が全部消えた。
曜(届けるんだ――!)
イントロが鳴る。
『恋になりたいAquarium』