僕の彼女は曜ちゃんです⚠再編集中 詳しくはあらすじへ 作:ゆうきoog3
屋上に吹く風は、少しずつ夏の匂いを帯び始めていた。
千歌「ワン、ツー、スリー、フォー!」
千歌の掛け声に合わせて、九人が一斉に身体を動かす。
俺は少し離れた場所からストップウォッチを握り、全員の動きを見つめていた。
修学旅行が終わり、Aqoursは再び本選へ向けて走り始めた。
北海道で過ごした数日は楽しかった。
だけど、それはもう思い出だ。
今はラブライブ本選だけを見据えて前へ進まなければならない。
ダイヤを中心に練習メニューはさらに厳しさを増していった。
基礎体力づくりのランニング。
筋力トレーニング。
発声練習。
ダンス。
そしてフォーメーション確認。
放課後だけでは足りず、朝練も始まった。
休日も十千万旅館の手伝いを終えると、そのまま学校へ向かい、自主練を繰り返す日々。
俺もマネージャーとして、タイムの計測や給水、練習内容の記録、体調管理に追われていた。
ダイヤ「もう一回!」
ダイヤの声が屋上に響く。
千歌たちは息を切らしながらも、すぐに立ち位置へ戻る。
何度も。
何度も。
納得いくまで。
一曲を通して踊る。
曜の額から汗が流れ落ちる。
梨子の肩も大きく上下していた。
一年生たちも歯を食いしばって食らいついている。
雄飛「ストップ!」
俺が声を掛ける。
全員がその場に座り込んだ。
花丸「もう動けないずらぁ……。」
善子「堕天使にも休息は必要なのよ……。」
ルビィ「はぁ……はぁ……。」
千歌も大の字になって空を見上げている。
千歌「こんなに踊ったの久しぶりかも……。」
果南「まだ半分だけど?」
全員「えぇぇぇぇぇ!?」
屋上に悲鳴が響く。
鞠莉は笑いながら手を叩いた。
鞠莉「まだまだデース♪」
ダイヤも腕を組む。
ダイヤ「ラブライブ本選は、この程度では勝てません。」
その言葉に誰も反論しなかった。
本選まで、あとわずか。
全員が同じ気持ちだった。
俺はクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、一人ずつ手渡していく。
雄飛「曜。」
曜「ありがと、ゆうくん。」
ペットボトルを受け取った曜は笑顔を見せたものの、その足元はふらついていた。
雄飛「おっと。」
身体が傾く。
咄嗟に腕を伸ばして曜を支える。
雄飛「大丈夫か?」
曜「えへへ……ちょっと力入らなくて。」
雄飛「無理するなよ。」
曜「うん。」
その様子を少し離れた場所で見ていた梨子は、小さく微笑んだ。
胸の奥が少しだけ痛む。
それでも。
(曜ちゃんが幸せそうでよかった。)
そう思える自分もいた。
北海道で気付いた想い。
それは消えることはない。
だけど今は、このチームが一番大事だった。
ダイヤ「もう一本いきますわよ!」
ダイヤの声で全員が立ち上がる。
誰も弱音は吐かない。
俺もストップウォッチを握り直した。
北海道で見たSaint Snow。
聖良たちもきっと、これ以上の努力を積み重ねてきた。
だったら俺たちも負けられない。
季節は少しずつ流れていく。
夕暮れの屋上。
朝日に照らされるグラウンド。
休日の体育館。
練習を重ねるたびに、Aqoursは少しずつ一つになっていった。
そして――。
数週間後。
部室。
ダイヤが一枚の封筒を机に置いた。
ダイヤ「皆さん。」
全員の視線が集まる。
ダイヤ「ラブライブ本選の説明会について連絡が来ました。」
部室の空気が変わる。
ダイヤ「いよいよですわ。」
千歌が拳を握った。
千歌「来た……!」
ダイヤ「本選前に東京で説明会と出演順抽選が行われます。」
誰も言葉を発しない。
ついにここまで来た。
北海道から帰ってきて積み重ねてきた日々。
その先にある舞台。
ダイヤ「明日、全員で東京へ向かいます。」
部室に緊張と期待が入り混じる。
翌日。
新幹線は東京駅へ滑り込んだ。
千歌「うわぁぁぁ!」
千歌が窓に張り付く。
千歌「人が多い!」
ルビィも目を丸くする。
ルビィ「迷子になりそう……。」
善子が辺りを見回した。
善子「東京って本当に都会ね……。」
曜は笑いながら俺の隣へ来る。
曜「ゆうくん、はぐれないでね。」
雄飛「それはこっちの台詞。」
曜「えへへ♪」
そんな他愛ないやり取りをしながら、俺たちは説明会会場へ向かった。
向こうから歩いてくる二人。
白い制服に身を包んだ、Saint Snow。
鹿角聖良さんと鹿角理亜だった。
聖良さんは俺たちに気付くと、柔らかく微笑んだ。
聖良「雄飛さん。」
雄飛「聖良さん。」
短い挨拶。
それだけで、函館で過ごした時間が一瞬でよみがえる。
聖良「本選でまたお会いできましたね。」
雄飛「はい。」
聖良「お元気そうで安心しました。」
雄飛「そちらも。」
自然な会話。
なのに、どこか空気が違う。
理亜は俺たちを見比べて、小さくため息をついた。
理亜「ほんとに仲いいんだね。」
聖良「理亜。」
軽くたしなめる声。
そのまま聖良さんは、少しだけ表情を和らげた。
聖良「GT-Rですが……その後も問題なく走っています。」
雄飛「そうですか。」
聖良「むしろ以前より調子がいいくらいです。」
「あなたに少しだけ運転していただいた影響かもしれませんね。」
雄飛「……あれは一回だけですけどね。」
聖良「ええ。」
その言い方が少し楽しそうで、思わず苦笑する。
すると――。
聖良「それと。」
少しだけ間を置く。
聖良「函館でのお話、覚えていますか?」
雄飛「……。」
一瞬、空気が変わる。
あの夜。
函館山でのやり取り。
聖良「このGT-Rを、いつか託したいと思っている」という言葉。
そして俺は、それを受け取れないと答えた。
“今はまだ、その時じゃない”
そう言って。
雄飛「……覚えてます。」
聖良は小さく頷いた。
聖良「その時じゃない、というお返事でしたね。」
雄飛「はい。」
聖良「私も、そう思っています。」
その言葉に少しだけ肩の力が抜ける。
聖良「まだこの車と走りたいので。」
「それに、あなたに渡すには……まだ私自身も足りていませんから。」
雄飛「聖良さんがそう思うなら、それでいいと思います。」
聖良「ふふ。」
そして、聖良さんは少しだけいたずらっぽく笑った。
聖良「でも。」
雄飛「……?」
聖良「今度、(沼津へ)持っていきますね。」
雄飛「――は?」
一瞬、思考が止まる。
聖良「冗談です。」
理亜「姉様、それ絶対冗談じゃない。」
聖良「理亜。」
軽くため息をつきながらも、どこか楽しそうだ。
だが俺の方は笑えなかった。
雄飛「いや、今のは普通に心臓に悪いですけど……。」
聖良「そうですか?理亜の言う通り半分くらいは本気で言ったつもりでしたが⋯。」
雄飛「どっちですかそれ……。」
隣で曜が目を丸くしている。
曜「ゆうくん、顔固まってるよ?」
雄飛「当たり前だろ……。」
そのやり取りを見て、聖良さんは小さく笑った。
聖良「やっぱり、雄飛さんは面白いですね。」
雄飛「いや、振り回されてるだけです。」
理亜「いつもこうだから、この人たち。」
理亜の言葉に、千歌たちが一斉に反応する。
千歌「えっ!?何、何の話!?」
ダイヤ「GT-R……?」
果南「ちょっと、説明してくれる?」
鞠莉「ユウ、あとで詳しくね?」
一気に視線が集まる。
まずい。
俺は軽く咳払いをした。
雄飛「いや……ちょっとした昔話です。」
千歌「ほんとにぃ?」
曜「うんうん、そういうことにしとこ!」
梨子「そうね、今は説明会が先よ。」
三人が妙に必死に話を逸らす。
聖良さんはそれを見て、楽しそうに目を細めた。
聖良「ふふ。」
「では、本選で。」
雄飛「ええ。」
聖良「今度は、ステージの上で。」
雄飛「はい。」
短い言葉。
それだけで十分だった。
互いに軽く会釈をする。
ライバルとして。
そして、同じ舞台を目指す者として。
⋯
司会者の挨拶が終わると、会場正面の大型スクリーンに大会概要が映し出された。
会場が静まり返る。
司会者「それでは、第○回ラブライブ本選についてご説明いたします。」
スクリーンには、本選へ勝ち進んだスクールアイドルグループの名前が次々と表示される。
Aqours。
Saint Snow。
そして全国各地から勝ち上がってきた強豪校。
司会者「今大会の本選は、従来とは異なる新方式で開催されます。」
その言葉に、会場がざわつく。
司会者「本選はトーナメント方式で行います。」
スクリーンが切り替わり、大きなトーナメント表が映し出された。
ルビィ「と、トーナメント?!」
ダイヤ「いままでと全く傾向が違いますわ!!」
左右に分かれたブロック。
勝ち上がったグループ同士が対戦し、優勝を目指す。
司会者「本選出場校は八校。」
「準々決勝、準決勝、決勝――。」
「優勝するためには、三度のライブを勝ち抜かなければなりません。」
その言葉に、会場の空気が一気に引き締まる。
三回。
たった一度の失敗も許されない。
まさに一発勝負の連続だった。
司会者は続ける。
「なお、本日このあと抽選会を行い、トーナメントの組み合わせを決定します。」
「第一試合までは約三週間の準備期間を設けます。」
「各校は、この期間にライブ内容やパフォーマンスをさらに磨き上げ、本選へ臨んでください。」
千歌が思わず息をのむ。
「三週間……。」
曜も真剣な表情でスクリーンを見つめる。
「一回じゃ終わらないんだ……。」
梨子は静かに頷いた。
「三試合全部違うライブになるのかしら……。」
俺もトーナメント表へ目を向ける。
勝ち続ければ三回。
つまり、それだけ新しいステージを用意しなければならない。
体力も。
精神力も。
そして、仲間との絆も試される大会になる。
司会者「なお、勝敗は会場審査員、ライブ配信による一般投票、そしてラブライブ運営委員会による総合審査で決定します。」
「一度でも敗れた時点で敗退となります。」
静まり返る会場。
その中で、俺は自然と視線を前へ向けた。
そこにはSaint Snowの二人。
聖良さんもこちらを見ていた。
一瞬だけ視線が重なる。
聖良さんは小さく微笑み、静かに頷く。
その表情はまるで――。
『今度こそ、この舞台で。』
そう語っているようだった。
俺も小さく頷き返す。
ここから始まるのは、全国の頂点を決める戦い。
そして、北海道から続く俺たちの物語の、新たな始まりだった。
東京で行われたラブライブ本選説明会を終えた俺たちは、その日の夕方、新幹線で静岡へ戻ってきた。
車窓から見える景色が少しずつ都会から自然へ変わっていく。
高層ビルが遠ざかり、緑豊かな山々が姿を現す。
やがて、青く穏やかな駿河湾が見え始めると、千歌が窓際へ身を乗り出した。
千歌「見て見て! 海だよ!」
曜「ほんとだぁ!」
曜も嬉しそうに窓へ顔を近付ける。
その姿に思わず笑みがこぼれた。
雄飛「帰ってきたな。」
そう呟くと、曜が俺の方を向く。
曜「もうすっかり沼津の人だね、ゆうくん。」
雄飛「半分どころじゃないかもな。」
そう返すと、曜は楽しそうに笑った。
兵庫で生まれ育った俺が、今ではこの景色を見ると"帰ってきた"と思う。
人って、不思議なものだ。
翌日――。
浦の星女学院。
修学旅行も、本選説明会も終わり、学校にはいつもの日常が戻ってきていた。
……いや。
正確には、戻ったわけじゃない。
今日から始まる。
ラブライブ本選まで、残り三週間。
その事実が、俺たちの空気を大きく変えていた。
千歌「ワン、ツー、スリー!」
屋上に千歌の声が響く。
九人の動きがぴたりと揃う。
雄飛「そこ! ワンテンポ早い!」
俺はストップウォッチを止めながら声を掛ける。
ルビィと善子が「あっ」と顔を見合わせる。
雄飛「もう一回いこう。」
全員「はい!」
すぐに返事が返ってくる。
北海道へ行く前とは違う。
誰一人、不満を口にしない。
疲れた表情は浮かべても、弱音だけは誰も吐かなかった。
一曲目が終わる。
雄飛「休憩五分!」
俺が声を掛けると、全員がその場へ座り込んだ。
千歌「はぁ~……。」
千歌は仰向けになって大きく息を吐く。
千歌「まだ一曲なのに……。」
梨子「千歌ちゃん、それ昨日も言ってたよ?」
千歌「だってきついんだもん!」
曜「でも、もう一回やるんでしょ?」
曜が笑いながらスポーツドリンクを飲む。
千歌「もちろん!」
さっきまで倒れそうだった千歌が、もう笑っている。
この切り替えの早さは、ある意味才能だ。
雄飛「千歌。」
千歌「ん?」
雄飛「水分、ちゃんと飲め。」
千歌「はーい。」
返事だけは良い。
……ちゃんと飲んでいるから問題ないか。
俺は全員の様子を順番に見ていく。
ルビィ。
肩で息をしているが、まだ余裕はある。
花丸。
少し疲れているが表情は明るい。
善子。
自分の動きを頭の中で反省している。
果南さん。
呼吸は乱れていない。
さすがだ。
ダイヤさん。
周りを見ながら自分のことは後回し。
鞠莉さん。
疲れていても笑顔だけは崩さない。
梨子。
……。
少し無理をしているな。
曜。
「……。」
俺は少し目を細めた。
曜は笑っている。
いつも通り元気だ。
だけど。
右足をほんの少しかばっている。
本人は気付かれないようにしているつもりなんだろう。
でも、一緒にいる時間が長い俺には分かった。
雄飛「曜。」
曜「ん?」
雄飛「ちょっと来い。」
曜「え?」
二人で屋上の隅へ移動する。
曜「どうしたの?」
雄飛「右足。」
その一言で曜の表情が止まった。
曜「え?」
雄飛「少し痛めてるだろ。」
曜「…………。」
図星だった。
曜は苦笑いを浮かべる。
曜「バレちゃった?」
雄飛「いつから。」
曜「昨日くらいから……。」
雄飛「昨日!?」
思わず声が大きくなる。
曜は肩をすくめた。
曜「でも大丈夫だよ!」
雄飛「大丈夫じゃない。」
俺はしゃがみ込み、曜のシューズへ視線を向ける。
ソールはかなり擦り減っていた。
練習量がそのまま表れている。
雄飛「これ、もう替え時だ。」
曜「まだ履けるよ?」
雄飛「履けると、履いていいは違う。」
曜は黙る。
雄飛「曜。」
曜「……。」
雄飛「お前が壊れたら意味ない。」
その言葉に、曜は俯いた。
曜「分かってる……。」
小さな声だった。
曜「でも。」
曜「みんな、本当に頑張ってるから。」
曜「私だけ休めないよ。」
そう言って笑おうとする。
だけど、その笑顔は少しだけ震えていた。
俺は小さく息を吐き、スポーツドリンクを一本手渡した。
雄飛「今日はここまで。」
曜「えー!」
雄飛「反論却下。」
曜「むぅ……。」
頬を膨らませる曜。
だけど最後には、
曜「……ありがと、ゆうくん。」
そう笑って受け取った。
その笑顔を見て、少しだけ安心する。
ふと後ろを見ると、ダイヤさんがこちらを見ていた。
目が合う。
ダイヤさんは静かに微笑み、小さく頷いた。
その視線には、どこか安心したような色が浮かんでいた。
次の日
夕方――。練習を終えた屋上。オレンジ色の夕日が校舎を照らしていた。
千歌「今日の練習はここまで!」
千歌の声が響く。
全員「お疲れさまでした!」
全員が深く頭を下げる。
ルビィ「ふぅ……。」
ルビィはその場へ座り込み、大きく息を吐いた。花丸も制服の袖で汗を拭う。善子は空を見上げながら腕を伸ばしていた。
俺は撮影していたカメラを止める。
雄飛「みんな、そのまま少し待って。」
九人の視線がこちらへ集まる。パソコンへSDカードを差し込み、今日撮った映像を映し出した。
北海道へ行く前までは、ただ撮影するだけだった。でも今は違う。一人ひとりの動きを細かく確認し、改善点を探す。それが俺の仕事になっていた。
映像が流れ始める。
雄飛「まず全体から。」
俺は一時停止する。
雄飛「フォーメーションはかなり良くなってる。」
千歌「本当?」
千歌が画面を覗き込む。
雄飛「うん。でも。」
もう一度再生する。
雄飛「ここ。」
画面の中央で停止。
雄飛「曜が半歩前。」
曜「あっ……。」
曜も気付いたようだった。
雄飛「そのせいで梨子との距離が少し近くなってる。」
梨子「確かに。」
雄飛「二人ともタイミングは合ってる。だから悪いわけじゃない。立ち位置だけ修正すればもっと綺麗になる。」
曜「なるほど……。」
曜は真剣な顔でメモを取る。その様子を見ていた果南さんが感心したように笑った。
果南「よく見てるね。」
雄飛「毎日見てますから。」
そう返すと、果南さんは小さく笑った。
果南「頼もしくなった。」
その一言が少し照れくさかった。
映像は続く。
雄飛「次。ルビィ。」
ルビィ「は、はい!」
雄飛「振り付けは完璧。でも緊張すると肩が上がる。」
ルビィ「あっ……。」
雄飛「呼吸が浅くなるから声量も落ちる。」
ルビィは自分の肩へ触れる。
ルビィ「ほんとだ……。」
雄飛「今度、発声練習を少し増やそう。」
ルビィ「お願いします!」
次は花丸。
雄飛「花丸。」
花丸「ずら?」
雄飛「今日は昼飯少なかっただろ。」
花丸「えっ!」
図星だった。
花丸「なんで分かるずら?」
雄飛「後半から動きが鈍くなってる。体力切れ。」
花丸「うぅ……。」
雄飛「ダイエット禁止。」
花丸「してないずら!」
雄飛「食べ忘れ。」
花丸「それもダメずら?」
雄飛「それもダメ。」
花丸は苦笑いする。
花丸「気を付けます……。」
善子も映る。
雄飛「善子。」
善子「ヨハネ。」
雄飛「はいはい、ヨハネ。」
みんなが笑う。善子は少し頬を膨らませた。
雄飛「ターンのあと止まりすぎ。完璧に決めようとしてる。」
善子「うっ……。」
雄飛「七十点でもいい。次へ繋げ。」
善子は腕を組みながら頷いた。
善子「なるほど。確かに欲張ってたかも。」
一年生三人は顔を見合わせる。
ルビィ「ありがとう。」
花丸「勉強になるずら。」
善子「さすがマネージャー!」
俺は少し苦笑した。
雄飛「まだまだだよ。」
画面は三年生へ変わる。
雄飛「果南さん。体力は問題なし。ただ、みんなへ合わせる意識をもう少し。」
果南「了解。」
即答だった。
雄飛「鞠莉さん。笑顔が少し硬い。」
鞠莉「Really?」
雄飛「学校のこと考えてる?」
鞠莉さんは少し驚いたように目を丸くした。
鞠莉「……お見通し?」
雄飛「少しだけ。練習中だけは忘れてください。」
鞠莉「OK。」
笑顔が戻る。
最後はダイヤさん。
雄飛「ダイヤさん。」
ダイヤ「はい。」
雄飛「全体を見過ぎです。」
ダイヤ「え?」
雄飛「自分のダンスがおろそかになってる。」
ダイヤ「…………。」
図星だったらしい。
雄飛「みんなをまとめるのも大事です。でも、踊るのはダイヤさん自身です。」
しばらく沈黙が流れる。やがてダイヤさんは静かに微笑んだ。
ダイヤ「そうですわね。ありがとうございます。」
その時だった。
千歌「ゆうくん。」
千歌が笑いながら言う。
千歌「なんかさ。前より先生みたい。」
みんなが笑った。
曜「確かに!」
花丸「分かるずら!」
千歌「前は一緒に走ってる感じだったけど、今はちゃんとみんなを見てる。」
曜も嬉しそうに笑う。
曜「うん。最近のゆうくん、すごく頼りになる。」
その言葉に少し照れくさくなる。
雄飛「そんな大したことじゃないよ。」
そう答えた、その時だった。ダイヤさんが一歩前へ出る。
ダイヤ「いえ。」
その場が静かになる。
ダイヤ「わたくしは、少し前まで勘違いしていました。」
全員がダイヤさんを見る。
ダイヤ「雄飛さんはマネージャーとして、皆さんのお手伝いをしてくださる方。そう思っていました。」
一呼吸置く。
ダイヤ「ですが、今は違います。」
ダイヤさんは穏やかに微笑んだ。
ダイヤ「千歌さんがAqoursを前へ引っ張る存在なら、雄飛さんは、皆さんを後ろから支える存在です。」
ダイヤ「誰かが困れば真っ先に気付き、誰かが無理をすれば止め、誰かが迷えば背中を押す。」
ダイヤ「今のAqoursにとって、その役目は誰にも代えられません。」
九人が自然と俺を見る。その視線に、少しだけ胸が熱くなった。
ダイヤ「ですから――」
ダイヤさんは静かに笑った。
ダイヤ「雄飛さんは、もう立派なAqoursの十人目のメンバーですわ。」
その言葉に、屋上は一瞬静まり返る。そして次の瞬間――。
千歌「賛成!」
真っ先に手を挙げたのは千歌だった。
曜「もちろん!」
曜も笑顔で続く。
梨子「私も。」
梨子が微笑む。
花丸「異議なしずら!」
善子「ヨハネも認めるわ!」
ルビィ「もちろんです!」
果南「当然だよ!」
鞠莉「Yes!」
九人の声が夕暮れの屋上に重なった。
俺は思わず苦笑する。
雄飛「……ありがとう。」
その一言しか出てこなかった。
夕日に照らされた九人の笑顔は、これまでで一番輝いて見えた。