積雲が不揃いに並ぶ青空が広がり、日光が照らされ心地好い暖かさに包まれる午後。
家の外で洗濯物が干されてある側には、無邪気に微笑む少女と、世で言う奇抜な格好をした美女がドヤ顔で少女の前で仁王立ちしており、少し離れた場所に置かれた丸太の上で青年が座り込み苦笑いを浮かべている。
リサ「ほら愛莉!あたしの今日の服装はどう?」
愛莉「とってもにあってるよ、あかあさん!」
リョウ「ま~たコスプレしちょるのう…」
リサ「あたしの趣味みたいなもんよ。愛莉だって似合ってるって言ってくれてるんだし」
愛莉「おかあさんすごい!いつもちがうふくつくってる!てんさい!」
リサ「流石愛する我が娘!分かってるわね!実際あたしは広末高等学校の科学部部長並の天才かもしれないからね!」
リョウ「若くしてアガートラムを設計、製造するくらいやから強ち間違いじゃないからツッコミにくいんよな~。ってか、それ誰のコスプレなん?」
リサ「知らないの?邪兎屋のア○ビーだよ」
リョウ「あ~、成る程ね。言われて思い出したわ」
愛莉の出産から三年が経過した。
特に重い病気を患うこともなく、愛莉は一週間程前に三歳を迎えた。
亜空流の影響で何かしらの後遺症が残るのではないかと不安もあったが、科学的検査や魔法による検査を行ったところ、何も異常は発見されなかった。
結局のところ、リサの妊娠も亜空流によるものなのかと言われると答えは不明確なままで、謎を紐解く鍵は見つかることは未だにない。
何故リサの体に生命を宿し誕生したのか。
断定できる要素がないため首を捻るばかりで、霧に包まれた存在である愛莉だが、リサは勿論、周囲の知人も忌み子だと疑う者はいなかった。
どのような事情があれ、リサの娘と言う事実に換わりはない。
常に愛莉の側に寄り添い離れず、時間を愛莉のために割いた。
時空防衛局も積極的に裕福に育児が出来るよう援助してくれたこともあり、愛莉はすくすくと成長した。
暫く時空防衛局で過ごした後は、元々居住していた世界へと戻り、愛莉という新たな家族を迎え新たな生活を始めた。
とは言え、愛莉が加わったところで生活に変化があるわけではない。
先ず始めたのは妊娠期間や育児により怠っていた鍛練の再開。
体を休めていたため、鈍っていた体を鍛え直しいつ何時でも戦線に復帰できるよう備える。
愛莉に物心が付き始めた頃になってからは、妊娠前よりかは頻度は少なめだが、再度時空防衛局と共に異世界へ赴くようになっていった。
極力早めに済ませられるような任務のみに参加し、愛莉との時間を最優先にするよう心掛けた。
留守中はリョウ達が愛莉の面倒を見るようにしており、リサは安心して任務に集中できるよう努めた。
リョウの手助けをすることや、異世界で自分のような境遇の者を生み出さないという当初の目的もあるが、仕事だけに片寄り娘である愛莉との時間を忘れたりはしない。
家事を熟しつつ、愛莉との食事や娯楽、就寝の時間を最優先する。
母の勤めと言われると当たり前なのだが、愛莉と過ごす時間は誰と過ごす時間よりも掛け替えのない充実した時間だったから。
リョウ達も家族のような存在ではあるが、愛莉は血が繋がった正真正銘の家族。
ヴィラド・ディアに喰われてしまったせいではあるが、リサは両親の温もりを知らない。
探り探りだが自分なりに愛情を注ぎ、愛莉に溢れんばかりの愛を与えた。
自分のように、親の愛を知らない人に決してなってほしくなかったから。
自分のように理不尽に親の愛を剥奪されたり、忘却されたりするような境遇に陥り、苦悩し涙を流してほしくないからこそ、親としての愛を注ぐ。
ヴィラド・ディアやエクリプスと戦う理由にも繋がり、以前より闘志も燃え上がった。
愛莉「リョウー!べつのキックやってー!」
リョウ「他のも見たいんかい?しゃあないな~。では、お見せしよう。『V3きりもみ反転キック』!!」
愛莉「わー!すごい!かっこいい!!」
リョウ「かっこいいって言われるのは悪くないな」
リサ「リョウがかっこいいんじゃなくてライダーがかっこいいんだよ」
リョウ「否定出来へんなぁ」
冒頭に戻り、天気が良い昼下り。
リサは家事等を早めに終わることが出来たため、愛莉と共に平穏な休日を過ごしていた。
リサに用があり訪れたリョウだったが、愛莉のお遊戯に付き合うことになり、家の前の庭で持ち前の身体能力でアクロバティックな動きを見せ愛莉を喜ばせていた。
アレク「リョウがやるなら俺もやるしかねぇな!」
アリス「私も手伝うよ!涙と鼻水の覚悟はよろしいか?」
リョウ「うわ出た。何する気だよ…」
アリス「何だよたけし、ビビってんのか?」
リョウ「わしはたけしじゃないっつーの」
愛莉「アレク!アリス!おいっす!」
アレク「おいっす!愛莉はいつも通り元気いいな~。もういっちょ、おいっす!」
愛莉「おいっす!!」
アリス「子供は元気が一番だね!そんな愛莉にはウルトラ5つの誓いを教えよう!一つ、腹ペコのまま学校へ行かぬこと!」
アレク「一つ、天気のいい日に布団を干すこと!」
リサ「一つ、道を歩く時には車に気をつけること!」
リョウ「一つ、他人の力を頼りにしないこと!」
アリス「一つ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!これがウルトラ5つの誓いだよ!」
愛莉「うん、わかった!」
リョウ「いやいや、幼い愛莉にこれ全部覚えろってのは無理じゃろ」
リサ「そう思うじゃん?案外そうでもないのよ。愛莉は記憶力高いからデ○モンの名前全部言えちゃうんだから」
アリス「この前は私がアン○ンマンのキャラ全員見せたらもう覚えちゃってたもんね~」
リョウ「着々とリサ達によって要らぬ知識が叩き込まれていってる…」
アレク「要らぬ知識とは失敬な。それではお待ちかね、俺のライダーキックを披露しよう!」
愛莉「やったー!たのしみ!ワクワク!」
アレク「アリス、再現を魔法で頼む。うおおおおおおおお!!」
アリス「終焉の刻!」
リサ「ちょ、それはヤバいって!!愛莉、逃げるよ!!」
愛莉「アレクがきんぴかとまっくろなユラユラにつつまれてる!」
アリス「『逢魔時王必殺撃』!!」
アレク「はあああああああああ!!」
リョウ「おいおいおいおい世界が終わるって!?わしはごとき氏のように負けたりせぇへんで!」
アレク「まあホントにやったら世界が終わりかねないから必殺技キャンセルするけどな」
リョウ「焦るわ馬鹿野郎…。アルティメットマスター抜刀してもうたやん」
アレク「と言うことはリョウは普通のホモ・サピエンスではないってことか」
リョウ「わしは聖剣に選ばれし戦士でもなければ変身もせんのよ」
リサ「もうヒヤヒヤさせないでよ!愛莉に何かあったらタダじゃ済まさないからね!」
アレク「お~怖いぜ。地震、雷、火事、親父ってのはよく言うもんな」
リサ「誰が親父だって…?(^ω^#)」
アレク「わりぃ間違えた。怖いものはいっぱいあるもんだな。ゴキブリ、カマキリ、雷、ミミズ、あとは…饅頭!ウワァ、饅頭コワ-イ!」
リサ「ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!」
リョウ「ってか、そろそろリサに要件伝えてもええか?茶番劇のせいで文字数稼いでるようにしか思われないしここまで書くだけでも作者は1時間以上の時間を割いてるんだから」
愛莉「リョウ、メタい」
リョウがリサの元まで来たのは野暮用なのではなく、任務の件について。
とある世界で、その世界には存在しない筈の妖怪が現れた。
本来その世界にはピシャーチャと呼ばれるモンスターが跋扈していた。
決して平穏とは言えないが、希望を見出だし戦っていた世界に、新たな第三勢力の存在が突如出現すればどのような反応を見せるかは明々白々。
妖怪を殲滅しようと武器を持ち立ち上がる過激な人もいれば、妖怪を恐れ荷づくりをして故郷を捨てる人もいる。
多種多様な反応を見せ、混乱に陥っている。
混乱の拍車をかけているのは、その妖怪は複数ではなくたったの一体であることと、人を喰らうという点だった。
世界が誇る実力者が矛を向けようが、叡知を集結させ大軍を送り込もうが、妖怪を討ち倒すには至らず、向かって行った者は誰一人として帰っては来なかった。
最早その世界の者達では対処は不可能と判断し、時空防衛局が赴くこととなった。
既に局員を何人か派遣したのだが、連絡が途絶えてしまったため、妖怪により殲滅させられたのだと判断され、結愛が所属している第一時空防衛役員に出撃要請が掛かりそうになったところ、リョウが待ったを掛けた。
何故要請を拒んだのか、それはリサに向かわせるため。
『世界の監視者』としての能力を行使して妖怪の実力を見定めた結果、現在のリサの実力ならば渡り合えると判断を下し、リサに出撃させようとリョウが今回の件を請け取ったのだ。
最初はリョウもリサに任せ出撃させようか逡巡した。
異世界から迷い込んだとは言え、その世界の者達 や時空防衛局の局員達が束になって挑もうが敵わなかった、ただの低級妖怪ではない相当の実力者。
世界を牛耳る実力を持っていると言える危険な存在。
戦わせるのは避けたかったのだが、いつまでも過保護になっていては実力が付いても経験の無さが仇になってしまう。
苦渋の決断を下し、鞭を打ちリサに行かせることとした。
共に任務に向かいたかったのだが、折悪しく、リョウ達も予定があるため同伴は無理なため単独で行ってもらうしかない。
リサ「…成る程ね。あたしのいた世界みたいに、異世界からの脅威に晒されているんだね。勿論あたしは行くよ」
任務に行くことを即断したリサの瞳には迷いも恐れもなかった。
自身が経験したあの時の光景が脳裏を過る。
未知の存在により世界を荒らされ、広がっていく混乱。
理不尽に、無慈悲に自分達が過ごしていた平穏が崩壊していく様をただ見ることしか出来ず、抵抗も出来ず逃げることしか出来ない現実。
リサ「あたしが味わった、二度と味わいたくもない現実を、他の人にも合わせたくないからね」
戦おうとした理由の一つ。
名も知らぬ誰かにも、自分の苦しみや悲しみを味わってほしくはない。
アリス「良い心掛けだね。私も悲しんでる人は見たくないしね」
リョウ「今から、行けるか?」
リサ「勿論よ。直ぐ準備する」
ピコ「いつも通り留守番は僕がやっとくから行ってきて!」
リサ「あら、ピコいたんだ」
ピコ「だからいたってばー!」
愛莉「おかあさん、いっちゃうの?」
詳細はさっぱり分かっていないが、内容からして母がこの場を離れる雰囲気を察した愛莉は不安そうにリサを見つめる。
瞳が揺らぎ、今にも泣き出してしまいそうだった。
リサ「うん。あたしは今から困ってる人達のために戦わなくちゃいけないの」
愛莉「すぐかえってくる…?」
リサ「うん。悪い奴なんてあたしの実力なら指先ひとつでダウンさ!」
愛莉「じゃあアレクをゆびさきでたおしてみて?」
リサ「え……えっと、勿論やろうと思えばやっちゃうけど、悪者じゃないアレクは無理かな~?」
アレク「リサ、目が泳いでるぞ。無理なら無理って素直に言うのが大人だぞ」
リサ「うっ…兎に角、あたしは強いから負けたりなんてしないし、直ぐに帰ってくる!だから愛莉には笑顔で待っててほしいの。愛莉が笑顔でいてくれれば、あたしは安心して任務に行けるから」
愛莉「ぜったい、かえってきてね」
リサ「それだけは何があっても守り抜くよ!いつも一人で待たせちゃってごめんね」
愛莉「だいじょうぶ!おかあさんがげんきでがんばれるように、えがおでまってる!ピコもいるからさみしくないよ!」
リサ「ありがとう、愛莉」
度々任務に行く際は誰かに子守りを任せてはいるため、愛莉はリサがいないことに関しては慣れてはいる。
孤独ではないかもしれないが、それでも親子といる時間を割いてしまっているため罪悪感は湧いてしまう。
心苦しい想いを胸に秘めながら、リサは愛する我が子を抱き締める。
リサ「必ず帰ってくるから、いい子にしててね」
愛莉「うん!」
元気良く返事をする愛莉の頭を撫で、額にキスをする。
アレク「俺達もそろそろ行くか」
アリス「そうだね。エクリプスがディーバのライブの襲撃準備をしてるって垂れ込みがあったし。リョウはどうするの?」
リョウ「わしはそのエクリプスを支援していると思われる組織を潰してくる。面倒なことに、中小企業が多いし関与している個人業者も枝分かれして繋がっとるから潰すのに時間は掛かるし、エクリプスが絡んでると認知せずに物資を製造、運搬しとる可能性もあるけぇ下手に実力行使は出来へんのよ」
アリス「昔のリョウなら問答無用で壊滅させてたのにね。成長を感じて私は嬉しいよ」
リサ「リョウってそんなにおっかないキャラしてたの?何百年も生きてるって聞いたし、みんなぜんぜん歳を取らないから過去が気になって仕方ないんだけど」
リョウ「おっかないのは今も昔も変わってへんよ。考え方が変わったってだけじゃ。わし達の過去はまたいつか話すから、はよ準備しんさい」
リサ「おっとそうだね。戦闘服に着替えてくるから、40秒で支度するね!」
リョウ「コスプレもしてるしアガートラムの準備もあるからそれは無理じゃろ…。あ、そうじゃ、ホンマにヤバくなったらこれ使いんさい」
懐から取り出したのは、『緊急離脱異世界転移装置』と呼ばれる小型のスイッチの形をした機械。
リサ「これってエクリプスが使ってる物じゃん」
アレク「流石、使える物は何でも使い、利用できる者は何でも利用する主義なだけはあるな」
リョウ「あらゆる物事が良い方向に動くのならわしは手段なんて選びはせんよ」
リサ「ありがたい限りだけど、あたしはこれを使うことはないかな」
リョウ「そんな、無事に済むだなんて根拠もないのに」
ピコ「根拠なら、あるんじゃない?」
リサ「お、ピコは分かってるみたいだね。あたしは絶対勝てるし、無事に帰ることができる。だって、リョウがあたしを信じて単独で任務を預けてくれるってことは、あたしの実力を認めてくれて、大丈夫だからって思ってくれたからだと思ったから。それに、愛する娘が待ってるんだから、一人残して絶対に死ぬわけないじゃん!」
ニカッと朗らかに笑みを浮かべ、サムズアップした。
その顔には、不安の色は一切無かった。
~~~~~
リサ「心に剣♪かがやく勇気♪確かに閉じ込めて♪」
草木も眠る丑三つ時。
人を寄せ付けぬ真夜中の森には相応しくない軽快な鼻歌が静寂を打ち消している。
暗闇の中には、翡翠色の左目、封眼が凛々と輝いている。
リョウが召喚したワールドゲートを潜り、リサは目的地である世界へと到着し、討伐対象である妖怪の元へ行くため、森林の中を歩いていた。
夜空に浮かぶ月だけが行くべき道を照らす道標になるのだろうが、鬱蒼と生い茂る木々が連なる森の中では神々しく闇を照らす月光は届くことはない。
暗闇が支配し、視界も良好とは決して言えぬ森の中を、リサは臆することはなく歩みを進めていく。
リサ「奇跡♪切り札は自分だけ♪」
暗闇をものともしない軽快な足取りで進むこと数分、森林の奥地の開けた場所へと辿り着いた。
視界に映るのは、正に地獄そのもの。
踏み場のない程にまで人骨が地面に転がっており、開けた場所の中央には人骨が山のように積まれ、頂上部にはこの惨状を作り出した張本人が居座っている。
周囲は重々しい闇の気が充溢しており、体が、脳が即座に離脱しろと危険信号を送っている。
何人の人が犠牲になったのか、想像を絶する現実とは思えぬ惨たらしい光景を見るが、リサの心は静謐としている。
誰の何処の部位かも分からぬ乱離骨灰した人骨の絨毯を歩みを進める前に、リサは喰われてしまった人を弔うため合掌し一礼した後、妖怪の元へと歩み始めた。
リサ「あんたがこの世界に迷い込んだ妖怪よね?」
?「何者だ、てめぇ…?」
リサ「おっと、こいつは失敬。あたしの名前はリサ。えっと…何処に所属してる感じになるんだろ?時空防衛局支援要員?世界の監視者の補佐?まあ、取り敢えずあんたをぶっ倒しにきたのよ。あんた、名前は?」
?「言う必要があんのかよ?」
俯瞰しながら睨むように目を細めた直後、リサは即座に真横へ飛び退いた。
爆発音にも似た大きな音が炸裂し、散りばめられていた人骨が宙を舞う。
音の発生源を見ると、先程までリサが立っていた場所は抉られたかのように地面が変形しており、暗赤色の闇で生成された拳があった。
リサ「ちょっと、いきなり攻撃するこたぁないじゃない。挨拶はしたらやり返さないといけないって古事記にもそう書かれてるんだから」
?「意味分かんねぇこと言ってるが、実力だけはありそうな奴だな。冥土の土産に名前くらいは教えといてやるよ。俺の名前は、カイだ」
気怠そうな態度を取っていた妖怪、カイはリサの動きと反射神経を一目見ただけで相当の実力者だと認めたのか、ポキポキと首の骨を心地好い快音を鳴らし立ち上がった。
リサ「カイね。戦う前に聞いときたいんだけど、カイはこの世界の人間を殺戮するつもりなの?」
カイ「あぁ?俺はそんなつもりはねぇよ。ただ襲い掛かってきたから喰ってやった。俺は争う姿勢を出してもいないのに、怪物の親玉だの俺達の敵だの何だの法螺を吹きやがりやがって」
リサ「ふぅ~ん。敵対するつもりはなく自己防衛のためにやったってことね」
カイ「まあ、俺は人間とかの闇を喰らわないと生きていけねぇから、腹拵えにはなったぜ。さて、ペチャクチャお喋りはするのはここまでだ。俺を倒しに来たんだろ?だったらてめぇも敵ってことだ!」
骨の山から飛び降り、己の中に眠る闇を放出し始める。
暗赤色の闇が一瞬にして周囲を染め上げる。
仮に一般人がこの場にいたならば、闇に呑まれ精神を狂わされ狂人と化すか、負の感情が重圧のようにのし掛かり生きることを拒み自ら死の道を選択するようになっていただろう。
リサ「うわ、すっごい闇。こりゃエクリプスの幹部、いや、それ以上の実力者だね。恫喝のつもりだろうけど、言っとくけど、すんごい量の闇を放出したところであたしに効かないよ。あと、戦う前に話し合いじゃ解決できないの?」
カイ「は?何言ってんだ?」
リサ「だってあんたそこまで悪い奴じゃない気がするからさ。人を喰ったのは確かに罪だろうけどさ、カイの事情を何も知らず、傾聴することもなく武器を持って実力行使に出たこの世界の人にも非はあると思うんだよね。カイもそうは思わない?」
カイ「……………」
リサ「異世界から迷い込んだってことは、突如発生したワームホールに呑まれてこの世界に来ちゃったってかんじなんでしょ?異世界を行き来可能な知人が大勢いるから、カイを元居た世界に帰してあげられる。だから争う必要なんてないんだって」
カイ「俺を懐柔でもしようとでもしてるのか?馬鹿じゃねぇのか?俺はもう元の世界になんて戻れねぇ。いや、なくなったと言えるんだからよ」
リサ「なくなった、とは?」
カイ「あの馬鹿でかい口の化け物だよ。あれが現れたせいで、俺の住んでいた世界は喰われちまった。戦ってる最中、裂け目みてぇな物に落ちてしまって、気が付いたらここにいたってわけだ」
リサ「………そっか。あんたも、あたしと同じなんだ」
カイ「同じだと?」
リサ「あたしもさ、カイと同じでその化け物、ヴィラド・ディアに世界を喰われちまったのさ。利いた風になっちゃうかもだけど、共感できちゃうんだよ。あたしも辛かったからさ」
どれだけ望んでも、帰省することは叶いはしないし、世界が復元されるわけではない。
リサと違い、カイには見知らぬ世界に放り出され、支えてくれる人もいない。
追い討ちのように畳み掛ける絶望と、帰る場所を喪失した悲壮感は計り知れないだろう。
カイ「同情してるつもりか?そんな嘘っぱち、通用するかよ!俺の気持ちは、俺にしか分からねぇ!!」
感情が具現化したかのように、暗赤色の闇が更に放出され、荒れ狂うように四散し、空や地を迸る。
カイ「俺にはもう何もない!元より俺には帰る場所すら決まっていない、天涯孤独の身だった!足に地を着ける世界が変わっただけで、これからもそれは変わらねぇ!俺の前に立ち塞がる者は、全て敵!だから、殺す!」
リサ「……はぁ、悲しみや怒りの念の方が強すぎて何言っても聞きやしないか。それなら仕方ないね。口で言ってもダメなら、実力行使あるのみってリョウも言ってたしね!」
背中に担いでいたアガートラムを手にし、砲身をカイに向け、戦闘態勢に入った。
カイ「女だろうと容赦すると思うなよ?」
リサ「容赦なんて不要よ。全力で挑もうとする人に遠慮するのは無作法ってやつよ」
カイ「後悔するぞ?殺されても知らねぇからな」
リサ「やれるものならやってみなさい。ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどね」
~~~~~
カイ「畜生…いてぇ……」
リサ「戦闘描写無しで終わったところを描くと即オチ2コマみたいになっちゃったねぇ」
戦闘を開始してから約2時間が経過した頃、リサの勝利という形で決着がついた。
たった二人の人間と妖怪による戦闘が過激を極めているのは周囲を見れば明らか。
五分も透かない程にまで乱雑に地面に転がっていた人骨は粉砕、折損しており、最早人骨だったのかと疑ってしまう。
地面には凄まじい衝撃を受けたことによる陥没した箇所が幾つも存在しており、周囲に生えていた立派な大木も薙ぎ倒されており、中には綺麗に根本から抜かれ地面に倒されている木も存在している。
敗北したカイは勿論だが、勝負を収めたリサも全身傷だらけで、出血により衣服にも血が滲んでしまっていた。
カイ「てめぇ、ホントに人間かよ。俺に勝る強い人間…況してや女で、こんな人間が、存在するのかよ…」
リサ「世界は広いってことよ。それに女だからって男に負けるなんて思わないことね」
カイ「……はぁ、負けは負けだ。ほら、さっさと殺せよ。それが敗者の定めってやつだろ」
リサ「え?別にあんたのこと殺そうとなんて尚更思ってないよ」
カイ「はあ?じゃあ、生け捕りにでもするつもりか?」
リサ「う~ん、半分正解、かな?取り敢えずあたしと一緒に来てもらうわね」
カイ「何する気かは知らねぇけど…従うわけ、ぐっ!」
リサ「貴様の意見は求めん、てことでね。戦闘の傷も癒えてないんだから大人しくしときな。『ヘキサグラムカース』!」
カイの真下の地面に翡翠色の魔方陣が出現したことにより、カイは抵抗を試みようとしたが、時既に遅し。
封眼の能力により行動を封印させられてしまったカイは、指先一つ動けない状態となってしまった。
カイ「くそっ…!動けねぇ…!」
リサ「取り敢えずリョウに終わったって連絡しないと。携帯取り出しポパピプペ…デートしてくれますか?」
リョウ『いいですとも!…えっと、冗談言えるくらい元気な様子やと終わったみたいじゃね』
リサ「ユウキリンリン、ゲンキハツラツキだよ!終わったから迎えに来てちょうだ~い」
リョウ『はいよ。もうちょい待っててな~』
リサ「ふぃ~。もうちょっとしたらお迎えが「この辺りから物音がしたぞ!」来る…ん?」
迎えに来てもらうようリョウに連絡をした直後、第三者の声が後方から聞こえた。
日が昇り始める頃合いに誰かが森の奥底にいるなど考えづらいが、振り向いてみるとそこには銃器を手にした人間が数名いた。
迷彩色の服を着ているということは軍人なのは一目瞭然だった。
何人もの兵士が持つ銃に取り付けられたウェポンライトが一斉に向けられ、暗闇に慣れていたため光量に耐えられず目を細める。
「あの倒れてるのは、殲滅対象か?」
「特徴は一致している。だが、その隣にいる奴は?」
「何者かは分からんが、奴の側にいるということは味方の可能性も充分に考えられる」
「確かにそうですね。それにあの眼、普通の人間ではないのは確かです」
「危険分子に変わりはない。射て!」
隊長と思われる一言で一斉に銃口から火を吹いた。
訳も理由も知らず、憶測だけで決め付けられ、理不尽に訪れた急襲。
思わぬ第三者からの攻撃にも、リサは慌てることなく冷静に行動した。
行動不能となったカイを担ぎ上げ人間離れした脚力により跳躍し、暗闇が広がる森の中へ紛れ込み疾走、闇の中へと姿を眩ます。
カイ「おい…!何やってんだ!俺のことなんて、置いてきゃいいだろ!」
リサ「見殺しなんてできるわけないでしょ?それにあんた、悪い奴じゃなさそうだし」
カイ「はあ?俺は人間達を喰ったんだぞ?お前等からしたら悪でしかないだろ」
リサ「会った時にあんたが言った言葉を聞いたから悪人なんかじゃないって分かんのよ。あんたは自己防衛を行っただけ。この世界の人達もピシャーチャっていう怪物がいるから警戒されるのは無理ないかもだけど、それでも理由も知らずに武力を行使するのは間違ってる。それに闇を喰わなきゃ生きていけないんでしょ?純粋な闇の力は勿論だけど、多分生物が抱える負の感情だったりも含まれるから人間も食べるんだよね?だったら仕方ないことだと思う」
カイ「お前、お人好しすぎだろ。被弾までしちまってるのに…」
カイが言うように、放たれた数発の凶弾の内の一発はリサの二の腕に被弾しており、肉を割き空いた穴からは鮮血が止めどなく流れている。
一瞥しただけで、激痛が迸る軽傷とは言えない怪我をしているにも関わらず、リサは涼しい顔をしたまま疾走している。
リサ「後悔したくないから、カイを助けたんだよ」
殲滅対象である筈のカイを見捨てず助けたことに、後悔の色も迷いの色も一切なかった。
今年も『ユグドラシルメシア』をよろしくお願いします!