今年もやることなし!笑
愛莉「まてまて~!」
テュフォン「あはは!捕まえてごらん愛莉ちゃん!」
太陽が燦々と輝きを放つ快晴の昼下がり。
広々とした庭の前では二人の幼女が元気に走り回っている。
暑さ対策として麦わら帽子を被った愛莉と、この世界に訪れていたテュフォンだ。
鬼ごっこで遊んでいるのか、疲れる素振りも見せぬ無尽蔵な体力で周辺を走り回っている。
恵梨花「平和ってこういうことですね~」
リサ「間違いないね。こういう時間が永遠に続くことを祈るばかりよ」
元気に戯れている二人を縁側に座り見ているのは、リサとWSDのディーバの一人である恵梨花。
皿に何本か乗せられてある三色団子を頬張り、何事もない休日を謳歌していた。
恵梨花「この世界は素敵なところですね。怪物がいたとしても、緑豊かな自然を見てると心が癒されます」
リサ「人が寄りつかないような自然豊かな場所を選んだからね~。この山の頂上に行けば絶景が見渡せるよ」
恵梨花「それは最高ですね。絶景を見ると心が洗われますもんね。辛いことも吹き飛んじゃいます。そういえば、明日に近くの町で花火大会が行われるそうですね?」
リサ「そうそう。愛莉も楽しみにしてて絶対見に行くって四六時中言ってるしね。あたし達の立場上、町には行けないから山の山頂で見ることになるんだけど、花火がよく見えるあたし達だけの特等席なのよね」
恵梨花「とっても素敵ですね!私も可能であれば見たいところなんですけど、ライブが近いのでこの世界の今日の夜には行かないといけないのが残念ですね…」
リサ「また機会があったら寄ってちょうだい。恵梨花の歌、あたしは凄く好きだから」
恵梨花「嬉しいです!必ず歌いに戻ってきますね!アルさんもそれくらいの時間の猶予は作ってくれると…あれ?アルさんの姿が見当たりませんね?」
ディーバの守護者である恵梨花のディーバナイト、アルシエルの姿が一向に見当たらない。
先程まで居間で寛いでいた筈なのだが、いつの間にか姿を消してしまっていたようだ。
気晴らしに散歩にでも行ったのだろうと思ったのも束の間、愛莉とテュフォンの活気ある声をも書き消す爆発音が遠方から響いた。
愛莉「うわあ!?びっくりしたー!!なになに!?」
恵梨花「まさかこの世界の怪物であるピシャーチャですか!?」
テュフォン「ありゃりゃ~。みんな大丈夫!アルさんが大暴れしてるだけみたいだよ!あと闇の気も感じるからカイお兄ちゃんもいると思う!」
リサ「カイも姿を見せないと思ったらアルシエルとドンパチやりあってんのね。流石に止めないと周囲一帯どころか山の一つや二つ吹っ飛びかねないね」
恵梨花「その心配はいらないですよ。アルさんはああ見えてちゃんと世界や人の気遣える人ですから、大規模な被害は出したりなんてしないので」
テュフォン「ぜんぜん本気出してないみたいだよ!感じる力して多分…4割くらいの力だよ!4割くらいの力出してるなんて珍しい!カイお兄ちゃん強いんだね!」
愛莉「カイ、とってもつよいよ!」
リサ「…因みになんだけど、アルシエルが本気出したらどうなるの?」
テュフォン「この世界が滅びちゃうよ!」
リサ「無邪気に言われると怖いねぇ…」
~~~~~
カイ「うおらあああああああああ!!」
喉が割れんばかりの咆哮にも似た雄叫びを出しながら突貫していくカイの先には、筋骨隆々な大男がいる。
恵梨花のディーバナイトにして魔王であるアルシエルだ。
鬼気迫る勢いで闇を纏った拳を振りかざし接近してくるカイを見ても、アルシエルはその場で仁王立ちしている。
まるでその場から動くとすら必要ないと、回避する必要がないと言わんばかりに。
カイ「『狂凶打』!」
小細工も何もない、闇の力と筋力だけで放たれる純粋な拳による一撃。
顔面の中央に目掛け放たれた拳は、アルシエルの片手により受け止められ不発に終わる。
透かさず片方の拳に闇を纏い腹部を狙うも、再度防がれる。
目にも止まらぬ速度で殴打の嵐を叩き込み始めるも、アルシエルはその全てを完全に見切り防ぎきっている。
アルシエル「笑わせるな。それが貴様の本気か?」
カイ「そりゃこっちのセリフだ!」
豪雨の如く降り掛かる拳を防ぎ止めた直後、カイはアルシエルの腕を掴み後方へ力任せに放り投げる。
カイ「堕ちやがれ!『荒禍魔幻』!」
赤黒い闇が放出され、あらゆるものを貫くような針へと形状が変化する。
妖怪の凄まじい腕力により後方へ飛ばされたアルシエルだったが、即座に体を反転させ地面を滑走するように体勢を整え、自慢の武器である魔銃『パントクラトール』を取り出し、瞬時に狙いを定め引き金を引く。
魔力で生成された銃弾が銃口から火を上げながら放たれ、闇の針は銃弾に命中し相殺され消滅していく。
アルシエル「『ラピッドサンダー』!」
銃口から一筋の雷が放たれたと同時に、雷鳴が落ちたような轟音が響く。
その一筋の雷は正に疾風迅雷。
現代兵器で例えるならばレールガンにも匹敵する凄まじい速度。
目では追えぬ速度だが、カイの身体能力も他の妖怪よりも傑出して高いため、ほぼ条件反射の勢いで雷を回避した。
アルシエル「ほう、かわすか。ならば、『フレイムフェッセルン』!」
銃口から膨大に全てを焼き尽くす灼熱の炎が放たれ、カイの周囲を覆い喰らい尽くす勢いで襲い来る。
大量の闇を放出することで防ぎきれているものの、保身のための尺稼ぎにしかならないだろう。
異常、尋常、膨大、どの言葉を選んでも取れる圧倒的な魔力。
一体どれ程の研鑽を積めば取得できるのだろうか。
それとも魔族特有の生まれながらとしての才か。
魔王と呼ばれているのは比喩でもなんでもないと痛感させられる。
灼熱の炎をどう逃げ切ろうと策を練っていると、突然闇の力が徐々に弱まっていくことに気が付いた。
弱まっていると言うより、まるで何かに吸い取られている感覚に陥る。
アルシエル「気を取られすぎだ」
横目でアルシエルを見ると、片腕を伸ばし構えている姿が視界に映る。
伸ばされた手は妖しげな淡い光を放っており、その手中にカイから放出されている闇が吸収されていた。
無尽蔵の魔力を持つアリスさえある程度恐れるアルシエルの能力、『ドレイン』によりカイの闇が徐々に吸収され、アルシエルの力となっていく。
カイ「く、くそっ!これ以上させるか!」
放置すれば闇の力が底をつき、炎の波に呑まれるのが目に見えて分かる。
『荒禍魔幻』を繰り出し剛腕を生成、力を吸収し続けるアルシエル目掛け一直線に飛んでいく。
吸収行動を中断し、敏捷な身のこなしで闇の手を掻い潜り回避し、二丁の拳銃の銃口をカイへと向ける。
アルシエル「終わりだ。『リーサルオーバーレイ』!」
拳銃の銃口から放たれたとは思えぬ極太の魔力の光線が炎ごとカイを呑み込んだ。
凄まじい魔力の奔流に巻き込まれ、カイは悲鳴を上げる間も視界が漆黒に暗転し、意識を奪われた。
アルシエル「……この程度か。しかし…少々派手にしてしまったか…」
アルシエルの前方に広がるのは何も存在しない平地。
先程まで木々が生い茂る自然が広がっていた筈なのだが、アルシエルの一撃により瞬く間に荒れ地へと変化してしまった。
アルシエル「………知らぬ存ぜずで通すとしよう」
カイ「おい…待て、や…」
アルシエル「…ほう、まだ立ち上がるか」
横から声が聞こえ其方の方へ視線を向けると、茂みの中からカイが這い出てきた。
意識を一瞬失っていたものの即座に復帰を果たしたようだが、強大な一撃を受けたことにより体は傷だらけで、闇の力を吸収されたことによりかなり憔悴してしまっている。
とてもじゃないが戦闘を継続するのは不可能に見えるが、カイの目に闘志の色は消え失せてはいなかった。
カイ「まだ、終わっちゃ、いねぇぞ…!」
アルシエル「全力には到底及ばぬが、あの一撃を耐えきったのは見事だ」
カイ「その褒め言葉だけは、素直に受け取っておくぜ…」
防戦一方ではなかったとは言え、完敗だった。
この世界に蔓延るピシャーチャを討ち、掛け替えのない大切なリサと愛莉を守護する身としてまだまだ実力不足なのだと忸怩たる思いを感じられずにはいられなかった。
アルシエル「…だが、貴様は未だ真の実力を引き出せてはいないようだな」
カイ「真の、実力…?」
アルシエル「先程の戦闘で貴様は本気を出していないのは分かっていた。だが、貴様は今持てる力の全力以上の力を引き出すことが可能だと我は見抜いた」
カイ「全力を更に上回る力ってことか…。教えろ。どうやったら…どうやったらその力を得られるんだ!?」
アルシエル「…知らぬ方が貴様にとっては良いかもしれん」
カイ「なっ…どういうことだよそれ!」
アルシエル「…貴様が慕う大切な存在を失いたくなければ、教授するが?」
?「くおぉるrrrrrrあぁ!」
自分には未だ到達できてない更なる力を求め、縋るようにアルシエルに訪ねる。
だがその質疑応答を遮るようにわざとらしい巻き舌で怒気を含んだ声が耳に届く。
声のした方を向くと、憤怒の表情で睨むリョウ、指の骨をポキポキと快音を鳴らすリサ、笑顔を浮かべているが額には血管が浮かび上がっている恵梨花が立っていた。
リョウ「お前ら、戦闘を行っちゃいかんとは言うてへんけど、幾らなんでもやりすぎなんじゃい!」
リサ「ちょっとは加減ってものを知りなよ。勝手は、あたしが、許しません!」
恵梨花「アルさん?私最初に言いましたよね?周囲に被害を被らない程度にしてくださいって、私確かに言いましたよね?」
アルシエル「……我は4割程度しか実力を発揮していない」
恵梨花「そういう問題じゃないんです!魔王だからって何でもかんでも許されると思ったら大間違いなんですからね!」
リョウ「地形を変形させたり自然を破壊する行動は慎めって言うとるじゃろがい!」
アルシエル「ふん、いつかは我の世界になるやもしれん世界だ。我がこの世界でどう動こうが我の勝手だ」
リョウ「ほう、己の犯した罪を認めぬと。ホンマやったら時空防衛局に報告して突き付けて豚箱行き確定なところなんじゃけど、わしが特別な処置を与えちゃるわ。リサと一緒にピシャーチャの討伐を行ってもらうで」
アルシエル「何故我がそのような低俗な怪物の相手をせねばならんのだ」
恵梨花「おや?先程アルさんはこの世界はいつか自分の物になると発言してましたよね?それなら今この世界に巣食う意志疎通が不可能な怪物は排除しておいた方が効率がいいんじゃないですか?」
アルシエル「…一理ある。やらねば監視者様は小言を言うのをやめず執拗に我を付け狙いかねんからな」
リョウ「理解してくれたのなら助かる。カイ、当然やけどお前も手伝えよ」
カイ「言われなくても、分かってる!いてて…」
リサ「あーあ随分派手にやられたね。周りの虚しくなった風景見れば分かるけどさ」
アルシエル「我を相手にしては相当善戦していたと言える腕前だったがな。是非とも我の眷属として迎え入れたいものだ」
恵梨花「ア~ル~さ~ん?実力者を矢鱈めったらに誘うのは、めっ!ですよ!」
アルシエル「…善処する」
リョウ「珍しいやん。アルシエルが相手を称賛するなんて」
リサ「へえ~やるじゃんカイ。もしかしてYAMA育ちだったりするの?」
カイ「なんだそりゃ?」
恵梨花「取り敢えず早く戻りませんか?愛莉ちゃんとテュフォンちゃんが、えっと、『ようかい体操第一』?って曲を踊って待ってますよ」
リサ「そろそろお昼ご飯の準備もしないといけないし、この騒ぎを聞き付けて人が来てもまずいし。リョウ、お昼食べてく?」
リョウ「この後エクリプスを殲滅しに行く予定やから、体力付けるためにも折角じゃけえ頂こうかね」
山火事が発生していないだけマシなのだと捉えて良いのか、根本からへし折れた木々が広がり荒れ地と化してしまった戦場を後に、家へと戻っていく最中、カイだけは物思いに耽っていた。
カイ(知らない方が良いって言われちまったが、俺の真の実力…どうやったら引き出せるんだ?)
リサ「カイ、何ボーッとしてんの?さっさと帰るよ~」
カイ「え、あ、あぁ今行く」
悶々とした思いを巡らせている中で、リサの言葉で思考の世界から現実に戻り、リサ達と共に帰路につくのだった。
~~~~~
アルシエル「……この程度か。ヴィラド・ディアとは天と地の差がある実力だったな。理性もなく真面に話が通じぬ低俗な獣…我が軍には不要な存在だ」
テュフォン「あ、またアルさん自分の軍に入れようと考えてたんだー!」
アルシエル「…何か問題あるか?」
テュフォン「悪いことしようとしたら、めっ!だからね!」
アルシエル「…ふん、無能な輩とは違うのだ。時空防衛局に負担を掛けることなどせぬ」
リサ「アルさんよりアレクやアリスの方がよっぽど迷惑掛けてるような気はするけどね~」
カイ「まったく同感だ」
リサ「この前は確か…星十字騎士団に気分で勝負を仕掛けて全員ボコボコにした後に、罰ゲームとして無理矢理マジカル自白剤を使用して人に聞かれて恥ずかしいことを言う暴露大会を開いたりしてたわね」
カイ「相変わらず何やってんだよあいつらは…」
アルシエル「…あの二人の戯れには我も付き合いきれん」
テュフォン「アレクパパとアリスママのやることって面白いよね!テュフォン大好きだよ!」
楽しく談笑を行っているが、周囲にはこの世界を破滅に導く異形の怪物、ピシャーチャの死体が転がっている。
昼食後、家から数キロ離れた地点でピシャーチャの群れが発見されたという情報を耳にし、リサ達は即座に出動し戦闘を開始した。
尽力したがっていたテュフォンと、先刻、派手な戦闘で山の一部を破壊した償いとしてアルシエルも同行しピシャーチャの討伐を行った。
リサとカイの二人も相当の手慣れだが、それ以上の力と技量を持ち合わせるアルシエルとテュフォンの実力は凄まじく、本来の倍以上の速さで事は終息してしまった。
リサ「ほら、カイ。さっさとこいつらの闇を喰らっちまいなよ」
カイ「勿論そうさせてもらうぜ。ただ味はあんまり美味くはないからな~」
生きるために必要な闇を摂取するため、原型を留めていない、何処の部位かも分からぬピシャーチャの肉片を拾い上げ喰らい始める。
テュフォンが美味なのかと思い拾い食そうとする行動を阻止しているリサを余所に、黙々とピシャーチャの肉を喰らい続けていた。
いつもと変わらぬ何気ない行動だったが、今回だけは違った。
カイ「っ………!?」
突然体が跳ね上がるような感覚が襲い、体が燃えるように熱く火照っていく。
呼吸が乱れ、冷や汗が止めどなく流れ始める。
まるで自分の内側から何かが這い出てくるような、湧き上がってくるような、奇妙な感覚。
抑えつけなければならないと脳が警鐘を鳴らしている。
このまま湧き上がる『何か』を抑えつけなければ、元の自分に戻れない気がしてならない。
気を散らすためにも、カイは持っていた肉片を地面に思い切り投げ捨て踏みつける。
リサ「おっとどうしたのよカイ。そんなに今回のは美味しくなかったの?」
テュフォン「やっぱりこれ不味いの?」
リサ「赤黒いしどう見ても美味しそうには見えないからね。で、どうしたわけよ?」
カイ「あ…あぁ、くっそ不味い部位だった。今まで気になんかしたことなかったけど、何処の部位だったんだろうな?」
リサ「キン○マだったんじゃないの?」
アルシエル「この怪物に生殖器は存在しない。だからこそ、どう繁殖をしているか気になる点ではあるがな」
テュフォン「アレクパパが言ってたギャ○スって言う怪獣みたいに増えていくのかな?」
リサ「あいつらは洒落にならないから嫌だわ。無性生殖って考えると…嫌になってくるわね。エイ○アンク○ーンみたいに親玉だけが繁殖能力を持っているって願いたいね」
カイ「はあ…闇は摂取できたから、そろそろ帰ろうぜ」
リサ「あら、もういいの?じゃあ帰りましょうか。愛しの愛莉が待ってるし。アルさんも愛しの恵梨花ちゃんが待ってることだし」
アルシエル「我は恵梨花とはふしだらな関係ではない。恵梨花は我の眷属だ」
テュフォン「一番お気に入りの眷属だもんね!」
リサ「夜な夜な恵梨花ちゃんの婀娜婀娜しい姿を見て、い、嫌あああああやめてえええええ!!」
アルシエル「…下らぬ妄想を思い描くと、貴様のエネルギーを全て吸い取るぞ?」
テュフォン「うわ~…テュフォンもやられたことあるけどやっぱり嫌だよね。リサお姉ちゃん、悪いことしたなら、ごめんなさいした方がいいよ?」
リサ「ごめんなさーーーい!(モ○タロス)」
アルシエルの『エナジードレイン』により悲鳴を上げる様子を見てカイと無邪気なテュフォンでさえも苦笑いをしていた。
カイに至っては他愛もないやりとりを見て笑みが浮かんだのもあるが、大半は安堵により出たもの。
リサが声を掛けてくれたことにより、『何か』は自然と縮小するように消失した。
親愛なるリサの声がなければどうなっていたか、考えるだけでも背筋が凍る。
安堵した表情で息を整えながらも、アルシエルの言葉が脳裏を過る。
『…貴様が慕う大切な存在を失いたくなければ、教授するが?』
自分にとっての大切な存在。失いたくない存在。
言わずもがな、リサと愛莉。
二人は妖怪である自分を快く受け入れ、共に生きることの意味と愛を与えてくれた掛け替えのない存在。
カイ(あの二人を失うくらいなら…俺は今のままの方がいい)
力を求めるあまり、本来守らなくてはならぬ者を守れなければ意味がない。
先程突如として訪れた『何か』の正体は不明ではあるが、アルシエルが発言していた全力以上の力を発揮するものと関係があるのかもしれない。
偶然の産物にしては出来すぎている気もするが、もしこの『何か』の正体がアルシエルが発言していた力だったとしても、カイは決して受け入れるつもりは毛頭なかった。
この『何か』を受け入れてしまえば、もう自分は後戻りできない別の存在になってしまう気がしてならなかったから。
リサ「はあ、はあ…遥かなる大地へほぼイキかけたわ。間違いなくAnotherなら死んでたわね」
テュフォン「リサお姉ちゃん、立てそう?」
リサ「ありがとねテュフォン。大丈夫よ。…それにしても変な感覚しちゃうわね。愛莉より少し歳が上の可愛いロリにしか見えないのに、あたしより何百歳も歳が違うなんてね」
テュフォン「でもテュフォンまだまだ子供だよー!電車乗る時も子供料金で乗れちゃうよ!その時アレクパパも子供料金の切符で乗ろうとしてたけど駅員さんに止められちゃってた!」
リサ「でしょうね」
アルシエル「…とは言え、何でも子供料金で済ますのは倫理的に不味いがな。食べ放題の飲食店に行ったことがあるが、テュフォンは女児とは思えぬ食欲を発揮するからな」
テュフォン「えへへ。テュフォン、食べるの大好きだから」
アルシエル「…だが食べるのも程々にしておけ。この前また食い過ぎで店を出禁にされていただろう。自重しろ」
テュフォン「あれは本当にごめんなさいって謝ったよ~。一緒にお店にいた白いウマのお耳のお姉さんも出禁にされちゃってて可哀想だったな…」
リサ「……誰か分かったけど自業自得ね、うん。さて、お喋りは楽しいけどそろそろ帰りましょ。恵梨花も次のライブがあることだろうし、スケジュールが狂うと大変だし」
アルシエル「…そうだな。そろそろ次の世界へと移動せねばならない。長居は無用だ、帰還するぞ」
カイ「そうだな。愛莉もお腹を空かして待ってるかもしれねぇしな」
大分落ち着きを取り戻したカイが一つ大きく深呼吸をし、帰路に着こうと歩みを進み始めた。
愛すべき娘に会える楽しみと安堵で満たされたリサがテュフォンと手を繋ぎ歩く背中を温かな眼差しを向けるなか、並行し歩いていたアルシエルが一言だけ呟いた。
アルシエル「…どの道を行くのか、その答えを導き出すのは貴様次第だ」
まるで考えていることを見透かされているかのような言葉に、カイは頷くことも返答することもなかった。
最近39度近くの夏風邪引いちゃいました。
皆さんも体調管理に気を付けましょうね。