ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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最近休日でも朝8時に勝手に目が覚めるようになりました。
おかげでモーニングに行こうという意欲が湧いて小説書く速度が上がってます!
楽しみにしてた方…いるのかな?笑
104話どうぞ!


第104話 そーれそれそれお祭りだ

愛莉「あかあさん!ことしはおまつりにいってみたい!」

 

花火大会の当日、付近の町で行われる祭りに行きたいと愛莉が口を開いた。

アガートラムの整備をしていたリサの腕を引き縋るような目で訴えてきたため、作業を中断し若干困ったように眉間に皺を寄せて宥め始める。

 

リサ「ごめんね愛莉。行かせてあげたいのは山々なんだけど、あたしの立場上、町に姿を晒すわけにはいかないの」

 

愛莉「なんで?おかあさん、わるいことなにもしてないのに、なんでまちにでちゃいけないの?」

 

リサ「…世間のみんなは、あたしがピシャーチャを呼び寄せる怪人だと思ってるみたいだから、あたしは、疎外せざるを得ないの」

 

愛莉「いつもかめんつけてるからだいじょうぶなんじゃないの?」

 

リサ「仮面のお陰で身バレはしてないよ。でもね、お母さんのこの眼は、世間にも周知させられてるから、すぐに正体がバレちゃうんだよ」

 

この世界に蔓延る怪物を倒しているだけなのに、特殊な力を持っているという理由で冷遇を受けてしまっているのは事実。

怒りの念はなかったが、自分が枷となり、愛莉に不自由な思いをさせてしまっていることに対し、不甲斐ない自分を責め立てたくなり、血が滲む程拳を固く握り締める。

 

リサ「ごめんね愛莉。一緒に行ってあげることは、今年もできないの」

 

愛莉の悲しみを少しでも紛らわせるためか、祭事にもろくに連れていけない自分の自責の念を誤魔化そうとするためか、優しく愛莉の頭を撫でてあげた。

今年も祭事に行けないと理解した愛莉は悲しそうに俯く。

 

カイ「用は正体がバレなきゃ問題ねぇってことだよな」

 

沈黙が続き重苦しい雰囲気を遮るようにして部屋に入室してきたのは、聞き耳を立てていたであろうカイ。

続くように先程この世界に来たリョウも入室した。

 

リサ「簡単に言うけど、あたしがバレない保証はあるわけ?」

 

カイ「100%の保証はないが、いける筈だぜ」

 

リサ「万が一の時が困るんだって。祭りどころの騒ぎじゃなくなるし、一緒にいる愛莉にも危険が及ぶかもしれない。それに…」

 

カイ「それに、何だよ?」

 

言葉にしようしたしたことに言い淀むリサの様子に気付きながらもカイは問い質す。

 

リサ「ないとは思うけど、あたし達に危機が訪れたら、あんた絶対人間だろうと容赦なく攻撃するでしょ。最悪喰らう可能性だって…」

 

カイ「それは絶対有り得ねぇ!俺はもう人は喰らったりしねぇ!況してや愛莉の前で…!」

 

愛莉「カイ、おこってる?おこっちゃダメだよ…」

 

カイ「っ…すまねぇ、愛莉。ちょっと躍起になっちまっただけだ」

 

声を荒らげたことに身を竦めながらも、カイが怒りを抑えることを祈るようにズボンにしがみつき真っ直ぐカイの瞳を見上げ見つめる。

怖がらせてしまったことを反省し、頭を撫で安心させた。

 

リョウ「それで、カイの提案ってのはなんなんよ?」

 

カイ「俺が考えたのは、顔がバレないよう仮面でも付けて祭りに行くってことだ」

 

愛莉「かめん?でもおかあさんでかけるときいつもつけてるよ?」

 

カイ「あれは顔半分を覆ってるだけだから全体が見えなけりゃ問題ねぇ。あと、付ける仮面もリサの左目も見えないような物にすればいい」

 

リサ「そんな仮面何処に…あっ」

 

リョウ「もしかして、あの二人が遊び道具として残していったあれ使うんか?」

 

リサ「…なんか行ける気がする!カイ、素晴らしい提案に感謝するよ!感謝の正拳突きしてあげようか?」

 

カイ「何で感謝されてるのに突かれなきゃいけねぇんだよ!?」

 

リサ「取り敢えず、それなら何とかなるかもしれない」

 

リョウ「危ないと思ったらすぐに帰ることが条件やぞ?」

 

リサ「そりゃ勿論。あたしは兎も角、愛莉の身に危険が及ぶようなことだけはしたくないからね。祭りに行くのは久々だから楽しみね」

 

翡翠色の左目がリサの高揚する気持ちに反応したかのように淡く輝いたような気がした。

立場上、世間に身を公に出来ないため、娯楽を満喫する機会などこの世界ではないに等しかった。

カイの助言により愛莉と共に娯楽の時を過ごす思い出を作る機会が漸く訪れたことに心が弾まないわけがない。

リサ自身、祭事に行きたいという気持ちが密かにあったため、胸が高鳴っていた。

 

リサ「愛莉、今年はお祭り行こっか!」

 

愛莉「うん!おまつりいく!たのしみ!」

 

生まれて初の祭りに行ける喜びの感情が爆発し、その場でピョンピョンと跳び跳ね喜びを体現していた。

カイとリョウも二人が祭りに行けることを喜ばしく思い笑みを浮かべた。

 

 

~~~~~

 

 

祭事なだけあって、道を覆い尽くすほどの人が押し寄せていた。

道の側には何処まで続いているのだろうと思えるほど屋台が幾つも並んでいる。

焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、カステラ、りんご飴、綿飴、くじ引き、射的、金魚すくい等々。

何処も足を止め買いたくなる衝動に駆られる。

 

愛莉「わー!おみせがいっぱい!」

 

リサ「そうね~。全部制覇してみたいもんだね」

 

カイ「金が幾つあっても足りねぇなこりゃ」

 

リョウ「愛莉、はぐれないようちゃんとリサの手握っとくんやで」

 

愛莉「はーい!」

 

人混みの中にはリサ達も紛れており、賑やかな祭りの雰囲気を噛み締め一つ一つの屋台を見て回っていた。

世間にはピシャーチャを呼び寄せる『災厄の魔人』という不名誉極まりない異名で呼ばれているリサだが、現在の状況を見ても誰もリサだと気付くことはない。

何故なら、顔全体を覆う仮面を付けているから。

リサだけでなく、愛莉やカイ、リョウも同様に仮面を付けている。

普段の日常なら抜きん出るところだろうが、今日は祭事、老若男女関係なくお面を付けている人が多いため、特段目を見張ることはなかった。

 

リョウ「確かに顔バレせぇへんし良い考えやとは思うんじゃけど、もっとマシな仮面なかったん?」

 

カイ「アレクとアリスが遊び道具として置いてあった仮面だぜ?ろくな物があるわけねぇ」

 

リサ「お陰で今回は助かったけどね」

 

周りには様々なお面を付けている人がいるが、リサ達の付けている仮面はこの世界においては異質なのかもしれない。

 

各々付けている仮面は以下の通り。

 

リサ コードギ○スのゼロ

愛莉 ダース・ベ○ダー

カイ と○だち

リョウ キュ○ベリー(邪神の面)

 

どれもこの世界には存在していない物なため、素顔を晒すことはないが周囲から見れば浮いている存在となってしまっている。

だが今日は縁日。多少目立っていようが特にとやかく言う者はいない。

普段ならば絶対に出来ない外出方法だが、人が賑わう縁日だからこそ可能な強引な方法。

リサの存在を公にするわけにはいかないため、面倒な方法を用いなければ外出が叶わないのはどうにも肩身が狭くて仕方がないところだ。

 

愛莉「おかあさん!あれやってみたい!」

 

リサ「お、金魚すくいね。愛莉がやるならあたしもやってみようかしら」

 

カイ「んじゃ俺は今のうちに焼きそばでも買うとするか」

 

リョウ「んじゃわしはたこ焼きでも買おうかのう」

 

 

~~~~~

 

 

リサ「あたし達の分まで買ってもらって悪いわね。う~ん、何で祭りで食べる食べ物は美味しいんだろうね」

 

愛莉「たこやきおいしい~♪」

 

カイ「愛莉、口元にソース付いてるぜ」

 

リサ「ほら愛莉、拭いてあげるからこっち向いて」

 

愛莉「ん…ありがとうおかあさん!」

 

リョウ「やっぱり仮面しながらは食べづらいのう」

 

カイ「それにしては器用に食ってるように見えるぜ」

 

リョウ「…まあ、何百年も前に一時期仮面を付けて生活してた時期があったけぇのう」

 

カイ「どんな生活送ってたんだよ…」

 

リサ「お、あたしあれやってみたいわ」

 

カイ「ん?あぁ、射的か。俺は銃は使ったことねぇからさっぱりだぜ」

 

リサ「そんな難しいもんじゃないわよ?コルクを銃口に入れて撃つだけなんだし」

 

リョウ「ほんじゃわしもやってみようかね。おじさん、二人分な」

 

リサ「B級三雲隊隊員のスナイパー並の実力を見せる時ね!」

 

愛莉「おかあさん!あのかえるさんのおにんぎょうがほしい!」

 

リサ「あのケ○ロ軍曹みたいな蛙ね。任せときな!」

 

リョウ「初めてやのに無課金おじさんの構えで行けるんかいな…。そんじゃわしも愛莉のために人肌脱ごうかね。狙い撃つぜ!」

 

 

~~~~~

 

 

愛莉「んふふ~♪かえるさ~ん♪」

 

カイ「良かったな欲しい物が手に入って」

 

リサ「ふっふっふ、あたしの手に掛かればこんなもんよ」

 

リョウ「可笑しいな…狙った筈やのに隣の景品に当たるとは」

 

カイ「それでも取れたんだからいいじゃねぇか」

 

リョウ「まあ取れへんよりかはマシじゃね。とは言っても、魔法のステッキはいらんのよ」

 

リサ「そのお面とベストマッチしてると思うよ。あたしはとっても似合ってると、思うよwww」

 

カイ「俺もリサと同感だぜ。『世界の監視者』とも呼ばれるすげぇ奴はやることが違うぜwww 狙って取ったんじゃねぇのか?www」

 

リョウ「うっせぇぶっ殺すぞ!(某声優モノマネ芸人)」

 

愛莉「おかあさん!次はこれ食べたい!」

 

リサ「かき氷か~。夏と言えばってかんじね」

 

愛莉「あたしいちごあじがいい!」

 

リサ「シュシュッとスパーク!あたしはメロンにしようかね。天・下・御免!二人は何にする?」

 

カイ「俺はマンゴー」

 

リサ「ファイト・オブ・ハァンマァー!」

 

リョウ「わしはレモン」

 

リサ「ジンバーレモン!ハハーッ!」

 

リョウ「えらいテンション高いのう」

 

リサ「折角のお祭りよ?楽しまなきゃ損でしょ!」

 

仮面により表情を伺うことはできないが、声色からして心から楽しんでいるのが分かる。

怪物と戦い続ける一般的に言う常人とは浮世離れした日々を送っているため、リサにとって祭事が非常に楽しく心踊る行事だった。

立場的に世間から理不尽に理由なく忌み嫌われているため、特別な行事に行くことすら叶わなかったので、楽しめないわけがなかった。

 

年相応に楽しんでいるのはリサだけでなく愛莉も同様だった。

人気のない山奥で自然と触れ合いカイ達と遊ぶ毎日で、リサの都合上社会に出る機会が皆無だった。

人生で初めて人々が暮らす町に外出し、賑やかな喧騒と多くの人々が楽しむ光景全てが新鮮に見え、その目は星の瞬きよりも煌めいている。

 

その後も様々な屋台を練り歩き、休憩がてらに大きな木の下に設置されたベンチに座り、減ることを知らない祭事を楽しむ人々の風景を見ていた。

愛莉は大きな綿飴を口や頬に付けながらも満足そうに笑みを浮かべながら美味しそうに食べている。

 

リサ「いや~楽しんだー!お祭りなんて来たの何年振りかしらねー!」

 

カイ「前にはいつ行ったんだよ?」

 

リサ「この世界に住む前にリョウ達に鍛えられてた世界でね。この世界よりも近代的ではなかったけど、なかなか大きな祭りだったよ。メシア感謝祭って言って、エクリプスが支配してた世からユグドラシルメシアが救ってくれて、その感謝を忘れないために毎年行われてるお祭りよ」

 

カイ「で、そのメシアが俺達の側にいるわけか」

 

リョウ「確かにわしもユグドラシルメシアの一人じゃけど、色々あってその世界を救った時にわしはいなかった。だからその世界にはわしのことは記載されてはないし、称えられるような存在じゃない」

 

隣に座るリョウを横目に見ながら呟くカイの言葉を否定するようにリョウは首を横に振った。

自身を卑下するような含みを帯びた言葉に、過去を探ろうとはしなかった。

 

リサ「あのアレクとアリスが称えられてるんだから、最初見た時はびっくりしちゃったもんよ。いつもしてる行動が行動だけに余計にね」

 

リョウ「普段はふざけてる二人だけど、救われた世界は数多く存在する。あの二人だけやなくて、ピコや優愛達の活躍もあってエクリプスやヴィラド・ディアの脅威から逃れ平穏を保ててるからな」

 

カイ「世界を救ってたって話は本当だったんだな。俺はてっきりあの二人の法螺話かと思ってたんだけどな」

 

リサ「御伽噺でもない、正に生きる伝説ってやつね」

 

カイ「でも千年前くらいから全員存在してるんだろ?ユグドラシルメシアのメンバーも変わってるんじゃないのか?」

 

リョウ「死んじゃった奴や途中から入った奴もおるけど、基本的には変わってないで。ちなみにわしは最初からおったで」

 

カイ「最初からって、お前今何歳だよ。そもそも人間か?」

 

リョウ「わしの過去のことに関しては禁則事項です。わしは正真正銘人間やで。あと歳のことはあまり聞かない方がええで。特に女性には。レアに聞いたら細切れにされちょるで」

 

カイ「色々と気になるところだが、お前にも色々訳ありなんだろ?なら詳しくは聞かねぇよ」

 

リョウ「そうしてもらえると助かる」

 

愛莉「おいしかったー!おなかいっぱいー!」

 

リサ「屋台の食べ物いっぱい食べたもんね。愛莉、口元に綿飴が付いてるよ。ほら、こっち向いて」

 

砂糖によりベトベトになった口元を優しく拭いてあげるその姿は、母親そのもの。

仲睦まじく触れ合う様子に、リョウとカイは自然と頬が緩む。

この二人の幸福が途絶えることなく永遠に続いてほしいと切に願うと同時に、必ず守り抜かなければならないという想いも更に強まる。

 

リョウ「断固たる決意が必要なんだ!!」

 

カイ「ど、どうしたんだいきなり」

 

リョウ「ん、あぁすまん。安西先生の言葉を思い出してしもうて、つい…」

 

カイ「誰だよそれ。ってか、花火が上がる時間が迫ってんじゃねぇのか?」

 

リサ「そうね。そろそろ帰りましょうか。その前にあたしはお花を摘みに行ってくるから先に行っててくれない?」

 

愛莉「あたしもおはなつみにいきたい!」

 

リョウ「愛莉、これはトイレに行きたいってことや。先に行っとこう」

 

愛莉「そうなのかー。じゃあまたあとでねおかあさーん!カイ~おててつないでー!」

 

カイ「そうだな。人が多いから離さないようにな。んじゃ、先行っとくぜ」

 

カイと手を繋ぎながら空いた手を振る愛莉に名残惜しそうに手を振り返し、近辺の公園の公衆便所へと足を進ませる。

一分と掛からず到着したが、女性専用の便所には長い列が成されていた。

普段は大して使用されていないだろうが、祭事という人が集結する行事なため、使用者も増加するのは当たり前なのだ。

 

リサ「こりゃ十分は余裕で待ちそうね~」

 

自分の番が訪れるのを遠い目で見ながらも列の最後尾に並ぶのだった。

 

 

~~~~~

 

 

リサ「あたしが用を足す描写がない?そんなのあんたの脳内で想像してな」

 

予想通り約十分程度待ち、用を足したリサは帰宅途中の愛莉達に追い付くために早足で歩いていた。

しかし押し寄せるような人混みに呑まれ、嫌でも鈍足で進行せざるを得なかった。

 

「おいてめぇ!当たっといて謝りもなしか!」

 

この人混みに紛れ愛莉が迷子になってないだろうかと一抹の不安が頭を過る中、耳に入ってきたのは怒声。

声が聞こえた方に目を向けると、大柄な男が高校生くらいの少年の胸倉を掴んでいる光景が目に映る。

大柄な男の顔をよく見てみると赤く火照っており、飲酒により酔っぱらっているのが分かる。

少年は大柄な男の凄味に怯えきっており抵抗する気配がない。

周囲の人々は巻き込まれると面倒なのか、大柄な男の暴行を止める術をもたないからか、関与しようとせず見てみぬ素振りで二人の側を通り過ぎている。

 

リサ「………はぁ、しょうがないねぇ」

 

困っている人を見捨てることができない性分のリサは二人の側へと歩み寄る。

 

リサ「やめなよ(ク○ウド)」

 

「あぁ、なんだてめぇ!」

 

リサ「何があったか知らないけど、暴力はよしなさいよ。楽しい縁日だってのに、争い起こしたら楽しくないでしょ?」

 

「てめぇには関係ねぇことだろ!すっこんでろ!」

 

リサ「関係ないけど止めに入っちゃいけないルールなんてないでしょ?何があったか詳しく知らないけど、大声で叫んでたら人様の迷惑だし、話し合いで解決しようじゃないか」

 

「変な仮面付けといてえらそうなことほざいてんじゃねぇ!」

 

赤の他人に注意喚起され逆上した大柄な男は腕を振りかざす。

一般人の暴力など日頃戦っているピシャーチャと比較すると赤子も同然。

女性だろうと容赦無しに顔面に振りかざされた拳をリサはひらりと回避した。

顔面に直撃は免れたが、顔を隠すために付けていた仮面が腕に当たってしまい、仮面は宙を舞っていき、リサの素顔が公に出てしまう結果となってしまった。

 

「なっ……お前は……」

 

先程まで酒と怒りで火照り赤くなっていた顔は、リサを見た途端に青冷めていく。

側にいた被害に遭っていた少年も、口から泡を吹いて倒れてもおかしくない程にまで更に顔面蒼白になっている。

騒ぎを野次馬していた人々や横目に素通りしていた人々も、リサの顔を見るなり戦慄した。

正確には、リサの凛々と光る翡翠色の左目、封眼を見て。

 

「おい、あの眼って…」

 

「間違いない…!『災厄の魔人』だ!」

 

「こんな街中に現れるなんて…!」

 

「あの怪物達を呼び寄せるつもりだ!」

 

「俺達人間を滅ぼす存在だ!」

 

「だ、誰か、あいつを殺せ!」

 

「おまわりさんこいつです!」

 

「ダレカタスケテー!」

 

縁日という活気溢れる平和な一時は一瞬にして豹変し、リサの事情を一切知らぬ人々は戦慄した。

賑わいを霧散し、恐怖や警戒と言った多種多様な反応を見せ始める。

 

「あいつの…あいつのせいで俺の父さんは怪物に喰い殺された!」

 

「返してよ!私のたった一人の娘を返しなさいよ!」

 

「学生時代からの親友が喰われたのもお前のせいだ!」

 

「あんたさえいなけりゃ…私の、私の平和な一時を返してよ!」

 

「死んで詫びやがれ!」

 

ピシャーチャにより親族や友人を亡くした者達からの容赦ない罵声が四方八方からリサへと降り注ぐ。

どれだけ罵詈雑言を浴びようと、リサは微動だに動くことはなかった。

抵抗をすれば更に醜聞が広がり、自身だけでなく、愛莉やカイにも被害が及ぶ可能性もある。

 

「今すぐ殺そう!」

 

「銃持ってきたぜ!殺られる前に殺らねえと!」

 

「やるんだな!?今!ここで!」

 

「娘を喰い殺された怨み…今ここで晴らす!」

 

「野郎オブクラッシャー!!」

 

銃を所持していた人々が群衆を掻き分け、反論せず俯くだけで無抵抗なリサへ一斉に銃口をリサへ向ける。

引き金を引こうとした直後、白い光の粒子が何処からともなく降り注ぎ、リサの周辺を覆い尽くした。

何が起きたのか理解が追い付かない人々はリサかピシャーチャによる攻撃だと思い、困惑と恐怖に包まれ、逃げ惑う者やその場に伏せる者、生存したいと神に命乞いをする者など様々な反応をしている。

 

混乱渦巻く状況が数秒経過し、視界を覆い尽くしていた光の粒子は跡形もなく消え去った。

何が起きたのか理解が追い付かない状態で未だ戸惑う人々は自身や身内の安否を確認し、負傷や失踪していないことに安堵する。

そして騒動の元凶であるリサが直立していた場所を一斉に見やるも、リサの姿も白い粒子と共に消失していた。

 

「……俺達、夢を見てたんじゃないよな?」

 

「いえ、確かにいた筈よ…」

 

「あの怪人はいつになったらいなくなるんだ」

 

「町にも現れてるってことは、ここもヤバいんじゃないのか?」

 

「おい、そんな縁起でもないこと言うのやめろよ!」

 

盲信により不安が更に募っていき、賑やかな喧騒から暗雲が立ち込める、祭事とは思えぬ重々しい雰囲気へと一変してしまった。

 

 

~~~~~

 

 

リョウ「やれやれ、帰りが妙に遅いなぁと思うたら面倒な事になってるんやから驚いたで」

 

リサ「リョウ…」

 

『天使の加護』の力を応用しリサを救出したのはリョウだった。

 

用を足すにしては時間が経過していたため、心配になったリョウは愛莉をカイに任せ元来た道を引き返した。

イベント等とは思えぬ喧騒に気付き、嫌な予感が的中しないことを祈りながら人だかりを掻き分けて行くと、円を描くように空けられた場所の中央に、仮面が外れ素顔が露となったリサが立っていた。

目撃した人間達を皆殺しにするわけにもいかず、とはいえ『力』を使用して記憶の抹消を行うわけにもいかないため、強行手段として『天使の加護』を使用してリサをその場から避難させた。

現在は人を寄せ付けぬ木々が鬱蒼と生えている山の入り口付近の森の中にいる。

 

リョウ「何があったかは分からへんけど、無事で良かった。でも正体がバレてしもうたからリサはあの町の付近には迂闊に近付かない方がええやろうね」

 

リサ「うん…」

 

リョウ「……リサ、大丈夫か?」

 

リサ「だ、大丈夫よ。怪我もしてないでしょ?元気100倍だよ」

 

リョウ「作り笑いしとるのバレバレやで。無理に強がる必要はないで。わしは、リサの家族みたいな存在なんやけぇ、言いたいことあるなら吐き出してもええんよ」

 

リサ「………あたし、何か悪いことしたのかな?」

 

包み隠す必要はないと言っているリョウの言葉に、違和感のある作り笑いを浮かべていたリサの口角は徐々に下がっていき俯いてしまう。

そして箍が外れたように言葉を紡ぎ始める。

 

リサ「あたし、愛莉とカイとただ平和に過ごしたいだけ。正直、世界を救うのは二の次。でも、世界を救うなら、知らない誰かの平和も守っていきたいって思ってた。誰かの悲しむ姿や涙なんて見たくないし、あたしみたいな境遇になんてなって欲しくないって本気で思ってた」

 

リョウ「………」

 

リサ「でも、あたしが守ろうとしてる人達は、あたしを毛嫌い遠ざけ、殺そうとだってしてくる。可笑しな話だよ。世界を救おうと、この世界の人達を守ろうと必死に戦ってるのに、守る人達から忌み嫌われてるなんて。挙げ句の果てにはあたしをピシャーチャを呼び寄せる『災厄の魔人』なんて呼ばれるようになってるし。何処の誰だろうね、そんなデマ広げたの」

 

リョウ「根も葉もない噂はどの世界でも流れるし、世間に出ると人はそれを簡単に信じ込む。大多数の意見に賛同することで、自分を正当化したいだけじゃ。気にすることはない」

 

リサ「うん、分かってる。分かってるつもりなんだけど…やっぱり、辛い。あたし…ただみんなと平和に過ごしたくて世界を守り救おうとしてるだけなのに、何で、こんなに嫌われなきゃいけないんだろ…」

 

肩が小刻みに震え、いつもの溌剌とした声からすすり泣くようなものに徐々に変化していく。

俯いているせいで表情は確認できないが、精神的な苦痛により歪んでいるのは容易に想像ができる。

 

リサ「勝手に悪者扱いされて、世界の人達から嫌われて…たまに、何のために戦ってるのか、分からなくなっちゃう時がある」

 

リョウ「リサ、それはリサが一番分かって…」

 

リサ「勿論、あたしが一番分かってる。愛莉が笑顔で居続けて、カイがあたし達といることで幸せでいてくれること。そうあってほしい、だから戦ってる。

そして、ヴィラド・ディアやエクリプスによって被害が受けないように、誰かの悲しむ姿を見たくないから、戦ってる。あたしみたいな境遇になってほしくないから…なのに………何で、こうなっちゃったんだろ?あたし、悪いこと、しちゃった?」

 

悪事を働いたのならば、罵詈雑言を浴びせられても仕方ないだろう。

だが勿論リサは真逆で、人の奉仕たる活動を行っているにも関わらず、訳も理由も知らず流言蜚語を信じ、リサを一方的に悪役へと仕立て上げている。

 

リサもリョウ達と同様に一般人とは異なる力を得て戦える戦士の一人だろうが、年齢相応の女性に変わりなく、世界の人々から浴びせられる誹謗中傷に耐えられるわけがない。

今までは愛莉やカイを心配にさせまいと弱さを見せないために気丈に振る舞っていたが、今回の町中の人々からの罵声を浴び、相当参ってしまったようだった。

 

普段の活発で気が強い姿は消え失せ気が滅入っている状態を見たリョウは透かさず優しく抱き締めた。

 

リサ「っ…リョウ…」

 

リョウ「リサは何も間違ってないし、よぅ頑張っちょるよ。それはわし達が分かってる。理解してる。理解してる人だけの存在を信じればいいし、信じてもらえない他者の言葉は聞き流せばいいのかもしれへん。でも、辛いものは辛いもんな。自分は誰かのために頑張ってるのに認められずに、信じられずに、挙げ句に心にない言葉を投げられ非難させられる。そんなの辛いに決まっちょる。リサはずっと我慢し続けてきて頑張ってきた。立派だよ。誇らしいよ。でもリサだって一人の人間やし、弱さがある。その弱さを時には見せてもええんよ。それは決して恥ずかしいことじゃないんじゃけぇ」

 

リサ「うん……」

 

リョウ「溜め込んでばかりじゃ、いつか決壊してしまうけぇな。だから今だけは、吐き出してもしまってもええよ。わし相手やったら何でも言えるじゃろ?」

 

リサ「………辛い。辛いよ。何で、あたし…こんなに、嫌われなきゃいけないの…?」

 

抱き締められ少し驚いていたが、幼い頃から世話になっている恩人の温もりに安心し即座に受け入れた。

そして優しい声色で語られた、我慢する必要はないという言葉に、リサの緩んでいた涙腺は遂に崩壊した。

 

リサ「あたしのやってることって、間違ってるのかな?あたしは…幸せになるのを望んじゃいけないのかな?」

 

リョウ「何も間違ってなんてない。幸せを選ぶ権利は誰にでもある。リサは今、幸せになるために戦っている。世評や誹謗中傷も気にせず、世界を救うために、愛する存在である愛莉とカイのために戦っている。リサの年齢でそれを実践出来ているのは凄いことや。普通ならとっくに心が折れちょる。気高く立派じゃ。わしは愛する者のために全身全霊をかけて戦っているリサを誇りに思うで。最初に決めたことを曲げず貫き通すその姿勢は立派やから、自信を持って、今まで通りやりたいことをやればいい。誰が何と言おうと、リサの考えも行動も否定させはせぇへん。わしは何があっても、リサの味方じゃ」

 

リサ「うん…ありがとう」

 

リョウ「今日くらいは我慢せんでもええ。泣きたい時は泣けばいい。弱さを見せるのは何も恥ずかしいことじゃない。それは誰にだってあるものなんやから」

 

その言葉を最後に、リサは今まで溜め込んできたものを吐き出すかのように、嗚咽しながら涙を流した。

溌剌とした普段の様子が嘘のようで、今にも壊れそうで儚い。

 

宥めるように抱き締めながらリョウは過去のことを思い出していた。

ルシファーと共に闇の聖剣、ティルフィングを手にするために戦った少女、エニュオのことを。

 

復讐と言う愛の形もないものだが、彼女もまた、リサと同じように世界を蝕む存在を殲滅するために戦っていた。

だが、ティルフィングの闇に呑まれた彼女の強大な力と獰猛な姿を見た人々は、彼女こそが魔物ではないのではないのか、魔物を滅ぼした後は人間も皆殺しにするのではないだろうかと思い始めた。

根も葉もない噂が吹聴され、世界中の人間が彼女を指弾し排除しようと武力を行使した。

ティルフィングの闇の影響も大いに関与しているだろうが、世間からの酷評と罵詈雑言により負の感情が高まり狂暴な性格となったエニュオは自身の邪魔をする者を容赦なく斬り伏せていき、最終的には世界を滅ぼす結果となった。

 

恐ろしいのは、根も葉もない噂だろうが、世間に大きく広がり周知されれば、真実となってしまうこと。

例え誤りだとしても、皆が賛同して正論だと唱えれば、嘘も真実へと変わり果ててしまう。

 

リサもエニュオと同様に有りもしない話が肥大化したことにより被害を受けている。

挫けず心が崩壊しなかったのは、エニュオと違い理解者や彼女を支える存在がいたからだろう。

エニュオの復讐という憎悪から生まれる目的に対し、愛する存在と平和な時を過ごしたいという愛に満ちた目的があったからこそ、今現在でも戦い続けられている。

 

もしリサに寄り添う存在がいなければ、エニュオのような憤怒、悲哀、憎悪を抱き感情のままに力を振るう悲劇の存在へと成り果てていたかもしれない。

 

リョウ(……決して悲劇になんてさせへんようにせんとな。リサの両親を守れなかったのも、非日常な生活に巻き込んだのもわしの責任なんやから、せめてこの子だけは、幸せな人生を歩んでほしい)

 

リサの幸福を願い、可能な限り寄り添い守る決意を更に固め、胸の中で涙を流すリサを抱き締め頭を撫でた。




体内時計ってホンマにあるんやな~って感じる今日この頃…年のせいですかね~(^^;)
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