ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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めっっっちゃ遅れましたが、明けましておめでとうございます!


第107話 崩壊の嚆矢

時間というものは瞬く間に過ぎていくもので、夕刻も終わりへ差し掛かっていた。

ヒグラシの鳴き声だけが寂しく鳴る黄昏時、カイは飲まず食わずでその場に蹲っていた。

絶えず訪れる喰人欲求を抑え込むのに全神経を集中させるのが精一杯で身動きが取れずにいる。

 

人を喰らうことを金輪際しないと自身に誓い、リサと愛莉という優しくお人好しな人間と暮らすことを決めたあの日から人肉は一切口にしていない。

ピシャーチャという異形の怪物の闇を摂取することで解決していたが、まさか自身の本能が限界を迎えていたなどとは夢にも思わなかった。

 

人を喰らわなければ、人肉を求め彷徨い歩き、見つけ次第老若男女無差別に貪り喰らうだけの理性を無くした怪物へと成り下がる。

喰らえば食欲は抑制され、アルシエルの言葉が本当ならば、更なる力を得ることができ、リサの補助に も繋がる。

だが後者を選択すれば、終止符を打った禁忌を再び犯すこととなり、信任を失うどころか、リサを失望させることになりかねない。

最悪空腹により死ぬ可能性もあり得るのだが、リサや愛莉のためにも、人間を喰らうことだけは避けたい。

幾度も逡巡するも、解決策には至らない八方塞がりな状態に心が折れそうになる。

 

カイ「はあ…はあ…くそっ…!」

 

「おい、今向こうの方で声がしなかったか?」

 

「見に行ってみるぞ」

 

窮地に立たされ、誰かに向けて放たれたわけでもない悪態は、何者かの耳に入っていたようだ。

茂みを掻き分ける音が近くなる。

足音からして人数は5人と想定できる。

 

蹲った状態でいるわけにもいかなくなったカイは立ち上がり臨戦態勢に入る。

それとほぼ同時に、茂みの中から銃を携え軍服を着た人間が5人が姿を現した。

 

「こいつ、巷で噂の『災厄の魔人』と一緒にいる奴じゃないか?」

 

「報告にあった存在と合致しているな。撃ち殺せ!」

 

昨日の祭事で『災厄の魔人』、リサが街中に出没したこともあり、ピシャーチャと同様に放置するには非常に危険と判断を下した軍が行動を開始し始め、近辺を探索していた。

小編成で組まれた部隊が偶然にもこの場を通過したところ、カイを発見し、有無を言わさず装備してあった機関銃を構え発砲した。

 

銃口から火を吹き放たれた銃弾を黙って受けるわけもなく、乱れた呼吸を繰り返しながらも闇で巨大な腕を生成し全ての銃弾を弾き飛ばす。

手を膝に起きながらも立ち上がり、自身を討とうとしている敵へと視線を向ける。

瞳に宿っているのは敵意ではなく、餌を見つけた獣のそれと全く同じで、眼光炯々としている。

人肉と闇、今求めていたものが探さずとも向こうからやってきた僥倖に、本能と喰らえと言わんばかりに喰らいたいという欲求を刺激する。

口から涎を滴り落としながら、文字通り垂涎の的へと歩みを進める。

 

カイ「はあ…はあ…喰らいたい。だけど……」

 

本能と爆発寸前の欲求に抵抗している意志が喰人行為を拒み止めようと抗っている。

リサと愛莉と暮らすために課せられた契りを守るために、失望させないために、強固なる信念により体を動かすのを阻止していた。

 

「我々だけでは処理できない!応援が必要だ!」

 

「此方捜索部隊第四班!『災厄の魔人』の仲間の怪人を発見!至急応援を頼む!」

 

「応援が来るまで持ちこたえるぞ!撃てー!!」

 

鉛玉を幾ら撃ち込もうと無意味だと思わぬ軍人達に撤退という二文字は存在しないらしく、再度銃を構える。

カイの急所に向けられた銃口から火が吹き銃弾が放たれるも、先程と同様に闇により阻まれ肉体に直撃することなく、防がれた弾は虚しく地面へと落ちていく。

 

カイ「くそっ!応援なんて呼ばれたら…頼むぜ俺!耐えてくれ!」

 

応援を呼ぶということは、カイにとって欲を満たすための餌が増えるということ。

現在は5人という少人数であるから喰人したい欲をなんとか抑えられているが、増援が来て人数が増せば、本能が打ち勝ちこの場にいる全員を喰い殺してしまうかもしれない。

逃亡という手段も浮かんだが、欲を抑制するのに集中しているせいか、硬直寸前並に体を動かすことすらままならなかった。

 

出来ることは、防戦一方。

絶望的な状況を乗り切れるのを、存在するかも分からぬ神に祈念する、運否天賦しか出来なかった。

果たしてこの決断が吉と出るか凶と出るか、答える者は誰一人として存在しない。

 

 

~~~~~

 

 

逢魔時も疾うに過ぎ去り、夜が世界を支配していた。

不気味に微笑むような三日月と星空が漆黒の夜空に煌めきを与えている。

自然が創造する陶酔しそうな美景に目も暮れず、リサは只管に地を駆けていた。

手掛かりも無しに朝から捜索するために走り続け、ようやくカイの気配を察知することができた。

山頂から周囲を見渡しいたところ、数キロ離れた場所で小規模だが爆発を視認した。

何者かが戦闘しているのは明らかで、即座に足を動かし接近していくと並行するように、闇の気配も徐々に高まっていき肌をピリピリと刺激していく。

何度か感じたことのある闇を放つ正体は間違いなくカイだと断定できたリサは足に力を入れ加速、爆発が起きた場所へと急行する。

 

リサ「カイ!……っ!!」

 

茂みを払い開けた場所に辿り着いたその場に、カイの姿は確かにあった。

カイの安否を確認し喜びに浸りたかったが、周囲の惨状を目にして、歓喜する暇は瞬時に消え失せた。

 

人間の引きちぎられた腕や足、切断された箇所から飛び散る臓物、胴体から分離された頭部等が散乱し、何十人もの鮮血が地面を赤一色に染め上げていた。

言葉にして表すなら、正に地獄だろう。

筆舌に尽くしがたい無惨な光景の丁度中心にカイは仁王立ちしていた。

吐き気を催しながらも息を呑み、背を向き表情の見えぬカイに声を掛けようと恐る恐る接近を試みる。

 

カイ「……………」

 

慎重に一歩ずつ接近しているというのに、一切の反応を見せない異様な雰囲気を醸し出しているカイに不気味に思いながらも遂に声を掛けようと口を開く。

 

リサ「…カイ、あんた、っ!」

 

発言した直後、押し倒される勢いの殺意を感じ取り反射的に後方へと飛び退いた。

直後、闇で生成された幾つもの小さな腕がリサがいた場所へと降り注ぎ地面を抉り取った。

 

無防備だと確実に死を免れない攻撃。

本気で相手を殺す、一切の容赦の無いものだった。

 

リョウの予測が現実味を帯び、嫌な予感を察知しながらも着地し身構える。

 

カイ「ふーっ……ふーっ……ぐううぅ」

 

振り返ったカイの口元からは涎が垂れており、今にも狩り殺そうとする鬼気迫る眼光は野獣そのもの。

目の前にいるリサという人間を餌と捉えているとしか思えなかった。

 

リサ「……本能に抗えなかったってこと、だよね」

 

現実だと受け入れたくないが、カイの現状を見ると、人肉を求め見境なく襲い掛かる妖怪へと成り下がってしまったとしか決断せざるを得ない。

いつか訪れる結末だったのかもしれないと当初から胸騒ぎはしていた。

覚悟を決めてアガートラムを構えようとしたが、ふと地面に散乱する無惨な遺体を見て気が付いた。

 

どの遺体にも、噛まれた痕跡がなかった。

人肉を喰らうためならば、相手の肉体に噛み付かねばならない。

噛み付いた場合、当然歯形が痕跡として残る。

だが散乱したどの部位にも歯形が見当たらなかった。

確認できるのは、鋭利な物で斬られた、強力な打撃により粉砕された、無理矢理引き千切られたようなものばかりで、補食のために行われた行為とは思えない跡ばかりだった。

 

リサ「まさか、補食のためじゃなくて、自衛のために力を振る舞っていた結果、本能に呑まれたってことなの…?」

 

心優しきカイならば、余程の事が無ければ自主的に人間を攻撃はしない。

当の本人に質問したところで返答があるわけではないため推測でしかないが、カイは自分に危害を加えようとした人間に対し自己防衛のために力を振るった。

しかしその途中で自我を保てなくなり、追い散らすだけの筈だったが殺害してしまった。

空腹も限界を突破していたにも関わらず、カイは決して喰人行為をしなかったのは、リサと愛莉と暮らすからには人は決して喰わないという不退転の決意が心に根付いているからだろう。

 

リサ「……ふふっ、カイらしい」

 

自我を失っても、カイはカイのままで、不撓不屈な精神や剛直なところに変化はないのだと想い、思わず口角が緩む。

 

リサ「尚更、助けなくちゃいけないね!」

 

善良な心の根幹は完全に消え失せてはいない。

不確かで不明瞭かもしれない。

だが、一縷の望みがあるのならば、諦めたくはない。

これまでも闇をどう摂取するか熟慮し試行錯誤を重ね解決できたのだから、今回も何か良い方法がある筈。

僅かな希望を胸に、干戈を交えるためアガートラムを構え戦闘態勢に入る。

 

リサ「さあいくよカイ。あたしなりのやり方で救ってみせるから!」

 

 

~~~~~

 

 

アルカディア「ごめんなさい、少し遅れたわ」

 

アシュリー「まさかこの世界に奴が現れるなんて…リサと愛莉ちゃんは?」

 

リョウ「向こうのことは心配いらへん。今はこの化け物を始末することだけを考えよう」

 

ライトニングアルカディアに変身した状態の結愛とアシュリーが到着した頃には、既に街であった場所は瓦礫の山と成り果てていた。

怪物、ヴィラド・ディアはリョウ達の存在を察知したようで、巨大な口を開け地を揺らし轟かせる咆哮を上げた。

周囲に人がいないのを確認できるあたり、建物の崩壊に巻き込まれ埋もれてしまったか、ヴィラド・ディアに喰われ存在自体を抹消されたのだろう。

地面や空中に亀裂が見えており、幾つか空間の裂け目が出来上がり亜空間が顔を覗かせているのを見ると、世界の崩壊が進行しているのだと嫌でも知らされる。

 

ピコ「いつ見ても恐ろしい光景だね…」

 

リョウ「事前に奴の襲来を察知出来なかった自分が不甲斐ないわ、ホンマに」

 

アルカディア「後悔するにはまだ早いわ。崩壊は始まったばかりだし、今阻止すればまだこの世界は救えるわ」

 

アシュリー「絶対に倒そう。リサちゃんや愛莉ちゃんのためにも」

 

リョウ「…そうやな。二人が幸せに過ごすこの世界を、守らんとな」

 

もう二度とリサを不幸な災難に合わせたくはない。

一度とならず二度までも幸福で満たされていた生活が破滅させるわけにもいかない。

二度と轍を踏むなと自身に言い聞かし、アルティメットマスターを抜刀した。

 

ピコ「リョウ、分かってると思うけど『力』は使わないようにね」

 

リョウ「あぁ、善処する!」

 

大地を揺るがす勢いでその場を強く蹴り、大顎を開き突進してくるヴィラド・ディアに真正面から激突する。

剣と鉤爪の衝突により、隕石が直撃したのではないかと錯覚する程の衝撃波が起き、周囲の地面や岩石、建物だった瓦礫が四方八方へ飛んでいく。

砲弾にも近い障害物を掻い潜るようにピコ達も地を走りヴィラド・ディアと交戦を開始する。

 

 

~~~~~

 

 

リサに言われた通りに大人しく留守番をしていた愛莉はテーブルの上に広げた画用紙にクレヨンで絵を描いていた。

 

愛莉「あっ…」

 

使用していた緑色のクレヨンの先端が折れてしまった。

特に力を込めていたわけでもなかったので、定年の劣化によるものだろう。

そうなのだろうが、愛莉の心には不安が広がっていく。

 

愛莉「おかあさん……」

 

絶対にカイを連れて帰ってくると約束した。

僅かな時間の間孤独の寂しさを耐えきればいいだけ。

だが愛莉は三歳という何処にでもいる三歳の女の子、一人で留守番をするだけで寂寥感が心を満たすのは当然だろう。

 

だが現在の愛莉にとって不安なのは孤独なことではなく、リサがもう帰ってこないのではないかということ。

必ずカイを連れて帰るという約束を果たすことに絶対の信頼をしているが、何故かもう二度と会えないと直感が告げており、気掛かりでしかなかった。

 

愛莉「……ううん、ないちゃダメ。ダメだよ。わらってるってやくそくしたんだもん」

 

目頭に昇ってきた涙を引っ込め、指で口角を上げ無理矢理にでも笑顔を作ってみせる。

リサはいい加減な点は見られるも、大事な約束は必ず果たしてきた。

ならば自分も応えられるように、リサとの約束を守ろうと泣くことを必死に堪える。

 

愛莉「おかあさんとカイはぜったいにかえってくる!スマイル、スマイル!」

 

大好きな母と、お人好しな妖怪を笑顔で迎えられるように、喜んでもらえるために再びクレヨンを手に取り画用紙に彩りを付けていく。

 

 

 

愛莉はリサとの約束を守るために、侘しさに屈せず涙を流さず、笑顔で迎えられるように利口に留守番をしていた。

 

リサは愛莉と交わした約束を果たすため、カイの暴走を止めるため、全力を尽くし望まぬ戦いを繰り広げようとしていた。

 

リョウは仲間達と共に守るべき親子のために、命を投げ捨てる覚悟で世界を崩壊へと誘う怪物を殲滅しようとしていた。

 

 

 

一方その頃、アレクは十字のツメ(3日徹夜した自作)を食い込ませて洞窟の壁や天井を這いまわっていた。

 

アレク「ごごぼっ ごぼぼぼ!」

 

 




私が趣味で書いてる小説を読んでくださっている読者の皆様、今年も『ユグドラシルメシア』をよろしくお願いします!
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