アイリ「ふわぁ~、あふぅ。 気持ちの良い朝だね~」
朝の暖かい日差しを浴び目を覚ましたアイリは上体を起こし、大きな欠伸をし背を伸ばした。
前日のグニパヘリル兼フサキノ研究所の調査で疲れきっていたせいか、アイリは入浴を済ませ自室へ戻り、30分も経たない内に就寝してしまった。
普段からゲームや読書等で夜遅くまで過ごす不規則的な生活を送っており、睡眠時間を録に取ってはいなかったため、久々の長時間睡眠をとり、夢を見ることなく朝まで快眠することができたアイリは朝の暖かい日差しを浴び目を覚ました。
背伸びをしながら大きな欠伸をし、薄緑色のカーテンを開いた。
陽の光が部屋に差し込み、まだ慣れていない光に目を細めた。
アイリ達が住む家は天空に浮遊する島にあるため、窓からは天界の都市、シェオルの街並みが一望でき、正に絶景という言葉が何より似合う景色だ。
アイリ「良い天気~♪ でも朝はちょっとばかし冷えちゃうな。 今日はどんな修行するのかな~…ん?」
朝の冷え込みが体に染み渡ってきたため、ベッドの側にあるポールハンガーに掛けてある上着を羽織ろうと手を伸ばしたところで、とある違和感に気が付いた。
先程まで自分が寝ていたベッドの掛け布団が丁度アイリが横に寝て足の爪先にあたる場所が、まるで誰かが中に入っているかのように盛り上がっていた。
アイリ「え、何々? まさか、中に伽椰子が入ってるんじゃ………」
晴れ渡る様な清々しい気持ちは一変、黒い雲が掛かったかのような曇天へと切り替わった。
恐る恐る近付き、布団の中にいる正体を暴くために腕を伸ばしていく。
朝起きて早々アイリは(妄想のせいで)ホラー映画並みの恐怖を体感し震えている。
アイリはホラー映画を観たりホラーゲームをしたりするので耐性が付いているのだが、いざ実際に目の前で恐怖体験を味わってしまうと身が縮こまってしまうようだ。
勇気を振り絞り掛け布団を掴み、勢い良く引き剥がし中にいる何者かを確認した。
アイリ「…へ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
そこにいたのは、水色と白を基調としたエプロンドレスを着ており、白と黒のストライプのニーソックス、頭には水色のリボンが付いたカチューシャを付けた金髪のロングヘアーの少女だった。
アイリとほぼ同年齢と思われる少女は掛け布団を捲られた事に気が付くことなく小さな寝息を立て身を丸くし眠っている。
アイリ「ダリナンダアンタイッタイ…。
取り敢えず、素数を数えて落ち着いてリョウ君を呼んできた方がいい、よね?」
突然の出来事に内心かなり焦ってはいたようだが、自分自身を落ち着かせるため深呼吸をし、「1、2、3、5、7…。」と素数を口籠りながら音を立てぬよう扉を開きリョウの部屋へと忍び足で向かい始めた。
一応言ってはおくが、1は素数ではない。
~~~~~
リョウ「………ん、寝てたのか。」
世界の監視を続けている内に知らぬ間に眠りに就いてしまっていたようだった。
腕を枕にし、机に突っ伏していた顔を上げ腕時計に目を移し時刻を確認すると、時計の針は10時を示していた。
いつ眠りに落ちたのかは不明だが、起床するにしては遅い時間だった。
リョウ「もうこんな時間か。 さて、と…」
今日一日の行動を開始すると共に、まだ寝ていると思われるアイリを起こすためゆっくりと椅子から立ち上がった。
眠気が未だ支配している体を無理矢理動かし、上着を羽織り部屋を出ていこうとした刹那、扉が力強く執拗に何度も叩かれ、静寂に包まれていた部屋は騒々しい音が響く。
扉を叩く張本人が誰だか察しが付いたリョウは溜め息混じりに扉の向こう側にいる人物へと話し掛けた。
リョウ「朝っぱらからどしたんやアイリ?」
アイリ「え、何であたしだって分かったの!? もしかして、エスパータイプ!? エスパー魔美? エスパー伊東?」
リョウ「残念ながらどれも違うな。 んで、何かあったの?」
アイリ「それが大変なんだよ! 空から…じゃなくて、朝起きたらあたしのベッドに見たことない女の子が寝てたんだよ!」
リョウ「ほぉ、キマシタワーが建設されたのか」
アイリ「あたしはそっち系のは見たことあるけど興味はなーい! 取り敢えずあたしの部屋に来てよー!」
リョウ「昨日はデリカシーないとか言ってたくせに。 はぁ~、悪い夢を見たようじゃなさそうな感じやし、分かったよ、行ってみるよ~。」
起きたばかりの面倒事を済ませるために嫌々ながらも扉を開けアイリと顔を合わせる。
アイリ「ほらリョウ君! 急いで!」
リョウ「まぁ落ち着けって。 その女の子は寝てるんやったらすぐには消えたりなんかはしないよ。
ほら、深呼吸して。」
アイリ「ヒーヒーフー」
リョウ「それラマーズ法じゃねぇか」
アイリ「流石リョウ君! どんどんツッコミスキルが上昇してきてるね!」
リョウ「誰かさんのせいでね~」
アイリとの絡みを適当にあしらい一階へ続く暗い階段を昇り始めた。
壁や階段はコンクリートで造られているため、冬場は特に氷の様に冷たくなり、周囲の気温も極度に低くなるため上着なしでは風邪を引きそうな寒さになる。
今は冬ではないとは言え、コンクリートが冷えきっている事に変わりはないため、落ち着きつつも内心かなり慌てていたアイリは部屋を出る際スリッパを履いていなかったため、一階へ行くまで爪先立ちで階段を昇っていた。
一階へと着いたリョウは窓から射し込める今日初めて浴びる暖かな陽の光に目を細めながらも二階へ続く螺旋階段を昇っていき、アイリの部屋の前まで辿り着き、特に警戒することもなくドアを開け部屋を確認する。
リョウ「ちわー三河屋でーす。 ん…げっ!? こいつ、何で…」
リョウはベッドで小さな寝息を立て眠る少女を見て頭を押さえた。
同時に何処か嬉しそうに微笑んでいた。
アイリ「リョウ君の知り合い?」
リョウ「あぁ、結構長い付き合いになる仲間でね。 おいアリス! 起きろー!」
一度咳払いをし、寝ている少女、アリスへ部屋中に響くような大声で呼び掛けた。
アリス「すぅ~…すぅ~」
ありったけの大声で呼び掛けたにも関わらず、起きる気配が全くと言っていいほどなかったため、リョウは肩を落として落胆していた。
リョウ「くそ、やっぱりこの程度じゃ起きないか。 こうなったら…」
リョウは腕の服を捲り、アリスの両足をしっかりと強く掴んだ。
リョウ「そーい!」
まるで柔道の投げ技である背負い投げの様にアリスを持ち上げ、勢い良く床へと叩き付けた。
アリスは後頭部から床に直撃し、硬い物がぶつかるような鈍い音が嫌でも聞こえてしまった。
乱暴且つ大胆すぎる行動に、アイリは口をあんぐりと開け衝撃的すぎるダイナミック目覚ましの一部始終を見ていた。
アイリ「ちょ!? だ、大丈夫なのこの人!? 頭からいっちゃったよ!? 頭がパーンだよ!?」
リョウ「手荒な真似はしたくなかったんやけど、こうでもしないとこいつ起きないからねぇ」
アイリ「下手をしたら一生の眠りに就きそうだよ!」
アリス「う~ん……ん、朝ぁ?」
アイリ「うわ、ホントに起きたよ!」
アリスと呼ばれた少女は大きく背伸びをし、上体を起こし乱れた髪を手でほぐし直していた。
リョウ「さて、何でお前がここにいるんだ?」
アリス「んぁ? …あ、リョウじゃん! 久し振り~! 元気にしてた!?」
アリスはリョウの顔を見るなり、起きたばかりの眠そうに細めていた目がくわっと開かれ、向日葵の様に咲き誇った笑顔を浮かべ立ち上がり、リョウの手を掴み高速で上下へ振り喜びを表していた。
リョウ「わしに会えて嬉しいのは分かったから、早くこの手を止めてくれ。 腕が痛いよ」
アリス「わっはー! こうして会うのっていつぶりだろうね! 私嬉しくて山を破壊しちゃいそうだよ!」
リョウ「アリスが言うと洒落にならんからやめてくれマジで」
天真爛漫で明朗快活なアリスのハイテンションに着いて行けないリョウは若干引き気味だ。
だがそれはリョウだけに限らず、後ろで待機していたアイリも苦笑いを浮かべている。
リョウ「んで、何でここいいるんだ?」
アリス「えっとね、色々あって、斯々然々…」
リョウ「これこれうまうま、全くもって分からん!」
アイリ「えーっと、取り敢えずどんな人なのか教えてもらいたいなーって」
リョウ「あぁ、そうやな。 リビングで珈琲でも飲みながら説明しようかね」
アリス「オッケーオッケー! 私お腹空いちゃったからパンもお願いね!」
リョウ「お前は早速人の家に来て物を集るのかよ」
アイリだけが今現在の状況を読み込めていないようだが、リョウの知人ということで怪しい人物ではないと認識した。
話の場を変えるため、リビングへと場所を移した。
リビングに入りリョウが珈琲を淹れようとキッチンへ向かおうとした時に、ソファーに横になり寝ている人物が目に入った。
毛布に身をくるみ鼾をかきながら爆睡している眼帯を付けた少女、睦月だ。
アイリ「あれ? ムッキーまだいたの?」
リョウ「昨日アイリが寝た後もずーっと酒飲んでたんだよ。 やれやれ、後で結愛にぶたれても知らねぇからな」
アイリ「みさえ並みの拳骨待ったなしかもだね」
~回想 前日の夜~
睦月「さぁーて! 任務完了を祝しまして飲もうじゃねぇか!」
睦月はポーチの中からラベルに『出羽桜』と表示された一升瓶を取り出しテーブルに置き、続けて御猪口も取り出した。
リョウ「今から飲むのか? 本部に戻るんやなかったんかい?」
睦月「飲んでから行くぜ。 本部に戻ったら報告やらで今日飲む時間がなくなっちまうからここで飲むんだよ。 大丈夫だよ、ちょっとだけだ」
リョウ「…程々にしとけよ」
~10分後~
睦月「…でよ、結愛の野郎俺が仕入れてきたばかりのDSR-1のスコープを壊しちまったんだよ!」
リョウ「へぇーそうなんや(棒読み)」
睦月は御猪口に入った日本酒を口に流し込み、お菓子などが纏められてある棚にあったスナック菓子のいか天を食べながらマシンガントークを続けている。
酔いが回ってきたのか、睦月の頬と耳は赤く染まっている。
リョウは仕方なく睦月の愚痴を聞く羽目になり、適当に相槌をうち酔っ払いの相手をしていた。
~30分後~
睦月「結愛ったらよぉ、俺のぉ、下着見て子供っぽいとか言ってくるんだでぇ。 どう思うよリョウ? 今日の~、俺の下着見てみろ~。 子供っぽく見えるかよぉ?」
リョウ「いちいち自分で見せるような事せんでええわ」
更に飲み続けた睦月は完全に酔っており、呂律が回らなくなっている。
テーブルから身を乗り出すような体勢で、羞恥心を全く感じていないのか、自分でシャツを捲りリョウに下着を見せている。
リョウは下着を見たところで、羞恥の感情はあるようだが、殆ど気にしていないようで、赤面したりテンパったりしたりすることはなかった。
リョウ「睦月ももうちょい恥じらいってのを持てよ」
睦月「戦場に! 恥じらいなんて! 必要ねぇんですよ~! もっと飲んじゃうぜ~! のまのまイェイ!」
リョウ(駄目だこいつ…早くなんとかしないと…)
~更に30分後~
睦月「zzz…」
一升瓶を飲み干し酔い潰れた睦月はテーブルに突っ伏し鼾をかき眠りに落ちた。
リョウ「程々にしとけ言うたのに寝てしもうたな。 本部に帰らないといけんかったのにええんかいね。 後で結愛に怒鳴られてもしらねぇからな。」
リョウはコップに注いだ麦茶を飲み干し一息付くと、腰を上げ睦月の体を横抱きの形で持ち上げた。
同年代程とは思えない軽い体を抱き上げソファーへと行き横に寝かせ、毛布を掛けた。
小さな寝息を立て眠るその姿は普通の少女と何ら変わりはなく、いつもの荒々しい態度でいるのが嘘のように思える。
リョウ「さーてと、酔っ払いの世話も終わったことですし、わしも風呂に入るかな」
まるで戦闘でもしていたのではないかと思うような疲れが途端に体全体を襲い、肩が前に落ち猫背になったリョウは重い足を動かし浴室へと向かって行った。
~回想終了~
リョウ「まぁ睦月はほっといて二人は席に着いててくれや」
アイリ「あたしはジュース! どろり濃厚ピーチ味!」
アリス「じゃあ私はヤシの実サイダー!」
リョウ「架空の飲み物を言われても出せないっつーの」
アイリとアリスの珈琲を淹れリビングへ向かい、布製のコースターを敷きカップを置いた後に棚から適当に漁り取ったクロワッサンが入った袋を手に取り、取りやすいよう袋を破りテーブルへと置き、朝食の準備を済ませたリョウは漸く席に着いた。
アイリは早々にカップに口を付け珈琲を飲み始めた。
アイリ「ぷっはー! くうううぅぅ! やっぱ人生、この時のためにあるようなもんだよね!」
リョウ「酒飲んでるわけでもねぇのにそりゃ幸せなこった」
アリス「おぉ~クロワッサンだ! そんじゃ、いっただっきまーす!」
アリスはクロワッサンを手に取り口へと運んだ。
口いっぱいに頬張り美味しそうに食べるアリスを見ていると腹の音が鳴り始めたため、二人もパンを食べ始めた。
リョウ「んで、何でアリスがここにおるわけ?」
アリス「もががふむへほひひにょみめほひゃむ」
リョウ「口の中にある物を飲み込んでから話せ」
アリスはカップを両手で掴み、淹れて間もない熱々の珈琲を息継ぎせず全て飲みきり、口の中にある物を胃の中へと流し込んだ。
アリス「えっとね、亜空流に身を委ねてたら偶然にこの世界に出てきちゃって、着いたと同時に睡魔に襲われちゃったからすぐ側にあったベッドに入って寝ちゃったってかんじ」
リョウ「ちゃっかり不法侵入してるやんけ」
アイリ「昨日の夜からいたなんて気が付かなかったよ。
あたしに気付かれずに潜り込むとは、グレートですぜこいつはァ 。 ところで、亜空流ってなに?」
リョウ「説明しよう! 亜空流とは、世界と世界の狭間に生じる時空の歪みが原因で発生する嵐の事であ~る!」
アイリ「ネタっぽい説明ありがとう。 亜空間みたいなのって本当に存在してたんだね。 亜空流って凄い嵐みたいなもんなんでしょ? 巻き込まれるのってヤバいんじゃないの?」
リョウ「本当なら滅茶苦茶ヤバいよ。 でもアリスなら問題ないやろなぁ。 いや、アリスだからこそ身体に負荷が掛からないのかもしれないな」
アリス「私強いからね! 私頑丈だからちょっとやそっとじゃ傷付かないよ。 亜空流なんてそよ風みたいなもんだよ。」
クロワッサンを口にくわえながら自慢気に大きく胸を張る。
くわえたクロワッサンを食べ終えると、アリスはアイリに視線を移し、興味の眼差しでじっと顔を見据えた。
アリス「そうそう気になってたんだけど、この女の子は誰なの? リョウの彼女?」
リョウ「ちゃうちゃう。 この子には色々あってだね…」
リョウはアイリが転生したことについての経緯を簡潔に話した。
リョウ「…という出来事があって、人間から天使に種族が変わってしまったんだ」
アリス「一種の転生みたいなもんなのかもしれないね。 そっか~。 不慮な災難に遭っちゃったんだね。
やっぱり、辛かったよね」
アイリの身に起きた出来事の内容の全てを聞いたアリスは表情には出ていなかったが、先程までハキハキと元気良く話していた明るい声ではなく、アイリに起きた不幸を痛感し心が沈んだ様に小さくなっていた。
アイリ「アリスちゃん、心配してくれてありがとう。 その時の事は詳しくは覚えてはいないけど、凄く大変な事に巻き込まれてあたしは人間じゃなくなっちゃったけど、今こうして人間だった時みたいに普段通り過ごせてるから問題ないから大丈夫だよ。 リョウ君には言ったけど、普通じゃ絶対にあり得ないような体験をしてるわけだし、今こうしてファンタジーみたいな出来事を目で見て肌で感じ取ったりできているから、苦ではないよ。
あたしを支えてくれる人達もいるからね」
アイリは隣の席に座るリョウに視線を向け悪戯のようにウインクをした。
気恥ずかしくなったのか、リョウは少し微笑むと即座に目線を逸らした。
アリス「自分的に後悔していないのなら良いの…かな?
暗い気持ちになってなくて良かったよ!」
目線を落としていたアリスは再びアイリに視線を向け笑顔を浮かべた。
アリス「あ、そういや私の自己紹介をちゃんとしてなかったね!」
アリスはテーブルに手を置き自らの体を支えるようにしその場から跳び上がり、空中で体を華麗に一回転させ両足で椅子に着地した。
アリス「私の名前はアリス! 数々の世界を渡る自由を愛する旅人で、時空防衛局の人達からは『世界の放浪者』って呼ばれたりすることもあるよ!」
アイリ「旅人さんか~。 世界を渡っている旅人なんて、ディケイドみたいだね! 次はあたしの番だね、あたしの名前はアイリ! 天使になりたてほやほやの元人間の美少女だよ!」
手を差し伸べたアイリの手をアリスは嬉しそうに出された手を握り返し、先程のリョウにしていた様に縦に大きく振り始めた。
やはり勢いが強かったせいか、手の動きが止まったアイリは苦笑いしつつ手首を回し痛みを和らげていた。
アイリ「世界を次から次に渡り歩くのって凄いなぁって思っちゃうけど、放浪者って呼ばれてるくらいなんだから、働いていないニートなんじゃ?」
アリス「もぉー人聞き悪いよアイリ。 私には旅人って言う名の素ぅん晴らしい職業があるんだから!」
リョウ「そういうのをニートっつーんだよ」
アリス「はて、そうだっけ?」
アリスは頭の後ろに両腕を回し、口を尖らせ吹けもしない口笛を吹いている。
アイリ「特に用があるわけで来たって訳じゃないなら、すぐにまた別世界に行っちゃうの?」
アリス「う~ん、どうしよっかな。 目的がある旅じゃないし、久し振りにリョウにも会えたことだし、暫くはこの世界に滞在しよっかな。 あ、お金ないからここに泊めさせてくれるよね? 答えは聞いてない!」
ウインクしつつ人差し指をリョウに突き付け朗らかに言った。
リョウ「まぁ一人くらい同居人が増えるのはわしは構わへんよ。 それより、ええ加減に宿に泊めれるほどの銭を持つようにしろよ。 毎回家か別荘に金を置いてきてるだろうが。」
アリス「よっぽどの事がなければお金なんて使うことないんだも~ん」
アイリ「そうだよリョウ君。 少しのお金と明日のパンツがあれば生きていけるんだから」
リョウ「それができるのはライダーだけだっつーの」
アリス「リョウ達は今日は予定あったりするの? 私は予定なかったらこの世界をぶ~らぶらしようと思ってるところなんだけど」
リョウ「わしは今日はアイリを鍛えようと思っているから空いてはいないかな」
アイリ「え~、リョウ君、今日は休もうよ。 昨日はあんなに忙しかったんだからさ~」
リョウ「修行を怠ってはいけんよ。 強くなりたければ日々努力し精進せんとあかんからね」
アイリ「そうだけど~…。 うーうー。うっうー」
リョウ「そのうーうー言うのをやめなさい」
アイリ「でも、頑張るって決めたのは自分自身なんだから、気合い、入れて、行きます!」
自分の決めた事を最後までやりきろうとする決意を見せ、自身の頬を叩き気合いを入れるアイリを見て、リョウは小さく笑みを浮かべ頷き、珈琲を飲み干したティーカップを持ち席を立ち上がった。
リョウ「んじゃまぁ早速始めようやないか。 アイリの気持ちにわしも全力で答えんとあかんからなぁ」
アイリ「ありがとうリョウ君!」
屈託のない笑みを浮かべアイリは珈琲を飲み干したティーカップを持ち、流し台でかるく濯ぎ水を溜めてから置き、元気良くドタドタと足音立てつつ走り自室へと戻っていった。
アイリ「着替えてくるから庭で待っててね!」
螺旋階段を勢い良く駆け上がる足音と、アイリの部屋の扉が閉まる音が玄関ホールに響き渡った。
アリス「朝から元気な子だね」
リョウ「人の事言えないやろ。 あの明るいところがアイリのええところなんよ。 何て言うのかな、暗い気持ちとかそういうのを吹っ飛ばしてしまうみたいな、わしまで明るい気持ちになっちゃうんだよな」
アリス「素敵な魅力があるんだね。 まるで私みたい!」
リョウ「へいへい、そうですね」
アリス「む~、全然思ってなさそうな言い方しちゃって。 私、怒っちゃうよ? っていうか冗談半分で怒ってるよ」
小さい子供の様に頬を膨らませ腕を組み可愛らしく怒りを表すアリスを見てリョウは手を出し怒りを制した。
リョウ「悪い悪い、わしも冗談やからよ、許してちょーよ?」
アリス「リョウだから許してあげる、な~んて! 敵さんだったら問答無用でドカンと派手にやっちゃってるけどね!」
リョウ「アリスの言うドカンは比喩じゃないのが怖いわ。 それよりアリス、行儀が悪いから椅子から下りろよ」
自己紹介した時から今まで立ちっぱなしとなっていたことをリョウに指摘されたことで漸く気が付いたアリスは「えへへ」と頭を掻きながら腰を下ろした。
アリス「ねえねえリョウ、気が付いた事があったから聞いときたいんだけどいいかな?」
リョウ「ん、なんや?」
話を聞くためリョウはもう一度席に座り直した。
アリスはテーブルに手を付き椅子を踏み台にし、体を前に出しリョウの顔へと近付けていく。
リョウは一瞬アリスの突然の行動に顔を逸らそうと躊躇はしていたが、少し顔を横に逸らし耳に近付けていた事に気が付いた為、その場から動くことはなかった。
横に出た大きな耳に近付けたアリスは周囲に聞こえないような小声で何かを囁いた。
リョウ「…っ!」
何事もなく平穏に過ごしていた朝を向かえ、緩み切っていたリョウの顔は、アリスが発した言葉を聞いた途端に一変、一瞬驚いた表情をしたと思うと険しい表情へと変化した。
アリス「どう? 合ってた?」
リョウ「まったく…。 大正解や」
険しい表情は瞬時に崩れ去り、小さく鼻で笑い、参ったとでも言うように両手を少しだけ上げた。
リョウ「どうして分かった?」
アリス「なんとなーく、なんとなくだよ? そう思ったんだ~。 じゃないと世界の監視者であるリョウがここまで動くことなんてないわけだし」
リョウ「へぇ~、アリスが気付いているとは夢にも思わんかったわ」
アリス「以外でしょ? 凄いでしょ? 最高でしょ? 天才でしょ? 偉大なる私をもっと尊敬して、褒めてくださいませ!」
リョウ「褒めもしないし尊敬もしたりしねぇよ」
アリス「つれないな~。 重大な事実を知っちゃった私の記憶は消したりはしないの?」
前のめりの状態で依然として赫々たる笑みのまま、自らの記憶が消されることを憂虞することなく淡々と話す。
リョウ「…しないよ。 アリスは何だかんだ言ってわしが信用してる仲間の中でもトップに入る人なんやから。 それに、アリスにはわしの記憶抹消能力は効かないしな」
アリス「何回試してみたんだろ?」
リョウ「いちいち覚えてないって」
アリス「だよね~そんなこといちいち覚えてられないもんね。 覚えるなら円周率を100桁くらい覚えたいかな」
リョウ「へいへい、そうけぇ」
頗るどうでもいい内容だったため、リョウは素っ気なく相槌をうった。
アリスは適当に返答されたことにまたも頬を膨らませるも、コミュニケーションをとるための何時もの冗談と分かっていたため直ぐに笑顔へと戻った。
前のめりになっていた体勢を戻し、椅子から下りると身を屈めテーブルの下を潜りリョウの隣へとやって来るなり腕を掴み引っ張り始めた。
アリス「ほらほら、アイリのために修行するなら私達も体を解しておかないとだよ! レッツゴーフィーバータイム!」
リョウは強引に腕を引っ張られ、成されるがままに中庭へと連れて行かされてしまった。
アリスも主人公に近い立場のキャラです
活躍する場面はかなり多めになってきます
ガンダムみたいに途中で主人公が変わっちゃうような展開はないので御安心を(笑)