コロナに負けずに頑張ります!
遂にサリエルのコンサートが行われる日となった。
サリエルの護衛に付くリョウと行動を共にするため、力を付けるべく、結愛に稽古を始めてもらうこと早くも三日が経った。
三日とは言え、結愛は時空防衛局の任務があるため四六時中稽古をすることができなかったため、リョウやピコ、暇潰しに家に訪れたラミエル、居候と化したアリスを巻き込みアイリの稽古を行っていた。
何度か休息は取っていたものの、基礎体力がリョウや結愛等の世界を巡る戦士達と比べ著しく低いせいか、疲労が見え始めていたが、弱音を吐くことなく修行を続けており、リョウは賞賛した。
結愛と実際に拳を交えることにより素手による接近戦、武器を用いての接近戦も数倍と言えるほど著しく成長し、繰り出される技の種類も増え、完成度も高いものとなった。
初期の頃より格段に腕を磨いてはこれたが、それでもまだアイリを一人で行動させる訳にはいかないため、リョウが同行することとなった。
エクリプスの雑兵を相手にする程度ならアイリの実力をもってすれば楽勝とも言える戦いになるだろうが、幹部等の上位に立つ者を相手にすれば、苦戦は退けないであろう。
女だろうが子供だろうが決して容赦をしない無慈悲な彼等と戦えば、時空防衛局の人間であろうと、最悪の場合命を落とす。
やはりリョウとしては自らの足で命が危険に晒される渦中に身を投じる事は避けたいところだったのだろうが、アイリの意見を尊重し、心に決めた事をやり遂げようとする粉骨砕身の思いを無駄にしたくなかったため、最後まで側に付きサポートしていこうと自らの心に誓った。
アイリ「う~、眠い。 でも、遂にこの日がやってきたね! あたしワクワクすっぞ!」
アイリはリョウとピコ、カイ、結愛、そして何故かついて来たアリスと共にコンサート会場である『シェオルブライトドーム』の裏口で待機していた。
起床時間が早朝ということもあり、眠そうに目を擦らせながら結愛が所属している第一時空防衛役員のメンバーの到着を待っていた。
リョウ「結愛、リュート達はまだ着かないのか?」
アリス「ふわぁ~、あふぅ。 まだなの~眠いよ~」
寝息を立てているカイを背負ったリョウと目を閉じ半分寝ているアリスが倦怠感を抱きつつ問い掛けた。
結愛「あともう少しで着くと思うんだけど、遅いわね」
リョウ「まさか、睦月が寝坊でもしてるんやないやろうねぇ?」
結愛「…あり得そうね」
リョウ「否定しないのかよ」
結愛「まぁ、睦月だから仕方ないわね」
アイリ「なんかムッキーが可哀想になってきた。 同情するよ、ムッキー」
リョウ「ん? 噂をすればなんとやらってやつやな。 第一時空防衛役員御一行の到着やな」
リョウが目線を移した先には白く輝く扉、ワールドゲートがいつの間にか出現しており、中から五人の男女が姿を現した。
睦月「うっす、久し振りだな!」
一人は前回のフサキノ研究所の調査で行動を共にした黒い眼帯を付けた男勝りな口調の少女、睦月。
白いローブを纏った黒髪の目付きが鋭い青年。
白衣を着た眼鏡をかけたポニーテールの弱気そうな少女。
肩まで伸びる銀髪が特徴的な海のように青い瞳を持つ青年。
白い禍々しい仮面を付けた全身を黒い布で覆い尽くされた人物。
アイリ「わぉ、個性が出まくってるね」
?「結愛から話は聞いてるが、お前ほど強い個性じゃないと思うぜ」
白いローブを纏った青年がアイリを見ながら言った。
アイリ「あたしのこと知ってるの?」
?「嫌ってほど、でもないが結愛からへちくりんでふざけたお調子者な奴が天界にいるって聞いてたからな」
結愛「ちょ、そこまで言ってないわよ!」
アイリ「そこまでってことは少しは悪い印象を与えるような事を言ったんじゃん!」
図星なのか、結愛は目を閉じ咳き込むと白いローブを纏った青年の隣へ移動した。
結愛「アイリは初対面だろうから、第一時空防衛役員のメンバーを紹介するわ」
アイリ・リョウ(誤魔化しやがった)
結愛「まず私の隣に立っているこの人が第一時空防衛役員のリーダーを勤めているリュート・バリアウロ。 あらゆる属性の魔法を使いこなす魔導士よ」
リュート「よろしく、へっぽこ天使ちゃん」
アイリ「ぐぬぬ…!イラッとくるぜ!!」
リュート「事実を述べたまでだけどねぇ。 お前の力はこれからまだまだ伸びていくだろうから、精々頑張りなよ」
アイリ「ふん! 言われなくても頑張ります!」
リュートの扇情的な態度にアイリは額に青筋を浮かべながらそっぽを向いた。
結愛「ごめんなさいねアイリ、リュートはこんな冷たい性格だから」
リュート「やれやれ、君は相変わらず、酷い言い様だね」
結愛「事実なんだからしょうがないじゃない。 次にこの白衣を着たこの子、名前は宮ノ瀬理緒。 戦闘はできないけれど、このチームの頭脳とも呼べる存在よ」
理緒「そ、そんな、私なんてそこまで大層な存在じゃないですよ~。 あ、アイリさん、よ、よろしくお願いします」
アイリ「はい、よろしくです、理緒さん!」
気弱な少女、理緒はおどおどしながらも腕を伸ばしアイリと握手を交わした。
睦月「そいつの愛称は『りったん』だぜ」
理緒「ふぇっ!? 睦月さんが勝手に呼んでるだけじゃないですか!?」
アイリ「じゃああたしも理緒さんのことりったんって呼びますね!」
理緒「あ、アイリちゃんまで~!?」
結愛「そろそろ次に行くわね? 次はこの白い髪をしたこの人ね。 名前はシギア・コールス。 あらゆるものを導く力を持つ超能力者よ」
シギア「シギアだ。 これからよろしくね、アイリ」
アイリ「はい! よろしくお願いします!」
爽やかな笑みを浮かべ握手を求めてきたシギアにアイリは快く握手に応じた。
アイリ「あらゆるものを導くって、結構チート染みた能力を持ってますね」
シギア「まぁ、そうなるのかな。 サポートとしてはかなり強力な能力になると自負してるよ」
睦月「シギアの能力は半端ないぜ。 こいつの能力を使えば俺の撃った弾丸を命中させる対象物へ導いて、必ず命中させることだってできるんだぜ。 まぁ俺はシギアの能力には頼らないけどな。 俺は自分の実力で相手の体を弾丸でぶち抜いてやりたいからな」
アイリ「ムッキーかっこいいー!!」
アリス「そこにシビれる!あこがれるゥ!」
結愛「ネタに走りたがっているみたいだから次に行かせてもらうわ。 仮面を付けているこの人は、」
?「皇 凶ノ助(すめらぎ きょうのすけ)。 …俺の紹介はそれだけでいい」
アイリ「よ、よろしくお願いします、凶ノ助さん」
仮面を付けているため表情が見えないが、無口なだけで気難しい性格ではないようで、アイリが差し伸べた手を快く取り握手を交わした。
リュート「紹介が済んだのなら早く中に入ろうじゃないか。 さっさとミーティングを始めたいし、ディーバがお待ちかねだろうからね」
リョウ「そうやな。 じゃあ案内頼むで」
メンバーの紹介が終わるとリュートは早々とシェオルブライトドームの裏口へ足を進める。
裏口やその周囲には既に時空防衛局の役員達や天界のSP達が配置されており、厳重警戒態勢に入っており、蟻一匹でも通さないとは正にこの事なのだと痛感できる。
リュートの後ろを歩く結愛はドームに入るための許可証を素早く取り出し裏口に立っているサングラスを掛けた男に見せると、表情変える事なく頷き扉を開けた。
裏口から入り長く暗い廊下を渡りきると、極めて広いロビーに出た。
慌ただしく準備に取り掛かる会場のスタッフ達を横切り、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を開け、楽屋へ続く廊下を歩いていく。
アイリ「凄い、あたしこういう建物の裏側に潜入したの初めてだよ」
リョウ「潜入って、スパイじゃないんやから」
リュート「緊張感のない奴だな。 まぁ、アイリの場合ただバカなだけか」
アイリ「ぬぁんにを~! これでもあたし成績優秀なんだかんね!」
リュート「その割りにはふざけた発言が多いからとても優秀そうには見えないけどな。 まだ睦月の方が頭脳明晰だと思える」
睦月「まだってどういうことだよ!」
アイリ「アイリちゃん激おこぷんぷん丸だよ! リュートさん、あたしとバーサスだよ!」
リュート「バーサス?」
理緒「戦うってことですよリュートさん」
リュート「ほう、俺と戦おうと言うのか? 俺の実力を知らずして挑もうとは…おもしろい。 脱兎の如く逃げる絵が見えるが、相手をしてやろうじゃないか。 丁度良い準備運動になる」
相手を蔑む態度にアイリは青筋を浮かべ、獣のように今にも飛び掛からんとするような顔をし、ガーンデーヴァを召喚しようと腕を上に上げたが、リョウがアイリの腕を掴み宥め始めた。
リョウ「アイリ、よすんや。 安い挑発に釣られて苛立ちが募るのは分かるけど、釣られちゃ相手の思うつぼや。 冷静に判断するのも大事なことや」
アイリ「うぅ…うん、分かったよリョウ君」
アイリは納得のいかないようではあったが上げた腕を静かに下ろした。
リュート「賢明な判断だ。 痛い目に会いたくなければ退くのも重要な事だ」
リョウ「相変わらず減らない口だな。 その饒舌っぷりなのはどうにかならんのかね」
リュート「これが俺だからな。 俺の実力を持ってすれば、何者をもひれ伏し「あまり調子に乗るなよ」…ほぉ」
アイリに対し蔑む事を言ったせいか、リョウも頭に血が上っているようで、静かに怒りを爆発させていた。
リョウ「アイリを馬鹿にするのはやめてもらいたい。 この子は将来想像だにしない強力な力を得る。 いつかお前をも越えるだろう。 今はまだ覚醒はしてはいないが、一生懸命努力をし成長していっている。 努力する者を見下す言い方はやめろ。それはアイリに限らず、だ。 あまりにも不人情な事を述べたら、その時はわしは容赦なくお前を倒すから、そのつもりで」
リュート「おっと、世界の監視者が相手だと俺も骨が折れる。 大人しく引き下がるとしよう」
怒りが籠った目で睨み付けられたリュートは一瞬目線を反らし足を進め始めた。
リュート自身、自分でも愚弄する態度を取っていたのは分かってはいたが、今回は相手が悪かったとつくづく後悔した。
時空防衛局の中でも戦闘に関しては格段に能力が高いリュートでも世界の監視者であるリョウを相手にするとなると大人しく身を引くのが賢明だと結論付いた。
リュート(生きている年数が違うとはいえ、スペックの差があまりにもありすぎる)
仮にリョウと戦うことになれば、間違いなく自分は敗北する。
最悪、敗北するだけでは済まない状態になる可能性があるため、想像するだけでも末恐ろしかった。
自分には、あの『力』には抵抗手段がないから。
リョウ「まぁわしが本気を出さない限りはあの力は使わないので、ご安心を」
リュートがリョウの横を通りかかったとき、リョウは不意に小声で耳元に語り掛けた。
リュートは口角を上げ呟いたリョウを見ると、少し頬笑むだけで無言で足を進め横を通り過ぎた。
剣呑だった雰囲気が過ぎ去り、全員は安心し力が入っていた肩を下ろした。
理緒「もぅ~リョウさん、野蛮ですよ」
リョウ「野蛮にさせたのはリュートや。 前々からあぁいう奴だと分かってはいたが、程々にしてもらいたいところやわ。 人によっては殴りかかっても可笑しくはないで」
アイリ「激しく同意」
結愛「私達はもう慣れてしまったわ。 なんだかんだ言って辣腕だし、周りを良く見る観察眼を持つ人だから、あまり悪くは言えないのよね」
偉そうな態度を越え相手を愚弄しているようにも聞こえてしまうため好印象とは言えないが、第一時空防衛役員のリーダーとしての使命は全うしているようで、成すべき事は成す割りと真面目な一面もあるのだと言う。
アイリはとても信じられないでいるが、相手を思いやる心はあり、結愛や他のメンバーも何度も救われてきたと話している。
そうこう話しているうちに、目的の場所であるサリエルの楽屋に到着したようだ。
結愛が扉をノックし、中からの反応を待つ。
?「は~い」
結愛「第一時空防衛役員に所属する光明寺結愛です」
?「あら、結愛さん。 どうぞ入ってください」
即座に返答があり、楽屋から優しい声が聞こえた。
入室の許可を得たところでアイリ達は楽屋へと足を踏み入れた。
壁側には本日のライブで使用される様々な色鮮やかな衣装が何着もかけられてあるハンガーラックがあり、身嗜みを確認するための全身鏡が置いてある。
化粧をするための鏡台の近くにある椅子には狐色の髪をポニーテールにしている、背中から純白の翼が生えた少女が座っている。
この場まで来ておいて説明は不要だろうが、彼女こそがWSDの一人、サリエルだ。
サリエルの隣の椅子には黒いコートを纏った紫色の髪をした少年が座っており、手にしたスマートフォンの画面を見つめたままで、気付いていないのか、若しくは興味がなかったのか、入室してきたアイリ達には見向きもしなかった。
サリエル「待ってたよ結愛さん。 さっきからファルクが暇すぎてスマホつつき始めちゃったんだから」
結愛「待たせちゃってごめんなさいねサリエル。 リュート達の到着が遅れてしまっていたから…」
リュート「責任を俺に押し付けないでくれ」
サリエル「まぁ、時間内に着いたから咎める事なんてしないわ。 結愛さん達より遅れてる猫ちゃんがいるから」
アイリ「猫ちゃんって?」
サリエルの言う猫ちゃんという言葉に引っ掛かりを感じたアイリは首を傾げサリエルに問いを投げ掛ける。
サリエル「ミケナのことよ。 今日はゲストとして登場するからあの子にもミーティングに参加してもらおうと連絡をしたのだけれどまだ来ないみたいなの。 もう、何処で道草食ってるのやら…」
腕を組みながら頬を膨らませ微小な怒りを露にしている。
普段はディーバとして表向きではファンのために、本来の目的である世界樹の状態を維持するために歌を歌い続けるアイドルとして、世界の均衡を保つという重大な役割を背負っている。
若くして重責を果たす彼女でも、其処らに住まう女の子となんら変わりはない。
モニター越しからでは笑顔で歌を歌い踊っている姿だけしか見ることはできないが、今目の前にいるのは仕事のスイッチをオフにしている、一人の女の子であるサリエル。
裏でなければ決して拝むことはできないであろう一人の女の子を見て結愛は新鮮味を感じていた。
アイリ「もう一人のディーバも来るんだ。 待てよ、そう多くないディーバがこの一つの世界に二人も集うのって凄いことなんじゃないの?」
理緒「はい、とても稀な事です。 何年に一度かディーバのオールスターライブが開催される時に全員揃うのですが、あらゆる世界を巡るディーバ達の予定が合うときでなければ難しいことですから、オールスターライブではない単独ライブで他のディーバが出演されるのは確率的にはとても低いので、ある意味奇跡と呼べるのかもしれません」
科学者である理緒が奇跡と言う言葉を使うのは可笑しな事なのかもしれないが、この何千、何万、何億とあるであろう世界を巡り渡り、その中の一つの世界に二人のディーバが鉢合わせとなり合同でライブを行うのは、宝くじで一等を当てる確率より低いかもしれない。
アイリ「奇跡的な機会に立ち会えるあたしって『しあわせもの』だよね! 『うんのよさ』が30%上がりそう。」
リョウ「んな訳あるかいな。 さて、提案なんやけど楽屋でこの大人数や窮屈やし、ダンススタジオにでも移動せぇへんかい? ミケナ達が来るまではわしがこの楽屋で待って後々連れていくから、先にミーティング始めといてや」
シギア「そうさせてもらおうかな。 今は時間が惜しいところだからね」
リュート「ではそうさせてもらおうか。 ところで、不要な質問かもしれないが、世界の監視者であるお前が重要なミーティングの席を外しても大丈夫なのか?」
リョウ「あぁ、問題ない。 わしはアイリと共に行動することにするから、アイリが配置に就く場所にわしも就くから。 ということでアイリ、先に行っといてね」
アイリ「アイアイサー!」
リョウ「あとリュート、アリスが余計なことしないように面倒、と言うより見張っててくれよ」
リュート「お前に言われるまでもないよ」
アリス「ちょっとそこのでか耳~、なぁ~んか失礼な感じがするのは気のせいなの~?」
リョウ「お前は何仕出かすか分からんから怖いんだよ。 あと何気にでか耳言ってんじゃねぇよ、異世界に飛ばすぞ」
でか耳と言われたのが癪に触ったのか、般若の如く形相になりアリスに対し『にらみつける』を発動。
某ゲームの様に防御力が下がるわけではないが、アリスは一歩後ろへ下がると吹けもしない口笛を吹いている。
サリエル「じゃあ移動しよっか。 ほらファルク、移動するよー!」
ファルク「…あぁ、話は全て聞いていた。 ではでは、行くとするか」
スマホの画面を先刻まで相当な集中力で見続けていたのにも関わらず、会話は全て頭に入っていたようだ。
欠伸をしながら大きく背伸びをしゆっくりと立ち上がり肩や首を回しボキボキと骨を鳴らし、一回目と同じくらい大きく口を開き欠伸をした。
パッと見だらしなさそうに見えるが、これでもリュートと同様のタイプの人間のようで、やるときにはやると言った人間だ。
戦闘経験も豊富で実力も人並み以上で、時空防衛局の中
でも戦力はトップクラスであるリュートをも凌ぐほど。
ディーバを誘拐するという大胆な手段しか拘泥しないエクリプスから守護するためには、並大抵の実力では勤まらないため、戦闘の実力は誰もが認める折り紙付きだ。
ファルク「早いとこ行こう。 ミーティングなんてさっさと終わらせたいしな」
サリエル「もうそんなこと言わないでよ。 私の警護をするんならもっと断固たる態度で挑んでもらいたいんだから」
ファルク「何かある度にちゃんと護れてるんだから結果オーライだ」
サリエル「う、結果が結果だけに言い返せないのが悔しいわね。 と、兎に角! ダンススタジオに直行するわよ! さぁ歩いた歩いた!」
サリエルはファルクの背中を押しながら楽屋を後にする。
リュートはやれやれといった表情で後を追い、続くように結愛達も楽屋を後にする。
アイリ「じゃあリョウ君、また後でね」
リョウ「あぁ、先に行っててくれ。 なぁに、すぐに追い付くから」
アイリ「リョウ君、今からって時に死亡フラグ立てないでよ」
苦笑いしつつアイリは楽屋を後にした。
大人数だった楽屋は一瞬のうちに静まり返り、リョウと未だに寝てしまっているカイだけだった。
背負っているカイを椅子へと下ろし、リョウも空いている椅子へと腰を下ろした。
ふと壁に掛けてある時計に目を移すと、針は8時30分を示していた。
リョウ「コンサートまで残り1時間30分。 やれやれ、時間がまだあるとは言え、ミケナの奴、いつもミーティングがあるって分かってるんならもうちょい早く到着できるやろうが」
愚痴を溢しつつ視線を下ろし、上着のポケットからスマホを取り出し暇を潰そうとした。
だが、暇を潰すためのスマホは必要ではなくなった。
スマホをポケットの中へ戻し、苦虫を噛み潰したような顔をし、黄金色に怪しく光る目で背後を振り向いた。
リョウ「…ここは関係者以外は立入り禁止なんやけど、分かっとるよね?」
?「ごめんなさいリョウさん。 分かってて入ったのは悪いと思ってる。 でも、私も何かお手伝いできたらって思ったの。」
黄金色に輝く目線の先には、一人の少女が立っていた。
毛先の数センチが白に染まっている桃色の髪に、オレンジ色に近い茶色のブレザーに赤色のチェックのプリーツスカートを着ており、誰が一見しても学生だと分かる格好をしており、アイリと同じ年頃にも見える。
先程まで部屋には大人数の人がいたにも関わらず、何故か誰にも気付かれなかった。
そんな不可解な事を気にしていないのか、突如現れた少女にリョウは驚く素振りも見せず会話を続ける。
リョウ「手伝いとはディーバの警護のことか? それともアイリを守護することか? どちらにせよ助力は必要ないよ、マリー」
マリーと呼ばれた少女はリョウの目を真っ直ぐと見据え狼狽えることなく話を進める。
マリー「でも……あまり言いたくはないんだけど、リョウさんは今、力がたいぶ抑えられている。アイリちゃんを護りきるには戦力は多い方が良いと思ってるの。 私達の存在が世に出るのは良くはないというのは重々承知だよ。だけど、」
リョウ「分かっているのなら、尚更出てきてはあかんやろ」
マリーの言葉を遮り、リョウは表情を最初に話していたときよりかは穏やかなものとなり口を開いた。
リョウ「マリーがわしの手助けをしてくれるのはありがたい。 だが、マリーのそれは杞憂に過ぎないよ。 わしは昔とは違う。 今は護るためだけに戦っているんや。
力が抑えられているからと言って、誰も護れないわけやないんやから」
マリー「確実に護りきれるとも言えないでしょ?」
リョウ「それを言うたらキリがないからねぇ。 まぁ上手く反論なんかできはしないから確かにその通り、なんやろうな」
でも、と付け加え強い意志を持った瞳でマリーを見て言葉を紡ぐ。
リョウ「1%でもいい。 確率が少しでもあるならわしはそれに掛ける。 まぁ誰かを命懸けで護るのに確率も糞もないんやけど、わしはどんな窮地に追い込まれようが、この命が、魂が削り取られるまで戦い、必ず護るべき対象である人が笑顔でいられるような毎日を送るために、守り抜くんだ。 この決意だけは変わらない。 ディーバを護るディーバナイト達も同じ思いだ。 剣が使えないのならば拳を、拳が使えなければ脚を、脚が使えなければ牙を、牙が使えなければこの体自身を剣として振るうまでよ」
決意の籠った強い思いを受け、マリーは一瞬だったが躊躇いだ。
同時に、心悲しさを感じた。
自らの身の事を一切考慮しておらず、自暴自棄に陥っているのではないかと錯覚すらしてしまうほどに、彼は大切な人を護るためなら命を掛けて窮地にでも飛び込んでいく。
そのせいで、リョウは右脚を失ってしまっている。
マリーは本当はそんな命知らずな行動を取ってもらいたくはないと思っている。
誰でもだが、知人が命を投げ捨てるような事をしようものなら止めるだろう。
だが目の前の青年は、友だろうが、家族だろうが、全世界を統一する神だろうが、止めても決して納得はしないだろう。
誰よりも人を護りたいと思う念が強い彼を止めれる者は、事実上存在はしないだろう。
止めることができないのなら、せめて手助けはできる。
自分に少しでもできることがあるのならばとリョウが一人でいる機会を狙い天界へやって来たのだが、伸ばされた手は掴まれることはなかった。
だがマリーはリョウの心中を分かっていたため、微笑みを浮かべこの場を去ることに決めた。
彼は大切な人を、仲間を護りたいからこそ、出来るだけ巻き込ませないようにしているから。
そして、自分達の存在が世に出るのは好ましくないから。
マリー「やっぱりリョウさんは凄いよ。 私なんかと比べて背負っているものが違うね」
リョウ「いや、そんなことはない。 マリーだって凄いとわしは思っている。 自分がこんな存在だってのに、それでも世界に秩序を保とうと陰ながら奮戦している。
強い心の持ち主じゃなければ、この偉業を達成できやしないからね」
話していると黄金色に輝いていた左目は光を失っていき、普段通りの目に戻っており、マリーに優しく微笑んだ。
マリーはリョウが述べたことを素直に受け取り照れながらも喜んでいた。
マリー「私の思ってたことは杞憂に過ぎなかったみたいだから、私はもう行くね。 リョウさんの覚悟を聞いて私も納得したことだし、誰かに見られると流石にまずいもんね」
リョウ「見つかった時はそいつの記憶を消すから御心配なく、と」
マリー「物騒だよリョウさん。 ふふ、でもありがとう。 …もし、だよ。 私の力が必要になったらいつでも呼んでね? 私だって、リョウさんの仲間なんだから」
リョウ「あぁ、分かった。 いつも心配してくれてありがとな、マリー」
マリーは笑顔を見せるとワールドゲートを出現させ、背を向け光の中へ入ろうとしたが、何かを思い出したように踵を返し再びリョウと向き合った。
リョウを見据えるその瞳は、両目とも黄金色に光っている。
マリー「言い忘れてた事があった。 最近現実世界の近くに存在する世界に『世界を喰らう者』が出現したの」
リョウ「何っ!? バカな…わしが気付かない筈がないのに…!」
マリー「あいつだってワールドゲートを使用して世界を移動するけど、奇妙なのが本来なら移動距離が果てしなく遠い世界にも移動している、それも頻繁に。 中途半端に世界を喰っては移動を繰り返している。 今までにない行動パターンに私も少し困惑してるところなの。 …もしかしたらだけど、現実世界に間接的に繋がっているこの天界にもいずれ現れる可能性もあるかもしれない」
リョウ「そうなる前に叩きたいところやな。 情報をありがとう。 また時間があればわしも奴の捜索に加わろうと思うから、近々また連絡するよ」
マリー「分かった。 じゃあ、またね、リョウさん。 御武運を」
再び背を向けワールドゲートの中へと入っていき、姿が見えなくなると光の扉は瞬時に消えた。
リョウ「…『世界を喰らう者』か。 あいつと再び合間見える時が来るのか。 ここに来ないことを祈るばかりやな。 アイリを巻き込ませる事だけは、絶対に避けなければならないからな」
リョウは目を瞑り、『世界を喰らう者』と呼ばれる存在を逸早く見つけるためにミケナを待つ間に世界の監視を行うために集中を始めた。
今年はコロナが沈静化しますように