山、森、川、見渡す限り大自然が視界を覆い尽くさんばかりに広がっている。
数多の鳥類、魚類、昆虫、動物が生息しており、生物達の楽園とも呼べる壮大且つ美しい温暖湿潤な気候に包まれた場所に、二人の男女が歩みを進めている。
男は忍者か暗殺者を彷彿とさせるビジュアルの服装で、女は二の腕、太股、腹部が露出した白を基調とした服装。
この場に似合わない格好をした二人組が長閑な丘の麓を歩いている。
ただの一般人という訳ではなさそうで、二人が背中に装備している物を見れば一目瞭然だった。
男はあらゆる物を一閃してしまいそうな斬れ味を誇る黒色の太刀、女は直線的なデザインの青の剣と曲線的なデザインの赤の剣をそれぞれ装備している。
人によっては見慣れない奇抜とも呼べる格好をしているためコスプレだと思われ勝ちだろうが、彼等は本物の狩人だ。
今回の標的となる生物と出会うため大自然の中を駆け巡っていた。
地図を広げ広大なフィールドを回ること数分、巨大な岩が鎮座する見通しの良い場所までやって来た。
二人はある程度周囲を見渡して標的がいないことを確認しこの場を去ろうとした瞬間、空気や大地が震える程の咆哮が耳を劈く。
音の発生源と思われる上空を見上げると、赤い甲殻に身を包んだ巨大な飛竜が翼を羽ばたかせ空中を漂っていた。
二人の人間を見る双眸は殺意に満ちており、今にも襲い掛からんとばかりに口からは火が溢れ出ている。
二人は目で合図を送り互いに頷くと武器を手にし臨戦態勢に入る。
飛竜は口から火球を出し二人を牽制するが、二人は巧みな動きで避け物陰に隠れる。
火球により火が草原に燃え広がった地に降り立った飛竜は女狩人にら目掛け突進し始めた。
女狩人は横に転がるようにして避け、突進が終わったと同時に男狩人は物陰から飛び出し顔面を目掛け力強く太刀を振り下ろした。
鋭く重い一撃が入り鮮血が飛び散る。
怯んだ隙に二人は足の間に滑り込むようにして入り込み鬼神の如く剣を振るう。
飛竜は足を集中的に攻撃されバランスを崩しかけるも、翼を広げ後ろへ飛び退きながら火球を吐き出した。
男狩人は華麗な身のこなしで火球を難なく避けたが、女狩人は避ける余裕がなく直撃を受けてしまい後方へと吹き飛んだ。
男狩人は女狩人にこれ以上追撃を加えさせないように太刀の長所であるリーチの長さを活かし空中を漂うにして飛行する飛竜に向け剣を振るう。
女狩人は灼熱の火球をくらい苦痛に悶えながらも体に鞭を打ち立ち上がろうとするが、飛竜は追い討ちをかけるかのように驚異の速度で女狩人に接近し、脚を振り下ろし鋭い爪が小柄な体を切り裂く。
女狩人は瀕死の一撃を受け前のめりに倒れ気を失ってしまった。
薄れ行く意識の中で女狩人が最後に見た光景は、助けに駆けつけようとした男狩人が火球を受け吹き飛ばされる姿だった。
~~~~~
アイリ「あーん! あたしが死んだ!」
リョウ「おおアイリ! 死んでしまうとはなにごとだ!」
ソファーに座っていたアイリは首を背もたれに預け天井を仰ぎ見ながら嘆きの声を上げる。
アイリとリョウはリビングでゲーム(モン○ターハ○ター)をしている真っ最中であった。
余談だがアイリはキリン装備、リョウはナルガ装備で火竜リオ○ウスに挑んでいた。
アイリが考案した打ち上げは午前3時頃に終了し、時空防衛局員である結愛達は本部へ帰還し、ディーバであるサリエル達は次のライブが行われる世界へと向かっていった。
テーブルや椅子等の片付けはシャティエルが全て行い、30分という一人で行うにしては並外れた速さで済ませ、残りの面々は睡魔に勝てなくなり家に入り部屋に戻るなり瞬時に眠りについてしまった。
全員起床した時間が昼前になり、現在に至るところだ。
昼食を済ませたアイリ達はリビングで寛いでいた。
アイリ「さっきの攻撃はずるいよ。 立ち上がった後なのにあんな攻撃されちゃ避けれるわけないもん」
リョウ「モ○ハンあるあるやな。よし尻尾切れた。 あ! リオ○ウス逃げた! ペイントボールつけてないのに!」
アイリ「まぁ何処に行くのかなんて把握してるから問題じゃないかな」
リョウ「それもそうやな。 お、天燐出た」
アイリ「えー!? そんな…もう四回もクエストやっててあたしまだ一つも出てないのに…」
リョウ「ドンマイ。 こればっかりは運やからな」
シャティエル「リョウさん、アイリさん、コーヒーを淹れました。 どうぞ召し上がって下さい」
アイリ「お、ありがとうシャティ!」
アイリは携帯ゲーム機をソファーに置きテーブルへと移動し椅子に座りシャティエルが淹れたばかりのコーヒーを口にする。
程よい苦さが口全体に広がり体が温まっていくのを感じていると、カーペットが敷かれた床にカイと共に寝転がっているアリスが思い出したかのように口を開いた。
アリス「そうだ、結局昨日リョウに止められたから聞けなかったから聞くんだけど、何でシャティエルがフサキノ研究所を出てここにいるの?」
アイリ「あたしも気になってたところだった。 ねえねえ教えてよシャティ」
シャティエル「分かりました。 私がどういう経緯で研究所を出たのかをお話致します」
~~~~~
アイリ達がフサキノ研究所を去った後、シャティエルは白骨化したフサキノ博士の亡骸を傷付かぬよう丁寧に研究所の表へ運び埋葬し墓を建て、アイリ達が倒した多くのプロトタイプのエンジェロイドの回収と修理作業を残されたエンジェロイドと共に行っていた。
タイプβも破壊された現在、フサキノ研究所の管理者となったシャティエルはエンジェロイド達と共に修理と同時に、フサキノ博士が実現できなかったナノマシンを完成させるため開発が淡々と進めていた。
博士との、研究所とE資源を守るという約束を果たすために。
決められた事柄や報告する際以外は口を開くことがない無表情の彼等と接している内に、シャティエルは気付いてしまった。
『心』を持ったと実感したから感じ取れる、孤独という辛さを。
フサキノ博士が最期に述べていた「君を遺して、ずっと独りにしてしまう」という意味を痛感した。
実際には独りではないであろうが、周りにいるのは心を持たない機械人形ばかりで、意志疎通は当然ながら不可能で、今のシャティエルにとっては『物』と会話しているに過ぎない。
シャティエル「博士が感じていた孤独とは、こういうことなんでしょうか?」
心臓とも呼べる動力炉が空っぽになってしまったかのような、隙間か穴ができてしまったかのような感覚に陥る。
フサキノ博士の日記に書かれていた通り、シャティエルは孤独に包まれてしまっていた。
シャティエル「また、リョウさんやアイリさんに会い話をしてみたいです…」
孤独に耐えきれなくなったシャティエルは誰かと接していたいという気持ちからつい弱々しく口から言葉が零れた。
博士の残した大切な場所である研究所に何かあってはならぬと守らなければならないと同時に、博士が叶えられなかった夢であるナノマシンを完成させると決意を固めた以上、やり遂げなければならない使命感にかられていた。
研究所の管理者として、この場を離れる訳にはいかない。
だが、それでも、
シャティエル「私は、リョウさん達とまた会いたいです。 外の世界を見てみたいです」
孤独に耐えきれない空虚感、無限に広がる世界を自分の眼で見たいという好奇心が心の底から溢れる。
シャティエル「博士の日記には、天使族か時空防衛局の誰かがこの研究所を継いでもらいたいと記してありました。 そして、私を心優しい人に任せてほしいと…」
シャティエルは博士の日記の内容を思い出し、今後自分がどうすべきなのか決断した。
フサキノ博士が研究所以前に最も望んだ、シャティエルに幸福な日々を送ってもらいたいという事を。
シャティエル「私は…外に出ます。 博士が私に教えたかった心を更に追究し、リョウさん達も見ている無限に広がる世界を見るために」
ナノマシンの研究から手を引くのは罪悪感が沸き上がったが、時空防衛局から研究者が派遣されてくる筈なので、時折研究所に戻り共に作業を進めていく算段でいた。
研究者がいつ派遣されてくるか未定で、必ずしも来るとは限らなかったが、博士の次に信じられるリョウ達なら必ず事を解決させてくれると期待を抱きフサキノ研究所を後にした。
暗く視界が悪いグニパヘリルの洞窟を抜け、未だ目にしたことのない外の世界へと出た。
純白の雲が延々と広がる雲海と澄み渡る青空が視界全体に広がり、その美しすぎる絶景に声を発することなく見とれていた。
?「おや? 誰かと思ったら、あなたが話に聞くエンジェロイドだったんですね」
何分もの間景色に見とれていたか不明瞭だが、突如話し掛けられた声の主を探し斜め上を見上げると、天界の四大天使の一人でもあるガブリエルが確かにそこにいた。
翼を緩やかに動かし自らが張った結界を通り抜け物音一つ立てずシャティエルの目の前に着地した。
ガブリエル「はじめまして。 天界に住まう四大天使の一人、ガブリエルです。 リョウから話は伺っています。 リョウ達の元へ向かいたいのですよね?」
シャティエル「はい。 あの、リョウさんから話を伺っていたとはどういうことなのですか?」
ガブリエル「リョウから数日すればグニパヘリルの入り口にエンジェロイドが姿を見せると思うから念のため様子を見に来てくれと頼まれていたんです。 あなたの事柄は全て聞いていたので茫とではありますが、きっとリョウはあなたがいつか必ず自らの意志でこの場を離れ未だ見ぬ世界へ羽ばたくことを分かっていたんだと思いますよ」
シャティエル「リョウさんが…」
ガブリエル「あと、フサキノ研究所の後任となる人材もリョウが選抜し準備もできているそうなので、心配は皆無とのことですよ」
アイリに戦術を教え込む稽古を結愛に任せてある僅かな時間にリョウは時空防衛局の本部に赴き、フサキノ研究所の後任者となる人材の募集の声を掛けた。
あらゆる世界の人物が集う時空防衛局に勤める科学者達はフサキノ博士の技術力に非常に興味を示しており、我先にと候補の名乗りを上げる者が続出し、人数は数十にも及んだ。
リョウは科学者の中でも特に信頼できる人物、第一時空防衛役員の宮ノ瀬理緒を筆頭に他六名の計七名の優秀な人材を短時間で選抜した。
唐突に出された案に時空防衛局の本部も短時間で選抜された科学者達を召集するのは時間が掛かるものだったが、リョウが世界の監視者という全世界の中でも上位の役職に就く立場を利用し最優先で事を進めていたため、迅速に後任者となるチームを結成させることができた。
周囲からはリョウの職権乱用ではないかと思う者もいるであろうが、シャティエルのために動いていた本人は何を言われようが何を思われようが何処吹く風と言った様子で振る舞っている。
仲間のためならどんなことでも省みず行動する様は情の厚いお人好しと言われる反面、己の命をも投げ捨てる行動も行ったりするため、箍が外れている言われる事も屡々ある。
閑話休題。
シャティエルは自分のために無理を通してでも行ったリョウに感謝の気持ちで溢れ涙腺が緩む。
出会って寸刻とも言える自分に善意ある行動をしてもらい、自分は幸せ者だと痛感する。
ガブリエル「私もリョウや他の皆さんにももうちょっと頼られるようになりたいものです。 これでも四大天使なのに…」
喜びが心に溢れている間、ガブリエルは口を尖らせ一人言を呟いていた。
まずドラマや本を見ずに勤務に集中しろと、リョウがこの場にいればツッコミを入れられるだろう。
シャティエル「あの、ガブリエルさん?」
ガブリエル「…あ、ごめんなさい何でもないですわよ? えー、おほん、では、今からリョウ達がいる場所までお連れしたい、ところではあるんですが、幾つか問題があるのです」
シャティエル「問題とは、どのような事なのですか? 私にできることであれば力をお貸ししますが」
ガブリエル「心強い言葉ですね。 実は今、リョウ達がいるシェオルと言う我々天使達の住まう街があるのですが、悪魔族とエクリプスと呼ばれる組織が現れ戦場と化しているのです」
シャティエルがリョウ達の元へと向かおうとしたのは偶然にもディーバが天界でライブを行う日にちだった。
ライブを行うだけなら良かったが、エクリプスが大群を率いてホールを襲撃し、更にその混乱に紛れアイリを葬ろうと天界へ攻め込んできた悪魔族が来襲してきたことにより、シェオルに住む天使達が慄く地獄絵図と化した戦況の中、シャティエルは飛び込まなければならない。
ガブリエル「リョウ達はディーバの警護に当たっていますが、現在は悪魔族とエクリプス、二つの勢力を相手にしており苦戦を強いられている筈です」
シャティエル「リョウさん達に危機が迫っているならば、私は助勢しに参ります」
ガブリエル「きっとそう言うと思ってました。 では、参りましょうか。 博士が見せたかった、あなたの未だ見ぬ世界へ」
ガブリエルは結界を一時的に解き翼を広げ空へ舞い上がる。
後を追うようにシャティエルも翼を展開させ空へ飛び上がる。
再度結界を張り直したガブリエルはシェオルへ向け高速で飛行し始め、シャティエルも負けない程の速度を出し後を追う。
シャティエルの視界には雲の平原と、雲一つない青空が広がっていた。
変哲もない風景ではあったが、シャティエルにとっては初めて見る世界の一部。
自分は目の前に広がるような美しく見たこともない世界を無限に目に焼き付けていくだろう。
これから始まる未だ見ぬ世界への旅立ちに胸が高揚し、自然と笑みが零れ、清々しい気持ちで大空を翔ける。
シャティエル「…前方に目的地を発見。 数人の悪魔を確認」
ガブリエル「見えてきましたね。 この距離でも既に目視ができるとは驚きですね」
前方にはシェオルの街が視界に入ってはいるが、巨大な門が目視できるだけで人影を確認することができないほど距離がある。
シャティエルの目には高性能な望遠レンズが内蔵されてあるため、多少距離があっても人影を確認することが可能になっていた。
シャティエル「確認を取っておきたいのですが、悪魔は排除すべき対象として宜しいのですか?」
ガブリエル「はい。 私達天使族と、リョウ達を脅かす存在です。 博士から授かったその力で、守るために悪魔を鎮めなさい」
シャティエル「了解しました。 戦闘態勢に入ります」
戦闘モードへ移行したシャティエルは魔方陣を複数出現させる。
『光粒子ライトブラスター』を二丁取り出し銃口を前方へと向け、『多連装レーザーバックル』が二機飛び出しシャティエルの周囲を浮遊しており、いついつでも攻撃可能な態勢に入る。
シャティエル「リョウさん、アイリさん、もうすぐ助けに参ります!」
ガブリエルと共に速度を上げ、激突するかのような勢いで門を突っ切った。
門を通る一瞬で構えた武器が火を吹き、命中した数体の悪魔が苦悶な声を上げ地へ倒れていく。
ガブリエルはシャティエルに先を急ぐよう促すとその場で立ち止まり、門に残る数十体と溢れる悪魔を倒すためその場へ残った。
シャティエルは礼を告げるとリョウ達がいる『シェオルブライトドーム』へ向け飛翔する。
向かう途中、襲い掛かる悪魔が数体いたが、シャティエルの重火器の前には赤子に等しく、的確に放たれたレーザーや光弾により倒れ伏していった。
飛び続けること数分、シャティエルは難なくドーム前へと辿り着いた。
入り口付近の状況は悲惨なもので、地面が抉れガラスが割れ破片が至るところに落ち、ドームは悲惨な状態になってはいるが、天使兵や時空防衛局員達の活躍によりドーム内の被害は最小限に抑えられ、ライブは問題なく続けられていた。
シャティエルは地下に巨大な力を複数探知したため、向かうと不利な戦況にあったリョウ達を見つけ、直ぐ様加勢をするため『多連装多目的誘導ミサイル』を発射するため魔方陣からユニットを出現させ不意討ちに成功し、リョウ達と再び再開を果たしたのだった。
~~~~~
リョウ「…そうか。 博士の想いと自分の気持ちを尊重し研究所を出る決断をしたんだな」
アイリ「この短時間でシャティの心は成長を果たしていてあたしゃ嬉しいよ~」
リョウ「お前は保護者か何かかよ」
シャティエル「まだリョウさんにお礼をしていませんでしたね。 私のために研究所の後任となる人材の準備をしてくれたとガブリエルさんから聞きました。 本当にありがとうございます」
リョウ「そんな、お礼なんていいよ。 シャティエルは大切な仲間なんやから当たり前よね」
アイリ「なーんかかっこいいこと言ってるリョウ君は違和感しかないなー。 普段そんなこと言わないから」
リョウ「なんとも失礼な。 ガジャブーの群れの中に放り込んでやろうか?」
アリス「地味にエグいねそれ。 あ、リョウ、画面見てない間にキャンプ送りにされてるよ?」
リョウ「oh…なんてこった」
リョウがシャティエルと話している間、ゲームから目を離してしまっていたせいでモンスターに完膚なきまでに叩き潰されていたようで、敢え無くゲームオーバーとなってしまっていた。
アイリ「何やってんのさリョウく~ん。 早くダークファルスを倒さないと宇宙を危機から救えないよ!」
リョウ「いや、それが出てくる作品じゃないから。 っつーか途中でゲームを終えたお前に何やってんのと言われる筋合いはないわい。 さて、早速なんやけど、シャティエルに様々な世界を見せるために別世界へ行こうと思う」
リョウは携帯ゲーム機の電源を切り机に置き立ち上がりニッコリと笑い言った。
別世界と言う単語に反応したアイリは目を輝かせリョウに詰め寄った。
シャティエルは急な話に驚きながらも、新たな世界をこの目で見て知ることができる喜びに浸っていた。
アイリ「別世界に行くの!? あたしも是非行きたい!」
カイ「カイもいく! いきたい!」
リョウ「うーん、あまり別世界に干渉しすぎるのも良くないからねぇ」
アリス「よっぽどの事じゃないから大丈夫っしょ。 私やリョウだって別世界によく行き来してるんだし、なんくるないさー」
リョウ「そりゃわしとアリスは特別な存在だからよ(ヴェルタースオリジナル並感)」
アイリ「リョウ君…おねがぁい!」
潤んだ瞳でリョウの目を見つめながら胸に手を当て脳が蕩けるような甘い声でお願いする。
リョウ「悩殺するような甘い声で頼まんでも連れていくよ。 ただし、まぁ無いとは思うけど、大事は起こさないことね」
アイリ「やったー! 遂にあたしも異世界デビューだね! あ、転生してる時点でデビューしてた」
シャティエル「リョウさん、重ね重ね感謝いたします。 何かお礼ができればいいのですが」
リョウ「シャティエルの喜ぶ顔を見れただけでも十分やからさ。 さぁて行きますか!」
リョウが腕を前に出すと目の前に白く輝く扉、ワールドゲートを出現した。
ラミエル「うーっす。 邪魔するぜ」
リョウ「邪魔するんやったら帰ってな」
ラミエル「あいよ~…って、なんでやねん!」
ピコ「おー、ノリがいいね」
ラミエル「思わず変な口調になっちまったよ。 見る限りお前ら今日は異世界に行くのか?」
扉を潜ろうとした刹那、ラミエルが入室してきた。
ラミエルは何度かワールドゲートを見たことがあるのか、特に驚く様子もなく淡々とアイリ達と会話をしている。
アイリ「狙っていたかのようなナイスタイミング! 今から異世界へ行くところだからラミエル君も一緒に行こうよ!」
ラミエル「異世界か。 現実世界以外の世界には行ったことがなかったからな。 おもしろそうだ、俺も便乗させてもらうぜ!」
アリス「パーティは揃った! いざ、冒険の始まりである! あと、冒険の書も携えておこう」
アイリ「お気の毒ですが、冒険の書1番は消えてしまいました」
アリス「スキトキメキトキス」
アイリ「呪文が違います」
リョウ「コントやってないで行くぞ~」
アイリ「じゃあ復活の呪文を適当に考えてみよう」
アリス「本当に適当に当てはめたらいけるときあるよね」
シャティエル「復活の呪文…。 リョウさん達が命の危機に陥り戦闘不能になった時に使用可能なものなのでしょうか?」
ラミエル「いや、絶対違うだろ…」
リョウ「残念ながら誰かを復活させる呪文やないから。 あとシャティエル、このバカ二人のこういう変な会話は聞き流していいからね…」
バカ二人(アイリ&アリス)の会話でシャティエルに要らぬ知識が吹き込まれないか危惧の念を抱き頭を抱えるリョウを余所に、バカ二人(何度も言うがアイリ&アリス)は愉快に現実世界のネタを挟んだ会話で愉快に笑っている。
気を取り直し、リョウを先頭に扉を潜り抜けていく。
全員が扉を潜り抜けると、光の粒子となりワールドゲートは消え去った。
~~~~~
空全体が赤い雲に覆われ、まるで業火が延々と燃えているかのよう。
草木が一本も生えない腐りきった大地が地平線まで広がっている。
生きとし生ける物が存在しない、世界が終末した後を描いたような場所に、サタンフォーの中でも最も強力な力を持つアンドロマリウスが一人立っていた。
アンドロマリウスがいるこの場所は、天使と対になる存在である悪魔が住まう冥府界。
アンドロマリウスは何かしている訳でもなく無限に広がる虚無な大地を見ていた。
時折吹く乾ききった風が全身の肌を撫で、漆黒の長い髪が靡く。
アンドロマリウス「…あの娘の成長速度は、異常なものだな」
誰かに話し掛ける訳でもなく一人言を呟いた。
アンドロマリウス「我々悪魔の脅威となる光の力。 いずれは四大天使をも超える力を持っている、可能性の塊。 異端とも言えるのか…お前のようにな」
?「異端と言えるのは、間違ってはいない」
先程まで一人しかいなかった大地に、瞬時に新たな悪魔が現れた。
紫紺色の長袖のシャツと黒色のズボン、茶色のブーツを着こなした見た目は17、18歳の美少年。
流れるよな月白色の首筋まで伸びる髪に、頭部からは少し湾曲し伸びる赤い角が生えており、背中からは天使を思わせる白い翼が生えているが、片方の翼は闇に包まれたかのように黒く染まっている。
アンドロマリウス「お前はあの小娘をどう思う?」
?「俺はまだこの目でその天使の実力を確かめてはいない。 実際に見てみなければ判断しかねないな。 今の俺達では相手にもならん、始末するなら今のうちだ」
アンドロマリウス「無論、見逃すつもりはない。 私も本格的に行動を起こすとしよう。 監視者共々、息の根を止める。 今回はお前も私と行動を共にしてもらうぞ、ルシファー」
ルシファーと呼ばれた青年は口角を僅かに上げるだけであったが、世界の監視者という強者と戦闘することを静かに歓喜している。
転生した少女、アイリの実力は未知数だが、特異体質であり強力な光の力を用いる点に関しては非常に興味を惹かれているようで、戦闘という愉楽の時を過ごせる。
本来のルシファーならば単独で行動するのを好む一匹狼のような性格をしているが、強者と戦えるという理由だけで充分共に行動する価値があった。
ルシファー「奴等は今別世界にいる。 天界で鉢合わせるよりは好都合ではあるな。 だが、今回はエクリプスではなく、その世界に住まう妖怪共が厄介だ」
アンドロマリウス「我々の邪魔をするようであれば滅却するまでだ。 …いや、ただ葬るだけでは面白味に欠ける。 悪魔らしい方法を使うとしよう」
アンドロマリウスは妖しげな笑みを浮かべ、漆黒の巨大な手を上に掲げると、全てを飲み込んでしまうような紫色のワームホールが出現した。
アンドロマリウスとルシファーは翼を広げ、空間の中心へ飛び込んでいった。
~~~~~
アイリ達が向かった世界でもなければアンドロマリウス達が住まう冥界でもない世界。
倒壊した建物が建ち並び、地面一帯は倒壊した建物の瓦礫が散在しており、生き物と鉄の焼ける匂いが充満している。
火災があったのだろうか、黒く焦げ付いた建物も多く見える。
それを裏付けるように、極僅かに火が弱々しく燃えている箇所もあり、火の粉が風により夜空へと舞い上がっていく。
戦争後を思わせる地獄絵図の中に、学生服を着たこの場に不似合いな格好をした少女、マリーが荒廃したビルの屋上に立ち街を見ていた。
マリー「…やっと、見つけた、『世界を喰らう者』。 次こそは絶対に逃がすわけにはいかない」
燃え盛る炎を宿したような強い決意を秘めた瞳で見据える場所には、異形の姿をした巨大な怪物が口を大きく広げ夜空に向け咆哮する姿があった。
マリーがいる場所からそれなりに離れた場所にいるとは言え、姿を視認できるあたり、その巨大さが伺える。
マリーは右手で制服のポケットからスマホを取り出し慣れた手付きで電話番号を打ち始め、左手は『世界を喰らう者』に手の平を向けるようにして構える。
手の平に橙色の炎を凝縮させた火球が生成され、徐々に膨張していく。
火球が充分な大きさになる間にマリーはスマホを耳に当て、『世界を喰らう者』を発見したことを報告するためリョウに連絡を取ろうとしていた。
しかし、電波は繋がるものの呼出音が数回鳴り続けるだけで、一向に出る気配がなさそうだった。
マリー「もう、何で出てくれないんだろ。 マナーモードにでもしてるのかな?」
何の音沙汰もないためリョウとの連絡を諦め、スマホをポケットの中へと戻し前方へと向き直る。
呼び出している間に火球はマリーの身長の二倍はある大きさまで膨れ上がっていた。
マリー「今は、私一人でなんとかしないとだね。 手始めにこの一撃で弱らせないと。 『太陽の終焉』」
両方の瞳を黄金色に光らせ、火球を『世界を喰らう者』に向け放つ。
目に見えぬ速さで放たれた火球は真っ直ぐ突き進み巨体に直撃する。
直後、核が落とされたかのような極大な爆発が起き、耳を貫くような爆音が響く。
『世界を喰らう者』がいた場所には巨大なキノコ雲が発生し、爆発の威力とそれによる爆風により、壊滅した街は跡形もなく吹き飛んでいく。
マリーが立っていたビルも轟音を立てながら崩れ吹き飛んでいくが、マリーは何事もないかのように爆風に飛ばされることなく宙へ浮かんでおり、爆発の中心部を見据えている。
マリー「…やっぱり、まだ倒れてない。 どうやったらそんなタフな体になるんだろう?」
爆煙とキノコ雲により視認するのは不可能に近いが、マリーは『世界を喰らう者』の存在を感知したようで、追撃を加えるために更地と化した地上へと足を着け、周囲に小さめの火球を多数生成する。
マリー「世界の均衡を保つためにも、塵芥になってもらうね」
『世界を喰らう者』を打倒するため、黄金色に輝く瞳となった両目で敵を見据え、無表情のまま距離を詰め始める。
二人の戦闘を見届けるの者はこの世界には誰一人として存在せず、夜空に浮かぶ月と星々だけが観戦していた。
五等分の花嫁のゲームもせねば。
やること多いぜ。