死ね、長寿を全うして幸せに死ね
アイリ「続きはwebで…と言ったな、あれは嘘だ」
真琴「誰に向かって話してんの?」
アイリは真琴を連れ裏庭へとやって来た。
先程のラミエルと轟の戦闘により木々が倒され見るも無惨な光景になっていたが、玉を主とする妖術により裏庭は完全に元の姿へと戻っていた。
枝の間から零れる日差しと木々をすり抜ける涼しいそよ風が肌に感じ取れ、心地好い空間に包まれている。
真琴「それで、私にどんな話があるの?」
アイリ「あたしが真琴ちゃんのココロのスキマ、お埋めします、ってことで、では単刀直入に。 真琴ちゃんって翔琉殿のこと好きでしょ?」
前触れなく放たれた問いに、真琴は体の奥底から火が燃え上がるような熱さを感じ、顔も自然と林檎のように赤くなっていく。
手を前で組み足をもじもじと動かしている様と表情は、正に絵に描いたような恋する乙女そのものだった。
真琴「と、唐突すぎやしない!? そりゃ主のことは好きだけど、いいい、いざ他人に言われると、恥ずかしくて赤ちゃんできちゃいそうだよ…///」
アイリ「何処でネタセリフを覚えたかは触れないとして、真琴ちゃんは翔琉殿と恋仲になるのをどうして躊躇してるの?」
真琴「うっ…何で分かるの? 読心術でもあるの?」
アイリ「あたしは覚妖怪じゃないんだから心を読み取る術は使えないよ。 ただ、なんとなく雰囲気で察しちゃってさ。 翔琉殿に好意を行動で表してはいるけどなかなか口では出せないって感じだよね?」
図星なのか、真琴は目線を反らしながらもこくりと小さく頷く。
アイリ「もしかして、だけどさ。 恋仲になれない、と言うよりはできない理由って、翔琉殿と真琴ちゃんが主従関係にあるから?」
真琴「…凄い、そこまでお見通しだなんて。 主みたいに読心術を使用しているみたい。 初見は薄馬鹿に見えたけど、案外、人を見る眼はあったのね」
アイリ「めちょっく。 あたしの第一印象ってそんな悪かったんだ。 まぁよくあたしの世界にある漫画やアニメのネタを口走ってるから仕方ないか。 これでもあたし頭脳明晰なんだからね?」
自己評価が矢鱈高いのは相変わらずだが、転生する前、現実世界で通っていた学校では学年首位の成績を収めていたので頭脳明晰であったのは紛れもなく事実ではある。
以前にも語ったが、アイリは現実世界で暮らしていた頃は物静かな何処にでもいる勉学少女だ。
アイリ「人との関わりはあんまりなかったけど、少しは人を見る力はあるんだから。 それにね、何処と無くなんだけど、真琴ちゃんの恋について、共感するところがあるんだよね」
真琴「え、どういうこと?」
話せば長くなると思ったアイリは付近にあった座り心地が良さそうな下部に苔が生えた岩に腰を下ろした。
真琴もアイリと同じように岩に腰を下ろし真剣な眼差しで話を聞く体勢になる。
アイリ「ん~っとねぇ、あれはあたしが中学生の頃だったかな…」
~~~~~
白澤愛莉が中学三年生の頃、ある一人の少年に恋をしていた。
少年の名前は佐島 蓮。
同じクラスにいるサッカー部に所属しておりスポーツ万能で、文学少女の愛莉とは真逆で、活気に満ち溢れていた少年。
愛莉が恋をしたきっかけは、大したことのない些細な出来事だった。
愛莉のクラスでは出席番号の順番で週変わりの掃除当番が決められており、愛莉と蓮は一緒に掃除をすることになっていた。
転生前の愛莉は人見知りで、況してや異性である蓮と掃除をする時間が苦でしかなかった。
蓮は優しい心の持ち主で、然程会話もしたことのない愛莉の緊張を解こうと何度も声を掛けてきては、場を明るくしようとしてくれた。
愛莉は蓮の行動に嫌悪感を抱いてはおらず、緊張を解こうとしてくれていると分かってはいたものの、人見知りで上手く会話が続かず、気不味い空気になっているのではないかと思っていた。
針の筵に座らされているような気持ちになり、時間が光の速さで過ぎてくれはしないかと切に願うしかなかった。
ある日の放課後、愛莉は蓮と共に中庭の掃除をしていた。
枯れ葉が舞い落ちる時期で、枯れ葉が地面を赤や黄と言った色とりどりなものへ染め上げる。
落ち葉が多かったため、掃除時間も長引き日が沈み始め、冷たい風が肌を刺す。
枯れ葉や砂等のごみを丁寧に集め終え、ゴミ袋に入れ開かないよう締め、袋をごみ置き場へと持っていこうとした。
しかし、今日は格段に風が強い日であったため、木々の枝から抵抗されることもなく落ちた枯れ葉が地面に散乱し、通常の二倍はあるであろう量があると目視で分かるほど多かった。
掃除を終えた時点で袋は五つになっており、中学生の少女が一人で持つのは難儀であった。
二つずつ持ち、面倒だが往復して捨てに行こうとした時、蓮が早足で愛莉の持つ袋を掴み取り、残りの袋を全て手に取り、「俺に任せとけ!」と幼い子供のような朗らかな笑みで言い、走ってごみ置き場へと向かって行った。
不意な出来事だったので、目を丸くしていたが、気付いていた時には愛莉の心は悦楽に充溢していた。
_____自分のような影で過ごしている自分にも、自然に接し、笑顔を浮かべてくれるんだ。
愛莉は物静かで誰かと会話をしたとしても口数が少ないため、余程の用件がなければ誰も喋り掛けては来ない。
そんな細々と過ごしているような根が暗い自分に明るく笑顔を向け話してくれた、些細な事ではあったが心が温かくなるような心地好さを感じた。
誰かと接することの喜びなのか、愛莉にとって得体の知れない不思議な感覚に浸っていると、ごみを捨て終えた蓮が走って戻って来る。
序でにと言わんばかりに愛莉の使用していた竹箒とちりとりを自分の使用していた物と纏めて納めに行った。
暫くすると再び戻ってきたので、愛莉は堪らず何故自分の手助けをしてくれたのかを尋ねた。
何故関わりもない自分を気に掛けてくれたのか、素朴な疑問をぶつける。
普段自ら進んで話をすることのない愛莉に一瞬驚いた表情を見せるも、直ぐ様明るい笑みを浮かべ彼は述べた。
「困ってる奴を助けるのは当たり前だろ。 白澤さんは俺の大事なクラスの一員なんだから、助けるのは当然だろ?」
漫画で出てきそうなセリフを淡々と述べた。
女性の前だから格好付けているのではなく、きっと、これが彼の本心なんだろう。
蓮は部活に行くために背を向けると、別れ際に「また明日な!」と片手を上げると、再び駆け足で走って行ってしまった。
愛莉は蓮に答えるように上げていた腕を下ろし、高鳴る鼓動を刻んでいる心臓を抑えるように胸に手を当てる。
感じたことのない、心躍るような感覚だった。
なんとなくだが、心の中で感じている、抱いている物が分かったような気がした。
_____あたし、蓮君に恋しちゃったんだな。
その日から過剰に蓮の事を気にし始めてしまい、掃除の日でもない日常でも彼が廊下ですれ違ったり視界に入るだけで胸の鼓動が高まってしまい、完全に恋愛漫画の登場人物である恋する女の子宛らの状態になっていた。
恋の病とは良く耳にしたことはあったが、恐ろしいものなのだと痛感する。
人見知りである筈なのに、誰かを好きになるなんて不思議とは薄々自分でも気付いてはいたが、何故好きになってしまったかは明白だった。
誰からも相手にされなかった自分に、蓮は躊躇いなく話し掛け、優しく接してくれた。
大層な事ではない、極普通な事。
だが、愛莉にとっては心を動かされる出来事で、恋と言う自分にとっては贅沢すぎる感情を知り、世界が変わった。
自然と胸の鼓動が早くなる。
今すぐにでも胸の内にある思いを告げたい。
恋仲になりたい。
初恋に胸を踊らされていたが、時間が経つに連れ、自分は蓮に相応しい相手ではないと気付いてきてしまった。
何故このような暗い思考になってしまったかは、自分自身の存在にある。
蓮は明るく誰とでも打ち解けるクラスの中心とも呼べる頼られる存在。
比べて自分はどうだろうか。
勉強ができるだけで誰とも会話をすることのない静かな存在。
陰と陽。
光と影。
愛莉と蓮は、赤の他人のみならず、学校にいる人達から見ても正反対とも言えるような立ち位置にいる。
自分では相応しくない、関わると迷惑が掛かってしまうのではないか。
彼と自分では見ている世界も違えば立場も違う。
周囲の目を気にしてしまい、人間関係的に無理なのだと心の中で思うようになっていってしまい、愛莉は初恋を諦めた。
綺麗さっぱり諦めてしまった方が楽になるだろうと考えてはいたものの、胸の内にあるわだかまりが取れる筈もない。
悄然として俯く日々が続くこともあったが、漫画やアニメ、ゲームの世界に逃げることで気を紛らわしていた。
だが本当は諦めたくない。
未練が残る想いが心の中にあったが、変わらない平凡な日々は無情にも過ぎていき、卒業式を迎えた。
愛莉と蓮はそれぞれ別の高校へと入学するため、会う機会はなくなってしまうだろう。
卒業式と言うこの日が、恐らく会うのが最後になる。
最後と分かっていたが、己を軽蔑視していた愛莉は、友達と笑い合いながら写真を撮っている蓮に声を掛けることは出来なかった。
こうして愛莉の初恋は誰にも知られることなく、静かに終わりを告げた。
~~~~~
アイリ「…と、まぁ、そんな事があったのさ」
真琴「アイリにも恋をしていた時期があったんだね。 結局、卒業をしてからは蓮って言う少年とは一度も会う機会はなかったの? 街中ですれ違ったりとか」
アイリ「なかったねー。 やっぱり卒業式のあの日、自分の価値観なんか関係なく、勇気を振り絞って、玉砕覚悟で気持ちを伝えていたら良かったなって思ったりする時はあるかな。 後々後悔するってのも分かってたような気もしてたし」
過去の行動を思い出し苦笑いを浮かべる。
真琴「後で後悔するくらいなら、絶対に言っといた方が良かったよ。 アイリの事を蔑む訳じゃないけどさ、後々後悔するって分かってるのに、行動しないなんて愚かだよ。 幸せな道があるのに、自分から進もうとしてないんだもん。 私だったら、後悔しないよう、全力で想いを伝えるよ」
口調が厳しくなりながらも、一息付いてから続ける。
真琴「自分が恋した人と相応しくないから諦める…人生を損してるようなものだよ。 人生ってのは自分が幸せにならなきゃ意味なんてないんだから、他人の目なんて気にする必要はないし、相応しくないなんて決めつけなくてもいい。 大事なのは自分が好きかどうかなんだから。 後悔しないためにも、関係が崩れてしまう状況になるかもしれなくても、恐れずに告白すればいいと、私的には思うよ」
現在進行形で恋をしている真琴の熱弁に、アイリは一瞬怯み目線を反らした。
真琴の発言にアイリの心は少なからず動かされ、初恋をしていたあの時に、やはり告白していれば良かったなと、自責の念が生まれていた。
だがここで踏み止まり、更に怯み退いていては相談する意味がないため、自責の念を封じ込め、再び真琴と目線を合わせる。
アイリ「…たしかに、真琴ちゃんの言う通り。 あたしは結局は逃げていただけ。 後悔してる。 勇気がなかったあたしを情けないと思ってる。 だから、あたしの様に、悲劇のヒロインってのは大袈裟だけど、真琴ちゃんになってほしくはないから、あたしは話をしてるんだよ」
真琴「アイリと同じようになってほしくないって、それってどういう……あっ」
アイリ「気付いた? あたしと状況や立場も違うけど、真琴ちゃんはあたしと同じなんだよ。 それぞれの関係が違いすぎたっていい。 相応しくないなんて思う心配もない。 恋の形なんて色々あるんだから、気にする必要なんてないんじゃない?」
真琴「うっ、そうなんだろうけど、主従関係同士が恋仲になるなんて、常識的に許容できない行為だし…」
アイリ「この世界の役職のお偉いさんが決めた法律かルールなの? 」
真琴「法律ではないけど、普通にあり得ないでしょ。 況してや私、妖怪なんだよ?」
アイリ「種族が違うっていうのも気にしないこと。 固定観念なんかぶっ壊しちゃえばいいんだよ!」
真琴「アイリの思考は大分吹っ飛んでるわね。 でも、なんだか悩んでた自分が馬鹿みたい。 私の主を想う気持ちは誰にも負けてないし、曲げるつもりも折られるつもりもないんだし。
ありがとねアイリ。 告白する勇気が少し付いた気がするよ」
礼の言葉を掛けられアイリは満足気に頷き笑みを浮かべている。
天使の使命というものがどのような事なのかは分からないが、誰かの悩み事を解決できたと実感し、現実世界で暮らしていた時には決して味わうことができなかったのかもしれない、他人を助力する事の清々しさを知った。
真琴「うわ、めっちゃ笑顔になってる。 私だから良いけど他人が見たら引きそうな笑みになってるよ」
(^U^)←こんな顔
アイリ「軽く毒を吐かれた。 翔琉殿にも告白染みた事を淡々と述べてるんだから、今と同じようにしっかりした告白をすればいいのに」
真琴「は、はは、恥ずかしいよ! 勇気は出たけど、やっぱりいきなりじゃ…! あぁんもう! しっかりしなさい私ー!」
再び顔を赤く染めた真琴は身を捩り始め、告白をするのに何故か羞恥してしまう自分を奮い立たせようと頬を数回強めに叩く。
自分で叩いておきながら痛かったようで、涙目で頬を擦っている。
真琴「いたたた…よぉーし、近々必ず告白してやるんだから。 当たって砕けろだ! 覚悟しといてよ主!」
アイリ「砕けちゃダメだから。 激マジにラブってるところを拝めるよう応援するからね!」
我武者羅ではあるが、真琴の心の中は想いを全力で伝えようとしている熱意が轟々と燃え盛っている。
決めたからにはやり通す信念を胸に、幸せを掴み取るため必ず成功させる意を強くした。
翔琉「覚悟してねとか聞こえたけど、何の話?」
真琴「え゛゛っっっ!?!?」
アイリ「アイエエエ!?」
突如として視界に現れた翔琉に真琴は驚愕のあまり普段では出ることがないような声が喉から吐き出される。
告白すると決断した直後に恋する男性が目の前に現れ、緊張と焦りで体の節々から冷や汗が湧き水のように出てくる。
翔琉「そ、そんなに驚かなくても」
アイリ「え、えと、翔琉殿は倉の整理をしてるんじゃなかったっけ?」
翔琉「まだ整理の真っ最中だよ。 喉が乾いてしまったから水分補給を取ろうと戻ってきたんだ。 そしたら二人を見つけたから声を掛けようとしたら真琴が覚悟しといてよって声が耳に入ってね」
アイリ「そ、そうなのかー」
翔琉「それで真琴は僕に何を覚悟してと言ったんだい?」
話が盛り上がり他者が接近していることに気付けなかったのを不覚に思いつい頭を抱えてしまう。
翔琉は二人の会話の内容を知る由もないため真琴に遠慮なく質問を投げ掛けている。
アイリ(ん? 待てよ、ピンチをチャンスに変えてしまえばいいじゃないか!)
アイリは真琴の隣へ自然を装って近寄り耳打ちする。
アイリ「突然すぎかもしれないけど、告白する時だよ!」
真琴「はいっ!? 幾らなんでも急すぎるよ! こ、こ、心の、準備が…」
アイリ「遅かれ早かれいずれか実行する事になんだから! ほら、ギュインギュインのズドドドドっていっちゃいなよ!」
真琴「どんな感じなのよそれ。 でも、頑張ってみる!」
真琴は自分の頬を軽く叩き翔琉へと向き直す。
翔琉を意識し過ぎているせいか、頬を赤く染めているどころか、表情が固まってしまっている。
翔琉「真琴? 僕の思い違いならいいんだけど、普段と様子が変だよ?」
真琴「ふぇっ!? そ、そんなことないでありんすよ!?」
常日頃から真琴と生活し、陰陽師としての活動を共にしている翔琉には既に真琴の異常に気が付いており、首を傾げながら尋ねる。
翔琉「頬が赤いみたいだけど、熱でもあるの?」
真琴「ひゃう!?!?」
体調が優れていないと思った翔琉は手を真琴の額に当て熱があるかないか確認した。
不意に額に触れられたことにより真琴は顔全体が林檎のように赤く染まってしまい、緊張と羞恥心で動悸が速まっていく。
翔琉「熱くなってるじゃないか! 徐々に熱くなっていってるみたいだし、床に就いて今日はもう寝ていた方がいいよ」
真琴「………」
翔琉「真琴? 体調が優れないなら肩を貸すよ?」
真琴「……か」
翔琉「え? 何か言った?」
真琴「主のバカーーーー!!」
体を回転させ即座に妖気を貯めた拳で翔琉を真横から殴りつけてしまった。
訳も分からず脇を殴られてしまった翔琉の体は横にくの字に曲がり、悲鳴を上げることすら許されず竹藪へと吹き飛んでいき視認できなくなってしまった。
アイリ「わぁ~お! ノックアウトクリティカルスマッシュ!
って、ゆうてる場合か! 真琴ちゃん! 吹っ飛ばしちゃってどうすんのさー!? 告白していい雰囲気になると思ってたら一気にコメディになっちゃったよ!」
真琴「だ、だってー! 私の気も知らないであんなことされて動揺しないなんて無理だよ!」
アイリ「ありゃま、今まで通り接することができなくなっちゃったくらい意識しちゃってるね」
真琴「あーもう主を殴り飛ばすことなかったのにぃ! 私のバカバカバカバカバカー!!」
両手で顔を隠しこれまでに無い程取り乱れた様子で家の中へと走り戻ってしまった。
真琴の気持ちを引き出し告白する勇気を与えることは成功したが、結果的に良い方向に進んだのかと言われると釈然としないところだ。
心中複雑な思いではいるアイリは頭を掻き苦笑いしつつ真琴の後を追っていった。
~~~~~
翔琉「痛いなぁ…何で殴り飛ばされたんだろ?」
岩に激突し陥没した箇所から這い出てきた翔琉は体の節々に感じる痛みを堪えつつ先程の出来事について疑問を抱き思考を巡らせていた。
翔琉「急に触れたのがいけなかったのかな? 毎度僕に触れかかるからこの意見は違うと思うけど…」
リョウ「翔琉殿は以外と鈍感やなぁ」
翔琉「…急に現れるのはやめてくれないかな? 歳じゃないけど心の臓に悪いよ」
ふと気が付くと翔琉の隣には腕組をしながら呆れたように息を吐くリョウの姿があった。
リョウ「本当は真琴の気持ちに気付いてるんじゃないのか?」
翔琉「…何となく、だけどね」
リョウ「答えてあげてもええんやないか? 翔琉だって真琴の行為に抵抗する様子を見せないあたり、満更でもないって感じもするし」
翔琉「満更でもないって程じゃないさ! ただ僕の家臣である真琴に恋愛的に好意を持っているってだけさ」
リョウ「躊躇いもなくさらりと言ったな。 アイリも真琴に同じ事を言ったと思うけど、種族の壁なんて関係ないんやから、翔琉の気持ちを伝えてあげればええ」
翔琉「僕は……」
翔琉も真琴と同じ思いを心の内に閉まっていた。
だがこれも双方同じように、異種による恋愛は常識外れと思っている事と、主従関係であることが壁となり告白を行えないままで止まってしまっていた。
リョウは先程までシャティエルと中庭で時間を過ごしていたのだが、世界の監視者の力を利用して何処にいるか確認し赴いて来た。
薄々真琴へと思いに気付いており何時かは助言しようと思っていたのだが、今現在リョウは時間を掛けて会話する時間を割くことはできない状態にあった。
リョウ「まぁ行動を起こすかどうかは翔琉に任せるよ。 ただ、女性の方から告白させるより、男性の方から先に告白するのが道理、とまでは言わんが、かっこよくはないぞ。 さて、シャティエルには伝えたが、わしとピコ、アリスは暫くの間この世界から離れるから、アイリ達の面倒を頼む」
翔琉「え、もう行くのかい?」
リョウ「世界の監視者は以外と忙しいのよ。 今回ばかりはわしが向かわないといかん。 何しろ相手は、世界全土が戦く、『世界を喰らう者』なんだから」
その名を聞いた途端、翔琉の表情が瞬時に強張った。
翔琉「奴が、再臨したのか。 たけど何故だ? 何故何度倒しても復活を遂げるんだ?」
リョウ「真相は掴めてへん。 時空防衛局にも頼んでもらってはいるが、奴の生態は謎過ぎる故に、成果は望み薄やな」
リョウはワールドゲートを召喚させ、改めて振り返り翔琉と向き合う。
リョウ「すまん、これはわしからの頼みや。 この世界は魑魅魍魎とした妖怪が住まう。 いつ何があっても可笑しくはない。 アイリに危機が訪れないよう、魔の手から守ってほしい」
翔琉「任せておいて。 真琴と轟と玉、皆と力を結集させて守り抜いてみせるよ、必ず」
リョウ「ありがとう、恩に着るよ」
翔琉「報酬は弾ませてもらうね」
リョウ「対象を守護するっていう陰陽師の依頼になっちゃうのかい? 今度海の幸を送らせてもらうよ」
かるい冗談を言い終えお互い小さな笑みを浮かべた。
リョウは翔琉の答えに安堵し、背を向けワールドゲートの中へと入って行った。
翔琉「ありがとう、リョウ。 それと、死なないでよ。 さて…と。 僕も覚悟を決めないと…」
僅かではあるが背中を押された翔琉はリョウに謝意を述べると同時に武運長久を祈りその場を後にした。
~~~~~
マリーが戦闘を開始した直後と比較にならない大量の瓦礫が散乱し、轟々と燃える火の手は止まることなく燃え広がっている。
辺りは橙色の光で照らされ、夜空でさえも橙色に染め上げる。
ほぼ全ての建物は倒壊し、見知らぬ者がこの景色を見ると、以前街だったと言う者はいないだろう。
それ程にまで地獄と呼ぶに相応しく豹変してしまっていた。
何より異彩を放っているのが、夜空に開いた数多の裂け目だ。
全てを飲み込むような漆黒の色の空間が裂け目から覗いており、裂け目の断面からは微小ながら金色の粒子が出ている。
裂け目だけではなく、地面からも金色の粒子が出始めており、火の粉と共に夜空へと昇り儚く消えて行く。
瓦礫が積み重ねられた中に、先程までマリーと戦闘を繰り広げていた異形の怪物が巨大な口を広げ倒れ絶命した姿があった。
絶命した事を確認するため側に寄っていたマリーは傷を負ってはいないものの、所々学生服が破けており、周囲の状況も相俟って、戦闘の凄まじさを物語っていた。
マリー「そんな…こんなこと、信じられない…!」
マリーは己の眼に映る現実が信じられずにいた。
眼に映っていたのは横で倒れている怪物ではなく、前方に映る巨大な影。
先程死闘を繰り広げた怪物と大きく異なるのはその巨体で、二倍程の大きさであること。
それ以前に、信じられないのは、
マリー「どうして、『世界を喰らう者』が二体も存在しているの?」
複数個体が存在しているということ。
これまでは倒しても必ず何かしらの原因で復活を遂げていたとばかり考察していたため、別個体が存在すると言う考えには誰も至らなかった。
故に驚きの色を隠せずにいた。
マリー「何体現れても、私のやるべき事は変わらない。 必ず葬ってみせる。 『爆炎の鉄槌』!」
隕石の如く速さで放たれた炎の柱が怪物の真上から放たれ、周囲数百メートルを巻き込むほどの大爆発が起こった。
マリーは爆発に巻き込まれないよう瞬間移動で距離を取ってはいたが、爆風や吹き飛ばされた瓦礫が降り注いで来ており、誰かが周囲に居れば確実に消し飛んでしまう凄まじい威力を誇るものだというのは一目瞭然だ。
だがマリーは決して警戒を怠ってはおらず、新たに技を放とうと火球を複数生成させていた。
次なる一手を放とうとした刹那、爆炎の中から紫色の光線がマリー目掛けて放たれた。
マリーは直ぐ様周囲の炎をかき集め防御壁を張ったが、それより早く流れるように横から割り込んだ白い粒子により、光線は水を弾く様にして散り散りになり消えていった。
マリー「もう、リョウさん遅いですよ」
リョウ「すまんな、携帯の着信に気が付かんかったわ」
翔琉達のいる世界から移動してきたリョウが『天使の加護』を発動させながら、空中から純白の光の翼を広げ舞い降りてきた。
続くようにアリスもマリーの隣へと空中から降りてきた。
リョウの上着のポケットに身を潜めていたピコも飛び出し、人間サイズになると同時に自身の武器であるピコピコハンマーを取り出し、神妙な面持ちで怪物を見据えている。
リョウ「想定外な事態やな。 監視者であるにも関わらず早急な発見を行えなかったのが痛いわ」
マリー「自責の念を抱くのは後でね」
リョウ「そうしたいところではあるけど、世界がまた一つ消滅しようとしてるからな…」
アリス「私、こんな光景見たくないよ…」
リョウ達は既に察していた。
足を着けているこの世界が終焉の時を迎えている事を。
リョウ「でも、幸か不幸か、この世界の人達は戦争を繰り返した挙げ句、自らの兵器により滅んでしまったから、不謹慎だけど、避難させる対象がいない、戦闘の妨げにならないのはありがたいかな」
ピコ「一つの世界が消滅する事に変わりはないけどね。 奴のせいで」
マリー「これ以上悠長にはしていられない。 世界が消滅する前に、もう一体現れたあいつを倒さないと」
マリーの両目の瞳が金色に染まり輝きを放つ。
アリス「ポルナレフ状態になるまでデジョンを打ちまくってやるんだから!」
十数メートルもある怪物に怯懦する様子は一切なく、(と言うよりアリスは何者にも恐れないような性格をしているというのもあるが)闘志を燃やした瞳に映る敵影を見据えながら自身の武器であるユグドラシル・アルスマグナを手にする。
リョウは無言でアルティメットマスターを引き抜き、力強く柄を握り左目の瞳を金色に輝かせ、ピコも両目の瞳を金色に染める。
全員、冒頭から全力で挑むつもりだ。
アリス「私もその力があれば戦闘が有利なんだけど…冗談でも言っちゃいけないよね」
ピコ「流石にそれはダメだね」
リョウ「相手によっては頭と体を繋いでいる部位を吹き飛ばしてるところやわ。 それに、アリスはわしらの力に対抗する力があるのに何を言うか」
アリス「じゃあ私はこの中で一番強いってことだ! ジレンや範馬勇次郎も倒すの余裕! 私は最強だー!」
先陣を切ったアリスは目にも止まらぬ速さで宙を駆け抜けて行く。
アリスを視認した怪物は咆哮を上げ前進を始め、足が地面に着く度に地が揺れる。
リョウ「さてと、始めるか。 何体いようが、消滅させてやるよ、ヴィラド・ディア」
怪物の名を言い、地面が割れるかの如く地を踏み締め死闘を繰り広げようと駆け出した。
因みに私は恋人はいたことあります笑