ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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オリンピックいよいよ始まりましたね!
開会式を視聴してましたけど歴史的瞬間を見てるんだなってちょっと感慨深いものがありました


第34話 目覚めた記憶

 

~アイリside~

 

単刀直入に言うね。

めっっっちゃ苦戦してる。

あたしはアンドロマリウスの過剰な攻撃を避けきる防戦一方、技を出す暇すらない。 おイタが過ぎるね!

虚弱貧弱無知無能な人の子じゃなくて天使なんだから、悪魔に負けてなんてられないのに、普通にヤバい状況に陥ってる。

こ↑こ↓があたしの死に場所になるのはごめんだよ。

…転生してる時点で死んじゃってることにはなるんだろうけど、長生きしたいもんね!

 

アンドロマリウス「威勢が良かったのは最初だけか、元人間の娘?」

 

不敵な笑みを浮かべるアンドロマリウスの攻撃を避けつつ一瞥する。

周囲には闇の力で生成された紫色の蛇が数匹存在し、大口を開けてあたしに向けて光線を射ってくる。

中には丸呑みしようと突貫してくるものまでいる。

ガーンデーヴァでバリアを展開しつつ避け続けてはいるんだけど、そろそろ体力が限界に近付きつつある。

アリスちゃんの魔法やシャティのレーザー程の段幕とも言える数ではないにしても、激しい行動を続けていると流石のあたしでも疲労困憊だよ。

 

基礎体力を上げるために筋トレしておくべきだったと悔恨するよ。

キン○マン Go Fight!を聴きながらダン○ル何キロ持てる?を見て得た筋トレをしておけばこんな羽目にはならなかった…かもしれない!

 

アイリ「娘とかその呼び方やめてよね! あたしにはアイリって名前があるんだから!」

 

アンドロマリウス「未だ活気は健在か。 更に苦しみを与えてやろう」

 

アイリ「悪魔ってのはみーんなドSかよ! これ以上やられるのはうんざりなんだから!」

 

持てる力を振り絞るしかない。

気を抜けば待ってるいるのは間違いなく、死。

 

あたしの中に宿る光の力を解き放つ。

 

全身に温かなエネルギーが迸る。

ベルゼブブの戦闘の時と同じように白い光の粒子が立ち込める。

ガーンデーヴァもあたしと共鳴するように淡い輝きを放っている。

 

アイリ「ここからはあたしのターンだ! 『スプレッドアロー』!」

 

先ずはあたしに向かって来る蛇を光の矢で相殺。

次にアンドロマリウスの周囲を漂う蛇を射る。

まだ未熟なあたしの攻撃で消滅するあたり、光の力が如何に特効性があるものか分かる。

あたしがこんなに強いのも、あたり前田のクラッカーだね!

 

アイリ「涙と鼻水の覚悟はいい? 答えは聞いてない! いっけー!『ストレートアロー』!」

 

放たれた光の矢はアンドロマリウスの体の中心へと一直線に空を駆ける。

 

アンドロマリウス「悪魔にも恐れず立ち向かう姿勢は勇壮だ。 元人間とは思えない。 だが…」

 

大木のように巨大な右腕を振るった。

そう、虫を払うように振るっただけ。

まるで己の周囲に飛ぶ虫を払い除けるように振るっただけで、あたしの放った矢は腕に弾かれ宙を舞い地面へと落ちた。

 

アイリ「うぅ…流石、サタンフォー最強と言われるだけはあるんだね」

 

アンドロマリウス「録に戦闘経験のない貴様に押されると思っていたか? 己の力を過信しすぎだ」

 

アイリ「自信があるって言ってほしいなー。 自信を持たないと、何事も成功には至らないもん」

 

アンドロマリウス「自信があれば、何事も乗り越えられると? 楽観的だな」

 

アイリ「そうですね(いいとも並感)」

 

アンドロマリウス「…調子が狂う。 終わらせてくれる。 『愚者殺し』」

 

巨大な拳を血が滲み出るのではないかと思うほど握りしめたと思うと、高速で接近し、闇の気を纏ったパンチを放った。

涼しい顔で繰り出される一撃一撃がどうしようもなく重い。

歯を食い縛り光の力を極限まで高めてガーンデーヴァを使い防御に徹する。

 

アイリ「ぐっ…!」

 

アンドロマリウス「私の技を受け止めきれることは評価しよう。 だが、人間の時と同じように、口数だけが多いだけの雑魚だな」

 

アイリ「あたしの心を覗き見て言ってくるんだろうけど、形のない刃物じゃあたしは傷付かないよ!」

 

『シャインアウト』を繰り出し距離を取る。

尋常ではない威力の打撃を受け続けて、あたしの腕は衝撃だけでヒリヒリと痛みが走り震えている。

弓の使い手としては腕にダメージを受けるのはちょびっと痛いな。

でも弱音は吐いていられない。

ガーンデーヴァの先端をアンドロマリウスに向け、『輝弓牙』を放つ。

湾曲した刃は強靭な右腕により防がれ、一瞬の隙を見せてしまった。

 

アンドロマリウス「貴様の心を覗き見ている訳ではない。 実際に貴様が私と出会ったことがあるから分かりきっているだけだ」

 

アイリ「え、どういう…」

 

アンドロマリウス「知る必要などない。 貴様は今から――-」

 

言葉の意味が分からず動きが緩慢になった。

嘘やはったりだったのかもしれないけど、アンドロマリウスはその瞬間に攻撃を仕掛けようとした。

 

あたしは容赦ない一撃を受け死ぬ、筈だった。

 

突如アンドロマリウスが真横に吹き飛び大木に激突した。

アンドロマリウスから発せられた言葉の意味や現在の事態の状況に混乱していると、上空からエメラルドグリーンの綺麗な半透明なガラスのような翼を広げた天使が静かに舞い降りた。

危機的状況に陥っていたあたしにはまるで本物の天使にさえ見える。

 

エンジェロイドの少女、シャティエルだった。

 

シャティエル「大した怪我がないようで良かったです」

 

アイリ「シャティ! 無事だったんだね! 来てくれてありがとう!」

 

シャティエル「アイリさんは私にとって大事な仲間です。 助力するのは当然です」

 

シャティが無事だったことが何より嬉しかった。

体の至る箇所が汚れているのを見る限り、仲間の誰かを探そうと必死になってくれてたんだと思う。

シャティに出会えたことに感動して少し涙腺が緩んじゃった。

 

アンドロマリウス「機械人形の分際で私を吹き飛ばすとは…」

 

シャティの技を受けたにも関わらずピンピンしてる。

あいつの表皮が堅すぎるんじゃない?

ツボツボだったりコダイゴン、千年の盾にも負けない固さだったり、若しくは体がカッチン鋼でできてるとか…あるわけないけど。

 

シャティエル「アイリさんを傷付けるようであれば、容赦は致しません。 力ずくですが、己の世界へと帰っていただきます」

 

アンドロマリウス「機械人形に指図されるつもりはない。 娘共々、死ぬがいい」

 

死ぬのなんか絶対ごめんだ。

シャティも来てくれて百人力だし、勝利への希望の光が少し見えてきた。

 

アンドロマリウスが私と出会ったことがあるって言ってたことが心に引っ掛かってるけど、今は戦闘に集中しないとね。

戦わなければ生き残れないしね!

 

アイリ「さぁて、振り切るよ!」

 

 

~三人称side~

 

 

アイリは宙へ飛翔し、『ファイブストレートアロー』を放つ。

空気を切り裂きながら進む5本の矢はアンドロマリウスの巨大な右腕に刺さるも、効果は然程ないようで、傷が少し付くだけだった。

光の力は悪魔には特効だが、尋常ではない硬度を誇る右腕は効果が薄いと察したアイリは体の中心へと的を変え、5本の矢を放った。

 

アンドロマリウス「取るに足らん貧弱な攻撃だ。 『狂舞蛇撃』」

 

闇の力で生成された紫色の蛇が現れ、口から放たれた光線により相殺された。

牙を剥き出しにしアイリに襲い掛かろうとしたところにシャティエルが光の刃で喉を掻き切った。

空中で振り返り様に肩に装備された小型の砲身から『ソニックプラズマ』を放つと同時にアイリが後方から『ストレートアロー』を射った。

初めてとは思えない見事な連携だったが、アンドロマリウスは新たに召喚した蛇を盾にし防ぐ。

 

シャティエル「『ライトガトリング』、一斉発射」

 

アンドロマリウスの周囲に魔法陣が出現し、機関銃の砲身が姿を見せた瞬間一斉に火を吹く。

光弾が四方八方から容赦なく降り注ぐ。

アンドロマリウスはその場から動くことはなく防御の姿勢を取る。

光弾が体に直撃する度に小規模な爆発が起き煙が上がり視界を遮る。

放射が終わった時には煙により姿を視認できなかったが、アイリは自身の能力、シャティエルは赤外線で視認する機能でアンドロマリウスがまだ煙の中に身を潜めているのが分かっていた。

 

アイリ「まずいなー。 見えないから『スプレッドアロー』で…」

 

シャティエル「待ってくださいアイリさん。 私には相手の姿を視認できているのでお任せください」

 

アイリを制すると、魔法陣から『光粒子ライトブラスター』を2丁取り出しエネルギーを充填する。

銃口から光弾が放たれる直前、アンドロマリウスが煙を凪ぎ払い漆黒の翼を広げシャティエルへ突貫した。

 

アンドロマリウス「隙が多いぞ、機械人形」

 

アイリ「ファイトオオオオオ!いっぱああああつ!」

 

『ストレートアロー』を射つと同時に急降下しつつガーンデーヴァを横へ大きく振るった。

攻撃に勘づいたアンドロマリウスは一度その場で停止することで矢の軌道から逸れ回避し、右腕で弓の一撃を防いだ。

アイリはガーンデーヴァを手放し、宙を一回転し威力を付け顔面に回し蹴りをお見舞いした。

アンドロマリウスは一瞬蹌踉けたが、膝蹴りを腹に食らわせ殴り飛ばした。

アイリは小石のように軽々と転がり大木へ背中をぶつけ倒れる。

 

アイリ「かはっ! …痛い、な。 でも、まだまだ!」

 

両手に槍のように長い矢、『アローランサー』を召喚し翼を広げ地面すれすれを滑空する。

ガーンデーヴァを意思のままに動かし右腕を抑えている間にアンドロマリウスに攻撃を仕掛けるという戦法だった。

だがアイリの考えはアンドロマリウスには筒抜けだったようで、新たに蛇を召喚し直ぐ様攻撃へと移った。

真っ正面から速度を落とすことなく飛翔するアイリには回避する術はなく、大口を開けた蛇の牙の餌食になるのは見て当然と言える結果になるだろう。

 

アイリ「邪魔だゴッ太郎ー! 『アロービーム 』!」

 

手にした矢を突き出し、矢先から光線を放った。

光線は蛇の大口を通過し闇で生成された体を貫通しアンドロマリウスへと向かっていき横腹へ命中した。

体勢を崩したところにガーンデーヴァを操作し肩から横腹へかけ切り裂いた。

更にエネルギーを充填し終え、タイミングを見計らっていたシャティエルは『光粒子ライトブラスター』の引き金を引き光弾を発射する。

アンドロマリウスは腕を前に交差し光弾を全て受けることにより防ぎきった。

 

腕からは煙が上がっているものの目立った損傷はなく、顔は余裕綽々と言える表情をしている。

 

アイリ「大したダメージがないなんて…」

 

アンドロマリウス「元人間や機械人形にしては上出来だと誉めておこう」

 

シャティエル「アイリさん、まだやれますか?」

 

アイリ「当然!」

 

アイリは手元に引き寄せたガーンデーヴァを手にし『ストレートアロー』を射つために矢を出し矢尻を弦に掛ける。

 

アンドロマリウス「どうやらもう一度、死の恐怖を知りたいようだな」

 

アイリ「もう一度ってどういうことなの? さっき言ってた事も引っ掛かってるんだけど、あたしに会ったことがあるの?」

 

アンドロマリウス「その様子だと世界の監視者からは何も聞かされていないようだな」

 

一息つき、口角を上げ淡々と喋り始めた。

 

アンドロマリウス「ならば私が教えてやろう。 貴様が人間だった時期に一度私と出会った頃がある。 お前が人間として命を終える日に」

 

アイリ「命を終えるって、あ、あたしが、死んだってことだよね。 ……天使と悪魔の戦いにあたしが側にいたからってリョウ君が言ってた。 まさか、その場にいた悪魔が…!」

 

アンドロマリウス「御明察だ。 私が貴様の、人間としての命を終わらせた一人だ」

 

頭を金槌で殴られた感覚に陥る。

 

真実は知りたいと願っていた。

だが、いざ突き付けられると驚愕し心臓が早鐘のように鳴る。

自分の命を奪う原因となった存在が敵として目の前に立ちはだかると、動揺を隠すのは無理難題だ。

 

アンドロマリウス「先程とは比べ物にならない程の恐怖に身を支配されているな」

 

アイリ「そ、そんなこと、は……」

 

アンドロマリウス「その場にいた者の力は私の他にも世界の監視者のものもあった。 奴も命を奪った者という事実に変わりはない」

 

アイリ「ち、違う! リョウ君はあたしを助けてくれた!」

 

アンドロマリウス「何故そう言い切れる? 確証があるわけではないだろう。 言葉という形のない真実を鵜呑みにしただけ。 そうだろう?」

 

アイリ「っ……五月蝿い! あんたの言葉になんか惑わされないんだから!」

 

必死に声を荒げる。

リョウが悪人だと認めたくはなかったから。

魂が消滅しかけた場にアンドロマリウスがいたことを。

自身の心に広がる恐怖を抑え込みたかったから。

 

アンドロマリウス「哀れだな。 真実も知らぬままのうのうと暮らしているとは」

 

シャティエル「アイリさん、耳を傾ける必要はありません。 扇情的な言葉に流されてはいけません」

 

側にいるシャティエルが心配しアイリに沈静させるため声を掛ける。

だが今のアイリにはシャティエルの鎮めさせる言葉は届いてはおらず、体を小刻みに震わせ息が上がっている。

 

アンドロマリウス「転生を受けた身とはいえ、魂は同じ。 記憶は受け継がれている。 思い出すといい、私のことを。 そして、自身に起こった真実を」

 

アイリ「嫌…思い出さなくていい!」

 

アンドロマリウス「仕方ない。 無理矢理にでも思い出させてやろう」

 

『コンティネン卜アンガー』をシャティエルの真下から放った。

相手の行動を読み取る演算処理が追い付かないほど瞬時に放たれたため、シャティエルは防御することも間もなく闇のエネルギーの爆発により地面の破片諸共吹き飛ばされた。

 

アイリ「うわっ! シャティ!」

 

アンドロマリウス「他人を配慮する暇があるとは余裕だな」

 

急速に接近したアンドロマリウスは巨大な右手でアイリを掴み上げた。

身動きが取れないアイリは必死に踠くが、首から下の上半身をがっちりと締め上げられているためガーンデーヴァを使用することもできずただ恐怖感が増していくだけだった。

本来ならガーンデーヴァを意思のままに操り背後から斬りつけることも可能だったのか、現在のアイリの心にその余裕は一切ない。

再び殺されてしまうのではないか、という死の恐怖が忍び寄る。

 

アイリ「は、離して…!」

 

アンドロマリウス「人間界で貴様と出会った時とまったく同じ状況だ。 思い出せたか? 絶望的な記憶を」

 

握り締める力が一層強くなり骨が軋む。

骨が粉々になるのではないかと疑う痛みにアイリの意識は朦朧とし始める。

 

視界が歪む中で、アイリの脳内に映像が走馬灯のように流れた。

 

街頭が照らす人気のない夜道。

突如空から飛来した悪魔。

襲われる自身。

更に飛来した純白の翼を広げた天使。

双方の争いにより倒壊する家や抉り削られるアスファルトの地面。

双方の争いに巻き込まれないよう守護してくれた剣を手にした青年と緑色の衣装を纏った少女。

自身に迫る二つの力と背後に現れた白い扉。

力が扉にぶつかり合った瞬間に弾ける閃光と衝撃。

 

思い出してしまった。

転生前のショックで失った断片的な記憶が激流のように脳内へ流れ込む。

 

アイリ「あっ…あああああぁ…お、思い、出しちゃった……。 あたしが、死んだ日…悪魔、に襲わ、れ………嫌…思い、出したく、ない! 思い出したく、なかった!」

 

天使として目覚めてからは欠けてしまった記憶を取り戻したいと思っていた。

だがアイリはその時点では何も考えてはいなかった。

転生する事の発端を思い出すということは、即ち自身が死ぬ瞬間を、死が迫る恐怖を思い出すということ。

天界に来てからも悪魔達による襲撃に晒され命の危機を迎えては来たが、現在は抵抗できる力があり、頼れる仲間がいたため多少は平気だったが、人間の時のアイリはもちろん力もない非力な一般人、感じる恐怖のベクトルが違いすぎる。

 

アイリは恐怖に呑まれてしまい抵抗する気力は残っておらず、思い出された記憶を振り払おうと目を瞑り首を左右に振っている。

 

シャティエル「アイリさんを離してください!」

 

技を受け負傷したシャティエルが体勢を立て直し銃を手にし飛翔する。

自身の周囲に魔法陣を生成し、その内の一つの中から細長い形をした銃、『可変式長距離プラズマライフル』を取り出し即座にアンドロマリウスの右手に標準を合わせ引き金を引いた。

電磁砲は右手に命中しアイリの拘束は解かれたが、今のアイリは逃げるという思考すら回らない状態になっており、地面に尻餅をついたまま動こうとはしなかった。

シャティエルはアイリの異常を感じ取りアンドロマリウスとの距離を取るために魔法陣から『ライトガトリング』を複数出現させ一斉発射する。

豪雨のように降り注ぐ数多の光弾を防ぎきるのは困難と判断したのか、アンドロマリウスは大きく後退し飛翔、回避に専念した。

 

シャティエル「アイリさん、大丈夫ですか?」

 

アイリ「………あたし、もう、戦えない。 戦いたくないよ…」

 

側に寄り添うシャティエルの顔を見るアイリの顔色は蒼白どころか土気色になり、手、足、身体の末端から中枢にかけて震えが止まっておらず、傍から見ても大丈夫そうではなかった。

脳裏を支配したのは恐怖や絶望、驚愕、それらが脳を支配して思考を奪っている。

逃げるや戦うといった選択肢が浮かぶ余地もなかった。

 

アイリ「あんな怖い思い、もうしたくないよ…」

 

シャティエル「アイリさん…」

 

シャティエルはアイリの手を包み込むように握るが、一向に治まる気配がない。

シャティエルは『恐怖』という感情を知らない。

アイリが何故震え怯えているのか理解ができないため、見るからに異常なのは判断できるが対処方法が分からず困惑した。

 

兎に角アイリを守護しなければならない。

状況が不利だと確信したシャティエルは兎に角この場から離脱するために即座に行動を起こした。

 

アンドロマリウス「遅いぞ、機械人形」

 

しかし、行動を起こす直前、背後から忍び寄っていた蛇の口から放たれた細い光線がシャティエルの腹部を貫いていた。

 

シャティエル「腹部損傷、全機能に異常なし。 隙を衝かれましたが、次の一手は防いでみせます」

 

アンドロマリウス「その余裕がいつまで持つのか見させてもらおう」

 

アンドロマリウスが嘲笑う。

悍ましく、どす黒く、厭わしく。

正に邪悪そのもの。

 

シャティエルは無意識だが、邪悪な笑みを見て片足が一歩後ろへと下がった。

 

シャティエル(今感じ取れたものは何でしょうか?)

 

アイリ「だ、め…シャティ、逃げて…」

 

シャティエル「……そうはいきません。 アイリさんは私やリョウさん、多くの人々にとってかけがえのない存在です。 置いていくなど到底ありえません」

 

アンドロマリウス「お喋りも程々にしておけ」

 

痺れを切らしたアンドロマリウスが襲い掛かる。

『光粒子ライトソード』を出し巨大な右手を防ぎ『ソニックプラズマ』を連続射出する。

一瞬の隙を逃さず、左手を前に出した。

左手の手首から小さな砲身が幾つか出てきたと思うと、エネルギーの爆発が起きた。

真っ正面からエネルギーの爆発、『光爆ショット』を受け地面へと倒れ伏す。

 

アンドロマリウス「ぐっ…『デストラクションランス』!」

 

巨大な右手が槍状へ変形し、起き上がると同時に鋭く尖った手を突き出す。

シャティエルは俊敏に避け横腹を掠める程度で済んだが、アンドロマリウスが腕を横へ勢いよく振るったことによりシャティエルの体が横へくの字に曲がり大木に激突する直前に翼を展開させジェットを噴射させギリギリのところで踏み止まり、召喚した『多連装レーザーバックル』と共に飛翔する。

 

アンドロマリウス「少しは楽しめそうだ。 『蛇龍光』」

 

闇のエネルギーが不気味に漂いながら数匹の蛇を生成し、口から怪光線を吐き出し接近を妨げる。

『クリスタルミラーバリア』と『多連装レーザーバックル』を駆使し光線を防ぎ突き進み、手にした2丁の『光粒子ライトブラスター』の引き金を引き火を吹かす。

光弾は的確に蛇の喉元を撃ち抜き落としていく。

アンドロマリウスは直撃しそうな光弾は巨大な右手を器用に振るい弾き飛ばし、顔と地面が接触しそうな程の低空飛行でシャティエルの真下に潜り込み『愚者殺し』を容赦なく繰り出した。

二つの『多連装レーザーバックル』からレーザーを撃ちつつわざと拳に激突し盾の役割を果たし更に威力を少しでも減少させる。

 

アンドロマリウス「それで防げたつもりか!」

 

シャティエル「はい。 これで十分と言えます」

 

強力な打撃を受け至る箇所が凹んだバックルを払い除けシャティエルに全力の一撃を叩き込む。

鋏のように交差させた2丁の銃で腕を挟み受け取り真横へ受け流し背中を蹴り上げた。

 

アンドロマリウス「見事だったが、終わりだ」

 

再び口角を上げたアンドロマリウスは蹴られた衝撃を利用し回転しながら闇のエネルギーを纏った蹴りを繰り出した。

顔面に直撃し体が大きく揺らんだが、直ぐにアンドロマリウスへ向き直る。

視界に入ったのは生気を感じ取れない白色の腕。

振り下ろされたアンドロマリウスの腕の一撃を諸に受けシャティエルは地面へ目に見えぬ速度で落ち激突した。

小さなクレーターができるほどの衝撃を受けシャティエルは大きなダメージを受けているようで、立ち上がることが不可能な状態に陥っていた。

 

誰が見ても分かる、絶体絶命。

アイリは未だに地面に座り込んだまま微動だにせず俯いたままで、シャティエルの危機を救える者は誰一人いない。

 

シャティエル「アイ、リ…さん…早く、逃げ、て…」

 

自身が止めを刺される寸前だというのにシャティエルは視線をアイリに向け逃げるよう促す。

だが、精神が不安定なアイリにはシャティエルの消え入りそうな途切れ途切れの言葉は届かない。

 

アンドロマリウス「最後まで娘の心配をするとは、愚かな。 貴様の心配も、努力も、全て水の泡へと変えてやる」

 

シャティエルを見下すアンドロマリウスは闇のエネルギーを右腕に纏い始める。

先程までの力とは桁外れとも言える禍々しいエネルギーが蓄積されていく。

 

?「はい、そこまで! カットカーット!」

 

突如声が響いた。

明るく朗らかでありながら自信に満ち溢れた一声。

アンドロマリウスは横目で声が発せられた方向を見た。

木に寄り掛かって立っていたのは一人の青年。

 

澄んだ青い瞳に白いメッシュがかかった黒髪、身長は180センチほどと高身長で顔は整っており、イケメンに分類されるだろう。

服装は黒いシャツにジーパンという派手な装飾がないシンプルなもの。

 

突如現れた謎の青年。

彼こそが、轟と玉が発言していた『あいつ』であり、この危機的状況をひっくり返し逆転する、救世主でもある。

 




次回、漸く出したかったキャラの一人が出せます
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