2日連チャンで投稿
アンドロマリウスは青年の姿を視認するや否や舌打ちをした。
アンドロマリウス「……こんな辺鄙な世界まで何のようだ、『偽りの聖剣士』」
?「はぁ~、その名前で呼ぶなっつーの。 いい加減うんざりだぜ。 俺にはアレクって名前があるんだ、覚えとけ」
青年、アレクは不機嫌そうに頭の後ろを掻き一歩前へ踏み出した。
アレク「てめぇを因果地平の彼方へ送り出そうと思ってな。 心配するな、痛みは一瞬だ」
指の骨を鳴らし肩を回し始める。
ふざけた態度でありながらも、顔は自信の色に満ち溢れている。
アンドロマリウス「…世界の監視者からの依頼か」
アレク「うーん、まぁそんなところだ。 偶然通りかかったってのもあるが、俺の妖怪レーダー的なものが働いて嫌な予感がしてしまったものなんでな」
アンドロマリウス「相も変わらず訳の分からぬことを。 小娘共より先に貴様を殺すとしよう。 メインディッシュは最後に取っておく」
アレク「俺は前菜扱いか? 笑えねぇ冗談だ。 心が滾るぜ。 グラム!」
黒いラインが走る模様の白い剣、グラムを瞬時に召喚し力強く握り締める。
アンドロマリウスにも引けを取らない圧倒的な気迫を漂わせ一歩、また一歩と歩みを進める。
自己修復機能により少しではあるが行動可能となったシャティエルは上半身を起こし、突如現れた謎の青年に不信感と猜疑の念を抱き目を向ける。
敵か味方か判断もできず、突如現れて悪魔に戦いを挑むなど普通ではない、奇怪な存在だと推測した。
だが先程の会話の中から世界の監視者という単語が出てきた。
彼が世界の監視者であるリョウと知人であることは明白だ。
だからと言って彼が自分達を守り悪魔を退ける存在であるという確証には至らない。
シャティエルは警戒を怠らず疑いの目でアレクに尋ねた。
シャティエル「あなたは何者ですか? リョウさんの知人なのですか?」
アレク「その通りだよエンジェロイドのお姉さん。 あいつとは旧知の仲だ。 なーに安心しろって。 俺はお前達を傷つけるような真似は決してしない。 寧ろ逆。 助けに来たんだよ。 ヒーローはいつだって遅れて登場するもんだ。 そうだろ?」
シャティエル「そう…なのですか?」
アレク「ご存知ないのですか!? …まぁいいや。 美しきヒューマンライフを目指すなら知っておくべき情報だ」
シャティエル「……仰っている意味は理解できませんが、要約すると、あなたは敵視する存在ではないと見て宜しいのでしょうか?」
アレク「神に誓って約束しよう!」
正直、言葉だけでは信用するに値しなかった。
放つ言葉がシャティエルにとっては意味不明すぎるというのもあるが、態度が明らかに不真面目で、信頼するのは難しかった。
だがシャティエルは考察した結果、信頼する判断に至った。
彼が話す時の目は鉄をも貫くような真っ直ぐで、約束を必ず守る決意と覚悟を決めたものだった。
初対面にも関わらず、何故だか安心して背中を預けられる信頼を抱くことができる、不思議な感覚に陥る。
心を持ち間も無いシャティエルでも感じ取れた。
シャティエルは賭けてみようと、信じてみようと思えた。
ダメージを負い機能が幾つか停止してしまっている状態でアイリを守りつつ戦闘を続行するのは不可能で、勝機は限りなく薄い。
シャティエルは計算した上で自分の体の情報、システム、状態を把握できていたため、現時点で満足に戦えるアレクにこの危機を凌ぎ退けてもらうしか他はなかったというのもあるが、何より彼の思いが嘘偽りのない本当のことなのだと信用できる不思議な魅力に惹かれ、信じてみようと自分の中で確信できたから。
シャティエル「分かりました。 初めてお会いして不躾なのは承知でお願いがあるのですが、アイリさんを守っていただけないでしょうか?」
アレク「了解道中膝栗毛、最初からそのつもりだ。 空前絶後で超絶怒涛の俺の実力を見せてやる。 泥船に乗ったつもりでいてくれ!」
シャティエル「泥船ではなく、大船ではないでしょうか?」
アレク「普通にツッコミを入れられると返しに困るぜ。 困った困った、困った時には星に聞け! なんてな!」
アンドロマリウス「私を無視して会話をする暇があるとは嘗められたものだ。 それとも、ただふざけているだけか」
アレク「ふざけてなんてないぜ、真面目でもないけどな。 さーて、チャンネルはそのままにして、俺の力を刮目しろ」
地面を踏み台にして勢いよく前へ弾丸の如く速さでアンドロマリウスに急接近する。
剣と腕が交錯し激突し響く金属音と飛び散る火花。
目で追うのがやっとの速さでどちらも引けを取らない実力で拮抗している。
アレク「驚いたな。 んな馬鹿でかい腕で俺の剣撃を全て受けきるなんてな」
アンドロマリウス「人間に劣るようでは話にならんからな」
アレク「傲慢な奴らだぜホントに。 人間の可能性を教え込む必要があるようだな!」
アンドロマリウス「生憎と、我々には不要で無意味な知識だ」
お互いに攻撃をしつつ流し目で会話をする余裕を見せるあたり、彼等は未だに本領を発揮してはいない。
剣撃が続く中、行動を起こしたのはアンドロマリウスだった。
後方にエネルギーを集束させ蛇を数匹生成させた。
四方八方、あらゆる角度から攻撃が飛来し、絶命させようと大口を広げ襲撃してくる。
アレク「効かねーな!」
牙が体を突き刺し血飛沫が噴き出し地面へと倒れ伏す、普通の人間であればその結果に至るだろう。
だがアレクは常人以上の実力を持つ人間なため、惨劇を生むような結果になることなどあり得ない。
アレクは自分の周囲を時計回りに回転し剣を振るう。
単純な一閃。
何の変哲もないただの一閃。
周囲に湧いて出た蛇達は悲鳴を上げる暇さえ与えられず絶命し消滅した。
一閃の衝撃波が発生したが、余波だけで刃に直撃しなかった蛇達までもを消滅させたことにシャティエルは彼の実力に絶句する。
アンドロマリウス「おもしろい。 私を満足させてくれ。 お次は、これならどうだろうか? 『ヘルタワーポール』」
闇のエネルギーで生成した紫色の柱が地面を突き破り天へと聳え立つ。
いつ何処から出現するか予想はできない柱にアレクは回避に専念し始める。
アンドロマリウスは嘲笑うかのように空中に飛翔しアレクを見下ろし、手から闇のエネルギー弾を絶え間無く撃ち続ける。
アレクは軽快な足取りで地を駆け回り的確に回避を行っている。
端から見る限り、子供が元気良く走り回っているようにしか見えないが、熟練の戦士の目線から見れば、動きの一つ一つには無駄が一切なく、洗練された身の運びをしている。
だが回避ばかりではアンドロマリウスを倒すのは到底不可能。
剣を主流としたアレクは柱とエネルギー弾の猛攻により接近を許されておらず、八方塞がりな状況。
アンドロマリウスも意図して遠距離攻撃を仕掛けており、口角を上げ見下ろしていた。
アンドロマリウス「貴様も、威勢が良かったのは最初だけか?」
アレク「まさか、ショータイムは始まったばかりだ。 オープニングだけで終わらせるつもりなんてさらさらねぇよ。 行くぜ!行くぜ!行くぜ!」
柱を駆け上がり次の柱へと壁を蹴る勢いで跳躍し、エネルギー弾を全て避けつつ徐々に接近していく。
まるで森の中の木々を縦横無尽に駆ける猿の如く、又は風のように木々を伝って走り駆け抜ける忍者の如く、その俊敏さは目で追うのも難しい程の宙を駆ける疾走。
しかし近付くにつれ、地面から突き出す柱が道を塞ぎ接近が困難になるどころか、引き返させないよう退路まで塞いでしまい、アレクは逃げ場のない鳥籠の中にいる状態に陥る。
アンドロマリウス「嬲り殺される覚悟を決めておけ」
アレク「おいおい、ベリッシモ危険でピンチな現状だな。 だが、どんなピンチもチャンスに変えてしまうのが俺だ」
集中砲火を浴びせられる可能性があるというのに、アレクはどこ吹く風。
その自若さは絶対的な自信から来るものだろう。
アレク「さーて、ここから俺の本領発揮だ。 俺の実力を刮目してもらうぜ。 エンジェロイドのお姉さん、邪眼でも写輪眼でもいいからその目に俺の勇姿を焼き付けておきな!」
視界に入っていないシャティエルに語りかけ、逆手持ちにしたグラムを横に一閃した。
シャティエルは己の目に写る映像を疑った。
一閃した直後、視界が歪むかのように柱が捻じ曲がった。
正確には柱ではなく、斬られた箇所の周辺の空間そのものが歪んでいるようにも見える。
更にもう一閃、何本もの柱が捻じ曲がっていき、内一本がアンドロマリウスに直撃した。
予測すら不能な怪奇な攻撃手段に回避する余地がある筈もない。
エネルギーを大量に蓄えられた自身が生み出した柱が命中し、電撃に似た痛みが迸る。
直撃を受けた左腕は、エネルギーが迸った際に残った擦り傷のような痕が残っている。
思わず痛みにより微少ではあるが声が漏れる。
アレク「グラムの能力をご存知なかったかな?」
アンドロマリウス「空間を斬り裂き歪ませる能力か。 だが、その能力一つでは…」
アレク「俺が他の聖剣を使用できるのも、ご存知だろ?」
言葉を遮り再度口角を上げる。
勝利の旗幟を鮮明にする絶対的な自信が滲み出ている。
アレク「レッツ&ゴーだ! バルムンク!」
手に持っていたグラムが瞬時に消滅し、黄金色の柄に翡翠の刀身をした剣、バルムンクを召喚する。
刹那、アレクの周辺に旋風が発生し風の渦を生み出す。
風に乗り飛行しエネルギー弾を匠な動きで華麗に避け、アンドロマリウスの体を一閃する。
アンドロマリウスは辛うじて刀身が触れる間際に咄嗟に後方に下がり避けることができたが、バルムンクを振るった後に発生し巻き起こった風の刃が体を刻み細かい傷を付けていく。
アンドロマリウス「厄介な…『フールイーター』」
自身の右手にエネルギーを集束させていき、蛇の頭部を思わせる形状に仕上げ、風を跳ね除ける勢いで突き出す。
バルムンクで押さえ付けるが、力量がアンドロマリウスの方が上手なようで徐々に押され始める。
アレク「俺だけが使えるテクニックなら危機的状況も踵を返していくぜ。 グラム、再び召喚!」
左手に再度グラムを召喚し、右手に持ったバルムンクの力を解放し暴風を発生させ、激しく打ち当たっていた蛇の頭部を吹き飛ばすと同時に風を利用し後方へと下がる。
暴風により怯んだアンドロマリウスは一瞬だが顔を背けアレクを視界から外してしまった。
時間にして一秒も経っていないと思われるが、アレクの姿は一瞬にして消え去った。
慌てる素振りなく冷静に気を探るが、一向に探ることができず、周囲を見渡すも、空中に飛翔している障害物が一切ない空間に身を潜める場所が存在するわけもなく、神隠しにあったかのように姿が消えた。
アレク「エリック、上だ!」
活発ある声が聞こえたのは上部からだった。
反応した時には既に二本の剣によって肩から腰にかけて斬り裂かれていた。
血飛沫を散らしながら地面へと落下し背中を地面に打ちつける。
アレクは間髪入れずに風の力で速度を上げながら急降下。
切っ先を向け突貫するが、アンドロマリウスは自身の腹に刺さる直前で剣を右手で捕らえ掴み、左手でアレクの頬を殴り両足を突き上げ腹部を蹴り上げた。
アレク「ぐっ! 敵ながらアッパレだ。 しかーし! この程度で怖じ気付く俺じゃない! やられたらやり返す、倍返しだ!」
地面を数回横転し、飛ばされた勢いを殺さず立ち上がり、後方に迫る大木に片足を着け激突を免れた。
二本の剣を消し、群青色の刀身に黒いラインが走るデザインの剣、ミスティルテインを召喚した。
吹き荒れていた風は瞬時に吹き止んだが、冷気が辺りに立ち込め、北の領土を思わせる凍える寒さが支配する。
アレク「悪魔の氷像を作ってルーブル美術館にでも飾ってやる」
アンドロマリウス「趣味の悪い戯れ言だな」
冷気が集結し、アレクの周辺の宙に氷針が生成されていく。
地を蹴り疾走すると同時に氷針がアンドロマリウスを的に、連なって飛んでいく。
アンドロマリウスは瞬時に思考を巡らせ、地面を殴り盛り上がった土の壁を作り出し氷針を防ぎきり、壁を駆け上がり上空へ飛び上がる。
上空から強襲にアレクは動じる素振りは一切ない。
アレク「エリッ……さっきやったからいいや。 てめぇの真似をさせてもらうぜ」
冷気を集束させアンドロマリウスが着地する場所を予測し、氷の柱を瞬時に生成させる。
柱に押し上げられたアンドロマリウスは更に上空へ押し上げられた体を宙へ放り出された。
体勢を整えようと翼を広げるが、ある違和感に気付いた。
背から伸びる漆黒の翼は凍り付いていた。
凍てつく礫に覆われた翼は釘で固定されているかのように力ずくに動かそうにも微動だにしなかった。
アレク「てめぇの動きは封じさせてもらった。 トドメの接吻…じゃなくて、一撃いくぜ!」
氷の柱を駆け上がり、冷気を纏った一閃を放ちアンドロマリウスの胴体を斬り裂いた。
アンドロマリウスは油断をしていたわけではないが、アレクの様々な属性攻撃と戦術、技術により明らかに圧倒されていた。
現に、翼を凍らされた事を認識できたのは飛翔しようと翼を動かした直後のこと。
生きている年数が人間と悪魔とでは段違いで、戦闘経験も天と地の差がある。
年数云々の常識を覆す実力は誰が見ても確かなもので、アレクの自信に満ち溢れた表情は、己の実力が如何に上位にあるものなのか認めているからなのだろう。
一閃による剣の軌跡がアンドロマリウスの体に刻み込まれており、赤黒い血が傷から吹き上げる。
撒き散らされた血は雨のように降り注ぎ、地面を赤黒く染めていく。
絨毯のように赤黒く染められた地面に頭から打ち付けられ地に伏した。
アレク「きたねぇ花火だ。 互いに生死を掛け、戦火を交えて青き清浄なる世界のために死闘を繰り広げ、俺が勝利という二文字を手にしたわけだが…」
アンドロマリウス「大袈裟な言葉を並べるのは程々にしておけ」
怒りに満ちた双瞼を見開き、蛇を複数体召喚し、地に降り立ったアレクに不意打ちを仕掛けた。
身軽に体を畝り、剣を力強く振るい蛇の猛攻を凌いでいく。
最後の一匹を容赦なく口から尾に掛けて斬り伏せ、今度こそ止めを狙いに向かおうと一歩を踏み出した直後、悪寒が背中を撫で回した。
反射的に背を向けると、今までとは比にはならない巨大な蛇が口が裂けんばかりに開きアレクを丸呑みにしようと迫っていた。
呑まれる直前に剣で大口を防ぎ、鋭利な刃物と同等の牙が刺さらないよう力を込める。
アンドロマリウス「貴様はそこであの娘が死にゆく様を目に焼き付けておけ」
アレク「なっ!? 待てコラ!」
アンドロマリウスは不利と見たのか、相手を乱入者であるアレクから、本来抹殺する標的であったアイリに移した。
人間相手に蹂躙された怒りと憎悪が混じった瞳でアイリを見据えている。
アイリは先程と変わらず、恐怖に体を支配され震え怯えており、戦闘意思を露聊かも感じ取れない。
ここまで態度が豹変すると、最早別人なのではないかと疑え、滑稽なものだとアンドロマリウスは鼻で笑う。
システムがある程度回復したシャティエルがアイリの前に立ち『光粒子ライトソード』の切っ先を向け強張った口調でアンドロマリウスを牽制し始める。
シャティエル「アイリさんをこれ以上傷付けさせるような真似は許しません。 私を倒してからにさせてもらいます」
アンドロマリウス「その勇姿だけは私の脳裏に残しておいてやろう。 無謀で哀れな、心を知ったばかりの未熟な機械人形、と片隅に残そう」
シャティエル「私を侮辱するのは博士を侮辱するのと同じことです。 撤回してください、今の言葉を!」
アンドロマリウス「真実を口走って何が悪いというのだ?」
悠々と、淡々と物言う姿に、シャティエルは怒りという感情が沸々と溢れる。
怒りの感情を引き出すことによって冷静さを失わせる。
アンドロマリウスの意のままに事が進んでいき、シャティエルの勝機は薄くなってゆく。
負傷している上に、露にされた感情に流され判断力まで欠けては敵の思う壺。
アレク「流石にヤバいな。 ちょいやっさあああーー!」
好ましくない現状を見てアレクは剣を支える左手を離し、グラムを再召喚し、空間の裂け目を自身の目の前に出すと即座に裂け目へと入った。
蛇の大口は空を切り閉められ、標的を失った蛇は混乱しながらも周囲を見渡し警戒を続けている。
アンドロマリウスはアレクが再び姿を消したトリックが解け、一度立ち止まり蛇と同様に警戒する。
だが、その行為は皆無に終わった。
アイリとシャティエルの真下に空間の裂け目が発生し、抵抗のないまま重力に従い二人は裂け目へと吸い込まれるように入っていった。
アレク「やれやれ、最善の案っていったらこれくらいしか浮かばないっての」
アンドロマリウス「貴様……!」
アイリ達が入って間もなくしてアレクが裂け目から姿を現した。
アレクはグラムの力を使用し二人を別世界へと送った。
どの世界に送るかは己の意思で決めることができ、アレクはグラムの力を行使し世界を渡り歩いている。
別世界に関与させるような事は可能な限り実行したくはなかったのだが、アイリの安全を考慮すると、別世界への転移が最も有効な手段だった。
アレク「さてと、俺は守るものがなくなったから何も気にせず自由気ままに戦えるようになったわけだ。 どうする? まだ続けるか?」
アンドロマリウス「………いや、貴様の相手をする意味はなくなった」
アンドロマリウスは踵を返し歩みを進める。
抹殺対象であるアイリがこの場から去ってしまった今、この世界に居座る必要は皆無となったからである。
アレクを倒し拷問にかけるなどして聞き出すという案もあった筈なのだが、勝率が低いと判断し実行には移さなかった。
本気を出したアレクとアンドロマリウスの実力は、互角にも満たないから。
アンドロマリウス「貴様達が絡むと録なことにはならん。 今回は退くが吉となるだろう」
アレク「人を疫病神のように言いやがって。 まぁ、いつでも掛かってこいよ。 次に会うときは、凶しか出ないかもしれねぇぞ?」
アンドロマリウス「面白い。 憫然な小娘一人など、不意を突いてでも殺す」
アレク「分かった分かった、いいからとっとと帰れよ」
二度と奇襲を仕掛けてこないよう威喝したつもりだったが、悪魔相手に、況してやサタンフォーの一人には通用しなかった。
元より恐怖等と言った類いの感情が無いに等しい種族なので、幾ら脅そうが無駄に終わるのが関の山だったのかもしれないが。
脅威が去り、凱歌を口ずさみながらミスティルテインのみを消し、アイリ達の後を追うためグラムを使用し空間の裂け目を作る。
?「アイリ! 無事か!!」
戦闘が終了したのを合図にしたかのように、アイリを救助すべく駆けつけてきたラミエル、翔琉、真琴の三人が茂みを掻き分けやって来た。
真琴「邪悪な気配は何も感じない。 事が終わった後みたいね。 出番なしなんてつまんないわね」
翔琉「森に被害が及んでいないみたいだし、大事にならず事なきを得て良かったよ。それに、僥倖だ。 招かれざる客によって悪魔を退けることができた」
ラミエル「あっ! アレクじゃねぇか! 久し振りだな!」
どうやらラミエルはアレクの知人のようで、顔を見るなり早足で近寄りお互い挨拶変わりに拳をぶつける。
翔琉と真琴もアレクとは何度も会ってきており再開を歓喜すると思いきや、顔を引き攣らせ苦笑いを浮かべている。
アレク「陰陽師御一行は俺の事が好まんらしい」
真琴「あんたが来ても録なことないもん。 アリスと一緒にいたら天災や大惨事、世界の崩壊が起きたって不思議じゃないよ」
アレク「辛辣すぎやしませんかね!? 流石の俺もアリスほど頭のネジが吹っ飛んでるわけじゃねぇからな!?」
真琴「私から見ればどっちも大差ない狂騒する馬鹿よ」
アレク「俺、泣くよ? すぐ泣くよ? 絶対泣くよ、ほrrrrrら泣くよ?」
真琴「勝手に泣けばいいじゃない」
アレク「酷いぜ! ドゥッフッハッハッハッハー! うわあああーああ!(野々村並感)」
真琴「うるさいわよ!」
ラミエル「この前アリスが天界に居候しに来て会ったけど、アレクに会うのは何十年振りなんじゃねぇか?」
アレク「お前のスルースキルに感涙しそうだ。 うーん…いちいち覚えてない。 ドラクエのモンスターの名前は全部覚えてるけどな」
ラミエル「相変わらず変な奴だぜ。 腕は鈍っちゃいねぇだろうな?」
アレク「心配無用! 範馬勇次郎とタイマン張っても勝てるくらいだからな!」
ラミエル「…兎に角お前の実力は昔と変わらず半端じゃ済まないってことだけは分かった」
翔琉「話に花を咲かせているところを邪魔して悪いんだけど、アイリの姿が見当たらないんだけど、君はご存知かな?」
翔琉からの質問にアレクは淡々と手短に答えた。
異世界に逃がしたという点は好ましくなかったが、アイリの身の安全が保証できているので一先ず安堵した。
翔琉「異世界に逃がすなんて発想は君やアリスじゃないと浮かばないだろう。 常軌を逸する思考に僕はついていけないよ」
真琴「ホント、ブッ飛んでるわよね。 規格外すぎよ」
アレク「そんなに褒めても油揚げは出てこないぜ?」
真琴「褒めてないわよ! それで、アイリとシャティエルをどの世界に送ったのよ?」
異世界に送ったのはいいが、問題はどの世界に送ったのか。
異世界に移動させることで現状ある脅威から逃れることで安全が保証されているとは言え、悪魔のような邪悪な存在が蔓延る世界に居ては、守る立場の者からすれば本末転倒。
アレク「なぁに安心しろって。 俺が選んだのは、ピースハーモニアの世界だ」
ラミエル「あー、結愛の住んでる世界にか。 フェリアルなら人間や亜人とかの種族がいるし、危害が及ぶことはないだろうが…」
翔琉「たしか、デスピアって国と争いあってるんだよね。 魔族達が頻繁に攻め入ってくると結愛から聞いたことはあるけど。 …誤ってデスピアに転移してしまったってことはないよね?」
暫しの沈黙。
一滴の冷や汗が額から頬を通り流れる。
凶兆の予感をひしひしと感じる。
翔琉「……まさか」
アレク「だ、だだ大丈夫だ問題ない。 急いでいて転移する世界を指定しただけで何処に出るかまで考えてなかったなんてことないしーまじ卍ー」
ラミエル「声が若干裏返ってるぞ。 っつーか、ピースハーモニアの世界に送るくらいなら天界に送った方が良かったんじゃないか?」
再び訪れる沈黙。
冷や汗が顔全体から滲み出て、雨どころか滝のように流れている。
アレク「ラミエル、お前以外と頭良いんだな。 筋肉だけで構築された物だと思ってたぜ」
ラミエル「失礼なこと言ってんじゃねぇよ! 面倒事を増やしてくれやがって!」
アレク「ごまぞう!」
囃し立てられた怒りと厄介な事が増えた怒りに耐えきれず思わず拳が出てしまった。
殴られ赤く腫れた頬を擦り涙目のアレクは先程出した空間の裂け目へと向かって行く。
ラミエル「当然だが俺も行くぜ。 付いてくるなとは言わせないからな」
アレク「いいですとも。 お二人さんはどうすんだ?」
翔琉は顎に手を当て悩むこと数秒、結論を出した。
翔琉「助太刀したいのは山々なんだけど、僕達はこれから尾黒達が襲った村に戻ろうと思う。 もしかしたら生存者がいるかもしれないし、残党である天邪鬼達が何を仕出かすか分からないからね」
真琴「主が残るなら私も残る。 ラミエル、アイリ達のことを、頼んだわよ」
ラミエル「任せとけ!」
アレク「俺も同伴してるんだ。 心配は杞憂に終わるだけだぜ」
真琴「あんたは新たな問題を引き起こしそうだから宛にならない」
アレク「俺って君に嫌われるようなことしたかな!?」
真琴「アリスと一緒にこの世界に来て一杯飲んでるときに『波紋カッター!』とか言いながら洋酒を口から出して周囲の木々を根本から倒して小屋が下敷きになったのは忘れてないからね!」
アレク「面目次第もございません」
両手を真っ直ぐ伸ばし、腰を90度以上深々と折り、元気良く頭を下げるお辞儀をした。
お辞儀をし終え歩きだしたかと思うと、誰もいない方向を向き指を指し陽気な声で高らかに何かを言い始めた。
アレク「さて、今回の話で、いきなり出てきたチョー強いキャラである俺を見て『え、こいついきなり出てきて無双して何なの? バカなの? 死ぬの?』って思っただろう。 全部を語るのは後々になりそうだが、その一部は次回に語ろうと思う! …メイビー」
ラミエル「お前、誰に向かって話してるんだ?」
翔琉「霊の気配は感じ取ることはできない」
真琴「遂に壊れてしまったのね。 主、信頼できる医者を紹介してあげよう?」
アレク「やっぱり言わなきゃよかった。 読者の皆様に少しでも理解してもらおうと思ったんだけどなー。 涙が出ちゃう、男の子だもん。 こんな事するのは、俺ぐらいの年頃の男ってのはそういうものなんだと思ってくれればいいぜ」
ラミエル「……早く行こうぜ」
呆れて嘆息したラミエルはアレクの横を通り過ぎ先に空間の裂け目へ入っていった。
アレクも慌てて早足でラミエルの後を追い裂け目へと入っていき、数秒とたないうちに裂け目は閉じ、常に日頃から見る当たり前の虚空が残された二人の視界に広がる。
騒々しかった場は静寂が支配し、唯一吹き抜ける風により揺れる木々の枝や葉のざわめきが聞こえる。
真琴「…アイリ達、大丈夫かしら?」
翔琉「アレクを信任して問題ないよ。 彼は、普段は児戯っぽい発言や行動をするけど、やるときはやる人間だからね」
真琴「流石は主。 あいつを褒めるわけじゃないけど、人を見る目は妙妙たるものだよ」
翔琉「過大評価しすぎだよ。 僕は直感的にそう思ってるだけだから」
一息置いて、翔琉は両手で自身の頬を叩く。
翔琉「さて、これから忙しくなるよ。 妖怪退治は本業とも言えるけど、後処理をするのも仕事だからね。 真琴、疲労困憊のところを悪いけど、引き続き輔佐を頼めるかい?」
真琴「うん! 主のためなら何処へでも、如何なる状況であっても付いていくよ!」
戦闘での疲れを感じさせない満開の笑顔を咲かせ、翔琉の腕に抱き付く。
翔琉は照れ紅潮した頬を隠すよう出来るだけ顔を逸らすが、照れ隠しすらも真琴に指摘され更に紅潮されてしまうのだった。
やはり暇な時は喫茶店巡りに限りますね