ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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コロナなんか忘れるくらいオリンピックが盛り上がってますね!
スポーツにそこまで興味のない自分でも見入ってしまいます。

がんばれニッポン!


第36話 黄昏ノ中 静カニ思イヲ巡ラセル

ヴィラド・ディアとの戦闘を終えたリョウ達は息を整えるため瓦礫の山へ腰を下ろしていた。

ピコとマリーには大した傷を負った様子はなく、金色の瞳で荒廃し燃え盛る大地を眺めている。

アリスはこの面子の中で最も負傷したリョウの治療をすべく、自慢の魔法杖、ユグドラシル・アルスマグナを手に治癒魔法を掛けていた。

 

業火の炎が辺り一面を焼き付くし、視界を焔色に染める。

廃墟となった家や高層ビル等の建築物はリョウ達がこの世界に訪れた時には確かに存在していたが、戦闘の影響によりほぼ倒壊しており、瓦礫や灰と化していた。

世界の終焉を思わせる凄惨な光景。

火の粉や砂埃が宙へ舞い、星々の煌めく夜空へ霧散していくなか、異様とも言える物があった。

 

金色の粒子が至る場所から溢れ、風に吹かれ天へと登っていっている。

 

マリー「…この世界は、もう助けられないんですね」

 

リョウ「残念だが、その通りやな。 世界の崩壊は始まっている」

 

リョウが述べた世界の崩壊は、現在進行形で起きていた。

 

地面がひび割れ、地層が見える筈だが、目に映るのは漆黒、亜空間があり、少しずつ地面を削り取るように消していき、金色の粒子が溢れ出ていた。

夜空にも亀裂が走り亜空間が顔を覗かせており、満点の星空を食らうように広がり続けている。

 

アリス「はぁ……こんな光景、もう見たくないよ…」

 

美しくも悍ましい光景に、いつも溌剌としていたアリスは悄然としており、大きな溜め息を一つ吐いた。

 

ピコ「それはここにいるみんなが思ってるよ。 世界の消滅の瞬間を見たい奴なんて、気の狂った者だけだよ」

 

リョウ「…ここまで崩壊が進んでいるということは、世界の核となる『ワールドコア』は既に修復不可能な領域に達している。 いつ消滅しても可笑しくはない状態。 今すぐこの世界を離れよう。 消滅の余波に巻き込まれたら一溜まりもない。 特にアリスはな」

 

アリス「そう、だね。 私はマリーと一緒に時空防衛局本部に向かうね」

 

マリー「事の顛末をユンナさんにも伝えないと。 ヴィラド・ディアが二体存在していたことを。 行こう、アリスちゃん」

 

リョウ「二人とも、悪いけど頼むね」

 

治癒魔法を終え杖の先をリョウから逸らす。

逸らした杖の先が灯火を発し、何もなかった虚空にワールドゲートが出現した。

アリスとマリーは鬱屈とした心情のまま、時空防衛局の本部へと向かった。

二人を送り届け役目を終えたワールドゲートは消滅した。

 

ピコ「やっぱりエクリプスと何か関係があるのかな?」

 

リョウ「今まで奴等と長い間戦い続けてきたけど、ヴィラド・ディアと関わったような要因も事象もなかったからそれはない。 加えて、ヴィラド・ディアが何者かと協力体勢を取るような知能もなければ意思伝達能力も持ち合わせてないから尚更ありえん」

 

周囲を業火に包まれ、世界の崩壊が進行しているというのに、それを思わせない平静な口振りで会話している。

不意に真横を一瞥すると、自分達のすぐ側にまで空間の亀裂が発生していた。

凝視していると体が亜空間に吸い込まれそうな妙な感覚に陥る。

 

リョウ「こんな光景いつまでも目に焼き付けておく必要もない。 翔琉達の世界に…」

 

ワールドゲートを出そうとした直後、何かに気付き喫驚し目を見開いた。

 

ピコ「リョウ? どうしたの?」

 

リョウ「アイリの…アイリの気が翔琉のいる世界から消えている…!」

 

青冷めた顔で力なくピコの問いに答えた。

困惑と同時に自責の念が心を押し潰す。

 

リョウ「やっぱり残るべきだったか…」

 

アイリを責任を持ち守らなければならない、リョウ個人の使命。

 

世界を監視し、時に世界の危機を救わなければならない監視者としての使命。

 

どちらも天秤に掛けられない、リョウにとっては肝要な事。

なので、どちらも守り抜き幸せになる未来を貫きたかった。

たった一人の少女と世界の両方は同じ価値がある。

選択できないのでどちらも迷いなく選ぶだろう。

第三者聞くと、欲深く、馬鹿馬鹿しい判断だと思うかもしれない。

 

ピコ「…大丈夫だよリョウ。 リョウ一人だと無理難題だけど、僕達仲間がいるんだから。 アイリはきっと、仲間達が何とかしてくれてる筈だよ。 約束したのなら尚更だよ」

 

一人では越えられない、掴み取れない事柄もあるだろうが、大勢の仲間や友がいれば、あらゆる事が可能となる。

 

それに、リョウも分かっていた。

己が信じる仲間達は、約束を破る者ではないと。

 

リョウ「そう、やな。 ありがとう、ピコ」

 

呼吸を整え、心を落ち着かせ目を閉じ集中する。

世界の監視者の力を行使しアイリの居場所を捜索する。

頭の中で、あらゆる世界が宇宙に存在する星のように浮かぶ光景が映し出される。

 

一つ一つの世界が地球のように美しく澄んだ淡い光を帯びている。

中には輝きを失い、一部が黒変してしまっている世界も幾つか存在している。

何かしらの原因で世界が崩壊、消滅が始まっている印でもあった。

 

天体観測に近い感覚で、天壌無窮の空間に存在する数多の世界を見澄ましていく。

気が遠くなる作業。

無限とも言える世界の中からたった一人の人物を探し出す。

並大抵の実力者、熟練者でも一生を掛けてでも到底不可能な領域。

だが、リョウは長年培ってきた実力があるため、造作もない。

どれだけ血が滲むような努力をしてきたかは不明瞭だが、数分も経たないうちにアイリの居場所を特定した。

何故翔琉達のいる世界から忽然と姿を消したのかは定かではないが、確かにアイリは無限に広がる世界の一つに存在していた。

 

安堵したのか、大きく深呼吸をした後に、ゆっくりと目を開けた。

 

リョウ「良かったよ…ちゃんと生きてる。 寿命が縮んだ気がするわ」

 

ピコ「僕達にはもう寿命も何も関係ないけどね」

 

リョウ「まぁな。 ピースハーモニアの世界にシャティエルも同伴しているみたいやな。 フェリアルの『キラメキ町』におるみたい」

 

ピコ「デスピアじゃなくて良かったね。 そこにいたら間違いなく戦闘沙汰になってるもん」

 

リョウ「悪魔よりは話が分かる連中やからまだマシやけどね。 よし、今すぐ向かおう」

 

アレク達の鬼胎を知る由もない、リョウは鷹揚な姿勢でワールドゲートを出し、アイリの元へ向かうべく早足で入っていった。

ピコは消しゴム程の大きさまで体を収縮し、リョウの上着のポケットへ入った。

 

扉が消え去り、崩壊が進行すること数分後、世界は音を立てること無く金色の粒子となり消滅した。

 

 

~~~~~

 

 

シャティエル「ここは…? 先程の場所とは雰囲気が大分異なるようですが…」

 

夕日が落ちる黄昏時、アイリとシャティエルは気付いたときには芝生に倒れていた。

周囲を見渡し場所を確認すると、先程の視界に広がる緑溢れる森林ではなく、遊具が数個設置されてある公園だった。

 

像を模して作られた滑り台。

赤、青、黄、緑色に塗装された四つのブランコ。

シャティエルの身長三つ分はあるであろう少し高めのジャングルジム。

誰かが置き忘れていったおもちゃのスコップが置かれた砂場。

他にも鉄棒や雲梯、はん登棒等の遊具が設置されており、種類が豊富で遊び飽きることがないほど選り取り見取りだ。

ベンチも数席設置されており、その付近に二人が倒れていたピクニックができる程広大な芝生があり、比較的大きめな公園であることが分かる。

 

陽が落ち、夕焼けの橙色と夜空の黒色が溶け合う時間帯、周囲に人影は見当たらない。

シャティエルはアイリを支えながら近くのベンチへと座らせ自身も腰を下ろした。

 

シャティエル「アイリさん、少しは落ち着きましたか?」

 

アイリ「……うん、何とか…」

 

消え入りそうな、弱々しくか細い声で囁くように呟く。

翔琉達のいる世界にいた時より体の震えは若干治まっており、まともに会話をできる程度には回復していた。

 

シャティエル「アイリさん、アンドロマリウスという悪魔と何があったのか、教えてもらっても良いでしょうか? 私で良ければ、お力になりたいです」

 

意気消沈しているアイリに質問するのに妄念していたが質問を投げ掛けた。

アイリは俯いたまま変わらず弱々しく答えた。

 

アイリ「思い、出しちゃったの…転生する前の記憶」

 

シャティエル「アイリさんが、人間の頃だった記憶、ですか?」

 

アイリ「うん…。 悪魔に襲われた時の記憶、あたしの、死ぬときの、記憶」

 

己の体を腕で包み込み恐怖から逃れようとするが、脳裏に焼き付いてしまい浮かび上がってきた記憶が鮮明に映し出される。

 

アイリ「桁違いの力で圧倒されて、無理矢理思い出された。 思い出したくなかった…! 悪魔という存在の恐怖! 死が迫ってくる恐怖! あんなの…あんな経験して、あたしは立ち向かおうとしていたなんて、バカだよ…。 死ぬ経験までして、そんな恐怖を植え付けられたら、戦えない…戦えないよ!」

 

己を蝕む恐怖を、己の心の叫喚を口から吐き出す。

 

自分の前向きな思いと与えられた力、支えてくれる仲間がいれば悪魔という強大な敵を退け打ち倒せると信じていた。

だが、自意識過剰でしかなかった。

圧倒的な力の前に自分一人では何もできない、非力な存在だと認めざるを得なかった。

 

心を折る決定打となった、転生前の記憶。

魂が崩壊したショックで断片的に欠けてしまっていた記憶。

死の間際を経験し、魂が崩壊する、現実では決して起こり得ない死の瞬間。

ただの変哲もない女子高生が経験するにはあまりに強烈で苛烈な経験、精神が耐えられる筈もない。

 

シャティエルもう一度震えるアイリの手を取り両手で包み込む。

機械のものとは思えぬ温もりを帯びた繊手に、アイリは徐々にだが落ち着きを取り戻していく。

 

シャティエル「私は、恐怖という感情は良く分かりません。 精神と肉体を抑制する作用があるマイナスエネルギーのような物だと私は推測しました。 形のない物は私に除去することは不可能なのかもしれません。 ですが、アイリさんの側にいることで、僅かでもいいので、恐怖というものが和らいでいただければ幸いです」

 

アイリ「シャティ……」

 

シャティエル「怖いのであれば、逃げたって構いません。 戦わなくても構いません。 いずれは乗り越えなければならないことなのでしょうが、心に余裕が持てるようになる間だけは、私を頼ってください。 恐怖を感じることは、決して恥ずかしいことではないのだと、私は思いますから」

 

柔和な笑みで語るシャティエルを見て、完全ではないが、心の奥底に溜まった膿が取れていく感覚がした。

 

それでも、戦う覚悟が完全に固まった訳ではない。

心を持ち間もない恐怖という感情を無知なシャティエルが自分のために言葉を選び和らげてくれた。

アイリは自分のことを見窄らしいと思ったが、今だけはシャティエルの言葉に甘えることにした。

 

アイリ「ありがとう、シャティ。 ごめんね、あたしが弱いから、迷惑かけちゃって」

 

シャティエル「迷惑だなんて毛頭思っておりません。 少しでもアイリさんのお役に立てたのなら、私は満足です」

 

天使のような慈愛にアイリは涙腺が緩んだが必死に抑えた。

 

ーーー泣いちゃダメ。 泣いちゃダメだからね。

 

涙を一滴でも流すまいと首を横に振るい、腕をシャティエルの首に回し抱き付いた。

シャティエルはそれに答えるようにアイリの背中へ腕を回し抱き返した。

 

シャティエル「辛い出来事があれば、甘えても構いません。 仲間なのですから、共に乗り越えていきましょう」

 

本当なら甘えてはならないのはアイリ自身が分かっていた。

目の前に聳え立つ苦艱から逃れてはならない事を。

頭では理解しているものの、心から滲み出る忌々しいあの時の恐怖を一蹴することができなかった。

懊悩する自分を憫然に感じ、更にマイナスの方向へと向かう自分を嫌悪してしまう。

 

苦心ばかりして自身の短所ばかり見出だすばかりなので、少しでも気を紛らわそうと近辺を歩いてみようとシャティエルに提案した。

笑顔で了承し、ベンチから腰を上げた。

 

瞬間、二人は何かを察知し警戒した。

 

アイリは能力で邪悪な気配を感じ取り、シャティエルは赤外線機能を使用し正体を見抜く。

 

二人が向ける視線には、公園の真ん中に生えた大木の深緑の葉が茂る枝の中。

 

シャティエル「誰かいるのは分かっています。 姿を現してください」

 

誰何された者は以外にもすんなりと姿を見せた。

 

赤いシャツに黒色のジーパンを着た橙色の長髪の少年だった。

顔は整っており、所謂イケメンの部類に入る風貌だが、アイリより年下に見え、何処か幼さが残る印象がある。

誰もが認めるであろう美少年だが、それを打ち消していたのは、体調不良とは説明が付かない紫色に近い黒色の肌と頭部から生える小さな二本の黒い角だった。

 

?「へぇ~。 隠れていたつもりだったんだけど、よく見つけたね。 君達、物を探すのは得意だって言われない?」

 

シャティエル「貴方は何者ですか?」

 

?「本当なら此方の台詞なんだけどね。 時空の乱れを感じ取ったから、いざ来てみれば女が二人いる。 ピースハーモニアじゃなさそうなあたり、異界から来た客人なのは分かった。 やれやれ、ピースハーモニアに関係ないとなると、ディーバ誘拐の作業の邪魔をしに来たってところかな?」

 

アイリ「ピースハーモニアってことは、ここは結愛さんの世界!? それに、ディーバ誘拐って…」

 

?「時空防衛局の差し金でもない、か。 無関係だったとしても、話を聞かれたからには始末しないとね」

 

急激に溢れる殺気にシャティエルは身構えるが、対してアイリは辟易とし、顔を真っ青にし硬直していた。

眼睛が捕らえる少年が悪魔達の像と重なり、恐怖が沸き上がる。

歯止めが効かないように足が震え始め、戦闘意欲は欠片もなくなる。

精神的に逼迫され、とても戦える状態でないのは明瞭だった。

それを見計らったシャティエルはアイリを庇護するため前に立ち『光粒子ライトソード』を出した。

 

シャティエル「何者かは存じませんが、アイリさんを傷付けるのであれば容赦は致しません」

 

?「冥土の土産に教えてやってもいいかな。 僕の名はマリス。 デスピア三闘士の一人さ」

 

自己紹介が済むなり手中に生み出した炎の槍を心臓目掛けて投擲した。

唐突な先手にも動じず右腕を振るい光の刃が炎の槍の先端を捕らえ、宙へ舞っていき火の粉となり四散する。

 

アイリの身の安全が第一なので、戦場と化した公園からできるだけ離れる必要があるのだが、戦うことを、死ぬことを畏怖し顔面が蒼白し足が竦んでいる状態にあり、アンドロマリウスの時と同様で守護しつつ戦闘に集中しなければならない厳しい状況。

それでもシャティエルは表情一つ変えず、大切な仲間であるアイリを守るため全力で庇護する。

 

マリス「随分と怯えてるみたいだ。 事情は知らないけど哀れに見えるね」

 

シャティエル「事情を何も知らぬ部外者がアイリさんを愚弄しないでください」

 

憤怒の念を抑え、『光粒子ライトブラスター』を二丁取り出し躊躇無く引き金を引く。

周囲の遊具が破壊されないよう加減しているので撃ち出された弾数は少ないものの、光弾は確実にマリスの体を捕らえる。

ただ直撃を受ける訳もなく、炎を纏った短剣を無駄の無い洗練された剣捌きで光弾を一つ一つ切断していく。

後続を許すまいと狙いを逸らすため地を蜿々と駆け接近を図るが、神経が警鐘を鳴らしたのか、真横へと横転した。

先程マリスがいた場所には真上からレーザーが撃ち込まれており、地面が弾け飛び爆風が砂を巻き上げる。

上空にはシャティエルが予め用意していた円形型のレーザー射出ユニット、『直下型バスターレーザー』がUFOの様に浮遊しており、目標された獲物を逃がさず追跡を始める。

 

マリス「厄介極まりないね」

 

シャティエル「投降をおすすめしますが?」

 

マリス「お断りするよ。 もっと僕を楽しませてよ」

 

舌舐めずりをし白い歯を覗かせる様子は遊戯を楽しむ子供其の物。

 

シャティエルは更に『ライトガトリング』を召喚し、各々の装備が一斉に火を吹く。

弾幕の嵐が絶え間無く襲い掛かるが、紙一重でしなやかに体をうねらせ避け、回避できないと判断したものは短剣を使い斬り相殺する。

 

撃ち続けているだけでは決定打に欠けると判断したシャティエルは次なる一手を叩き込もうと新たに装備を出そうとした直後、視界に『ERROR』の文字が多数表記され、力が急激に落ちてしまった。

手にした銃が消え、その他発動していた武装も消え、膝を地に着け立ち上がるのさえ困難に陥る。

アンドロマリウスとの戦闘で受けたダメージが想定を上回っており、自己修復機能の回復が間に合わなかったのだ。

直撃を喰らってしまい風穴が開いた腹部は電流が迸っており、損傷の激しさを物語っている。

 

マリス「おや? もう終わりかい? つまらないな…。 なら遠慮無く攻撃させてもらうよ」

 

特に苦も無く勝利を掴めるのに面白味を全く感じず、不服そうな顔をし溜め息を吐いた。

顰蹙を買ったマリスはシャティエルに近付き顎目掛けて足を振り上げる。

成す術も無く蹴りを喰らい後方へ数歩下がるも、背が地面に着くことはなかった。

シャティエルは故障している体にエネルギーを無理矢理送り込み直立することを可能にしているが、相当な負荷が掛かっているため、いつ倒れても不思議ではない状態にある。

 

シャティエル「アイ、リ、さん…! アイリ、さん!!」

 

途切れ途切れではあるが、出せる力を振り絞り声を張り上げてアイリの名を呼ぶ。

死に物狂いに叫ぶ澄んだ声にアイリは我に返った。

 

アイリ「あ…シャ、ティ…」

 

シャティエル「今、すぐ…ここか、ら……」

 

マリス「君、他人を心配してる余裕なんてないよね?」

 

決死の行動も虚しく、マリスの空を斬り裂く刃が襲う。

胴体を容赦なく斬り刻まれる。

執拗に、何度も、何度も、何度も、何度も。

十数回は斬られただろうか、反撃もしてこないサンドバッグを扱うようにし倦厭したのか、最後に大振りした一閃を与え地へ打ち捨てた。

力なく仰向けに倒れ、微動だにすることもない。

夕闇を見上げる瞳には光はなく、完全に機能を停止してしまっていた。

身体中には夥しい斬り裂かれた傷があり、内部の構造が露となってしまっている。

 

アイリ「そん、な…シャティ…!」

 

ただ傍観することしかできなかった。

自分が怖じ気付いていたせいで、シャティエルは倒された。

悔恨の念が津波のように押し寄せ、アイリの心を押し潰す。

負い目を感じるも、未だに戦うことを畏怖し足が震える。

自分の姿が滑稽に思え、嫌悪感が支配する。

 

マリス「可哀想に。 君が何もしなかったから、彼女は死んでしまった」

 

アイリ「あたしは…あたしが…!」

 

_____自分が、シャティエルを殺してしまった。

 

足の震えが治まり、脱力し膝から崩れ落ち俯く。

既に目の焦点は合っておらず、意気衝天とした彼女からは想像がし難いほど消沈しており、負のオーラを醸し出している。

生気がまるで感じ取れない様はまるで死人。

 

完全に心が折られたアイリにマリスは徐々に歩み寄り、ナイフを撫で回すかのように手首を捻り小さく振るっている。

 

マリス「壊れちゃったみたいだね。 じゃあ、さよならだね」

 

首の側面へ刃を当てるも、アイリは微動だに動かない。

一閃された凶刃が骨や皮膚を意図も簡単に斬り裂き、血飛沫が飛び散り、頭部が堅い地面へ落ちる。

 

そうなる筈だった。

 

?「ちょーっと待ったー!!」

 

彼女達が現れるまでは。

 




次回も書きたかったキャラが登場します。

最早私の自己満足になりつつある笑
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