首が跳ね飛び鮮血が花を咲かせようとした丁度その時、制止するよう活発な少女の声が厳粛な雰囲気を打ち砕いた。
マリスが視線を座り込んだアイリから上に上げると、三人の少女が立っていた。
腰に手を当て仁王立ちしている、橙色に近い茶髪を後ろで纏めたポニーテールに大きなアホ毛が特徴の八重歯が生えた男勝りな少女。
胸の前に両手を当て、気弱そうに涙を浮かべた瞳でアイリの事を心配りして見つめる、白雪のような純白の髪をショートボブにした、臆病な雰囲気を醸し出す物静かそうな少女。
高身長でモデル顔負けのスタイルを持ち、肩や腹部が露出したシャツを着た、マイペースそうな雰囲気の金髪のウェーブがかかったセミロングヘアの少女。
外観だけでも個性が強い三人組の少女が夕陽を背に立つ姿を見たマリスは唐突な来訪者に驚く様子は一切なく、静謐とした態度を貫いている。
マリス「来たね、ピースハーモニア」
?「当たり前だ! あんた達の悪行を見過ごすことなんかさせねぇんだから!」
男勝りな少女が風を切る効果音が出る勢いで腕を振り上げ指先を向け、毅然のある声を上げた。
マイペースそうな少女は耳の奥まで刺さる大声に不快感を顔に表せるなか、物静かそうな少女が呟くようにマリスに尋ねる。
?「その女の子に…何かしたんですか?」
マリス「何もしてないよ。 僕が来たときには既に怯えてる状態だったよ。 哀れで仕方ない程にね」
?「こ、この女の子に何があったのかは、分かりません、けど、馬鹿にするのは、やめてください!」
小胆ながらも勇壮な勢いでマリスの言葉を否定した。
マイペースそうな少女は笑顔で物静かそうな少女の勇敢な姿勢に痛切したようで、笑顔で肩を組んだ。
突然肩を組まれ驚いた拍子に涙目になっているのを知らず、肩をポンポンと優しく叩く。
?「よう言うたね! わしがズバッと言おうとしてたら先に言うんやからマジカッコいい惚れるわ~!」
?「そ、そうですか…?」
?「そうだって自信持ってオッケーやって! わしが保証しちゃるからドーンと胸張っとき! …あかん、ユノっち張る胸がなかったな」
?「い、意地悪です~!」
?「いつまで話してんだよ! 私もマリスも待ちくたびれてるんだけどー!」
マリス「…はぁ、用があるのなら早急に済ませてくれないかな」
彼にとって戯れ言に過ぎない事ばかり聞かされ倦怠感が募っていっていたようで、発せられる言葉には若干だが怒気が含まれている。
?「もぉーそんなカッカせんといてー。 今からわし達が相手しちゃるから。 そんで、その子を襲うっちゅう事は、ディーバと何か関係あるんか?」
マリス「異界から来た客人なのは、見て分かるだろうけど、どうやら違うみたいだよ。」
?「せ、背中、羽が生えてます…!」
?「今更異界から来た奴等を見ても驚かねぇよ。 ディーバと関係がなかったとしても、あんた達の事は見過ごすわけにはいかない。 行くよ二人とも!」
三人の少女は首に掛けてあった正八面体の形をした水晶を手にする。
男勝りな少女の水晶は赤、物静かそうな少女は白、マイペースそうな少女は紫と、各々所持している色は異なるが、どれも包まれるような温もりを帯びた淡い光を放っている。
?「フェニックス、シャイニングリンク!」
?「ヴィーナス、シャイニングリンク!」
?「アポカリプス、シャイニングリンク!」
力強く叫ぶと同時に、眩い光が少女達を包み込んだ。
思わず目を覆うほどの眩耀。
マリスは目を覆っていた腕を下ろすと、先程の姿とまったく異なる、劇的な変身を遂げた少女達が立っていた。
?「紅蓮の勇気、ブレイブフェニックス!」
ブレイブフェニックスへ変身した男勝りな少女。
髪色はきらびやかな赤色へ変色し、シアン色のメッシュが入り、鳥類の羽を象った髪留めが修飾されてある。
二の腕からある衣装に手首には翼をイメージしたリストバンドがあり、肩の衣装も翼の形状をしている。
背中が大きく露出しており、背中からは先端がシアン色の燃え盛る炎のように赤い翼が生えている。
前側が短く、後側が長い丈が違う赤色とシアン色のスカート。
左足が赤色、右足がシアン色の膝まで丈のあるブーツ。
胸には赤色の宝玉が付いた黄色のラインが走るシアン色のリボン。
赤色とシアン色を基調とした衣装。
?「純白の清き心、ブリザードヴィーナス!」
ブリザードヴィーナスへ変身した物静かそうな少女。
純白の髪は煌めく白銀へと変わり、光に照らされた細氷の様に輝きを放っている。
後ろ髪を編み込みにし、雪の結晶を象った髪飾りにより留められ、頭部には氷で生成された半透明のティアラが装飾される。
白い手袋に、肩から背中に垂れている短めのレース。
淡青色フリルがあしらわれた四つに分かれてある独特なデザインのスカートに、フリルが少なめのドロワーズ。
淡青色のポンポンが装飾されたブーツ。
胸には白銀の宝玉が付いた淡青色のリボン。
白色を基調とした衣装。
?「常闇照らす月光、ルナアポカリプス!」
ルナアポカリプスへ変身したマイペースそうな少女。
金髪は先端以外が菫色に染まり、後ろ髪は三日月を象った髪留めにより纏められた三本のポニーテール。
肘まである白色の手袋、肩から羽織るように着た黒色のレース、かなり丈の短い側面に三日月の飾りが付いた黒色と菫色のスカート。
菫色のリボンが施された黒色のサイハイブーツ。
胸には菫色の宝玉が付いた黄色のラインが走る黒と白のリボン。
腹部と背中が大きく露出した菫色を基調とした衣装。
煌びやかで華やかな衣装を身に纏った少女達は燦爛で、豪華絢爛という言葉が当てはまる。
フェニックス「今回のあんたの目的は知らねぇけど、一丁ド派手にやるぜー!」
ヴィーナス「こ、公園の遊具を壊さないよう気を付けてくださいね」
アポカリプス「善処しときんさいよフェニックス」
ヴィーナス「確実にないよう、お願いします!」
マリス「敵の前だと言うのに、君達は相変わらずだね。 先手は取らせてもらうよ」
短剣に炎を灯らせ、足音一つ立てず襲撃した。
無音の疾走。
変身しない彼女達ならば反応することすら許されず、血肉を欲しがる刃の餌食となっていただろう。
だが現在の彼女達は、この世界の守護者、ピースハーモニア。
一般人とはかけ離れた身体能力を得た彼女達には到底及ばない。
フェニックスが翼を模した炎を纏った手刀を放つ。
空気を斬り裂く音が聞こえる程の速度。
下から上に振り上げられた手刀は短剣を弾くだけでは終わらず、横に振り返り様に踵蹴りをお見舞いした。
マリスは顔面に直撃を受ける前に腕で防御するが、大型車両が激突する以上の衝撃に後退せざるを得なかった。
フェニックス「ちぇっ、防がれちまったな」
マリス「君の強さには敵ながらあっぱれだよ」
アポカリプス「わし達の強さに恐れ入ったっちゅーことでさっさと帰ってもらえへん?」
戦闘を開始した直後だと言うのに、緊張感のない無聊そうな態度で手首を振り帰るように促すも、素直に首を縦に振り踵を返す訳がない。
アポカリプスの問いには答えず、懐から取り出した小さな黒色の丸い物質を数十個乱雑に散布する。
地面に落ちた途端に人間と同等の等身へと肥大化し、二本の角が生えた、顔には口や鼻等のある筈の部位が確認できず、生気のない白目で敵と見なした少女達に睨みを利かせている。
マリス「これが僕の答えだ。 行け、デスマミー!」
マリスに命を受けたデスマミー達は一斉に走り出した。
傀儡達が走り出すと同時に翼を広げ勇猛に飛び出していったフェニックスに、ヴィーナスとアポカリプスも後に続く。
フェニックス「こんな雑魚達相手じゃ私の相手は勤まらないよ!」
炎を纏った拳と蹴りの連撃は早く且つ強力で、一撃一撃をデスマミー達に与えていく。
デスマミーはディスピアの人口増産兵士で、大した能力もない難敵とはとても言い難い存在だが、数だけは異常に多い。
数の暴力で押し寄せるため休む隙が与えられないというのが厄介極まりない。
フェニックス「何度同じ奴が来ても同じだー!」
多勢に無勢という言葉は通用しない。
疲労という感覚が無知なのか、燃え盛る炎は収まるどころか過激になり、フェニックス一人でほぼ全ての相手を完封してしまっている。
ヴィーナス「ぜ、全部フェニックス一人でも、大丈夫なんじゃないでしょうか?」
アポカリプス「何言うとるんよ。 ヴィーナスの力も必要やから、一発ドでかいの決めちゃりんさい!」
張り手なのかと思わんばかりに背中を叩かれヴィーナスは走り出す。
背中に残る疼痛に顔を歪ませつつ、デスマミーを凪ぎ倒しながら体に冷気を集束させていく。
ヴィーナス「『ブリザードミスト』!」
白い霧が両手から放出され視界を奪う。
僅かな陽の光を浴び細かな結晶が白銀に輝く幻想的な絶対零度の世界。
その美しい光景である霧の中は、表面に見えている美しさとは真逆で、惨たらしい状況へ変貌していた。
霧の中へ封じられたデスマミー達は一秒も経たないうちに全身が凍り付いた。
肉体、筋肉、関節、神経と言ったあらゆる全てを凍てつかせ、時が止まったかのように微動だにしない。
文字通り凍結した彼等をヴィーナスは走り通る際に掠れる程度に触れる。
触れた場所から体に罅が入り全身を駆け巡り、氷塊となり崩れ去っていく。
全てを凍てつかせる死の霧の中で、一つの灯火が辺りを赤く染め上げた。
灯火の正体は、フェニックスだ。
体を照らす灼熱の赤い光は絶対零度の冷気を除外し、寒さを一切感じていないようで、悠々と霧の奥から姿を現した。
フェニックス「お前のその技怖いって…」
ヴィーナス「し、仕方ないじゃないですか…。 これが私の能力、なんですから」
フェニックス「まぁ私も人に言えないけどな。 助かったよ、サンキュー」
八重歯が目立つ白い歯を見せニカッと笑い礼を述べる。
フェニックス「さーて、まだまだ準備運動にもなってねぇからな。 暴れさせてもらうぜ! 行くぜヴィーナス!」
ヴィーナス「はい!」
片や炎、片や氷、相性が相反する力が協調し、デスマミー達を蹴散らしていく様は、武神のようにも見える。
残されたアポカリプスはマリスと対峙していた。
アポカリプス「わしの相手はマリスかいな。 今日もしっぽ巻いて逃げるところを拝ませてくれるん?」
マリス「随分な言われようだ。 今回の僕は一味違うよ。 そして、デスマミー達もね」
不気味に笑みを浮かべると、腕を高らかに頭上へ上げる。
手首には目の模様がデザインされた毒々しい色のブレスレットが装着されており、力を送り込むと黒い光が発せられる。
マリス「我が力に応え、汝の闇を解き放て」
ブレスレットが一層光を放ったと思うと、数十体と存在するデスマミーの動きが一斉に静止した。
異形の軍団を蹴散らしていたフェニックスとヴィーナスは何故動きを止めたのか疑問を抱きつつも、当然だがこの好機を逃さず倒すのが定石と考える。
直ぐ様行動を起こそうとした直後、デスマミー達が覚醒した。
先程よりも全体的に動きが俊敏になり、力も倍以上に膨れ上がっており、変化が見られるのは一目瞭然。
フェニックス「うおっ!? 何だ急に!?」
ヴィーナス「い、今までの…ひえっ!? デスマミーじゃなさそうですー!」
涙目でヴィーナスがデスマミー達の止まらぬ猛攻を退けるが、最初の勢いは頓挫している。
アポカリプス「なんや、けったいな代物持ってきたなぁ」
マリス「ディーバを狙う異世界からのお客さんからのプレゼントさ。 僕らの恣意でいつでもデスマミー達を強化できる。 無論、装着している本人にもね」
黒い光がマリスに注がれる。
デスマミー同様、力が膨れ上がるのが肌を突き刺さるように通じてくる。
アポカリプスは豪胆な性格なのか、怖じ気付く様子は見られず、逼迫した兆しは全く見えない。
アポカリプス「異世界ねー。 エクリプスとか言う危なっかしい連中のことかいな?」
マリス「地獄に行く君に知る必要があるのかな?」
アポカリプス「アホ、死なへんから聞こうとしとるんや。 それに行くとしても天国や。 『ルナライトソー』!」
スカートの側面に装飾された三日月が分離し、黄金に輝き、光の粒子を宙に散らしながら標的であるマリスへと向かっていく。
三日月型の刃を短剣で弾き返したマリスは力強く足を踏み込み、加速が不必要なほど尋常ではない速さで接近する。
弾き返ってきた三日月を手にし、ナイフを扱うように軽々と振るい短剣を受け止める。
金属同士がぶつかり合う甲高い音が何度も響き火花が散る。
引っ切り無しに攻防が続いてはいるが、徐々に押され始めていた。
マリス「凱歌を歌うのは君達ではなく僕のようだね」
アポカリプス「勝敗を決めるにはまだ早いで!」
マリスの言葉に、僅かだが愾心を燃やしたアポカリプスは短剣を斬り込む際に軸足となっている右足を払いバランスを崩し、隙だらけの腹部へ向け月の刃を突き刺す。
マリス「甘いね」
確実に一撃が入る筈だったが、容易く防がれた。
ブレスレットの力により強化された身体能力で崩れかけたバランスを無理矢理戻し、体を横に捻り斜めに振り上げられた足で月の刃を持つ手首を蹴り防ぎ、振り返り様に炎を纏った短剣を横に一閃した。
アポカリプス「うぐっ、あぁ…!」
業火と共に激流のように押し寄せる痛みに呻き声を上げる。
マリスの攻撃は振り続く豪雨のように止むことを知らないのか、続けざまに逆にもう一閃、顔面に回し蹴りをくらわせた。
体に迸る擘く痛みと衝撃に意識が遠退くが、気力を振り絞り耐える。
倒れまいとふらついた足に力を込め地面を踏みつける。
アポカリプス「『フルムーンライトシュート』!」
真横に綺麗に裂かれた腹部の傷からは鮮血が止めどなく溢れ出る。
生命に関わる恐れのある大量出血だ。
深傷を負いながらも気にも留めない勢いで、今出せる最大の技を放つ。
フェアリルに住む人々を、友や仲間を守るために、目の前の敵を討つ。
青春を生きる十代という若さで世界を守ることは生半可な気持ちで成し遂げられることではない。
常に体や命張りながら戦う彼女達は、正に戦士と呼ぶに相応しいだろう。
アポカリプス「エクリプスと、組んだあんたを野放しになんてできん! わしが、みんなを守る!」
吐血し、息も絶え絶えになりながらも声を張り上げる。
アポカリプスの周囲に満月が数個出現した。
一層輝きを増した途端、一筋の極太の光が容赦なくマリスに放たれた。
煌めく月光を難なく避け続けるマリスの身を回すような動きは到底真似できぬほど柔軟で、尋常の域を超えている。
回避が困難な物は愛用の短剣で防ぎ払い除ける。
強化された肉体を匠に扱い、完璧な回避行動に圧倒され、アポカリプスの技の威力は徐々に落ちていき、生気と活気が失わていく。
額は汗で濡れ、足も震え顔も青冷めていっており、限界を迎えると同時に死の足音が漸近してきていた。
一発だけでもいい。
掠れるだけでもいい。
僅かでも一撃を与えられれば好機が訪れる。
全精力を注ぎ続けるも、回避される一方で、いずれか力尽きるのも時間の問題。
マリスも消耗戦を企んでいるようで、焦りと不安がアポカリプスを襲う。
視界が真っ白になり目眩が一層酷くなり、集中力が途切れ、周囲に召喚された満月が収縮し消滅を始めていた。
二人の戦闘を見兼ねたフェニックスは重い拳の一撃を与えてきたデスマミーをカウンター様に腹部に炎の羽根を数発、至近距離でお見舞いし消滅させ、援護をすべく駆け付けようとしたが、マリスの背後の風景にとある違和感を覚える。
今なお回避行動を続行しているマリスの背後、夕闇に染まる空が捻れていた。
しかも一ヶ所だけではなく、数ヶ所にも及び謎の現象が勃発している。
常識なら起こりうる事のない奇妙な現象に、フェニックスは我が目を疑い瞬きを数回繰り返すも、幻ではなく現実に起きている事実に変わりはなかった。
変化が起きたのは数秒と経たず起きた。
歪んだ空が開いた。
文字通りの意味で、中から抉じ開けられたかのように空が開き、見ているだけで吸い込まれそうな感覚に陥る、亜空間が顔を覗かせていた。
空間の裂け目だと確信したフェニックスは安堵の表情を浮かべた。
これだけの数の裂け目を出現させられる高度な技術を持つ者は、フェニックスの知人の中でも限られる。
回避され空を貫き消える運命にあった月光は空間の裂け目へ吸い込まれていき、鏡に光が反射する勢いでマリスに向け逆行する。
唐突に起きた不可思議な現実に、流石の強化されたマリスの体でも反応が間に合わず、背後から迫り来る月光に直撃し勢いよく地面を横転する。
予想だにしていない展開にアポカリプスとマリスは戸惑いを隠しきれない。
アポカリプス「一体…何が?」
マリス「ぐっ…! 君達の攻撃ではなさそうだね」
?「夜叉の構えから左手回して8時の方角! ファッ!?」
マリス「ぐふっ!?」
続けざまにマリスの真横に空間の裂け目が出現、中から変なポージングをした青年が風を切る猛烈な勢いで飛び出しマリスに激突した。
黒いラインが迸る純白の剣、グラムを手にした青年の名は、アレク。
アイリとシャティエルをピースハーモニアの世界に送達し、危機を救った張本人。
二人を捜索するため亜空間を通り探っていたところを、ピースハーモニアが苦戦している場面を目撃し乱入してきたのだった。
遅れるように同伴したラミエルも裂け目から姿を現し、ふざけた態度のアレクを見て失笑している。
アレク「俺、参上!」
自信が満ち溢れる相豹のアレクは再びポージングを取りつつ、周囲の状況を把握すべく鳥瞰する。
青年の存在に真っ先に気付いたフェニックスは屈託のない笑みで青年へ聞こえるよう荒げるように声を上げる。
フェニックス「助けてくれるんならもうちょい早めに登場してくれよ!」
アレク「ヒーローは遅れてやって来るのがお決まりなんだよ。 目的は違うけど、知人が危機的状況なのに見てみぬ振りをする冷酷な人間じゃねぇ。 ラミエル、お前もそうだよな?」
ラミエル「知人じゃなくても助けてやるさ。 天使として見過ごせねぇ。 邪な気を放つお前がデスピアの敵ってことで間違いないよな?」
指の関節を心地よく鳴らし転倒したマリスの元へと歩みを進める。
マリスは第三者の介入による不意打ちにより険悪の形相を帯びており、声には怒気が満ちている。
マリス「天使族か。 この世界の者でないのなら、自身の世界に帰り冥加でも受けているといい」
ラミエル「言ってくれるぜ!」
挑発の一言により戦闘の端緒が開いた。
電気が迸る拳と焔が纏う凶刃がぶつかり合い火花を散らす。
衝撃音と金属音が響く最中、アレクは一騎打ちには加入せず、最優先事項である行動に移った。
負傷したアポカリプスの治療。
腹部を斬り裂かれる重傷を負いながらも死力を尽くす勢いで攻撃を行ったため、体への負担は相当なものだったらしく、アレク達の介入に安堵したのか、崩れるように仰向けに倒れた。
まだ意識はあるようで、腹を裂かれた燃えるような苦痛に顔を歪ませている。
アレクは足早にアポカリプスの容態を確認する。
アポカリプス「うぅ……あ、兄さん、ありがとうな。 恩に着るわ」
アレク「今は喋らずじっとしてな。 …にしてもよく無事でいられたな。 すぐに治療するからな。 フラガラッハ!」
未成年の女性が腹を裂かれて無事でいられる筈がない。
内臓等が傷口から覗いてはいないが、出血多量によりいつ命を落としても不思議ではないだろう。
至急傷を塞ぐ必要があるため、白色と黄緑を基調とした、柄に蔦が巻かれた剣、フラガラッハを召喚した。
何故治療を行うのに剣を出したのか、無知な第三者からすれば理解不能だろう。
アレク「癒しの力を。 『ヒールクラスター』」
アレクが所有する剣の中で、唯一癒しの力の能力がある剣、フラガラッハ。
ありとあらゆる傷を癒す光の粒子が淡く輝きを放つ剣から溢れる。
光の粒子はアポカリプスの傷口へと舞い降りるように注がれ、傷口を一瞬の間に塞いだ。
痛々しい傷跡すら残さない、何事もなかったかと思わせるほど完璧に治癒していた。
アレク「よし、これでもうバッチリだ。 立てるか?」
アポカリプス「助かったで兄さん。 借りができてしもうたなぁ」
アレク「返さなくたっていいぜ。 仲間なんだから助け合うなんて当たり前だろ」
アポカリプス「かっこええこと言うなぁ。 惚れてしまうかもしれへんわ」
アレク「嬉しい限りだぜ。 これで惚れられた女は何人目だろうか…数えきれないぜベイベー」
アポカリプス「余計なこと言わへんかったら完璧やのになぁ」
痛みが引き、完治し万全の状態となったアポカリプスは差し伸ばされたアレクの手を取り立ち上がった。
アレク「マリスはラミエルに任せておいても問題ないだろ。 俺達はフェニックス達を加勢しに行こうぜ」
アポカリプス「了解や。 足引っ張らんといてや?」
アレク「手を引いてダンスをできる余裕はあるぜ」
両者は同時に地を駆け、傀儡の大群に入り乱れる。
アポカリプスは三日月を手にし、氷針を数本生み出し飛ばしているヴィーナスと合流する。
ヴィーナス「アポカリプス! 無事で、良かったです! 無茶しすぎですよぅ…」
アポカリプス「堪忍なぁ。 心配してくれてありがとうな。 さぁ、早いとこ片付けてしまお!」
仲間が無事なことに安堵したヴィーナスの藍色の瞳には涙が浮かんでおり、アポカリプスは背中を擦り宥めた後、二人は即座に戦いへと呑まれていった。
一方でアレクはフェニックスと合流し、新たに召喚したグラムを手にし大量のデスマミーを斬り落としていた。
フェニックス「ホント助かったぜ。 お前がいなけりゃアポカリプスが危なかったからマジで感謝してるぜ」
アレク「ライダー…じゃないけど、キモサベなら助け合いでしょ」
フェニックス「キモ…何だ? まぁいいや。 今度お礼に何でもしてあげるぜ!」
アレク「ん? 今、何でもって…」
フェニックス「……前言撤回する。 飯奢ってやるよ!」
アレク「残念、録音させてもらったから取り消しはできないぜ☆」
フェニックス「んな!? いつの間に録音機なんて持ってたんだよ!? 消せ! 今すぐ消せ!」
アレク「ラブアローシュート!って言ってもらおうか。 キューティー○ニーのコスプレも捨てがたい」
フェニックス「聞けよこの変態野郎!」
アレク「変態じゃない。 変態という名の紳士だ。 仕方ない。 チャンスをあげるぜ熱いレボリューション。 デスマミーを倒した数が俺より多けりゃ録った物は消してやる。 俺が言ったことが嘘だと思うか?」
フェニックス「星の数ほど嘘付いたことがあるのに何ほざいてんだよ! 兎に角、約束したからな! お前が相手でも絶対勝ってやるからな!」
若干、アレクのふざけた会話の流れにふわっと浮き立ったような痛快な気持ちが残りつつ、怒りと羞恥により顔を林檎のように赤く染め地団駄を踏んでいた。
緊張感のない饒舌な彼と契りを結ぶと、そそくさと疾走、デスマミー達へ炎を纏った拳で殴り付ける。
アレク「元気でよろしい。 俺も活力ある姿を見せないとな。 大人気ないけど…いくぜ、リジル!」
真っ直ぐな峰に赤いラインが走る刃が緩やかな流線型をしている銀色の剣、リジルを召喚し手にする。
逆手持ちにしたリジルを手に駆け出すや刹那、アレクの姿が神隠しにあったかのように雲散霧消した。
瞬きするよりも早い、一瞬の出来事。
目標を瞬時に見失ったデスマミー達は周囲を彷徨うように探索し始める。
捜索を始めて一秒経ったか、若しくは経っていないコンマ数秒後か、デスマミー達の胴体は真横に真っ二つになり命を散らした。
数体という範疇に止まらず、戦場と化した公園を埋め尽くす数のデスマミー全てが同等の無惨な有り様へ成り果て、断末魔を上げることを許さず消滅を果たした。
残された三人のピースハーモニアは現状が理解できず目を白黒させ困惑している最中、何食わぬ顔でアレクがフェニックスの前に忽然と姿を現した。
フェニックス「うおっ!? え、アレク、お前、何をしたんだ?」
アレク「何って、一匹残らず斬り捨てただけだぜ? あ、大人気ないことしたからさっきの約束はチャラにしてやるよ」
フェニックス「う、嘘だろ? あの一瞬で、あの数を片付けたのか…?」
アレク「正確には俺の能力と言うより、リジルの能力だけどな。 こいつの能力は所有者に光速をも超える神速の力を与える。 とてつもない速さで動けるってことだな。 どんなに反射神経や動体視力が良い歴戦の戦士でも、己の眼で確認することは、限りなく不可能に近いレベルの速度をな」
目を皿にするしかない。
実力の差が尋常どころか規格外に達していた。
以前からアレクと友好な関係であり、戦う様は何度か目にしており、力の一端は何度か目にしているが、改めて規格外に達する力の雲泥の差を見せつけられ肝を冷やす。
アレクはリジルの能力を淡々と説明し終えるとほぼ同時に、再び姿が消えた。
次に姿を現した場所は、ラミエルとマリスが力を衝突し合っている狭間。
前触れもない急襲にマリスは反応できず、短剣をリジルで防がれ、隙だらけとなった腹部を蹴られ後方へ吹き飛び、地面を抉りながら横転していく。
ラミエル「うおっ!? リジルで急に現れるのやめろって! 顔面ぶん殴りそうだったぞ!」
アレク「ごめんごめんごー。 許してヒヤシンス」
ラミエルは前へ突き出そうとした電撃を纏った拳を慌てて下げ一喝した。
戦局を一変させ満悦しているアレクは殴打されたかもしれぬ状況など気にしもない泰然なる態度で、ただの一蹴りで数十メートルは飛ばされたマリスを凝望している。
マリス「どんなトリックを使用してるのか知らないけど、厄介極まりないね」
口内に溜まった血反吐を吐き出し、服に付着した砂埃を払い立ち上がった。
アレク「どうする? まだやるならさっきの体当たり以上に理不尽な亜空間タックルを繰り出すぞ」
マリス「やれやれ、君さえ現れなければ事が良好に進んでいたものを」
アレク「世界の調和を齎すピースハーモニアを侮蔑しすぎだ。 もう一度聞くけど、どうすんだ?」
マリス「僕にはまだブレスレットの力がある。 デスマミーを出せる限り出し、残りの三闘士を呼び寄せ皆殺しにする」
再びブレスレットに邪悪な黒い光が灯る。
肌を撫でる邪険な気に、ピースハーモニア達は即座に反応を示し、力を発揮させるのを阻止するため走り始めた。
アレクもリジルを行使しようとしたが、耳を劈く銃声が聞こえたため、攻撃を制止した。
銃声を耳にした直後、マリスの手首に付けられたブレスレットに銃弾が命中、罅が入り一部が粉々に砕け散り、無用の長物と化した。
銃弾を受けた衝撃により鈍痛を覚えた手首を抑え、銃声が聞こえたと思われる方向へ目線を移す。
公園の遊具であるジャングルジム。
その頂上にはマリスを俯瞰する、敵愾心を露にし銀色のハンドガンを手にした人物、世界の監視者、リョウだった。
その隣には人間サイズとなったピコが自身の武器であるピコピコハンマーを持ち、今にも襲い掛からん双眸で見据えている。
マリス「次は世界の監視者とその相棒か」
リョウ「その辺にしとけ。 アレクとピコがいる時点で大勢は決した。 死にたいのなら続けてもかまわへんけど?」
銃口を手首から頭部へ向け的を合わせ、撃鉄を引き何時でも発砲可能となった。
不審な動きを見せれば躊躇なくトリガーを引くだろう。
マリスは腕をだらりと下へ下ろすと、観念したように両腕を上へ上げた。
マリス「分が悪すぎる。 流石に僕は命は惜しいから、引かせてもらうよ。 じゃあ、また会おう」
アレクの登場により勝率が下がったにも関わらず、リョウとピコの乱入により更に急激に下がり、引き際を悟ったマリスは一切の抵抗を見せずその場から超人的な跳躍力でこの場から去った。
戦場と化した公園が静寂に包まれたその時には既に陽は完全に沈みきり、夜の闇が空を覆い尽くしており、設置された幾つかの街頭だけが周囲を照らしている。
脅威が去り、リョウは銃を懐に収め、ピコと共にジャングルジムから飛び降りる。
リョウ「久し振りやなアレク。 助かったよ」
ピコ「やっほーアレク!」
アレク「アリスから話は聞いてたからな。 ピコやリョウの仲間なら助けるのは当然だ」
剣を消し、差し伸ばされたリョウの手を掴み固く握手を交わす。
当然だが、手が存在しないピコとは握手は交わしてはいない。
フェニックス「次は世界の監視者か。 今日は異世界からの客が多いな」
ヴィーナス「でも、おかげで、助かりました。 アレクさん、リョウさん、ピコさん、ありがとうございます」
アポカリプス「戦いが終わったのはええんやけど、この子達を何とかせんと」
平穏無事なことを喜ぶ間もなく、ピースハーモニアの三人は未だに地に座り込み俯くアイリと、機能が停止し目を見開いたまま仰向けに倒れるシャティエルの側に寄り添っていた。
リョウは二人の変わり果てた存在に気付くと、狂騒することなく早足にアイリの側に駆け寄り、アイリの目線に合わせるようしゃがみ込み優しく言葉を掛ける。
リョウ「アイリ…」
アイリ「リョウ、くん…あたし、の…せいで…」
リョウ「アイリのせいやない。 本当にすまない、わしが不注意なばっかりに辛い思いをさせてしまって」
アイリ「でも……あたし…あたしは…!」
自身の行いを厭悪し、自責の念に駆られ頭を抱える。
触れただけで壊れ千切れてしまいそうな一縷の精神状態ではまともに会話はできないと判断し、アイリの状態を一度保留することにし立ち上がり、機能が停止ししてしまった無惨な有り様となったシャティエルを横抱きし、ワールドゲートを召喚する。
ラミエル「おい、アイリはどうすんだよ」
リョウ「一度落ち着いてから後でわしが話をする。 先にシャティエルを修理しないと取り返しがつかないことになる。 優華、アレク達と一緒にアイリを連れて『T・フラワー』に行っててもらえないか? 後でわしも合流するから」
フェニックス「わ、分かったぜ」
優華と呼ばれた少女、フェニックスが頷く。
リョウは光の灯っていないシャティエルの無機質な瞳と、何かが貫いたと思われる穴が開いた腹部、機械の部品等が刃物により斬り刻まれ内部が筒抜けとなった体を見る。
無惨すぎる惨状に目を逸らしたくなった。
リョウ「ごめんな、シャティエル。 すぐに直してやるからな」
聞こえる筈もないシャティエルに感傷的な声で話し掛け、開きっぱなしの目を閉じた。
フサキノ研究所へ向かうため、ワールドゲートへと入っていき、役目を終えると光となり消滅した。
アレク「ったく、守るものや背負うものが多すぎるんだよ。 まったく、仕方ないな。 ラミエル、手伝ってくれ」
ラミエル「あぁ。 ほらアイリ、行くぞ」
アレクとラミエルはアイリの腕を持ち無理矢理にでも立たせ歩き始める。
アイリは脱力しきっており、覚束ない足取りで歩みを進め、目的地に着くまで延々と下を向き俯いていた。
普段のアイリを目にしていたラミエルは、その豹変振りを実感し、事情を知らないということもあり掛ける言葉が浮かばず絶句するしかなかった。
何かしらの理由で絶望してしまったのは明らかだったが、もう元の活発で天真爛漫な彼女には戻れないのではないかと思えてしまった。
因みに作者が一番好きなプリキュアはキュアブロッサムです