リョウは施設内を凄まじい速度で駆けていた。
リベリオンから告げられた言葉が確かであれば、ブレイブフェニックスこと、優華が危機に面している。
フェニックスの気配が消失したということは、変身を自ら解いたか、多大なダメージを受け強制的に変身が解除されてしまった、このどちらかが原因として挙げられる。
今回の場合は明らかに後者で、最悪命を落とす可能性もある危機的状況に陥っている。
優華が警護に当たっている場所は把握済みなため、血眼になり水面を蹴る勢いで足を動かす。
ピコ「リョウ! どうしたの?」
デスマミーの大軍と相手をしていたピコとすれ違うも、リョウは耳を貸さずただ優華の元へ向かうことに傾注し疾走する。
走り去る刹那、リョウの横顔を目視し暫し一驚する。
左目が黄金色の輝きを放っていることに。
『力』を発動させているということは、非常事態だと察することができる。
非常事態である以前に、彼が一切の躊躇もなく『力』を行使していることが問題で、対処しなければ由々しき事態が起こり兼ねない。
胸中がざわつく最中でも自分を亡き者にしようと進軍するデスマミーは迫って来る。
邪魔となる傀儡達を相手に辟易とする心を体現するかのように『ピコビーム』を発射し、大軍を一掃した。
定規を模した翼、『ルーラーウイング』を装備し狭い廊下を滑空しリョウを追走する。
一分も経たぬ内に追い付くことができた。
東側の出口の付近のフロアにリョウは立ちすくんでいた。
不思議に思いピコはリョウに声を掛けようとしたが、先に視界に映り込んだ光景に目を見開き息を呑んだ。
日頃の溜飲が下がったような相好をした数人のエクリプスの戦闘員と幹部の一人であるオムク。
優華「う………こぷ……………」
そして、部屋の片隅に横たわる全裸姿の優華。
身にしていた衣服は力任せに引き千切られ布切れと化し周囲に散乱している。
全身が白濁の液にまみれ、口や膣からも溢れ出ている。
体の至る箇所に殴打されたされた痕があり、腫れた痣が青く変色してしまっている。
半開きとなり一筋の涙を流す目には光が灯っていない。
痛烈すぎる光景に思わず目を背けたくなる。
現実ではないと否定したい現状に虚脱感を得て傍観しているリョウに気付いたオムクは口角を上げた。
オムク「よお監視者。 遅かったな、早く来てればこの娘の喘ぐ姿が見れたのによ」
オムクの諧謔に戦闘員達はゲラゲラと笑いを漏らす。
「途中泣き喚いたりすることもあったから痛め付けてやったら直ぐに大人しくなったな」
「お陰で俺達は楽しめたけどな」
「花の女子高生を楽しめて満足できたぜ」
オムク「俺は優しいから快楽を与えてくれた礼として命までは奪ってないぜ。 だが、こいつの精神はもう死んだも同然だけどな。 あっはっはっはっはっは!!」
陽気に高笑いを始めると戦闘員達も続くように高笑いを始めた。
男達のがさつな笑い声が輪唱し響く。
オムク「良かったらお前も楽しむか? 俺達の使い古しで良ければだけどな?」
扇情的に放たれた言葉を投げ掛けるも、リョウは一切応答をしなかった。
聞いていなかった、と言うより、聞こえていなかったのだから。
人とは思えぬ残虐な行為に、仲間を強姦され傷付けられた怒りが沸き上がる。
守る筈だった仲間が取り返しの付かない程に心を大きく削られてしまった悲しみが覆う。
様々な感情が溢れ複雑に混ざり合い頭や心を掻き乱す。
嘗て自身も経験した、悪辣非道な彼等の行動が脳内を過り、抑えていた遺恨と怒りが膨れ上がる。
感情が膨れ上がるのと同時に『力』が解放されていく。
使用するのは極力控えてはいたが、残酷且つ非道な彼等の悪行を仲間に与えられ、黙っているほど現在のリョウは温厚ではなく、堪忍袋の緒が切れ冷静を保てないでいるほど腸が煮えくり返っている。
見逃す訳にはいかない。
必ず殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすこロすコろすこロスころスコろすコロすこロすコロスコロスコロスコロス。
否……………ケシサッテヤル。
黄金色に変色した左目の輝きが一層強まると、憤怒に染まった表情は瞬時に無表情へ変わった。
唐突に表情が無に変わる様は不気味という一言に尽きる。
オムクもリョウの妙な気配に気付いており、奇怪な物を見つけたかのように目を細め首を傾げている。
ピコ「リョウ……」
リョウ「止めたって無駄だ。 わしはあのゴミを始末せんと気が済まん」
ピコ「……分かった。 僕も許すなんて生易しい考えは浮かばないから、今回は止めない」
リョウ「ありがとう。 ……じゃあ、いくぞ」
ピコ「うん」
心情を察したピコはリョウの行動を阻止することを止め、協力することを決断した。
最悪の場合が起きることを想像したピコだったが、自分一人でも対処できるという計算だったので、ピコも遠慮はいらないと言うように『力』を発動させ両目が金色に輝く。
リョウ「ピコ………殺れ」
無慈悲に、冷淡に言い放った。
瞬間、リョウとピコの姿が消え、オムク以外のその場にいる人間が命を散らした。
オムク「……………は?」
一瞬の出来事に頭の中の整理が追い付かない。
気付いたときには、先程まで快楽に浸され上機嫌に高笑いしていた戦闘員は見るも無惨な有り様へ変貌していた。
ある者は頭、腕、足、胴、体のありとあらゆる部位を乱雑に斬り刻まれ肉片と化した。
ある者は強烈な剛力により身体を骨や五臓六腑諸とも弾け飛び、一部の者は車のタイヤにより轢かれた蛙のように潰されている。
視認不可能な攻撃により原型を留めていない、遺体とも呼べるかどうかすら怪しい肉片が散らばり、血飛沫が飛び散り床や壁を赤一色に埋め尽くす。
一秒と経たない内に起こった惨劇を目にし放心していたが、体中に浴びた鮮血のベトリとした感触に不快感を覚え我に返り、警戒し周囲を見渡すも、二人の姿は見当たらない。
リョウ「何処見てたんだ。 前だよ」
オムク「んなっ!? さっきまではいなかった筈…ど、どうやって…!?」
驚愕するなと言われても無理だった。
周辺を隈無く見渡したにも関わらず姿が視認できなかった。
前方を見逃すことなど有り得ない、だが鮮明に視界には左目の瞳が黄金色に輝くリョウの姿が映り顕在していた。
真横には両目の瞳を黄金色に輝かせるピコが立っており、血で赤く染まったピコピコハンマーを担いでいる。
オムク「瞬間移動か、高速移動と言った部類の力を使ってるってことか…」
リョウ「見当違いもええところや」
リョウの無表情の顔と感情の籠っていない声色にこれまでにない悪寒が襲った。
動かなければ、攻撃しなければ、必ず殺される。
半ば我武者羅に拳をリョウの顔面の中心に向け突き出した。
リョウ「大人しくしていれば楽にさせてやったのに」
本来なら呆れ混じりの溜め息を漏らすのだろうが、リョウは相変わらず表情を変えることなく、右手の小指だけで剛腕を受け止めた。
リョウ「お前みたいなゴミ以下の存在なんて、小指一本で十分だ」
剛腕を下へ払い除け、小指を上へ振り上げる。
腕の付け根を掠めただけで、傷一つ負わない、攻撃とも呼べない一振り。
常識的に痒みさえ伴わない意味の無い動作。
オムク「ぎゃあああああああああああああ!!??」
常識を覆す出来事が起きた。
小指が掠める程度に当たった僅かな一振り。
罪悪感のない果断により振るわれた静かなる小さな攻撃で、鍛え抜かれた屈強な腕一本が斬り落とされた。
オムクは痛みに絶叫を上げ、流血する傷口を抑え膝を着いた。
リョウ「さて、次は何処の部位を取ろうか」
オムクを見下ろすリョウの目は敵意がありながらも嘲弄するかのようなもので、無表情のまま俯瞰している。
全てをかなぐり捨てないと生きる道がないと判断したオムクは狼狽しながらもスイッチのような物をポケットから取り出し力を込め押した。
オムクの真後ろに時空の乱れが発生し、空間の裂け目が出現した。
あらゆる物を吸い込むブラックホールのような吸引力に、強靭な肉体を持つオムクの体が浮かび上がり裂け目の中へと吸い込まれていった。
オムクが使用したのは、自身が危機に陥った時、その場から強制的に離脱する『緊急離脱異世界転移装置』と呼ばれる代物。
文字通り異世界へ移動できる装置で、ボタン一つを押すだけで異世界へ移動し己の身を守れる便利な道具だが、移動先は選択できないため辿り着く先が未知の世界の可能性が高いため実用性はほぼ皆無だ。
殆んど賭けとなる道具を使用したオムクの視界に広がるのは見知らぬ場所。
人を寄せ付けぬ、辺り一面を新緑で埋め尽くす程木々が鬱蒼と生える自然豊かな森。
無事に異世界転移を終え緊張の糸が一切れ息つきその場へへたり込む。
オムク「ヤバかったな。 何だったんだあの力は…戦闘を続行していると間違いなく死んでたな」
不明確な力を発揮するリョウとピコに悍ましさを感じるも、自身が無事なことに安堵し目を閉じる。
自他共に認める戦える状態でないので、傷を癒すために一旦拠点へ戻ろうと立ち上がり目を見開く。
新緑の世界が鮮血による深紅の世界に変わっていた。
更にいる筈のない存在、リョウとピコが目の前に立っており、無表情のまま黄金色の瞳でオムクの目線を逃さんと言うように真っ直ぐ見つめている。
オムク「……は?」
再び訪れる理解できない状況に地から溢れんばかりの焦りが生まれ、背中に汗が雨に打たれたかのように服を濡らす。
視線を周囲に向けると、先程まで地平線の果てまで生えていそうなほど広大な森が広がっていたが、今あるのは血に染まった石材の壁やタイル張りの床。
瞑目していた数秒とも経たない間に、フェアリルのコンサートホールに戻ってきてしまっていた。
リョウ「どうした? えらい困惑しとるみたいやけど」
オムクは自身の記憶力を疑った。
先程まで確かに装置により別世界へ逃走した世界にいた筈。
___危機的状況に陥り現実逃避したいがために脳内が見せた幻覚なのか?
幾ら考察しても答えが出るわけではないので、兎に角この場を離脱することを優先した。
再びポケットから『緊急離脱異世界転移装置』を取り出しスイッチを押し、異世界への脱出を実践しようとした。
だが、裂け目が出現した瞬間、光の粒子となり消え去り宙へと舞っていった。
目の前に立っていたリョウは、移動したという表現が相応しくない程の、神速という言葉を超越した速度でオムクの真横に立ち、逃走できぬよう肩を掴む。
リョウ「もう、お前に次はない」
冷淡に放たれた感情の籠らない絶対零度の言葉と同時にオムクの腹に貫くような衝撃が走る。
リョウが右腕で襖を破るようにオムクの腹を殴り突き破っていた。
オムク「ぐはあっ!? ああああぁ!? ば、馬鹿な……ぐ、ごぶあぁ!?」
奇怪な現象が立て続けに起き半狂乱になりながら、臓物を貫かれ体を裂くような激痛に吐血しながらも耐える。
川の水源のように鮮血が止めどなく溢れ滴り落ち、深紅に血塗られた床に上塗りされていく。
リョウは無慈悲に容赦なく蹴り上げ、瀕死の重傷を負ったオムクの体は抵抗する力もなく床へ倒れ伏す。
オムク「ど、どうなってんだ…。 俺は、確かにさっき、異世界に、移動した筈…!」
リョウ「確かに、わし達から逃げ切ったのは紛れもない事実じゃ。 でも、無駄やったのう」
不快を感じる素振りや表情を見せてはいないが、腕に付着した血を払うため腕を軽く振るった。
洗濯を行わなければ決して洗い落とせない液体が衣服から剥がれ、染み一つ残さず床へ落ちていった。
リョウ「お前が辿った、今で言う未来を、無かったことにさせてもらったからのう」
理解不能だった。
世界の監視者が運命を操作するような特殊な能力を行使する情報は耳に入ってはいなかった。
何時からこの能力を取得できたかという事実はオムクにとっては些末なことで、この能力が存在する限り、どのような手段を用いようとも、逃走するのが不可能であることを意味し、絶望がという色が浮かび上がった。
オムク「頼む…命だけは…命だけは、助けてくれ…。 妻や、子供がいるんだ。 頼む……」
乗り切るための手段として浮かんだのは、命乞いだけだった。
お守りとして首から下げてあるロケットペンダントの中に入れてあった写真を見せた。
穏やかに微笑む女性と共に朗らかに笑う男の子が写った、心が暖まるような一枚。
家族を支える者として、死ぬことはできない。
家族を盾にする口実に使用するのは辛酸を舐める思いだったが、家族を置いてこの世を去るよりは断然マシなため、選択せざるを得なかった。
生きるため、家族と再開を果たすため、ただひたすら頭を垂れる。
リョウ「助けてくれ、か。 ………よく、そんな言葉が出てくるな」
目線を合わせるかのように蹲み、髪を鷲掴みにし無理矢理顔を上げさせる。
リョウ「今まで、エクリプスに襲われた世界は幾つ存在する? 襲われた人は何人いる? どれだけの人がエクリプスの悪行により住む場所や帰る場所を失った? どれだけの罪のない人の命が失われた? 残された遺族の気持ちを一寸でも考えたことがあるか? 罪悪感を感じたことがあるか? お前達の無責任で傲慢な悪辣非道な行いで、何人の人達が苦しみ嘆いたと思う? どれだけの悲しみが、憎しみが生まれたと思う? お前達の悪行を上げていくと枚挙に暇がない」
オムクの恐怖により引き攣る顔を凝視し淡々と述べ一旦一息つき再び口を開く。
リョウ「エクリプスに殺された人達は、きっと死ぬ前に何度も命乞いをした。 だがお前達は一切の迷いもなく、躊躇もなく殺したんだろ? その人達の知人や友人、家族の悲しみも考えず。 罪のない人の命を平気で奪うお前達エクリプスが許しを請う? 戯れ言ほざくのも大概にしとけ」
髪を掴んだ手に力を込め引っ張り上げ、片手だけで屈強な巨体を無理矢理立たせる。
リョウ「命の価値を知らないお前達エクリプスの人間が、命乞いをする権利なんざないんよ。 非人間的な行いを悪事だと自覚もない。 世界を危機に脅かし、殺戮を平気で繰り返すお前達エクリプスの人間に、救いなんてないんだよ。 馬鹿は死ななきゃ直らない。 否、馬鹿は死んでも直らない」
オムク「分かってる…分かってる。 それでも、俺の家族のために…生かしてくれ…」
リョウ「……今のわしには分からんけど、呆れを通り越すと憤りすら感じないんだろうな。 お前の妻や子供に同情する。 家族のために働く夫が、世界を牛耳るために悪事を平気で行う極悪殺人鬼なんだからな」
オムク「妻や子供は、俺がエクリプスにいた事実は、知らない……ごほっ! ごほっ!」
吐血した際に飛沫した血飛沫が顔に掛かるも、不快感を一切示さず、眉一つ動かさない無表情を貫いてる。
リョウ「天網恢恢疎にして漏らさずって言葉知ってるか? 悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむるという意味がある。 善人振っててもいつか公に出て痛い目に会うんだよ。 生憎、お前は公になる前にこの場でわしに消されるんやけどな」
オムク「ひっ…頼む…助けてくれ…家族が待ってるんだ……!」
リョウ「…お前の耳は節穴か飾りか何かか? わし言うたよな。 エクリプスの人間が命乞いをする権利なんてない。 それにな…」
空いた左手の拳が徐々に握り締められ、爪が肌に食い込み血が滲み出る。
リョウ「愛する家族がいるにも関わらず、未成年の女性を強姦した。 支えるべき家庭を裏切る最低な行為だ。 家族が大事だと言っておきながら、己の事情が悪ければ簡単に剪裁し、身に危険を要すれば今のように盾にする。所詮は自衛のための道具に過ぎないってことやな」
オムク「ち、違う! お、俺は…!」
リョウ「何も違わない。 否定させはしない。 全て事実だ。 心の底から想い慕っているのであれば、全うな職に就き、家族が知れば悲嘆するような卑猥なことは絶対にしない。 愛する人さえ都合の良い道具として扱うゴミみたいな人間が、気安く家庭なんて築いてんじゃねえよ」
オムクはリョウの鬼気迫る勢いで放たれた言葉の一言一句に、心に杭を打たれていく感覚に陥っていた。
リョウ「何より許せんのは、わしの仲間に手を出したこと。 わしにとっては、それが一番重罪なんだよ」
オムク「結局は、私情かよ…」
リョウ「当たり前だろ。 さっき述べた家族のことは許せないのは勿論だが、お前の家族がどうなろうが、家族がお前に愛想を尽かそうが、わしにとってはどうでもいいことなんよ」
オムク「俺の、俺のことを、家族のことを知らないお前に、何が分かる!」
決死の猛攻として懐に仕込んであった短剣をリョウの脳天に突き刺した。
髪を掴む力が緩んだ隙に拘束から脱し、激痛に顔を歪ませながらも床に落ちている戦闘員が使用していた血塗られた長剣を拾い上げ、心臓を目掛け出せる全力を尽くし投擲した。
刃先はリョウの胸部に見事に命中し、肉を裂き心臓を貫いた。
背中から長剣の刀身が顔を出す程、深々と刺さっていた。
オムク「は、ははは、あはははは! ざまぁみやがれ! 長々と余裕ぶって話してるからやられるんだよ!」
頭部と心臓の二ヶ所を刃物で刺されば、奇跡さえ起こらなければ人間が生きることはまずないだろう。
誰から見ても死亡することは明々白々で、勝利を確信したオムクは高々と勝鬨を上げる。
リョウ「………勝手に勝利を宣言するの止めてくれへんかね?」
痛みにより苦痛の声を上げもせず、何事も無かったかのように平然としているリョウの姿があった。
オムクは本日何度目かの不可解な出来事に我が目を疑う。
肉を裂き深々と刺さる感触があったため、短剣と長剣は人間の急所と呼べる箇所に確実に刺さっているにも関わらず、目の前にいる青年は流血しながらも苦悶の表情を見せず平然と立っている。
リョウ「このわしが、頭や心臓を刺された程度で死ぬわけないやんか」
躊躇いなく胸に刺さった長剣を抜き取り、オムクの胸部へと突き刺した。
訳も分からぬまま再び受けた致命傷の攻撃に身を捩り床に倒れ伏し呻き声を上げる。
リョウ「何で攻撃が効かないか気になるか? なら、冥土の土産に教えてやるよ」
頭に突き刺さった短剣を引き抜き雑に投げ捨て、苦悶の表情を浮かべ微動だに動かないオムクの耳元に顔を近付け何かを囁いた。
周囲に漏れない呟くように放たれた言葉に、オムクは血の気が引いたように顔を真っ青になった。
正直信じられない事実だった。
恐怖を通り越す、この世のものの中でも頂点に君臨する恐ろしいものだった。
世界が束になって掛かろうとも誰も敵わない、強大な『力』。
存在している時点で世界を終末へ齎し兼ねない存在してはいけない『力』。
知らずとはいえ、禁忌の存在を目の前にし抗ったことを後悔した。
周章狼狽し、致命傷を負った体を無理矢理動かしその場から逃走を図ろうとする。
無駄だと理解していることすら忘却し、目の前にいる悍ましい存在から距離を取ろうとすることだけが頭の中を埋め尽くしている。
リョウ「その様子だと、今のエクリプスはわしがどういう存在なのか知らないみたいやな。 まぁそんなことはどうでもいいけど」
オムク「や、やめろ…来るな! 来るなぁ!!」
恐怖に引き攣った顔は涙に濡れ、血気盛んで熾烈なエクリプス幹部の風貌は消え去っていた。
散乱した戦闘員だった肉片を掻き分け這いつくばりながら移動する魯鈍な様は滑稽でしかない。
リョウ「安心しろ、痛くはない。 死ぬよりも酷いことになるけど」
左目の黄金色の輝きが増し、『力』を発動させる対象に右手を伸ばした。
リョウ「消えろ。 『エターナルディサピアランス』」
技の名前を述べる。
冷酷に、冷淡に、残酷に、無慈悲に、無情に。
オムクはただ恐怖と激痛に苛まれながら、己の身に何が起きたのか理解することもなく、金色の粒子となりこの世から消え去った。
不倶戴天の敵とはいえ、一人の人間を消し去ったことに一抹の罪悪感を感じることもなく、ただ無表情に、宙へ舞い漂って消えていく金の粒子を見続けていた。
描写がやり過ぎたかもしれないけど後悔はない