涼しい風が吹き抜ける月夜。
絵になるほど美しい満月が夜空の暗闇を照らしている。
月光が自然豊かな木々や、心地好いせせらぎを奏でる川を照らし出来上がる風光明媚な夜景には心を揺さぶられそうになる。
山に連なり鬱蒼と生える木々の中に佇む玉桜寺の正面に咲き誇る桜も月光に照らされ淡く輝いていているようにも見える。
穏やかな風が枝を揺らし、桃色の花弁が宙へ舞い、重力に従い地面にひらひらと落ちていく。
その内の一枚が獣耳を生やした少女、真琴の狐色の髪にふわりと乗った。
翔琉「真琴、動かないで」
陰陽師であり真琴の主でもある翔琉が手を伸ばし、髪が乱れないよう注意を払い花弁を取った。
本来なら何気無く行う気遣いなのだろうが、現在の翔琉はこの動作すらも緊張感が充溢し、心臓が早鐘のように鳴り響いている。
尾黒による、忌み嫌う陰陽師を抹殺する働きと、異界から襲来した悪魔の件を解決し、深傷を負うことなく無事に玉桜寺に着いたのだが、翔琉と真琴は口を利かないまま、気まずい雰囲気が両者に漂っていた。
ルシファーとの戦闘の最中、二人で交わし合った愛の言葉が原因なのは両者とも理解はできていた。
普段吐かない心の底からの思いを伝え互いに思慕の念があると言葉という形にし分かった。
故に気恥ずかしく普段通りに振る舞えず、沈黙が支配する膠着状態が続いていた。
日が経つに連れて杞憂に過ぎない些細なことまで懸念し、何とも言えない心地悪さ残る。
何よりこれまで築き上げてきた関係が崩れ、修復できないのではないかと危惧の念が全身を駆け巡り心に残り、おちおち快眠を行うこともできない。
二人になる空間を作るために翔琉が場を設けたので、いつまでも口を開かないままでは埒が明かないため口を開いた。
翔琉「……今日は、ありがとう。 真琴のお陰で、今回の危機を乗り切ることができた」
真琴「そ、そんな! 主がいてくれなきゃ、私も危なかったし、主のお陰だよ」
翔琉「いや、真琴が最後まで諦めずにいたから、僕を信じてくれていたから、背中を預けることができた。 この広大な世界で、真琴は僕にとって最も信頼できる最高の相方だよ」
真琴「はうぅ…/// と、当然よ! 主の隣に立つのに相応しいのは私しかいないんだから!」
翔琉「うん、僕もそう思うよ。 真琴以外なんて、考えられない」
真琴「な、何だか恥ずかしい…かな。 わ、私もそう思ってるからね?」
胸を張り高らかに言葉を発したが、翔琉の真剣な眼差しと本心を聞き頬を紅潮させる。
真琴の返答と、もじもじと落ち着きがない様子が可愛く見え、翔琉も頬を紅潮させていた。
互いに言葉にせずとも、自分の事を大切な存在だと認識していると分かりきっている、理解しているのだが、いざ言葉という形にし示してみると羞恥を覚えてしまうものだ。
だが、心の隅に溜め込み陰鬱となるよりは、洗いざらい吐き出してしまう方が楽になる。
そして何より、今ある関係を残しつつ、新たな関係を築き上げるためにも、心の丈を打ち明ける。
翔琉「思ってることは、一緒だね」
真琴「うん。 嬉しい。 主にとって大切な存在であることが」
大切な存在だと言葉にしてくれるだけで、真琴は嬉しさのあまり飛び上がりそうになる。
高鳴る鼓動を抑えたいが、意思とは反対に興奮とも言える躍動感が溢れる。
翔琉も緊張により心臓が早鐘のように鳴り動き、平静を保つため一度深呼吸を行う。
翔琉「僕は、これからもずっと、未来永劫、この身が果てるまで、真琴と共に人生を歩みたい。 主従関係ではなく、一人の女性として、僕の隣にいてほしいんだ。 恋に関したは経験もないから疎いけど、君が好きというこの気持ちは、誰にも負けない」
始めは想い人に気持ちを伝えるのことを気恥ずかしく思っていた。
恋など職業柄無縁とも言える代物で何一つ分からない未知なものであったが、本気で想いをぶつけなければ意味がないということは翔琉でも察することはできた。
現在は気恥ずかしさという告白するに至って不必要な感情は消え去り、面と向かい、真剣な表情で、思いの丈が口から流暢に出てくる。
翔琉「僕は人間だから真琴とは時を生きる年数は違う。 それでも、陰陽師としての才能しかない僕だけど……真琴、僕は君が好きです。 君の人生を、僕と共に歩む時間に使ってもらえませんか?」
勇気を振り絞り胸に秘めた想いを打ち明けた。
妖怪等の邪悪な存在を相手をするのとはまた違う、胸を締め付けられるような緊張感が体を支配する。
返答を待つ数秒という一瞬の時間が途方もなく長く感じた。
真琴「…………バカ」
絞り出すように出たのは僅か二文字の言葉。
その言葉に乗せられた感情は相手を罵るようなものではなく、喜びに打ち震えるもの。
真琴「主の、バカ………どれ、だけ…待ったと思ってる、のよ…」
止めどなく涙が溢れ、ほんのり紅潮した頬を伝う。
幾日と待ち続け、望んでいた言葉を掛けられた途端、世界が止まったかの様な感覚に陥った。
その感覚も瞬時に消え、溢れてきたのは舞い上がりそうなこの上ない喜び。
歓喜のあまり声を出すのもやっとな程に嗚咽してしまっている。
翔琉は真琴に歩み寄り、未だに溢れる涙を指で拭った。
真琴「あ、主…」
驚いて顔を上げるも、呼び掛けに応じる事なく、離さないように力強くもあり優しく抱き締めた。
ふわりと甘い女の子の香りが鼻腔をくすぐる。
心拍数が上昇し、血が沸騰しているかのように熱を帯びる。
互いの距離はゼロで、息が体に触れ合い胸の鼓動が直に感じ取れる。
翔琉「待たせてしまってごめん。 僕も中々自分の気持ちに素直になれなかったから、決断するにも行動するにも躊躇いを感じて気持ちを伝えることが出来ず、今日まで引き伸ばしてしまった。 この気持ちを抑えるのを、己を偽り我慢するのはできなかった。 僕自身、溢れるこの気持ちを、真琴が好きだって想いを、秘めておくのは無理だった。 真琴が僕に抱く想いを、無下にしたくもなかったから」
真琴「ホント、かっこいい、こと、言ってるのに……遅すぎるんだから。 この鈍感陰陽師…」
翔琉の胸に顔を埋めたまま真琴は悪態を吐きながらも、抱き締める腕の力強さに安堵し身を預け、ゆっくりと背中に腕を回す。
抱き締め返された途端、頭が燃え上がる血流により沸騰しそうになった。
体中が火照り、顔に熱が帯び更に赤く染まっていく。
翔琉の胸に顔を埋めていた真琴が一頻りして顔を上げた。
涙に潤んできらりと輝く瞳で上目遣いされたのが男心を擽る魅惑を感じ可愛らしくも見え、愛おしく感じる。
真琴「でも、ありがとう。 生きてきた中で、間違いなく嬉しいよ。 私も、主のこと、大好きだよ」
目を細め嬉しさの表情を浮かべ、熱い想いを口に出した。
愛の告白を受けた翔琉の心臓は早鐘を打ち、雷が走ったかのように痺れる心地よさに包まれた。
互いに想い愛を抱いている、恋人と言われる関係になれたことに幸福を感じる。
これまでにないほどの、有頂天に達する幸福だった。
翔琉「ありがとう、真琴。 恋人として、これからもよろしくね」
喜びの感情だけが心という器を満たす。
家臣の関係や種族の違いという桎梏がなくなり、真琴は箍が外れたのか、背中に回していた腕を首に回した。
真琴「主の…翔琉の側から離れないから、何があっても一緒にいるから、翔琉も私を離さないでね?」
翔琉「勿論、そのつもりだよ。 天変地異が起ころうと、世界に危機が訪れようと、守り抜き離しはしない。 絶対だ」
右手を真琴の燃えるように暑く紅潮した頬に添える。
真琴は期待に潤う瞳を閉じ、背伸びをして顔を近付けていく。
翔琉は腰に回している左手を引き寄せ、この世の誰よりも美しい彼女へキスをした。
初めての甘美なキスの快楽に、鳥肌が立つほど感覚が鋭敏になる。
痺れるほどの快楽が唇から全体に広がり、頭の回路を焼き切り、全身に余す所なく広がり迸る。
寂寥感すら覚える静けさが広がる。
二人の愛を祝福するかのように緩やかな風が吹き、桜の花弁が舞い散る。
時間としては一分も経過してはいないだろう。
だが二人が体感していた時間は十分にも一時間にも感じていた。
唇を離すと真琴の口から名残惜しさの吐息が漏れた。
触れ合う唇から愛を渡し受け取って呼吸すらも忘れていたので、互いに足りない空気を求めて浅い息を繰り返した。
真琴「えへへ…嬉しい。 翔琉、私のこと大事にしてね」
翔琉「無論だよ。 ん? 僕の呼び方、変わってる」
真琴「もう恋人なんだから、名前で呼び合う方がいいかなって。 やっぱり、嫌だった?」
先程とは違う涙を浮かべ上目遣いしてくる真琴の美麗な顔に心臓が跳ね上がる。
月明かりを浴び宝石のように煌めき、微少の涙により揺らめく瞳に意識を吸い込まれ溶けそうになる。
翔琉「嫌なんて、そんなことないよ。 その逆さ。 真琴とまた関係が濃密になって嬉しいよ」
頭に手を乗せ愛する彼女を優しく撫でる。
高級な繊維の様に繊細な狐色の髪の感触が心地好く、目を細め恍惚に満ち快感に浸る真琴の表情を何時までも眺めておきたい衝動に駆られる。
真琴「翔琉……もう一度、して」
瞼を閉じ、自ら快楽に溺れようと精一杯背伸びをする。
愛する彼女と繋がりたいという思いが溢れ、歯止めが効かなくなっていく。
頭に乗せた手を頬に移し、顔を徐々に近付ける。
互いの口から零れる熱い息が肌で感じ取れる。
愛を確かめ合う甘い痺れを得ようした刹那、
アリス「えんだああああああああああああ!!」
アイリ「いやああああああああああああ!!」
翔琉・真琴「!!!!????」
勢い良く八脚門の扉が開き、バカ二人が乱入した。
うっとりとした耽美な雰囲気が霧散してしまい、現状が把握できず翔琉と真琴は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり屡叩いている。
リョウ「はぁ……最悪じゃ」
アレク「流石の俺でも養豚場のブタでも見るかのように冷たい目をしちまうぜ…」
後からリョウとアレクが呆れ混じりの溜め息を吐きながら歩いてきた。
ディーバのライブは時空防衛局とピースハーモニアの活躍によりエクリプスと無事成功を収め、被害も最低限に済んだ。
シギアにより医療班の元へ運ばれたアイリは体の目立った損傷は特に見られなかったため直ぐ様リョウ達と合流を果たした。
役割を果たすや否や、アイリは翔琉達の住む世界に戻りたいとリョウに懇願した。
理由は翔琉達のいる世界に取り残されたカイを迎えに行くため。
アレクの咄嗟の判断による行動により異世界へ転送されたきり勿論カイとは会っていないため、今日まで心配が尽きず心に重りを抱えたままだった。
反対する理由もないため、リョウは快く承諾した。
欣喜雀躍するアイリと、懸想する二人の行く末を気にし不適な笑みを浮かべるアリスと、彼女の暴走を抑えるためアレクが同行することになった。
ラミエルは戦闘により被害を受けたコンサートホールの修復作業の手助けをするため残ると言ったため、後々合流することとなった。
世話になったピースハーモニアの三人と名残惜しくも別れを告げ、翔琉達のいる世界へと再来した。
ワールドゲートを召喚した場所が八脚門の前にある庭だったのだが、翔琉と真琴が近付いてきたことを察したアレクが急いで隠れるため身を潜めていた。
二人のやり取りは筒抜けで耳に入ってきてしまい、翔琉の愛の告白に興奮を抑えきれず感情が高ぶった女子二人は門をぶち壊す勢いで開け、連綿に続きそうな昵懇しい雰囲気に乱入し、今に至るというわけだ。
翔琉「え、えっと…お、お疲れ様。 無事にアイリを連れ帰ってこれたみたいで何よりだよ」
平静を装っているつもりなのだろうが、恥ずかしさと照れの感情が心臓に早鐘を打たせて血が巡り、真っ赤な耳は炎の様に熱くなっている。
アレク「俺は約束は破らないからな。 俺が破る「言わせねぇよ!?」…まだ何も言ってないんだけどなー」
リョウ「下ネタ言おうとしてただろうが! 分かっとるんやからな!」
アレク「ま、まさか、読心術の使い手か!? いいぜやってやんよ。 来いよリョウ、剣なんて捨てて掛かってこい!」
リョウ「黙ってろよクズ…(ブドウ並感)」
アイリ「二人ともおめでとう! 恋が実ってあたしも嬉しいよ! やはり幸せスパイラル理論は間違いじゃなかった!」
アリス「うあ~、なんか恋愛映画って感じだったね! 二人の心にある気持ち、正しく愛だ!」
アイリとアリスの二人は立派な年頃の女の子。
告白の成功を間近で見て興奮が収まらず、手を繋ぎ合い跳び上がっている。
特にアイリは真琴の恋の相談に乗り、想いが成就されることを渇望していたので特に歓喜していた。
翔琉「唐突に現れたのは驚いたけど、祝ってくれてありがとう」
リョウ「もう少し空気を読んで突入すれば完璧なんやけどなぁ…」
アリス「ん? リョウ何か言った?」
リョウ「ヴェッ、マリモ!」 日本語訳:いえ、何も!!
アリス「まぁいいや。 さて、恋人同士ですること全部する恋愛コンボを炸裂させる二人に私から素敵なプレゼント!」
何処から取り出したのか、アリスが取り出したのは枕だった。
何故枕なのかと疑問に思いながらも未だに赤面している真琴は受け取った。
枕を見た途端、真琴の顔は更に紅潮し俯いてしまった。
表面にはハートが描かれた『Yes』という文字、裏面にはばつ印が描かれた『No』という文字が刺繍された独特なデザインの枕だった。
何事かと覗き込んだリョウは枕を視界に入れるや否や、枕を掴みアリスの顔面へ放り投げた。
アリス「ばにりっち!? もぉー何すんのさー!」
リョウ「付き合い始めたばかりの人にこんなもん渡すんじゃないよ!」
アリス「別にいいじゃーん。 いつかはやることだし。 あ、そうだ! この作品をR18にしたらできるよ!」
リョウ「させてたまるか! 極彩と散れ!」
アリス「やんちゃむ!?」
(首が折れる音)
アレク「コノメニウーツルーモノーハー」
アイリ「やだ…かっこいい…。 リョウ君は直死の魔眼の持ち主だったんだね」
リョウ「んなもん持ってへん。 ちょいと首をぶん殴っただけよ」
翔琉「鳴っちゃいけないような音がしたんだけど…」
リョウ「この程度でアリスは死なないよ」
アイリ「納得しちゃうあたしが怖いよ。 ロマンティックが止まらないところだけど、翔琉殿、カイ君は無事なの?」
ふざけた態度から一変し、笑みが消え心配の眼差しを向けながらカイの身を案じ翔琉に問う。
一瞬口を噤み真実を話すのを躊躇ったが、偽りの事実を話しても何も変わらないと思ったのか、事の顛末を簡潔に話した。
事実として、この世界にはカイはいないということ。
眠りに就いている間にも、体から闇を放出するにまで容態が悪化してしまっていた。
翔琉が封印術で手を施しても完全に症状を鎮火させることが出来なかったため、時空防衛局を経由し天界へと連絡し、アイリ達の家に移送することとなった。
天界は光の力が強く秘められた世界なため、闇を抑えるには絶好の場所と言え、邪悪な気を封印する術を扱える者も多く存在している。
天使の中でも、封印術において指折りの実力者と呼べる四大天使の一人であるラファエルがカイの身を引き取り、無事に闇を押さえ込むことに成功したと数時間前に翔琉達の耳に入った。
アイリは暫し黙り、頭の中で情報を整理していた。
妖怪という事実を知っていたとはいえ、今まで接してきた純粋無垢な少年が闇を持つ存在という話は初耳だった。
遊ぶ機会が何度もあり接してきたが、黒く禍々しい闇の気配を感じ取ったことはなかったので、尚更信じられない。
嘘偽りだと願いたい話を唐突に振れられ混乱しつつもリョウへと振り向く。
アイリ「リョウ君は、知ってたの? カイ君に闇の力があるって」
リョウ「あぁ。 完全に封印されていたから問題ないと判断していた。 つい最近までは」
アイリが天使として転生をする数日前、突如としてカイの力を封じていた術が緩んだ。
異変に逸早く気付いた結愛が天界に連れていく案を出したのとほぼ同時に、リョウが一時的にフォオンが用意した天界の住居へ移ると聞き、リョウが訪れる前にラファエルの元へ立ち寄り闇の放出を防いだ後、アイリを連れたリョウと合流を果たした。
アイリは相手の能力を察知することができるにも関わらず、カイに闇の力が感じ取れなかったのは封印されていたことに納得はしたが、それ以上に納得できないことがあった。
アイリ「何で、あたしに言ってくれなかったの?」
リョウ「……余計な心配を掛けさせたくなかった。 カイにも色々事情があるから、本当のことは詳しく言えないんだ」
アイリ「闇の力があるからってあたしが毛嫌うと思ったの? あたしは偏見なんてしないよ。 どんな事情があったとしても、あたしは受け入れたい。 真実を知りたい。 だからお願い、話して」
信用していないと思われていないのは頭では理解しているが、同じ屋根の下で暮らす家族とも呼べる仲間の素性等を内密にされているとなるとやはり納得はできない。
初めて怒気を含んだ声を間近で聞きリョウは動揺するも、毅然とした態度で応える。
真実ではなく、偽りを。
リョウ「…すまない。 時空防衛局で関わっている案件だから、容易に局員以外の人間に公言することはできない。 もし、言えるとしたら…然るべき時が来るまで、待ってほしい」
アイリ「……うん、分かった。 時空防衛局の件なんだから、秘密にしておかなきゃいけないのは当然だもんね」
釈然とせず渋々納得したアイリを見て罪悪感に苛まれた。
アイリに真実を打ち明ければ、平静を保てず胸が張り裂けそうな思いをする。
真実を打ち明けられない苦しさがあるが、歯を食い縛り耐えるしかない。
沈んだ表情を見せていたアイリだったが、不意に両手を横に広げ、勢い良く空を斬り自身の頬を叩いた。
アイリの不可思議な行動に首を傾げる一同を他所に、顔を上げたアイリは吹っ切れたかのように鬱屈な雰囲気が消え明るくなっていた。
アイリ「リョウ君! カイ君が待ってるんだから、早く天界に戻ろう!」
リョウ「お、おう」
アイリ「ん、どしたの?」
リョウ「いや、悪いとは思っとるんやけど、カイの事を詳しく言えなかったことを気にしてなさそうに見えたけぇ…」
アイリ「気にしてるよー。 真実はいつも一つなんだから強欲の魔女並に全て知りたいよ。 でも、組織内での案件なんだから仕方ないって割り切ってるし、然るべき時が来るまで待ってほしいっていうんだからあたしは待つよ。 いつまでも待つよ」
アリス「千年後でどう?」
アイリ「すぐだね。 いやいやそんな待てないよ!」
翔琉「相変わらず復活が早いねアリス」
アリス「私は…不滅だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(ゲームマスター並感)」
リョウ「うるさいっつーの。 すまんなアイリ、大人の事情ってことで理解してくれると助かる」
アイリ「あたしに感謝したまえ! 今度焼き肉奢ってくれたら許しちゃう♪」
リョウ「はいよ了解した。 ありがとなアイリ」
アレク・アリス「じゃあ俺(私)も」
リョウ「便乗してくんじゃないよ。 まぁ二人には世話になってるからええよ」
アレク「よっしゃー! 叙々苑行こうぜー!」
アリス「気分は最高私は無敵だ! 超絶!! 絶好調超!!」
アレクとアリスにはドーム内での優華の件もあるが、日頃から助力させてもらっているため感謝の念を込め奢ることを了承したが、財布の中どころか貯金が飛びそうになる未来が嫌でも脳裏を掠め若干後悔しながら人知れず一筋の冷や汗を垂らした。
アイリ「カイ君を待たせたら悪いし早く帰ろうよ! これ以上翔琉殿と真琴ちゃんの邪魔をしちゃ悪いし。 真琴ちゃんなんてあたし達が乱入したせいで恥ずかしさでずっと無口で俯いちゃってるし」
今まで会話に入っていなかったと気付いた一同が真琴を見ると、林檎のように赤面しており、翔琉の服を引っ張るように掴み俯いている。
自分達の告白のやり取りを他人に聞かれていたことと、箍が外れ自分らしくもない攻めすぎた言動による羞恥が幾度となく畳み掛け、まともに会話することすら出来なくなっていた。
ピコ「初々しくて良いと思うけどなー」
アイリ「あ、ピコ君いたの?」
ピコ「いたよ! ずっとリョウの上着の中にいたよ!」
アレク「伝統芸が終わったならお暇しようぜ」
アイリ「もぎゅっとloveで接近中な二人とも、本当におめでとう! また来るから惚気話を聞かせてね♪」
アリス「ではでは、これからごゆっくり~♪ チューチューラブリームニムニムラムラ♪ あ、枕は置いておくね」
リョウ「よせって言うてんねん! 待てコラ!」
アリス「それじゃーねー♪ アリアリアリアリアリアリアリ…アリーヴェデルチ!」
ワールドゲートを召喚したアリスは祝福し終え満足したのか、満面の笑みを浮かべ一足先に天界へと戻っていった。
リョウ「やれやれ…何年経ってもあんな感じなんやから。 すまんな翔琉、真琴。 轟と玉にも宜しく言っておいてくれ。 ほな、また」
アレク「また会おうぜ。 チャオ!」
流石にこれ以上長居するのは悪いため、足早にアリスが生成したワールドゲートを通り去って行った。
突如襲来した嵐が過ぎ去り、静寂が場を包む。
お互い声を掛けづらい微妙な空気が漂う。
唯一沈黙を破っていたのは、虫の音が重なりあう合唱。
夜の涼しい風が優しく告白により火照った体を撫で、心地好い。
真琴「か、翔琉…」
俯いていた真琴が翔琉の服を引っ張りながら、囁く程の消え入りそうな声で呟いた。
真琴「私は…いつでもいいからね?」
アリスに直接寄贈された枕を翔琉に押し付けるようにして渡すと、羞恥により紅潮した顔を隠すように手で覆い、持ち前の脚力を駆使し走り去ってしまった。
残された翔琉は気恥ずかしそうに後頭部を掻きながら、真琴の好意に頬を緩めた。
翔琉「ありがとう真琴。 これからもよろしくね」
台無しにするのは楽しいな☆(悪笑)