ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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950ピースのパズルをやってるんですが、めっちゃ時間掛かりますね…


第51話 “天使少女”と死にたがりだった監視者

アリス「それじゃ、私は奉仕部の活動の手伝いをする約束があるから行ってくるね! アドゥー♪」

 

絵になるような碧空が広がる朝を迎えた。

 

相も変わらず元気溌剌な少女、アリスはワールドゲートを召喚し、見送りに来たリョウに手を振りながら颯爽に扉へ入り天界を去っていった。

アイリと同等、若しくはそれ以上に活発で騒々しいアレクとアリスがいなくなっただけで、物寂しさを覚えてしまうほど深閑としてしまった気がしてならない。

 

元々自由奔放に世界を渡り歩いているため、また何処かで邂逅するだろうと期待と願望を胸の内に収め、アイリを起こすために部屋へと足を運ぶ。

 

部屋の前に着くや否や、扉に貼られた紙を見て眉を顰めた。

 

リョウ「えーっと、『あたしを起こさないで。 死ぬほど疲れている』……まぁ確かにピースハーモニアの世界では色々とあっただろうけど、もう昼前だよ。 おーいアイリ、起きてるかー?」

 

扉を数回ノックするも、反応はない。

昨日も内容の濃い一日を過ごし疲労困憊していたため、昼前とはいえ無理矢理叩き起こすのも悪いと考え、少しの間リビングで時間を潰そうと体を動かした。

 

リョウ「ん? あー、シャティエル、おはよう」

 

いつの間にかシャティエルが横に立っていた。

アイリ同様に自室にいたため、未だに眠っていたものだとばかり思っていたリョウにとって、今日会うのは初めてだった。

 

挨拶に応答することなく、無表情で佇んでいる姿に違和感を覚え、リョウは首を傾げた。

 

シャティエル「……滅亡迅雷.netに接続」

 

リョウ「なっ…!?」

 

発言を聞いたと同時に、後方へと飛び退いた。

異世界に存在するテロリスト組織の名がシャティエルの口から放たれるのに驚愕すると同時に、警戒心が溢れ、全身の毛が逆立つ。

理性を保てなくなり、人類滅亡を目的とするようプログラミングされてしまったのだろう。

何故このような事態になったか不明確だが、シャティエルを如何に傷付けず保護し、元の状態に戻すかを最優先し熟考する。

 

シャティエル「滅亡迅雷.netに接続……」

 

リョウ「シャティエル! 本当の自分を見失うな! そんなハッキングに負けるほどお前の心は弱くないやろ!」

 

必死にシャティエルに訴えかけるも、変化は見られず、表情一つ変えないまま、目の前に存在する人間という抹殺対象に向け、『光粒子ライトソード』を構えた。

 

リョウ「くっ…やるしかないのか…」

 

大切な存在である仲間を傷付けたくないが、戦わなければならない葛藤に駆られ顔を歪める。

妄念が頭の中を巡回する中、手を伸ばし剣の鞘を掴む。

 

アイリ「はーいそこまでー!」

 

一触即発な緊迫する空気を切り裂いたのは、自室から飛び出したアイリだった。

赤い文字で『ドッキリ大成功!』と書かれた白いパネルを手にし、咲き誇る笑顔で堂々と文字を見せびらかしている。

 

アイリ「テッテレー♪ ドッキリ大成功! シャティ、協力してくれてありがとね!」

 

シャティエル「いえ、この程度のことならば、いつでも助力します」

 

先程までの冷たい無表情だった顔が緩み、武器を収め柔かな笑みを浮かべ応えた。

 

アイリ「いや~シャティの演技には感服するよ。 ちょっと参考になる動画を見せただけで完璧に演じるから本当にプログラミングされたのかと思っちゃうくらい」

 

シャティエル「他の人物やキャラクターに成りきるというのは難しいものなのですね。 個々によって喋り方の違いがあり、偽りでありながらも実際に感じているような感情を創作する。 演者の道を知れば、様々な感情に巡り会えるのでは…」

 

アイリ「良い探求心だね! あたしが色んな作品を根掘り葉掘り教えてあげるからね! 感情豊かなキャラか…じゃあ次は『ゆ○キャン△』の…」

 

リョウ「おいアイリ。 今回のドッキリはお前が仕掛けたのか?」

 

アイリ「もちろんさ(某教祖様並感)」

 

リョウ「……そうか。 シャティエル、さっきの演技は見事だったよ。 すまないけど先にリビングに行ってコーヒーを淹れてもらってていいかな?」

 

シャティエル「分かりました。 …あの、やはり、先程の演技は心配になるような不快なものでしたか?」

 

突如として豹変してしまった演技をしたことにより、不安な思いをさせてしまったのではないかと思い、シャティエルはリョウの顔色を窺い声を掛けた。

 

リョウ「確かに心配にはなったけど、アイリが考えた戯れに付き合っただけなんやし気にすることはないよ。 正直今回の演技の感情は要らぬものだろうけど、あらゆる感情を知りたいという欲求と姿勢は素晴らしいと思うよ」

 

シャティエル「リョウさんの寛大な心に感謝します。 これからも様々な経験を経て、感情を知っていきたいと思います」

 

鷹揚に軽く一礼すると、階段を下りリビングへと向かっていった。

 

アイリ「ちょっとやり過ぎたとは思ってるけど、リョウ君の最初の驚いた表情や焦ったときの顔は普段じゃ見られないから中々レアだよね! できればレジェンドレアが欲しいけどね!」

 

リョウ「…アイリ、シャティエルに変な知識を教えるなと言うたやろ。 あと変なドッキリも教えないでくれ」

 

アイリ「変なとは失敬な! シャティエルに色んな感情を教えたいと思ってやったんだから。 他にも『女子○生の無駄づかい』を見せたりしたよ。 個性が強いキャラが多いから教材としては充分だったよ」

 

リョウ「シャティエルの温厚な性格が捻じ曲がりそうだよ…」

 

アイリ「シャティには冗談混じりでしかしないよう伝えてあるから大丈夫だよ~。 あたしを信じて♪ ウォール教を信じるくらいあたしを信じて♪」

 

リョウ「すっごい胡散臭いんだが」

 

アイリ「じゃあここにでか耳教っていう新しい宗教を作ろう。 リョウ君にピッタリじゃん」

 

リョウ「………」

 

アイリ「リョウ君は教祖様にしてあげるね。 こんな大きくて横に出ている耳の持ち主はいないだろうし教祖様と呼ぶに相応しい! 我ながら素晴らしい考えだ! 教祖様となったリョウ君はシャティを側に置くことができるようになるよ。 あ、今の言葉、俺の女にできるみたいな言い方になっちゃった。 いや~んセンシティブ~♪ リョウ君が神聖モテモテ王国を築いて薔薇色の人生が始まるんだね。 オリビアを聴きながらあたしは歓喜して流れ出た涙を、ぬのハンカチで拭くとするよ」

 

リョウ「………」

 

アイリ「あれ? どしたの黙り込んで? あー成る程! シャティと一緒にいられるのが嬉しいんだよね! それは分かる! あたしもずっとシャティといることができたら普通に嬉しいもん。 シャティの外す事のない恋の魔弾を撃たれたリョウ君はメロメロになっちゃったんだろうけど、変なことはしちゃダメだよ? 感度3000倍にしたりコジマ粒子を出せるようにしたりとか、ガイガンみたいに両腕をチェーンソーに変えて魔改造させるのもダメだからね? あ! 後で『チェン○ーマン』の続き見ないと! 笹食ってる…じゃなくて、でか耳の相手なんかしてる場合じゃねぇ!」

 

リョウ「………悪意」

 

アイリ「ん?」

 

腕を力無くだらりと下ろし、俯いたまま暗く低い声で呟き、ゆっくりと一歩、また一歩と歩みを進めアイリへと近寄る。

不気味さを肌で感じると同時に、一定量の度を越えた怒気も感じ取れ、鳥肌が一斉に立ち上がる。

 

リョウ「恐怖、憤怒、憎悪…」

 

アイリ「りょ、リョウ君、一回落ち着こう、ね?」

 

リョウ「絶望、闘争、殺意…」

 

アイリ「緩やかな平和の歩みで近寄って来てるけど、怖いよ? あたし灰も残さずロストしちゃうの?」

 

リョウ「破滅、絶滅、滅亡…」

 

アイリ「其処らのホラー映画よりも怖いよ? お願い許して好き好き大好き超愛してるから!」

 

リョウ「…これが、わしの完全な、唯一の結論だ」

 

その光が灯っていない氷点下の冷たい目を見れば、大型の獣さえ尻尾を巻いて逃げるだろう。

勢い良く上げられた殺意が籠められた拳が振り下ろされ、「いべるたる!?」という奇妙な叫びが家に轟いた。

 

 

~~~~~

 

 

アイリ「あー酷い目に会ったよ。 誰のせいでこんなことに…!」

 

リョウ「お前じゃい」

 

遅めの昼食を済ませたアイリはリョウと共に中庭で寛いでいた。

視線の先にはシャティエルとピコがカイの遊び相手となっており、平和を具現化したかのような穏やかな光景が広がっている。

 

慌ただしい日々が続いていたため、何事もない日常がどれほど贅沢で素晴らしいのかが痛感できる。

泰平な世が連綿に続くことを願いながらも、アイリは隣に胡座をかくリョウに話し掛けた。

 

アイリ「ねぇリョウ君。 聞きたいことがあるんだけど…」

 

リョウ「ん、なんや?」

 

アイリ「アシュリーちゃんから聞いたんだけど、リョウ君ってあたしと同じ世界の出身だったの?」

 

リョウ「…そうや。 アシュリーのやつ、人の過去を簡単に喋るんじゃないよ」

 

アイリ「話の流れでリョウ君の過去のことの話題になっちゃっただけだから、アシュリーちゃんを責めないでね。 リョウ君も前はあたしと同じ一般人だったんだよね?」

 

リョウ「アイリと同じように、変哲のない日常を過ごすだけの、争いとは無縁の一般人だったよ」

 

アイリ「じゃあ、リョウ君も異世界に転生するような、あっ…ごめん。 知られたくないこともあるだろうし、思い出したくもない辛い過去、だよね」

 

アイリやリョウが住んでいた現実世界は、異世界という概念が都市伝説という形で存在していても、転移方法の手段がない。

異世界へ訪れる機会があるならば、現実では決して起こり得ない、一般的に言う超常現象と呼ばれるものに遭遇する以外に他ない。

 

天使と悪魔の闘争に巻き込まれた災難に出会ったように、リョウも何かしら不運な出来事に巻き込まれたということ。

軽率だった質問を投げたことを反省し謝罪した。

 

リョウ「気にするな。 いつか分かることだろうから、話しておくよ」

 

遠く彼方を見つめ、懐かしむように自身の過去を語り始めた。

 

リョウ「あれは36万…いや、1万4000年前だったか」

 

アイリ「あれ? 真面目な場面じゃないの?」

 

 

~~~~~

 

 

リョウは現実世界の広島県に住む、製造業に携わる何処にでもいる社会人だった。

当時18歳だったリョウは高校を卒業してすぐに就職し社会人となり成人の仲間入りを果たし、着々と仕事の内容を覚えていった。

 

端から聞けば順風満帆に毎日を過ごしているように思うだろう。

 

仕事の内容は一筋縄ではいかないほど難しく、覚える内容も多い上に、夏は猛暑、冬は極寒、耳を劈く騒音が鳴り響き、毎日当たり前かの様に残業を行う厳しい環境下にあった。

通勤手段として使用している電車も本数が少なく、日勤夜勤と共に終わる時間帯には一時間に一本しかなく、乗り遅れてしまうだけで約一時間も駅で待たされてしまい、通勤時間だけで体力を消費してしまっていた。

職場では気難しい人と作業をすることになってしまい、作業の内容を詳細に教えてもらえることはなく、周囲の社員や上司からは仕事ができない社員として認知され、会社では堂々といることができなくなり、日に日に悄然していき覇気がない人間へと変化していった。

仕事によるストレスのせいか、当時付き合っていた彼女との関係が悪化してしまい、最終的に破綻し、自身のせいで別れたきっかけを生み出してしまったことに対し罪悪感と己の醜さに気付き失望し、精神的に追い詰められていった。

知人には心配されまいと誰にも相談することはなく、普段通りの自分を演じていることにすらストレスを抱え始め、罅割れた心に追い討ちを与えてしまった。

 

就職して一年が経とうとした頃、リョウの心はほぼ決壊していると言える状態へと成り果てていた。

常に己を責め続け、他人に心配されぬよう助けの手を伸ばすことすらせず、誰にも見られない場所で涙を流すだけの日々が続き、負の感情が積み重なる一方にあった。

 

そしてある日、己に絶望仕切った挙げ句の果てに、自殺を決意した。

自身の住むマンションの最上階へ向かい、死を求めるかのように身を投げた。

普通ならば、重力に従い落下していき、体が地面に叩き付けられ、骨が折れ粉々に砕け、肉片が飛び散る筈だった。

 

落下する途中、突然空中に時空の歪みが発生し、歪みにより出現した空間の裂け目へ飲み込まれるように入ってしまい、世界と世界の狭間にある亜空間へと放り出されてしまった。

何事か分からぬまま、亜空間を彷徨う内に、新たに発生した時空の歪みにより発生した空間の裂け目へ吸い込まれ、異界へ、ピコが住まう世界へ迷い込んでしまった。

 

 

~~~~~

 

 

アイリは口を挟むことなくリョウの話に耳を傾けていた。

自身とはまた異なる方法で異世界へ転移されたことに驚き、不遇な運命により歪んでしまったリョウを不憫に思った。

 

アイリ「……辛かった、よね。 自殺したくるほど追い込まれるなんて」

 

リョウ「当初は辛かったよ。 まぁ高校卒業したばかりの社会も碌に知らなければ心も成長していないひよっこやったから、尚更色々と心にダメージが大きかったんよね」

 

まるで他人事のように、動揺することなく、苦痛に顔を歪ませることなく淡々と述べた。

 

リョウ「かなり年月が経ったし、もう気にしちゃいない。 時間ってのが最高の治療薬…って訳ではないな。 ピコ達や、偶然立ち寄ったアレクとアリスがいてくれたから、わしは精神的に安定していったんだ。 絶望して生きる気力を失っていたわしに渇を与え、俯いてばかりせず前を向いて歩いていく光を与えてくれた。 あいつらはわしの恩人なんだ」

 

アイリ「ピコ君達はリョウ君にとっては掛け替えのない存在なんだね」

 

リョウ「今のわしがいるのは、あいつらのお陰だよ。 一度道を誤ったときも、相談しようとしない奸悪なわしを止めようと奮闘してくれたからな」

 

道を誤ったというのは、天界に来た当初にフォオンが語っていたことだ。

何があったのかは未だに不明ではあるが、フォオンを九分殺しにまで追い込む程の、現在では到底考えられない悪辣な事を行った。

フォオンや結愛、当事者であるリョウも話そうとしないあたり、知られてはまずい事柄なのだろうかと疑問に思ったが、やはり無理矢理聞くのは野暮なので、話す機会があるまで待つしかなさそうだった。

 

アイリ「良い人に恵まれて、リョウ君は幸せ者だね。 ………リョウ君って、誰かに相談することってないの?」

 

リョウ「…まぁ、あまりしないな。 他人に心配されるのは好きじゃないけえね。 何故そんなことを聞くんや?」

 

アイリ「ちょっと気になっちゃってね。 リョウ君が現実世界では辛酸を舐める思いで日々を送っていたのは痛いほど伝わったよ。 でも、一人で何でもかんでも抱え込むのは違うんじゃないかなって思う」

 

リョウ「………」

 

アイリ「抱え込んでばかりだと、いつかは擦り切れて崩れていく。 相談することで全てが解決するわけじゃないけど、話すことで少しは気が楽になると思うんだ。 知人に心配掛けたくない気持ちは分かるけど、話さないことで誰かが心配になっていることも理解してほしいかな」

 

リョウ「………確かに、その通りやな。 昔、ある人にも同じ事を言われたよ。 忘れまいと心に決めていても、どうも時間が経ちすぎると朧気になってしまうのう。 若いアイリに言われるとは、わしもまだまだじゃのう」

 

アイリ「若いって年寄り臭いこと言ってるけどリョウ君もまだまだ若いじゃん」

 

リョウ「ん…あぁ、そうやな」

 

アイリ「リョウ君が年寄り臭く感じるのって何でかなって疑問に思ってたけど、要因としては広島弁を話すことだね。 あとたまに関西弁も出てるけどエセなの?」

 

リョウ「ちゃうわいね。 わしは大阪生まれ広島育ちやから両方の方言が混ざってしまうんよ」

 

アイリ「偏見だけど凄いガラが悪いって感じちゃう」

 

リョウ「まぁそう思われてもしゃあないんよね。 ある意味方言を話さない標準語のアイリを新鮮に感じるわ」

 

アイリ「やっぱり他の地域からすればそうなんだね。 あたしは逆で、方言に憧れたりしちゃうなー。 ねえねえリョウ君、良かったらリョウ君が現実世界で過ごしてた日々のこと、もっと教えてもらっていい?」

 

リョウ「構わんけど…大した人生送ってねぇから面白くないかもしれへんで?」

 

アイリ「それでもいいの! リョウ君はコア・ライブラリって代物であたしの過去を隅々まで調べ上げ知ってるんだから、リョウ君の過去も知っておきたいし、知っておかないと不服っていうか…」

 

リョウ「うーん、それもそうじゃな。 知りたくもなかったのにアイリのスリーサイズも知ってしまったし」

 

アイリ「ホントだよ! プライバシーの侵害にも程があるよ! この変態! ド変態! der変態! 変態大人!」

 

リョウ「我々の業界ではご褒美です。 …いやいや、このやり取り前もやったやんけ」

 

アイリ「まだ制裁を加えてないから今あたしが直々に与える! 有無をいわせず先手必勝! 衝撃のファーストブリット!!」

 

リョウ「どーみらー!」

 

偶然とは言え、アイリの知られたくない体のことを閲覧し目にしてしまったのは事実なため、流石に不憫だと思ってしまったので、逃げることも回避行動を取ることもなく、素直に鉄拳による制裁を受けた。

 

その後はリョウが現実世界での生い立ちを簡潔に話していった。

 

幼少期の頃や小学校での過ごした日々。

中学校や高校での部活動。

休日に遊んだ友達との何気ないやり取り。

旅行で巡った各所の話。

広島の名産品や名所の話。

 

淡々と話していたが、やはり懐かしくも良い想い出を話していたためか、心做しか頬が緩んでいるように見えた。

アイリが興味津々に前のめりになり聞いていたため、会話が30分程続いてしまっていたところで、先程までカイの遊び相手となっていたピコが駆け寄ってきた。

 

ピコ「リョウー、アイリにお客さんだよ」

 

アイリ「え、あたしにお客さん? なになに? あたしのファン?」

 

リョウ「…漸くお出ましか。 遅いんだよ、何時になったら訪問してくるかと欠伸をして待ってたよ」

 

談笑していた雰囲気は霧散し、リョウは眉を吊り上げている。

敵が現れたわけではなさそうだったため、アイリは何故リョウの態度が一変したか不明だった。

 

目線を先に移すと、二人の天使の姿があった。

一人は顔馴染みであるラミエル、もう一人は額に紅色の宝石が嵌め込まれたヒッピーバンドを付けた、炎のように赤いショートヘアーの女性の天使だった。

 

?「へぇー、思ったよりも元気そうじゃないか。 ちょっと安心したよ」

 

リョウ「おいウリエル、謝罪するのが先なんやないんか?」

 

アイリ「謝罪って…どういう…」

 

ウリエル「あら? 覚えてないのかい? 取り敢えず自己紹介から先にしておこうかね。 私の名はウリエル。 天界を統治する四大天使の一人さね」

 

ウリエルと呼ばれた彼女は軽く手を上げ会釈した。

飄々とした態度にリョウは青筋を浮かべており、血が滲むほど強く握られている。

リョウの態度に気付いたウリエルは鼻で笑うと恣意的な発言を始める。

 

ウリエル「事情は知ってるけど、あんたは相変わらず執拗にこの子を大事にするもんだねぇ」

 

リョウ「知ってるなら分かるやろ」

 

ウリエル「そりゃ痛いほど分かる。 でも、他人のためばかりに人生を使役してちゃ損ばかりするのはあんただよ?」

 

リョウ「ご指摘どうも。 大切な人のために時間を浪費するなら本望じゃ。 それより、アイリに謝罪するのを優先してほしいんじゃけど?」

 

ウリエル「贖罪しろって言わないだけマシなのかね。 まぁ、全容を見れば私一人が罪を背負う問題じゃないからねぇ」

 

ラミエル「おいウリエル、どういうことなんだ?」

 

ピコ「ラミエルも一緒ってことは知ってるんじゃないの?」

 

ラミエル「俺はウリエルがアイリに用があるからって言うから連れてきただけだからな。 話がさっぱり見えないぜ」

 

ラミエル同様にアイリも話の流れが掴めず困惑しており、口を挟むことができなかった。

剣呑な雰囲気にあったがウリエルは振り払い、ウリエルはアイリの前まで歩み寄り、首を小さく下げた。

 

ウリエル「時間が大分空いてから言うのもなんだけど…悪かったね。 私が不甲斐ないばかりに、あんたを守れず人生を滅茶苦茶にさせちゃって」

 

アイリ「そ、そんな…兎に角頭を上げてください」

 

謝罪の言葉を掛けられるも、アイリは何のことか分からず更に困惑し、慌てて頭を上げるよう言葉を掛ける。

ラミエルも正直に謝罪するウリエルを見て驚愕しており、事の顛末を知りたかったのか、ウリエルに詰め寄った。

 

ラミエル「おい、あんたが冗談も無しに馬鹿正直に謝るなんてよっぽどじゃなきゃあり得ねぇ。 そんなに大事なのか?」

 

ウリエル「私がこの子の運命を変えた、と言っても不思議じゃないからね」

 

運命を変えたという言葉にラミエルは察したのか、大きく目を見開いた。

 

ウリエル「アイリ、あの日…命を落としたあの日にアンドロマリウスからあんたを救ったのは、紛れもなく私だよ」

 

唐突なウリエルの口から放たれた真実であろう言葉に、アイリは戸惑いながらも驚愕し固まってしまった。




リョウの過去は作者の人生を元にしてます(ガチ)
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