世界英雄譚   作:仮面ピコ

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コロナウイルスのワクチン射ったの一回目で二日はダウンしてしまった。
二回目の方が酷いと聞きますけど、大丈夫なのだろうか…


第52話 強化イベント発生!?

ウリエルから伝えられた事実に息を呑む。

アイリもその言葉に胸の内にあった蟠りが取れ、脳内に記憶された映像が呼び起こされる。

靄がかかっていた記憶の一部が晴れていく。

 

自身の運命が変わった、命日とも呼べるあの日。

 

視界に映るのは地獄。

周囲の家が崩壊し、濛濛と火が燃え上がり、波紋のように他の家へと燃え移っていく。

道路は原型を留めていない程に削れ、凄まじい力により隆起している箇所もある。

映画のワンシーンにある凄惨な光景が広がるなかで、現実世界の人間達が目を疑うような異形の者達が戦闘を繰り広げていた。

 

一方は人間達を守ろうと力を振るう、紅色の髪をした天使。

一方は人間を根絶やしにし不幸を撒き散らす悪魔。

 

対となる二人が何の前触れもなく突如としてアイリの前に現れ戦闘を開始。

瞬く間にその場は戦場と化した。

巨大な悍ましい右腕を持つ悪魔、アンドロマリウスに捕らえられ、救ったくれたのは身を挺して馳せ参じた天使。

アイリの安否を確認した彼女は微笑むと、即座に戦闘へと戻った。

 

脳内に映写機のように流れた、未だ断片的である記憶。

救ってくれた感謝と共に、突然戦闘に巻き込まれた理不尽さによる戸惑い、死を感じた恐怖が綯い交ぜる感情に支配される。

呼吸が乱れ、体中から汗が吹き出る。

 

リョウ「アイリ、落ち着いて。 ゆっくり深呼吸するんや」

 

シャティエル「アイリさん、大丈夫です。 私達がいますから」

 

カイ「アイリ、よしよーし」

 

リョウが肩に手を置き、シャティエルが宥めるように背中を擦り、カイは足に抱き付き優しく撫でた。

各々がアイリのことを心配し、少しでも記憶による恐怖が沈静化するよう勤めてくれた。

大切な人に人達の温もりに触れ、徐々に平静を取り戻していった。

 

アイリ「ありがとう、みんな。 もう大丈夫だよ」

 

リョウ「また少し思い出したんやな」

 

アイリ「まだ完全じゃないけど一部だけなら。 アンドロマリウスに襲われていた時に救ってくれたのがウリエルさんってことだけは思い出せた」

 

ウリエル「あの時はすまなかったね。 私が力不足だったばかりに、救うことができなかった」

 

ウリエルは悔しさに岩をも噛み砕く程に歯を食いしばり誠心誠意を込め謝罪した。

アイリは再度頭を上げるよう声を発しようとしたが、リョウが遮るかの如く前に出た。

 

リョウ「力不足なのかもしれへん。だが、戦闘に躍起になり周囲を見ていればアイリを巻き込む事態を防げていた可能性もある。だが済んでしまった過去の誤りを責めていても仕方ない。わしが何より許せんのは、何故、今になって訪れた? アイリが天界に来ていたと知っていて、何故直ぐに謝罪しに来なかった?」

 

ウリエル「私だって暇じゃない。四大天使の一人として全うしなければならない用事が多いのさ」

 

リョウ「ほう、自ら関わった事象に巻き込まれた被害者のことは後回しでいいと?」

 

ウリエル「決めつけるのは良くないねぇ。私がアイリが来た時に訪れず今更謝罪しに来たことに怒っているのかい? 案外子供っぽい理由だねぇ」

 

リョウ「童心を忘れていない純粋な性格って言うてほしいな」

 

ウリエルの傲慢な態度にリョウのボルテージが徐々に上がっているのは誰から見ても明瞭。

いつ何時にでも牙を向け襲い掛かる猛獣のような双眸で睨みを利かせている。

激しい口舌から最悪の場合戦闘にも成りかねないので、居ても立ってもいられなくなったアイリは二人の間に割り込み仲裁に入った。

 

アイリ「ストーップ! 敵同士でもないのに争わないでよ! 況してやあたしのことで揉めるのはやめて!」

 

リョウ「お前のことだからだよ」

 

アイリ「あたしのことを思ってくれてるのはありがたいけど、あたしはウリエルさんから謝罪されたし、あたしはそれを許してるんだから、それでいいじゃん?」

 

アイリの発言は正論そのもので、リョウは返す言葉がなかった。

謝罪する時が遅すぎたことは確かに過誤なのかもしれないが、リョウの怒りと誹議は過剰なものでしかない。

己の正義と呼べる正論を押し付けようとした。

例え正論であろうが自身の意見を無理矢理押し付け強引に相手の意思を塗り替えるのは邪道でしかない。 

言い過ぎてしまった良心の呵責を覚え、頭を冷やし素直に謝罪した。

 

リョウ「アイリの言う通りやな。 すまんかったなウリエル。 ちょいと向きになりすぎたみたいや」

 

ウリエル「物分かりが良いじゃん。 まぁ私も悪気があった訳じゃないし、こういう性格なのさ。 昔からの付き合いなんだから、いい加減慣れてほしいものだけどねぇ」

 

アイリ「ウリエルさんも気を付けないと! 無惨様相手だと即座に首を落とされるよ! 性格だったとしても、そんな扇情的な態度してると嫌われものになっちゃうから気を付けた方が良いと思いますよ!」

 

ウリエル「……ぷふっ、あっははははははは!」

 

アイリの発言に特別可笑しな箇所はなかったが、ウリエルは吹き出し盛大に笑い始めた。

 

ウリエル「あははは…いやすまないね。 この私に堂々と諌める天使は中々いないもんだからね。 肝が据わっている、それとも単に馬鹿なだけなのか」

 

ラミエル「最後の台詞を直せってことなんだと思うぜ。 あと補足だけどアイリは両方当てはまるぜ」

 

アイリ「⑨じゃないもん! ちゃんとフォローしてほしかったよ!」

 

ウリエル「矯めつ眇めつこの子を見た訳じゃないけど、面白い子じゃないか。 気に入ったよ。 謝罪のついでと言ったら聞こえは悪いけど、忙殺する私から良い提案を出してやろう。 光の力が大分強力なあんたに、『天使の加護』を与えてやる」

 

ラミエル「なっ!? 正気かよ!?」

 

リョウ「また思い切った提案やね。 他の三人が納得…してくれるか。 アイリの持つ強力な光属性の力は悪魔を倒す特効薬みたいなもんやし」

 

『天使の加護』とは、天界に住まう四大天使の承諾の下、四人から授けられる力のこと。

 

四大天使から認められた、心身共に強く、他者を思いやる慈愛を持ち、信念を貫く存在に相応しい者にしか与えられることは許されない、選出された者でなければ得られない。

力を与える儀式には四大天使全員の参加が不可欠で、奮励努力して会得できる代物ではないため、天界の中でも『天使の加護』を使用できる者は両手で数えるほどしかいない。

 

事が簡潔に進み過ぎてはいるが、ウリエルは天界を統治する四大天使の一人なため、献策することなく物事を即座に決定できるようだ。

 

一通り説明を聞き終えたアイリは思い出しかのように口を開いた。

 

アイリ「ん?『天使の加護』って、リョウ君が使ってなかった? アリスちゃんが見事な暴走っぷりを見せたあの時に…」

 

リョウ「そうや。 あれが『天使の加護』や。 どんな代物なのかと言うと、ありとあらゆる攻撃を防ぐ絶対防御の力ってところやね」

 

アイリ「やっぱりそれ結構チートじゃない?」

 

ウリエル「並大抵の攻撃ならほぼ確実に防げるな」

 

リョウ「アリスが全力で放った本気の魔法を受け止めた際は一撃で加護が粉砕され消え去ったけどな」

 

アイリ「…ダメだ、どうやってもアリスちゃんに勝てるビジョンが見えない」

 

ウリエル「今からでもあんたにその力を授けられる。 私なりのけじめ…って言うのかな、これくらいしかないからね。 どうする?」

 

命を失う出来事に巻き込まれ振り回されたせめてもの贖罪として、蛇の道を通ることなくノーリスクで強大な力が譲渡される。

決して悪い話ではない。

新たな力を得れば、悪魔に対抗し退けられ、自分自身を守る手段となる。

リョウも力を得ることに関しては賛同しており、首を横に振る理由はなかった。

 

直ぐにでも頷くかと思っていたのだが、顎に手を当て熟考しているようで、沈黙が続いた。

暫くして答えが出たのか、顔を上げ口を開いた。

 

アイリ「ウリエルさん。 折角の提案なんですけど、今は、お断りさせてもらいます」

 

ウリエル「…一応、理由を聞こうかしら」

 

アイリ「あたし、まだその力を手に入れるほど強くはないし、大層な事を成し遂げてもいないから、あたしにはその資格がないと思いました。 だから、あたしは自分の力で茨の道を乗り越え、その力を得たいと思います」

 

ウリエル「…へぇー、感心したよ。 思ったより芯が強い嬢ちゃんのようだ」

 

アイリ「当然! 主人公だもん!」

 

ラミエル「その台詞がなけりゃ良かったんだけどな」

 

ウリエル「それも含めて面白いね。 益々気に入ったよ。 謝罪に来て力を与えるつもりだったんだけど、予定が狂ったと言うか、調子が狂ったって言うか………お、そうだ」

 

何か閃いたのか、口角を上げたウリエルを見てリョウは眉間に皺を寄せた。

 

リョウ「良からぬ事を言い出すんやないやろうね」

 

ウリエル「秀逸なアイリにこそ相応しい、天賦の才を活かせる内容さ。 現在、『星空界』にある何処かにあると言われてある光の剣を探し、認めてもらうことができれば、大した偉業だと思うわよ」

 

リョウ「光の剣って、まさか…!」

 

アイリ「魔獣ザナッファーを倒したあの…!」

 

ラミエル「多分、いや、絶対お前が思ってる剣とは別物だと思うぜ」

 

アイリ「違った? じゃあ最光かな?」

 

ピコ「アイリには早い…と言うより無理な気がするけど…」

 

リョウ「幾らアイリでも流石になぁ…」

 

アイリ(スルーされちゃったよ…)

 

ウリエル「光の力が他の天使と比較にならない程に強いんだ。 稀代の天使のアイリならもしかするかもしれない。 私はちょっとした可能性に掛けてみたいんだ」

 

リョウ「手にした時点で『天使の加護』が不要になるけどね。 天界からすりゃ悪魔と対抗する英雄として迎えられ、間違いなく偉勲を立てられるだろうな」

 

シャティエル「お話中に遮ってしまい申し訳ありません。 話が読めてこず理解することが困難なのですが、アイリさんは何を探し、何に認められれば宜しいのでしょうか?」

 

アイリが疑問に思っていたことを代弁するかのように、シャティエルが挙手し質問をする。

 

リョウ「ウリエルがアイリに探させようとしてる物は、伝説の聖剣の一本、クラウソラスや。 そしてその剣に認められ扱うことができるようになればええっちゅーことや」

 

アイリ「まだ見たことはないけど、確かアレク君から聞いた。 アレク君が召喚できる剣の内の一本だよね。 …えっ、それの本物ってことだよね!? 滅茶苦茶ヤバい代物じゃん!! びっくりするほどユートピアだよ!!」

 

急展開に陥ってきた局面にありながらも、途轍も無い代物を手にする提案に驚愕したアイリの声が木霊した。

 




リアルが忙しかったので短めでーす

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