アイリ「あたしの脳内ポイズンベリーにある黄金の羅針盤ではこっちだと示してる…メイビー」
テュフォンとヴァルゴに後を任せたアイリは当てもなく霧が漂う宇宙空間を飛行していた。
幸いにも悪魔達に遭遇することなく平穏無事ではいるものの、視界に映る景色は一向に変化が訪れず、無情にも時だけが過ぎていく
同じ景色だけが続き、流石に飽々し始めていた。
それと同時に、仲間がいないことと安否が気になっており、不安が心を覆い被せる。
カイ「アイリ、だいじょうぶ?」
不安な表情が露となっていたのか、カイが心配そうな眼差しでアイリを見つめている。
自分の暗い気持ちがカイに影響し不安にさせてはならないと思い、アイリは優しく微笑みカイの頭を撫でることで答える。
その場で止まっていてはいつ悪魔と対峙するか分からないため、兎に角進み続けるしかない。
鬱屈を紛らわそうとアニメや漫画のことを脳内に浮かべるも、やはり簡単に不安は拭えない。
アイリ「上下左右、景色が一向に変化しないなんて頭が可笑しくなりそうだよ。 みんな…大丈夫かな…ん?」
後方から何かの気を感じ取れた。
一つではなく、複数の気。
アイリ「この黒々しく感じるのって、闇の力、だよね? もう一つはよく分からないけど、リョウ君が出す気に似ている。 もう一つのびりびり痺れるように感じるのは、ラミエル君…!」
仲間であるリョウとラミエルであろう気を察知でき、思わず笑みが浮かぶ。
気掛かりなのはルシファーの気配を感じ取れたことだが、何故かリョウの付近に居続けていること。
戦闘を行っているのであれば、激闘から生じるエネルギーや余波が感知できる筈だが、一切感じ取れないことから、戦闘を行っていないことが把握できる。
リョウとルシファーは何処かへ向かっているのか、同じ方向へと移動し始めた。
ラミエルも偶然なのかどうかは不明だが、いずれかリョウとルシファーに直面する経路を進行している。
クラウソラスを探し出す手掛かりがなく途方に暮れていたため、アイリの選択は一つしかなかった。
アイリ「リョウ君達と合流しよう! けって~い!」
仲間との合流に胸を躍らせ、飛行速度を上げ宙を滑走する。
~~~~~
アイリが加速を始め数分が経過した頃、リョウとルシファーはクラウソラスがある場所へと辿り着いていた。
先程アイリ達が偶然見つけた星雲がない開けた場所で、小さな島が浮いている。
雑草が僅かばかり生えているだけの寂寞とした島に足を着ける。
遠目からでも確認できる場所には石で造られた小さな祭壇があり、一本の剣が突き刺さっていた。
無防備に刀身を晒している様は、誰かに見つけてほしかったのではないかと思わせる。
リョウ「あれが光の剣、クラウソラスや」
ルシファー「あれが、か? 光の力を一切感じられないが」
リョウ「疑心暗鬼になるのも無理はないやろうな。 剣を手にしないと力は発揮されないんやろうね。 剣によって特徴に差異があるらしい。 わしも詳しくは知らんからggrks」
ルシファー「…侮辱された気がするが、まあいい。 俺は今からクラウソラスに触れようと思うが、手を加えたりはするなよ?」
リョウ「勿論、そのつもりよ。 …と、言いたいところやけど、お前の言う邪魔者がご到着やで」
ルシファーの目論見が成就されようとしたが、リョウが監視者の能力を行使し接近してくる天使、ラミエルの存在を察知した。
この場に訪れるのは僅か数秒後と推測し、ルシファーに伝えようとしたが、彼も気配を感じ取っていたようだった。
瞬間、ルシファーはティルフィングを召喚し、躊躇い無く一閃した。
脳が物事を考慮するよりも早い迅速な行動に成す術もなくリョウは一閃を受け、体を斬り裂かれる。
傷口から鮮血が吹き出し、地面を赤一色に染め上げる。
リョウは歯を食い縛り苦痛の表情を浮かべたまま、血溜まりの中へ倒れた。
不意打ちのように思えた行動だったが、ラミエルにリョウと共に策略を企て共に行動していることを悟られないようにするための行動だった。
リョウは回避しようと思えば可能だったのだが、ルシファーの考えが読み取れていたため、敢えて攻撃を受けた。
欺瞞のための行動だったのだろうが、力加減の按配を知らないのかと思わせる一切の容赦がない一閃を受け、リョウは暫く立ち上がれそうにはなかった。
リョウ「流石、堕天しただけのことはある。 遠慮なんか一切しないんだからよ」
ルシファーはリョウの言葉に、「上手く話に載れ」と見下しながら目線だけを送った。
目線を正面に戻した直後、星雲を突き破る勢いで向かってきたラミエルが視界に映った。
ラミエル「ルシファー!!」
ルシファー「声を張り上げるな。 聞こえている」
ラミエルは速度を緩めることなく突き進み、『雷拳』をルシファーの顔面に向け放つ。
怒りや悲しみと言った様々な感情が込められた容赦のない一撃は、空をも斬り裂く雷の如く。
雷鳴が轟き耳を劈く。
ルシファーは身動き一つ見せず、手にしたティルフィングで拳を防いだ。
ラミエル「今度は何を企んでやがる! 悪行をするようなら俺が止める!」
ルシファー「止められるものなら、やってみろ」
剣を持っていない片方の手でラミエルの腕を弾き、剣を一閃する。
ラミエルは常軌を逸する反射神経で体をくの時に曲げながら後方へと飛び回避した。
ラミエル「リョウ! まだいけるか!?」
リョウ「すまん、ちょっと傷が深いからもうちょい休むわ」
ラミエルは心配の声を掛けるどころか、戦闘が続行なのか可不可を問う。
長年の付き合いからか、剣で斬り裂かれる程度で死なないと分かっている様子だった。
ラミエル「後は俺に任せとけ。 こいつは俺が倒す」
ルシファー「威勢だけは相変わらずだな。 今回はお前達に害を成すことはしていないというのに、何故俺の邪魔をする?」
ラミエル「俺達に害があるとかそんなの関係ねえ! 他者に迷惑になっている時点で、天使として見過ごす訳にはいかねえんだよ! それに、この前の話は終わってないぜ!」
ルシファー「頑なに引き下がろうとしない奴だな。 俺の説得は無駄だということがまだ理解できないのか?」
ラミエル「説得が無駄なら、力尽くでお前を止めるだけだ! 『エレクトリックブラスト』!」
電気を纏った突風を放つ。
ルシファーはティルフィングを振るい闇を放出することにより封殺した。
砂塵が舞う中、怒涛の勢いでラミエルが接近し、『スタティッククロウ』を発動し接近戦を試みる。
距離を縮ませなければ決定的な打撃を与えられないことを熟知しているルシファーは余計な戦闘を避けるため後方へ跳躍し距離を取った。
逃がすまいとラミエルも後を追うが、ルシファーは嘲笑うかのように撹乱させる不規則な動きで回避行動を続けながら、着実にクラウソラスへと近付いていく。
目的の代物を手にするのも時間の問題となる状況にある状況に、横槍が入った。
ルシファーの頭上から無数の光の矢が降り注いだ。
その内の一本が翼を掠めるも、表情を変えることなく冷静に矢の豪雨を避けきった。
矢が放たれた方角に目を写すと、光弓ガーンデーヴァを構え勇壮に戦いに挑もうと迫るアイリの姿があった。
アイリ「アイリ、星空界の為に、舞い忍びます!」
更に追撃として『トリックアロー』を連続で放つ。
追尾機能がある矢をルシファーは無駄のない巧みな剣裁きで斬り落としていき、ダメージを与えるには至らなかった。
アイリは戦地に参着すると同時に肩に乗せたカイを下ろし安全な場所に隠れるよう促すと、カイは頷いて物陰へと走っていった。
ラミエル「よおアイリ。 無事だとは思ってたぜ」
アイリ「ラミエル君も無事で良かったよ! 悪魔が星空界で何かしようとしてるのなら、正義の味方であるあたしが止めないといけないからね! 血の封印を解かれたあたしはもうどうにも止まらないよ! 星を守るは天使の使命ってね!」
アイリは『ストレートアロー』を連続で放つと同時に、ラミエルは地を蹴り駆け出した。
ラミエルの電気を帯びた拳と、アイリの軌道が読めない湾曲する動きを見せる光の矢。
二人は初の共闘になるとは言え、コンビネーションは完璧と言える程に息がピッタリと合っていた。
苦戦を強いられているとは言え、ルシファーは苦悶の表情を見せることなく、二人の技を華麗にいなしている。
無駄のない微細な動作のみで攻撃をいなしているため、体力を大きく削ることはなく、反撃する余力は十分と言える程に残されている。
ルシファー「前よりは動きは成長しているようだな」
ラミエル「称賛どうも!」
『スタティッククロウ』を右手だけ解除し、アイリが射った『トリックアロー』を掴み、電気を流す。
瞬時に矢全体に電流が迸り、電気がビリビリと音を鳴らす。
左手の電気の爪で剣を鷲掴み、矢先をルシファーに向け、更に電気を送り出した。
矢先から電気が溢れ拡散し、ルシファーの全身に電撃が容赦なく浴びせられる。
ルシファー「ぐっ……!」
ルシファーはここで初めて顔を歪ませた。
他人の技を応用して放つ技を繰り出すことが滅多にないが為に反応が遅れたルシファーは回避が間に合わず真っ正面から電撃を受けてしまっていた。
全身に電撃が迸り神経が麻痺していくも、距離を保つためにティルフィングから闇を放出する。
どす黒い煙にも似た闇が押し寄せ、ラミエルは後退せざるを得なかった。
闇は周囲を覆い尽くし、視界は闇一色に染め上げた。
四方八方、上下左右を見渡す限り、黒。
右も左も分からない無音だけが支配している、暗黒の空間に幽閉され、いつ何時何処からともなく攻撃が来るかも分からず警戒心が一層高まる。
脱出する手段を考えていたのも数秒の間、後方から光明が照らされた。
闇を斬り裂く様に照らされた光は闇を徐々に晴らしていき、燦然とした光を放つアイリが翼を広げラミエルの隣へ舞い降りた。
アイリ「光は暗闇の中で輝いているって言うよね? あたしが闇に対して特攻で良かったよ」
ラミエル「助かったぜ、サンキューな」
アイリ「礼なんていらないよー仲間なんだし~鰹だし~昆布だし~。 さて、ルシファーにはそろそろ悪魔ということでそれっぽい名前のデビルークに送って…あれ?」
アイリが霧散する闇の隙間から目を凝らして見ても、ルシファーの姿が何処にもなかった。
闇を周囲に放出することで姿を眩まし奇襲を仕掛けてくるのではと二人は互いに背中合わせの形で警戒する。
アイリが更に光の力で闇を払い視界を広げ、漸くその姿を視認することができた。
ルシファー「注視しなくとも、俺は最初から貴様達に用などない」
警戒を続ける二人は眼中に入っておらず、始めから戦闘の意思を見せない素振りを行っていたルシファーはアイリ達から離れた場所に立っていた。
星空界へと訪れた目的であるクラウソラスの側まで移動していた。
本望を遂げる瞬間を手中に収めたルシファーは表情を露にはしていなかったものの、勝利を確信した光が目に宿っている。
アイリ「あれって、もしかして、もしかしなくてもクラウソラスだよね?」
リョウ「あいつは最初からあれを狙ってこの星空界に来ていたようやで」
アイリ達の背後からリョウが歩み寄ってきた。
一閃された傷は自然治癒能力を行使しても完全には塞いでおらず、出血し続ける傷口を手で押さえている。
アイリ「リョウ君!? 大丈夫なの!?」
リョウ「まあ取り敢えずは。 死にはしない程度やから問題ない」
ラミエル「その剣を手にして何をするつもりだ!」
ルシファー「教える義理はない」
素っ気なく応答すると、ティルフィングを地面に突き刺し両手でクラウソラスの柄を掴もうとする。
アイリ「あたしが手にする予定だったのに…主人公の立場を奪取するつもりだ!」
ルシファー「そのようなくだらない野望ではない。 俺が成し遂げたい事は、もっと偉大だ」
ラミエル「偏見的な見方はしたくないが、悪魔に成り下がったお前が望むことなら、俺達に害悪なことに変わりはなさそうだな」
ラミエルが透かさず駆け出そうとしたが、リョウが手でそれを制した。
ラミエル「何で止めるんだリョウ」
ラミエルは相手の思う壺になる状況を阻止されたことに嫌悪感を露にする。
リョウ「よく考えてみろ。 あれは世界十二聖剣の一本、光の剣クラウソラスや。 悪魔であるルシファーが触れたところで、どうなるかは目に見えて分かるだろう?」
アイリ「闇、暗黒、影となる存在は強力な光の力により浄化される…とか?」
リョウ「ご明察。 つまりわし等が手を下す必要はないんよ。 暫く傍観させてもらおうやないか」
ラミエル「待てよ。 んなこと頭脳明晰なあいつでも分かってる筈だ。 態々自滅に近い行動を取ることが理解できねえ。 それに…!」
リョウ「ラミエルの言いたいことは分かってる。 堕天してしまった友を見殺しにしたくないんやろ? また天使として戻ってきてくれると微かな希望を抱いてるんやろ?」
見透かされているかのように心情を語られ、思わず歯噛みし押し黙る。
相手が敵だと理解しているものの、友人が命が危うければ助けようと手を差し伸べてしまいそうになる。
根気強く説得を続けていれば、また戻ってきてくれるのではないかと淡い期待を胸に抱いてしまう。
天使として悪魔を討たなければならない使命感、友だからこそ救いたいという私情がラミエルの心に重くのし掛かっていた。
リョウ「わしは世界の監視者としてあらゆる世界を巡り、ラミエルと似た境遇の人達を何度も見てきた。 辛いかもしれないが、目の前に起きていることが現実だ。 救うことができない、変えることができないと察したのならば、気持ちを切り替え討つための覚悟を決めなきゃならんのんよ」
いつにも増して真面目な顔つきで話しており、無意識だろうが、心做しか声のトーンも低くなっている。
射ぬくようなその瞳は、長年戦い続けてきた者の瞳で、計り切れない凄みがある。
ラミエルは威厳あるリョウの言葉に反論出来ず押し黙るしかなかった。
リョウ「見届けようやないか。 あいつがクラウソラスに喰われる瞬間を」
ルシファー「俺は誰かに呑まれるほど貧弱な存在ではないと証明してやろう。 その目に焼き付けろ」
場の流れを篭絡できたことに二人は心の奥底でほくそ笑む。
まさか信頼できる仲間であるリョウが敵である悪魔と手を組んでいるなどと予想はできないだろう。
問題はここからで、ルシファーがクラウソラスに認められるかどうか。
認められなければ死が待ち受けている、賭け事ならばあまりにも無茶と言え、引くが勝ちだろう。
自身の悲願を達成させるためにも、引くという手段はない。
ルシファーは大きく息を吐き、覚悟を身に纏いクラウソラスの柄を両手で掴む。
ルシファー「ぐっ!? ぐあああ……!!」
掴んだ瞬間、何の変哲もない剣と同等に反応がなかったクラウソラスが息を吹き返したかのように眩い光を放出し始めた。
この世に蔓延る黒一色に染まる闇を振り払う壮麗な光が場を包み、ルシファーの体を照らし焦がしていく。
対となる光の力に身を焦がされ、苦痛に満ちた声を張り上げる。
放出された光は凄まじいもので、光の属性を扱うアイリさえも目を瞑り後退ってしまう程のものだった。
ルシファー「クラウソラス……! 俺には、成し遂げなければ…ならないことがある…! そのために、俺にその力を授けてくれ!! 俺の…いや! 俺達のために!! 未来の希望となる、俺の野望のために!!」
光に焼かれながらも、似つかわしくなく喉の奥からはち切れんばかりの弾力のある声が響く。
ルシファーの鉄よりも固い決意を含んだ声に共鳴するかのように、クラウソラスの放たれる光が増大し、辺り一帯を白一色に染め上げた。
アイリとラミエルも光に耐えられず目を瞑り、爆発的に放出された光の衝撃波に為す術もなく吹き飛ばされた。
ラミエル「うぐっ…がああああ! なんつー力だよ…!」
体を数回地面に打ち付け横転しながらもなんとか受け身を取り体勢を立て直す。
横で飛ばされていたアイリも周囲に生えていた木に捕まり止まり、うっすらと目を開けルシファーの生死の確認を行った。
ルシファー「…残念だったな。 俺の最期を見ることができなくて」
アイリ「え、嘘………。 ねえ、乙女のSOS出してもいい?」
ラミエル「マジかよ…」
リョウ「………」
光が徐々に晴れ、ルシファーの姿が鮮明に視界に入る。
アイリとラミエルは驚愕に目を見開き、リョウは感心したかのような表情で立ち姿を見据えている。
ほくそ笑むルシファーの手中には、淡く仄かな光を放つクラウソラスがあった。
光と闇を使えるキャラってなんか強そうですよね