ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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ウマ娘のガチャで30連したのに星3が一人も来ないってどういうことなのよ…orz

救いはないのですか~!?


第61話 双剣乱舞

悲願を成就させたルシファーは静かにほくそ笑む。

心血を注ぎ手にすることができた世界十二聖剣の内の一本、光の剣クラウソラスは新たな主を歓迎するかのように淡く輝いている。

 

ラミエル「何で、あいつが光の剣に認められたんだ…!?」

 

友であったルシファーが無事であることを喜ぶ暇もなく、何故クラウソラスに認められたのかという疑問が脳内を巡る。

闇の力を主に使用する悪魔が、光の力を手にするなど前例がない、異例としか言えない事態。

悪魔が光の力を行使するという異端すぎる現実がたった今突きつけられ動揺するなと言われる方が無理難題だろう。

 

リョウ「光の力を扱える程の力量、何かを成し遂げたい思い、強固たる意思、透徹した心があるからこそ、認めたんやろうな。 敵ながらあっぱれと言ったところやね」

 

ラミエル「何でお前はそんなに冷静でいられるんだよ!」

 

リョウ「十分驚かされてるよ。 びっくりくりくりくりっくりだよ。 でも、ルシファーならと思うと、納得してしまうところがあるんやないか?」

 

堕天使だった前、天使族だった頃からルシファーは心身共に剛健だった。

常に平静を保ち、思考速度も早く、戦闘に於いても四大天使と引けを取らない実力の持ち主だった。

天使族の中でも頂点に君臨しても何ら不思議ではない彼ならば、常識を覆すことをしかねないのかもしれない。

 

ルシファー「お前達はこの剣を求めてこの世界に来たのだろうが、この剣の所有者はたった今俺になった」

 

アイリ「あたしが手にする筈だったのかもしれないのに…。 嘘だと言ってよ、バーニィ…」

 

リョウ「残念ながら現実じゃ。 まさか悪魔が手にするとはね」

 

ラミエル「取られたなら、取り返せばいいだけだ!」

 

ラミエルが電気を纏った拳で殴り掛かろうと接近する。

 

ルシファー「無駄だ。 『シャインアウト』」

 

ルシファーがクラウソラスの切っ先を向け放った閃光。

僅かな発光にも関わらず、威力は絶大なもので、アイリが駆使する技の数倍の威力がある。

咄嗟に顔を覆うように腕を交差し防御体勢を取るが、至近距離で直撃を受けたラミエルは威力を殺しきれず後方へ吹き飛び激しく地面に打ち付けられた。

 

ルシファー「流石と言ったところだな。 僅かの力しか発揮していないというのにこの威力か」

 

アイリ「今のが、『シャインアウト』? あたしのと比じゃないだけど…」

 

リョウ「そりゃそうよ。 無限に広がる多種多様な、あらゆる世界を探しても、複製品が存在しない凄まじい力を秘めた世界十二聖剣なんやから。 さて、もう落ち着いている余裕はないな。 退くぞ、アイリ」

 

アイリ「え、クラウソラスを取り返さないの?」

 

リョウ「半分しか力が出せないわしの実力じゃ太刀打ちできない。 今のルシファーにはティルフィングもある」

 

歴史上、世界十二聖剣の内の二本を所持していた人物は存在しない。

類稀れという範疇を超え規格外という言葉しか合わない。

誰も成し遂げたことのない偉大な事柄だが、敵である

悪魔が成し遂げてしまうという最悪な形となってしまった。

 

ルシファーは地面に突き刺したティルフィングを引き抜きアイリ達を見据える。

片や光の剣。

片や闇の剣。

交えることが許されない対の力を持つ剣が牙を向く。

計り切れない凄まじい力に、アイリは怖じ気付いてしまい、憮然とした表情となり自然と足が震えている。

 

ルシファー「退くという手段を勧めるが、どうする?」

 

ラミエル「退くわけねえだろ! 俺は戦うぜ…」

 

立ち上がったラミエルが臨戦体勢に入るも、肩で息をしており、第三者からしても分かるほど体力を激しく消耗していた。

 

ルシファー「無謀だ。 だが、貴様の決意に免じて相手をしてやろう」

 

ほくそ笑むルシファーは静かに歩みを進める。

静かなる前進とは裏腹に、手中にある二本の剣の力が増大し空気を震わせる。

剣から源泉のように沸き上がる光と闇は神々しくもあり禍々しい。

世界を滅ぼし掛けない力は底が知れないのか、増大し続ける。

一瞬怖じ気付くも、戦意を喪失させる気配がないラミエルの肩にリョウの手がゆっくりと音もなく添えられた。

 

リョウ「ラミエル、認めたくない現実じゃろうが、ここは受け止めて退くべきや」

 

ラミエル「退くだと? 退くわけねえだろ。 俺は戦う。 俺だけでも残るから、お前達だけでも退け!」

 

リョウ「………頭に血が上ってちゃ何言っても無駄、どの世界でもどの時代でも同じなんやな」

 

瞋恚に燃えるラミエルの前に素早く回り込み、鳩尾に鋭い膝蹴りを放った。

加減も躊躇もない無慈悲な一撃をまともに受けたラミエルは一瞬で気を失い倒れ伏した。

 

ルシファー「余計な真似を…と、数分前の俺なら言っていただろうな。 今の俺より弱い奴と戦うのは、時間の無駄とさえ思えているからな」

 

リョウ「わしは無謀と呼べる戦いに仲間を巻き込ませたくはないからね。 さて、少々手荒な行動になってしもうたけど、わし達は退かせてもらうわ」

 

ルシファー「俺はお前達を逃がすと言った覚えも、約束した覚えもない。 その人間の少女は抹殺させてもらう」

 

リョウ「…成る程、悪魔らしくなったな。 それがお前の答えか」

 

ルシファー「俺もサタンフォーとしての顔として、相応の活躍と成果を残さなければならないからな」

 

リョウ「ふん、老獪な奴やな」

 

ルシファー「お互い様にな」

 

ルシファーが二本の剣を構える。

リョウもアルティメットマスターを引き抜きアイリとラミエルを守護するように前に出る。

 

勝算は限りなく薄い。

唯でさえ一本だけで世界を滅ぼしかねない伝説の剣を、二本扱う悪魔が相手にして勝てる者など、指で数えて存在するかどうか。

アレクやアリスが使用することを固く禁ずる、リョウやピコが持っているあの『力』があれば、この場を凌ぐことは容易いだろうが、リョウも極力使用する頻度を抑えている。

最悪の場合、致し方なく使用する覚悟はある。

 

もういっそのこと最初から短時間だけ使用しアイリ達を逃がそうと思案していた途中、リョウとルシファーの間に割り込むようにして、一つの流星が舞い降りた。

砂塵が舞うと共に、島全体が大きく揺らいだ。

突如として落下してきた物体に怪訝の目を向けていたルシファーに藍色の炎の球が放たれた。

鮮やかな一閃により炎の球は真っ二つに割れ、ルシファーの真横を通過していった。

 

アイリ「この技は、テュフォンちゃん!」

 

テュフォン「がああああああああ!!」

 

空を斬り裂く咆哮が砂塵を吹き飛ばした。

地を強く蹴り弾丸並の速度でルシファーへ肉薄し、星の力を纏った爪を振るう。

二本の剣と爪が激しく衝突し合い、衝撃波により地面が抉り削られていく。

 

テュフォン「それはアイリお姉ちゃんが欲しがってたものだよ! 返して!」

 

ルシファー「この剣は誰の物でもなかった。 つまり俺の物になってもなんら可笑しなことはない」

 

光と闇の力が反発し合うようにぶつかり収束し、調和が取れたように巨大な一つの力となりテュフォンを襲う。

テュフォンは華奢で小柄な体に鼓舞させて、己が引き出せる星の力を出し押し返し、時に撥ね飛ばす。

 

アイリ「す、凄い………今まで見てきた戦いがお遊びに思えるくらい…」

 

壮絶な激闘が繰り広げられ、アイリはただ傍観せざるを得なかった。

自分があの場に介入する隙など無いに等しい、そう思わせる程に桁違いの実力の差があった。

例え助太刀に入ろうものなら、自分は瞬時に戦闘不能に追いやられ、邪魔になってしまう。

力が半減されてしまっているリョウは兎も角、強者の雰囲気を醸し出すアレクやアリス、ピコが未だに本気を出していないとなると、本気を出したときの実力はどれほどにまで強大なものなのか、想像しただけで身震いしてしまう。

 

リョウ「この場はテュフォンに任せてわしらは退かせてもらおう。 アイリ、カイを頼む」

 

アイリ「え、う、うん、オッキュー!」

 

リョウは気絶したラミエルを担ぎ、アイリは後方の物陰で息を潜めているであろうカイの元へと急ぐ。

 

アイリ「カイ君、お待た…え?」

 

島全体が戦闘の激しさに揺れ足元が覚束ないなか走り続けカイの元へと辿り着いたが、カイの容態が明らかに異常だった。

 

カイは両手と膝を地に着け、荒い呼吸を続けており、口からは唾液が滴り落ちている。

体全体から赤黒いオーラのようなものが溢れ、場を覆い尽くしている。

赤黒いオーラの正体は、闇。

闇がティルフィングの闇に共鳴するかのように揺らめいている。

 

カイ「うううぅ、ぐあああああ………がああああ…!」

 

朗らかな表情は消え去り、牙を光らせおぞましい表情を見せる姿は、妖怪そのもの。

あまりの変貌振りにアイリは言葉が発せられなかった。

無邪気な笑顔を浮かべていた面影がなく、急変を超え変貌を遂げていれば誰でもショックを受け言葉を失ってしまうだろう。

 

リョウ「なっ!? ちっ、ティルフィングの闇がカイの中にある闇と反応したんか!」

 

リョウはラミエルを抱えたまま立ち尽くすアイリの横を通り過ぎ、カイへと素早く接近し首の横に手刀を叩き込んだ。

鋭い一撃にカイは瞬時に気を失い倒れ、溢れ出ていた闇のオーラも徐々に消えていく。

問題解決かと思われたが、倒れたカイの体はクラウソラスの光により燃え焼かれており、僅かに煙が立ち込めている。

 

リョウ「説明している暇はない! 兎に角この場から退くよ! 急いで!!」

 

リョウは未だにカイの状態にショックを受け、足が地に着いたまま膠着してしまっま状態のアイリに語勢を強めた言葉を掛け、気を失ったカイを担ぎ翼を展開し飛翔する。

アイリもリョウの言葉と、激闘による衝撃により亀裂が走り徐々に裂かれていく地面が視界に入り我に返ったアイリも翼を広げる。

テュフォンをこの場に残し後を託したことに気が咎めてしまったが、今の自分では残ったところで邪魔にしかならない。

自身の不甲斐なさとカイの安否が心を埋め尽くされながらも、リョウの後を追うしかなかった。

 

 

~~~~~

 

 

ルシファーは世界十二聖剣の内の一本、光の剣クラウソラスを手にし、闇の剣ティルフィングと共に一方的なまでに力を振るい圧倒的な力の差を見せつけられた。

駆け付けたテュフォンにその場を任せ戦場と化した島を離脱し、星雲の中へと姿を眩ますことで凌ぐことができた。

クラウソラスを奪還することすら儘ならない、天と地の差があることを肌で感じ、何も出来なかったアイリの表情は暗い。

カイの容態が著しくない危険な状態に陥ったことにより、精神的に追い討ちを受けていた。

 

リョウ「………安心しろアイリ。 カイは無事や」

 

数秒なのか数分なのか、続いていた沈黙をリョウが破った。

 

リョウ「カイの体内にある闇の力がティルフィングの力と共鳴して暴走仕掛けたんや。 そこに加わるようにクラウソラスの光の力が闇の力を打ち消そうとしたから、カイはダメージを負ってしまった。 あのままあの場に留まっていれば、最悪カイは消滅していた可能性がある」

 

アイリ「…カイ君が闇の力を持ってるのは知ってたけど、いざ目の前で闇を発しているのを見ると衝撃が大きいと言うか…あたしじゃ何も出来ない無力さを思い知っちゃった。 結局、恐れ戦いてルシファーからクラウソラスを奪い返すことも出来なかったし」

 

リョウ「気に病むことはない。 悪魔族であるルシファーがクラウソラスに選ばれるなんて予想外すぎる異端な事やったし、わしも実力不足で真っ向から勝負することは出来へんかったんやから、その…アイリの力になれなくて申し訳なく思っている」

 

謝罪の念は誠ではあったが、ルシファーの思惑に加担した身なので、嘘で塗り固められた出任せな事をアイリは知る由もない。

 

アイリ「リョウ君は悪くないよ。 寧ろここまであたしに協力してくれたことに感謝しかないよ」

 

リョウ「…そう言ってもらえると助かる」

 

アイリ「ねえリョウ君。 気掛かりな事があるんだけど…」

 

沈んだ表情は先程よりも落ち着いたものとなったが、重々しく口を開いた。

 

アイリ「あたしって光の力が他の天使よりも強い特異体質なんだよね? カイ君と一緒にいて大丈夫なのかな?」

 

リョウ「安心してええよ。 アイリがカイに向けて直接光の力を当てたりしない限り被害に及ぶことはない。 今日まで普段通り過ごしてきて大丈夫やったんから、問題ないよ」

 

アイリ「そっか。 良かった。 あたしが原因でまたさっきみたいに傷付いちゃうと思うと、怖かった」

 

リョウ「さっきまで暗かったのは、カイの安否と自身の力が影響されないかどうかを気にしていたからなんかい?」

 

アイリ「そうだよ。カイ君の身に何かあったらどうしようって不安だった。 あたしが天界に来てからずっと一緒にいたのに、これからは一緒に暮らせなくなるんじゃないかなって、不安だった。 クラウソラスは手に出来なくてもよかった。カイ君の方が心配だったし。 ホントに無事で良かった」

 

自身の戦力増強となるクラウソラスを奪取されたことよりも、カイの身の安全を考慮する、アイリの優しさと思いやりの心が感じ取れる。

仲間である人物の身の危険が迫っている状況ではそちらを優先するのは当たり前だと言えばそれまでなのだが、自分の重要な目的を投げ捨てても構わないという

殊勝な心掛けにリョウは感服させられた。

 

リョウ「……成長した、と言うより、アイリの人間味が尚更分かったよ。 良い奴だよお前は」

 

アイリ「褒めても何も出ないよ? 成長って言うなら胸はもうちょっと出てもいいんだけどな~…」

 

リョウ「はあ…いや、アイリらしい答えで安心した。 クラウソラスを手に入れられなくてショックを受けても可笑しくないと思ったからな」

 

アイリ「ショックじゃないって言ったら嘘になるよ? でも起こってしまったことは仕方ないし、みんなで協力してルシファーを倒してしまえばいいだけだからね! あたしもまた再戦するまでに強くならなきゃだし、ガイアがあたしにもっと輝けと囁いているからね!」

 

自信と活気に満ちた顔で親指を立てサムズアップする。

自尊心と仲間への信頼感を持っているからこそ、躓きそうな時も前を向いて歩みを進んでいける。

アイリの人間味もあるが、転生して暮らす日々の中で実力と共に精神面も大きく成長したのが窺える。

 

アイリ「さて…えっと、これからどうするの?」

 

リョウ「取り敢えずピコとシャティエル、ヴァルゴとカストルとポルックスと合流する」

 

アイリ「カストルとポルックス?」

 

リョウ「十二星座神官双子座担当の二人のことね。 カストルとポルックスにラミエルとカイを預けてルシファーの元へと再度赴きクラウソラスを奪還する」

 

アイリ「体勢を立て直して戦力を集結させて迎え撃つってことだね。 テュフォンちゃんのことも心配だし、第一宇宙速度で急がないと!」

 

リョウ「テュフォンは簡単にくたばることはないやろうけど、負担を掛けっぱなしにするわけにもいかんからな。 ワールドゲートを使って全員をこの場に集結させ…ようと思ったんやけど、一足遅かった」

 

目を瞑り仲間の居場所を探知しようとしたが、思わぬ展開があったのか、渋い顔をした。

 

アイリ「どうしたの?」

 

リョウ「ルシファーが逃げた。 もうこの世界にはいない」

 

アイリ「イ゛エ゛ニ゛カ゛エ゛ッチ゛ャッタ゛ノ゛ォ!?」

 

リョウ「…まあそういうことや。 冥府界に帰ったみたいやわ。 目的を遂げ試運転として力を発揮できて満足したんじゃろ」

 

アイリ「冥府界に激突王並の勢いで行くのは…得策じゃないよね」

 

リョウ「そうやな。 冥府界は悪魔の領域と言える。 邪悪な瘴気が漂っていて、その瘴気があいつ等の力を上乗せさせるし、数の暴力で押し切られるだけやからね」

 

アイリ「確かに、ごもっともだね」

 

安穏に済む筈だった今回の件に波風を立てたルシファーは放縦に力を振るうだけ振るい去っていった。

今回ばかりは悪魔と関わることはないと思っていたアイリからすれば、突如横槍が入り目的となる物を根刮ぎ持っていかれ何の報酬もないという、迷惑極まりない残念な結果になってしまった。

 

ルシファーの真の目的を察し協力を仰いだ、アイリの目的を打ち砕いた張本人であるリョウは僅かに罪悪感を感じながらも内心ではルシファーの目的が成就されたことに喜ばしく思っていた。

 

───やり方は邪道極まりないが、最終的にはアイリのためになる。

 

───何度も犯してきた行為なんだ、今更罪悪感を抱くだけ無意味だ。

 

アイリ「テュフォンちゃんは無事なの!?」

 

リョウ「心配ない、ちょっと怪我はしてるけど問題ない。 兎に角、みんなを一旦この場に集めようか」

 

リョウは目を閉じ再度集中を開始した。

数秒後、周囲に光の扉が複数召喚され、中からピコ、シャティエル、ヴァルゴ、カストル、ポルックス、レミーネが姿を現した。

 

カストル「うわあ!? びっくりしたー!」

 

ピコ「ありゃ? もしかしてもう終わったの?」

 

リョウ「まあ追々話すよ。 …で、何で異物が混入してるんかのう?」

 

連れてくる筈ではなかったレミーネが視界に入るや否や、無意識に声のトーンが低くなり、アルティメットマスターを抜刀し切っ先を向ける。

レミーネ本人はこの場にいる全員と同様で、突然この場に召喚され困惑していたようだったが、敵に囲まれ危機的状況に陥っていたことに気付き冷や汗が出てきていた。

何か下手に動こうとするならば、殺気をこれでもかと溢れ出すリョウを筆頭に全員が牙を向くのは明瞭であったため、降参せざるを得ないレミーネは槍を納め両手を上げ降参の意を見せる。

 

レミーネ「降参するわ。 もう何もしないから今回は退かせてもらうわ」

 

リョウ「…わしがエクリプス相手に、はいそうですかって逃がすと思うか?」

 

ワールドゲートを召喚し、レミーネを無理矢理別の場所へと移動させた。

移動させた場所は、先程までヴァルゴ達と戦闘を行っていた宙に浮く小さな島。

リョウもワールドゲートを通り消滅させ、レミーネへと接近し首を掴み持ち上げる。

反応仕切れない素早い行動にレミーネは対応に遅れたが、即座に槍を構えようと背中に手を動かす。

 

レミーネ「ど、どう、して………!?」

 

槍を構えることは叶わなかった。

腕を上げようとしても、動かすことが出来なかった。

麻酔にでも掛かったかのように腕に力が入らない。

腕だけではない、体全体が同様の状態で、力を込めようとしても出来ない謎の現象に襲われ若干焦りを覚える。

 

リョウ「あの場にアイリがいたから誰もいない場所まで連れてきた。 じゃないとこの力を使えんからのう」

 

視線さえ変えることすら叶わないレミーネの視界には、左目が黄金色に輝き恐ろしい程にまで無表情なリョウの顔だった。

 

リョウ「甘いな。 敵として、況してやエクリプスが立ちはだかるならわしは女だろうと容赦なんてせえへん。 …いや、もうこの状態は相当容赦してるか」

 

自嘲気味に言うが、無表情な顔が崩れることはない。

レミーネからすればこの状況の何処が容赦しているのか理解出来なかった。

どんな能力を使用してるか不明だが、力が一切込められず抵抗を許されず首を絞められ死を待つしかない状況に、容赦や手加減という言葉は釣り合わない。

 

レミーネ「あ、がっ……や、やめ…て……!」

 

本来ならば御自慢の治癒の加護による回復効果により絞殺され掛けようが全身に酸素が行き渡るのだが、リョウの謎の能力により効果が発動されなくなっているようで、焦りが募っていく。

リョウはその気になれば首をへし折るなり脊髄ごと首を引き抜くことも可能だが、レミーネが苦しむ姿を楽しんでいるようにも見える。

 

更に力が込められようとした刹那、リョウの両腕が小さな爆発により吹き飛んだ。

拘束から解かれたレミーネはリョウの鮮血により赤く染められた地面へ倒れ大きく咳き込んでいる。

リョウは腕が吹き飛んだ激痛を感じていないのか、無表情なまま、視線を横に移す。

両目を黄金色に輝かせる制服を着た少女、マリーが悠然と立っていた。

 

マリー「リョウさん、それ以上力を使うことは許されない」

 

リョウ「レミーネを傷を負わせることなく的確に腕を狙えたのはお見事。 でも、エクリプスであるこいつを逃がそうとするなんて、どういう風の吹き回しじゃ?」

 

両腕が体から離れ吹き飛んだのにも関わらず、毀誉褒貶の言葉を掛ける余裕を見せている。

リョウの鷹揚自若な態度は偽りのものではなく、まるで腕が失くなったことをどうでもいいと思っているかの様な、異常と呼べるほど平静だった。

 

マリー「エクリプスを助けようとしたんじゃない。 リョウさんにこれ以上力を使わせないようにするため。 力を使い続けたら、どうなるかは分かってるんだよね? だったら、私怨を理由に使わないでほしい」

 

リョウ「……正論ではあるな。 確かにその通り、なんだと思う」

 

マリーの言葉に反論の余地が無いのか、リョウの黄金色に染まっていた瞳は元の黒色へと戻る。

発せられる言葉の口調も弱々しく聞き取れる。

 

リョウの戦闘の意が無いことを確認したマリーの黄金色の瞳が一瞬煌めく。

刹那、爆発により四散したリョウの腕が治った。

再生という言葉が似合わない、出現した、時が戻ったとも言える奇妙なもの。

一瞬の出来事を他者が見れば目を点にする衝撃的な現象だが、リョウはこれにも無反応なままだった。

 

マリー「リョウさんが力を使うことを許されるのは、『世界を喰らう者』と対峙した時だけ。 本来なら私達は捕らえられ未来永劫監禁されなければならない立場だけど、その桎梏から解放されているのがユグドラシルメシアのみんなのお陰なのを忘れないで」

 

反面、マリーの口調は強まっており、普段穏便な彼女とは思えない威圧感を醸し出しており、前に立っているだけで潰されそうになる。

僅かに感じるマリーに対しリョウは怖じ気付くことはなかったが、己の犯してしまった行為がある事態を弥増し悪化させてしまい、昔から尽力してもらっていた彼女に対し申し訳ない気持ちになってしまう。

アイリの時とはまた別の罪悪感に苛まれ、自身の軽率な行動を反省する。

 

リョウ「…すまないマリー。 奴等を相手にすると、怒りが抑えられなくなってしまうんや。 もう何年も経つっていうのに」

 

マリー「仕方のないことだよ。 エクリプスがリョウさんにしてきた悪行…怒りを抑えられる訳がない」

 

?「でも、我慢してほしい」

 

リョウ「テュフォン…」

 

声がした後ろを振り向くと、先刻到着したであろうテュフォンがいた。

ルシファーとの激しい戦闘の末、幼い体には傷が残り、額から出血してしまっている。

幼さの割に痛みに苦しんではいないようで、悲痛な面持ちで立っており、目には一粒の涙が溜まっている。

 

テュフォン「リョウ兄が辛いの…テュフォンは、分かってるつもり、だよ。 これ以上、辛いことにならないためにも、もう、力は使わないで…。 お願いだよ、リョウ兄! じゃないと…リョウ兄も…みんなも…!」

 

堪えていたが限界を迎えたようで、涙腺が崩壊し止めどなく頬を涙が伝う。

両手で顔を覆い、声を上げて泣き始めてしまった。

リョウは年相応に泣き叫ぶテュフォンに近付き、包み込むように優しく抱き締めた。

 

リョウ「ごめんな、心配掛けてしもうて。 テュフォンはこんなにも心配してくれてたのに…わしが身勝手に、感情のままに力を振るってばかりで…本当にごめん」

 

テュフォン「リョウ兄が…あんまり、力を使わないように、テュフォンも…頑張るから…だから…!」

 

リョウ「テュフォンは本当に優しいな。 約束する。 力は極力使わないようにする」

 

マリー「絶対にとは、言ってくれないんだね」

 

リョウ「わしも出来れば使いたくない。 でも、そうせざるを得ない場合が必ず来る。 出し惜しみしていちゃ、『世界を喰らう者』並の相手には勝てへん」

 

マリー「……テュフォンちゃんだけじゃない。 アレクさんやアリスさん達も、みんなリョウさんのことを掛け替えのない仲間だと思ってる。 みんなが牙を向けてしまう前に、後悔しないためにも、控えてほしいの。 時空防衛局やユグドラシルメシアのみんななら、必ず手を貸してくれるから」

 

マリーは悲しそうに俯きながら踵を返した。

 

マリー「もう、リョウさんの悲しい姿は見たくない。 私はそれだけ。 それに、リョウさんが最悪の形になれば、悲しむのはリョウさんだけじゃないってことも、絶対に忘れないで」

 

忠告に近い台詞を吐き、マリーはその場から姿を消した。

リョウは己の行動に深く反省しつつ周囲を見渡すも、レミーネの姿は何処にもなかった。

憎むべき敵を逃がしてしまったが、後悔は生まれなかった。

後悔よりも仲間に心配させる不安な気持ちを与えさせ迷惑を掛けてしまった罪悪感の方が強かった。

使用するだけで世界を揺るがす問題を惹起してしまうこの『力』を怨むが、結局は感情に呑まれ使用してしまう己が元凶なため、己自身を怨みたくもなる。

幾ら自分を攻めたところで何も変わらないのはリョウ自身理解していたため、邪魔でしかない憂鬱な気分を取り除き、テュフォンの頭を優しく撫でる。

 

リョウ「テュフォンの思いは無駄にしないよう、わしも頑張るよ。 ありがとね、テュフォン」

 

テュフォン「じゃあ、約束…」

 

テュフォンは上目遣いで腕を伸ばし小指を出してきた。

リョウは指切りに答えるため小指を伸ばしテュフォンの小指と絡めた。

 

(指の折れる音)

 

リョウ「いっ………!?」

 

悪寒が走るような痛快な乾いた音が弾けた。

痛みが走り小指を見ると、あらぬ方向へと曲がってしまっていた。

 

リョウ「あはは…テュフォン、力を込めすぎだよ」

 

テュフォン「へ? ……あ、ああああああ!! ごめんなさーい!!」

 

最も信頼を寄せる家族とも言えるリョウの指をへし折ってしまったことにテュフォンは再び泣き叫んでしまったが、指一本折れた程度では特に問題のないリョウはなんとか宥め泣き止ますことに成功した。

 




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