難産でしたわ笑
亜空間にて、異なる三つの種族の戦いが繰り広げられようとしていた。
天使、悪魔、魔族。
住まう世界が異なり交わることのない者達が技と技をぶつけ合っている。
とは言っても、三人が互いに争い合っているわけではなく、天使と魔族は共闘しているという異色の組み合わせ。
種族の壁など気にもしていない天使アイリと魔族であり魔王のアルシエルは、天使に取り憑いている悪魔ベルゼブブと相見えている。
アルシエル「先ずは貴様をその身から引き摺り出す」
ベルゼブブ「やってみろよ魔王様。 いや、『終焉魔王』」
アルシエル「挑発したことを後悔しろ」
アルシエルは腕を前に出し、手に魔力を集めていく。
手に集められた魔力が禍々しく紫色の光を放っている。
天使の体諸共この世から消し去るのではないかと危惧したが、杞憂に終わる。
ベルゼブブ「な、何だ!?」
見えない何かに引っ張られるようにベルゼブブは天使の体から引き剥がされていく。
粘着性のある物を引き剥がされるような、巨大な何かに吸引されているかのような奇妙な感覚に捕らわれ、抵抗も虚しくベルゼブブは天使の体から引き摺り出された。
ベルゼブブの憑依から解かれた天使は意識が乗っ取られていたせいか、目覚めることなく地面へ倒れた。
ベルゼブブ「嘘だろ…エクソシストさえ憑依したこの俺を引き摺り出すまで数時間と掛かるってのに、一瞬で……!」
アルシエル「我の能力を認知していないのか? ならば冥土の土産に教えてやろう。 我の能力の名は『ドレイン』。 力だろうが物であろうが、吸収し尽くす。 能力の対象となるのは、我の視界に入ったものすべてだ」
アイリ「うわあ…かなりチート」
ベルゼブブ「能力には恵まれてるみてえだが、実力じゃそうはいかないぜ!」
四枚の翅を広げ、凄まじい速度で肉薄する。
振るわれる拳は鉄板を何枚も突き破る勢いと威力。
アルシエルは平然とした態度で振りかぶり放たれた拳を真っ正面から片手のみで受け止める。
ベルゼブブは捕まれた拳を振り解こうと力を込めるが、杭に打たれたのかと錯覚する程に微動だにしなかった。
アルシエル「浅慮な輩だな。 我に接近戦を行おうとするとは…哀れの極みだ。 『エナジードレイン』」
ベルゼブブ「くそ! 動かねえ…! 離しやが…ぐ、がああ!?」
禍々しく輝きを放つ紫色の光がベルゼブブからアルシエルの腕へと流れ込んでいく。
アルシエルはドレインを使用し、ベルゼブブの魔力を吸い上げ始めた。
不敵に笑みを浮かべるアルシエルとは反対に、ベルゼブブは徐々に力が抜けていくことに焦燥感が募っていく。
立つことすら困難となり、数秒と経たない内に膝を地に着けてしまった。
ベルゼブブ「ぐあ……この、俺が、サタンフォーの、一人の俺が…!」
アルシエル「サタンフォーだから何だと言うんだ? 如何なる存在であろうと、力尽くで我に跪かせる」
魔王としての力、恐らく片鱗なのだろうが、それだけでもアイリは心の奥底から震え上がった。
蝙蝠や蚊等の吸血する生物には当然ながら血を蓄える限界がある。
だがこの魔王からは限界という臨界点が無いと直感で分かる、分かってしまう。
今の状態を維持していれば、数分と経たない内にベルゼブブは魔力を吸い尽くされ脱け殻と化すだろう。
もしあの技が自分に向けられたと思うと、背筋が凍り付く。
ベルゼブブ「くそが…調子に、乗るな!」
余力を振り絞り、紫色の円盤状のエネルギー弾、『ソウルティアー』を連発した。
至近距離からエネルギー弾に直撃したアルシエルは拳を掴んでいた手を離し後退してしまう隙を逃さず、ベルゼブブは翅を広げ大きく後方へ飛び下がった。
アイリ「逃がさない! 『サンダーボルトアロー』!」
電気を帯びた矢を放つも、二度も同じ技は通用しないと嘲笑うかのように身を翻し全て回避されてしまった。
抗拒から逃れ、翅を細かく動かし浮遊するベルゼブブは息切れしており、戦闘直後とは思えない状態となっている。
未だ心意が掴めていないルシファーの反逆により負傷していたというのもあるが、アルシエルの能力が如何に強力なのかが痛感できる。
ベルゼブブ「流石にヤバかったな。 さて、どうしたものか…」
ベルゼブブの主な攻撃方法は拳による殴打だ。
防御すら容易く粉砕する圧倒的な打撃で攻め落とす戦法を得意とするベルゼブブにとって、アルシエルの能力は相性が悪すぎる。
接近しようものなら、拳を乱打する前に先程のように止められ再度魔力を吸収されてしまうだろう。
視界に入らないよう背後に回る、瞬時に懐に入り攻撃を仕掛ける等といった方法もあるが、現在の体力ではそのような機動力は出せない。
勝利を掴むには程遠い現状を打破するのは難しいと判断したベルゼブブは渋々といった様子で戦略的撤退を図ろうとした。
何かを察したアイリが矢を準備するよりも早く、異世界へ移動するためのワームホールが開かれた。
アイリ「ダメ、間に合わない!」
アルシエル「いや、奴が出したものではない」
アルシエルが言うように、ベルゼブブが困惑した表情を浮かべているので、彼が出したものではない。
では一体何処の誰が危険地帯である亜空間に現れたのか、答えは直ぐに分かった。
?「楽しそうにしているわね」
金髪を靡かせ、妖艶な雰囲気を醸し出すサタンフォーの一人、リリス。
偶然現れたにしては出来すぎているので、ベルゼブブがこの場所に居ると認知して現れたのだろう。
新たな敵の増援に身構えるアイリとアルシエルを他所に、リリスはベルゼブブと対談し始める。
ベルゼブブ「ルシファーから逃げ切ってたのか。 丁度良い、あの天使と『終焉魔王』を倒すのを手伝え」
リリス「私はお前の助力をしに態々こんな辺鄙な場所に赴いたんじゃないわ。 ただ、試したいことがあるだけ」
訳が分からず疑問符を浮かべたのも束の間で、首筋に痛みが走った。
視線を下に移すと、リリスが伸ばした触手が首に突き刺さっていた。
急激に己の中にある体液が吸い取られていき、生命の危機を感じ抵抗しようと力を込めるが、先程の『エナジードレイン』のせいでそのような余力など残されていない。
ベルゼブブ「て…てめえ、何の、つもりだ……!」
リリス「言ったでしょ? 試したいことがあるの。 そのためにあなたには犠牲になってもらう。 極力強い力を持つ者の方が効果がありそうだったから、あなたを狙ったの。 何のつもりかは知らないけれど、ルシファーの反乱のお陰で弱りきったあなたに狙いを定められたから、感謝しかないわ」
ベルゼブブ「く、そ…くそが…許さねえ…からな………いつか、必ず…!」
リリス「死に行くあなたが何をほざこうが無意味よ。 でも、あなたの力だけは無駄にはならないから、感謝しなさい。 じゃあ、さようなら」
無抵抗のままベルゼブブは薄れ行く意識の中で、憤怒と憎悪が混ざった瞳で、不敵に微笑む彼女の醜悪な顔を睨む。
その行動を最後に、ベルゼブブの意識は途切れた。
数秒も経たない内に、ベルゼブブの体液は全て抜き取られてしまった。
干からび抜け殻と化した体は灰となり、亜空間の遥か彼方へと溶け込むように消えた。
サタンフォーの一人の呆気ない最期にアイリは釈然としないままリリスに向けて矢を射る。
アイリ「何で殺しちゃったの? 仲間だったんじゃないの!?」
リリス「仲間? そのような絆で結ばれたような暑苦しい存在じゃないわ。 敵でないってだけよ」
リリスの獰悪な行動に堪忍袋の緒が切れたアイリは翼を広げ飛翔し、続け様に矢を射る。
リリス「何故怒りを露にしているのかしら? ベルゼブブは現実世界を征服、占領しようとした極悪人よ。 死んだのなら、あなたにとっては得だと思うのだけど」
アイリ「あたしが怒っているのは、簡単に命を奪うことだ! 同じ組織に属しているなら、それはもう仲間って言うんだよ! いとも簡単に仲間の命を刈り取るあなたは絶対に許さない!」
リリス「無辜な私を糾弾されても困惑しかないわ。 それに何より煩く目障りだわ」
人間という低俗な種族だった、十何年しか生きていない少女に物を言われ癪に触ったのか、4本の触手を伸ばし、『テンタクルレイ』を放つ。
宙を交差するように走る四筋の光線を敏捷な身のこなしで回避し、時に受け流しながら射てる限り矢を射る。
リリスは縦横無尽に亜空間の空を駆け、光の矢を嘲笑うかのように回避し続けている。
リリス「前に会った時よりかは、楽しめるみたいね」
アイリ「あんたが知らない間にこっちは色々あったんだから! 卑劣な行いをするあんたなんかには絶対に負けない!」
強力な一撃を叩き込むため、アイリは『レインアロー』を放った。
隕石の如く降り注ぐ矢から逃れるのかと思ったが、リリスは触手を巧みに操り矢を弾いていた。
光の力によるせいか、触手からは闇の力を浄化される際に出る煙が少なからず出ていたが、瑣末な問題としか思っていないのか、特に気にしてはいないようだった。
服を何度か掠めながらも、数多の矢を防ぎきり剣を片手にアイリへと肉薄する。
アイリもガーンデーヴァを両手で持ちリリスの剣を受け止め接近戦へと持ち込む。
甲高い金属音が鳴り響き、火花が散る。
何十回と及ぶ剣の攻防が続いていたが、リリスが突然後方へと飛び退いた。
何故なのかと思案しようとしたアイリの目の前に燃え滾る炎が通り過ぎた。
何寸か差異があれば直撃するギリギリの距離に顔面蒼白しながら下を見ると、小型拳銃を手にし砲口をリリスに向けたアルシエルがいた。
魔王が持つには相応しくない現代的な武器だったが、凄まじい魔力を感じたアイリはただの拳銃ではないと直感で理解できた。
紫色のラインが迸るデザインの全体が黒色の小型拳銃。
紫色のラインには宝石を加工し施された物で、魔力を特に醸し出していたが、銃そのものが特殊な材料により生成されているせいか、全体から魔力を嫌でも感じ取れる。
アルシエル「…闖入してきた分際で、差し出口するな。 我が魔銃『パントクラトール』の餌食にされたいか?」
リリス「相変わらず随分と品の無い物騒な物を持っているわね」
アルシエル「初対面の割には口の利き方がなっていない…流石、野蛮な低俗といったところだ。 …我を侮辱するとは…死に値する」
リリス「初対面…ええ、今は確かにそうだったわね」
リリスが呟いた言葉は引き金を引き銃弾が放たれた銃声により掻き消された。
狂騒を起こす程ではなかったが、アルシエルは額に青筋を浮かべており、リリスの地面に這いつくばる姿を見るために引き金を引く。
リリスは銃弾を触手で防ごうとしたが、直撃を受けた。
防御に徹していた触手は千切れ飛び、止まることを知らない魔力により強化された銃弾は直線上に進みリリスの体を貫通した。
豆粒程の鉛球だが、その一発は大型戦車の一発を超越する威力はあるのではなかろうか。
防御は叶わないと判断したリリスは回避に移り、距離を保ちながら薄紫色の結晶の間を縫うように飛行する。
後を追うためアルシエルも浮遊し、銃弾を射つと同時に灼熱の炎を放つ。
結晶が銃弾と炎に直撃を受け礫と成り果てていくが、リリスは俊敏な動きで回避していき反撃に『テンタクルレイ』を放ってはいるが、アルシエルは全て片手だけで防御しており効果は薄いと言った戦況。
リリス「流石、『終焉魔王』の二つ名は伊達ではないわね。 だったら…」
『テンタクルレイ』を放ちつつ砕け散った結晶を掻い潜り肉薄する。
接近すればドレインの餌食になるのは目に見えて分かる筈だが、何か策があるのであろう。
それを理解していながら、アルシエルは退かず接近戦
へ移るため構えた。
リリス「『デスペラードクラッシャー』!」
アルシエル「ほう……」
アルシエルの眉が僅かに動いた。
紫色の波動を纏った拳がアルシエルの腕を弾き、胴体に直撃した。
鈍い音が聞こえると同時にアルシエルは真下へ落下するも、気力で体勢を立て直し再び身構えるも、同じように波動を纏った触手が追い討ちと言わんばかりに襲い掛かった。
一度銃を収め両腕を交差し触手を受け止めるも、威力を殺しきれず地面へと激突した。
アイリ「アルさん! まさか、吸収したことでベルゼブブの技を…」
リリス「思考する時間があるなんて、余裕ね」
狙いをアイリに変えたリリスは触手を伸ばす。
『シャインアウト』で触手を弾き飛ばし、『トリックアロー』を連射しながら接近する。
距離を取れば触手による攻撃に捕らわれるのならば、接近戦の方がまだ有利だと思考したが、ベルゼブブの技を発動可能となっているようで、下手をすれば力押しで負けてしまうかもしれない。
アイリ「四の五の言ってられない! 『アロービーム』!」
連射した『トリックアロー』の矢先から光線が放たれる。
四方八方から放たれる光の光線にリリスは回避に専念するも、ガーンデーヴァを精一杯の力で投擲したアイリの予想外の攻撃により完全に行動を崩された。
自身の戦闘の要となる武器を捨てる攻撃手段を取ってくるとは流石に想像出来ず、反射的に剣で防ぐが、その隙に光線が体に直撃した。
一発が直撃すると次の一撃、それが終われば次と、何発も立て続けに光の力を浴びた。
アイリ「もう一発いくよー!」
両手に光の矢を召喚し、リリスに向けて矢先を向けて飛翔する。
リリス「調子に乗るな小娘!」
『デスペラードクラッシャー』で力任せに光線を弾き飛ばし接近してくるアイリに向けて『ソウルティアー』を飛ばす。
アイリは受け止めるつもりで身構えるも、放たれたエネルギー弾は突如進行方向を変え、結晶の上に立つアルシエルの方へと向かっていった。
ドレインの能力を使用し、エネルギー弾を自分のいる場所に吸い寄せ誘導させたのだ。
アルシエル「…我が直々に囮となったのだ。 一撃を決めなければ…貴様を眷属にする」
アイリ「ありがとうアルさん!」
アルシエルに礼を告げたアイリは恐れることなく突貫する。
立ち塞がる脅威が減少したアイリはリリスの懐を目掛け両手に持つ光の矢を突き出す。
光の力により痛々しく傷が残る触手が壁の役割を果たそうと動き始めるも、真下から放たれた拡散する広範囲の電撃により動きを封じられた。
放った人物は勿論アルシエルで、片手で『ソウルティアー』を受け止め、片方の手にある愛用の銃から電撃を放っていた。
続け様に邪魔が入り、怒りを体現するかのように大きく振りかぶり剣を振るう。
振り下ろす直前、何者かにより剣を抑えられた。
上を向くと、振り下ろすことが出来ないよう剣を抑えていた、先程アイリが投擲したガーンデーヴァがそこにあった。
持ち主であるアイリを助力するために独りでに動いた、訳ではなく、アイリが念じるだけで操作可能となっている。
アイリ「いっけええええええええ!!」
空気を揺るがす雄叫びを上げ、力を込めた矢の突きがリリスの体に突き刺さる。
アイリ「これで終わり! 『アローエクスプロージョン』!」
矢から手を離し素早く離脱し、技名を叫ぶ。
瞬間、抵抗出来ぬままリリスは光の爆発に呑まれた。
恵梨花「……やったんでしょうか?」
アリス「恵梨花、それよくあるフラグだよ」
空中で咲き誇った光の爆発が起き、薄暗い周囲を仄かに照らす。
激しい攻防の末、一矢を報いたアイリは手元に舞い戻ってきたガーンデーヴァを手にしアルシエルの横へ降り立った。
アイリ「ふう…かなりダメージを与えられた筈なんだけど…」
アルシエル「奴め…弱点である光属性を浴びながら原型を保っているとはな…」
不快そうに目を細め見上げる先には、アイリの技を根気で耐え抜いたリリスがいた。
身に纏った衣服は破れ、肌が光により焼け焦げ、触手も傷だらけで垂れ下がり痛々しい姿となっている。
自分よりも遥かに若い元人間の少女に痛烈な一手を加えられたことが余程気に食わなかったのか、憤怒の念が充溢した目でアイリに睨みを利かせている。
リリス「天使の幼子にここまで力があるなんて…面白いわね」
艶然とは言えぬ、背筋を凍り付かせる不気味な笑みを浮かべる。
悪寒を感じ取ったアイリは身震いしながらも再度弓を構えた刹那、リリスが『ソウルティアー』を放ちながら急降下してきた。
戦力を余していたのか、最期の足掻きとアイリだけでも葬ろうと死力を注いでいるのか定かではないが、傷を負っているとは思えぬ動きと技の力量。
アイリ一人だと大きな痛手を負うことになるであろうが、隣に立つのは未知数の魔力を身に宿す魔王。
アルシエル「…寄るな、低俗」
穢らわしいものを見る目で、急襲に躊躇うこともなく『ドレイン』の能力を発動する。
宙に浮く結晶が見えない力により動き始め、リリスの前に立ち塞がる。
何重にも積み重なるように収集された結晶は一つの巨大な壁と化す。
力任せに突破することも可能だろうが、時間を浪費するのが関の山だと判断したリリスは回り込もうと旋回したが、叶わなかった。
後方から急接近してきた一回り巨大な結晶が接近し、リリスのすらりとした細身の体へと衝突したからだ。
身を預ける形となったリリスは壁と化した結晶に潰されるように激突した。
石と石が衝突し合う鈍く重い音とは異なり、分厚い硝子が粉砕する耳を塞ぎたくなる破壊音。
大小様々な大きさへと砕け散った結晶が重力に従うことなく宙を漂い、数秒の沈黙が訪れる。
並大抵の攻撃で死ぬ筈がないと理解できているため、再度仕掛けてくる時のために構え、緊張が走る。
リリス「惜しかったわね…悪くはなかったわ」
リリスを押し潰し積み重なっていた結晶が突如弾け飛んだ。
大量に飛散し降り注ぐ結晶の礫から身を守るためアイリとアルシエルはバリアを張り防御に徹する。
礫の雨が弱くなった隙を見逃さず、バリアを解除したアルシエルは地を蹴り礫が届かない場所まで移動した。
気配を察知しリリスの場所を特定し、砲身を向け引き金を引く。
銃口から魔力を纏った銃弾が放たれ、結晶の硬度を無視してリリスの元へと突き進んでいく。
リリス「可能であれば使いたくなかったんだけど…『アブソリュート・インバージョン』」
他者に聞こえることはない、独り言に近い小声で呟く。
すると、空気を斬り裂き迫り来る弾丸は進行方向が突如反転し、アルシエルの元へと突き進む。
アルシエル「ぐっ………!?」
予想だにしない反撃に対応仕切れなかったアルシエルは自身が射った弾丸の餌食となった。
強固な装甲を貫き、アルシエルの体を突き破り地面へと着弾し、地面を大きく抉る。
幸いにも心臓を避けてはいたものの、命中した胸元からは鮮血が溢れ出しており、流石のアルシエルも急激な痛みに顔を歪めている。
アイリ「アルさん!?」
状況の理解に追い付かないアイリはアルシエルの元まで駆け寄り、これ以上被害が及ばぬよう弓を構える。
バリアを張り結晶に押し潰されずに済んでいたリリスは、高速で再生させた触手を伸ばし光線を放とうと構えていた。
次なる一手に備えアイリは矢を番えようとした直後、アイリの後方から何者かが飛び出しリリスの元へ飛翔した。
目で追えぬ速度で飛び出したのは漆黒の影にしか見えなかったが、アイリには誰なのか直ぐに分かり安堵した。
アイリの良く知る人物、リョウだった。
リョウ「『ダンシングソードカッター』!」
剣を振るうと三日月型の斬撃が四方八方に飛び散り、回復したばかりの触手を斬り裂いていく。
リリス「あら、お久し振りね『世界の監視者』。 また私に剣を刺され醜態を晒しに来たのかしら?」
リョウ「轍を踏むつもりはない!」
鬼気迫る勢いで剣を振るい、勢いを付けたまま右足からジェットを噴射させ蹴りを放つ。
リリスの持つ剣は弾かれると同時に金属製の足による一蹴によりへし折られた。
リョウ「これで、終わりじゃ!」
足からジェットを逆噴射させ勢いを付けた一振りで唾棄すべきリリスの剣を持つ繊手を斬り飛ばす。
純白の血液が宙を舞い、顔に付着ことすら気にせずリョウは続け様に剣を振るう。
弊害となる悪しき存在ならば容赦なく牙を向けるその姿は、狂気を撒き散らす殺人者と言われても何ら不思議ではない。
常人なら震え上がり身動き一つ取れない程に戦慄するのであろうが、邪悪な存在であるリリスには効果がなく、臆することなく追撃を回避し残された左手でリョウの剣を持つ腕を鷲掴む。
リョウ「自分で接近してくれるとはありがたいわ」
主な武器の使用を封じられることは、リョウにとっては然程重要なことではない。
ただ相手に攻撃を与えられれば何でも良いから。
左手でリリスの首を掴み、自身の元へと近付けると、頭を大きく後ろへ振りかぶりリリスの額目掛けて頭突きを食らわせた。
野性味溢れる出鱈目で無鉄砲な攻撃に唖然とするアイリの目線を余所に、リョウの度を超えた猛攻は続く。
白から黒、黒から白に変化し火花が散る視界を見ながらも、リリスは根性で一本の触手を再生させ、先端から『テンタクルレイ』をリョウの顔面に目掛け放った。
未だに秘めたるあの力を使用すれば極細の光線など恐れるに足らないのだろうが、可能な限り使用しないことをアレク達と約束したので、無闇に発動したりはしない。
体を大きく後方へ反らし回避に専念したが、それだけで終わらせるつもりは毛頭ない。
後方へ飛び退きながらも自身の剣を勢い良く投擲した。
自身の武器を捨て去る、先程行ったアイリと同等の攻撃を二度も食らうことはなく、触手で凪払った。
リリス「残念ね、似たような技はさっき見たのよ」
言葉を言い終えた直後、銃声が轟いた。
アルシエルのものではなく、リョウが愛用しているただの拳銃によるもの。
懐から出した小型拳銃の小さな銃口から射ち出された銀の弾丸はリリスの頬を掠めた。
リョウ「ちっ、外したか」
リリス「昔から剣の腕も銃の腕も中途半端で、現在力が半減されているあなたじゃ、この私を倒すことなんて不可能よ」
事実を述べられたのか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたリョウから十分な距離を保つ。
リリス「分が悪いし今回は退くわ。 取り敢えず目的は達成できたわけだし。 アイリを逃すのは惜しいけど…また別の目的に使えるかもしれないから、生かしといてあげるわ」
リョウ「貴様の目的は何や? ベルゼブブを死滅させただけやなく吸収し、悪魔族の首領であるサタンの身も案じず安閑としているようにも見える余裕。 ルシファーと手を組んでいる訳でもない。 …何が目的で動いている?」
リリス「さあ、何でしょうね。 もし目的があったとして、私が易々と喋るとでも?」
リョウ「まあ話したところで詭弁だけだろうな。 兎に角良からぬことだけなのは確かやろうから、無理矢理にでも吐かせてやる」
リリス「死んでも言わないわ。 私の思う通りになるまでは…昔からの願望を叶えるために、またあなた達に邪魔をされるわけにはいかない」
リョウ「昔からの願望…?」
リリス「あら、喋りすぎたわね。 それじゃ、さようなら」
リョウ「な、待て!!」
銃の引き金を引いたが、リョウやアリスがこの場にいて損傷も激しい不利な状況で危急存亡の秋を迎えても可笑しくはないリリスは既に黒い霧の中に隠れその場から逃げ去っており、発射された弾丸は虚しく空を切った。
リョウ「逃がしてしもうたか…さっきの『また』ってのはどういう…?」
恵梨花「アルさん!」
リリスの言葉に違和感を覚え思考していたが、恵梨花の声により遮られた。
アルシエルが負傷した直後から駆け寄りたかったが、アリスが必死に抑えていた。
鮮血を流し膝を着く姿を見て居ても立ってもいられず、危機が去ったと確信した直後、直ぐ様恵梨花は駆け寄った。
応急処置するための道具もなく、治癒魔法を使用することも出来ない。
何か出来るわけでもなかったが、眷属という立場にも関わらず何時でも側に居続け危険が迫れば身を挺して守ってくれる、掛け替えのない人を心配し側に寄り添う。
恵梨花「アルさん! 生きてますか!?」
アルシエル「たわけ、この程度で我が死ぬものか」
恵梨花「よかった…心配したじゃないですか」
アルシエル「…その煩慮の思いは受け取っておこう」
アリス「素直に心配してくれてありがとうって言えばいいのに。 ここに本音ロボットがあればおもしろいのに」
アルシエル「…口を慎め、アリス」
アリス「え、ちょ、ぎゃあああああああああああ!? アルさん!? 私の力奪わないでーーーー!!」
アルシエル「減るものではないだろう」
アリス「そりゃそうかもだけどやめてってこの感覚好きじゃないんだって!! 助けてライダー!!」
無限と呼べる数の世界が存在するが、恐らくこの魔王は比較的大人しい部類に当てはまるのだろうが、実力は上位に位置するのだろう。
アリスを圧倒できるあたり、そう断言せざるを得ない。
絶叫するアリスからは魔力なのだろうか、オーラのような光が出ており、アルシエルの手中へと収まっていく。
アイリ「リョウ君、助けに来てくれてありがとね」
リョウ「遅くなって悪かったね。 現実世界には行けない事情があったんよ。 怪我は…なさそうやな」
アイリ「アリスちゃん達のおかげで怪我なんて一つもしてないよ」
リョウ「そうか。 すまんアリス、アルシエル。 感謝するよ」
アリス「リョウは現実世界に踏み込めないんだし仕方ないよ。 守ってあげたお礼としてカプセルコーポレーション買い取って私に頂戴♪」
リョウ「あげません!(ウ○娘並感)」
恵梨花「アリスさんお話してないでアルさんに治癒魔法掛けてくださいよ」
アリス「おっと失敬。 『ヒーリングオアシス』」
淡い光がアルシエルのいる場所を包み込む。
暖かな光は傷口を塞いでいき、何事もなかったかのような状態にまで回復を遂げた。
アリス「魔力吸われて疲労困憊なのに重労働を強いられるなんて、二人とも酷いよ」
アルシエル「酷くて結構だ。 我は、魔王だからな」
恵梨花「私は魔王の眷属なので♪」
アイリ「流石…なのかな? ハ○ラルの魔王や仮○ライダーの魔王よりはマシだと思うけどね」
アルシエル「…あの悪魔の目的が何か、非常に興味があるが、その役目はリョウ達に信任する」
リョウ「恵梨花ちゃんのレッスンの時間か?」
アルシエル「ああ。 我としては音楽というものに関心はないのだが、世界の均衡を保つためにも繋がるのであれば…致し方ない」
アイリ「レッスン?」
恵梨花「あ、言ってませんでしたね。 私、アルさんの眷属であり、ディーバをやらせてもらってます。 そしてアルさんは私のディーバナイトを勤めてます」
アイリ「………えぇーっ!! (マスオ)」
アリス「なんだって! それは本当かい!?」
リョウ「お前は知ってるじゃろうが」
アイリ「スーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルヤヴァイね! これであたしはディーバの全員に会えることが出来たんだ! ラミエル君に自慢しとこ。 ってか、アルさんの眷属なのに守られる側なんだね」
リョウ「面白いことに、ディーバという立ち位置にあるから眷属を命懸けで護衛しなきゃならんのんよね」
恵梨花「他の魔王だと絶対率先して守護することをしてくれないのに、アルさんは少し愚痴を溢しつつもディーバナイトを勤めてくれてます。 私の自慢の魔王です♪」
アルシエル「…時間厳守だ。 行くぞ恵梨花」
話の輪に入らず耳を傾けていなかったアルシエルは痺れを切らしたのか、ワームホールを出現させ待っていた。
恵梨花「は~い。 皆さん、色々とありがとうございました。 僅かな時間でしたけど凄く楽しい一時を過ごすことができました」
アイリ「こちらこそありがとう! ライブがある時は絶対見に行くからね!」
恵梨花「はい、是非来てください。 では、また会いましょうね!」
控えめに手を振り、別れの挨拶を告げず歩みを進めるアルシエルと共にワームホールへ入っていった。
アイリ「あたし達はどうしよっか?」
リョウ「兎に角、一旦天界に戻ろう。 それからわしはリリスの動きを偵察してみる。 早く対処しないといけない気がする…」
アイリ「あたしは帰って…取り敢えず待機になるのかな? 冥府界の現状も、ルシファーの居場所も分かっていないし」
リョウ「そうなるやろうな。 アリスはどないするん?」
アリス「私は現実世界に戻ってアニメイトに行ってくる!」
アイリ「あ、いいなー! あたしも連れてって!」
アリス「いいですとも!」
リョウ「……緊張感の欠片も無いな。 ある意味羨ましいがね。 じゃあアリス、終わったらちゃんとアイリを天界に届けてよ。 天国に一番近い島とか変な場所に連れて行ったら蜂の巣にするからな」
アリス「きゃーこわーい(棒読み)」
リョウ「返事は?」
アリス「イエス、ユア・マジェスティ」
リョウ「よろしい。 ほな、また後でな」
リョウはベルゼブブから解放された天使を担ぎ、足早に召喚したワールドゲートに入りその場から去っていき、アイリとアリスも胸踊らせながら現実世界へと戻っていった。
~~~~~
アイリ達が立ち去り、数分は経過しただろうか。
戦闘が行われていたとは思えない程にまで静寂が訪れた。
亜空流か吹き荒れる気配の無い静寂に包まれた空間に、黒い霧が周囲に立ち込める。
霧を払い除け姿を見せたのは、リリスだった。
アイリ達が去るまで姿を眩まし待ち続け、タイミングを見計らい姿を現した。
だが先程の戦闘がまるで無かったかのように傷が消えており、痛々しく傷付き切断されていた触手も再生されていた。
リリス「刻苦精進して生きてきたつもりなのだけど…やはりあいつらは手強いわね。 昔から変わらない…忌々しい。 思い出すだけで怒りが募るわ」
怒りの炎を灯した瞳には亜空間が映っているが、リリスが見ているのは別のもの。
過去に自身が味わった屈辱。
リョウやアルシエルやアリスを含んだ10人の人物による、巧妙に練り上げた策略の妨害が映写機の様に脳内に映し出される。
禍々しい己の失態を認めたくないのか、疼痛を堪え忍ぶかの様に歯を食い縛る。
リリス「…まあ、事は順調に順調に進んでいるし、私の力も大分蓄えられている。 急いては事を仕損じるとも言うし、丁寧に逐一推進していくとするわ。 ああ…長年の宿願が成就すると思うと、楽しみで仕方がないわ…」
未来で起こり得る目的が現実になると思うと、恍惚な笑みを隠せなかった。
リリス「邪魔なユグドラシルメシアが未だ現存しているのは致し方ないわね。 さっきの悪魔の力を吸収したことで新たな力を得ると共に力を蓄えられた…もう少し時間が経てば、私は完全復活を遂げる。 そのためにも…あのピースハーモニアの女をもう少し焚き付けないといけないわね」
黒よりもどす黒い邪悪な笑みを浮かべ、リリスは虚空に黒い霧を生み出し、紛れるように消えていった。
自らの野望を達成するために、人知れず邁進していく。
リリスが口走った言葉の違和感に、あの時リョウは直ぐ様にでも気付くべきだった。
他の企みで動くルシファーとは比較にならない脅威が迫っていることに。
アリスやアレクでさえも手を焼くような、全世界が戦く、過剰という言葉が釣り合わない程の脅威が。
もっと書く頻度を増やさなければ…