世界英雄譚   作:仮面ピコ

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生きてる間にこの小説を完結できる気がしない…


第70話 悪魔掃滅任務

亜空間での戦闘を終えたリョウは一度天界へと帰還した。

エーリヴァーガルでの戦闘を終えたピコとラミエルとウリエルもシェオルに帰還していた。

 

ピコの派手な攻撃により岩肌が削れエーリヴァーガルの美麗な川が埋め立てられそうになったが、その一撃により悪魔達は一掃されたと上層部に報告されていた。

リョウも事の顛末を報告しようとしたのだが、全体の内容を知る余地もないので、リリスが生存していた事と、個人的な野望のため独断で行動している事しか出来ない。

全容を知るアイリとアリスが天界へと戻ってくるのを待つしかないため、報告は追々行うこととなった。

 

二人の帰還を待つ間に、リョウは一度家に戻り、自室でリリスの行方を探ることにした。

家に入ると、シャティエルが憂虞な面持ちで出迎えていた。

 

シャティエル「おかえりなさい、リョウさん。 御無事で何よりです。 あの、アイリさんは…」

 

リョウ「アリスと一緒に現実世界へ娯楽を楽しみに戻ったよ。 少ししたら帰ってくると思うで」

 

シャティエル「アイリさんも御無事なんですね。 良かったです。 負傷していると想見してしまって、私にも何か出来ることはないかと考案していました」

 

リョウ「心配してくれてありがとうな、シャティエル」

 

アイリの無事である事実を聞き、胸を撫で下ろした。

シャティエルの温厚篤実な性格を見ると、出会った頃より感情が豊かになったのだなと改めて実感させられ、思わず頬が緩んでしまう。

 

リョウ「タクトとレアはもう帰ったん?」

 

シャティエル「はい。 マナさんを連れユグドラシルの警護に戻ると仰っていました」

 

?「入れ替わりになりますが、お邪魔しております」

 

リビングの扉を開け出てきたのは、時空防衛局の最高経営責任者、ユンナ。

何故彼女がここに赴いているのか理由は分からないが、お茶会を開きに来たわけではないのは明らか。

 

リョウ「ユンナ、どないしたん?」

 

ユンナ「色々と話すことがありますわ。 時間はありますわよね?」

 

リョウ「勿論。 話を聞こうか」

 

リリスの捜索を行おうと思っていたが、後回しにすることにし、ユンナの話を伺うことを優先する。

シャティエルと共にリビングに入ると、来客は彼女だけではないことが分かる。

 

橙色の長髪を金色の髪留めで留めポニーテールにし、眼鏡を掛けている凛々しい雰囲気を漂わせる天使がいた。

彼女は四大天使の一人、ミカエル。

眼鏡を手でくいくいと上げ、リョウを見るなり嫌悪感に満ちた目で睨む。

 

ミカエル「来ましたね、世界の監視者。 あなたと面会するのは可能な限り控えたいので、手短にお願いします」

 

リョウ「あいよ了解。 でもさっきから抑えるつもりもない殺気を引っ込めてくれたらありがたいんやけど?」

 

ミカエル「何故ですか? あなたは蛮族、犯罪者に分類されます。 軽挙妄動を起こしかねない危険人物を前にして、警戒しない方が無理な話ですよ。 正直、可能であれば悪魔よりも先ずあなたの存在を消し去りたいですね」

 

シャティエル「あなたもリョウさんの過去をご存知のようですが、リョウさんを蔑むのはやめてください」

 

ミカエル「フサキノ研究所を管理していたエンジェロイドですね。 あなたも過去の遺物とは言え、世界の監視者の過去を知らないのであれば口を挟まないでください」

 

シャティエル「過去に犯した罪を償っているから、リョウさんは現在私達と交流を図れているのではないのですか?」

 

ミカエル「あらゆる世界を蹂躙したこの人に、どれだけの罪を償っても償いきれはしません。 全世界を脅かす大罪人を受け入れるなど到底できません。 こんな大罪人を野放しにしている時空防衛局に疑義を抱いてますし」

 

ユンナ「我々時空防衛局の幹部とユグドラシルメシアが会議をし、出し合った意見を折衷した結果、世界の監視者としての務めを果たすことに尽力を注ぐことを条件にある程度の自由な行動を承認しているのですわよ。 何年も前に許諾を得ているにも関わらず、未だに納得いきませんの?」

 

ミカエル「あなた方の案を受諾した覚えはありません。 この大罪人を我々では葬ることが不可能なのであなた方に放任するしかないというだけです」

 

シャティエル「ならば、ユンナさんに委任しても良いではないでしょうか? リョウさんがどのような罪を犯したかは存じませんが、時空防衛局の最高責任者であるユンナさんが一任なさっているのであれば問題ないと思います」

 

ミカエル「……無知なことは、確かに罪ですね。 あなたはこの男の危険度を認知していないからそのような発言ができるのです」

 

無知という言葉にシャティエルは打ちのめされる感覚に陥る。

 

何も知らないというだけで、罪なのか?

何故自分は何も知らないのか?

何故自分には話してもらえないのか?

 

リョウとは親密な仲にあると自負しているつもりだったが、思い過ごしだったのかと錯覚してしまう。

シャティエルの沈んだ表情を見逃さなかったリョウは近付き、弱々しく垂れ下がった手を優しく握る。

 

リョウ「すまないシャティエル。 まだわしはシャティエルに話せていない、秘密にしている事が幾つもある」

 

シャティエル「………はい」

 

リョウ「例え親密な関係になれたとしても、他人に漏らすことのできないことが、誰にでもあるもんなんよ。 時が来たら話せることもある。 だから、時が来るまで待っていてくれへんか?」

 

シャティエル「…リョウさんにも何か事情があるのですね。 分かりました、私は待ちます。 いつかリョウさんが話してくれる時が来るまで」

 

リョウ「ありがとうシャティエル」

 

納得できたかと言えば嘘になる。

 

誰にでも話せない、深刻で陰気な話はあるのだろう。

シャティエル自身、心を持った日から、心があるということに気付けず数百年の時を研究所という孤独の檻の中で過ごしたという、端から聞けば気が遠くなるような壮絶な過去がある。

リョウの場合は何か過去に過ちを犯したというものだろうが、シャティエルの話と同様で、聞いていて機嫌が良くなるような話ではない。

 

形では納得しているが、リョウの過去が気になっており、心には厚い雲が覆ったかのような蟠りが残ったままで話は終わることとなった。

 

リョウ「それで、どんな用件なん?」

 

ユンナ「以前アリスさんと戦闘を行ったヴィラド・ディアについてですわ」

 

リョウ「何か進展があったん?」

 

席に着いたリョウは世界を危機に脅かす存在の情報に興味を示し、無意識に前屈みになる。

何百年と渡り、未だ謎の多い存在。

新たな情報は喉から手が出るほど欲しい。

 

ユンナ「別の個体の出現…起こり得なかった前例に耳を疑いましたが、確かに事実のようでしたわ。 とある世界に任務に向かわせていた局員の数名が、ヴィラド・ディアと接触したという報告がありましたわ。 異世界で同時刻に存在が視認されていることと、体格や形状が異なる個体もいるようなので、別個体なのは明らか」

 

リョウ「この数百年、そんな事例はなかったのに…何故?」

 

ユンナ「それは未だ解明できていませんの。 あれがどのように繁殖しているか見当もつきませんから。 ただ、時空を歪ませ異世界へ移動する手法をするあたり、奴等の寝床となる場所は、未だ謎が多く解明仕切れていない亜空間にあると推測しておりますわ」

 

リョウ「宇宙空間並みに無限に広がる場所やから、可能性としては有り得そうやな」

 

ユンナ「私達時空防衛局の者も寝る間も惜しむ覚悟で調査しておりますが、大した進展がなく滞っているのが現状ですわ。 そこで…」

 

リョウ「監視者であるわしの力を借りたい、と」

 

ユンナ「はい、その通りです。 忸怩たる思いですが、あなたの力をお借りしたいのです」

 

リョウ「断る理由はない。 あの化け物を葬らない限り、世界に安息は訪れないやろうからね」

 

ミカエル「どの口が言っているのでしょうか」

 

リョウ「…わしが消えるものなら、消えたいものやけどねえ」

 

嫌味な一言を述べるミカエルを怒りと悲しみが籠った瞳で一睨する。

自分が忌むべき存在であるのは重々承知しているが、人と対話している最中に誹謗し話の腰を折られると怒りが沸々と湧いてしまう。

 

リョウ「ヴィラド・ディアの捜索は後で行うわ。 亜空間も捜索範囲に加えるとなると如何せん時間が掛かるからのう」

 

ユンナ「御助力に感謝致しますわ」

 

リョウ「大事な仲間の頼みや。 当然や」

 

ミカエル「其方の話が終わったのならば、私の話を聞いてもらいます」

 

リョウ「はいよ。 大方何かは分かっとるけど」

 

ミカエル「では手短に済みそうですね。 突如反乱を起こしたルシファーの件です。 どういった目的で反逆したのか意図は不明ですが、我々にとって好都合な結果となりました。 しかし、悪魔が天界のみならず、あらゆる世界へ逃げ伏せている状況となってしまっているのです」

 

リョウ「まさか、わしに悪魔の殲滅を協力しろと?」

 

ミカエル「ええ、その通りです。 我々天使は統率の取れていない冥界へ攻め込もうと戦力を整えており人員を割いており、対処に負われているので」

 

リョウ「それは天界で起きた問題よね? 幾ら何でもそれは都合が良すぎんか?」

 

シャティエル「あなたは先程までリョウさんを悪口雑言を浴びせたにも関わらず、協力するよう案を出すのですか?」 

 

ミカエルの発言に我慢の限界を超えたのか、シャティエルはリョウの隣に立ち強い口調で意見する。

 

ミカエル「世界の監視者、あなたには協力してもらう義務があります。 我々に無許可で天界に住み着き、天界で起きた様々な出来事に関わった。 ルシファーが光の剣を入手した時も、あなたは関わっていましたよね? その光の剣を使用しての、今回の反乱が起こされたのです。 最早無関係とは言える立場ではありません」

 

ユンナ「あなたの意見はごもっともだと思います。 ですが、私怨を交えての意見だと、私は思いますの。 違いまして?」

 

ミカエル「私怨? 仕事にそのようなものは持ち込みはしません。 大体、世界になるべく関わりを持たないようにし、その世界に起きる出来事に関与しないようしている割には、世界を救うために奮闘している。 矛盾していると思いませんか?関与しないようにするのであれば、元より世界に立ち入らず、誰とも関係を築かず隠居していればいいんですよ」

 

リョウ「そうやな。 その通りやな。 でも、世界を少しでもより良い方向に進めるには、多少は人と関わることになるんよ」

 

ミカエル「一人で行動するのは慣れているでしょう? 以前あらゆる世界の者から拒絶させられていたようなら、問題ないと思いますよ」

 

ユンナ「ミカエルさん! あなたという人は…!」

 

言葉をぶつけられている本人であるリョウは至って冷静だったが、端から聞いていたユンナが黙ってはいられなかった。

遠慮のない不躾な発言を繰り返すミカエルの胸倉を掴む勢いで踏み出すも、リョウが片手を上げ制した。

 

リョウ「争ったってミカエルの意見は変わりはせえへんよ。武力で解決して心意を変化させたところで、それは偽りのものでしかないんやから。 でも、わしのために怒ってくれたことには感謝するよ」

 

ユンナ「……リョウさんが許すと申すのなら、私は何も申し上げません。 ですがミカエルさん、あなたからはあからさまに私怨を感じ取れます。 リョウさんの過去に犯した事は決して許されるものではありません。 しかし、彼も加害者であり最大の被害者であることもお忘れなきよう」

 

釈然としないまま、ユンナは渋々と言った表情で引き下がった。

もしリョウが仲裁に入らなければ、ミカエルの首が跳ねるのは明確だった。

余計な不祥事を起こさないためでもあるが、何よりユンナと時空防衛局に泥を塗るような事態は避けたかった。

 

ミカエルは未だに敵対心を露にしつつリョウに視線を移す。

 

ミカエル「兎に角、あなたには否が応でも悪魔の残党の処理をしてもらいます。 ガブリエルとラファエルは兎も角、ウリエルは快く私の意見に賛同してくださいましたから、よろしくお願いしますね、世界の監視者」

 

リョウに責任を押し当てるような台詞を吐き捨て、足早に部屋を退出した。

玄関の扉を閉める音が聞こえた後、リョウは力なく吐息を漏らした。

同じく着席していたユンナも同じように息を漏らした。

 

ユンナ「申し訳ありませんリョウさん。 あなたを厭悪する人を容易く家に招き入れてしまって」

 

リョウ「かまわんよ。 もう慣れっこやから」

 

ユンナ「可能であれば、このような不快なことに慣れてほしくはないですわ…」

 

俯き弱々しく放たれる言葉は悲しみに満ちている。

威厳ある彼女らしくない素振りを紛らすかのようにリョウは立ち上がり手と手を合わせ鳴らした。

 

リョウ「しゃーない、やりますか。 アイリに余計な心配を掛けることにもなりかねんし」

 

シャティエル「リョウさん、私で良ければ微力ではありますが、助力させてください」

 

リョウ「気持ちだけ受け取っておくよ。 これはわしの問題やから、シャティエルを巻き込むわけにはいかへんから」

 

シャティエル「…リョウさんは、私の大切な仲間です。 それと同時に…一つ屋根の下で過ごす家族、と呼べるものだと思っています」

 

リョウ「………」

 

シャティエル「私には、血筋と呼べる存在がいないため、家族というものがどのようなものなのか完全に理解できてはいません。 ですが、危険が迫る時、助けが必要である時に、拒むことなく共に支え合えるものだと…書物を見て思ったのです」

 

リョウ「家族、か…。 そう思ってくれるだけでも嬉しいよ。 でも、だからこそシャティエルには残ってほしいんよ。 可能な限り、傷付けたくなんてないんよ」

 

シャティエル「私も、リョウさんには傷付いてほしくはありません。 リョウさんの苦しむ姿を、私のレンズに映したくはないのです。脳内フォルダに、残したくないのです。 今現在も、リョウさんは苦しんでいる。 ですから助力したいのです」

 

リョウ「今現在も?」

 

シャティエル「ミカエルさんの厳しい言葉を浴びせられていたリョウさんは、悲しい表情をしていました」

 

高性能な機械故に、観察眼が鋭いと感心する。

機械だから人の表情を読み取るのは造作もない、とは言い切れない。

心というものがなければ、態々表情を読み取るような行為や、悲しげにしていたという事を伝えたりするようなことはしない。

細かな点を掬い上げ指摘してくれたのは、まごうことなき彼女の優しき心だろう。

 

リョウ「そうか…隠していたつもりやけど、誤魔化せてはいないみたいやなあ。 ……じゃあ、今回は甘えさせてもらおうかな。 シャティエル、わしの私用で申し訳ないんやけど、協力してもらえへんか?」

 

シャティエル「っ! はい、喜んで」

 

リョウ「でも、自身の危機を察知したら即座に退却してな」

 

同行の許可を貰え、シャティエルは屈託のない穏やかな笑みを浮かべた。

 

ユンナ「時空防衛局も協力致しますわ。 悪魔と無縁の世界に紛れ込まれると厄介極まりませんし、時空防衛局の威信に関わりかねませんし」

 

リョウ「すまん、ご苦労じゃが頼む」

 

ユンナ「困った時はお互い様ですわ。 ヴィラド・ディアの討伐の殲滅の件も携わってくれてるんですから、当然ですわ」

 

リョウ「ヴィラド・ディアとエクリプス関連なら、時空防衛局に限らず一般人の頼みだろうが快く殲滅の依頼を引き受けるよ」

 

忌々しい存在が脳裏を過るだけで自身の内で膨れ上がる憎悪の念が表情に露出しないよう抑え込み、今から討つべき悪魔へと八つ当たり感覚でぶつけてやろうと思いつつ、監視者の力を行使するため集中する。

監視者の力を使用する姿を見るシャティエルは、突然瞑目し口を開かなくなり沈黙を保つリョウを興味深げに見つめている。

 

ユンナ「シャティエルさん、御心配には及びませんことよ。 リョウさんは監視者の能力を行使し、悪魔達が何処に潜伏しているか捜索している最中ですから」

 

シャティエル「監視者の能力と言うのは、無限にあるとされるあらゆる世界を見渡せるというもの…でしたよね?」

 

ユンナ「簡潔に言えばそうですわね。 世界の監視者としてフォオン様に選抜された、リョウさんにしか使用できない能力ですわ」

 

シャティエル「……リョウさんは凄いお方だったのですね。 生半可な気持ちでは成し遂げられないことをなさっているのですね」

 

リョウ「…見つけたで。 行きますか」

 

二人が監視者の能力について話していると、悪魔のいる世界を特定したリョウが目をゆっくりと開けた。

立ち上がると同時にワールドゲートを召喚した。

今すぐにでも向かおうと意味を示しているのは明瞭で、シャティエルとユンナも立ち上がる。

 

ユンナ「まだ時間が有り余っていますので、今回は私も助力しますわ」

 

リョウ「助かるよ。 …そういや、カイの姿が見当たらんみたいやけど?」

 

戦地へ赴こうとしたが、家がやけに静かだったことに違和感を覚えた。

帰宅すれば必ずと言っていいほど出迎えに来てくれた、純粋無垢なカイの姿がなかったことに気付きシャティエルに尋ねた。

 

シャティエル「カイさんなら部屋で睡眠を取っています。 きっと遊び疲れたのでしょう」

 

リョウ「成る程、道理で静かなわけやわ。 ピコかアイリも直に戻るやろうから、そっとしといてええやろ。 んじゃ、行くか」

 

異世界に影響が出ないためにも、残る悪魔を殲滅するため光の扉を潜る。

 

その後、リョウはカイを家に残し、この時自分が成せる最善だと思い尽くした行動に悔いることとなる。

シャティエルの共に行動するという意見を圧し殺し家に待機させるか、アイリとピコが帰宅するまで待てば良かった、と。

 

大惨事へと繋がる運命の歯車は、人知れず回り始めていた。




皆さん熱中症には気を付けましょう!

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