ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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最近友達と行った居酒屋で鶏のささみを食べたんですけど、それがあたってしまったようで胃腸炎を起こしたせいで死にそうになってました。

皆さんも生物には気を付けましょう。


第74話 悪魔はふたたび

シャティエル「アイリさん! 御無事で良かったです…!」 

 

アイリ「シャティ! 心配掛けてごめんね!」

 

アイリとリョウ、リベリオンはワールドゲートを通り、先に悪魔の殲滅に向け行動を開始していたユンナとシャティエルと合流を果たした。

 

シャティエルはアイリが自分が無事であることを確認するかのように優しく抱擁し、アイリも抱き締め返すことで無事であることを示した。

離れていた時間は数時間程度だが、それでも大切な仲間に危害が無く帰還し再開できたことに愉悦した。

 

リベリオン「ほう…時空防衛局の領袖もいるのね」

 

ユンナ「あなたは、デスピアのピースハーモニアですね。 リョウさん、どういう経緯で彼女と同行しているんですの?」

 

リョウ「目的地に向かいながら説明する」

 

この場にいる筈のない、ピースハーモニアの中でも調和を乱そうとする危険分子の内の一人が同伴していれば、警戒するのは無理もないだろう。

刹那に襲撃されても対応できるよう愛用の槍に手が伸びており、猜疑心に満ちた瞳でリベリオンを見据えている。

 

害が無いことと、何故リベリオンと行動を共にしているとこを説明したが、ユンナの表情は険しいままだった。

害を為すという問題の有無ではなく、時空防衛局の許可もなく異世界を彷徨っていることに問題があった。

 

原則として、自分が産まれ育った世界から目的もなく出ることは禁止とされている。

先刻、ベルゼブブが天使に憑依し現実世界に行った事例のように、その世界に存在しない種族、技術が紛れ込むと、多大な混乱を招くことになりかねない。

その世界のテクノロジーでは太刀打ち出来ず訪れた異世界人に世界を滅ぼされる可能性もあれば、異世界の技術が偶然にもその世界の巨大な会社、悪の組織の手に渡れば、異世界の技術によりその世界の文明が大きく変化するだけでなく、技術を手にした者達の手により征服される可能性も考えうる。

世界一つのバランスを保つためにも、自分の住まう世界からの他出、異世界からの侵入の防止、時空の歪みにより迷い込んだ者を元居た世界に送還するのも時空防衛局の多量な仕事の内の一つだ。

 

リベリオンはリョウのように時空の歪みに巻き込まれ異世界に迷い込んだのではなく、己の意思で異世界を渡り歩いているので、時空防衛局が定めた規則を破っているため、処罰の対象になる。

時空防衛局を束ねる者として、遵法精神が高いユンナが見境もなく闇の力を行使する危険人物を看過する筈もなく、アイリの提案した自由の身にする条件を出す間もなく同伴する時点で首を縦に振らないのであれば、条件を案出し強請したところで首肯されるわけがない。

 

ユンナ「リョウさんの頼みでも了承するのは難儀ですが、今回の件に関しては人手不足なので、協力している間までは目を瞑ることに致しますわ。 終わり次第、彼女を元の世界に送還します」

 

リョウ「流石に自由の身にするのは危険過ぎるもんな…。 自業自得とは言え、元の世界に戻ればリベリオンはディムオーツに罰を受けてしまうんやろうな」

 

敵とは言え、どうやら長年の付き合いがあるであろうリョウはリベリオンの身を案じているようで、脳内で彼女が善良に対処される方法を模索している。

 

ユンナ「彼女の世界の問題なので、わたくし達が関与する必要は皆無です。 あなたも理解していますよね?」

 

リョウ「勿論、嫌ってほどに」

 

ユンナ「……とは言っても、リョウさんならば如何なる方法を用いてでも問題を乗り越えてしまいそうですわね」

 

リョウ「よせや、わしはそんな大層な事が出来る偉大な人じゃない。 この力が無ければ誰も救うことも出来ない、落ちこぼれよ」

 

自分を卑下し捨て去るように言い放ち、どことなく寂寥感を漂わせるリョウは今いる世界の全貌を見渡す。

 

木々が一切生えていない、荒野が広がる渇ききった世界。

人が生存しているかすら怪しい、褐色が支配する風光明媚という言葉には程遠い世界の何処かに悪魔がいるのは監視者の能力により明瞭で、他の世界に移動される前にこの場で叩かなければならない。

 

リベリオン「それで、悪魔は何処にいるのかしら?」

 

リョウ「えらい積極的やな。 血に飢えてるんか?」

 

リベリオン「それもあるけれど、私の自由が掛かっているのよ。 嫌でも仕事を熟さなければならない」

 

ユンナ「リベリオンさん、申し訳ありませんが悪魔の殲滅が終了した後、あなたは元の世界に送還させてもらいます」

 

リベリオン「貴様の命令を聞くつもりもないし、規則だろうと法だろうと、私の知ったことではない。 アイリとリョウは私を自由にしてくれると約束した。 こいつ達の言質は取っている。 今はこいつ達の言葉を信じるだけよ」

 

規則や法の壁をも微塵に脅威とも思わない、アイリとリョウを憧憬の念が籠められた眼差しで交互に見ながら言った。

誰かを信頼するなど到底思えなかったが、リベリオンの待望する念が籠められた視線を見ると偽りではないのが分かる。

立場的に考えれば敵対する関係なのだが、一度共闘した仲ということもあり、浅慮だと承知で何故だか救済したいと思えてしまう。

血盟という大層なことをした訳ではないが、約束をした以上、元の世界に送還する事態を凌ぎたい思いが更に強まったアイリはリベリオンの視線に頷くことで答えた。

 

アイリ「さあ行こう! あたしもリベリオンもやる気は絶好調である! あたしのこの手が光って唸る! 悪魔を倒せと輝き叫ぶ!」

 

ユンナ「やる気は十分なですわね。 わたくしも負けてはいられませんわね。 それでリョウさん、悪魔はどちらにいますか?」

 

リベリオンの期待に応えたいアイリはリベリオンを庇護したかったのか、わざとらしく声を上げ話題を逸らした。

ユンナも意気揚々とするアイリに微笑ましく思い、彼女の期待に添えようと心の中で鼓舞し、今回の任務へと意気込む。

 

リョウの監視者の能力によると、悪魔達はこの場から約800メートル離れた地点で休息を取っていることが分かった。

数は約1000人と、先刻までいた終焉を迎えた世界の時の人数の倍以上の数で行動して自若いる。

自分達で対処出来るか怪しい人数なのは凡人から見ても明らかで、一つの軍隊を少人数で迎え撃つのは無謀とも言われても不思議ではない。

怖じ気付くのも無理はないだろうが、誰もそんな素振りを見せなかった。

アイリは仲間がいることにより自若としており、リョウとユンナに至ってはこの程度の数は微塵の問題もないと断言している。 

 

作戦は分かりやすく単純なもの。

先ず奇襲としてアイリとシャティエルの遠距離攻撃により陽動を行う。

悪魔に特効な光の攻撃と高威力の武器による砲撃を受ければ、悪魔兵はただでは済まない。

大抵の悪魔兵は葬れるが、今回の件はそれだけで終わるほど簡単ではなく、一筋縄にはいかない。

 

この世界に滞在する悪魔兵を率いているのは、サタンフォーの一人であるアンドロマリウス。

これ程までの悪魔兵が集団で行動していれば、指揮する者がいても不思議ではないとは言え、慮外な出来事に変わりはない。

しかし裏を返せば事の終息へと向かうチャンスでもある。

悪魔が住まう冥府界でルシファーは何故反逆行為に及んだのか、悪魔の首領であるサタンの行方、悪魔が異世界を彷徨っているのか、疑問に思う点を聞き出し、悪魔の幹部である一人を葬れる。

 

様々な謎が残る中での解決の糸口を手繰り寄せられた。

更なる問題を引き起こされる前に、必ずこの場で仕留めたいところ。

文明が栄えた世界で騒擾を起こされる前に、一体足りとも逃亡させず殲滅を行うのが大前提の戦いとなるため、目の前の肉薄する敵だけでなく視界を広げ戦闘を行わなければならないため、高い集中力を用いる。

転生をする要因とも言える因縁深いアンドロマリウスとの再戦に、流石のアイリもふざける素振りは見せておらず、表情は強張っている。

 

リョウ「大丈夫やアイリ。 今回はわし達もおるけえ。 自分を、仲間を信じて突き進め」

 

アイリ「……ありがとう、リョウ君」

 

肩に手を置かれ優しく言葉を投げ掛けられるだけでも、緊張が僅かに解れる。

 

飛行して向かえば素早く参着できるが、視界の妨げとなる岩や山々が連なっていない平地なため、発見される可能性が高いため、徒歩での移動となった。

乾燥した空気が肌を撫でるなか、リベリオンと並ぶように歩みを進めるシャティエルが不意に言葉を投げた。

 

シャティエル「心拍数、呼吸の乱れ具合、皮膚の温度等を感知したところ、先程の会話の中であなたは嘘をついていないと判断しました」

 

リベリオン「勝手に分析しないでほしいわね。 心配せずとも、アイリに手出ししたりはしない。 約束するわ」

 

シャティエル「約束…とは、契りを交わすことですか?」

 

リョウ「まあそうやな。 約束ってのは守らなきゃいけないもんや」

 

小声で密かに話しているわけではなかったので、話を聞いていたリョウが会話に入り込み、シャティエルに約束というものについて語り始めた。

 

シャティエル「守らなければ、どうなるのですか?」

 

リョウ「どうもなるわけやないけど、自分と相手を結ぶ、信頼を築くものだと思うんよね。 約束ってのは、信じる気持ちの表れやから、それを破るのは、信じてくれる気持ちを裏切ること…なんだと思う」

 

アイリ「おー、深イイね~」

 

シャティエル「互いを信頼出来ているからこそ、交わすことが可能なのですね」

 

リベリオン「やむを得ず守れない場合もあるから、あまり期待しないことね」

 

リョウ「最初から破る前提みたいやないか。 約束は破るためのものでもあるとか言い出しそうやな」

 

リベリオン「あら、読心術でもあるのかしら?」

 

ユンナ「リョウさんには無くとも、わたくしなら人の心を読むことは可能ですわ。 背信行為を行えば、問答無用で斬りつけるため、覚悟しておいてくださいませ」

 

警戒心が強いユンナは峻厳な態度で忠言を漏らすが、逆らったりする気がないのか、リベリオンは面倒そうに空返事した。

 

シャティエル「……では、私もアイリさん達に約束をしてもよろしいでしょうか?」

 

アイリ「え、何の約束?」

 

シャティエル「どのような過酷な状況下であっても、必ず無事に生き抜いて、私達の家に帰ってきてください。 アイリさんやリョウさんを失う未来を予測しただけでも、尋常ではない悲しみを感じてしまいます」

 

リョウ「…こりゃ、簡単には死ねないねえ」

 

アイリ「シャティエルの悲しむ姿なんて見たくないし、あたしも死ぬのはごめんだもん。 シャティエルの約束、絶対守るからね!」

 

十全十美な人間などこの世には存在しないだろう。

可能な限り、約束を破らないよう気を付けるしかないが、日常では有り得ない、命の危機が左右する境遇に置かれているアイリ達には意外と難しい。

力を行使し戦いの地に赴く以上、いつ命を落としても不思議ではない。

昵懇の仲と言っても、どれだけ切れることのない深い契りを交わしても、守り切れない場合が多いのが事実

だ。

 

殉ずるつもりは更々ないが、命を打ち捨てる事態にならないよう精進しなければならないと心の中で密かに誓った。

 

リベリオン「お喋りはそこまでにしときなさい。 恐れも知らぬ愚者の敵襲よ」

 

和らいでいた緊張の糸が再度張り直された。

邪悪な気配を感知したアイリがガーンデーヴァを召喚するよりも早く、リベリオンが愛用の鎌、ブラッディハントを手にし、縦横無尽に渇いた空気を斬り裂きながら振り回す。

金属がぶつかり合う甲高い音が響いたと思うと、地面に役割を終えた弓矢が虚しく地面へと落ちていった。

弓矢が落ちる音を合図に、全員が一斉に戦闘態勢に移った。

 

アイリ「向こうからおいでなすったみたいだね」

 

リョウ「流石アンドロマリウスやな。 もう嗅ぎ付けられたみたいや」

 

シャティエル「奇襲は叶いませんでしたが、私達に攻撃が隙が無い訳ではありません。 ここは私に任せてもらっても構いませんか?」

 

ユンナ「もちろん、構いませんわ。 お好きなようにしてくださいな」

 

先攻を行う承諾を受けたシャティエルは直ぐ様自身の武器を出すため魔方陣を周囲に展開させた。

 

シャティエル「敵の位置を特定完了。 『直下型バスターレーザー』、射出します」

 

遥か遠方まで視認可能な望遠レンズが搭載された目で悪魔の位置を瞬時に特定した。

円形型のレーザー射出ユニットを数個出し、自動で悪魔がいる位置まで飛行して行く。

 

シャティエル「定位置に固定完了。 『直下型バスターレーザー』、発射します」

 

無事に破壊されず上空を浮遊していたユニットからレーザーが真下に群がる悪魔兵に向け放たれた。

遠目からでも視認できるレーザーは不規則に移動し、撃墜されないよう撹乱飛行を続けている。

 

ユンナ「今の内に突撃致しますわ!」

 

アイリ「了解です! アイリ、いきまーす!」

 

ユニットの囮に気を取られている隙に、アイリ達は一斉に駆け出した。

『天使の加護』により翼を生やし飛行能力に特化したリョウと、細い美脚から出ているとは到底想像も付かない脚力で地を蹴り駆け抜けたユンナが先行していく。

規格外の速度に唖然とするアイリを余所に、二人は悪魔兵の群れへと躊躇なく突入した。

 

リョウの居合い抜きの要領で引き抜かれたアルティメットマスターの一閃だけで数人の悪魔兵の体を真横に真っ二つにした。

無駄の無い完璧と呼ぶに相応しい見事な一閃により綺麗な断面を産み出した亡骸は力無く横たわった。

 

リョウの真横を通過したユンナは愛用の槍、エンプレスジャッジメントを振るい悪魔兵達を斬りつけていく。

きらびやかに美しく、舞うように戦場を駆け、数で押し寄せる悪魔兵の剣や槍による突きや払い等の斬撃を軽くいなし、的確に相手の懐に槍の刃を当て、一体一体を確実に屠る。

 

アイリ「ユンナさん凄いな~。 動きにブレが全く無いよ」

 

リベリオン「感心してる場合なの? そんな暇があるならまだブレが有りまくりな矢を射ぬけ」

 

アイリ「ブレが有りまくりとは失敬な! そりゃ、風舞高校弓道部の人達とは比較にならないけど、まともに戦えるくらいにはあたしも強くなってきてるんだから!」

 

リベリオン「なら口でなく行動で示せ。 あと、誤っても私に矢を当てるような失態は起こさないようにしなさい。 もし当てたなら、三枚下ろしにされる覚悟をしておいた方がいい」

 

アイリ「おぅ…洒落にならないから怖いよ。 大丈夫、カノンちゃん並の誤射はしないから! あたしの美技に酔いな!」

 

リベリオン「カノン…とは、誰のことを言ってるの?」

 

リョウ「リベリオン、気にしたら負けや」

 

リベリオンの揶揄に反論し頬を膨らませながらも矢を番え、『レインアロー』を連続で放つ。

空中で四散し光の雨と化した矢が雨のように降り注ぎ、悪魔兵達を射ち抜いていく。

今回の悪魔はただ光の力に屈する訳がないようで、対抗策として数人が一ヶ所に集結し、エネルギーにより生成された漆黒の盾で襲い来る光を打ち消していた。

アイリの光の力が無効化され、何処か勝ち誇った表情を見せる悪魔兵達は士気が上昇したのか、次々と武器を構え荒々しく猛進する。

現状では遠距離攻撃は皆無に等しいと察したアイリは意を決し接近戦へと移行するため、『光弓三日月斬』を発動させながら滑り込むように地面へと着地すると同時に、大剣と化した弓を振るい悪魔兵達を凪ぎ払った。

 

空中で応戦していたシャティエルはアイリに加勢しようと新たな武器を召喚しようと魔方陣を展開する。

だがその直後、紫色の光線が真横から襲い掛かった。

闇の力を感知したシャティエルは回避したが、展開されたばかりの魔方陣は粉々に打ち砕かれ、ライトグリーン色の粒子となり空中を彩る。

紫色の光線は続けざまに放たれるも、狙いはシャティエルではなく、『直下型バスターレーザー』を放つユニット。

光線に直撃したユニットは破片一つ残さず爆散してしまい、真下にいた悪魔兵達は安堵の表情を浮かべるや否や、再度敵意を剥き出しにしアイリ達へ向かって行く。

 

シャティエル「『直下型バスターレーザー』、一機撃墜。 …更に一機…この攻撃は、アンドロマリウスのものと断定。 アイリさんから見て10時の方向、460メートルの場所に佇んでいます」

 

アイリ「自分だけ遠くから攻撃なんてずる賢く卑怯だなー。 卑怯者だと悪魔パーティを追放されて戦うことを止めたりしないかな?」

 

リョウ「あるわけねぇだろ、んなもん! 空中からだとアンドロマリウスや悪魔兵の遠距離攻撃の餌食になるけえ、このまま地上からごり押しで行くで!」

 

ユンナ「得策とは言えませんが、効率的に考慮すれば妥当かもしれませんわね。 了解しましたわ。 道はわたくしが開いて差し上げますわ。 『フェアリーダンス』!」

 

エンプレスジャッジメントの石突となる部位に装飾された5つの湾曲した小さな刃が槍から外れ、意思を持つように浮遊し、悪魔兵の攻撃を掻い潜り的確に喉を斬り裂いていく。

虫を払う勢いで剣や槍を振るうも、巧みな素早い動きを見せる刃は宙を疾走し、嘲笑うように全ての攻撃を回避し悪魔兵を翻弄する。

ユンナ自身も飛び回る刃に劣らない俊敏な動きで悪魔兵を次々と仕止めていく。

どれだけの数が迫り来ようが、息一つ切らさず縦横無尽に戦場を駆ける眉目秀麗な姿は女性であるアイリでも惚れ惚れとさせられ、戦闘を放棄して魅入られてしまう。

 

アイリ(ユンナさん凄い…無駄な動作一つなく、四方八方から来る悪魔兵達を着実に対処してる)

 

ユンナ「お褒めの言葉ありがとうございますアイリさん。 ですが今は戦闘に集中してくださいまし」

 

アイリ「え、あたし声に出てた?」

 

ユンナ「出てはいませんでしたが、心の内で強く話していればわたくしには丸聞こえですわ」

 

アイリ「丸聞こえって…(そう言われると余計に心の内で色々考えちゃう…!)」

 

ユンナ「ふふ、大抵の人はそのような言葉が思い浮かびますのね。 わたくしは生まれつき念力を使用できますの。 物体浮遊は勿論、瞬間移動、相手の思考や心情等も読み取ることが可能ですわ」

 

アイリ「読心術系の能力はマジで強そう。 覚妖怪や千年アイテムを思い出したよ。 (相手の動きを察知して次の一手が分かるからあそこまで繊細な動きが可能なんだ! 物体を浮遊させることが可能と言うことは、あの刃もユンナさんが全て動かしてるってことに…)」

 

ユンナ「御明察ですわ。 では暫く戦闘に集中させてもらいますわね」

 

アイリの脳内で浮かんだ言葉は一文字も漏らすことなく読心したユンナは艶やかに微笑む余裕を見せると、再び悪魔兵の群衆に向け刃を振るい始めた。

四方八方から怒涛の如く襲い来る悪魔兵を相手にし、5つの刃を念力で操作しながらもアイリと会話を成立させる、並大抵の集中力では成し得ることは叶わない芸当だ。

どれ程の時間を費やしたのかは知る由もないが、血の滲むような努力をしたのは言うまでもないだろう。

 

数分と経過していない短時間で、ユンナの攻撃により僅かに道が開いていた。

好機を逃すまいと、アイリは咄嗟に矢を番え、『ロイヤルストレートアロー』を放った。

黄金の一矢の光により悪魔兵達の体は焼かれ、怨嗟の声を上げる間もなく灰と化していく。

軍勢を貫き進んだ矢が通った後には、更に大きく開けた道が完成されている。

猛る悪魔兵達の軍勢が道を阻塞する前に、アイリ達は臆することなく道を猛進する。

 

前を見ても敵、右を見ても左を見ても景色に変化はない。

敵が犇めく領域に入り込んだにも関わらず、アイリは恐れを感じず接近する悪魔兵を打倒しつつ前へ前へと突き進む。

付近にはアイリと同じ様に進むシャティエルとリベリオンがおり、悪魔兵を一網打尽にしているのが視界に映る。

自分も負けてられないと士気を上げ、低空飛行で次々と悪魔兵を『光弓三日月斬』により斬り捌いていく。

 

シャティエル「発見致しました。 距離、120メートルです」

 

リベリオン「あら、もうそんな近くまで来ていたのか。 じゃあ、お先に失礼するわ」

 

行く手を阻む悪魔兵の腸を鎌で引きずり出し絶命させ、その場から大きく跳躍した。

『リベリオンデストロイボール』を空中に数個出現させ、真下で蠢き狼狽える悪魔兵達に降り注ぐ雨の如く放つ。

阻害してくる雑兵を粗方一掃し、雄々しく地に立っているアンドロマリウスが視界に入る。

 

アンドロマリウス「先着したのが私と同等で闇を扱う者とはな」

 

リベリオン「貴様と一緒にするな。 虫酸が走る」

 

互いに闇の力を体の淵から溢れ出した。

牽制としてアンドロマリウスは『デストラクションランス』を繰り出した。

槍と化した右手をリベリオンは鎌で弾き返し、闇の力を纏わせた踵落としをアンドロマリウスの頭部に当てようとするも、髪に触れる直前、視界の真横から蛇が現れたのに気が付いた。

反応するにはあまりにも遅く、否、反応仕切れない程に俊敏で、気配を微塵にも感じさせない迅速な蛇の牙がリベリオンの体に深く突き刺さる。

鋭い痛みに悶えるリベリオンは蛇に踊らされるように振り回され、悪魔兵の大群の真っ只中に勢い良く振り落とされた。

 

アンドロマリウス「他愛もない。 次は、あの元人間の娘か」

 

未だ悪魔兵を撲滅しているアイリの気配を感じ取り、不気味に口角を上げる。

 

一度死の恐怖を味合わせ、転生した後にも脳内の奥深くに封じ込まれた記憶を呼び起こし再度死の恐怖を心に刻み込ませたにも関わらず、アイリは挫けず今現在も恐怖に駆られることなく戦い続けていることに、敵ながら感心してしまう。

仲間の援助あって立ち上がることができたのだろうが、最終的に恐怖を払い除けたのは間違いなくアイリ本人。

本来得意とする、相手の心を揺さぶる悪魔の囁きから立ち直ることができたのは紛れもなくアイリの芯の強さだろう。

ただの矮小な少女ではないと再確認すると同時に、矜持を砕いてやろうと思う邪心が膨れ上がる。

 

アイリ「ウルトラダッシュアターック!! …できたらいいな~」

 

大剣と化したガーンデーヴァを振り回し悪魔兵を蹴散らしながら、凄まじい速度でアンドロマリウスの前 で砂を舞い上げながら停止した。

後から悪魔兵と応戦していたリョウとシャティエルが到着し、精悍な面構えでアンドロマリウスを見据える。

 

シャティエル「アイリさん、平静は保てていますか?」

 

アイリ「うん、大丈夫。 もう何も怖くないよ」

 

リョウ「頼むから死亡フラグを立てんといてくれ」

 

アンドロマリウス「予想外だったな。 まさかあの絶望の淵から這い上がってくるとは」

 

アイリ「あんたが思うほどあたしは弱くないってことさ! あたしは団長に言われた通り止まることなんてないよ!」

 

シャティエル「団長とは、何方のことでしょうか?」

 

リョウ「シャティエル、気にせんでええよ」

 

アンドロマリウス「どうやら人間だった頃よりかは芯は更に太くなっているようだな。 その溌剌とした意気込み、私がへし折ってくれよう」

 

リョウ「おっと、戦闘する前に幾つか質問に答えてもらうで」

 

アイリの華奢な体を貫こうと『デストラクションランス』を繰り出したが、リョウが剣で華麗にいなし腕を鷲掴みにし行動を抑える。

 

リョウ「冥府界で何が起こったのか詳細を説明してもらおうか」

 

アンドロマリウス「そんな瑣末なことか」

 

リョウ「サタンの安否も不明やのにえらい無関心のようやな。 それも悪魔故の無慈悲さから来てるのかな?」

 

アンドロマリウス「サタン様の安否が不明なのは確かだが、裏切り者に屈するお方ではない」

 

リョウ「どうだか。 クラウソラスを持っているルシファーには勝てる気がせえへんけどな。 てか、サタンが生きてるか死んでるかなんてどうでもええ。 ルシファーが何故反逆を起こしたのか知っとるんか?」

 

アンドロマリウス「さあな。 奴は前触れもなく冥府界を攻撃し始めた。 女だろうが子供だろうが、見境なく殺戮を行った。 私達も奴を迎え撃とうとしたが、サタンフォーの力を持ってしても、光の剣の力の前にしては我々の力は届かなかった。 冥府界の危機を悟ったサタン様は我々を逃がすため異世界へ繋がるワームホールを生成してくださり、現在私達は無事でいられる」

 

シャティエル「ルシファーが何故反逆に至ったのか真相は不明。 彼が嘘を付いている様子はないと分析できたので、本人に直接聞くのが最も効率が良いかと思われます」

 

リョウ「みたいやな。 さて、情報…と言っても大したものやあらへんかったけど聞き出したところやし、片付けさせてもらおうか」

 

抑えていた巨大な右腕を乱雑に真横に振るい投げ、アルティメットマスターを抜刀し『ソードビーム』を素早く繰り出す。

事前に危機を察知していたアンドロマリウスは体を大きく斜め後方に反らすことで光線を回避した。

 

アイリ「リョウ君ちょっと待って」

 

追撃を加えようとしたが、アイリが口を挟んだことで手が止まり、敵意が剥き出しのままになった視線だけがアイリに向けられる。

 

アイリ「倒さず元の世界に送り返せば良いんじゃないかな?」

 

リョウ「元よりそうする筈なんやけどね。 時空防衛局の規則に則れば、異世界に迷い込んだ者は元居た世界に送還せなあかんのやけども、異世界に害を及ぼす者であれば武力を行使して鎮めることもやむを得ないからねえ」

 

アイリ「でも、アンドロマリウスもルシファーの反逆に巻き込まれた被害者だよね? だったら…」

 

リョウ「甘いでアイリ…その優しさは仇となるで」

 

強みを帯びた重々しい声が腹の奥底にまで震わせる。

敵に情けを与える必要など皆無だと述べるリョウは無慈悲だとも捉えることもできるが、正論でもある。

 

リョウのワールドゲートを用いて強制的に彼等を送還すれば、サタンと共にルシファーを打倒し、新たな軍勢を率いて天界に攻め入る可能性もあるのだが、重要な点は他にある。

 

悪魔が天界を滅ぼし乗っ取った後に、更なる異世界に足を踏み込むこと。

 

以前ベルゼブブが現実世界に降り立ったように、世界の均衡を崩す事柄に発展しかねない危機的状況に陥るのだけは、何としてでも事前に防ぎたい。

惹起される前に、未然に防ぐのは当たり前の行動。

未然に阻止するためなら手段を選ばないリョウからすれば、遠回しに自ら危機を招いているということなので、尚更生かしておくわけにはいかない。

 

仮に、天界の天使達が現在手薄となった悪魔を滅しようとするのは止めはしないが、悪魔同様に異世界に侵攻、関与しようと行動を起こせば、時空防衛局が黙認せず即座に釘を打つ。

異世界の文化に存在しない文化を綯い混ぜれば、混沌を招く事態に発展するのは明らか。

取り返しの付かない緊急事態に陥る前に、リョウの世界の監視者の能力により異常を素早く察知、発見次第時空防衛局に報告し迅速に行動を開始する。

 

どのような企みを練ようが、世界の監視者であるリョウに隠匿することなどほぼ不可能に近い。

監視者の力の鳥瞰に捕らえられれば、後々戦わざるを得ない状況になっていた。

アンドロマリウスには最初から選択肢など無いに等しいのだ。

 

アイリ「戦わずに済む方法はないってこと?」

 

リョウ「そうじゃ。 世界に混沌を招く者は排除せなあかん。 抵抗しなければ手荒な行為はせえへんけど、こいつらが抵抗しないわけあらへんから」

 

アンドロマリウス「監視者の言う通りだ。 冥府界に戻らなければならないのは確かだが、監視者の力を借りるつもりなど更々ない。異世界を巡り、世界を占領し戦力を増強、増員させ冥府界へ戻りサタン様と共に裏切り者のルシファーを叩く」

 

シャティエル「異世界を渡航し戦力を増強、増員する……結論からすると、辿り着いた世界を滅ぼそうと言うのですね」

 

アンドロマリウス「御名答だ機械の少女。 冥府界以外の拠点が完成すれば、我々悪魔族は更なる発展を遂げることが可能となる」

 

リョウ「やっぱりここで息の根を止めんとあかんみたいやな。 アイリ、この世には話し合いでは解決しない物事が必ず存在する。 だから武力で解決するしかなくなる。 それは何処の世界でも同じことなんよ」

 

相手にどのような事情があれど、例え相手が知人だろうが、容赦なく鎮圧する。

世界の均衡を保つためならば、時に非常にならなければならない。

恐らくリョウやユンナは如何なる理不尽な状況下にありながらも、難解な問題を解決してきたのだろう。

リョウやユンナの為してきた活動に関しては未だ把握仕切れていないことが多くとも、アイリは無理矢理にでも戦わなければならない辛さを少なからず実感できたような気がした。

 

アイリ「……分かったよリョウ君。 あたしも覚悟を決めて戦わなくちゃね。 アンドロマリウスは因縁の相手だし」

 

深呼吸をし、乾いた空気を体内に流し一気に外に吐き出す。

敵であれど、一度自身の日常であり人生を滅茶苦茶にした相手に情けを掛けている場合ではない。

最悪、その優しさに付け込まれ、心を操られ憑依される可能性もある。

生半可な思いで挑んでは間違いなく勝利は得られない。

 

穏便に済ます案は白紙になった今、アイリは自身の人生を滅茶苦茶にされた因縁の相手にガーンデーヴァを構え、光の力を放出する。

凛としたその瞳には、以前の戦うことを恐れる薄弱なものはなく、不撓不屈の強い意志の光が見て取れる。

 

アンドロマリウス「愚かな娘だ。 もう一度死の恐怖を味合わせてやろう」

 

アイリ「やれるもんならやってみなよ。 ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどね」




一週間以上お腹の調子が悪いのは軽く地獄極まりないですね。
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