ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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占い師の人に運命の人は来年か再来年に現れると言われました(ガチ)


やったぜ


第77話 ある日、森の中…

異世界へ逃走したアンドロマリウスとベレトを追い、アイリ達はワールドゲートを通り新たな世界の地に足を着けた。

 

視界に広がるのは、美しい大自然。

鬱蒼と大木が立ち並んでいるのを見ると、森林の中だというのが分かる。

草木が生い茂り、様々な色の花や木の実が生る色彩を照らす、木々の間から漏れる日光という自然のスポットライトが春の訪れを告げるような暖かさを肌で感じ取れる。

人間の手が一切加えられていない自然の絶景に、アイリとシャティエルは見惚れてしまっていた。

 

シャティエル「素晴らしい光景です…。 翔琉さん達の住む世界とはまた別の魅力があります」

 

リョウ「ここがブロセリアンドって森じゃ。 数十キロにも及ぶ広大な森林やから、迷ったりしたら先ず抜け出せないと思っといた方がええで」

 

アイリ「いざとなったらあなぬけのヒモで脱出…出来たらいいんだけどね。 でもあたし飛べるから全然問題ないって、本当に問題ない」

 

ユンナ「油断してはなりませんわ。 この森は危険生物の巣窟ですので、いつ襲われても不思議ではありませんのよ」

 

アイリ「ファンタジー溢れる世界の森には必ずモンスターがいるもんなんだね。 例えばどんなの?」

 

リベリオン「もうそこにいる」

 

何かの気配を察知したリベリオンは横の大木の幹に向け鎌を全力で投擲した。

回転しながら空を斬り裂く鎌は幹に深々と突き刺さる筈だったが、何故か刺さることなく宙に止まるという我が目を疑う結果となった。

何故鎌が宙に停滞していたか、答えは直ぐに分かった。

 

姿を露にしたのは、巨大なカメレオンの怪物だった。

攻撃を受けたことにより保護色が剥がれ姿を露にしたが、脳天に深々と突き刺さっていたせいか既に絶命していた。

保護色を活かし捕食の対象となるアイリ達を襲撃する筈だったが、まさか自分が襲撃されるとは夢にも思っていなかったであろう。

反撃する暇すら与えられなかったカメレオンの瞳に光がないことを確認したリベリオンは鎌を引き抜き刃を付着した鮮血を振るい落とす。

 

リベリオン「精々気を張っておくことね」

 

アイリ「そ、そうするね。 音を殺して歩くのをクセにしとかないと」

 

リョウ「どっかの暗殺者じゃないんやから別にそこまで極めんでもええわいね。 …とは言え、ここは強めのモンスター多いからねえ」

 

ユンナ「わたくしがいるので問題ありませんわ」

 

リョウ「まあ確かに。 流石、ユグドラシルメシアの一人じゃ」

 

アイリ「え、ユンナさんもユグドラシルメシアなんですか!?」

 

ユンナ「あら、ご存知なかったんですの? 如何にも、わたくしはユグドラシルメシアの一人ですわ」

 

リョウ「ユグドラシルメシアの存在は知ってるんやな。 大方アリスあたりにでも聞いたんやろ?」

 

アイリ「大正解。 正解者のリョウ君にはヒトシ君人形をあげるね!」

 

リョウ「いらん。 取り敢えず森の奥深くにあるバラントンの泉を目指そう。 あいつらもそこへ向かっとる筈や」

 

シャティエル「そのバラントンの泉には何かあるのですか?」

 

リョウ「泉の中央に小さな小島があるんやけども、そこには伝説の剣の一本、フラガラッハがあるんよ」

 

アイリ「たしか、アレク君が持ってる剣の一本で、癒しの力があるっていう…」

 

リョウ「そうそう。 地面に突き刺さってるんやけど、その影響か、地面を通じて癒しの力が周囲に漏れ出してて、泉の水源にも癒しの力が行き届いてしもうたから、泉の水にはどんな傷も癒す効果があるっちゅーわけ」

 

シャティエル「その泉でアンドロマリウス達は傷を癒そうとしているのですね。 早く阻止しなければなりませんね」

 

ユンナが言ったように、アンドロマリウスとベレトがこの世界に訪れたのはただの偶然ではなく、予想以上の痛手を負ってしまった傷を癒すためだった。

これ以上異世界を巡り悪行を繰り返さないためにも、この場で葬るか元いる世界に送り返さなければならない。

 

目的地であるバラントンの泉を目指すため、アイリ達はブロセリアンドの最深部に向け駆け出した。

勿論安易な道のりではない。

森に住まうモンスター達が眼光をギラリと輝かせアイリ達に襲い掛かってきた。

アイリ達を森に迷い込んだ小さな獲物としか思っていないモンスター達は牙を剥き爪を立て次々と猛攻を仕掛けるも、相手が悪すぎた。

 

アレクやアリスと同様の強さを誇るユグドラシルメシアの一人であるユンナの実力は知能の低いモンスターに劣る訳がなく、ひっきりなしに接近してくる猿のモンスターの軍勢を念力で操り宙を舞う五つの刃と槍を振るい次々と地面へと落としていく。

耳に不愉快に響く羽音を鳴らしながら飛行する通常の数十倍の大きさの蜻蛉のモンスターも素早い撹乱飛行で接近してきたが、シャティエルの一つの誤差の無い兵器による光弾が確実に急所を狙い撃ち撃墜し、アイリの援護射撃も加わることで一種の防衛網と化していた。

例え肉薄する状況となっても、リョウとリベリオンの敵対関係とは思えぬ見事な連携攻撃により迫るモンスターを次々と肉塊へと変えていく。

作戦を立ててもいないにも関わらず各々が自分の役割を熟す完璧と言える連携が取れており、着実に最深部へと近付いていく。

 

自分達が獲物として捕食されないために戦っているとはいえ、ある意味ブロセリアンドに住まう者達の命を刈り取り、安寧秩序を乱していると言っても過言ではないため、可能であれば無益な殺生は行いたくないのが本音だが、もう一つ理由があった。

戦闘により多くの死体が生み出され、血や肉の匂いが周囲に漂い、匂いに誘われたモンスター達にとってはアイリ達が通ってきた道は酒池肉林と成り果てていた。

 

ユンナ「これではキリがありませんわね。 以前来た時よりもモンスターが増殖しているようですわね」

 

アイリ「こんな数のモンスターと戦うくらいなら髑髏島で住んでた方がマシに思えてくるよ!」

 

リョウ「流石に面倒じゃのう」

 

リベリオン「私は楽しんでるから構わないわ」

 

殺戮を行うのに忌憚のない笑みを浮かべるリベリオンを余所に、リョウは狐のモンスターの尻尾を掴み遠心力を活かし振り回し大きく投げ飛ばすのかと思ったが、投げ飛ばす勢いを利用してリョウ自身も狐のモンスターの尻尾をしっかりと掴んだまま共に上空へと飛んでいった。

 

アイリ「うわー凄い! 桃◯白みたい!」 

 

リョウ「ワールドゲート開くけえ離脱するで!」

 

流石に数多の敵を相手にするのを時間の無駄と捉えたのか、リョウは上空にワールドゲートを召喚し直ぐ様通過するよう促す。

ユンナとシャティエル、リベリオンは跳び上がり迅速にゲートの中へ入っていったが、アイリは巨大な熊のモンスター相手に苦戦しており、鋭利な爪を弓で防いでいたが力押しされるのは時間の問題だった。

リョウは咄嗟に未だ尻尾を掴み宙で身動きが取れず踠くだけの狐のモンスターを勢い良く真下に投げつけた。

標的となったのは勿論アイリを捕食しようと口から涎を垂らす熊のモンスター。

真上から自分と同等のモンスターが落下してくるなど想像出来る筈もなく、脳天に巨大な体が命中し固い地面に叩きつけられることにより脳震盪を起こしたのか、白目を剥いたまま痙攣してしまっている。

華奢な体であっても貧弱な獲物と捉えているモンスター達がアイリに一点集中し群れとなり猛進してくる。

 

アイリ「ちょっ、多すぎるって!? あたしそんなジャ◯ーズみたいな有名人でもないんだから押し掛けてこないで! うおおおおおお霊長類なめんな!!」

 

我先にと口を大きく開くモンスターの口を自慢の運動神経を活かし掻い潜り、登攀する勢いでモンスターの体を足場として利用し、ゲートから上半身を出し必死な形相で手を伸ばすシャティエルの手を掴むためアイリも手を伸ばすが、逃がすまいと猿のモンスターが他のモンスターを土台にし跳び上がった。

 

リョウ「させるかああああああ!!」

 

翼を展開させたリョウが殺意を剥き出しにした目で睨みを利かせると、一瞬だが猿のモンスターは伸ばし掛けた手を引っ込めた。

どんな凶暴な生物だろうと押し退ける睥睨に怯えきった猿のモンスターの脳天に義足による強烈な踵落としが叩き込まれ、硬い何かが割れる鈍い音が聞こえた。

私怨が籠められた打撃により絶命した猿のモンスターは力無く地面へと墜落し、新たな餌として他のモンスターに捉えられ血肉を貪り尽くされていく。

リョウの援助もありシャティエルの手を掴むことの出来たアイリはゲートの中に入り無事に戦線を離脱した。

シャティエルと同様に、後からゲートを通過したリョウもアイリの無事に安堵の表情を浮かべた。

 

アイリ「ふ~危なかった。 ここにいるモンスター達は凶暴なフレンズなんだね。 キング○ングの世界の住人なら間違いなく死んでるよ」

 

シャティエル「アイリさん、お怪我はありませんか?」

 

アイリ「何とか大丈夫だよ。 ありがとねシャティエル。 あとリョウくんも。 助かったよ」

 

リョウ「無事なら何より」

 

リベリオン「殺戮は好みだが、最初からこうしていればあの猛獣共に出会すことはなかったんじゃないの?」

 

リョウ「………結果良ければ全て良しってやつじゃ」

 

リベリオン「物は言いようね」

 

ユンナ「実際無事に到着致しましたし、悪魔よりも先回り出来たことは好結果と言えますわ」

 

先程のモンスターが群がる喧騒な雰囲気とは一転し、心地好い虫の音が聞こえる、神聖な雰囲気に包まれた場所へと移動してきた。

上を見上げると太い木々や多くの葉による自然の天井が太陽の光を遮断しており、ひんやりとした肌寒さを覚える。

光が届かず薄暗くはあるが、周囲に生える茸が淡く発光しているため視界は良好で、絵に描いたような美しい光景を生み出している。

 

視点を移すと、更に目を奪われ忘我する情景が広がった。

水底まではっきりと視認可能な透明度を誇る、バラントンの泉があった。

まるで人工的に施工されたのかと疑いたくなるように、泉の上は木々や葉に覆われておらず、日光が差し込み煌々と水面が輝いている。

リョウが説明した通りに、泉の中央には小さな小島が浮いている。

 

シャティエル「とても…美しいです…」

 

リベリオン「価値観は伝わらないけれど、私には眩しすぎるっていうのは確かね」

 

アイリ「ゼ◯ダの伝説に出てきそうな場所だよね。 …あの島の中央にフラガラッハがあるんだね」

 

リョウ「感じたか。 そう、あそこに伝説の剣の一本であるフラガラッハがある。 一応言っとくけど、引き抜こうなんて馬鹿なことは考えるなよ?」

 

アイリ「そんなことしないよー」

 

リベリオン「何故私とアイリの方を見て言うのよ」

 

リョウ「リベリオンならやりかねんからのう。 あの剣は他の伝説の剣と同様に只者が触れることは許されへん。 もし剣に認められなければ、フラガラッハに生命エネルギーを吸い取られ死ぬことになる」

 

アイリ「え、なにそれこわい。 てことは、あのフラガラッハの側にいる人も吸い取られて死んじゃった人の亡骸なの?」

 

リョウ「なんやそれも分かっとったんかいな。あと付け加えておくと死んではないで」

 

アイリ「天使族のあたしはマサイ族並に視力がいいからね!」

 

リョウ「へえそうなんだごめん正直興味ないから全然知らなかったよ」

 

アイリ「そんな佐藤君みたいな冷たい言い方やめてよ~。 …でも、待って…」

 

何かを感じ取ったのか、フラガラッハの気を感じ取った時とは明らかに違う反応を見せた。

今まで感じ取ったものとは度量が比にならない、強大なエネルギー。

その強大さは宇宙に匹敵すると言っても過言ではない。

泉の更に底に封じ込められている様に存在する謎のエネルギーを感じ、アイリに鳥肌や全身の毛が逆立つビリビリとした感覚が全身を貫く。

思わずリョウの背後に隠れ身震いする体を抑える。

 

アイリ「な、何? お、大きなエネルギーが…。 りょ、リョウ君」

 

リョウ「流石、それも感じ取るんやな。 安心しんさい。 危険な代物ではないよ。 わし等が悪用せん限りは」

 

ユンナ「アイリさんが感じ取っているものは、ワールドコアと呼ばれる物質ですわ」

 

ユンナが口にしたワールドコアとは、簡潔に説明するならば、世界を創造しバランスを保つ巨大なエネルギーの塊だ。

どの世界にも必ずワールドコアは存在し、そのエネルギーにより世界が成り立っているとも言える、世界丸ごと一つを支える土台のような役割でもあり、その世界を形作る要でもある。

仮にワールドコアに異常が発生すれば、世界の何処かで天変地異が起こる等の、世界が滅亡する大災害を招いてしまう。

 

例を上げるならば、現実世界で発生した宇宙を誕生させる発端となったビッグバンや、白亜紀に栄えた恐竜を絶滅させた巨大隕石の衝突。

他にも幾つか例はあるが、これらの大規模な未曾有の出来事はワールドコアに何らかの異常によるものだと言われている。

 

異常が確認されるのは何千、何万年に一度という低確率なものなので、頻繁に同じ世界に異常が見られるわけではない。

なので何処かの世界でワールドコアに異常が確認された場合、大抵は何者かの策略による仕業と断定し調査が行われる。

無知の者が欲もなく触れるとは考え難く、悪行を働く凶徒や世界征服を企むためワールドコアを人質に要求を求む狡猾な者として時空防衛局が即座に逮捕するため行動を起こす。

 

世界の濫觴とも言え、存亡に関わる重大な代物だと知り、アイリは思わず固唾を呑んだ。

 

アイリ「そんな凄い物がここにあったんだ。 ここじゃなくても時空防衛局の本部で丸ごと管理した方がいいんじゃないの?」 

 

ユンナ「無茶を仰らないでほしいですわ。 世界は無限と呼べる数で存在しているのですから、それを纏めて保管しておくなど一生という時間を掛けても不可能と呼べますもの。 ワールドコアはその場で沈滞していますし、わたくし達が触れでもしたらどのような現象が起きるか、恐ろしくて想像もしたくありません」

 

リョウ「兎に角、ワールドコアに下手に関与せん方がええってことや」

 

アイリ「き、肝に銘じておくね」

 

リベリオン「ワールドコアなんて物はどうでもいいのだけれど、今からどうするわけ? のんびりと悪魔が来るまで駄弁って終わりなの?」 

 

ユンナ「散開し手分けして探るのも手段の一つと言えますわね」

 

アイリ「じゃあ何組かに別れて……っ、来たよ!!」

 

アイリは声を張り上げ何かの襲来の兆しを告げた。

逸早く足を動かしたのはユンナで、稠密した木々の隙間から泉の中央に目掛け放たれた闇のエネルギー弾を防ぐため槍を華麗に一閃し真っ二つにした。

 

アンドロマリウス「感の良い小娘だ。 世界の混乱に乗じて貴様達を葬ろうとしていたというのに」

 

木々の影に身を潜めていたアンドロマリウスとベレトが姿を現した。

アイリ達との傷が完治していないせいか、アンドロマリウスの体力が消耗しているのが目に見えて分かる。

 

リョウ「フラガラッハの封印を解きワールドコアを直接狙おうとしたみたいやな」

 

シャティエル「フラガラッハの封印、とは?」

 

リョウ「まだ話してなかったけど、あのフラガラッハのお陰でワールドコアは異常なく在り続けることができとるんよ」

 

ユンナ「この世界はとある出来事によりワールドコアのバランスが大きく乱れ、世界が崩壊仕掛けた事があったんですの。 世界の崩壊を防ぐために、フラガラッハの所持者、ミネルヴァさんが身を挺してフラガラッハの治癒能力を行使し、世界の崩壊を阻止してくださったんです。 ですがそれと引き換えに、ミネルヴァさんは未来永劫、フラガラッハの力を維持するため自身を封印しその場に居続けなければならなくなったんですの」

 

まるでミネルヴァの過去を見届けていたかの様に語られるユンナの表情は沈痛なものへとなっていた。

 

シャティエル「では、あの小島にあるフラガラッハの側に蔓で纏われた人物が…」

 

ユンナ「ええ。 彼女が、この世界を守ったフラガラッハの所持者であるミネルヴァさんですわ」

 

ベレト「長々ともう目覚めない女のご説明が終わりましたのなら、さっさと道を開けてもらえないでしょうか?」

 

リベリオン「そう言ってはいそうですかと退くと思っているの? 悪魔は知能が高いと思っていたけど、馬鹿な種族だったみたいね」

 

ベレト「調子に乗らないでくださいね小娘。 ピースハーモニアの紛い物の分際で我々を侮辱しないでもらいたいですね」

 

リベリオン「紛い物とは心外ね。 私はあいつらとは別物。 そんなことすら分からず、出しゃばるんじゃない!」

 

リョウ「よせリベリオン。 悪魔の口車に乗せられるんやない。 乱されると相手の思う壺やで」

 

青筋を浮かべたリベリオンは今にも駆け出しそうな勢いの口調へ変化したため、リョウが手で制することでで先行するのを抑えた。

感情を逆撫でしたり心に漬け込む悪魔の姑息なやり方に嵌まると、最悪の場合憑かれる可能性もあるため、リョウが止めなければ危険な状態に晒されていたかもしれない。

 

アイリ「これ以上好きになんてさせないんだから! ここがあなた達のデッドラインだよ!」

 

アンドロマリウス「貴様とて、身勝手な自分の都合で異世界を渡り歩いているだろう。 私と何が違うと言うんだ?」

 

アイリ「あたしが異世界を移動してるのはあんたの愚挙を止めるためだよ! 他人が迷惑してることを気にもしない、自分達しか特のないやり方ばっかり行って異世界に害を為すなら止めるのは当たり前だよ!」

 

アンドロマリウス「私達とて、好きで世界を移動しているわけではない。 ルシファーの反逆により、冥府界を去るしか生き残る方法がなかっただけだ。 つまり我々は被害者だ」

 

シャティエル「ならば被害者なら被害者らしく、時空防衛局に援助を求め、指示に従うべきではないのですか?」

 

アンドロマリウス「我々悪魔が異世界の者共の手を易々と取るとでも?」

 

リョウ「翔琉達の住む世界では妖怪達の手を借りていたのにな」

 

アンドロマリウス「手を借りていたわけではない。 利用していただけに過ぎない」

 

リョウ「ものは言いようやな。 まあええよ。 どのような言葉を並べても、わしはお前達を捕らえることに変わりはない」

 

ベレト「まだ異世界で罪を犯していない我々をですか?」

 

ユンナ「あなた方は先程この世界のワールドコアを破壊しようと致しましたわよね? それは重罪に当たりますの。 ワールドコアは例え時空防衛局員であろうと接触は固く禁止していますの。 世界を危機に脅かす行為を犯したあなた方の身柄は、我々時空防衛局の権限で拘束させてもらいます」

 

ベレト「横暴な思考ですね。 私達にも当てはまる事ですけどね」

 

アイリ「ありゃりゃ、余計なことしちゃったから余計に罪が重くなっちゃったんだね」

 

ベレト「黙れ小娘。 私達の未来は暗澹と変化している。 サタン様の身の安全も不明な現在、我々だけで事を乗り越えなければならないんですよ」

 

何処に向けていいかも分からぬ、不満を募らせた怒りを吐き出すように静かに言葉を漏らす。

自身の世界で起きてしまった出来事とは言え、居るべき世界を追いやられ、異世界を途方もなく彷徨い歩いた挙句、時空防衛局にも目を付けられてしまった。

理不尽に追い詰められたとも言える状況に、腸が煮えくり返っているようで、表情には出ていないもののアンドロマリウスも同様の心境にあった。

 

アンドロマリウス「時空防衛局や世界の監視者に目を付けられた以上、私達に後戻りなど不可能だ。 悪魔なら悪魔らしく、堕ちるところまで堕ちる」

 

アイリ「……ねえ、もうこんな争いやめようよ、アンドロマリウス」

 

アンドロマリウス「何…?」

 

突然の申し出にアンドロマリウスは首を傾げる。

敵である存在に休戦を言い渡される不可解すぎるアイリの行動の意図が全く掴めなかった。

 

アイリ「自暴自棄みたいに見えちゃうんだもん。 あたしが人間じゃなくなった件の元凶だけどさ、ほっとけなくなっちゃった」

 

リベリオン「本当に甘いわねアイリ。 こいつ達は天使である貴様の敵よ。 牢獄にぶちこむか抹殺されて当然の連中。 アイリがやらなければ、私がやらせてもらうわ」

 

アイリ「待ってリベリオン! あたしとは境遇は違うけれど、アンドロマリウス達の気持ちが少し分かるような気がする。 自分達の住む世界に居れなくなっちゃうのは、確かに辛いもん」

 

アイリは天使と悪魔の抗争により、魂が崩壊し人間の種族として存在することが出来なくなり、天使へと転生した。

天使と生まれ変わり、元々住んでいた現実世界で過ごすことは出来なくなり、半ば強制的に天界に住まうこととなった。

アイリ自身、現実世界で俗に言う二次元やパラレルワールドと呼ばれるものに憧憬しており天界で住まうことに不満はなかったものの、やはり自分の在住していた世界で日常を過ごせなくなると、心に穴が空いたように心痛してしまう。

 

アイリ「理不尽な出来事は人生の中で何回も起こると思う。 自分の力じゃどうしようも解決できない事もある。 本当は異世界の出来事に無闇に手出ししない方がいいのかもしれないけど、そんなの今更だよ。 今までだって翔琉殿やピースハーモニアの手助けしてきたし、今だってこうやって異世界に来て関与する筈のないモンスターをハンターの如く狩猟してるんだし。 あたしは、敵味方関係なしに誰かを助けることが出来るなら、迷わず手を差し伸べたいの」

 

アンドロマリウス「未熟故の思考だ。 私達は既にこの世界を滅ぼそうと目論んだ大罪人だ。 更には貴様を死に追いやった当の本人を許すと?」

 

アイリ「確かに、あたしはあんたのせいで人間としての生は終わりを告げた。 …許せるッ!」

 

リョウ「…こんな荘重な雰囲気やのに、ホンマにブレへんな」

 

アイリ「いやーあたしって寛大だよね! スカイドン並に重々しい雰囲気は好きじゃないからね。 兎に角、あたしは例え相手が敵だろうと、救える者は救いたいの。 悪を裁くのは確かに大事なことだよ。 でも何でもかんでも力任せでいくのはどうなのかなって思ったんだ。 今回の場合は理由が理由だから、あたしも共感できるって言うか…そんな感じ!」

 

アイリは自身の境遇とアンドロマリウス達が置かされている境遇と照らし合わせていた。

多少誤差はあるものの、自身の生まれた故郷である世界に戻ることが出来ない辛さは痛感できる。

 

天使にとって悪魔は敵対する存在なため、いつかは対峙し力をぶつけ合わなければならない時が来るのは避けられない運命だろう。

だがそれは後に起こり得る事柄であり、今ではない。

ならば、その運命の時が来るまでは自身の犯した罪を償い、省察の時を設けてはいいのではないか。

 

アイリ「今回の事の発端であるルシファーは自分の力だけじゃなく、異世界の物であるクラウソラスを持ち込んで使ってるし、それで世界を乗っ取るか滅ぼそうとしたんでしょ? ショッカーとかそこら辺の悪の組織と同じような事をしてるんだったらルシファーも立派な犯罪者ってことだから、時空防衛局の出番になる。 ですよね、ユンナさん?」

 

ユンナ「まあ…その世界のたった一人で起こした暴動と反乱ではありますが、異世界の貴重な代物を持ち込んだだけではなく、その世界に住まう者達を数多の異世界に散乱するまで追いやってしまうことは、確かに罪になりますわね。 異世界に多大な影響を与えかねませんから」

 

アイリ「…とのことです。 自分達の住む世界の出来事だから何とかしないといけないところだけど、今回の件は時空防衛局に一任しておけば問題ないと思うんだよね」

 

ベレト「我々が手を下さなくともよいというわけですね。 確かに効率的ですね。 しかし、我々はあなた方の手を借りるなどあり得ませんよ」

 

アイリ「だっしゃしょかあああああああ!」

 

ベレト「!?」

 

リョウ「うわびっくりした! 急に大声出さんといてくれ」

 

アイリ「ごめんねごめんね~。 悪魔のプライドなんか知らないけど、自分達の世界が乗っ取られたり崩壊するよりかは遥かにマシでしょうが! 意地を通せば窮屈だって聞いたことあるし、アンドロマリウス達の状況が好転することはないと思う!」

 

アンドロマリウス「状況が好ましくないのは目に見えている。 ………本来ならば拒絶するのだが、利用価値は充分にある」

 

ベレト「なっ…アンドロマリウス!?」

 

良い意味で我を通す颯爽なアイリの姿を見て心を動かされたのか、アンドロマリウスの警戒心が緩んだ。

 

アンドロマリウス「元人間の小娘の指示に従うわけではない。 私は慚愧するかもしれないが、サタン様が築き上げた世界を失うよりかは遥かにマシだと思えただけだ」

 

アイリ「アンドロマリウスにも大事なものがあるんだね」

 

アンドロマリウス「不服だが、今回は貴様の口車に乗せられてやろう」

 

握手を求めようと、巨大な右手は出さず左手を前に差し出した。

あらゆる種族を毛嫌う悪魔を説得できた達成感に浸ったアイリは笑みを浮かべながら差し出された手を握り返そうと手を伸ばす。

 

まさか本当に悪魔の心情に変化を齎すことが出来るとは夢にも思わなかったため、リョウと驚愕と同時に大きく感心した。

自分を死に追いやるだけでなく転生させられる悲劇と呼べる境遇にさせた元凶を許すなど、大抵の者が決断できないだろう。

必ず憎悪する念と遺恨を晴らしたいといえ念が湧き上がる。

アイリにも僅かながらそのような念があったのではないか、それは定かではないが、アイリは敵対する因縁の相手さえも救いの手を伸ばしている。

 

リョウは恐怖心すら払い除け、妄言を吐かず本音で向き合う寛大な心を持つアイリを誇らしく思った。

アンドロマリウスの手へ伸びるアイリの繊手を見届けようとしたが、一瞬の変化を見逃さなかった。

 

体のあらゆる汗腺から汗が吹き出る。

アンドロマリウスが差し伸べた手に微弱ではあるが邪悪な気配を感じ取ったから。

誰がどう動いても間に合わない、指と指が触れ合うであろう刹那。

斟酌した癡鈍な自分を呪い、力を発動させるため左目を黄金色に染めた。

だがそれよりも俊敏に動いたユンナが縮地とも言える迅速な足裁きでアイリを押し退けた。

 

何が起きたかも分からぬアイリは地面に倒れるも、直ぐ様自分が先程まで立っていた場所に視線を向ける。

視界に映っていたのは、最悪の光景。

アンドロマリウスの手から伸びた邪悪なエネルギーの刃がユンナの胸を貫いていた。

あまりに唐突な展開に、アイリは尻餅をついたまま仕切りに屡叩くことしか出来なかった。

 

アンドロマリウス「ほう、流石だな。 私の心を読んでからの神速と呼べる動き、見事だ」

 

ユンナ「あなたに、褒められても、嬉しくないですわね。 ごふっ!」

 

心臓を一突きにされ激痛が体を迸る中でも必死に口を開くも、吐血し足の力が抜け始め片膝を地に着けてしまう。

致命傷を負ったユンナに戦闘を続行するなど不可能だというのは素人から見ても判断できる。

もう相手にする必要がなくなったユンナを蹴り飛ばし、残虐で邪悪に染まる瞳がアイリを見下した。

 

アンドロマリウス「甘いな小娘。 我々悪魔が容易く他者の提案を飲むと思ったのか? 浅はかな考えは死を招くことになるぞ」

 

震え上がる程に冷ややかな凍てつく視線がアイリを突き刺す。

口角を上げ邪悪に笑みを浮かべるその様は、正に悪の権化そのもの。

 

武力を振るうことのない和平交渉は成立したと思った矢先に起きた惨劇に固まるアイリに巨大な右手を伸ばしかけるが、リョウが間に入りアルティメットマスターを抜刀し斬りかかった。

軽々と振るわれる剣は全て見切られ、腹部に強烈な蹴りが入れられたことにより一度後退しアイリの横へ並んだ。

 

アイリ「リョウ君……ごめんなさい。 あたしが僅かに希望を抱いたばっかりに、ユンナさんが…!」

 

ユンナが致命傷を負ったことによるショックで錯乱状態に陥りそうになるが、抑え込むようにリョウが優しい口調で宥め始める。

 

リョウ「アイリは何も間違えてなんてあらへんよ。 例え悪人であろうと、因縁の相手だろうと許そうとするその心意気は誰にでも出来ることやない。 ただ、今回ばかりは相手が悪かっただけじゃ」

 

剣を握り締める手には血が滲む程の力が込められる。

アイリの和解したいという純情な慈悲を無下にした行為に義憤を燃やすリョウは一息付くと再度言葉を発する。

 

リョウ「こいつ達は根本的にわし達とは思考が異なるってことや。 アイリには申し訳ないけど、覚悟を決めろ」

 

リベリオン「言葉で伝わらなければ、力付くで理解させるだけよ」

 

シャティエル「アイリさん、彼等は平和を望むつもりなど毛頭ないようです。 致し方ありませんが、参りましょう」

 

何事も武力による争いだけで事を終わらせるのはよくない、自身の考えは決して間違いではないと自信を持って頷ける。

しかし、悪魔は残虐非道で怜悧狡猾な種族だと改めて思い知らされた。

甘い考えがなければ、ユンナが負傷することはなかったのではないかと後悔の念に駆られるが、今は猛省するべきではない。

 

和平しようとした自身を止めず賛同してくれた仲間がけじめを付け戦おうとする意に反することはしたくない。

何より、これ以上彼等のような、天界だけでなく数多の異世界に混沌を招く存在を野放しにしてはいけないから。

 

深く息を吸い、腹の中にまで溜め込んだ空気を吐き出す。

覚悟を決め、けじめを付ける。

嘆いている暇など微塵もない。

今やるべきことは、目の前の敵を力を駆使し捩じ伏せるのみ。

 

アイリ「仕方ないん、だよね。 やってみせるよ。 もう好きにはさせないよ、アンドロマリウス。 ここであなたを、倒す!」

 

アンドロマリウス「威勢だけは一丁前だな。 いいだろう、来い、元人間の娘。 次は魂ごと消し去ってやる」

 

アイリ「やれるもんならやってみせなよ。 ただしその頃には、あんたは八つ裂きになってるだろうけどね!」

 

アイリにとっての因縁の相手との最後の戦いの火蓋が切って落とされた。




信じる者は救われるという言葉を信じます
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