ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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コロナウイルス怖いですね


第7話 スターレッスン(物理)

アイリが天使へと種族が変わり、天界へやって来て一日が経過した。

 

現実世界では決して起こることのない様々な非現実的な経験を経て、常時ハイテンションになっていたせいか、精神的にも身体的にも疲労が貯まっていた。

晩飯を食べ終えシャワーを浴び決められた自室へ行くと早々寝床に着き昏々と眠りに入ってしまった。

 

そして、転生した日から一日が経過した。

早速トラブルが発生した。

 

リョウ「おーいアイリ!起きてるのは分かってるんやから出てこい! 一日経っただけで引きこもりになるなよ!」

 

午前11時、未だに眠りから目覚めていないと思われるアイリを起こしに2階にある部屋へ向かったリョウは、 部屋の前の扉に着くなり眉間にしわを寄せた。

 

部屋の中からは銃声が聞こえ、人のものとは思えない奇声や禍々しい声が聞こえてきたからだ。

部屋の中で何が起こっているか察しのついたリョウは扉をコンコンと数回ノックし呼び掛けるが、なかなか返事が帰ってくることがない。

 

リョウ「…はぁ、強行手段として扉をぶっ壊して入ることもできるんやぞ~」

 

アイリ「あわわわ!待ってね! 今あたしはゾンビを駆逐するのに忙しいところだから…ひゃあ! レポティッツアがキモすぎるよ~! 終わったら出てくるから待ってね!」

 

リョウ「別にゲーム見るくらいなら部屋に入ってもええやろ?」

 

アイリ「乙女の部屋に入ってくるなんてダーメ! デリカシーないな~。 …あー!こっちじゃ弾がなくなっちゃったよ!」

 

リョウ「…兎に角、終わったら早く出てこいよ。 今日やるべきことを伝えたいんやから。 三分間待ってやる」

 

アイリ「無理よ! ムリムリ! あたしの実力じゃ難しすぎて進めないよ! エンドオブエタニティみたいに動き回って射てるようになればいいのに~!」

 

数分後、額に少し汗をかいたアイリがようやく扉を開け姿を現し、扉の前で仁王立ちしていたリョウにピースサインをした。

 

アイリ「はぁー、やっと終わった。 あたし勝ったよ、ブイ!」

 

リョウ「お前は起きて朝っぱらからゲームしていたのかよ。 はぁ、まさかフォオン様が現実世界にあるアイリの私物を送り込んでいたとは思わなかった」

 

デリカシーがどうとか言っていたが、扉を開けたときにはっきりと分かる程部屋の中が見渡せてしまっていた。

 

最初に目に入ったのは、テレビとその前に置かれてあるPS3だ。

視認はできてはいないが恐らく他の多々あるゲーム機器は何処かに収められているのだろうと考察したが、無駄なことだと思い考えるのをやめる。

 

アイリ「フォオン様にはマジ感謝だよ! こっちに来てからゲームとかなかったらどうしようかなって思ってたんだよ! なかったら今頃あたしはカラータイマーを取られたジャックみたいに萎んじゃってたよ」

 

リョウ「へいへいそうかい。 じゃあさっさと私服に着替えてリビングに来いよ」

 

アイリ「もうスルースキルが高いんだから~。 着替えてくるから、絶対に覗かないでよね! もし覗いたりしたら、『千鳥』をお見舞いするからね!」

 

リョウは軽く手を振り遇い、背を向けリビングへと向かっていった。

アイリは頬を膨らませ、リョウの背を見ながら愚弄するかのように舌を出し部屋の中へ入った。

 

数分後、私服に着替え寝癖がついた髪を直したアイリがリビングに入ってきた。

 

テーブルにはリョウが準備しておいた香ばしい匂いがする食パンが準備されていた。

席には既にリョウとカイが座っておりアイリを待っていた。

 

カイ「アイリ、おはよー」

 

アイリ「あはよう、カイ君。 朝から純粋な心を持つ可愛い男の子に挨拶してもらえるなんて、ショタコンなら鼻血もんだね」

 

リョウ「アホなこと言ってないで冷めないうちに早くパン食えよ。 ジャムは何がいい? リンゴ、オレンジ、イチゴ、ピーナッツと色々あるみたいやけど…。」

 

アイリ「じゃあイチゴで。 飲み物は牛乳でお願いね☆」

 

棚からジャムを取ってきたリョウに笑顔でウインクをして頼むアイリ。

リョウはアイリの殴りたい笑顔を見て若干額に青筋を浮かべ握り締めた拳を上に上げるのを堪え、冷蔵庫から牛乳を取り、ジャムを取る際に序でに取ったコップに注ぎアイリに手渡す。

ジャムをスプーンで掬い食パンに塗り付けて食べ始める。

 

アイリ「ん~、ヤミヤミ! 美味でございます~」

 

カイ「アイリ、パン、ちょーだい!」

 

アイリ「食べたいの? いいよ、はいあ~ん」

 

アイリの隣にひょこひょこと歩いていき、大きく口を開いたカイに食パンを持っていく。

カイは大きな一口で食パンの三分の一を食べ、嬉しそうな顔を見せた。

 

アイリ「あややや~、結構食べちゃったね。 あ、口にジャム付いちゃってるよ」

 

食べたときに口に付着したジャムをアイリはティッシュで優しく拭き取った。

拭いてもらい喜ぶカイの頭を笑顔で撫でる。

 

アイリ「あたし目覚めちゃうかも~」

 

リョウ「何にだよ。 取り敢えず食べながらでいいから聞いてくれ。 今日は早速アイリの力を解放させるためにシェオルの街を出て実戦で学んでもらおうと思ってる」

 

アイリ「おっ、ホントに早速だね! クエストとかやったりするの? 初めはスライムあたりの弱っちいのでお願いね? いきなりゴーレムとか来るような敗北確定な負けゲーは嫌だからね?」

 

リョウ「んなことしねぇから。 モンスターとかは勿論外にはいたりするけどシェオルの周りには基本いないから大丈夫や。 出るとしてもシェオルを囲む壁の近くだ。 遠く離れすぎると昨日みたいに悪魔が出てきたりするからな」

 

アイリ「流石に今のあたしにはまだ戦うのは早いか。 今日の目標は…そうだな~、光の力っていうのを使えるようになりたいな。 光の力を使えるようになって応用できれば色々できそうだし」

 

リョウ「おー、もう目標を立ててたのか。

アイリにしてはそれなりに考えているんやな。感心、感心」

 

アイリ「あたしにしてはってどういうことよ!? あたしこの作品の主人公なんだから少しはしっかりしとかなきゃいけないんだから考えて当然だよ!」

 

ピコ・カイ「メタ~」

 

リョウ「ま、まぁメタいことはあまり言わない方向で。基本タブーなんだから」

 

ここできちんと止めないあたりで、リョウにはまだ甘さがあったのだった。

注意したところでアイリがネタに走ることはなくならないだろうが…。

※作者の匙加減です。

 

時間的に朝飯であり昼飯でもある食事を終えたアイリはリョウと共に家を出る。

家の目の前にある庭には、スコップを持ち庭の整備を黙々としているラミエルの姿があった。

服には砂や泥が付着しているのを見る限り、真面目に作業に取り組んでいるのが分かる。

 

リョウ「よぅラミエル、ごくろうさん。 昨日のダメージはもう大丈夫そうやね」

 

ラミエル「ったく、あんなドでかい攻撃しておいて他人事みたいによく言うぜ。 今から行ってくるのか? えらい遅いじゃねぇか?」

 

リョウ「ぜんぜん部屋から出てこずゲームをしてた小娘がいたからね」

 

リョウは細目で悪戯っぽく隣にいるアイリを横目で見る。

アイリは目線に気付き頬を膨らませそっぽを向く。

 

ラミエル「誰かなのは聞いておかないでおくぜ。 世界の監視者もこんな子の面倒を見なきゃいけないなんて大変だな」

 

アイリ「ラミエルさんまで酷いよー! あたしには仲間はいないの~?」

 

カイ「アイリ、泣かない。よしよし」

 

アイリ「う~、あたしの味方はカイ君だけだよ~」

 

嘘泣きでしゃがみこんでいたアイリをあやす様に頭を撫でるカイを抱き上げ頬をすりすりと寄せる。

カイはアイリとリョウと一緒に行きたいと駄々をこねたため連れていくことになったのだ。

ピコは留守番兼ラミエルの見張り役として家に残ることになった。

 

ラミエル「アイリはちゃんと飛べることはできんのか?」

 

アイリ「うーん、あの時は咄嗟に飛んだらできたってかんじだったから、上手くできるかちょっと不安かな」

 

昨日のように偶然とは言え、綺麗に飛べるかどうか不安がっているアイリに、リョウは手を取り優しく語りかける。

 

リョウ「心配すんなアイリ。 ゆっくりでええから、昨日の感覚を思い出してみろ。

仮に落ちそうになったとしても、わしが支えてあげるから心配すんな」

 

アイリ「昨日コマンドーみたいに落っことしてパンツ丸見えにさせたのによく言うよ~。 でも、真面目に言うあたり信じとくね。 よぉし、やってみますか。 先ずは素数を数えて落ち着こう」

 

リョウがカイを抱き抱え、アイリは神経を集中させ飛行する準備に入っていた。

畳んであった翼が展開され、ゆっくりと羽ばたく動きをし始める。

勿論人間であるリョウは自身の翼を持ってはいないので、教えることは容易にはできないが、翼を持つ存在であるラミエルは敢えて何も言わずにアイリを見つめていた。

何回か羽ばたいたとき、地面から足が離れ、少しずつだが浮き始めた。

 

アイリ「この調子なら、飛べる。 ア~イキャ~ンフラ~イ!!」

 

大きく羽ばたいたと同時に、アイリの体は宙に浮き上空へと飛んでいった。

飛翔したアイリの姿を見て歓喜する気持ちを抑えたリョウは直ぐ様背中に光の粒子の翼を展開、上空へ飛び上がりアイリの元へと羽ばたく。

アイリの元へ飛んできたリョウの支えを借りることなく、バランスを保ちその場で翼を羽ばたかせ浮遊をすることができていた。

 

アイリ「やった!YATTA! あたし今度は自分の力で飛ぶことができたよね!?」

 

リョウ「ちょっと出だしが危なっかしかったけど、できてたよ。 おめでとう、アイリ。上手くできてわしも嬉しいよ」

 

アイリ「ありがとうリョウさん! よし!このテンションで行けば何でも出来る気がするよ! 元気があれば何でも出来る!ってね」

 

リョウ「ふっ、調子ええな。 まぁちゃんと飛ぶのは初めてやろうから、自分のペースで飛んでええからな」

 

アイリ「了解!地図なき冒険が始まるぞ~! それじゃマッハ500で行くからついてきてよ! 超スピード!?」

 

刹那、アイリは目にも止まらぬ速さで門がある方角へ一直線に飛んでいった。

飛行するのが初心者とは思えないほどの速度に口を開け驚愕していたリョウであったが、すぐに気を取り直しアイリの後を追い始めた。

 

リョウ「ピコー!留守番と見張り頼むなー! ラミエル!逃げるなよー!」

 

伝言を言い、アイリ以上の速度で飛び去っていき、庭にはピコとラミエルだけが残った。

 

ピコ「逃げちゃダメだからね~」

 

ラミエル「だから逃げたりしないっつーの。 逃げねぇからそのでかいハンマーを下ろせよ」

 

ピコは既に自身の武器であるピコピコハンマーを取り出しており、見張り役として早速成すべき事を成そうと気合いを入れている。

ラミエルは渋々スコップを持ち、庭の整備に取り掛かるのだった。

 

 

~~~~~

 

 

リョウ「お前に才能があるのは分かったけど、いきなりあんなスピード出すやつがあるかよ加減を知れ。 初心者マーク付けた人が公道で180キロの速さで走っているもんだよ」

 

アイリ「凄かったでしょ? これなら頭文字Dのアーケードステージでも優勝待ったなしだね!」

 

リョウ「事故待ったなしだな。 次勝手に行ったりしたらぶっちゃうからね」

 

アイリ「女の子をぶっちゃう様なことをしていいのかな~? もしそんなことしたら、今思い付いた必殺技、『エンジェルスラップ』をお見舞いしちゃうよ!」

 

リョウ「やっぱりうざいから一発殴っとこうか」

 

アイリ「やれるもんならやってみな~♪」

 

ウインクをし舌を出すアイリに苛ついたリョウは腕を振り上げ極力力を入れずに頭を殴った。

 

アイリ「ぽにーた! う~、酷いよ~」

 

リョウ「自業自得だよバカヤロ~。 殴られないように気を付けないように…ん、あれは?」

 

飛んでいると、リョウはビルに備え付けられてあるモニターに目が止まった。

アイリも同じ様にモニターに目を移すと、画面には桃色を基調とした白色の衣装を身に纏った狐色の髪をポニーテールにした天使の少女が、マイクを片手に綺麗な歌声を響かせ踊っている映像が流れていた。

 

その美声にアイリは魅入られ、モニターに釘付けになっていた。

 

『ただいま見ていただいた映像は、全世界で活躍する天界出身の歌姫、サリエルのニューシングル、『ミルフィーユ・ハート』のミュージックビデオでした!

今月にはこの天界でコンサートが開かれる事になっており、同じWSDでもあるミケナもゲストとして登場するということで話題沸騰中です!

ニューシングルは天界の音楽店はほぼ売り切れという状態!

まだ買っていないファンの方やファンではない方も、音楽店へ急げ!』

 

流れてくる音声を聞くあたり、どれほど彼女が人気なのかが伺える。

 

リョウ「この世界に戻ってきてたのか」

 

アイリ「凄いねこのアイドル。あたし魅入られちゃってたよ。 他の世界でも活躍してるアイドルなの?」

 

リョウ「そうやで。 あらゆる世界を周り巡り、歌を歌い、夢や希望、笑顔、愛を届けるアイドル、WSDの一人や」

 

アイリ「えっと、そのWSDっていうのはなんなの?」

 

リョウ「WSDってのは、ワールド・ソアー・ディーバの略で、世界を翔ける歌姫って意味やね。 みんなは彼女達の事をディーバって読んでて、WSDはユニットの名前。

ディーバは誰でもなれるわけやないから、4人しかおらんのんよ」

 

アイリ「あんまりいないんだね。 あたしもいつかフリフリの衣装来て歌えたりできるかもね♪ キラッ☆」

 

リョウ「絶対ねぇよ。 あまりでかい声では言えないし詳しいことも言えないけど、ディーバってのは世界のバランスを保つ存在でもあるんだ」

 

アイリ「そんなに重要なんだ。 後でツイッターに流しとこw」

 

リョウ「やめいアホ!!」

 

再び放たれた拳はアイリの脳天に直撃した。

 

アイリ「るんぱっぱ! もう!冗談なのにぶたないでよ~!」

 

リョウ「冗談やったとしてもやめてくれ、マジで。 こんな極秘の事実ばらしたら時空防衛局に全世界に指名手配されちまうぞ」

 

アイリ「でも、あたしがもしそうなったとしてもリョウさんは助けてくれるんでしょ?」

 

リョウ「…まぁな。アイリを守るのがわしの役目、やるべきことやからな」

 

アイリ「かっこいいこと言う~! あたし嬉しいよ、ありがとね」

 

アイリはアイドルにも負けない笑顔を送るが、リョウは下を向き手を振り軽くあしらうように見せた。

 

アイリ「ありゃ、照れてる? そりゃあたしみたいな空前絶後の超絶怒涛の美少女に言われたら照れちゃうよね~?」

 

リョウ「…右手でぶたれるのと左手でぶたれるの、どっちが良いか選べ」

 

アイリ「ちょ、からかっただけで怒らないでよ~。 怒っちゃや~よ☆」

 

リョウ「…覚えとけよ。行くよ~」

 

リョウが先導して飛び、アイリは元気よく返事をし後に続いていった。

モニターには未だサリエルが歌っている映像が流れていた。

 

 

~~~~~

 

 

数分後、門に到着した三人は、門番であるラシエルから、最近壁の付近に出没したと言われる、ヘルハウンドという冥界から送られてきたモンスターの情報を聞き、門を通過しある程度離れた広く空いた場所に警戒しつつやって来た。

 

リョウとアイリは向かい合うように立っており、少し離れた場所にはカイが地面に座り込み二人の様子を伺っていた。

 

リョウ「力を引き出すってのもなかなか口で説明するのは難しいからなぁ。 感覚的には内に秘めてあるものを外にバッと出すようなかんじなんよ。 まぁ実戦で学んだ方が早いと思うから、先ずはガーンデーヴァを出してみてや。 たぶんガーンデーヴァを頭の中で思い浮かべて出すように念じれば実態として出てくるはずやから」

 

アイリは頷き、目を瞑りガーンデーヴァを頭の中で想像しようとしたのだが…。

 

『元グリーンベレーの俺に勝てるもんか』

 

『あの世で俺にわび続けろオルステッドーーーーッ!!! 』

 

『 俺たちは人間をやめるぞ! ジョジョ―――ッ!!』

 

『だーれが殺したクックロビン♪』

 

『君の体がそうなったのは私の責任だ。だが私は謝らない』

 

『あなたの愛に溺れちゃう~♪』

 

集中しようとすればするほど雑念が頭の中を埋めていき、ガーンデーヴァを全く想像できずにいた。

 

アイリ「あーーー!! いらないことばかりが頭の中をミキサーしちゃってるよ!」

 

リョウ「やれやれ…先が思いやられる」

 

アイリにとって無心になることが余程困難だったらしく、ガーンデーヴァを取り出すのに数分は掛かってしまった。

 

アイリ「ふぅ、やっと出すことができたよ」

 

リョウ「出すときの感覚は掴めたね? じゃあ次のステップに移ろうか。 アイリは弓の構え方はなんとなくでも分かるか?」

 

アイリ「うん。テレビとかでも何回か見たことあるから、形くらいならちょちょいのパーだよ」

 

リョウ「よし、まぁ形さえ出来ればなんとかなるような代物やからな。 ガーンデーヴァには矢がない。 矢は自らの力で生み出して使用するんや。 構えた状態で光の矢が出てくるように念じてみて。 さっきやってた思い浮かべるよりは、出てきてって念じた方が手っ取り早いかもしれないから」

 

アイリは厨二病なので、常に二次元のことを思い浮かべているようなので無心になるのは到底無理と思い考案した。

頭の中で想像するのではなく、その場に自らの求む物を出すと念じるという方法だ。

正直、考え付いたこの方法を上手くいくかはリョウ本人も分かっておらず、一か八かで実際に試そうとしており、駄目ならまた他の方法を思案すればいいという計画性のない考えだ。

 

アイリは目を閉じ弓の矢を出るよう念じると、ガーンデーヴァの弓体の両方の先端から光の線、弦(つる)が張られ、構えていた手には黄金に輝く矢が光と共に出現した。

 

今まで現実世界に住んでいたごく普通の少女が、ここまで強力な能力を瞬時に使用できるほど開花したことに、リョウはただただ驚かされていた。

無論、ガーンデーヴァに選ばれた時点で、アイリはただ者でないのは重々理解していたが。

 

アイリ「わぁ! ホントに出てきた! 以外と簡単に出てきたね!」

 

リョウ「ペースが早いな。 最初を除いて。

じゃあ、試しにわしに射ってみろ」

 

アイリ「初めて射つのにリョウさんを狙うの!? あたしが成功しちゃったらリョウさんにぶっ刺さっちゃうよ!?」

 

リョウ「的がないんやからしゃあないやんか~。 ちゃんと防ぐから大丈夫よ。何処でもええから狙ってみ?」

 

アイリ「えっと…じゃあ折角だし股間を」

 

リョウ「射ったらどうなるか分からせてやろうか?」

 

光のない目でにこやかに笑うリョウを見て思わず背中に悪寒が走る。

手は既に剣の柄にあり、何時でも刃が姿を現れる体勢に加え、気のせいか、後ろに修羅が見えたので、直ぐ様狙いを胸の中心へと変更すると伝える。

 

両腕を横に広げ当てやすい姿勢を取る。

アイリは心臓が近い部位を狙うのを躊躇しながらも標準を合わせるため微調整をする。

 

現実世界では部活には入っておらず、帰宅部だったアイリは弓の使い方は熟知はしていないとはいえ、なんとなくである見せ掛けの構えは綺麗にできており、力強く引き始める。

そして最大まで引いたところで右手を放した。

自他共に唖然とする程の高速の速さで光の矢は空を斬り裂き進んでいく。

想像を遥かに絶する速さに驚愕し反応が遅れたが、右足を大きく振り上げ、心臓を射ぬく筈だった矢はリョウの右足に弾かれ、空中を回転し地面へと落ち、光になり消滅した。

 

遠くで見ていたカイは矢を射ったアイリと矢を防いだリョウを見て無邪気に笑いながら拍手を送っていた。

 

リョウ「おいおいマジかよ…。 弓のド素人のアイリが初めて射ったのにこのスピードかよ。 流石、伝説の弓だけあって、弓のド素人や初心者だったとしても、存分に力を発揮してくれるといったところか」

 

アイリ「び、ビックリした…。 あ、リョウさん大丈夫なの!?」

 

自身が射った矢の凄さに驚愕し尻餅を着いていたアイリは勢いよく立ち上がりリョウの元へと駆け寄る。

 

リョウ「ちょっとビックリしたけど、この程度なら問題ないよ」

 

リョウの言う通り、黒のズボンが破れている程度で、矢が直撃した箇所の肌には一切傷はついていなかった。

アイリは確認のため直撃した箇所を見たが、確かに肌に傷がなかった。

だが、アイリが見たのはとても人間の肌とは思えない、銀色で光沢があるものだった。

 

アイリ「やっぱり、リョウさんの足って…」

 

リョウ「あぁ、そうや。 アイリが思ってる通り、義足なんよ」

 

リョウは太股あたりのズボンを掴み、下へ力を入れ引っ張り一気にズボンを引き裂いた。

露になった右足全体は、特殊合金で作られた光沢を放つ銀色の義足だった。

 

リョウ「昨日言おうとしてたのに忘れてたな、悪い。 ちょっとショッキングやったか?」

 

アイリ「け、結構今のは流石のあたしでもきちゃったな。 でも、ごめんなさい。 あたし何も知らずに、昨日はリョウさんの右足のことを興味津々に聞いちゃって」

 

リョウの身に何が起こったのかアイリは当然知りはしないが、災難な出来事が起こり右足を失ってしまったのは明らか。

昨日の生半可に聞いてしまった事に罪悪感にとらわれ頭を下げた。

 

リョウ「謝ることなんて何一つないわいねアイリ。 知らんかったんやからしゃあないよ。 アイリも同じ立場やったらきっとわしと同じことを思うんやないかな? だからアイリ、頭を上げてくれ。 わしはぜんっぜん気にしてへんから、アイリも気にせんといてや」

 

アイリ「う、うん。リョウさんがそう言うなら…」

 

まだ困惑はしていたが、アイリは頭を上げ笑顔を見せた。

 

リョウ「そうそう、アイリは笑っているのが一番や。スマイルスマイル♪」

 

アイリ「リョウさんがそれ言うと気持ち悪いよ~。 あたしみたいに可愛い女の子じゃないと合わないよね☆」

 

リョウ「否定できないのが腹立つな。 まぁわしの足の事は置いといて、何回か繰り返し射って練習して命中率、威力の精度を上げていこう」

 

カイ「くる! わんわん、くる!」

 

地面に座り込んでいたカイが突然立ち上がり、シェオルの反対側、延々と広がる雲海の地平線を指差しながら叫んでいた。

リョウもカイの言っていることを理解したようで、カイが指差す方向を向き、腰にあるアルティメットマスターに手を伸ばした。

 

アイリ「どうし…何か来る? あまり良くないものの気がする」

 

リョウ「大当たり。当たってほしくなんかなかったけどね」

 

少し会話している間にも、そのなにかは高速で近付き姿が目視できるほどの距離にまで迫ってきた。

 

背中からは上に突き伸びた棘のような何本もの骨、灼熱に燃える体に鋭い爪と牙を持ち感情が見えない白い眼をアイリ達に向け走ってくるのは、地獄の番犬とも言われるヘルハウンドだ。

 

ヘルハウンド達は群れとなり猛スピードで雲海を走りアイリ達の元へやってきて、囲むように陣を組んでいった。

 

カイは怯えるようにアイリに走り寄り、リョウは二人を守るようにアルティメットマスターを引き抜き戦闘体勢に入った。

 

アイリ「こいつらがラシエルさんが言ってたヘルハウンドなんだね…。 餌あげたらなついたりしないよね?」

 

リョウ「餌撒いて大人しくするなら苦労はしないよ。 今すぐカイを抱いて空中に逃げろ。 あいつら空は飛べないけど、跳び掛かってきたりするから注意してくれよ」

 

アイリ「逃げるなんてしないよ。 あたしは戦う。ちょうどいい練習台になるんじゃない?」

 

アイリはガーンデーヴァを構え、戦闘をする意思を見せる。

だが初めての戦闘に緊張し、僅かではあるが禍々しい敵に恐怖し声が震えている。

 

リョウ「馬鹿! 今日初めて修行して弓をいることができるようになったのに戦うなんて無茶だ! アイリを危険な目には合わせたくはない!」

 

アイリ「もう既に危険な目に合ってる真っ最中なんだから、なんとか切り抜けてみせるよ。 あたしから戦いたいって言ったのにバカみたいだけど、本当は戦うのが恐くて、逃げたいところだよ。 でもね…」

 

アイリは矢を召喚しガーンデーヴァを構え標準を合わせ始める。

声は震えているものの、ガーンデーヴァを持つ手は震えてはおらず、覚悟を決めた強い意思を秘めた瞳で的を見据える。

 

アイリ「リョウさんの気持ちはありがたいんだけど、逃げていちゃダメなんだよ。 逃げてるだけじゃなにも始まらない、自分の恐れに逃げてちゃ、自分に問いかけてた答えもなにも見つからず、成長することもなく後悔することになる。 戦って後悔するか、逃げて後悔するか、リョウさんならどっちを選ぶ方がマシ?」

 

アイリの恐れを感じない勇敢な真っ直ぐな瞳を見て、リョウも守るために戦う決意を固くする。

 

リョウ「…勿論、戦ってに決まってるやんか。 だが、安心しろ、後悔なんて絶対させないと約束する。 わしがサポートしてやるから、アイリは自分の戦い方で全力を尽くせ!」

 

アイリは力強く頷き、お互い背中を合わせ背後の敵を任せる様に構え、アイリにとっての初陣が始まろうとしていた。

 

 




休日が暇なおかげで小説を書くのがはかどりますね
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