ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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決着!
短かったようで長かった…


第79話 アイリVSアンドロマリウスVSダークライ 後編

アンドロマリウス「やはり貴様は悪魔にとって厄介極まりなく、危険な存在だ。 あの場で殺し損ねた私が不甲斐ない。 一人の貴様など取るに足りない、眇眇たる存在、この場を貴様の墓場にしてやろう」

 

アイリ「死ぬつもりは毛頭ないよ。 それに、あたしは一人じゃない!」

 

地を駆け抜けながら『ファイブストレートアロー』を繰り出す。

 

百戦錬磨の悪魔であろうと、先刻とは比較にならない光の一矢を受ければ致命傷に成りかねない。

舌打ちをしつつ空中を舞い踊るように飛び交う光の矢から距離を取り回避に徹する。

 

アイリ「逃がさない! 『サンダーボルトアロー』!」

 

上に向けられ放たれた矢は蒼空を覆い尽くす木々の枝に直撃する寸前で稲妻へと変化しアンドロマリウスへと降りかかる。

回避に専念していたアンドロマリウスは真横に生えている大木をへし折り稲妻へ放り投げ相殺し、闇のエネルギーで蛇を大量に生成し、『狂舞蛇撃』を繰り出す。

光の矢を落としながら迫る禍々しい光線が迫るも、アイリは回避しようとはせずその場に止まったままだった。

 

まるで回避する必要がないかのような、迫り来る闇に毫も恐れぬ勝気な姿勢と表情。

虚栄を張っているのではなく、実際に回避する行動を取らなくても済んでしまうから。

だが、今から発動させようとする技は、試したことのないもの。

一発本番なので無謀とも言えてしまうだろう。

 

アイリ「みんなが信じるあたしを、自分を信じる!!」

 

友や仲間に支えられ心身共に強くなれた自分の力を信じ、光の力を増幅させ技名を叫ぶ。

 

アイリ「『天使の加護』!」

 

アイリの周囲に漂う光の粒子が前方に集束し盾となり、闇の光線を完全に受け止めた。

 

凄まじい威力を持つ遠距離攻撃でもいとも簡単に防ぐ最強の盾。

天使族の中でも最上位に当たる四大天使の承諾がなければ手にすることも叶わなければ、扱うことすら許諾されない特上の技。

アイリは四大天使に『天使の加護』を授けられたわけではなく、リョウが使用していたものを頭の中で思い描き、形として表現しただけ。

並大抵の光の力では実現不可能な、他者に比べ桁外れな力量を誇るアイリだからこそ形にできた芸当だろう。

 

アンドロマリウス「まさか加護を発動させるとは。だが便宜を得たところで私に勝てると思っていないか? 思い上がりも甚だしい。 試しただけの紛い物など粉砕するだけ!」

 

『狂舞蛇撃』を発動させたまま飛翔しアイリに接近、光の粒子目掛け『愚者殺し』を連続で放つ。

重さと速さを兼ね備えた一撃が粒子の壁に激突し、光と闇のエネルギーが周囲に霧散する。

絶対防御を誇るとされる『天使の加護』とは言え、アイリが発動させたそれは似て非なるものと言っても過言ではない。

重い一撃を何発も防げる程の耐久力はなく、数発の拳の内の一撃が粒子の壁を破りアイリの華奢な体へと迫る。

 

咄嗟に『エンジェルリフレクション』を展開し防御に徹し、ガーンデーヴァを一度手放し斜め前に滑り込むように見事な足捌きでアンドロマリウスの懐に潜り込む。

 

アイリ「『アローランサー』!」

 

気合いの込められた手にした光の矢がアンドロマリウスの腹部に食い込み刺さる。

透かさず更なる一手を加えようとしたが、アンドロマリウスの膝蹴りが顎に直撃し、視界が大きく揺らいだ。

視界に火花が散り、気を緩めれば失神しかねなかったが、気力を振り絞り耐え抜き、後方に反れた顔を前に向けた瞬間、粒子の壁を掻い潜ったアンドロマリウスの左手がアイリの喉を捕らえた。

 

体に出入りする空気の道が塞がれ、苦痛に悶える。

酸素を求めようと狼狽していただろう、以前の自分ならば。

冷静に事の解決策を模索し、必死の抵抗として両手に召喚した光の矢をアンドロマリウスの左腕の手首に突き刺す。

力が緩まった隙に左腕を鷲掴みにし、アンドロマリウスの体を持ち上げ背負い投げを繰り出し地面へ勢いよく叩き付けた。

結愛から教わった体術の内の一つが輝いた瞬間だった。

 

自身の技を活かせる最適な距離を保つため光の粒子を纏いながら距離を取り体勢を立て直す。

浮遊していたガーンデーヴァを手にし、更なる一手を加えるため矢を番える。

 

アンドロマリウス「隙を作ったつもりか? 『ヘルタワーポール』!」

 

地面から生えた闇のエネルギーで生成された柱が天高く伸び、大木を薙ぎ倒し吹き飛ばしていく。

アイリの真下、周辺にも展開された柱の隙間からは静かに蛇達が忍び寄ってきており、獲物の息の根を止めようと牙を光らせている。

 

アイリ「厄介だなあ。 『グラスアロー』!」

 

地面に数発の矢を放つと、光の矢先が地面から生え、辺り一面を光の草原へ変化させた。

闇で生成された蛇が光の矢に触れれば消滅は免れないため、アイリに接近するのは困難となった。

牽制としての策が功を奏したので、続いてアンドロマリウス本体を射ち抜くため矢を番える。

 

アイリ「お願い、届いて! 『パーフォレーテッドアロー』!」

 

アイリの強い意思を乗せた、矢先が青く輝く一本の矢が放たれた。

頑丈で分厚い柱を易々と貫通していきながらアンドロマリウスに迫るも、胸部に着弾する直前に左手で掴み止められた。

 

アイリ「まだまだ! 追加効果のおまけ! 『スプレッドアロー』!」

 

アンドロマリウスの手中に収まる矢が突如弾け、無数の小さな矢と化し空中へと拡散した。

至近距離にいたアンドロマリウスは危険を察知したが時既に遅く、何本かの矢は上半身を中心に刺さり、光が体を焦がしていく。

 

アンドロマリウスにとって本格的に不利な戦況に傾き始め、初期の悠然としていた態度は消え失せていた。

目の前にいる元人間の天使の少女に蹂躙されそうにあり、情弱で貧弱だった筈の相手に本気を出さなければならない現状と自身に苛立ちさえ覚える。

 

進捗のある運命に乗っていた筈だったが、何の前触れもなくアイリの光の力が急上昇するという予想不可能な出来事が起こってしまい、頭で描く理想は崩壊し大きく脱線することになった。

今からでも巻き返し、目の前に居る明確な脅威となった少女に確実に潰すため更に闇の力を高める。

 

アンドロマリウス「『フールイーター』!」

 

右手に蛇の頭部の形をしたエネルギーを宿し、闇の柱を潜り抜けながらアイリ目掛け猛進する。

周囲に配置された蛇の口からは『狂舞蛇撃』も繰り出されていた。

数の暴力ではなく、的確に逃げ道を塞ぐ計算された無茶苦茶な攻撃。

 

アイリ「『天使の加護』!」

 

だが今現在のアイリは最強の盾とも呼べる『天使の加護』がある。

アイリの周囲に漂う白い粒子は迫り来る光線の軌道上に集結し、全ての光線を消し去っていく。

四方八方から遅い来る攻撃に見向きもせず、肉薄してくるアンドロマリウスのみに集中することが可能となった。

打破すべき相手だけにしか注意を向けることができ戦闘を有利に運びやすくなったのは大分向上したと言える。

 

アイリ「『スクリューアロー』! からの~『光弓三日月斬』!」

 

光の渦を纏った矢を放つと同時に弓を光の刃と化し地面を強く蹴り飛翔する。

アイリの先を行く矢がアンドロマリウスの右手に着弾すると同時に光の渦が蛇の頭部の形をしたエネルギーを削り取り始める。

切削され威力が減退していくも、自慢の豪腕の力量の前にはたった一本の矢など脅威には程遠い有り触れたもの。

身を翻し回転した力を使用し矢を弾き飛ばしアイリに猛進する。

 

光の刃と蛇が激しく、速く衝突する。

何度も、何度も、何度も。

どちらかが退くまで、どちらかの隙が生じるまで、只管に熾烈な攻撃を繰り返す。

 

アイリ「はあああああああああああああああああああああ!!」

 

アンドロマリウス「はあああああああああああああ!!」

 

見てるだけで圧倒される気迫ある絶叫にも似た声が森中に響き木霊する。

二人の攻撃による余波により木々が薙ぎ倒され吹き飛ばされていく。

普段なら獲物を発見しては哮り立っているモンスターさえも、二人の闘気を肌で感じ縮こまり近づこうとすらしない。

 

空気や大地が振動する凄まじい接戦だったが、唐突に終結へと向かう。

 

アイリ「くっ………!」

 

僅かだがアイリの光の力が緩んだ。

引き続き行われた戦いに、遂にアイリの体が悲鳴を上げ始めていた。

事を終息させ、誰かのために戦いたいと願う強い意思とは裏腹に、体は動かなくなっていく。

 

好機を逃す筈のないアンドロマリウスは蛇の口で弓を鷲掴みにし、アイリの横腹に鋭い蹴りを入れる。

あばら骨が折れたと同時に、折れた骨が臓器を傷付け、激痛の上から激痛か上乗せされる。

 

体が痛みで塗り潰される。

だが痛みにより覚醒したのか、若しくはアドレナリンが放出されたのか、アイリの力が緩むどころか痛みを堪えるため手に入る力が上がったようで、蹴りにより吹き飛ばされなく未だに弓を掴み続けている。

体の内から上がり喉を通ってきた血を吐き出しながらもアイリは技を放とうとしたが、アンドロマリウスは弓を掴む腕を大きく凪ぎ払い、アイリを未だに現存する『ヘルタワーポール』へと叩き付けた。

闇のエネルギーが背中全体に直撃し、天使特有の純白の翼が削られ抉り取られそうになる。

再度訪れた別の痛みに声を上げながらも耐え、『天使の加護』を発動させ背中に接触する柱のダメージを抑え、足を白い光の粒子に乗せ滑走するように柱を登る。

 

アイリ「『アローランサー』!」

 

一度弓を手放し両手に召喚した矢をアンドロマリウスの肩に目掛け投げ付ける。

一本は右腕により弾かれるも、もう一本は見事肩に命中した。

アイリはそのまま弓を掴み『シャインアウト』を放ち蛇を消し去ると同時にアンドロマリウスを後方へ飛ばし、足を地に着かせた。

 

アイリ「まだまだー!! 『レインアロー』!」

 

悲鳴を上げ、警鐘を鳴らす体に鞭を撃ち光の力を発揮する。

 

碧空に打ち上げられた数本の矢は瞬時に十数本の矢となり地上へと降り注ぐ。

流星雨にも似た連撃。

回避という手段を選択させない広範囲に及ぶもの。

防御に徹する手段しか与えられなかったアンドロマリウスは巨大な右腕を盾としその場を退けようとした。

軍勢とも呼べる数量の矢が降り注ぎ、アンドロマリウスの右腕や周辺の地面に突き刺さる。

 

矢先は確かに強固な右腕に刺さってはいるものの、やはりダメージは通ってはいなさそうだった。

だがアイリの目的はこの攻撃でダメージを与えることではない。

脳内で瞬時に思い描き練った次なる一手となるための前座に過ぎない。

 

アイリ「『アローエクスプロージョン』!」

 

技名を叫ぶと同時に、着弾した光の矢は技名を聞き

待ってましたと言わんばかりに一斉に爆発した。

十数本の矢が爆破し、閃光が森を照らす。

至近距離で強烈な光を浴びせられたアンドロマリウスの体からは白い煙が立ち込め浄化されていっているのがアイリの目でも確認できた。

 

アンドロマリウス「随分と力が増幅しているな。 貴様達の世界で言う異世界転生の物語の主人公になったような気分で舞い上がっているのだろう?」

 

アイリ「天使に転生してからはあたしも興奮して、これから起こることにワクワクしてたよ。 今だって、これから起こる摩訶不思議な冒険にはワクワクしてる。 でも、あたしは主人公になったつもりなんてない。 あたしは無数にある世界の中で生きている一人。 偶然にも特殊な力を得たってだけで、何処にでもいる女の子だ!」

 

アンドロマリウス「惜しい…そして愚かだ。 僥倖を手にし、特別な力を所持していながら、他者のために力を振るう。 宝の持ち腐れでしかない。 誰かのために力を振るい称賛されることで喜びを得ているだけにも見える」

 

アイリ「あたしの持つこの力をどう使うなんてあたしの自由! 誰かが決めていい権利はない! それにあたしはちやほやされるために戦ってるんじゃない! あんた達みたいな輩から誰かが傷付いたりしないためにあたしは戦ってる! 確かにあたしの力を使えば、現実世界に類似した世界を滅ぼすことも征服することも可能だろうけど、恫喝するだけが全てじゃない!」

 

アンドロマリウス「綺麗事をほざくな。 何でも倫理的に行動すれば良いというわけではない。言葉で通じぬと最初から分かっているのであれば、武力で制圧し服従する。 邪魔をする者がいるのであれば、殺す。 今の貴様が、その対象だ」

 

アンドロマリウスも連戦により体力を大幅に消耗しており、一撃でアイリを仕留めるために闇の力を極限まで高め始めた。

 

同様にアイリにも力を発揮するのに限界が訪れていた。

体が疲労困憊とエネルギー切れで萎靡する前に、決着を付けなければならない。

気を抜いてしまえば、光の力を過剰に行使し過ぎた反動で真面に行動は出来なくなることは分かっている。

力を満足に継続出来るかどうかも不慥かなので、迅速に勝利を掴まなければならない。

転生を果たし過ごしてきた日々の中で得た矜持を保ち、痛手を負った体を気力で無理矢理動かす。

 

アンドロマリウス「気弱な一面を晒け出していれば痛みを味あわず楽になれたものを。 誰の役にも立てず、誰かの足枷となっていることにも気付かぬまま悔いを残し消え去れ。 『コンティネン卜アンガー』!」

 

地面が膨張し、闇の力が亀裂から漏れ始める。

以前、翔琉達の住まう世界で放った際には村一つを丸ごと消し飛ばした強力で派手な一撃。

今更回避を行う余裕がないとは言え、回避を行わなければ死に直面してしまうのは明白。

だがアイリは強い視線を向け、真っ正面に向かい飛翔する。

 

アイリ「それでもあたしは、あたしを信じるあたしを貫く!」

 

気高く凛々しいとは言えないかもしれない。

だがその強い意思は華奢で戦士とは思えぬ少女を鋭く彩っている。

転生させられた一般人の身なため、戦士ではないのは明瞭。

それが今は、誰かや何かのために戦っている。

意思と想い、勇気を力に変えて。

 

アイリ「『シャインガイザー』!」

 

即興で思い付いた新たなる技を発動させる。

 

地面の至る場所から眩い光の粒子が間欠泉のように吹き出し、地中から漏れる闇を僅かに中和していく。

光に包まれながらも、闇が地中で弾け、地盤を弾き飛ばす。

以前のものと比較すれば、光の澎湃により威力が半減されてはいるものの、絶大な威力なことに変わりはない。

『シャインガイザー』を盾とするよう通過し光に包まれながらも猛進する豪胆な振る舞いでアンドロマリウスと距離を縮めていく。

 

勿論ノーダメージでこの場を退けた訳ではない。

僅かでも負傷しないよう湧き出る光に沿うように上に駆け上がりながら飛翔していたのだが、その際に溢れ出る闇が容赦なく足に直撃してしまっていた。

左足は掠れる程度で済んだが、右足は完全直撃を果たしてしまい、艶のある美脚には全体的に痛々しい傷が刻まれ、出血により赤く染まっている。

右足に激痛が走り、力を入れようにも動く感覚が掴めないことから、骨折どころか粉砕されてしまっているかもしれない。

 

それでも、アイリは止まらない。

アドレナリンが分泌しているせいで痛みが軽減されているというのもあるが、絶対に諦めない強い意志が体を突き動かしている。

『ファイブストレートアロー』を連続で発射し手数による攻撃で隙を作らせないよう接近しつつ大技を懐にぶつける算段で矢を番える。

 

気迫を込め矢を放とうとした直後、右肩に違和感を覚える。

視線を移すと、闇のエネルギーで生成された蛇が肩に噛み付いており、牙を体へと深々と突き刺していた。

『コンティネン卜アンガー』が発動した際に地面に忍ばせていたようで、音も立てずアイリの背後に貼り付いていたようだ。

闇を注入させられると思ったが、繰り出されたのはゼロ距離からの『狂舞蛇撃』。

闇の光線が肩を貫き、矢を掴む力を失い番えていた矢は在らぬ方向へと放たれる。

冷静に頭を回転させ、咄嗟に放った矢に追尾機能を追加させ『トリックアロー』に変換、背後に回り込んだ矢はアンドロマリウスの背中に見事命中した。

機転を利かせた一撃に怯む様子はなく、アンドロマリウスは『愚者殺し』を放とうと拳を振りかざす。

 

しかしその豪腕は振るわれることはなく、飛来した光の刃が貫かれたことにより地に落とされた。

アイリが『輝弓牙』を発動させた状態でガーンデーヴァを投擲したのだ。

先程の『アローエクスプロージョン』やその他諸々の光の猛攻を続け様に与えられたアンドロマリウス自慢である最高の武器としての役割でもある強固な腕は所々罅が走り始めており脆くなっていた。

力任せの一撃により、遂にアンドロマリウスの腕は限界を迎えた。

 

アイリ「チャンス到来!」

 

残りの体力を考慮すると、恐らく止めを刺せるのは今しかない。

この期を逃すわけにはいかない。

 

肩を貫かれ右腕が使い物にならなくなってしまったが、戦闘を続行する以外に選択肢はない。

否、選ぶ必要などなく、答えは一つ。

 

逆転の萌芽が見えたアイリは最後の力を振り絞り最大の一手を与えるため満身創痍の体に鞭を打ちアンドロマリウスの懐に素早く潜り込み腹部に掌底を叩き込む。

続いて肘で顎を殴り上げ、姿勢を低く保ち足を払い体勢を崩す。

アンドロマリウスは蛇を生成しようとしたが、アイリの『天使の加護』が降り注ぎ闇の力を行使するのを阻止した。

抵抗すら許されない状態に追い込んだアイリは豪腕に突き刺さるガーンデーヴァを引き抜き構える。

利き腕が封じられ弓をいることが叶わない致命的な弊害が生まれたが、臨機応変に対応する。

 

滞空したまま弓本体に両足を置き足場とし、矢を番え、左腕一本で矢を引っ張り全体重を後方へ掛け仰け反る。

負傷した右足に力が掛かり痛みが迸るも、お構い無しに矢を引く。

 

アンドロマリウス「一度だけでなく、二度までも絶望の底から這い上がるとは…! 人間の時の怯懦な性格に復古していれば……光の力が増幅していなければ……貴様のような半端者に……私が敗北など、有り得ん!!」

 

必勝する筈だった死闘。

自分よりも劣等な種族に敗北を与えられる屈辱に耐えられず声を荒げる。

 

アイリ「あたし一人じゃ乗り越えられなかったけど、仲間がいたからここまで来れたの! それに、あたしは転生してから、変わることができた。 成りたいあたしに成れた! でも、過去の弱いあたしを捨て去らず、その弱さも享受して、前に進み続ける! それが、『白澤愛莉』だから!」

 

満身創痍ながらも、膂力が尽きるまで矢を引き、自分が出せる最大の一撃で確実に沈めるため、殉ずる勢いで光を一本の矢に注ぎ込む。

 

アイリ「『ロイヤルストレートアロー』!!」

 

魔を葬る剽悍な一矢が至近距離で放たれる。

星の様に瞬く煌々とした光だが、太陽の様に巨大で精悍、そして暖かな光。

魔を、悪を、漆黒ですら白く染め上げ焼き焦がす一筋の光芒がアンドロマリウスを貫く。

森林全体が大きく揺さぶられ、陽光が射し込まない暗黒が支配する場所でさえたった一つの光により純白に照らされた。

 

数秒という片時と言える間だが、一分、十分にも感じられる、騒然たる戦闘が嘘のように静寂が周囲を支配する。

光が晴れると、アイリの最後の一矢により周囲の木々が跡形もなく吹き飛ばされた、森林であった更地が広がっていた。

上記の通り跡形もなく消し飛ばされ、周囲に木々が生えていたと説明しても耳を疑うだろう。

 

半径100メートル程削られ更地となった中央には尻餅を着き荒い呼吸を繰り返しているアイリと、最大出力の一矢を直撃したことにより下半身と右腕が消失し上半身のみとなったアンドロマリウスが諦念が籠った目で横たわり碧空を見上げている。

 

アンドロマリウス「………私が、負けたというのか。 このような、戯れ言ばかりほざく、矮小な小娘に…」

 

不本意ながらも受け止めなければならない現実を確認するように呟く。

 

アンドロマリウス「何故…負けたといのだ? 幾つもの群雄を葬り去ってきた私が…何故………?」

 

誰かが応答するわけもなく、譫言のように呟き、その言葉は宙へと消えていく。

 

アンドロマリウス「サタン様…申し訳、ありません。 私は、あなたの安否も確認出来ぬ、まま…この世を去る」

 

アンドロマリウスの体からは光により浄化され、体からは湯気のように白い煙が出続けており、体が徐々に消滅し始めていた。

 

アイリ「待って…あたしは、まだ、あんたに聞きたいことが、あるの…」

 

虫の息となりつつあるアイリが呼吸を整えながらも地を這いアンドロマリウスに詰め寄る。

 

アイリ「幾つか、聞きたいことが、あるの」

 

アンドロマリウス「私が、貴様に質疑応答すると思っているのか?」

 

アイリ「先ず、一つ目、冥府界でルシファーが何をしたのか、教えて欲しい」

 

アンドロマリウスの言葉が耳に入っていないかのように言葉を紡ぐ。

アイリも喋るのがやっとで、気を失っても不思議ではない程、限界を迎えている。

 

事切れる前に、消滅を果たす前に、どうしても聴取しておかなければならないことがあるから、気を失うわけにはいかない。

 

アイリ「もう一つは…あたしの、死んだあの日、どうして…リョウ君と結愛さんがいたのか」

 

アンドロマリウス「…その様子だと、世界の監視者から色々と語られていないことが多いようだな」

 

アイリ「リョウ君は、あたしに隠してることが多いって、思った。 だから、人の心を覗き込み、過去を武器として精神攻撃を行い、痛罵を浴びせさせる悪魔のあんたなら、何か、知ってると思った…」

 

リョウは確実にアイリ自身が知らない過去を秘匿している。

 

先程の精神世界で聞こえた声の主が何者かは不明だが、懐かしい感覚に陥った事から、記憶にはないが過去に遭遇したことがある誰かということ。

 

アイリが現実世界でウリエルとアンドロマリウスの戦いに巻き込まれたのは偶然なのだろうが、その場にリョウが運良くその場に居た、若しくは早急に駆けつけたのだとしても偶然という言葉で片付けるには納得がいかない部分がある。

今までのリョウの態度を見ていても、アイリに執着し過保護になる点が目立つ。

 

天使と悪魔の抗争に巻き込まれ守りきれず転生することになってしまったことに責任を感じるのは理解できるが、現実世界で暮らすただの一般人相手にここまで律儀に接するだろうか。

時空防衛局にその後の対処を委任することも可能だった筈だ。

何から何まで面倒を見てくれるのは有難く疑うことなどしたくもないし罪悪感が湧いたが、色々と疑問を感じざるを得ない点が多い。

 

リョウ本人が口を割くとは到底思えない。

ならば敵とは言え、アイリの過去を覗き見ることが可能な悪魔ならば、懸案を何か聞き出せるのではないかとアイリは目論んでいた。

 

アンドロマリウス「……良いだろう。 分かる程度だが、冥土の土産に、教えてやろう」

 

アイリの心に渦巻く怜悧狡猾な思考に気付いたのか、それともまた別の何かを企んだのか、アンドロマリウスは口角を上げた。

 




いよいよアイリの過去に触れていきます。
正直主人公なのに影が薄くなっているので深掘りしていかないと(笑)
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