ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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【悲報】仮面ピコ、五月病になる

毎日しんどいね!笑



第83話 ルシファー ~天界に降り立った秀才~

アイリ達が今を生きる現代から遡り、約600年前。

 

場所は天界。

見渡す限り美しくも殺風景な景色が広がる雲の平原。

雲一つない碧空はこの世の広大さと美しさを具現化しているかのようだ。

天使や悪魔を非科学的だと豪語する世界からすれば、決して有り触れたものではないのは明瞭だろう。

 

心地好い風が優しく吹くなか、突如二つの影が上空を高速で横切り、烈風が巻き起こる。

目を凝らさなければ視認することすら困難な速度で飛翔する物体は、純白の翼を生やした人形の何か。

言わずもがな、天界に住まう天使だ。

 

一人は上に逆立っているツンツンした茶髪に、額には赤い鉢巻きを巻いてあり、黒色のシャツに赤いジャケット、両手には手の甲に黄色の十字架のデザインがある赤い手袋をした青年。

 

一人は流れるよな月白色の首筋まで伸びる髪に、紫紺色の長袖のシャツと黒色のズボン、茶色のブーツを着こなした青年。

 

?「おい、ちょっととばしすぎなんじゃねえのか?」

 

?「何を言っている。忌まわしき悪魔が跋扈し悪巧みを企てているんだ。迅速に対処しなければならないだろう」

 

?「相変わらず真面目だね~」

 

天界に現れた悪魔の対処に向かっていたのは、ラミエルとルシファー。

 

現代に生きるルシファーは片翼が漆黒に染まり、頭部からは湾曲し伸びる角が生えており、禍々しく近寄り難い黒く淀んだ雰囲気を醸し出していたが、天使だった頃のルシファーは微塵も邪となる気配を感じさせない。

両翼は一切の汚れのない、日光により煌めく純白の翼を羽ばたかせる、誰から見ても清爽な雰囲気をする好青年だった。

 

ラミエル「見つけた!悪魔兵にヘルハウンドの大群だ!」

 

ルシファー「虚飾した雑兵ばかりだな。即行で片付けるぞ。遅れを取るなよ」

 

ラミエル「誰に向かって言ってんだ?鸚鵡返しだぜ!」

 

ルシファーは剣を抜刀し構え、ラミエルは電気を纏った拳を構え、自分達の世界に侵犯してきた敵に突貫していく。

天界に住まう者、無知で罪のない人間が住まう現実世界を守護するという強い思いは変わらず、両者の心の奥で燃え、闘志となり力へと変わっていく。

 

 

~~~~~

 

 

ルシファー「………しかし、最近は悪魔の襲撃が頻繁だな」

 

ラミエル「何か目的でもあるのか?にしてはシェオルに攻め込んでくる気配もねえし…」

 

ルシファー「俺達の目を掻い潜り拠点の成り得る場所を把握している可能性もある」

 

ラミエル「本格的に天界へと侵略が進んでいるのかもしれないな」

 

ルシファー「来るべき時に備えなければならないかもしれないな。悪魔の勢力は衰えることもなければ数を減らすこともない。この戦況では、何千年と続くこの戦いに終止符が打たれる日が来るとはとても思えないな…」

 

絶えず襲い来る脅威は倒しても倒しても、一向に変化することがない。

無尽蔵に増え、減ることを知らない。

天使と悪魔の戦いの歴史は古く、連綿と続いている。

大きな戦いは幾度となく行われてきたが、どちらかが劣性に陥るわけでもなければ、どちらかが討ち滅ぼされることもない、良い意味でも悪い意味でも天界と冥府界の調和が保たれている。

果たして現状を維持しているだけで、天界という世界の運命を変えていけるのであろうか。

天界に生きる天使や現実世界に生きる人間にとっての真の幸福の時は未来永劫訪れることはないのだろうかとさえ思えてしまう。

 

ルシファーの悲観的な感情を読み取ったのか、ラミエルはルシファーの肩を組み語り掛ける。

 

ラミエル「大丈夫だって!俺達が諦めずにいりゃ何かしらの変化は起きていく筈だぜ!歩みを止めれば変化は何一つ起きはしないし、運命は変わらないってゼルエルも言ってたしな!」

 

ルシファー「……そうだな。ゼルエルの想いを無下にしたくはない。挫けず前に進むしかないな。兎に角、今回の件をミカエル達に報告しよう」

 

頷いたものの、百戦錬磨を潜り抜けてきた最愛の戦友の言葉を受け止めたが、気分は晴れたわけではない。

掛けられた言葉を呑み、無理矢理自分に言い聞かせたに過ぎない。

 

ルシファー(悪魔の根絶…俺が生きている間に果たされるのだろうか?)

 

自分や天界の武力に限度があるのは百も承知なのだが、何か策がないかと脳内で謀を巡らすのだった。

 

 

~~~~~

 

 

ルシファーは正義感の強い謹厳実直な天使で、四大天使にも引けを取らない実力の持ち主だ。

正義感が非常に強く、仲間や友のためならば迷わず行動し、闇雲に猪突猛進せずその場でどのような行動が適切なのかを思考し処置する冷静さも持ち合わせている、非の打ちどころのない誰からも信頼されている人物。

 

天界を侵犯しようと企み、罪のない現実世界に住まう人間に危害を齎す悪魔を殲滅するため日々鍛練を行う努力家で、敵味方問わず折り紙付きの実力。

培われてきた力は戦場で遺憾無く発揮され、冥府界全体に認知され、サタンフォーからも危険視されている。

天使と悪魔、長きに渡る相容れぬ因縁に終止符を打つ、天界に光明を差す希望の星として期待の眼差しを向けられていた。

 

ルシファー自身は周囲の評価のことは気にも留めておらず、大仰なことだと思っている。

ただ世界を脅かす害となる存在を排除するだけ。

悪魔という脅威に怯えることなく誰もが幸福に暮らせる世界。

夢物語かもしれない、絵空事なのかもしれない。

それでも行動を起こさなければ何一つ変わらない、ゼロのままだ。

前進することもなくただ立ち止まり傍観するなど皆無。

誰かのために毅然と尽力する思いだけは誰にも劣らない。

最愛の戦友であるラミエルと共に、身が果て散華するまで戦い続けると胸に刻み付けている。

 

ルシファーは出産されたと同時に母親とは死別しており、父親は生を享ける直後に異世界での出来事に関与しその件で絶命してしまったため、ルシファーは肉親の顔を知らない。

孤児院で何気ない日常を過ごしていた頃から、ルシファーは幼少期とは思えぬ力を発揮していた。

数百年過ごす天使と力比べをしても、苦戦することなく勝利する規格外の力は、幼くして開花された才能だった。

類を見ない鬼才に恐れる者もいなければ忌諱する者も現れる筈もない。

悪魔に対抗し得る存在が、幼く成長段階の早期にして発見された秀才を手放すなど皆無。

神の与えし恩恵として手塩にかけて育てられ、天使族の未来を築き上げる希望として未だ健在し続けている。

 

生まれながらの秀才とは言え、幼子に教養とは程遠い過酷な鍛練は怠ることはなかった。

個々と比較にならぬ力に自惚れることのないよう、血の滲むような努力は欠かさない。

四大天使自らが鍛練の内容を組み、時にはルシファーと一対一の戦闘訓練も行っていた。

端から見ればよく死なずに修練に臨めるなと言えるもので、反発し戦うことを放棄してしまうのではないかという心配の声も上がった。

しかし周囲の声も杞憂に終わる。

ルシファーは一切弱音を漏らさず、課せられた鍛練を着々と熟していった。

 

感情が平板化し機械的に処理する空虚な存在にはならず、誰にでも隔たりなく語り掛ける温和な性格だった。

人望が厚く、周囲から信頼されている人柄の良さは、戦闘の並外れた実力も相俟って大人からも耳目を集めるほど。

誰から見られても完璧と呼べる秀才。

 

そんな彼だが、玉に瑕な部分もある。

正義感が強い故か、自己犠牲が激しい一面が。

己の体や事情等をお構いなしに、仲間や友を助ける無鉄砲な行動が目立つ。

仲間や友を思いやる想いが人一倍強い故の行動は正義感が溢れる美徳なものだが、知人から見るとたった一つしかない命を省みず捨て去り窮地に飛び込む様を見ていると憂慮に堪えない。

 

四大天使は勿論、幼い頃から親睦の深いラミエルからも己の粗末にしてまでの助力は控えるよう注意を受けることも多々ある。

本人はその場で首を縦に振るものの、やはり正義感が勝ってしまうのか、時折勇猛果敢に駆け付けては仲間を庇い負傷してしまう。

命の危機に陥る程ではないとは言え、彼自身が負傷し苦しんでいるのは確か。

 

しかし彼はどれだけ傷付こうが、決して後悔はしていない。

己の信念を貫き通し、他者のために剣を振るい、盾となる。

心に灯る気炎が燃え尽きるまで、天界を守護する。

悪魔を殲滅するその時まで、散華する覚悟で。

 

数百年と修練を積み、幾度となく悪魔との戦闘を繰り広げてきたが、進捗はほぼないに等しかった。

時にサタンフォーが襲来する緊急事態にも陥ったが、総力を上げ撤退という結果で済んでいる。

毎回冥府界へと追い返すだけで、悪魔を根絶させるまでに至らない。

数を減らせど、毎度群を成して攻め入ってくる。

悪魔兵だけでなく、ヘルハウンドやグレムリンといった雑兵を引き連れ進軍し続ける。

 

ルシファーは嫌でも脳内に疑問が浮かぶ。

減退することを知らない敵との終焉は訪れるのだろうか。

守護するばかりでは何も変化がないのでは。

遥か太古から延々と続く天使と悪魔の闘争は絶えることなく今後とも続いていってしまうのだろうか。

 

運命を変えるのは強い意思と強い力。

自惚れているわけではなかったが、ルシファーは己にはそのどちらも備わっていると自負していた。

自分は天界も天使も、現実世界に住まう人間の命運を握っている。

己の手で、長きに渡る闘争を終結させる。

 

無謀であろうとも、一人で冥府界に先駆し僅かでも悪魔を殲滅する。

例え己のこの身が朽ち果てたとしても、最期まで戦い抜き散華するまで。

 

真の平和を願う正義感は人知れず膨張し続け、異様とも取れる執着を生み出す。

胸に宿る他者に劣らない正義感は地獄の業火の如く燃え盛り、身を焦がすことになるとは、当の本人は気付くことはない。

 

 

~~~~~

 

 

ルシファー「今回はヘルハウンドの群れだけか…」

 

所々に岩肌が見え隠れする雲の平原にヘルハウンドの群れが十数体出現したという報告を受け、ルシファーは単独で出撃した。

現場に到着すると有無を言わさずヘルハウンドと交戦を開始、ものの数分で殲滅を果たした。

雑兵のみの出現に油断が生じたのか、後方から迫る数人の悪魔兵の存在に気付くことができなかった。

 

ルシファー「ちっ…!」

 

己の未熟さを恨みつつも、回避は間に合わないと佩刀していた剣に手を伸ばし防御を行おうとする。

 

ルシファー(間に合わない…!)

 

思った以上の接近を許してしまい、超人的な力を持つルシファーでも間に合わないと察した。

腕を交差し防御の体勢で構えたが、攻撃は訪れなかった。

 

突如真横から強大な魔力の光弾が飛来し、悪魔兵の頭部を木っ端微塵に吹き飛ばした。

凄惨な光景に息を呑む暇もなく、続け様に他の悪魔兵も同様に命を散らしていく。

瞬く間に戦闘が終了し、ルシファーは光弾を放った張本人を視界に入れる。

 

愛用の銃、パントクラトールを手に持つ、筋骨隆々な屈強な体のサングラスを掛けた巨漢。

並外れた威圧感を放つ男は人間ではないと直感で理解できる。

実際に人間ではなく、魔族の中でも頂点に位置する、魔王。

 

アイリが生きる現代においても魔王としてその座を占めている、『終焉魔王』の異名を持つ、アルシエル。

 

アルシエル「…天使共が住まう都市から離れたこのような辺境な地に天使がいるとは…どのような用があり放浪している?」

 

ルシファー「それは此方の台詞だ。何故魔王が天界に降り立っている?場合によっては全力で排除することになる」

 

アルシエル「全力を持ってしても、我には及ばない。威勢を張るのはよせ。…どのような手段を用いても、我には敵わないということは、お前が十分理解できているのだろう?」

 

アルシエルの発言が的を得ているのは確かで、ルシファー一人の実力では敵わない。

互角という勝負にすらならない、雀の涙同然だ。

実力は天と地の差があるが、天界を守護するためにも退くわけにはならない。

 

ルシファー「重々承知でいる。質問に答えてもらっていない。魔王様はどのような用件で天界へ訪れたんだ?」

 

アルシエル「通りすがりだ。亜空間に身を潜めるエクリプスを追跡し、時空の裂け目を通った先がこの世界だったというだけだ」

 

アルシエルから少し離れた場所には、エクリプスと思われる幾人かの屍が無造作に転がり、雲の平原を赤く染め上げていた。

 

ルシファー「どうやら発言に嘘偽りはないようだな」

 

アルシエル「我は偽言など吐かん。…この世界に用はない…去ろうと思ったのだが…」

 

不快そうに目を細める先に、新手がいた。

特徴的な骨が肥大化したような強固で巨大な右腕は一度見ると忘れないだろう。

 

サタンフォーの一人、アンドロマリウスが不気味に笑みを浮かべ立っていた。

 

ルシファー「アンドロマリウス…!?」

 

アルシエル「…上位の悪魔か」

 

アンドロマリウス「そこの天使に用があったんだが、異質な存在が紛れているようだな」

 

アルシエル「異質なのは貴様も同然だ。天界に赴く存在ではない低俗がこの地に降り立つ権利はない。…早々にこの世界を去れ」

 

アンドロマリウス「『終焉魔王』、貴様に言われる筋合いはない。ところで、そこの天使」

 

魔王が放つ威圧感を諸ともしないアンドロマリウスはルシファーへと視線を移す。

どのような用件で自分の元へと訪れたか不審に思うルシファーは身構える。

 

ルシファー「サタンフォーが俺に何の用だ?」

 

アンドロマリウス「敵意を向ける必要はない。俺はお前と戦いに挑むつもりはない」

 

ルシファー「なに?」

 

アンドロマリウス「取引に来たのだ。悪くない条件であることを約束しよう」

 

唐突に天界に訪れ何をほざいているのかと呆気に取られた。

会話は可能とはいえ、倫理観があまりにも違いすぎ会話の続行すら叶わず、今の今まで悪魔陣営から有無を言わさず、毎回力押しで襲撃してくる。

態々間諜しに来る必要もないと言うのに、何故単体で自分に取引という理由で会いに来たのか到底理解が出来ない。

取引と言ってはいるが、録なものではないと峻厳な態度は崩さない。

 

ルシファー「俺が素直に応じると思っているのか?それに、取引ならば俺ではなく四大天使に持ち掛ければいいと思うんだが?」

 

アンドロマリウス「四大天使に用はない。用があるのは貴様一人だからな。取引というのは、今後天界に攻め入ることを諦める変わりに、貴様が悪魔族へと堕天するというものだ」

 

ルシファー「……正気か?俺がその条件をのむと本気で思ったのか?」

 

アンドロマリウス「貴様一人の犠牲で天界が豊かになると思えば、安い条件だと思うぞ。お前は常に己の身を案じず、粉骨砕身の心構えで我々と戦ってきたのだろう?死と直面するよりも、悪魔へ成り下がる方が楽だと思わないか?」  

 

ルシファー「っ……真面とは思えんな」

 

アンドロマリウス「その割には、一瞬迷いが見えたぞ。貴様に堕天する覚悟があるのであれば、私達はお前を迎え入れよう」

 

ルシファー「………」

 

アンドロマリウス「嘘偽りでないことは約束してやろう。頭の片隅にでも入れておけ。3日だけ時間をやろう。また伺うその時にまで答えを出しておけ」

 

用件だけを告げたアンドロマリウスは踵を返し、翼を広げその場から去った。

緊張感は解かれたものの、ルシファーは先程の出された条件が脳裏に蔓延り離れなかった。

悪行を働くため、自分を利用し焚き付けて来たと考えても不思議ではない。

普通であれば鵜呑みにすることなく聞き流すところだが、自分でも妙だと思う程聞き入ってしまった。

 

アルシエル「心が揺れ動いているようだな」

 

熟考していたところにアルシエルが口を開いた。

 

ルシファー「俺が迷っていると?馬鹿馬鹿しい」

 

アルシエル「悪魔も言っていたが、己の心を誤魔化しても無駄だ。…貴様のような傑出した天使が、悪魔の誘惑に耳を傾けるとは、以外だな」

 

ルシファー「……俺はただこの世界を悪魔から守るためどのような手段を用いるか模索しているだけだ」

 

アルシエル「…今日で新たな選択肢が増えたのは僥倖というわけだな」

 

ルシファー「あのような提案を受け入れるには値しないと言っただろう!」

 

己の迷いを否定したいが故に感情が高ぶり、剣を召喚しアルシエルに剣先を向けるも、アルシエルは退けることもせずその場に佇み言葉を続ける。

 

アルシエル「…ならば、何故迷う?何故躊躇う?天界の運命を大きく左右する事柄に、僅かながらでも心が揺らいだ。悪魔の策略かもしれぬが、一縷の望みに掛け粉骨砕身の覚悟で賛同しようとした。…だが、生まれ故郷や友や知人を裏切る反逆行為になり、結果的には天使族に影響が出ることを恐れ、僅かでも悪魔の口車に乗せられた己の未熟さを否定したいがために、現在溢れ迸る激情を発散させ我に剣を向けた。…間違っているか?」

 

自分が思っていることを言い当てられ表情が強張り押し黙ってしまう。

心を見透かされているのかと錯覚してしまう程、的確に言い当てられた。

長年生き長らえているからなのか、それとも魔王としての風格なのか、どちらにしても非常に優れた観察眼だ。

 

ルシファー「………俺は、この天界に平和をもたらしたいだけだ。だが…どうすれば長きに渡る戦いに終止符を打てるのか、分からない」

 

アルシエル「…悠久な事柄を終わらせるには、それ相応の覚悟と犠牲が伴う。…何も失わず得ることが出来るという甘い考えは通用しない」

 

ルシファー「貴様なら、どうする?」

 

アルシエル「我ならば、その話に便乗するであろうな」

 

逡巡することなく即座に答えた。

 

アルシエル「信頼を得て、敵陣へと踏み込み、情報を収集する。敵を知ることは勝利への近道と言える。敵陣で収集した情報を味方の陣営に漏洩すれば、侵攻する際に防御の手薄な場所を突くことも可能となり、逆に侵攻を受けた際に何処から敵が出現し攻め入って来るか対策することも可能となる」

 

ルシファー「合理的ではある。しかし、信頼を得ると簡単に言ってくれるが、悪辣な事をするなど、俺には…」

 

信頼を得るためとは言え、完全に悪魔に染まりきることは出来ない。

天使だけでなく現実世界の人間にも多大な影響を与える悪辣な所業を、天使である自分が行うなど言語道断。

 

アルシエル「…貴様、そのような生温い考えで歴史を覆す厖大な事を成し遂げられると思っているのか?」

 

空気が一瞬にして変化した。

痺れるように肌がピリピリと痛み、目の前に立つ魔王の覇気に押され仰向けに倒れそうになるのを必死に耐える。

サングラス越しからでも此方を睨んでいるのが分かる、サタンフォーをも凌駕するであろう凄みがある。

向けられた剣を素手で掴んだと思うと、研ぎ澄まされた刃は原型を止めない程に変形し鉄屑と化した。

 

アルシエル「…先程言ったことが聞こえなかったのか若造。悠久な事柄を終わらせるには、それ相応の覚悟と犠牲が伴う。生半可な想いで挑めば、取り返しの付かない失敗へと繋がるというのが、分からぬのか?…それとも、貴様が天界という世界と、この世界に住まう者達の想いは、その程度の取るに足りない存在なだけか?」

 

ルシファー「違う!俺はこの世界も、この世界に住む者全員を大切に想い、守りたいという一心だ!これだけは否定しない!」

 

アルシエル「…ならば、行動で示すことだな。軽薄であるのならば、端から世界を変える等とほざかないことだ」

 

もう話すことはないと悟ったのか、若しくは時間の無駄だと思ったのか、思考は読み取れないが、アルシエルは背を向け時空の歪みを生成した。

 

アルシエル「…我から言わせれば、貴様はまだ稚拙だ。だが、僑軍孤進できる頭脳と実力は兼ね備えてあると見れる。…どのように行動を起こせば、悪魔らしく振る舞えるか、その矮小な脳を働かせ考えろ」

 

助言めいた言葉を最後に与え、アルシエルは呑み込まれるように時空の歪みの中へと入っていき姿を消した。

 

自分はどうするべきなのか思索するも、何が正しいのか答えは出ない。

己の信念を貫くか、他人から貰った助言に従うか。

誰かに答えを問いたいが、答えは一つではない。

質問を投げ掛けた人によって答えは違うだろう。

人の数だけ答えがあると言っても過言ではないのかもしれない。

どのような答えを出されても、最終的に答えを導き出すのは、己自身しかいない。

 

ルシファー「俺は………俺のやり方で運命を変えてみせる」

 

手練手管により教唆扇動されているような気もしないでもないが、天界に住まう大切な仲間達の為に行動を起こしたいという想いだけは変わらない。

魔王からの助言により、揺らいでいた想いは固められ具現化された。

 

 

───天界と冥府界、天使と悪魔の戦いを終わらせるためならば、幾らでもこの身を捧げよう。

 

 

揺るがない決然は、もう誰にも折られることはない。




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