ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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大分遅くなりましたが、明けましておめでとうございます!
今年もマイペースに投稿していきますがよろしくお願いします!


第86話 Enyuo ~闇愛でる少女~

エニュオ「お喋りは終わりにしましょう。今からあの世に行く人の話なんて聞いてても意味ないもの」

 

ルシファー「ティルフィングを手にするには殺めるしかなさそうだな…」

 

リョウ「救い出す手は無いに等しいな。世界を難なく滅ぼす程の闇に捕らわれてしもうてるんや。例え光の剣クラウソラスを使ったとしても、闇を払うどころか一緒に焼ききってしまう結果になるだけや」

 

ルシファー「致し方ない。大義のための犠牲になってもらおう」

 

この世界ではリョウも勿論、光の存在であるルシファーは夾雑物でしかない。

生かすという選択は更々ない。

 

殺意と漆黒の闇を放ちながらエニュオはティルフィングの切っ先をルシファーとリョウに向ける。

今から殺し合いを始める者として、お互い会話は不要ということだろう。

 

可能であればエニュオをティルフィングの呪縛から解放してやりたかったが、リョウの簡潔な説明を聞く限り不可能だと己に言い聞かせる。

天使として道を踏み外した者を裁くのも天使としての使命なのだろうが、今の自分は天使の道を踏み外した異端の存在。

可能であればエニュオを生存したままティルフィングを回収するのが理想な形なのだが、本気で堕天するのなら、慈愛を振り撒き救いの手を差し伸ばしている場合ではない。

 

尤も、生殺与奪を考えている余裕がないというのが本音だが。

 

エニュオ「あらゆる世界を滅ぼしてきた私をたった二人で倒せるっていうの?」

 

リョウ「わしはそういう輩とは何度も対峙しとる。一人で勝てたことはあまりないけどな。あと、ルシファーの実力は本物や。剣の腕だけならユグドラシルメシアとも対等に戦える程にな」

 

ルシファー「買い被りすぎだ。俺はお前達の足元にも及ばない未熟な存在だ。まだまだ研鑽を積まなければならないことも多い」

 

エニュオ「真面目な天使ね。戦う者ならば、自分の限界を決めず日々鍛錬し己を磨き続けなければならないものね」

 

ルシファー「それは貴様の戦士としての志か?」

 

エニュオ「そうよ。いえ、そうだった…かしら。今の私は、私のいた世界の戦士ではないもの。今の私は、心の溝を埋めようと力を振るうだけの怪物、なんでしょうね」

 

リョウ「自分で分かっていながら力を振るうか。…憐れやな。最終的には後悔することになるで」

 

エニュオ「過ちだと気付いていながら繰り返すことは愚か……そうね、その通りね。でもいいの。私はもうやり直せない。戻ることなんて出来ない。それに、願ってもいない。あなた達に私の苦痛を理解してもらおうとも思っていないわ」 

 

自戒する気は更々ない時点で、改心する見込みはなさそうだと察することが出来る。

自暴自棄にも近い思想を見ていると憐れでしかない。

 

ティルフィングは持ち主の心の奥底に秘めている激情や負の感情を引き出し、本能のままに力を振るい、世界を闇に染め上げる恐ろしい剣。

所持者を宿主とし、闇を振り撒き、最終的には所持者をも闇に染め更なる闇を吸収しその力を増大し続ける。

意思の弱い者は剣に認められることは先ずないが、認められる強い意思と力を持つ者がティルフィングを扱えたとしても、心は徐々に闇に侵食されていき、気付かない間にティルフィングの闇に寄生されている状態と陥る。

魔物を全滅させたい強い想いと、その世界の中でも圧倒的な力を持ち、剣の力に魅了したエニュオは漬け込まれ、気付かぬうちに奸悪な思想を抱き世界を闇に染め上げる凶悪な怪物へと変貌させられしまった。

 

エニュオはある意味、剣の毒に侵されてしまった被害者と呼べるのかもしれない。

 

ルシファー「お前がどれだけ苦艱したか俺は知らないが、剣の力に魅了され取り込まれる軟弱な輩に俺が負ける道理はない」

 

エニュオ「ほざいてなさい。その純白な翼も心も闇へと沈めてあげるから」

 

手にするティルフィングが禍々しく黒く輝き、闇が放出される。

周囲だけでなく、空一面すらも闇一色に染められる。

光の力を有するルシファーはこの場にいるだけで不快な気分になり吐き気を催す。

悪魔と比にならない闇が触れ絡み付くように全身の肌に触れ、無意識に一歩下がる。

闇という概念そのものの根源とも言える程にまで濃密で、恐れを抱いていると嫌でも認めざるを得なかった。

人間であるリョウでさえも邪悪な気を前になんとか踏ん張っている。

 

エニュオ「『ダークゲイル』!」

 

ティルフィングを華麗に振るい、闇の斬撃を飛ばす。

風のように速い斬撃をルシファーは紙一重で避けきり、剣を手に低空飛行で接近を試みる。

 

ルシファー「はあっ!!」

 

止むことのない斬撃の嵐を巧みな飛行能力で潜り抜けエニュオに向けて剣を振るうも、容易く受け止められ、そこから目にも止まらぬ剣戟が繰り広げられる。

他者が入り込む合間すら与えない電光石火の剣戟。

漆黒の闇の空間の中に耳の奥にまで響く刀剣が衝突し合う甲高い金属音が響き、ぶつかり合うことで生じる火花が漆黒を照らし出している。

 

エニュオ「あなた、なかなか剣の腕があるのね」

 

ルシファー「貴様も、人間の割りには相当の実力を持っていると断言できる。血が滲む努力をしたのが伝わる」

 

エニュオ「そうでもしなければ魔物を滅ぼすっていう願望は叶えられなかったもの。『ダークネストルネード』!」

 

ルシファーの剣を押し返し、漆黒の竜巻を発生させる。

咄嗟の判断により後方へ退避したが、即座に防御態勢の構えを取った。

迫ってきたのは闇の竜巻でもなければエニュオ本人でもなく、剣の形状をしたエネルギー。

ミサイルのように宙を自在に駆け回りルシファーに襲い掛かる。

 

エニュオ「私の『ソードダンス』から逃れられるかしら?」

 

ティルフィングの能力ではなく、エニュオ本人が使用する技。

ティルフィングを振るうと同時に軌跡を描くように体現された剣のエネルギー体は自分が目標と定めた相手に向かい宙を飛翔する。

 

ルシファーが防戦一方の最中、エニュオは心の臓目掛け剣先を向け突きの構えを取りながら接近してくる。

風よりも速い突きだが、それよりも早く反応したルシファーは体を斜め後ろに翻し、回避すると同時に剣のエネルギー体を自身の剣で弾いた。

ただ弾き飛ばしたわけではとどまらない。

巧みな剣捌きにより、エネルギー体はエニュオ目掛け弾き飛ばされた。

敏捷な判断力と身のこなしによる機転を利かした反撃。

思わぬ攻撃に突きの構えから横に一閃し自らが放ったエネルギー体を斬り裂く。

 

エニュオ「なかなかやるじゃない。でもまだ終わらないわよ」

 

周囲に新たにエネルギー体を出現させ、再度ルシファーに接近を試みたが、数多の小型のミサイルが降り注ぎ、浮遊するエネルギー体を撃墜していった。

 

リョウ「わしがおるの忘れてないか?」

 

義足である右足からミサイルを発射したリョウはアルティメットマスターを抜刀し、エニュオに肉薄する。

エネルギー体をミサイルと『ソードカッター』で相殺しつつエニュオに体重を乗せた剣を振り下ろす。

重い一撃をエニュオは受け止めることなく、身を横方向に翻し僅かに掠れる程度に剣を当てることで軌道を反らした。

何もない空を斬るだけに終わったリョウの横腹にエニュオの鋭い回し蹴りが炸裂する。

女性の力量とは思えぬ強烈な蹴りを真面に受けたリョウは表情を歪めながらも地に足を着け踏ん張り、剣を手放し両手でエニュオの足を鷲掴みにする。

自身の矛となり盾でもある剣を手放し行動を縛る選択肢を取ったリョウの型破りな行動は、剣士として予想できない範疇にあった。

 

リョウ「やれルシファー!」

 

力任せにエニュオの体を軽々と振り回し地面へと叩き付ける。

細身な体からは出る力とは到底思えない膂力により地面に亀裂が入り、エニュオは凄まじい衝撃を受け視界が歪む感覚に陥る。

地面に仰向けに倒れ伏したエニュオにルシファーが追撃を加える筈だったが、勝利へと近付くための一撃はやって来なかった。

 

ルシファー「ぐっ……!」

 

ルシファーは険しい表情で片膝を着いていた。

境遇を理解したリョウは舌打ちをし足を掴んでいた両手を手離しエニュオから距離を取るも、時既に遅し。

エニュオが放った『ソードダンス』の餌食となり、体を斬り刻まれる。

防御体勢に移っていたため掠り傷程度で済んだので良かったのだが、勝負をこちらに有利に運べる好機を逃したのはあまりにも手痛かった。

 

エニュオ「効いてきたようね。天使にとってはこの空間は苦しい以外のなんでもないでしょうね」

 

ルシファー「この程度で…倒れる、ものか…!」

 

ルシファーを苦しめる元凶は、周囲に霧散し蔓延る闇。

光の存在であるルシファーにとって、闇一色に染められた戦場は毒の霧の中に居続けているのと同様。

徐々にではあるが確実にルシファーの体力を蝕んでいる。

 

リョウ「相性は最悪なのは分かっとった。だけどこれしきの困難でくたばる奴やない」

 

ルシファー「あぁ……その剣をいただくまで、倒れる、わけにはいかない」

 

肌を焼き、脳に打撃を加えられているかのような苦痛が荒波のように押し寄せるも、ルシファーは立ち上がる。

 

エニュオ「何があなたを立ち上がらせるか知らないけれど、私の知ったことではないわね」

 

他人の願望など自分には関係はない。

自身を排除しようと迫る者は誰であろうと容赦なしに抹殺する。

いずれ虫の息と成り果てる天使を地獄に落とすため、ティルフィングを構え駆け出す。

 

未だ闇への抵抗に抗えぬルシファーは剣を杖変わりに立ち上がるのがやっとのようで、反撃するなどもってのほか。

俊敏な足さばきにより間に入ったリョウにより一閃は防がれる。

 

エニュオ「先にあなたを始末した方が懸命なようね」

 

リョウ「ルシファーの願いのために動いとるからね。本人が死んだら本末転倒なんよ。それに、お前をこのまま野放しにはしてられへんからね」

 

エニュオの獰猛なものとは違い、静かに殺意を燃やす眼光が鋭くなる。

距離を取られる前に『ソードエクスプロージョン』を発動させエネルギーの爆発を起こす。

お互い衝撃により体を仰け反らせるもほぼ同時に体勢を整え、地を蹴り肉薄する。

 

エニュオ「『ソードダンス』!」

 

リョウ「『ダンシングソードカッター』!」

 

互いが召喚した無数のエネルギーで形成された剣が宙を縦横無尽に舞い、地や公園の遊具を斬り刻んでいく。

接近すれば命の保証はない斬撃の嵐の中でも、二人の攻防は止むことはなく続いている。

 

エニュオ「あなたもそろそろ闇が心を侵食してくるんじゃないかしら?」

 

リョウ「生憎と、ホンマに僅かやけど『力』を発動させとるからティルフィングの闇は効かへん!」

 

エニュオ「あー、成る程。それが噂に聞く危険極まりない『力』ね。でも完全に解放しないあたり、何かしらの理由で使うことが出来ないのね」

 

図星なのか、リョウは返答せずエニュオの剣戟を交わすことに集中する。

沈黙を貫き通すあたり自分の意見が的を得ているのは確定だろう。

剣の腕だけでもリョウに勝利することは充分可能であると推測したエニュオは攻撃の勢いを更に強めた。

 

自身の憎悪等の感情を形にしたかのような牧歌的な過剰な攻撃。

洗練された無駄が一切ない剣捌きにリョウは防戦に徹する他ない。

風よりも速い電光石火の一閃が暇なく放たれるため、攻撃の隙を見つけることもできなければ作り出すことも不可能だった。

 

エニュオ「『世界の監視者』って二つ名があるくらいだからそれなりの強者かと思っていたのだけれど、拍子抜けね」

 

リョウ「剣の腕は、アレクやルシファー達と比較しても劣るけえね。でも、技だけは多彩なんよ」

 

防戦だけでは戦局は傾かないと踏んだリョウは一先ず牽制のために『ソードエクスプロージョン』を発動させる。

しかし同じ手が二度も通用する相手ではなかった。

爆発の威力を受け流し、横に回転しつつ爆風を上乗せさせた強力な一閃がリョウの横腹目掛け放たれる。

命中する直前、リョウの左足の膝から光の刃が真上に出て漆黒の刃を受け止めた。

 

リョウ「多彩って言うたやろ?こんなこともできるんよ」

 

初見では対処しようもない、思いもよらぬ戦闘能力に怯んでしまったが、追撃が与えないためにも闇を放出させ即座に後方へと下がる。

『トリックソードビーム』を放とうとしていたがリョウだったが、流石に至近距離で大量の闇が体を蝕めば少なからず影響が出るため、深追いせず潔く退却せざるを得なかった。

これ以上闇が広がらないよう『天使の加護』を発動させ闇を押さえ込んだ刹那、ルシファーが翼を広げ駆け出し、漆黒の宙を駆け大きく後退したばかりの

エニュオに剣を振るった。

 

エニュオ「もう復活したの?なかなか屈強なのね」

 

肌を焼かれ、頭を殴られるような苦痛に苛まれているせいか、精悍な顔付きとなっている。

尋常ではない闇に蝕まれながらも、ティルフィングから溢れ出る漆黒の闇にも負けず劣らない光を纏った一閃がティルフィングの闇を払う。

仄かな温もりを感じる淡くも勁烈なる光はエニュオにとって害でしかない。

対処する行動よりも嫌悪感が勝り、反射的に目を瞑り手で光を遮光した。

 

エニュオ「くっ、目眩ましか……!」

 

ルシファー「卑怯とは言わせない。立派な戦法だ」

 

エニュオの胴体を上から斜め下に斬り、更に斬り上げから再度斜め下に斬り、渾身の力を込めた一閃をお見舞いする。

胸と肩に装備されていた堅牢な甲冑さえも斬り裂き砕け散る華麗な剣技は、見るものを圧倒する。

斬られている本人でさえも目を見張るものがあるが、悠長にしている間など一刻もない。

 

エニュオ「私の自慢の甲冑を壊さないでくれないかしら?」

 

甲冑の防御力のお陰で綺麗な肌に傷を付けられることはなかったが、次に来るであろう一手を受ければ間違いなく負傷する。

自身を囲うように『ダークネストルネード』を発生させ、ルシファーを天高く吹き飛ばす。

更に『ソードダンス』を風に乗せ、竜巻に呑まれているルシファーに向け放った。

闇の力を諸に受け続け顔を歪めながらもどうにか風に乗り体勢を整え剣撃を弾き続けるが、ただ風に乗り動いているわけではなく、不規則に宙を舞うため予測することが難儀でしかない。

優雅に宙を漂う蝶のような動きに翻弄され、ルシファーの体には斬り傷が幾つも作られていく。

 

エニュオ「うざったいから早くくたばってくれないかしら?」

 

ルシファー「悪いが俺がくたばる未来は存在しない」

 

エニュオ「だったら私がその未来を作り上げてやるわ」

 

人とは思えぬ超人的な跳躍力でルシファーへ接近してきた。

重くも迅速な一閃を受け止め、光と闇の力が衝突仕合う。

相対する力はどちらも敗北を譲るつもりはなく、白と黒のエネルギー波を周囲に撒き散らし、闇の竜巻を消し飛ばし空気や大地を振るわせる。

 

エニュオ「ティルフィングの闇を相手にここまで渡り合えるなんて…あなたなかなかやるわね。でも、一歩及ばないのが現実よ」

 

互角かと思われていた戦局は、エニュオの会話の直後ひっくり返った。

ティルフィングが怪しく黒く輝くと、倍以上の闇が溢れルシファーを直接呑み込んでいく。

ティルフィングに秘めたる闇は無尽蔵ではないかと実感させられ、絶望感が満ち溢れる。

 

リョウ「やられるにはまだ早いんやない?」

 

闇を弾きルシファーの盾となるよう直線上に割り込んできた白い粒子の束、『天使の加護』によりルシファーは事なきを得た。

その隙に光の斬撃と共に衝撃波を放つ。

距離を保つために放っただけなので大した効果は得られなかったが、それで充分だった。

 

ルシファー「俺の作った勝機を掴め!」

 

リョウ「いいですとも!」

 

声が聞こえた方角は左でもなければ右でもなく、遥か上空。

漆黒の闇が周囲を支配する空間の中で、一筋の光となり急降下してくる影が見えた。

 

エニュオ「竜巻の中央なら影響はないから上空からの奇襲というわけね。お見通しよ!」

 

音速を超える勢いで急降下する影にエニュオは闇を纏ったティルフィングで防いだ。

そこで漸く違和感に気付いた。

重力に従い急降下してくる勢いにしては、あまりに軽すぎる一撃。

ティルフィングに衝突し甲高い金属音が鳴り響き、宙を舞う何かが視界に映る。

 

輝かしい金色の剣、アルティメットマスター。

紛うことなく、リョウが愛用する剣。

 

エニュオ「っ、囮か!」

 

リョウ「もう遅い!」

 

先程『天使の加護』により抉じ開けた竜巻の隙間を掻い潜りリョウが姿を現し、懐から手にした拳銃の引き金を引く。

闇の風の奔流を突き破って来るなど、大抵の者ならば絶大な攻撃に身を引き裂かれるか、膨大な闇により精神に異常をきたすかもしれない、自殺行為にも等しい。

最早彼は人間を超越した何かではないのかと思ってしまい引いてしまうレベルだ。

 

推測が及ばない特攻に反応が遅れたエニュオの右肩を風のように早い弾丸が掠める。

続けて頬にも鉛の弾は掠り、更にもう一発は脇腹に命中。

致命傷には至らないものの、あらゆる箇所から痛みが体に奔流する。

 

エニュオ「まだ終わらないわ」

 

リョウ「威勢も一丁前やな」

 

エニュオ「褒め言葉として取っておくわ」

 

被弾した脇腹から出血しているが、退くという選択肢は浮かばなかった。

自分の生まれ育った世界の魔物との戦闘で負った傷に比較すれば可愛らしいものという狂った基準であるため、特に気にはしていないという様子。

 

エニュオにとって拳銃の対処方法は至って簡単、射線から外れるだけ。

飛行能力を有している訳でもないのに体をくねらせ宙を華麗に舞い、闇の波動を真下に放つことにより上昇しリョウに接近する。

引き金を引き銃口から火を吹き弾丸が放たれるも、先程のように意表をついた攻撃ではないため簡単に弾き落とされてしまった。

リョウが所持する唯一の武器をただの鉄塊へと変える一閃が迫る。

 

リョウ「おいおい、見落としがあるみたいやな」

 

リョウは身を翻し義足である右足からジェット噴射させティルフィングを受け止めた。

手にした物だけが武器とは限らないというのは念頭に置いていたエニュオだが、初見だとやはり対応が僅かに遅れる。

その隙を見逃さず残り一発となった拳銃の銃口をエニュオに向け勝利を冀求する思いを込め引き金を引く。

 

エニュオ「危ない、わね!」

 

銃口から弾丸が顔を見せるのとほぼ同時に顔を真横に逸らすことで最後の一発は虚しくも命中することなく宙を直進していった。

人間とは思えぬ反射神経は鍛練された賜物なのか、ティルフィングによる恩恵なのか、どちらにせよ回避に成功したエニュオは口角を浮かべ義足を押し返し『ダークゲイル』を放った。

義足を真上にジェット噴射させることで急速に真下に動かし直撃すれば一溜りもない斬撃を防ぎ、使い物にならなくなった拳銃をエニュオに向けて全力投球する。

飛来してきた物を反射的にティルフィングで防ぐことを予想してか、リョウは翼を広げ先程弾き飛ばされ未だに宙を舞いながら落下するアルティメットマスターを手に取る。

 

ルシファー「やはり俺がいなければ無理だったか」

 

リョウ「相手が剣豪やから一筋縄じゃいかへんのよ」

 

愚痴を溢す余裕があるあたり戦闘は可能だと察し、闇から解放されたルシファーと共にエニュオへと接近戦へと持ち込む。

闇の竜巻も漸く消え、行動に制限が掛けられなくなり自由に飛翔可能となった二人は天空を舞い踊るように剣を振るう。

ルシファーはエニュオに肉薄し目にも留まらぬ速度で剣戟を開始し、リョウはエニュオが途切れることなく繰り出される斬撃と闇をルシファーに直撃しないよう『天使の加護』等の技を繰り出し防御に徹する。

 

世界を包む闇が生み出した漆黒の戦場に、剣と剣が衝突することで生じる火花と、闇をも弾く白く輝く粒子が縦横無尽に宙を舞う光景は目を奪われる程にまで明媚なもの。

のべつ幕無しに甲高い金属音が響き、空気を振動させる。

双方一歩も退かぬ攻防が続き、遂にエニュオが地に足を着けた。

飛行能力を持たないエニュオが空中で不利な戦況でかすり傷一つ負うことなく立ち向かえたのは、紛れもなく自身の世界で培われた戦闘経験と膨れ上がった憎悪による復讐心がティルフィングにより力へと変換されているからこそ。

 

エニュオ「二人掛かりでもこの程度?」

 

リョウ「地の利を得たからって調子に乗っちゃいかんよ」

 

エニュオ「年寄りの忠告を素直に聞くつもりはないわ」

 

リョウ「ふん、まだまだ若いのう」

 

ルシファー「敵の助言であれ、素直に受け取るべきなのだが、まだ理解し難い年齢なんだろう。言葉を掛けるだけ無駄というものだ」

 

リョウ「…じゃあ他の言葉で揺さぶり掛けてみちゃる」

 

リョウの口角がつり上がり不気味な三日月を作り上げる。

悪魔を彷彿とさせる笑みを浮かべるも、エニュオは失笑するのみ

剣術においては実力差があるのは嫌というほど理解しているはず。

 

エニュオ「私を追い詰める策でもあるのかしら?」

 

無駄な足掻きとしか捉えていないエニュオは嘲る口調で言葉を発する。

 

リョウ「得策を思い付いたわけやないけど…このまま戦ってもお前はわし達には勝てないと断言できる」

 

エニュオ「…何ですって?」

 

リョウ「強気な姿勢を見せとるけど、ティルフィングの影響で負の感情が心に渦巻いてる。そんな不安定な精神状態でわしとルシファーを長時間相手にできるとは思えへん」

 

エニュオ「負の感情があるからなんだというの?私はこれまで幾つもの世界を渡ってきた。そして私の気の済むまであらゆる人達と戦い、殺してきた。苦戦なんて強いられたことなんて一度もない。今回も同じよ。あなた達も私の満たされない心を埋めるための糧になる」

 

リョウ「謹んでお断り申し上げるわ。心に弱さを抱えた奴は、必ずどこかで躓くものなんよ。自分ではその弱さに気付けず傷心し続けていたりするもんなんよ」

 

エニュオ「あんたの考えた私のためにもならない有意義な話を聞きたくもないし、知ったような口を利かないでくれない?うざったいわ」

 

リョウ「赤の他人やからお前の全てを分かるとは思ってへんよ。でも断片的ではあるけど、なんとなく理解できる。その負の感情は、憤怒と悲哀、嫉妬、憎悪。聞き入れ受け止める人も世界も存在せず、空っぽになった心を埋めようと無差別に力を振るうことで誤魔化しちょる。違うかの?」

 

淡々と述べる言葉が的を得ていたのか、エニュオの表情に変化は見られないものの沈黙を貫いていた。

図星なのだと言葉にしなくとも分かる。

でなければ敵の戯れ言など聞き捨て斬りかかっている頃合いだ。

 

リョウ「ティルフィングの影響もあるんじゃろうけど、絶えず溢れてくる負の感情に心が支配されちょる。誤魔化すために見境なく八つ当たりのように力を振るい心の隙間を埋めようとしているということは、本心では人殺しや破壊活動は好んで行ってないんやないかな?」

 

ルシファー「成る程。こいつは人を殺す快楽に溺れた異常者ではない。それでも人を殺め続けるのは、剣の毒に犯され心情を自身で抑えきれず行ってしまった行動に過ぎない、と」

 

リョウ「そんなとこやな。復讐を通り越して過激な思想を巡らせ自身の世界にいる人間を皆殺しにしたのは異常とも捉えれるけど、それもティルフィングにより復讐心と憤怒と憎悪が以上に増幅したことにより生じた結果やしな」

 

エニュオ「……うざったい」

 

俯き消え入りそうな声で呟くエニュオは先程の禍々しく猛然と剣を振るっていた姿から様変わりし、寂寥感に包まれている。

 

エニュオ「何も分かんないのに、喋らないで」

 

ルシファー「確かに分かりなどしない。俺はお前ではないからな。だが、理解しようと、分かり合おうと手を伸ばすことはできる」

 

エニュオ「理解しようと、ね。私がどれだけの絶望を味わったか、理解なんて到底出来やしないわ。言葉で伝わるような、簡単な事柄じゃない。いや、理解なんて出来てたまるもんですか!」

 

弱々しく意気消沈としていた表情は一変し、憤怒を剥き出しにし鋭く睨み付け、口調も荒々しいものへとなった。

 

エニュオ「何で私がこんな目に合わなきゃいけないの!?私はただ家族や居場所を奪った魔物に復讐を果たしたかっただけなのに!私なりに必死に魔物を殲滅していただけなのに、何で私があいつらと同様の存在として警戒されなきゃいけなかったの!?世界のために、私と同様に魔物に大事な人達を殺された人達のために魔物を殺し続けてただけなのに、勝手な妄想や思想の末に生み出された根拠のない噂に流され指弾されされなきゃいけないの!?今思えば世界中に生きるみんなも魔物と同じ!自分達の住む世界に害を為そうとする存在なら理由も聞かずに問答無用で力で制圧し解決しようとするなんて、私から見れば獣と一緒よ!私だって人殺しなんてしたくなかったわ!罪もない人達を殺したくなんてなかったわ!でも仕方ないじゃない!抵抗しなければ私は捕らえられるか殺されるだけ!理不尽に容赦なく武力を行使する衆愚を見ていると、私の為してきたことが徒労に終わるのだと言われているみたいで怒りが沸き上がってくる!抑え込めず感情のままに荒れ狂った!何もかもが嫌になって、邪魔になって、視界に入る人全てが敵に思えたから斬り伏せてきた!女も!子供も!見境なく!それでも私の心は何一つ満たされない。大量虐殺という大罪を犯した私自身にも嫌気が差してきた。復讐を遂げた喜びも、人を殺してきたことの罪悪感と悲しみも感じない私は、魔物と何ら変わらない。私は一生自分を許すことはない。もう自分なんてどうでもいい、どうなったっていい。満たされない心の隙間を埋めるために、私は只管に答えを求め続けてるけど、気付けばまた私を拒絶する存在を殺してる。ホント訳分かんないわよね…自分でも分かんないもの!何で躊躇いもなく命を刈り取ることができるのか…!私はこんな私自身が大嫌い!私を敵視する人達も!こんな理不尽な人生を歩ませた運命も!世界そのものも!嫌悪感しかない世の中なんて、闇で包み込んでしまった方がマシよ!!」

 

歳相応とも言える癇癪を起こし、号哭のように喚き散らかす。

心を覆い尽くし蔓延る感情が、誰の耳にも届く筈のなかった言葉が堰を切ったかのように吐き出される。

 

臥薪嘗胆してきた結末は、あまりに救いもなく悲惨なものだった。

自分のために始まった復讐の戦いだったが、自分と同じ不遇な境遇に置かれた人を救済する目的も含まれていた。

己の身を削ってでも、自分や他者の無念を晴らすため我武者羅ではあるが出来ることを為してきた。

しかしティルフィングを手にしたその日を境に、奥底に秘めていた感情が溢れ抑えが効かなくなった。

獰悪に、獰猛に、獣の如く持てる全ての力をただ激情のままに振るう。

 

自身でも過ちだと気付いていたが、もう止まらない。止められなかった。

取り返しが付かないと悟ったから。

自身でも困惑していたが、どうでもよくなってしまった。

ただ自身を満たす何かを求め、激情という荒波に身を任せることで憤怒や悲哀、憎悪、罪悪感を感じないよう誤魔化していただけなのかもしれない。

 

リョウ「自暴自棄やなぁ…。自分を追いやった世間を許せず、無関係な人まで殺した自分自身を許せない。だからそんな自分はどうなったっていい、死んでしまっても構わない、と」

 

ルシファー「だがやはり死にたくはない。生命体であれば誰もが生きたいと願う極々当たり前の願望だ」

 

エニュオ「そうよ!死にたくないに決まってるじゃない!でもここまで堕ちて穢れた私に、生きる意味なんてない!」

 

ルシファー「幾つもの世界の文明を滅ぼしてきた大罪人ならば、罪の償いとして死を与えられても何ら可笑しくはない。ただ、群衆による会談や投票により下されるものであって自らの判決で下されるものではない。お前は死ぬ必要などない。やり方を誤っただけで、罪を償えばやり直すことも可能だ」

 

エニュオ「私の生があるうちに償えるとは到底思えないわ。…私はもう、引き返せないところまで堕ちた!」

 

リョウ「…ルシファー、救済は不可能や。いい加減諦めろ。お前の中にはまだ天使としての慈悲の心が残っちょる。捨て切らんとティルフィングを扱うことなど叶わないって、まだ気付けへんのか?」

 

エニュオの心の叫びを聞いたことにより、まだ救えるのではないかと考えてしまっていた。

光の力を利用し懇篤なる言葉を連ねれば、ティルフィングの闇から解放されるのではないか。

浅はかかもしれないが、意図はなくとも助けを求める念が込められた号哭を聞いてしまえば微力を尽くしたくもなる。

天使の使命として、一人の天使として。

 

リョウ「あいつはもう誰の言葉を聞き入れたところで、変わることはない。我がとても強く真面目で責任感も強い。そういう人は未来永劫自分の罪を重く受け止めいつまでも引き摺り続ける」

 

ルシファー「それは…自分にも言えることだからか?」

 

リョウ「あぁそうや。エニュオは少しわしと似ている。だからこそ、救いたいとは思う。そうやけどそれ以上に…殺したくもなる」

 

エニュオ「ただの同族嫌悪ね。私を救えるものなら救ってみることね。天使なら…やってみなさいよ!」

 

決して救われない、救われてはいけない。

だがもし叶うのであれば、救済への道へと踏み出したい。

矛盾した想いが脳内と心を支配し、『善』だった時のエニュオと『悪』に堕ちたエニュオが見え隠れしていたが、不意に目から零れ落ちる大粒の涙が止まった。

 

その目に宿るのは、悲哀、憤怒、憎悪が混濁した闇。

 

ルシファー「ティルフィングの闇に支配されたか…!」

 

エニュオ「うざったい…!これ以上惑わせないで!闇へと堕ちろ!『ダークネスアペルピスィア』!!」

 

感情の濁流が体現されたかのように、今まで以上にない闇が放出される。

先程から繰り出される闇の攻撃も苛烈であったが、それとも比較にならない禍々しく黒々とした闇。

鳥肌が瞬時に逆立ち、逃げなければならないと脳が警鐘を鳴らす。

回避を行おうとするも、押し寄せる闇は広範囲に渡り伝播しており、回避は不可能だった。

視界全体を覆い尽くす漆黒の闇は粛々と猛烈な勢いで押し寄せルシファーとリョウを瞬く間に呑み込んだ。

 

ルシファーとリョウの心の奥底だけでなく、世界全体に伝播していく。

数十秒と経過しない内に、世界は闇に包まれた。




12000文字超えてるとは思わなんだ笑
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