何処までも暗く、冷たい空間。
上下左右見渡しても、視界には一筋の光すら存在を許さぬ漆黒が支配している。
ルシファー「……闇に呑まれてしまったか」
意識が朦朧としていたルシファーは漆黒の空間の中を漂っていた。
地に足を着けて立っているのか宙に漂っているのかすら分からぬ曖昧な不可思議な空間。
ただ一つ理解できるのは、闇に呑まれたこと。
ルシファー「どう切り抜けたものか…」
徐々にだが、ルシファーの体と心を蝕み始めている。
全身に電撃が迸り刃で斬り裂かれるような痛みが絶えず襲い、締め付けられる鉛のように重い何かが心にのし掛かる。
闇には多少の耐性は有るとはいえ、光の存在であるルシファーにとってこの空間は針の筵でしかない。
ルシファー(闇の影響だろうな…負の感情が押し出される…!)
普段表には出すことのない負の感情が心の奥底から引き上げられる。
中には自分が思考することのない意想外な事も浮かび生じてくる。
───天使だから正しくなければならないのか?
───種族など関係なくあらゆる手段を用いてでも悪魔を滅したい。
───自らの過誤な行動に苛まれたとしても、仲間の天使から爪弾きにされようとも、為すべきことを為す。
───天使族の者達は俺の他に類を見ない強大な力だけを求め利用しているだけではないのか?
ルシファー「……くそ、有り得もしないことを…!」
「事実の可能性もある」
普段思いもしない悪辣な思想が浮かんできて苛立ちを感じている最中、漆黒の空間から何者かの声が聞こえた。
声の主は自分も良く知る人物。
何故ならそれは、他ならぬ自分の声。
漆黒の空間だが、輪郭が浮かび上がるように僅かに見える、もう一人の自分の存在。
形があるだけで表情などは視認することの叶わない影とも言える存在は突如として現れた。
何の目的で現れたか定かではないが、自分に害を及ぼす存在であることは確かだ。
ルシファー「俺の姿形を真似て何の用だ?貴様は何者だ?」
「俺は、お前だ。お前の心に秘めたる闇そのもの」
ルシファー「闇?俺の心にそんな邪悪なものがあってたまるか」
「何故そう断言できる?誰しも心の奥底には闇や影が存在している。お前も例外ではない」
ルシファー「そんなことを態々言うために現れたのか?あの剣の闇のやることは愚劣で矮小だな」
「何とでも言うがいい。お前の抱える私を否定するということは、自分自身を否定するのと同じだ」
ルシファー「何が言いたい?」
「言った筈だ。俺はお前の闇だと。つまり俺はお前でもある。お前の心の奥底に宿る闇。だからお前の抱えている不安、不満、疑念、全てが手に取るように分かっている」
ルシファー「俺の全てが理解出来ていると?それが何だと言うんだ?」
「試しに一つ当ててやろう。現在の天界の武力構成に不満を抱いているだろう?毎度天界を悪魔に攻め込まれ、撤退はさせられているがこちらからは攻め込まず防戦一方でいることに」
ルシファー「…確かに事実だ。しかしそれは四大天使が下した判断。俺が逆らう道理はない」
「四大天使の判断は間違っている。天界に住まう者達を守るために刺激を与えないよう平穏を保っているが、防戦だけで長きに渡る悪魔との因縁の関係が終結するわけがない。頭では理解していても釈然としない。いっそのこと自分が四大天使を力で抑圧し自分と同じ理念を持つ者達と共に進軍を行おうともしていた筈だ」
ルシファー「なっ………!?」
「強く願望している思想ではないにしても、過去に抱いたそれは現在でも少なからず心に染み付き脳内で呼び起こされている。そうだろう?」
誰にも打ち明けたことのない自身が生み出してしまった雑念を打ち明けられ表情が一気に強張った。
天使である自分が悪人に染まったかのような奸計を巡らせてしまった事実など信じられず、信じたくなかった。
多くの天使から活躍を念願させられているルシファーが反旗を翻す野蛮な思想を持っているなど周知されれば、期待を裏切ってしまうのと同時に身の破滅を招く。
「周囲から数え切れない期待の目を向けられ高潔だと思われていることにも飽き飽きしている。秀才などと持て囃されているが、他者より強い力を得たのは神の恩恵でもなければ奇跡でも何でもない。単なる偶然に過ぎないし、努力の賜物というだけ。だから常に周囲の天使には、『自分を天界を救う英雄などと囃す暇があるのなら悪魔を葬る力を身に付ける修練を行え』とな」
ルシファー「…全て、お見通しというわけか」
「お見通しと言うより、俺は貴様の闇そのもの。全 て分かっていて当然だろう。しかし、お前自身である俺が言うのも可笑しな話だが、お前はつくづく天使らしくないな」
ルシファー「………そう、だろうな。善良で慈しみの心を持つ天使の種族であれば、他者を貶す思想は浮かばないだろう」
目の前にいる闇で象られた自分は間違いなく自身そのもの。
鏡に写った自分とも言える、己の本心を覆う殻を引き剥がした丸裸の存在とも言える。
受け入れ難い負の思想や感情を包み隠さず吐露されられ突き付けられるのは、精神的に相当応える。
現にルシファーは認めたくもない自身の奥底に確かに存在している醜悪な一面を突き付けられ、表情が歪んでいる。
しかし事実なため否定しようがないため、ルシファーは素直に性悪な一面を受け入れざるを得なかった。
「天界や人々を守ると豪語しているが、やっていることは悪魔の殲滅ばかり。偏執と言わんばかりに悪魔という一つの種族を消し去ろうと精進している。お前を掻き立てているものは、大切な仲間という存在。だがお前は、大切な存在である彼等の想いを踏み躙っている」
ルシファー「なに?どういうことだ?」
「何故気付けていないのか…いや、気付いてはいるが看過しているだけか。天界に住まう者達からお前は失い欠けることが許されない救世主であると同時に、かけがえのない大切な仲間ということだ。お前が仲間を愛おしく想っているのと同じように、仲間もお前のことを失いたくない。お前はそれに気付いていながら、自ら過ちと気付いていながら、闇に堕ちることを選択した。愚かだと理解していながら甘受し選択した道を歩むことは、仲間の想いを裏切ったのも同等。気付いているにも関わらず自らの意思のみを貫き悪の道へと直走る。闇に堕ちれば後戻り出来ない、つまりはお前が真に望む結末には辿り着けない。非常に愚かな決断と思えて仕方ない」
悪魔を滅したいなのは本懐だ。
ただ現在の天界の天使や人間の命を最優先に考慮し頓着した今のやり方では、運命は何一つ変えられない。
ならば、力を持つ自分が行動を起こすしかないと結論付けた。
自分を信じる者に話せば反対されるのは明白。
誰もが賛同しない荒唐無稽な案なのだから。
本当ならば、誰かに打ち明けたかった。
一人で成し遂げ、一人で背負うにはあまりにも重すぎる運命と向き合わなければならない。
誰かと共有出来たならばどれ程気楽だろうか。
だが自分で決めた邪道とも言える茨の道を進むのに、大切な仲間を道連れにするなど到底許されない。
一方通行の道を歩むのは、自分一人だけでいい。
たった一人の天使の犠牲で結果的に天界の状況が好転するのであれば安いものだと、無理矢理自分に言い聞かせた。
ルシファー「確かに、他者のために自らの人生を、運命を捧げるなど、馬鹿げているのかもしれない。結果的に、俺は大損しかしていないのだからな」
「だが、お前は険しい道を選択した。だがそれは正しいとは言えない。自分の全てを捧げてまで完遂する使命なのか?」
ルシファー「正しい選択とは、俺自身思ってはいない。他に妥当な判断と言える道も有り得たかもしれない。だが、俺の力だけじゃ選択できる道がこれしかなかったという話だ。俺が後戻り出来ない程にまで闇に堕ち、馬耳東風な悪魔に成り下がり道を踏み外したとしても…ラミエル達なら、仲間達なら俺を止められると信じているからな」
「結局は他人頼りか。確かな保証もないのによく誤った道を歩もうとしたものだな。見通しの甘さは自身を滅ぼすことになるというのに」
ルシファー「僅かな可能性を信じるだけだ。それに誰かの手を借りるのを恥じたりはしていない。天界で何事もない平穏な時を過ごし、悪魔と対峙してこれたのは、他者の手を借りてきたからこそだ。今回の件も世界の監視者がいたからこそ実行が可能となった」
「屁理屈、とも捉えられるな」
ルシファー「どう言われようと構いはしない。悪魔ならば、手段を選ばず、他者を利用し蹴落とし欲しいものを手に入れるものなんだろう?」
「受け入れているようだな。引き返すことすら許されない、悪魔へと成り下がる愚かな自分を」
ルシファー「辛酸を嘗めてでも通らなければならない怒涛の道だ。覚悟と決意がなければここまで辿り着けてはいない。邪魔をする者がいるのならば、強大な闇だろうが力で捩じ伏せる。悪魔らしいシンプルなやり方だろ?」
「先程まであの少女を救済出来るのではないかと一縷の望みを抱いていた者の言葉とは思えんな」
?「ええ加減うざったいで」
聞き覚えのある声が耳に入ると同時に、金色の剣がもう一人のルシファーの体を貫いた。
生物の急所と呼べる心臓を容易く貫く一切の容赦がない突きにより闇は散布した。
闇が消え去ることにより刺殺させた張本人の素顔が明らかになる。
背後に立っているのは協力者であるリョウ。
リョウ「うざったいって台詞、エニュオみたいになってもうたな」
ルシファー「貴様は闇の影響は…受けていないようだな」
リョウ「流石にわしがこの技を真面に受けたら精神が崩壊しかねんから『力』を使わざるを得ないからのう」
リョウの黄金色に輝く左目の瞳は漆黒の空間では色濃く目立っており、美しさすら感じさせる。
更に一瞬輝きが増したと思うと、周囲を塗り潰した闇の空間が瞬時に弾け飛んだ。
黒一色で彩られた世界が消え去り、元居た公園へと景色が戻る。
激しい戦いにより遊具等は消し飛び、至る場所の地面が抉られている惨状を見ると誰も元々公園だったのか分かる者は少ないだろう。
エニュオ「へえ…闇を消し飛ばすなんて随分強引なやり口ね。『世界の監視者』、思った以上に厄介な力を宿しているわね」
リョウ「お前自身を消滅させんだけ感謝することやな」
エニュオ「私を消し去ることが出来ないということは、何かしらの理由で能力が制限されてるってことでしょ?」
リョウ「そういうこっちゃ。極力使いたくはないんやけどねえ。ティルフィングの闇相手だと使わざるを得ないんよ」
ルシファー「すまない。負担を掛けさせた」
リョウ「謝罪やない。そこは感謝や」
ルシファー「…感謝する、リョウ」
エニュオ「私を前に友情ごっこする余裕があるなんて、うざったいわね」
眉間に皺を寄せあからさまに不機嫌そうに顔を歪める。
ティルフィングの真骨頂である、精神干渉を行い負の感情を増大させることで心を闇一色に塗り替える、生半可な者なら抵抗すら儘ならない精神攻撃。
ルシファーの心が強靭故に闇に染め上げることは叶わなかったが、リョウの『力』により最大の技が打ち消されてしまった。
無茶苦茶。規格外。常識外れ。どの言葉も当てはまる。
伝説の剣の力を跳ね退けるなど本来有り得ないこと。
一つの世界を容易に滅ぼせる絶大な力を有する剣の力に打ち勝つということは、相手はたった一人で一つの世界を掌握できる実力を有していると言える。
勝機は薄いと認めざるを得なくなった。
しかし退くつもりは毛頭ない。
リョウの『力』が制限されているため、自身の天賦の才を信じ剣の腕のみで突破する。
エニュオ「精神干渉が通じなかったからって調子に乗らないことね。私の剣の腕にティルフィングの闇の力が上乗せさせられれば、斬り開けない未来はない」
ルシファー「やはり哀れだな。ティルフィングにより安寧と言える居場所を失っている貴様は既に未来を失っている。闇に染められたその魂だけは鎮めてやろう」
リョウ「苦しまないよう済む保証は何処にもあらへんけどな」
これ以上の言葉のやり取りは不要。
各々剣を構え臨戦体勢に入る。
集中力を最大限まで高め、自身が出せる力を解放する。
ティルフィングからは未だかつてない程の闇が再度放出され、彩りが存在することすら許さない漆黒の世界が生み出される。
闇一色に塗りあげられ世界は何処を見渡しても純粋な黒、黒、黒。
常に瞑目した状態のような、視力を喪失したかのようなまでの暗黒に支配された世界。
ルシファー(凄まじいな…少しでも気を緩めれば闇に呑まれる…!)
光の存在を消し去ろうと闇が体を蝕む。
肌を焼き裂かれ頭を金槌で殴られているかのような激痛が絶え間無く襲うも、気力のみで耐えている。
リョウ「来るでルシファー」
歯を食いしばり闇による侵食に苛まれているルシファーを余所に、闇を無効化させるため力を発動し左目の瞳を黄金色に不気味に光らせ剣を一閃する。
金属同士が衝突し合う鋭く甲高い金属音が響き、火花が漆黒の世界を彩る。
最初の音を皮切りに立て続けに金属音と火花による幻想的とも言える光の花を漆黒の空間に咲かせる。
戦闘に不慣れな者ならば、暗闇の世界で何が起きているか全く分からずティルフィングの錆になっているだろう。
何百年という途方も暮れない戦闘経験と技量があるからこそ為せる業。
目では捉えられない見えぬ何かが漆黒から迫る気配と僅かな空気を斬り裂く音と振動のみを頼りに己を亡き者としようとする宙を縦横無尽に翔け回る刃、『ソードダンス』を的確に落としていく。
ルシファー「耄碌にはなってないようだな」
リョウ「お互い様にな」
闇による侵食を光の力で抑えながらルシファーも苦悶しつつも剣を振るう。
闇に蝕まれるのは耐え難い苦痛なのだろうが、必ず目的を果たそうとする渇望が体と心を動かす。
気力や根気で闇で毒された体を無理矢理に動かしていると言ってもいいだろう。
防戦一方に縺れる前にルシファーは飛行し、幾百もの刃の流れを掻き分け遡行していく。
闇という名の防壁で覆われている状態のエニュオを気配のみで暗中模索しなければならない。
光の力を常に放出しつつ微かに感知できる気配を頼りに刃を斬り落としながら飛行しているが、無理難題にも程があった。
エニュオが最後に直視した場所に何時までも佇んでいるわけもなく、位置を特定されない絶えず漆黒の空間内を駆け回り錯乱させようとしている。
心身を蝕む闇を抑えつつ闇を打ち消すために光の力を放出しているため、力を酷使しており負担が大きい。
無尽蔵に湧く闇に対し、天使一人分の光の力で対処仕切れる訳もない。
リョウ「あんましわしの力を使わせんで欲しいんやけど、伝説の剣相手じゃやっぱりやむ無しやな…!」
一人愚痴を溢すリョウの左目の瞳が闇の中で黄金色に煌々しく光る。
瞬時に先刻と同様に闇が一部だけだが消滅し、元いた彩る世界が周囲に広がる。
エニュオ「ホントに厄介極まりないわね…!」
半壊したジャングルジムの頂点に立っていたエニュオは苛立ちを隠せず憤怒の表情を露にする。
エニュオは『ダークネストルネード』を数個発動させると更に『ソードダンス』による斬撃を放つ。
その全てはリョウに向け放たれいる。
剣の腕は劣るがそれを補うには充分すぎる濃厚な闇を容易く無効化させる謎の『力』を持つリョウの方が脅威だと察したエニュオはリョウから葬ることにしたようだ。
集中砲火された牧歌的な攻撃は正しく嵐そのもの。
リョウ「この力量にこの数はエグいって!逃げるんだよォ!」
翼を展開させたリョウは空中へと舞い上がり回避に専念せざるを得なくなる。
巧みに身をくねらせ刃と竜巻の間を潜り抜けながら飛行し、距離を離すことなく維持している。
エニュオ「ちょこまかとうざったいわね。さっさと当たりなさいよ」
リョウ「避けるのは当たり前じゃろがい!お前だってわざと攻撃に当たるような馬鹿な真似はせんじゃろ!」
エニュオ「正論吐いてる余裕はあるのね。その余裕、今に消えることになるわよ」
リョウ「さっき最大奥義ぶっぱなして無力化された割には余裕やね。それとも余裕がないから平然を装って数の暴力で押し切ろうとしている脳筋戦法しとるんかな?剣士や戦士の心構えが一ミリも感じ取れん野蛮さが滲み出とるな」
エニュオ「…ホントにうざったい。絶対に殺してやる」
弾幕と呼べる攻撃を悉く回避され、痺れを切らしたエニュオは接近を試みようと地を蹴り駆け出した。
少女の脚力とは思えぬ足運びで接近してくる姿を見て、リョウは狡猾な笑みを浮かべる。
リョウ「安い挑発に乗るなんて若いのう」
ルシファー「同感だ。しかし下手な痛罵を浴びせる貴様は大人げないがな。『ホーリーキロシス』!」
飛行速度を増しながら、光を宿らせた剣が宙を駆け巡る刃と竜巻を斬り飛ばしていく。
光の力が宿った剣をただ力任せに振るう単調な攻撃ではない。
振るった後に宙に残存する光の粒子が火花のように散り散りになり、周囲の闇を弾き消していく。
闇だけでなく闇を振り撒く元凶であるエニュオ自身にも影響が出始めていた。
豆粒程度しかない光の粒子だが、その一つ一つが鋭い刃となっており、エニュオの体を纏う光沢が出る程磨き上げられ手入れされてある漆黒の甲冑に傷を付け、露出した肌の箇所を掠めるだけで小さな斬り傷を生み出していく。
数撃ちゃ当たると言わんばかりの光の粒子を即座に回避するのは間に合わないと判断し、ティルフィングを盾とし身を守るが全て防ぎきれるわけもなく、足や腕に小さな傷が出来てゆく。
エニュオ「この程度で、切り抜けられると思ってんの!」
闇を凝縮させた一振りで光の粒子は儚く消え去り、裂帛の雄叫びを上げリョウを『ダークネストルネード』で吹き飛ばし、ルシファーに剣を振りかざす。
エニュオ「私の邪魔をするな!さっさと闇に堕ちなさい!」
ルシファー「そのつもりだ。だが、今でもなければお前に堕とされるつもりもない」
再度激しい剣戟が始まり、無言のまま攻めては守り、守っては攻める、両者一歩も退かぬ高度な戦いが繰り広げられる。
光と闇が衝突し合い、余波だけで周囲の物や地面が崩れていく。
白く眩しく照らされては漆黒の影に染められる光と闇のぶつかり合いは、世界の命運を掛けた一世一代の戦いと呼ぶに相応しい程にまで苛烈な勢い。
未だ周囲に飛び交う斬撃を斬り落としながら復帰したリョウは躊躇なく飛び込み、闇の瘴気に当てられながらも懐から銃を取り出す。
銃口をエニュオに向け標準を合わせ引き金を数回引く。
狙撃向けの銃でもなければリョウ自身が銃を主武器としているわけではないため決して腕が良いわけではない。リョウ本人も認識している。
だが僅かでも隙を作るため、一発でも直撃出来れば良いため数発撃つ。
エニュオ「ぐっ…!」
発泡した内の一発がエニュオの左腕に直撃した。
利き腕ではないのが不幸中の幸いなのだろうが、片腕のみで自分にも引けを取らない剣豪を相手にするのは骨が折れるだろう。
腕全体に広がる痛みに顔を歪めながらも、闇の力を更に増幅させ勢いを増していく。
少女の腕力、況してや片腕だけとは思えぬ腕力から繰り出される一太刀はルシファーの巧みな剣術を全て防ぎきるどころか、闇の力で増幅された猛烈な反撃を行えている。
だが闇という増強剤を与えられ無理に体を動かしているようなものなので、剣豪とはいえ年相応の華奢な肉体では耐えられない。
体中に酸素を行き渡らせ動きを活発化させているため、血液の循環が促進され撃たれた箇所からの出血が酷くなり、無理な動きを連発していることにより筋肉が断裂していっており、戦えるのは時間の問題だろう。
エニュオ自身、限界を迎える時間が刻一刻と近付いているのを察知している。
だからこそ刻限を目前にして、退くことなく持てる全てを出しきり戦うと決意を固めており、凛々しくも轟々と戦意を燃え滾らせる瞳がそれを物語っている。
リョウ「そろそろ終いにさせてもらうで!」
闇の竜巻から脱したリョウがエネルギーにより巨大化させた『テオ・ソードスラッシュ』で真上から『ソードダンス』により生成された刃を蹴散らしながら急降下してくる。
破竹の勢いで迫るリョウに対しエニュオも特大の技で対抗せざるを得ないため『ダークネスアペルピスィア』を放つ。
心をも蝕む闇の濁流が押し寄せる砌、ルシファーが渾身の力で光を放出し闇に呑まれるのを防ぐだけでなく、一筋の光の道を生成した。
行く着く先は勿論エニュオ。
長くは維持できない光の道を突き進む際に片翼が闇に呑まれていることすら意に介さず勝機へと導く一手を与えるため前だけを向き進む。
エニュオ「闇に呑まれず死を選ぶなんて、愚かだわ」
ルシファー「死ぬつもりは毛頭ない。俺が死ぬ時は、全てをやり終えた後だ。『ホーリーキロシス』!」
闇の影響で体力も精神力も削られ満身創痍にも近い状態ではあるが、気力を振り絞り光が蓄積された剣を振るう。
体だけでなく手首と腕を器用に捻らせることにより蛇のように絡み付く剣技を繰り出し、ティルフィングをエニュオの手から斬り離す。
エニュオの目線から見れば、ルシファーが右手で持っていた剣でティルフィングを弾いたと思うと、空中で左手に持ち変わっていた剣で柄に近い箇所を殴る勢いで斬られ弾き飛ばされていた。
徒手空拳となっても、泰然としているエニュオは戦うことを中断しようとしない。
戦闘から離脱するか、命乞いをすれば我が身の安全は保証されたかもしれない。
しかし彼女は選択しなかった。と言うより最初から逃走するという手段は選択肢に含まれていなかった。
エニュオ「はあああああああああああああ!!」
周囲の闇をありったけ掻き集め拳に宿す。
最後の抵抗、足掻きの一撃。
剣士に似つかわしくない無様な攻撃で、結末が最善へと変わるとは思ってはいない。
それでもエニュオは敗北を認めず固く握った拳を構え腕を伸ばす。
急遽寄せ集めたにしては膨大な量が圧縮されている闇の拳。
ただでさえ周囲の闇に蝕まれているのに、闇を纏わせた全力の拳の一撃を受ければ、ルシファーはただでは済まないだろう。
しかし決死の猛攻とも言える一撃は届くことはなかった。
拳を振りかざした刹那、堅牢な甲冑を砕かれたと同時に華奢な腕が千切れ、鮮血を散らしながら宙を舞っていった。
急降下してきたリョウの一切の容赦のない高威力の『テオ・ソードスラッシュ』で身に寸鉄も帯びていない少女の腕を斬り飛ばし、すれ違い様にルシファーに戦いを締め括るよう目で合図を送る。
次こそは片棒を担いでくれたリョウの助力を無下にしないためにも、全身全霊を注いだ最後の一撃を叩き込むため両手で剣の柄を強く握り、哀れな少女を討ち取るため『ホーリーキロシス』を放った。
最近寒すぎてサムシングエルス