ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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帰りの新幹線にて投稿します!


第88話 黒き君、目覚めるとき

剣と剣、意地と意地の激しい衝突の末、ルシファーとリョウの勝利という結末に終わった。

 

終焉を迎えた世界なので幾ら被害が出ようが問題ではないが、三人という少人数とは思えぬ戦跡は凄まじく、誰もが我が目を疑うだろう。

地面が抉り削れ、公園の遊具すら跡形もなく消し飛び、周囲の民間等の建物も戦闘の余波により崩壊し瓦礫と化してしまっている。

 

世界を丸々覆う闇は綺麗さっぱり消え去り、何事もなかったかのように世界の彩りが戻った。

勝利の祝福する佳景は無く、人が住まうことの叶わぬ荒れ果てた土地が広がり、青空が顔を見せる隙間が微塵もない曇天の灰色が支配する静寂に包まれた重苦しい世界。

 

陥没や隆起した地面が目立つなか、唯一芝生の一部が破壊されず残存していた場所に、敗者であるエニュオが横たわっていた。

リョウの一撃により切断された腕と、ルシファーの最後の一撃を受け、左肩から腰まで続く傷は相当深く、止めどなく鮮血が溢れ芝生を赤一色に染めてゆく。

医療の専門知識がなくとも判断できる、致命傷。

 

エニュオ「負け、た…死ん、じゃうん、だ………」

 

悔いる思いがあるわけでもなく、吐血し息も絶え絶えになりながらも虚空に向け一人呟く。

 

エニュオ「嫌、だなぁ………やっぱり…死にたくなんて、ない、かな…」

 

足音もなく漸近する死という概念。

凶暴な魔物と戦う死と隣り合わせの日常を過ごしていたため、死を恐怖の対象ではなかった筈だった。

住む場所も、家族も、大事な人達を根刮ぎ奪っていった憎むべき魔物を狩り尽くすまで、復讐心を抱き生きてきたからかもしれない。

 

剣術に優れた奇才であろうが、やはり歳相応の少女であることに変わりはなく、自らの死に直面すると心の奥底から恐怖が沸き上がってきた。

 

エニュオ「でも…漸く、こんな、うざったい…世界、から…さよならできる…」

 

世界も、人々も、己の運命すらも救えなかった自身から、只管に理不尽に拒絶され続けたこの世の中から解放された気もした。

負の感情だけが心を充満し、感情任せに持てる力を振るい暴虐と破壊の限りを尽くす救済の余地のない自身の人生を厭世だとも思っていたため、終止符を打ってくれた二人には感謝すべきなのかもしれない。

 

リョウ「良かった…ティルフィングの闇からは解放されたみたいやね」

 

ルシファー「そのようだな。彼女から闇の力はもう感じ取れない」

 

エニュオの傍らには勝負を制した傷だらけのリョウとルシファーが佇んでいる。

少し離れた場所にはティルフィングが地面に深々と突き刺さっており、先刻まで底が知れない闇を撒き散らし暴威の限りを振るっていたのが嘘のように鎮まっている。

 

ルシファー「闇から解放されたようで何よりだ。もうお前は負の感情ばかりに支配されずに済む。それと、お前には陳謝しなければならない」

 

エニュオ「私に…謝る、こと?」

 

ルシファー「俺は自分の野望のために、お前を踏み台に、倒すしかなかったことだ」

 

エニュオ「何を、言うかと思ったら、そんなこと…。あんたは、何も、間違って、ないわ」

 

リョウ「彼女の言う通りや。自身が叶えたい夢があるなら、障害となる壁はよじ登り打ち壊す。時に誰かの夢を打ち砕くこともせんとあかん、弱肉強食よ。それはどんな事柄であろうと、どの世界であろうと変わらん」

 

エニュオ「監視者の、言う通りね。何かを成し遂げるためには、誰かの夢を、希望を、奪ってでも…突き進み続けなきゃならない」

 

ルシファーも分かっていた。覚悟はできていた。

だがそれとこれとは話は別で、エニュオという一人の人間の少女の命を奪う、実力行使でしか解決出来なかった結果になってしまった自分を赦免することが出来ず、憤りから握る拳に力が籠る。

 

可能であれば救いたかった。

しかし救済は叶わないと嫌でも理解でき、無理矢理にでも自身に言い聞かせた。

目的のために立ち塞がる『敵』であり、自身が撃ち倒さなければならない『敵』ではないからこそ、彼女の過去を僅かながらに知っているからこそ、救済の手を伸ばしたかった。

 

エニュオ「あんたは…優し、すぎる」

 

ルシファー「天使、だからな」

 

リョウ「天使をやめようとしてる者の台詞やないな」

 

天界のためとは謂え、天使にとっての愚行とも呼べる堕天という行為を罪とも捉えないあたりを見ると、闇に毒されていると言えるだろうが、天使としての心得までは腐ってはいない。

 

エニュオ「でも…あんたみたいな、お人好し、嫌いじゃない…」

 

復讐という目的一つのために権謀術数渦巻く波乱万丈な人生を歩んできた。

復讐ばかりに目を向け周囲の人々に多大な被害が出ることを省みず暴威を振るった結果なのだろうが、待ち構えていたのは、エニュオという一人の少女を非難し続ける世界との戦い。

今思い返せば、自分も数え切れない無関係な人々の命を、夢を、自身の目的のために奪ってきた。

なので忌諱され続ける結果になってしまったのは自業自得だと言えるのかもしれない。

 

憎悪に取り憑かれ堕落し切ったこんな愚かな存在に謝罪の言葉を掛けてくれるルシファーに対し、少なからず感謝の念を抱き、天使の優しさに救われた。

命の灯火が消え行く前に、幾つか振りに人の温もりに触れることが叶った。

 

魔物に追い詰められ窮地に陥ったあの時、ティルフィングに呼応せず、自らの力と判断で危機を脱していれば、感情のままに大虐殺を行う誤った道を回避できたのだろうか。

そんな些事が脳内に浮かぶあたり、少なからず後悔している自分が何処かにいるのだろう。

自問自答しても、今となっては答えは出る筈もない。

 

エニュオ「私を倒したんだから、あの剣を、しっかり駆使しなさいよ…」

 

ルシファー「勿論そのつもりだ。俺の望みを叶えるため、闇を使いこなしてみせる」

 

エニュオ「余計なお世話、でしょうけど…私、みたいに、ならないでね…」

 

憎悪、憤怒、悲哀といった負の感情に呑まれ流され、我を失ってまで得られるものはない。

そういう意味が含んだ言葉をルシファーは真摯に受け止め胸に刻み付けた。

 

ルシファーの決意が込められた瞳を最後の光景に、エニュオの瞳の光は消えていった。

開眼したままの目をルシファーは優しく閉じてあげ、黙祷を捧げた。

それが殺めてしまった自分が出来る最大限の償いだった。

 

ルシファー「………せめて、来世は幸せであることを」

 

リョウ「そうあることを願うしかない。殺さずに済んだかもしれないなんて、今更弛緩した思考をするわけやないけど…わし達は不器用やから、実力行使を行った。…ホンマに、また自己嫌悪に陥りそうやわ。エニュオ本人にも問題はあったかもしれへんけど、この子も理不尽な運命に振り回されてしもうた、加害者でもあり被害者なんよね…」

 

悲哀の表情を隠せぬリョウが小言のように呟く。

ルシファー達が手を下さなくとも、早晩訪れていた結末かもしれない。

どのような事の経緯を辿ろうと、エニュオの結末は決して幸せなものとは言えず、罪を償う機会すら与えられない結末を迎えていたかもしれない。

 

リョウ「でも、これがわし達が下した決断であり選択。今起きた事が現実やし、過ぎ去った過去と呼ばれるものは、余程じゃなきゃ変えられない」

 

あり得もしない救済された未来など想像するだけ無意味だと思い、冷淡に投げ捨てるように呟く。

ルシファーもリョウの冷徹な発言に不満を覚えたが、反論することは控えた。

 

エニュオとリョウの運命が僅かながら似通った点があったから。

なのでリョウ本人も悲哀と後悔、憐情を抱いているというのもルシファーは汲み取っていた。

 

リョウ「…さて、まだ終わったわけやない。ここからが正念場とも言えるな」

 

その言葉の通り、目的を果たすための最難関と呼べる事柄が残っている。

ティルフィングの新たな所有者として認められなければならない。

果たさなければならない目的の長い旅路で、エニュオとの激闘は序章に過ぎないと言っても過言ではないのかもしれない。

 

ルシファーはエニュオの亡骸を後にし、ティルフィングの前へと歩み寄る。

先刻まで渡り合っていた時と比較すれば、所有者の感情と共に荒々しく猛り狂っていた姿が嘘のように鎮まっている。

闇も放出してはいないが、近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 

ルシファー「………」

 

リョウ「ホンマにいけるんか?」

 

ルシファー「大丈夫だ。俺はそのつもりであの少女を殺めた。引き下がる選択などない」

 

光の存在である天使族が伝説の闇の剣に触れればどうなるか、想像は容易い。

ティルフィングに認められなければ、体は闇に蝕まれ、精神に異常をきたすか、最悪命を奪われる。

天使族なら先ず行わないであろう無謀な挑戦をしようとしていることはルシファー自身も勿論承知している。

分かっているからこそ、自身の命を無駄に捨ててしまう行為かもしれないからこそ、慎重になるのは当然だろう。

 

闇に染まる覚悟を再度固め、ただ剣の声に耳を傾け、受け入れ、力を制御し会得する思考だけを熟思黙想する。

一回、二回、三回と深呼吸を繰り返し、ティルフィングの柄を両手で掴んだ。

 

ルシファー「ぐっ、があぁ……!?」

 

剣に触れた刹那、どくりと心臓どころか体が跳び上がる程の衝撃が走った。

体や脳が認知するよりも俊敏にどす黒い純粋な闇が入り込み心身を満たしていく。

光と相対する闇という異物の侵入の進行を防ぐことすら儘ならず、瞬時に蝕まれていく。

心臓が早鐘のように鳴り、鈍器で思い切り殴られたかのような鈍痛が絶えず襲い、吐き気を催す。

体だけでなく心まで崩壊されていく苦痛から解放されるわけにはいかない。

ティルフィングに認められるためには、闇から目を背けず受け入れなければならない。

だが完全に闇に呑まれれば、エニュオと同様に負の感情のままに力を振るい闇を撒き散らす凶徒と化してしまう。

闇を使いこなすためには、呑まれる直前まで耐え凌がなければならないが、正に命を削りながらの壮大で無謀な挑戦。

 

ルシファー「があああああああぁぁ!!」

 

光という白色が闇という黒色に染め上げられ、自分という存在が濁り歪んでいくのが分かる。

続行すれば確実に闇に呑まれ、天界の安寧のために獅子奮迅していた真っ当なルシファーは消え去り、エニュオのように心に渦巻く負の感情に振り回され、闇を振り撒く狂人へと成り果てる。

残る光の力で心身を呑もうとする闇を寸前まで食い止めているが、長くは持たない。

 

ティルフィングの柄から手を離せば闇に呑まれる苦痛からは直ぐ様解放される。

だが意地でも決して離そうとはしないのは、揺らぐことのない成し遂げたい願いがあるから。

 

ルシファー「ぐうううあああぁぁぁ………俺の、意思に、応えろ………!!」

 

絶えず訪れる闇の奔流を抑え込みながらティルフィングに呼び掛ける。

流れ込む闇を抑え我が物にするためにはこちらからも接触を図ろうという安直だが適切な判断に、意外にも反応はあった。

 

『汝、我と相対する力を持っていながら、我を求むか?』

 

頭に直接語りかけてくる感覚。

重く低い声が脳内に響く。

 

『何のために力を欲する?』

 

ルシファー「俺は、俺の願望を、叶えるために、お前を欲する!」

 

『汝の成就させたい願いとは何だ?』

 

ルシファー「天界を、天使の…大切な友や仲間の、平穏を守るため、悪魔を滅ぼすことだ!」

 

『汝の自身の利益にもならぬ不要なことを何故成し遂げようとする?況してや自らの命を投げ出すとは…理解不能だ』

 

ルシファー「俺は、みんなが、幸せでいられる世界を、築きたい…それだけだ!」

 

『汝達の種族の永劫続く平穏のために、一つの種族を滅ぼすか。…天使族とは到底思えぬ、乖離した思考だな』

 

ルシファー「かま、わない…俺はもう、天使ではなく、悪魔として、堕天するのだからな!」

 

『敵対する種族に寝返ってでも叶えたいか。自暴自棄とも言える強欲…愚蒙だが、面白い。我を使いこなし、光を押し殺し、闇を増大させ、邪悪なる存在をも滅ぼす唯一無二の存在になってみせろ』

 

堕天する過程を、結末を興味本位で見届けようとするティルフィングの思考は理解出来そうにはない。

しかし結果的には言いくるめたわけではないが、認められ契約を結ぶことが叶った。

 

闇に支配されず、逆に闇を支配する存在と成り上がったため、自分を侵食していた闇に苦痛を感じることはなくなり、体に馴染んでいく。

堕天した証拠なのか、日の光に反射する程艶がある純白だった翼の片翼は輝きを失い、黒一色で彩られた漆黒の翼へと変貌を遂げていた。

 

リョウ「……どうやら成功したみたいやね」

 

闇による苦痛から解放され落ち着きを取り戻し静謐とした様子を見て上首尾に終わったと判断したリョウは労いの言葉を掛ける。

俯いたままなので表情は伺えないが、警戒心は決して解いてはいない。

ティルフィングに認められたからとはいえ、闇により負の感情が増大したことによりエニュオのように敵意を向けてくる可能性もあるからだ。

 

ルシファー「……………」

 

リョウ「もしもーし、大丈夫ですか?」

 

ルシファー「心配は無用だ。落ち着いている」

 

一度大きく深呼吸したルシファーは顔を上げた。

表情に特に変化は見当たらず、凛々しい顔付きのままだが、目に宿っていた光が喪失している。

禍々しくも強大な力を我が物とし、優越感に浸って はおらず、冷静さは保たれているようには見える。

 

リョウ「闇を制御出来とるみたいやな」

 

ルシファー「俺の光の力と意志と気力で維持出来ているようなものだ。だが不安定ではない。この闇の力、大いに利用できる…素晴らしく清々しいものだな」

 

まだ堕天したわけではないが、光から闇の存在へと変化したことにより、闇という本来使用することも触れることも有り得ない忌むべき力を素晴らしいと感想を述べられるのは、闇に染められた結果だろう。

 

ルシファー「しかし、どうも心がざわつく。気を抜けぬのは些か厄介だな…。俺が沈着している間にアンドロマリウスが待つ天界へ向かうぞ」

 

リョウ「その方がええな。いつ負の感情が沸き上がって暴挙に出るとも限らへんし」

 

ルシファー「俺が易々と闇に呑まれると?尻馬に乗る程度の覚悟で臨んでいるわけではないと理解している筈だろう?」

 

リョウ「そう、やな。ほんなら行きましょうか、と言いたいところやけど、休息はいらへんのか?」

 

ルシファー「時間は有限だ。俺はあの程度の戦闘で疲労困憊する程軟弱ではない。天界でアンドロマリウスと会う約束をしている。早くしろ」

 

闇に呑まれる前提の話題に若干怒りを含んだ声色になっていることにルシファー本人は気付いてはいないようだった。

性格的に些細な言葉に反応し怒りを覚えるような人物ではない。

ティルフィングの影響が波及しているのは紛れもないが、エニュオのように負の感情が溢れ残虐的にならないのはルシファーの光の力と強靭な精神力があるからなのかもしれない。

 

下手に刺激を与え負の感情を膨れ上がらせエニュオ以上の闇を真っ正面から受けるのはごめん被るため、リョウは無言のまま天界へと繋がるワールドゲートを召喚する。

互いに会話することなくゲートを潜り抜け、瞬時に天界へと辿り着いた。

出た場所はアンドロマリウスと取引を交わした雲の平原。

相変わらず空と雲の二色しか存在しない美しくも殺風景な場所だが、禍々しい存在が純白の大地に降り立っていた。

 

アンドロマリウス「やはり来たか。だが、何故『世界の監視者』までいる?」

 

二人の前にいるのはサタンフォーの一人であるアンドロマリウス。

予想通り訪れたことに笑みを浮かべていたが、リョウの存在を視界に入れるや否や視線が鋭くなった。

 

ルシファー「一人で来いと指定しなかった貴様の落ち度だ。リョウは俺が堕天するための協力者だ。貴様に危害を加えることはない」

 

リョウ「無論、お前がわしに危害をくわえなければやけどね」

 

アンドロマリウス「傍観するだけならば俺も手出しはせん。悪魔とはいえ、無益な争いは行わん」

 

リョウ「利口で懸命な判断どうも」

 

アンドロマリウス「……貴様、何処でそのような闇の力を得たと言うのだ!?」

 

ルシファーの異様な雰囲気に疑問を抱き読み取ったのか、膨大な闇の力について吃驚した面持ちで質問を投げ掛けた。

 

ルシファー「ティルフィングを得た。お陰で俺は悪魔と同様邪悪なる存在として生まれ変わったわけだ」

 

アンドロマリウス「ティルフィング、だと…。噂に名高い伝説の闇の剣を天使族の貴様が持つなど到底信じられんが、貴様の入れ知恵か?」

 

リョウ「わしはティルフィングを手に入れる手助けをしただけであって、ティルフィングに認められたのは紛れもなくルシファー自身の実力と意志と精神力の強さがあったからこそやで」

 

アンドロマリウス「嘘ではなさそうだな。どうやら堕天する覚悟は本物のようだな。貴様程の実力者が悪魔の陣営に加わってくれること、快く喜ばしい限りだ」

 

ルシファー「俺が天使から悪魔に堕天するからには貴様が発言した条件は飲んでもらうぞ。果たさなければ俺は貴様だけでなく冥府界全土を滅ぼす」

 

アンドロマリウス「伝説の剣を所持しただけで随分強気なものだな。確かに闇の力は強大だが、サタン様だけでなく俺達サタンフォーに太刀打ちできると?」

 

ルシファー「誰が俺一人だと言った?リョウも俺の傘下だ」

 

リョウ「出任せ言うな。何でわしまで巻き込まれんとあかんねん」

 

ルシファー「俺を助けたいと申し出たのは貴様だろう。ならば最後まで付き合ってもらうだけだ」

 

リョウ「傲慢な考えやな」

 

ルシファー「悪魔ならばどのような手段を用いてでも目的を成し遂げる。悪辣非道こそ、悪魔の本分だろう?」

 

最初にリョウに協力を要請した時とは違う、凄みを利かせるような邪悪な雰囲気に包まれている。

目に光が無く、冷酷な視線を向けられれば誰もが震え上がる威圧感を放っており、天使族の平和を願う律儀な彼の面影は全くない。

リョウに協力を得る際にも悪魔が考えそうな類似恣意的な思考が見え隠れしていたが、今のルシファーは無意識にではなく故意で述べている。

 

ティルフィングの影響なのは理解してはいるが、ここまで変貌してしまうものなのかと、改めて伝説の剣の恐ろしさを実感させられる。

 

リョウ「……まあ、乗りかかった船やし、最後まで付き合っちゃろう。で、アンドロマリウス、どないするん?大人しく引き下がるか、殺り合うか」

 

首を縦に振りリョウも参戦することが決定し、アンドロマリウスは難色を示した。

ティルフィングの闇の質量は容易くアンドロマリウスをも凌駕するのは分かりきっている。

更にリョウも戦闘に参加させられると勝機は限りなく薄いと言わざるを得ない。

 

撤退するか否か考え沈黙を貫いていたが、突如として幾つもの湾曲した紺色の刃のような物体が雲の平原をすり抜けルシファーとリョウの喉元目掛け放たれた。

あまりに唐突な奇襲だったが、寸のところで体を捻らせ回避に成功した。

安心する時間は一秒も与えられず、体勢を崩したところで更に雲をすり抜け紺色の刃が二人の命を刈り取ろうと迫り来る。

体を横転させ回避に専念するも、次々と迫る刃を全て完璧に避けきれず、何発か体を掠り細かな傷を作っていく。

 

?「へへへ、面白そうなことしてんじゃ~ん」

 

雲をすり抜け新たな悪魔が姿を現した。

 

生気を感じられない青白い肌に、艶のある漆黒の鳥類の翼を生やした吊目な男。

新しい玩具を見つけたかのように上機嫌で不気味な笑みを浮かべている。

 

ルシファー「……また、厄介な奴が現れたな」

 

アンドロマリウス「何故貴様がここにいる?マルファス」

 

呼ばれていない、呼んだ覚えのない第三者の介入に驚くどころか迷惑極まりないといった様子の悪魔二人を他所に、乱入した悪魔、マルファスは悦楽とした笑みを浮かべ口を開く。

 

マルファス「俺が何処にいようが、俺の勝手じゃ~ん。お前に語る必要、ある?」

 

アンドロマリウス「堕天した天使を介入している途中だ。我等悪魔族の新たな主戦力として加える存在となる。悪魔族の命運が転機を迎えようとしている重要な場面を妨げるつもりか?」

 

マルファス「主戦力ぅ?俺は元天使を迎えるつもりなど更々ないんだがなぁ?」

 

アンドロマリウス「貴様が決定を下す必要はない。サタンフォーの頂点に立つ俺に逆らうつもりか?」

 

マルファス「おいおい、勝手に頂点語んなよな~。一番若いだろうが俺だってサタンフォーなんだからよ~、決定権は俺にもあるってことだよなぁ?」

 

堕天したとは存在とはいえ、元天使を悪魔として認め受け入れるなど言語道断。

天使を酷く唾棄し断固拒否する姿勢を示すマルファスは手にしている小型の鎌を構え刃先をアンドロマリウスに突き立てる。

 

マルファス「な~んか楽しいことしてると思ったら、全くおもんねぇ。卑怯卑劣が売りの悪魔でも裏切り者なんか入れたくねぇよ。一度裏切った奴ぁな~ん回でも裏切るもんだろ」

 

ルシファー「証拠もなく戯言をほざくのも大概にしろ。態々異世界にまで赴き闇の剣を手に入れ、心身だけでなく魂まで闇に染め上げたのだ。友や故郷を捨ててまで堕天した、その俺が裏切ると本気で思っているのか?」

 

リョウ(淡々と嘘を吐くね~)

 

マルファス「信じる信じないの問題じゃねぇんだよな~。戦力としては申し分ないかもしれねぇけど、忌々しいから俺達の領域に入るなってこった。お前も元悪魔だった存在が天界で受け入れるってなったら拒むだろう?それが当然なんだよな~」

 

マルファスの言い分は的を得ているとも言え、ルシファーは妙に納得出来てしまった。

 

もし遠い先の未来、反旗を翻し悪魔の殲滅を完了した暁に待っている結末は、決して幸福なものではないのかもしれない。

悪魔に魂を売り渡し堕天した闇の存在である自分を快く受け入れるとは到底考えづらい。

 

マルファス「っつーわけで、難しい話吹っ飛ばして、俺はお前を認められない。ってことで、殺す!」

 

一瞬にして邪悪な気が膨れ上がり、殺気を含んだ目がより一層鋭さを増す。

風の如く速さで駆け抜けルシファーの喉元目掛け鎌が迫るも、ルシファーはティルフィングを召喚し払いのける。

 

ルシファー「周囲の意見を流し己の意地を貫き通す、か。なんとも悪魔らしい」

 

リョウ「それと同時にガキってぽいけどな」

 

マルファス「うっせーぞ人間。しゃしゃり出てくんじゃねぇよ」

 

リョウ「いや、わしらからすれば話の腰を折ってしゃしゃり出てきたのはお前の方なんよ。部外者はさっさと帰ってどうぞ」

 

マルファス「こいつが悪魔族に入るってことぁ俺にも関係あることだ。天使と悪魔の事柄に、異世界の、しかも人間が関わってくんなよな~!」

 

リョウ「それに関してはごもっともかも。わしのただのお節介ってことで許してヒヤシンス」

 

マルファス「意味分かんねぇ理由で関わんなよなぁ!さっさとこの世界から出ていけ!『紺翼刃』!」

 

光の象徴とも言える存在であったルシファーは勿論、異世界の存在であるリョウは夾雑物でしかない。

仲間意識が強いのか、単純に気に食わないだけなのか意図は汲み取れないが興味本意で来た割には真面な発言をするマルファスは鎌を振るい紺色の刃の飛ばす。

 

平和的に解決する筈もないと理解してはいたものの、血の気が多い連中だと呆れ混じりの溜め息を漏らしたリョウはアルティメットマスターを抜刀し迫る刃を払いのけながら距離を詰めようと試みる。

一度上空へ退避したルシファーも高度を下げ始め接近してきた。

どちらも一筋縄ではいかぬ強者二人を前にマルファスは退く様子は一切見せず、寧ろ余裕な表情で口角を上げた。

 

マルファス「俺の技を警戒せずに突っ込んでくるなんてぇ、お馬鹿すぎるな~。『クリムゾンクロウ』!」

 

両手に紺色のエネルギーを溜め込む。

紺色の妖光を放つエネルギー体を源に無数の烏が産み出され、敵と認識したリョウとルシファー目掛け一斉に襲い掛かった。

ただの烏ならば警戒せず突貫するところだが、退かざるを得ないのは二人は理解していた。

 

マルファスの生み出した烏は体が金属で構成されているかのように強固で、嘴や羽の一枚一枚が刃のように鋭利なものとなっており、体を掠めるだけでも肌がぱっくりと裂かれてしまう。

獲物を啄もうと飛来する烏達の軍勢の一塊は別の生物のようにも見え、二人を丸呑みする勢いで向かってくる。

 

ルシファー「数で攻めたところで無駄だ。『ダークネストルネード』!」

 

真っ正面に闇の竜巻を発生させ、迫る黒い塊と化した烏達を一網打尽にした。

 

ティルフィングを使用しての実戦は初だが、体の一部と錯覚してしまう程にまで手に馴染んでいた。

邪悪なる闇は体に蓄積され馴染んでいき、血の流れと同様に緩やかに力強く体を流れてるのが実感できる。

世界一つを掌握できると言っても過言ではない強大な力を、自身が望むままに制御できることに高揚するが、自惚れることもなければ冷静さを欠いたりすることはなく、落ち着いた様子でいる。

 

マルファス「それが噂に聞く闇の聖剣か。面白いなぁ、もっと力を見せてみろよなぁ!」

 

寿命が果てしなく長い悪魔でさえも、間近で視認できるか怪しい希少価値のある伝説の剣を目にし興奮気味になりながらも再度『クリムゾンクロウ』を放った。

先程よりも多い軍勢を前にしてもルシファーは怯むことなく『ダークネストルネード』を放ち蹴散らしていき、竜巻から逃れた数羽は飛行するリョウにより体を一刀両断され空中で命を散らしていく。

 

マルファス「さ~て、そろそろ効いてきたんじゃねぇかな~?」

 

戦闘を開始してから数分は経過したあたりでマルファスがぽつりと独り言を呟いた。

ほぼ同時あたりで、ルシファーとリョウの体に異変が起きた。

 

リョウ「があっ!?」

 

ルシファー「ぐっ…!」

 

先程烏により負傷した傷に引き裂くような激痛が走り、思わず膝を着く。

荒い呼吸を繰り返す二人を見て愉快そうにマルファスはケタケタと笑っている。

 

マルファス「俺の能力忘れちゃったのかな~?俺が放つ技を受けた奴は死ぬまで激痛に襲われちゃう呪いが込められてるんだぜぇ。つまり最初の時点で~、俺の攻撃を受けてたお前達の敗北は決定してたってことなんだよなぁー!!」

 

勝利を確信し高らかに笑い声を上げ、止めを刺そうと鎌を掲げじわじわと距離を詰め始める。

 

リョウ「おいおい…勝利を確信したからって、油断しとったら、痛い目見るで…」

 

マルファス「あ?現在進行形で痛い目見てる奴が何をほざいてんだよ!」

 

未だ膝を地に着けているリョウの首を斬り落とそうと鎌を振るうが、リョウは激痛をこらえながらも横転し回避し義足である右足の足裏からエネルギー弾を一発だけ射った。

予想しづらいだったが高い威力を誇っているわけではないため、鎌で防がれ奇襲は失敗に終わった、かに思われた。

 

リョウ「サタンフォー一番の若造ではあるな。やっぱり、詰めが甘いのう」

 

激痛に顔を歪ませながらも、相手の一瞬の些細な油断から生じた遺漏を嘲笑っていた。

悪魔にとって低俗な立場にある人間に嘲られたマルファスは青筋を浮かべリョウに無言で斬りかかる。

 

リョウ「相手は、わしだけやないやろ?」

 

ジェット噴射により加速した右足の鋭い蹴りにより鎌を弾いた刹那、横からルシファーがティルフィングによる闇の一閃が光った。

しかしサタンフォーなだけあって実力は確かなようで、不意を突かれた一撃をも凄まじい瞬発力と判断力により、体を無理矢理捻り回避し回転様に顔面に蹴りを入れ『紺翼刃』を放ちルシファーの脇腹に新たな傷を作る。

しかしマルファスも無傷とはいかずルシファーの放った一閃により自慢の艶のある黒翼の片方は綺麗に斬り落とされてしまっていた。

 

マルファス「ちっ…俺の翼を斬っちゃってくれてよ…許さねぇぞてめぇら…!」

 

リョウ「避けなかった、お前が悪いってことで。ぐうっ…!」

 

マルファス「カッコつけて威勢張ってんじゃねぇよ。余計カッコ悪いぜぇ?痛みに震えて惨めったらしいけど、よく痛みに耐えて動けるな。そこだけは褒め称えてやってもいいぜぇ」

 

ルシファー「褒められてここまで喜ばしくないとはな。それと、貴様はいつその傷に気付くんだ?」

 

マルファス「あ?何の話、ぐっ、があぁ!?」

 

リョウと同様に何の話か分からず疑問符を浮かべたが、右足の脹脛あたりに訪れた激痛に顔を歪めた。

何事か分からず唸り声を上げながら痛みの発生源に目を向けると、僅かだが何かに斬られた裂傷が確認できる。

 

リョウ「斬り殺した烏達の内の一羽の羽を取っておいたんよ。まさか本人にも効くんやないかと思って取っておいて正解やったわ」

 

ルシファー「何故本人にもその効果を受けるのか、俺は理解に苦しむ限りだ」

 

マルファス「があああああ!!くそっ!くそがぁ!舐めたことしてくれやがってえええええ!!」

 

痛みを和らげるためなのか、嘲られた怒りを発散する意味も込められてなのかは本人にしか知る由もないが、相当気が立ったマルファスは紺色のエネルギーを身に纏い、喚き散らしながら我武者羅に鎌を振り突貫してくる。

この一撃で全てを終わらせようという凄まじい威圧感が肌に伝わってくるが、相手にしているリョウとルシファーは呆れ混じりに溜め息を吐くだけ。

 

ルシファー「こんな奴がサタンフォーとは、悪魔も廃れているな」

 

リョウ「こいつわしより長生きしとる筈よね?わしの方が海千山千の悪魔しちょる気がするで」

 

マルファス「黙れ人間風情が!!何でてめぇらは、俺の能力が通じてねぇんだよぉー!」

 

ルシファー「流暢に喋っているが、余裕を噛ましてるわけではない」

 

リョウ「わしもルシファーも気力で耐えてるだけよ。うぅ…ええ加減痛いのも嫌やから、お前にはさっさと死んでもらうで」

 

ルシファー「貴様を殺せばこの効果も消える。簡単で合理的だ」

 

マルファス「やれるもんなら、やってみやがれってんだああああ!!」

 

リョウ「哀れだよ、炎に向かう蛾のようだ…。さっさとやられろよ!」

 

狂い荒ぶりながら突貫してくる上位の悪魔とは思えぬ輩とこれ以上関わるのはあまりに無益な時間だと思ったリョウは退かずに真っ正面から受け止める姿勢に入る。

ルシファーも同様にその場に留まり、ティルフィングに闇のエネルギーを蓄積していく。

 

リョウ「『テオ・ソードスラッシュ』!」

 

エネルギーにより巨大化したアルティメットマスターを豪速球を打ち返す勢いでフルスイングしマルファスの全力を受け止める。

力任せで無鉄砲だが、単純にして純粋な強烈な一撃は確かにマルファスを押しており、岩石をも容易く打ち砕く勢いは消え失せ僅かにだが徐々に後退していっている。

しかしもう一押しが足りず、決定打に欠けている。

 

ルシファー「止めは俺に任せろ。『ダークネスキロシス』!」

 

エニュオとの戦いで見せた光の刃ではなく、ティルフィングの闇の力を纏った漆黒の刃と成り果てている。

即席で思い付いた技だったのだが、悍ましくも目を見張る秀逸なもので、完成度としては満点を付けざるを得ない出来栄え。

 

自身の技とティルフィングの闇を混合させた必殺技は防御に徹していないマルファスの腹部に深々と突き刺さり、刃から放たれる闇の粒子が体に細かな傷を付けていく。

威力が緩んだ瞬間にリョウは更に義足の安全装置を解除し『フルパワーインパクト』を巨大化したアルティメットマスターに向けて蹴り放つ。

ジェット噴射による加速と全力以上の一撃が乗せられた剣の一閃はマルファスの体を斬り裂き、血飛沫を上げながら上半身と下半身が宙を舞っていく。

 

アンドロマリウス「漸く終わったか」

 

戦いの一部始終を傍観していたアンドロマリウスがぽつりと呟く。

サタンフォーという威厳ある存在の戦闘を見届け特に思うことはなかったかのように、仲間である存在の無惨な姿に見向きもせず無関心な態度でルシファーへと歩み寄る。

 

ルシファー「同族がやられゆく姿をただただ見ているだけとは、冷酷な奴だな。流石、サタンフォーの内の一人と言ったところだな」

 

アンドロマリウス「貴様の戦闘能力を計り、マルファスよりも優れていると判断したからに過ぎない。悪魔族は卑怯卑劣だけが売りではない。何者にも屈しない力で捩じ伏せるものだからな」

 

マルファス「お、おい!アンドロマリウス!お前、俺を見殺しにするつもりかぁ!」

 

アンドロマリウス「悪魔族の戦力を増幅させるため、もう貴様は必要ない。傲慢で熟慮されていない考えを喚き散らかす存在には、サタンフォーという名を掲げるなど言語道断。この場で散れ」

 

マルファスを見捨てる理由は、悪魔族の低落するという理由だけでなく、アンドロマリウス本人にとって必要なく邪魔で鬱陶しいという私欲も含まれている玉石混交としたもの。

だがその意見すらも、正に悪魔らしいと言えるのかもしれない。

 

マルファスは最期の足掻きと言わんばかりに、意地でも離さなかった鎌を投擲しようとした。

しかし気力と死力を尽くす放たれようとしていた一撃は無下となる。

 

アンドロマリウスは同胞を殺すことに一切の躊躇もなく、巨大な腕にエネルギーを纏わせマルファスの頭部を叩き潰す。

最期の言葉を発することも許されず、マルファスは悪魔にとって短い生命の灯火を消すこととなった。

 

リョウ「最初から殺すなら手伝ってもらいたかったんやけどなぁ」

 

アンドロマリウス「貴様達の揉め事だ。私が援助する必要は皆無であり面倒極まりないという理由もあるが、ルシファー、貴様の実力を試す良い機会でもあった。実際、サタンフォーに加わる価値のある素晴らしい逸材だ」

 

ルシファー「ティルフィングを手にした時点で俺の実力は模索する必要などないと思うんだがな。それで、俺が悪魔族に加入する暁に、天界に手を付けないという約束を果たすと誓えるか?」

 

アンドロマリウス「当然だ。悪魔は契約には従う。安心して、我ら悪魔族に身を委ねると良い」

 

アンドロマリウスの発言の真偽は定かでない。

しかしルシファーの選択する道は変わることはなく、一つだけ。

堕天し、悪魔族の傘下に入り信頼を勝ち取り、隙を突いて悪魔族の長、サタンを葬る。

 

アンドロマリウス「貴様はこれより、悪魔族の一員であり、サタンフォーの内の一人として、サタン様のために忠実に従え」

 

ルシファー「仰せのままに、と言っておこう」

 

リョウ「ほんならわしはここでおいとまするで。後は色々と頑張れよ、ルシファー」

 

ルシファー「あぁ。協力に感謝する」

 

アンドロマリウス「世界の監視者、貴様がどういった心情と理由でルシファーの手助けをしたか知らないが、今後我々の邪魔だけはしてくれるなよ?」

 

リョウ「事と次第によるってところやな。悪魔と約束したって録なことなんてありゃせんしのう。ほな、また」

 

最後の言葉はルシファーに投げ掛けているように真っ直ぐ視線を逸らさず言い、召喚したワールドゲートを潜りこの世界から去っていった。

 

アンドロマリウス「何処の世界にも現れる面倒な輩だ。我らもこの世界にはもう要はない。行くぞ、ルシファー」

 

ルシファー「あぁ、分かった」

 

紫色のワームホールを出現させたアンドロマリウスは早々と入っていき、ルシファーもその後に続いた。

全てを成し遂げるために、それまで愛しい故郷とは暫しの別れになる。

だが振り返ることはしなかった。

いつかまた輝かしい天界に戻ると心に決めているから。

 

一人では成し遂げられなかったであろう願いを成就した割には不思議と達成感や喜びで心が満たされることはなかった。

思い描く野望のスタート地点に立ったに過ぎない。

同族である天使族に罵詈雑言を飛ばされ非難されようとも、為さなければならぬ壮大な事を完遂する戦いは始まったばかりなのだから。




また明日から仕事だと思うと憂鬱で仕方ない…。
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