ユグドラシルメシア   作:仮面ピコ

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仕事で親指の爪が半分欠けて剥がれてしまった(泣)
皆さんも怪我には気を付けましょうね☆


第90話 後悔なんて、あるわけない

リョウ「………ん?」

 

光の剣クラウソラスから放たれる神々しい光と、闇の剣ティルフィングから放たれる漆黒の闇が衝突し合い、その影響で周囲は塵一つ残らない衝撃で吹き飛ぶ筈だった。

しかし数秒経過してもエネルギーの波が押し寄せてくることはなく、違和感を覚えない訳がない。

 

リョウ「どういうことや?」

 

顔を覆うように防御態勢に入っていたリョウは違和感に気付きうっすらと目を開け状況を確認する。

光と闇が混濁したエネルギーの爆発は嘘だったかのように消失していた。

エネルギーの爆心地にはルシファーが座り項垂れており、役目を全うしたのか、若しくは力を使い果たしたのか、クラウソラスとティルフィングが傍らに転がっている。

世界一つを消滅しかねない惨事は悪夢だったのではないかと錯覚してしまう。

 

リリス「馬鹿ね、私まで巻き込まれるのに誘発してお仕舞いなんて結末にはさせないわ。ただ世界を滅ぼすだなんて、そんな無意味なことをするために動いていたわけじゃないもの」

 

未だに滞空しているリリスに視線を向けると、手にした水晶を見てほくそ笑んでいる。

白色と黒色の絵の具が混ざり合ったかのような何かが、水晶内を不規則に揺蕩している。

 

リョウ「あの莫大なエネルギーを水晶の中に閉じ込めたってところか」

 

リリス「察しがいいのね。その通りよ。国どころか世界をも崩壊する程のエネルギー。意味もなく価値もない世界を無駄に破壊し尽くすだけなら、私の目的のために駆使した方が有益だもの」

 

リョウ「ならその目的とやらをええ加減話してもらおうか」

 

リリス「本当に馬鹿ね。話すわけないじゃない。私はまだやるべきことがあるし、あなたは天界に戻ることが懸命な判断だと思うわよ?じゃないとまた大切な誰かを失う羽目になるわ」

 

リョウ「何?どういうことや?」

 

リリスの発言に疑問符を浮かべる。

この場をやり過ごすための妄言を吐いているというのが妥当なところだが、先刻の言葉が脳内で復唱され、誰かを護れぬ後悔と不安に駆られる。

 

ウリエル「ラミエル!ルシファー!」

 

判断に迷いが生じていたところに、ウリエル達が後方からやって来た。

城の崩壊から無事に逃れ、怪我がないことに安堵する。

 

リリス「さようなら。また絶望に染まっていなさい」

 

リョウは即座にリリスに視線を戻すも、既にリリスは黒い霧に包まれ姿を消し去っていた。

傍らにいたルシファーと二本の伝説の剣と共に。

 

マリー「リョウさん、リリスは?」

 

リョウ「すまん、逃した。直ぐに追うつもりや。そうやけど…」

 

ウリエル「ラミエル!!しっかりしな!!」

 

リョウなど眼中にないかのように真横を通過すると、横たわるラミエルを抱き抱える。

喉が潰れんばかりの必死の呼び声に答える者はいない。

ウリエルの想いは無情にも虚空へと消え去るだけだった。

 

ウリエル「そ、そんな…何で、何でラミエルが……!」

 

ラミエルの両親の変わりに、母親として育ててきた。

最初は罪滅ぼしのつもりだったが、いつしか母性が芽生え、血が繋がってはいないものの本当の母親としてラミエルに接してきた。

母と呼べる程の事を出来てきたのか、それは分からない。

だが、ラミエルの両親から託されたからには、不器用ながらも愛情を注ぎ込んできた。

 

ウリエル「ラミエル……頼むよ!目を、開けておくれ!」

 

『俺達のことはいいから、街の人々を救え』

 

『私達の愛する息子のことを、よろしくお願いします』

 

シェオルを護るため、我が身を呈して犠牲となった二人は崇敬するに値する立派な天使だった。

そんな二人の血を継ぐラミエルも、誰かのために尽力できる精良な天使となれると誰よりも信じ待望の眼差しを向けていた。

 

だが、矛盾する想いも生まれた。

戦場に赴いてほしくはない。

偽りの母ではあるものの、向けた愛情は真実そのもの。

いつ命を落とすかも分からぬ戦場に身を投じてほしくはなかった。

ラミエルは戦闘においては相当な実力を誇る天使だったが、いつか思いも寄らぬひょんな出来事で、不運が連なって戦死する最悪の結末を迎える時が来るかもしれない。

 

そしてその最悪のいつかが、今日、訪れてしまった。

願ってもないのに、理不尽に、不条理に、たった一つの命の灯火が消え去った。

 

ウリエル「ラミ、エル……う、うぅ……」

 

亡骸を胸に抱き、自責の念と悔恨の念に駆られながらも涙を流し、悲痛な嗚咽が漏れる。

リョウとマリーも掛ける言葉が見当たらずただ見ていることしかできなかった。

 

ミカエル「あなたの仕業ですか?」

 

背後に降り立ったミカエルは3尺はあるであろうレイピアを手に、刃先を後頭部へ突き付けていた。

睨みを利かす瞳には殺意が籠められており、如何に彼女が激憤しているのかが見ていなくても分かってしまう。

 

リョウ「待て。ラミエルを殺したのはわしやない」

 

勘違いで刃を向けられてはたまったものではないため、濡れ衣を着せられないためにも経緯を話す。

 

リリスによる幻術によりルシファーは欺かれたこと。

ルシファーの一撃によりラミエルが命を落としたこと。

現実を受け入れられず茫然自失となったルシファーと暴走を始めたクラウソラスとティルフィング。

光と闇の衝突によるエネルギーをリリスが回収し姿を消したこと。

 

納得してくれるかは兎も角、リョウは簡潔に説明した。

話を聞き終えるや否や、ウリエルは地を蹴り疾走。

轟々と燃える火炎を纏った拳を構え、リョウへと馳突する。

激昂により振るわれた拳は届くことはなかった。

リョウが身を屈め縮地走法による瞬足で真横へ移動し回避した。

 

リョウ「さっきの説明聞いたやろ。ラミエルを討ったのはわしではない」

 

ウリエル「五月蝿い!!てめぇが…ルシファーに肩入れしなきゃ…あの時、てめぇが堕天するのを止めていりゃ…防げた未来だったんだ!!」

 

リョウが殺めたわけではない。頭では理解できている。

しかし感情が追い付かない。

大切な存在が消失した現実を受け入れられず、八つ当たりに近い形で力を振るっているだけだ。

そんなことも分かっている。だが止められない。止めることができない。

沸々と沸き上がる激情を抑制できない。

打擲しようとする行動を止めようとはしない。止めることができない。

 

ミカエル「ウリエルさんの仰る通りです。あなたが差し出がましいことをしなければ、ラミエルさんが死ぬことはなかった。ルシファーさんも、堕天し苦悩することもなかった!」

 

ウリエルの意見に賛同したミカエルはレイピアによる突きを絶え間無く放つ。

対してリョウは回避行動に専念するだけで、反撃に移ろうとはしなかった。

回避するだけの悠長な態度が気に食わず憤慨する。

 

ウリエル「絶対に仕留める!『神秘なる炎舞』!」

 

炎の渦がリョウを呑み込む。

黒点をも焼き尽くす勢いの灼熱の炎に包まれたが、リョウは『天使の加護』を使用して防御する。

 

ミカエル「最早あなたにそれを使役する権限などありませんし、認めるわけにはいきません!『神秘なる鎌鼬』!」

 

風の刃を生成し、炎の渦に幽閉されたリョウに向け容赦なく放たれる。

全て『天使の加護』により防がれているものの、四大天使の猛撃を永遠に凌げるわけではなく、限界を迎えるのも時間の問題。

 

ミカエル「やはりあなたは災いしか招かない忌むべき存在です。あなたの善ある行動は全て悪化の一途をたどるだけ」

 

ウリエル「昔から自覚してたんだろ!だったら、もう首なんか突っ込むようなことするな!余計なお節介が、私達を苦しめるんだ!」

 

マリー「いい加減にしてください!!」

 

肌が痺れる錯覚に陥る程の、尻込みしてしまう鼎談に参画することは許されない緊張感。

果敢にもマリーは声を荒げながらも、『爆散華』を放ち周囲を爆発させ仲介に入る。

四方八方、無闇出鱈目に放たれた爆発に二人の天使は被弾はしなかったものの、攻撃を中断させるためには充分すぎた。

 

マリー「やめてください!確かにリョウさんの身勝手な行動が発端かもしれません。それでも、リョウさんなりに考えてより良い方向へ導こうとしてるんです」

 

ミカエル「その結果が今回のような死を迎える結末ですか?話になりませんね。ユグドラシルメシアという群雄の内の一人とは到底思えぬ荒唐無稽な人物が、尽力する権利などありません」

 

リョウ「………」

 

反論することなく、瞑目しミカエルの言葉を聞き入れ続けるしかない。

加害者だと言われても仕方がない。

反論の余地もなければ権利もない。

 

ウリエル「何が『世界の監視者』だ。大層な役職に就いていながら、結局物事の解決策なんて生めるわけじゃない。下手に関与して煩雑にするだけなんだよ!」

 

マリー「私達異世界の人が出来ることは、手助けすることだけです。結果を与えるのでなく、結果へと導くことだけ」

 

ウリエル「なら、リョウ、人を不幸にしか導くあんたは、悪魔か死神だ」

 

リョウ「わしも、望んでこんな結果になったわけやない。誰が望んで、大切な存在が失う結果を望むんよ…」

 

弱々しく口を開いたリョウの顔色はよろしくない。

誹謗する言葉を浴びせられながらも決して反論しなかったのも、武力に対して反撃を行わなかったのも、全て事実であったから。

誰もが幸福である未来に行く着く結果にしたい。至極当然のことだろう。

自分に為せる可能なことを知恵を絞り実践してきた。

全てが成功するわけではない。失敗の方が多かった。

努力も虚しく散り、成果は実らず、事情を知らない者からは下手に関与して事態を悪化させる厄介な存在だと認知させられ吹聴させられていく。

 

リョウ「でも、そうやな。わしは災いしか招かないのかもな…」

 

自分という存在が忌むべきものだと認識している、せざるを得ない。

数百年という人間にとっては長期に渡り、蛇蝎の如く嫌われ畏怖される『力』を持つ自分は忌避されてきた。

 

『今回』も誰かのためになれなかった。ただそれだけの話だと割り切る。

浅薄で短慮な捉え方が毎度脳裏に浮かぶ自分に嫌気が差す。

だがそれすら仕方ないと捉える。

自分は薄情で、最低な人間だと分かりきっているのだから。

 

リョウ「責任は取る。敵討ちしたいわけやないけど今はリリスを追う。それに、天界にも戻らなあかん」

 

未だに韜晦しているリリスを野放しにしていては新たな被害が出かねない。

更にリリスが発言したほめのかすような言葉が気掛かりでしかない。

天界で何が起こったのか分からないが、出鱈目を言って時間稼ぎをするとも考えられないため、自らが赴きその目で確認したかった。

 

何より大切な存在、アイリに危害が及びそうな気もしたから。

 

ミカエル「聞き捨てなりませんね。天界に戻ると仰いましたか?」

 

ウリエル「この現状を放置してか?…ラミエルの死の償いも無しに行くつもりなのかい!?」

 

リョウの薄情で断然とした判断に不満と憤怒を露にしたウリエルがリョウに襲い掛からん勢いで立ち上がり、天使とは思えぬ鬼の形相で睨む。

 

リョウ「リリスを討つことが、わしにできる償いや。悪いけど、わしにできる贖罪じゃ」

 

ウリエル「敵を討つことだけが罪滅ぼしになると思ってんのかい?ふざけんじゃないよ!謝罪の念も無しに命を無下にするあんたの態度が許せないのさ!」

 

ミカエル「あらゆる者を殺しすぎたあなたにはたった一つの命すら湯水のように思っているのでしょう。そのような冷徹非道な人間を天界に入れるなど、絶対に容認できません」

 

ウリエル「あんたは死ぬことができない、許されないから命の重さが分からなくなったんだろうけど…私には!私にとっては!たった一人の息子だったんだよ!血縁関係じゃなくても!私にとっては家族の一員だったんだよ!返せよ…私の息子を返せよ!」

 

リョウ「………すまない」

 

『力』を使用すれば、直ぐにでもラミエルを生き返らせることは可能だ。

だが現在のリョウに『力』を使用する選択権はない。

森羅万象に属さない異形で異端の『力』を使用してはならないという摂理に反するというのもあるが、限界が近付いているから。

 

可能であれば実現できるのに許されない現実に倦み果てながら嘆息しこの場を去ろうと歩みを進める。

 

ミカエル「その一言で彼女の怒りを受け入れ、ラミエルの死を許してもらおうと?ふざけるな…不遜な態度の人間が!」

 

誰に対しても慇懃と答えていた彼女だったが、堪忍袋の緒が切れ、滲み出る怒りという感情をリョウへと容赦なくぶつける。

愾心は収まることを知らず、手にしたレイピアを容赦なく心臓目掛け突き出す。

リョウの人外染みた反射神経ならば容易く回避することが可能な刺突。

 

だが、リョウはその場に佇んだまま動くことをせず、レイピアはリョウの心臓を貫いた。

 

ミカエル「なっ…!?」 

 

ミカエルの憤怒に染まった一撃をわざと受けることで、罪が償われるなど安直な考えではない。

しかし避けることは、自分でも許されないと思えた。

死ぬことも消滅することも叶わない自分がせめてものできる償いだった。

 

吐血し苦痛に顔を歪めるも、生命の鼓動が途切れることはなく、金色に輝く左目でミカエルを見据える。

 

リョウ「わしだって、悲劇は避けたかった。それだけ言うておく」

 

レイピアを掴み、枝を折る感覚で真っ二つにした。

胸に突き刺さったままの刀身を抜き放り捨て、ワールドゲートを召喚する。

 

ミカエル「待ちなさい。天界に向かうなど、四大天使の私が許可しません。それでも向かうというのなら、この命に代えてもあなたの侵略を阻止してみせます。これ以上、不幸の輪廻を生み出さないためにも」

 

リョウ「更なる不幸を生み出さないために行くんよ。悪いが通させてもらう」

 

ミカエル「…成る程、あのアイリという元人間の娘のためですね。あなたが救い損ねた只の一般人、放っておいてもあなた以外の誰かが護ってくれる筈です。あなたに護られるよりかは、余程有意義でしょう」

 

リョウ「アイリは、わしが護らなきゃならんのよ…!!」

 

アイリの話題が出た途端、目に見えて態度が急変し感情が露となった。

何故理性を失う勢いで言い寄ってきたか分からないが、殺意にも似た凄みを利かせた威圧感にミカエルは無意識に一歩下がってしまった。

 

人間が放つにはあまりにも異質で異様、尋常ではない威圧感は、気を失う程の凄みがある。

実力行使で天界へと向かうのを阻止しようとしたが、実施不可能だと行動を決定付けられたようなものだった。

 

彼の行動を妨害すれば、必ず殺される。

四大天使の自分だろうと、この世を統べる神だろうと、抵抗すら出来ない赤子だろうが、容赦なく牙を剥く兇悪さを肌で感じ取れる。

 

特別な事情があるのは確かだが、アイリというたった一人の少女の存在の何が彼を突き動かしているのか不明瞭でしかない。

無論、理由を聞いたところで彼は答えはしないだろうが。

 

リョウ「悪いけど、これで失礼するで」

 

一言謝罪をしてからミカエルの横を通過しワールドゲートを通過し、この世界から去っていった。

尋常ではない殺意に金縛りに近い状態に陥っていたミカエルは呼吸すら忘れていたのか、酸素を体に取り込み荒い呼吸を繰り返しながらも自身を落ち着かせる。

 

マリー「……お二人とも、リョウさんだって、忌むべき力を持ちながらも、誰もが幸せに過ごせる未来を選択しようと奮闘していることを理解してあげてください。私から言えることは、それだけです。…それでは、私も失礼します」

 

リョウの想いを汲み取り斟酌する言葉を掛け、マリーもこの場を後にした。

 

冥府界に佇む瓦礫の山と化した堅城の跡地には寂寞とした雰囲気が漂っている。

ラミエルの亡骸を抱き締め悲哀の涙を流し続けるウリエル。

哀惜の念に堪えない彼女の姿に掛ける言葉が未だに見当たらず、リョウの蛮行を阻止出来なかった遣る瀬ない思いで溢れ歯を軋ませるミカエル。

薄暗い世界にも劣らない暗く憂鬱な雰囲気を嘲笑うように、乾いた風が吹き抜けていった。

 

 

~~~~~

 

 

アイリ「あたしの霊圧が消えた?そんな酷なことはないでしょう!皆さんお久しぶりぶりぶり大根ですわ!この小説の主人公のアイリちゃんでーす!正真正銘のエンジェルだぜ!」

 

ピコ「前回までの展開とルシファー達との話の温度差が凄すぎて風邪引きそうだよ…」

 

シャティエル「ピコさんは消しゴムなので風邪を引くことは有り得ません」

 

ピコ「…うん、そうだね」

 

アイリ「ふざけてる場合じゃなかった。カイ君が何処にも見当たらない…!」

 

ユンナ「しかし、何故カイさんが?目的が分かりませんわね」

 

悪魔の殲滅から無事に帰還を果たしたアイリだったが、安らぎの時間を与えられることはなかった。

 

同居人であるカイの行方不明。

様々な騒動が重なり、一人留守にせざるを得ない状況となっていたところ、姿を消してしまった。

幼い子供なため、一人で外出したとも考えづらく、仮に出たとしても建っている場所は浮島で、飛行能力を持たない人物では行動範囲はこの浮島だけに限られる。

屋内を荒らされた痕跡があるため、何者かに誘拐された可能性もある。

 

何度も名前を呼び続け何分か捜索してみたが、手掛かりは一切なかった。

悪戯で身を潜めている訳ではなく、荒らされた割には金品等を盗まれた形跡がなかったため、愈々何者かに連れ去られた可能性が高まった。

天界にいる天使が悪行を働くとは思えないので、恐らくカイを誘拐したのは異世界人。

何の理由で誘拐したのか不明瞭だが、幼く抵抗手段を持たないカイがどのような酷い目に合っているか検討も付かない。

エクリプスのようなテロリストだとすると、物々交換の材料としてぞんざいに扱われているか、惨たらしく拷問されるか、理由もなく殺されているかもしれない。

 

想像したくもない最悪の展開を想像してしまい、気が気ではないアイリは血の気が引き顔面蒼白となる。

 

アイリ「あたしが、私利私欲のために動いていたせいで、カイ君が…」

 

ピコ「アイリのせいだけじゃないよ。僕もエーリヴァーガルに行く際に、誰か一人残るよう創案すれば良かったんだから、僕にも責任がある。やることは山積みだけど、兎に角、カイの捜索を最優先しよう」

 

シャティエル「指紋、足痕跡も確認出来ませんでした。しかし、時空の歪んだ時に生じるエネルギー波を微弱ながらも検知しました」

 

ピコ「異世界人の可能性が高まったね。時空防衛局の鑑識官に見てもらえれば、何処の世界に逃げ果せたか分かるかもしれないね」

 

アイリ「ユンナさん、カイ君の捜索の手配をお願いします。今すぐに!」

 

ユンナ「申し訳ありませんが、この案件は完全に私用のもの。世界に危機が陥る、バランスが崩れる事変でなければ、わたくし達が動くことは難儀ですわ」

 

アイリ「そ、そんな…」

 

シャティエル「カイさんは闇の力を宿す妖怪です。天界に存在する時点で異常とも言えるのに、妖怪という存在が認知、普及されていない異世界に浸透してしまうのは異常事態です。仮に誘拐犯がカイさんの闇を開花させることが可能ならば、その力を行使して世界を牛耳るかもしれません。アイリさんの生まれ故郷である世界と同様の世界で異端の力が解き放たれれば、被害は検討も付かない程に莫大なものとなります。それを踏まえ、時空防衛局の方々には出動させた方が良いと判断します」

 

ピコ「シャティエルの言うことも一理あるね。僕達で解決するしかないけど、一応結愛にも協力を仰いでみるよ。勿論リョウにも声は掛けてみるけど、今は悪魔の殲滅に行ってるから後で合流する形になるかもしれない」

 

手掛かりもなく前途が暗澹としている状況に一筋の光が差し込んだ。

特に『世界の監視者』としてあらゆる世界を遠望する力を持つリョウがいれば、一つ一つ世界を巡り詮索する気が遠退く作業の必要なく発見することが可能だ。

 

リョウ「わしがなんやって?」

 

アイリ「え?」

 

ピコが連絡しようとした直前、見計らうかのように家の扉が開きリョウが帰宅した。

後ろにいるマリーも「お邪魔します」と律儀に小さく頭を下げ、丁寧に靴を揃え家に上がった。

 

ピコ「リョウ?もう悪魔の残党は狩り終えたの?」

 

リョウ「大体片付いた。それより、何か異常はなかった?」

 

ピコ「異常?天界に異常はなかったけど、カイが何者かに誘拐されちゃったんだ」

 

リョウ「っ…これのことか…」

 

天を仰ぎ片手で顔を覆う。

何を思ってか態々忠告をしてきたため、戦犯はリリスで間違いはない。

目的は未だ不明瞭ではあるが、カイを拐ったのには間違いなく意味がある。

カイの過去を知るリョウはその力を良からぬ事に使用するのは歴然だった。

 

よりによって、アイリの過去に関与する身内の存在を利用しようとしている。

 

明らかに意図して、リョウとアイリの過去を熟知している狡猾なやり方に怒りを覚えるが、それ以前に、自分に対しての自責の念が大きかった。

 

カイに封じられた力を何者かに狙われる保証がないなんて誰が決めたのだろうか。

ラミエルやルシファーの件と同様で、配慮が足りていなかったと言わざるを得ない。

『世界の監視者』と呼ばれる立場でありながら、世界一つを護れても、身内の存在を真面に護ることが出来ていない自分が不甲斐なく感じ、罪悪感だけが心を蝕んでいく。

 

マリー「リョウさん、あなたはあなたなりに奔走しているのは知ってます。だから…」

 

リョウ「いや…結果がこれじゃ、過程がどうだろうと、無意味や」

 

何十回、何百回と繰り返してきた後悔。

致し方ないなんて言葉じゃ済ませられない事柄は汲めども尽きない。

今回も、再度失敗した。犯したくない過ちを繰り返す羽目となる。

より良い未来となるため粉骨砕身の思いで懸命に世界を駆け回るも、悲劇が尽きることはない。

後悔したくないから、誰かが悲しむ姿を見たくないから戦っているのに、最後に目に映るのは、悲劇的な終幕。

 

リョウ「最善を、尽くしてる筈なのにな…」

 

後悔したくないから、常に最善の結果となるよう臨機応変に立ち回っているつもりだった。

結果が実らず、何のために戦っているのか分からなくなる。

 

リョウ「でも、自業自得よな…」

 

今現在起こっていることが、自分が下した決断によって生まれた結果。

避けられたかもしれない悪因苦果だが、自分が後悔ないよう選択した結果が現在だ。

 

リョウ「後悔しかない…な」

 

後悔なんてあるわけない、なんて冗談でも言えなかった。

これから起きようとしている悲劇に直面して、更に後悔することになるのだから。




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