2度目の人生は青春したかったです   作:リキクラ

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3話

「てっきり私はトーフが大人の階段を登ったのかと思ったよ!」

「勘弁してくれよ、母さん」

 

 大きなテーブルに並べられた魚の煮付けに、山菜のサラダ。 そして母さんお手製のパン。 子供の頃からお祝い事がある度にリクエストしていたもの、どれも俺が好きな献立だ。

 

『美味しい! コレすっごく美味しいです!』

「その子の口にも合うかねえ?」

「大丈夫みたいだよ、旨いってさ」

 

 モゴモゴと口へと料理を運んでいく笹中、いやルナ? どっちでもいいか。

 

「なら良かった! まだ沢山あるからいっぱいお食べ」

『なんて仰ってるんです?』

『まだあるから沢山食え』

『はい! ありがとうございます!』

 

 この通訳いつまでしなきゃいけないんだ。

 そう思いつつ料理を味わっていたら、横に座っているモーブから声が掛かった。

 

「なあトーフ、結局この子は何処の誰なんだ?」

「絶滅危惧種みたいな部族の人だよ、喋ってる言葉も街でも殆ど耳にしなかったしな」

 

 正直に答えたところで意味は無いだろうから適当に答えておく。 あながち嘘でもないし、日本語を喋る奴なんざ街どころかこの世界では俺とコイツくらいだろう。

 

「へー」

「聞いといてリアクション薄いなぁ」

「俺は考えるのあんま好きじゃないしな! あ、母さん屋根の修理しといたぞ!」

「あら、ありがとね。 いやー最近雨漏りばかりで参ってたのよ、助かったわ」

 

『トーフさん、トーフさん』

『何?』

『今更かもですけど、このお二人はご家族の方ですか?』

『ああ、そうだよ。 血の繋がりは無いけどね』

『え…… あっ、すいません、変な事聞きました?』

『いや、大丈夫だよ。 そんなの無くても家族は家族だから』

 

 俺は、否。 俺とモーブは所謂孤児って奴だ。

 物心つく前に、この世界の俺の両親は流行病で亡くなってしまった。 モーブの両親も同じ理由でこの世を去っている。

 白状と取られるかもしれないけど、両親の記憶なんて殆どないし、俺にとっての親は母さんだけだ。

 

『じゃあこの家は……』

『うん、孤児院ってやつ』

『そうですか……』

『だから気にしないでくれって、それより食べ終わったら勉強会だ。 さっきは母さんがきてうやむやになっちまったからな』

『はい』

 

 

 そして食事が済み、俺の部屋でルナへとこの世界の言葉を教えることになった。

 

 

 なったのだが……

 

『もーお前才能なし! 身振り手振りで何とかしろ!』

『ひどいですよ! 「こんにちは」と「こんばんは」は覚えたじゃ無いですか!』

『5時間経ってなんでその2個しか覚えられねえんだよ!』

 

 はい。 日を跨いで随分経ってもこのポンコツ全然言葉を覚えてくれません。

 

『だってぇ、こんなの私の想像してた異世界じゃ無いんですもん。 なんかやる気出ないんですよねぇ』

 

 無造作に置かれた鉛筆を手に取り、コロコロと転がし遊び出す始末。

 

『もう俺教えなくて良いか?』

『ごめんなさいごめんなさい! __あっ! そうだトーフさん! 獣人の女の子を口説く言葉を教えて下さいよ! それならスンナリ覚えられる気がします!』

『んなもん知るか! あ、というかあんまり獣人の話題出さない方がいいぞ』

『え? なんでです?』

 

 視線が机の上から俺の顔へと移動し、鉛筆をいじっていた手が止まった。

 俺の次の言葉を待つように、その表情も幾ばくか硬くなっている。

 

 

『日本じゃあんまり無かったかもだけど、世界的にみて人種差別はあっただろ? それと似たようなもんだ』

『え! 獣人って差別されてるんですか!?』

『昔は奴隷扱いが当たり前だったみたいだな。 今はだいぶ改善されてるみたいだけど、そもそも人が多く集まってる処に顔なんて出さないし、獣人族の集落なんて行こうもんなら袋だたきに遭うんじゃねえかな』

『そんな…… 私の夢が』

『どんな夢を…… ああ、言わなくて良いからな。 なんとなく察した』

『……いや、そんな違う種族、差別の中で芽生える愛情というのもあり? むしろバッチ来い』

 

 先ほどの真剣さは何処へやら。 二ヘラと顔を緩ませてブツブツとよこしまな事を呟きだした。 まーたトリップしちゃったよ。

 コイツが言葉を覚えられない原因は間違いなくこの妄想癖だ。 この数時間で7,8回は飛んでる。

 

 いい加減に面倒なので、魔法で小さな水球を作りだしコイツの顔面へと放った。

 

『キャッ! つ、冷たー』

『戻ってきたか?』

『と、トーフさん! 今のなんです!? 魔法ですか!?』

『そうだよ、ほら続きだ』

『ほ、他にも使える魔法ありますか!? 私、見てみたいです!』

 

 興奮して前のめりになるルナ。 めんどくさい。 魔法使うと疲れるんだよなあ…… あ、そうだ。

 

『じゃあ単語1つ覚えるごとに一個魔法を見せてやろう』

『分かりました! 私頑張ります!』

 

 おお、わかりやすい奴。

 

 その後、朝日が昇る頃まで言葉を教えた結果。

 計14個の単語を何とか覚えさせることができた、最初からその集中力を出せってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドタバタという音で目が覚めた。

 まだ瞼が重いが、陽はもう高くに登っているようで、開いた薄目に日光が眩しい。

 

 

「おはようございます! トーフさん!」

 

 勢いよく開かれた扉の向こうにルナの姿が見えた。

 

『おー、挨拶は完全に覚えたみたいだな』

『はい! さっそく魔法を見せて下さい!』

『すぐ行くから外で待っててくれ』

『はい!』

 

 再びドタバタと音を立てて彼女は去って行く。

 

 欠伸を漏らしつつ身支度をした。 外へ出ると、如何にも準備万端といった様子で待っていたルナ。

 

『お待たせ。 取りあえず森に行こう、ここじゃ周りに迷惑だからな』

『はい!』

 

 

 元々が森に囲まれた村だ、人気の無いところなんてソレこそ周りに溢れている。

 暫し歩き、木こり達が仮眠を取る小屋を過ぎるとそこはもう森の中。 これから切り倒されるのであろう、目印の赤い布が巻かれた木々が幾つか顔を覗かせている。

 

 近くの手頃な切り株にルナを座らせた。 

 

『さて、じゃあ見せてやろう』

『待ってました! 14個ですよ! 14種類!』

『慌てない慌てない。 まずは基本中の基本__「ファイア」!』

 

 地面へと向けた手のひらから火の玉が飛び出す。

 大した距離が無かったとはいえ、飛び出した火球はすぐに地面へと接触し、そこにある落ち葉へと引火した。

 

『続いて、「ウォータ」!』

 

 その火に向けて、深夜ルナへと放った水球。 ウォータを放ち、消火した。 

 

『そんでもって、「ウインド」!』

 

 最後に強風を起こすウインドにて、辺りの落ち葉を上空へと吹き飛ばす。

 

『どうだ!』

 

 出来る限りのドヤ顔をルナへと向ける。 

 ポカンとした顔。 顔についた泥を拭いもせずに俺を見ている。 ふふふ、驚いておるわ。

 

『なんか__ ショボくないです?』

『……あ?』

『自分で火をつけて消しただけじゃ無いですか! ライターで遊んで喜ぶ小学生じゃないんですよ私は! しかもなんで最後泥水まで飛ばしたんですか!? 顔に付いちゃいましたよ!』

『はああっ!? 見せてやったのになんだその言いぐさは!』

『私はもっと凄いのが見たいんですよ! 雷落とすとか! 竜巻を起こすとか! 大爆発を起こすとか! そういうのを求めてるんです!』

 

 こ、このクソ女。

 

『ふざっけんな! んな魔法使える訳ねえだろ!』

『じゃあ残りの11個は何を見せる予定だったんです?』

『……つらら出したり、明かり出したり』

『他には?』

『それしか使えんわ! 文句あるか!』

『はあっ!? じゃあ沢山言葉覚えた意味ないじゃないですか!』

『はーいはい残念でしたー。 沢山言葉覚えられてよかったですねー』

『うっわ開き直るんですか、この白髪頭!』

 

 小声でウォータを唱える。

 ざまあみろ。 ビショビショになりやがった。

 

『ああーっ! 何するんですか!』

『おーおー、悪うございました風邪引く前に着替えたら?』

『私この服以外に着替えないですよ!?』

『そいつは愉快だ』

 

 ギャーギャーと騒ぐルナを尻目に切り株へと腰を下ろす。

 ウインドで辺りの落ち葉を一カ所に集める。 周囲に燃え移らないように集めたら、ファイアで点火してやる。 簡易的なたき火の完成だ。

 

『ほおらたき火だ。 乾かせば?』

『うっわ、すっごいムカつきます』

 

 頬を膨らませ、足跡がくっきり残る程に力強くたき火に近づくルナ。 分かりやすく怒っている。

 ちょっとやり過ぎた。

 

 母さんに頼んで適当に服を見繕ってもらおう。

 

『あの、トーフさん?』

『あ? ああ、悪かったよ。 やり過ぎた』

『い、いえ、トーフさん。 し、召喚魔法みたいなのって使ったんです?』

『だからそんな魔法使えないっての』

 

 また話をぶり返すのかと思いきや、どうにもルナの様子がおかしい。

 こちらの方を見てはいるが、視線は俺の後ろに行っているし、何より今までの怒りの表情がすっかり消えている。

 

『じゃ、じゃあ、その後ろの方は』

『何? 後ろに何が…… ッ!』

 

 振り返った俺の視線の先。

 

 子供ほどの身長、異常に発達した筋肉。 醜悪な顔を愉悦の表情に歪めてそいつは、”ゴブリン”がそこにはいた。

 

 手に持った太く長い木の棍棒の先には、誰のモノかも知れない真っ赤な生肉が付着していた。 

 

 

 

 

 

 




 あ~んハイボール美味しい~。
 どうしてこうもお酒とピーナッツって合うのでしょう?

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