暗い海の果て ―Er schläft im Weltraum― 作:七水らむね
再び逢える日を
―数年後―
「遊真くん急いで! 学校遅れちゃう!」
「チコクだチコクだ」
朝からバタバタと慌ただしく用意をする
「そういうあんたもまだ二十代に入ったばっかでしょ」キッチンで二人分の弁当箱におかずをテキパキと詰め込みながらツッコミを入れる小南に、迅は含みのある笑みを浮かべる。
「……小南もそのうち分かるよ」
「えっ、何、怖い怖い」
「迅さん見てれば何となく二十代の怖さが分かりますよ」
それまで静かにコーヒーを飲んでいた京介がぼそっと呟き、それに対して「やっぱり?」と迅が笑った。
「アンタ達! 弁当忘れてる!」
小南が玄関に行こうとしていた遊真と千佳に対して呼びかけ、小走りで玄関へと向かう。
「おはよ〜……ふぁあ……」
欠伸をしながら階段をのそのそと降りてくるのは、寝ぼけてメガネをズレたままかけている宇佐美だった。
「ちょっと、また夜更かし?」
「あ、きりえ。いやぁ、新しく買った小説が面白くて……つい」
二人の緩い会話を聞いた遊真と千佳は少し笑いながら、靴を履き終わり、立ち上がって玄関の扉を開けた。
「「いってきまーす!」」
元気な声でそう言えば、家からは四人のいってらっしゃいという声が聞こえてきた。
わたし達が戻って来た地球は、意外にもわたし達の暮らしていた世界とあまり変わりはありませんでした。
平和な世界は好きです。ただ、わたしは時々昔の事を少しだけ思い出しては涙を流しています。
あの日々があったからこそ、今のわたしがいて、そして遊真くん達が居る。
「……修くん。わたしは元気だよ」
ありがとう、と空へ向かって一人呟く。
胸が少しばかり締め付けられるような気持ちになりつつも、遅刻寸前な自分達の現状を思い出して駆け足で学校へと向かうのだった。
「セーフ?」
「ギリギリセーフ!!」
遊真とクラスメイトの男子生徒が笑いあう。
教室の扉を開ければ、ほとんどのクラスメイトは居るもののまだ担任は来ていない様子だった。
呼吸を整えつつ自身も席に着くと前の席の女子生徒が振り返る。
「千佳、おはよう」
「おはよう」
お互いに挨拶をした後、教科書やノートを机の中に入れていると、女子生徒がワクワクとした様子で再び話し掛けてくる。
「なんか今日転校生が来るらしいよ〜」
「転校生?」
「うん。どんな人なんだろうね〜!」
笑うと彼女の八重歯がちらりと見える。
転校生と聞いて胸がわずかにざわめいた気がした。
この胸のざわめきの原因が何なのか知りたくてしばらく思考を巡らせていた。しかし、考えている途中で担任が教室へと入って来た為、それは呆気なく霧散してしまった。
「はいはい座りなさい。そこ、携帯は仕舞う!」
厳しいせいで鬼教官ならぬ鬼教師と生徒達から言われている女性教諭が教壇に立つ。
さっきまで騒がしかったのが今は物音一つしないほどに静かだ。
「今日から転校生が一人来ます」
その言葉におおっ、と教室内が(主に男子生徒の賑やかしで)ざわめくが、先生がうるさい! と一喝すればまた静かな状態へと戻った。
「入って来て」
前の入り口に先生が視界を向け、わたし達も釣られてそちらへと視界を向ける。ゆっくりと扉の開く音に期待が高まる。そして教室におそるおそる入って来たのは、見覚えのある青年だった。
「「!?」」
彼と同じ顔、同じ身長、同じメガネ。
――そこには、あの日と変わらない姿をした”彼”が居たのだ。
「名前を」
「あ、はい。ぼくは――」
***
「――驚いた。まるでドッペルゲンガーじゃないの。それか生まれ変わり」
彼をまじまじと見詰める迅、小南、京介の三人。
「??」
三人の視線をモロに受けている彼は、首を傾げつつ出された紅茶を気まずそうに飲む。
「しかも名前も全く一緒って……これもう奇跡じゃない?」
「奇跡どころか、もはや運命にも思えてくるよ」
一人その会話に乗り切れていない彼――もとい三雲修は、頭上にはてなマークを沢山浮かべている。
そんな、修をじっと見ていた小南に、京介がいつもと同じ声音で話し掛けた。
「小南先輩、ドッペルゲンガーって実は先祖が同じらしいですよ」
「えっ、そうなの!?」
「まあ嘘ですけど」
「…………」
……。
「また騙しやがったなこのやろー! とりまる許すまじ!!」
「痛い、痛いです」
こめかみをグーでぐりぐりされているにも関わらず無表情の京介と、まるでコメディ漫画のように怒る小南。
「憎い! 憎いわあ!! あたしは今、あんたが超絶にくい!」
一転して楽しい空気と笑い声に包まれたリビング。
「あはは」
「「!!」」
周りに釣られて笑う修。
驚いてそれをじっと見ていれば、笑っている顔の目から涙が零れ落ちた。
「あっ、いや……あの……なんかちょっと懐かしい感じがして……」
笑顔が消え、慌てて手で涙を拭っているが、涙は止まる事なくボロボロと零れている。
「あれ……おかしいな……どうして泣いて……」
「…………修、あんた」
もしかして、と言いかけた瞬間。
「ねえみんな! 外見て!!」
息を切らしながら帰ってきた宇佐美が焦った表情でリビングのドアを開く。
「ちょ……どうしたの」
「
「「「!!」」」
久々に聞いたその言葉に、全員が目を見開く。
わずかに躊躇いを帯びた空気が流れるが、数秒後に迅が冷静に指示を出した。
「おれ達は外に出る。宇佐美、フォローよろしく」
「了解」
「メガネくん……じゃなくて三雲くんは宇佐美と一緒に居てくれ。危ないから外には出るなよ!」
「え……は、はい」
突然の事に戸惑いつつも頷いた修に、宇佐美の視線が向く。
「……えっ修くん!? 何!? なんで!!?」
「ちょっと掴みかからないの! 後で説明するから!!」
小南が、興奮して修に掴みかかろうとしていた宇佐美を引き剥がして外に出ていった。
「身体大丈夫かな〜鈍ってないかな〜」
「遊真は大丈夫だろ」
「むしろあたしは迅が心配よ」
「おれ!?」
外は不自然なほど暗く、あちこちからバチバチと音を立てて
空閑、雨取、迅、小南、烏丸の五名は、トリガーを持って家を飛び出す。
「トリガー、
そして、声が
《補填》
遊真と千佳ちゃんが同じ学年なのには理由があります