プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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11 『剛力』

 開幕速攻。

 俺は《隠密》のスキルと高い機動力を最大限に生かし、木々の上を高速で移動しながら、見つけた獲物に人体の死角である上空から襲いかかり、デスサイズの餌食にした。

 さすがデスサイズと言うべきか、生半可な装備では鎧ごと真っ二つにするような凶悪な切れ味を見せてくれた。

 俺の攻撃力、STRの数値は、装備とスキルによる補正を含めれば、余裕で三桁の大台に乗っている。

 この結果はむしろ当然と言えた。

 

 それに、β版時代にずっと使い続けてきた武器はとても手に馴染む。

 重さ、長さ、形状、そういった要素を完璧に把握し、まるで体の一部のように自在に操る事ができる。

 単純なステータスも、プレイヤースキルも大幅に向上した。

 今の俺は相当強い。

 そう実感できる。

 

 そうして狩りを続けながらエリア内を移動する。

 今回のバトルフィールドはこの森林エリアだけではない。

 他にも山岳エリアや街エリアをはじめとした多種多様なエリアがある筈だ。

 その広大なフィールドに獲物(プレイヤー)は散らばっている。

 

 この森林エリアは、俺にとってかなり戦いやすい地形だ。

 生い茂る木々が身を隠し、こちらからは《気配感知》のおかげでわりと簡単に標的を見つけられる。

 戦闘になったときも、木々を足場にして立体的に動き回れば、かなり有利に立ち回れるだろう。

 これがβ版の時のような、最後まで生き残れば勝ちのサバイバルなら、ここを拠点としていた。

 

 だが、今回のルールはポイント制。

 勝つ為にはより多くの標的を仕留めなければならない。

 

 そう考えると、このエリアはあまり良くない。

 身を隠しやすいという事は、逆に言えば敵を見つけにくいという事でもある。

 いくら《気配感知》があるとはいえ、索敵範囲は狭し、限度がある。

 

 できれば見通しの良いエリアに出たい。

 危険ではあるが、その分、敵も見つけやすい筈だ。

 

 そんな事を考えながら何人か見つけた獲物を仕留め、移動を続ける。

 そこで《気配感知》に再び反応があった。

 二人ほど、こちらに向かって来ている。

 

「嫌あああああああああああああああ!!!」

「待てえええええええええええええい!!!」

 

 いや、《気配感知》に頼るまでもなく、大声で丸分かりだった。

 現れたのは、身長二メートルを超える筋骨隆々の巨漢と、それに追いかけられる白髪の少女。

 巨漢は上半身裸にマスク姿という変態だ。

 リアルなら通報どころでは済まない光景だが、ここはゲームの中で、今はイベントの最中。

 ならば、何の問題もない。

 

 俺は追いかけられている白髪の少女に近づいた。

 

「こんな所で会うとは奇遇だな、マイン」

「お兄ちゃん!」

 

 追われていた少女はマインだった。

 俺を見て助かったとばかりに明るい表情になったが、それは勘違いだ。

 

 デスサイズの刃がマインの体を両断した。

 

「へ?」

「悪いな。俺はこの手の勝負において、実の妹相手でも容赦はしない」

「お、お兄ちゃんの薄情者ーーー!!!」

 

 そう叫びながら、マインは光の粒子となって消滅した。

 悪いなマイン。

 リスタートして頑張ってくれ。

 

 そして、この場には、俺と半裸の変態だけが残された。

 

「死神ィイイイイイイイッ!!!」

 

 繰り出される変態の拳を避け、反撃にデスサイズを振るう。

 しかし、変態はその巨体に似合わない俊敏な動きで刃を避けた。

 まあ、予想通りだ。

 

「よくも我が筋肉の進む道を邪魔してくれたなぁ!! あの少女はこの筋肉によって討ち倒し、筋肉の強さと素晴らしさを伝えるつもりであったというに!!」

 

 出たな。

 カタストロフ以上に理解できない、こいつの謎理論。

 

「相変わらずだなマックス。いや『剛力』。毎回思うが、あれじゃトラウマにしかならないと思うぞ」

「黙れぇい!! こうなったら、代わりにお前を我が筋肉の糧としてくれる!!」

 

 そう言って変態、改めマックスはパンチを繰り出して来た。

 ボクシングのジャブのような、コンパクトで隙のない連続パンチ。

 俺を相手に大振りは必要ないとわかっている奴の動きだ。

 見た目も中身も脳筋のくせに、動きだけはよく考えられている。

 

 スピードに任せてパンチの雨を避け、後ろに下がって強引に距離を取る。

 そして、脚に力を込めてジャンプ。

 木々の間を高速かつ不規則な軌道で跳び回り、奴を撹乱する。

 

「ぬぅ……!!」

 

 この地形と俺の機動力は相性が良い。

 今よりもステータスの高かったβ版時代に戦った相手すら翻弄できる程に。

 マックスは俺を目で追えていない。

 そして、完全に死角を取ったと確信したタイミングで、俺は背後から首筋目掛けてデスサイズを振った。

 

「小賢しいィ!!!」

 

 「ムンッ!!」と言ってマックスが防御態勢を取った。

 背中を丸め、振り上げた両腕で首と頭をガードする構え。

 俺とデスサイズの前に生半可な防御は通用しない。

 それこそ、そこら辺の鎧や盾なら正面から粉砕できる。

 

 だが、そんなデスサイズの刃は、『剛力』という二つ名に相応しい太い腕を半ばまで切り裂いたところで止まっていた。

 

「筋肉とは最強の鎧である!!」

 

 攻撃を受けた事で俺の位置を特定したマックスが、背後を見ないままに強烈な裏拳を放ってきた。

 それを、マックスの体に突き刺さったまま振り回されるデスサイズに合わせて跳躍する事で回避。

 その時により深く傷口を抉りながらデスサイズを引き抜いて距離を取る。

 ……今のは危なかったな。

 

「ぬぅ!! 逃したか!!」

 

 振り返って見て見れば、あれだけやっても腕の一本すら切断できていなかった。

 しかも、そのダメージはみるみる内に回復していく。

 さすがに全快するまでには時間がかかるだろうが、それでもHPを水増しされるだけでも厄介だ。

 せめて部位欠損状態にできれば、少しは楽になったんだがな……。

 

 この反則的な防御力と回復力の仕掛けはわかっている。

 回復の方は高レベルの《HP自動回復》。

 スキルポイントは新たなスキルを取得するだけでなく、既に持っているスキルにつぎ込む事で、そのスキルレベルを上昇させる事ができる。

 そのシステムによって、《HP自動回復》ともう一つのスキルにのみポイントを集中する事によって、こいつはこんな反則級のタフネスを獲得している。

 

 そして、こいつのプレイスタイルの根幹をなすスキルがある。

 その名も《武装解除》。

 装備アイテムによる恩恵を一切受けられなくなる代わりに、物理系ステータスに大幅な補正をかけるスキル。

 正しく、己の体一つで戦う為のスキル。

 

 ネタスキルと言われ、実用に値しないという烙印を押されたこのスキルを、マックスはトッププレイヤー相手でも通用する程に昇華させた。

 スキルポイントのほとんどをこのスキルにつぎ込み、ステータスポイントを防御力に極振りする事によって、誇張抜きで鋼よりも頑丈な肉体を手に入れた。

 このゲームの醍醐味をほとんど捨てて、強靭な肉体を作り上げた。

 それを全て、筋肉への謎のこだわりと情熱によって成し遂げたというのだから、実にふざけている。

 変人カタストロフの目に留まる程に。

 

 そう。

 こいつと俺はβ版時代の仲間。

 同じ『サクリファイス』のギルドメンバー。

 故に、お互いの手の内はよく知っている。

 さっきまでの攻防で、こいつがβ版時代と全く同じ方針を貫いているという事もわかった。

 

 だからこそ、攻略法も知っている。

 

 速攻だ。

 あいつのHPが回復する前に削り切る。

 俺の攻撃力なら、それができる。

 

「行くぞ」

「来い!!!」

 

 マックスに向けて正面から突っ込んだ。

 その途中で腰からナイフを引き抜き、投擲する。

 前に使った『錆びたナイフ』ではない。

 NPCの店で買った普通の武器とはいえ、ちゃんとした攻撃力をもった凶器だ。

 俺のパワーで投げれば、こいつ相手でも充分なダメージを稼げる。

 それを避けるなり、防ぐなりした隙を突く。

 

「ウオオオオオ!!!」

 

 しかし、マックスは迎撃を選らばなかった。

 飛んでくるナイフを完全に無視して、俺に突進してくる。

 ナイフがマックスの胸に突き刺さる。

 ダメージは与えている。

 しかし、奴は意にも介さない。

 

 隙を突くなんて考えは甘かったな。

 いいだろう。

 正面からの殺し合いといこうか。

 

「ハァアアアア!!!」

 

 正面からデスサイズを振り下ろす。

 マックスは左腕を盾にしてそれを防ごうとするも、その腕にはさっき刻んだ傷痕がある。

 寸分違わずそこを狙ったデスサイズの刃は、マックスの左腕を切断し、肩口に大きく沈み込んだ。

 だが、僅かに浅い。

 奴のHPを削り切れてはいない。

 

「筋肉を斬らせてぇ!! 骨を断ァつ!!!」

 

 残った右腕が俺を狙って振りかぶられる。

 デスサイズを振り切った今の体勢では避けられない。

 こいつは防御力特化型とはいえ、《武装解除》のスキルのせいで、それなり以上の攻撃力を持っている。

 この拳が直撃すれば、一撃で死ぬだろう。

 

 俺はそれを、同じく拳で迎え撃った。

 

 マックスの右拳に、俺の左腕のパンチをぶつける。

 俺の左腕が根元からちぎれ飛ぶが、単純な攻撃力のステータスならば、実は俺の方が上だ。

 左腕の代償と引き換えに、マックスの右腕は大きく弾かれ、その巨体が傾いた。

 

「ぬおお!?」

 

 その最大の隙を見逃しはしない。

 残った右手を、マックスの体に刺さって振るえないデスサイズから離し、腰に差していたもう一本のナイフに伸ばす。

 

 そのナイフで、マックスの喉を刺し貫いた。

 

「……見事だ。死神」

 

 最後にそう呟いて……マックスは光の粒子となって消滅した。

 

《レベルアップ! LV15からLV16になりました》

《ステータスポイントを入手しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 ……勝った。

 だが、代償は大きい。

 左腕の部位欠損。

 それにHPも随分削れている。

 

 HPは回復ポーションで何とかなるが、左腕はそうもいかない。

 部位欠損は時間経過か高レベルの《回復魔法》でしか回復しない。

 5分もすれば生えてくるだろうが、5分間片腕が使えないのは痛い。

 これが戦闘中なら致命的だ。

 

 ポーションの消費も決してバカにはならない。

 今回のイベントでは、アイテムの持ち込み制限がある。

 イベントリの中の回復アイテムは使えず、装備の腰につけた分しか使えないのだ。

 

 これだけの死闘を演じて、獲得したのは他の獲物を狩った時と同じ2ポイントか。

 割に合わないな。

 

「避けて通るべきだったか……」

 

 今回のルールに乗っ取って考えれば、強敵との戦闘は避けるべきだったな。

 つい熱くなってしまった。

 反省だ。

 

 そして、デスサイズとナイフ、それと左腕と一緒に吹っ飛んでしまった籠手を回収し、さっさとポイントを割り振って、その場を去った。

 左腕の回復を待ちつつ、次の狩場を目指して移動する。

 

 イベントはまだ始まったばかりだ。


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