プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ようやく森林エリアを抜けるという段になって、左腕が回復した。
回収しておいた籠手をつけ直し、次のエリアへと飛び込む。
森林エリアを抜けた先にあったのは、巨大な城壁。
始まりの街を思わせる……というより始まりの街のデータを使い回していると思われる城壁だ。
もしかしたら、内部も始まりの街と同じになっているかもしれない。
街エリアか。
得意か不得意かと言えば、どちらでもあるといったところだな。
広い場所で大人数を相手にするなら不利だろうし、狭い場所で少人数相手なら有利だろう。
だが、大人数を相手にするとしても、今回のルールなら協力プレイはまずあり得ない。
それならば、初日のように撃破数を大きく稼ぐ事も夢ではないかもしれない。
少なくとも、森林エリアよりは敵が見つけやすそうだ。
そう分析をしながら城壁に沿って進む。
さすがにこれを飛び越えるようなマネはできない。
ステータス的に無理がある。
だから、この城壁の中に入るには入り口を見つけなければならない。
ここが始まりの街と同じ作りなら、城壁に沿って進めば必ず正門に辿り着く筈だ。
あるいはスラム街に出るかもしれない。
とにかく、
そうやって少し移動すれば、予想通り始まりの街と同じ作りの正門に出た。
静まりかえっていた森林エリアとは違い、街の中からはけたたましい音が鳴り響いている。
武器がぶつかり合う音、魔法の着弾音、悲喜こもごもなプレイヤー達の声。
どうやらここは当たりのようだ。
早速、正門を抜けて街の中へと足を踏み入れる。
「死ねぇい!! ……ぷぎゃっ!?」
待ち伏せしていた奴がいたが、奇襲前に声を出すような間抜けだったので、即行でデスサイズの餌食になった。
襲撃者の体が光の粒子となって消える。
だが、そのタイミングで《危険感知》に反応があった。
「ッ!?」
消滅の光を目眩ましにして飛んで来た一本の矢を、咄嗟に首を傾けて避ける。
すぐに障害物に隠れ、矢が飛んで来た方向を見るが、射手の姿はない。
《気配感知》にも引っ掛からない隠密性と、あの精密すぎる狙撃……。
ハンターの仕業か。
マックスに続いて面倒な奴と当たってしまった。
ハンターもまた俺やマックスと同じで、『サクリファイス』のギルドメンバー。
そして、マックスと同じく一つのプレイスタイルを突き詰めたキワモノ。
近づければ簡単に倒せる相手だが、あいつは遠距離戦やゲリラ戦に特化している。
こういう、かくれんぼになったら見つけ出すのは至難の技だ。
ここは、奴を放置して進んだ方がいいな。
野放しにして、戦ってる最中に後ろから射たれるのは怖いが、奴を気にしすぎて時間をかけるのも愚策だ。
今回のイベントは、制限時間が1時間しかないのだから。
幸いにして、俺には《危険感知》のスキルがある。
ハンターの矢はやたらと速いが、注意していれば避けられない攻撃ではない。
よし。
行くか。
ハンターを撒くという意図もあって、建物に囲まれた路地裏を疾走する。
目指すのは、戦闘音のする方向。
そこかしこで鳴り響いている、この音のする場所に獲物がいる。
道中、路地裏に隠れていたプレイヤーを何人か仕留め、大通りに出た。
そこでは、十人以上のプレイヤーが入り乱れて、派手な乱戦を繰り広げていた。
魔法が飛び交い、武器がぶつかり合う。
しかし、俺のような特化型でもない限り、ほぼ同レベルのプレイヤー同士の戦いにおいて、一瞬で勝負が決するという事はあまりない。
一撃でHPを削り切る攻撃力を誰しもが持っている訳ではないからだ。
故に、この場所では奇妙な硬直状態が出来上がっていた。
全員、派手に戦ってはいるが、脱落者はほとんどいない。
誰かが誰かを仕留めようとすると、みすみすポイントを渡してなるものかとばかりに、他の連中が妨害する。
その間に狙われた奴は回復を済ませて戦線復帰。
三竦みならぬ、十竦みといったところか。
だが、とても危うい均衡の上に成り立つ状態。
そう長くこの状態が維持される事はないだろう。
数分もしない内にどこかが崩れ、そこから一気にこの場の勝者が決まる筈だ。
だが、それは俺が手を出さなければの話。
こんなに獲物が纏まってくれている場面に、俺が介入しない訳がない。
《隠密》によって気配を薄くした状態で、俺は一番近くにいた獲物、軽装の剣士の後ろへ高速で接近した。
そのまま首筋目掛けてデスサイズを振るう。
剣士も俺の攻撃に気づいて咄嗟に防御したが、大鎌の独特な形状の攻撃を防ぐにはコツがいる。
咄嗟の判断でそこまではできなかった剣士を嘲笑うかのように、デスサイズの刃は防御態勢をいとも容易くすり抜け、その首を飛ばした。
残った体が光の粒子となって消滅する。
「死神……ッ!?」
「ッ!? 《サンダーボール》!!」
「《フレイムランス》!!」
俺の突然の登場に驚愕して動きが止まったのもいたが、さすがにイベントに出てくるだけあって、対応が早いのが何人かいるな。
魔法剣士と魔法使いの攻撃、雷と炎の魔法が俺に迫る。
だが、統率のとれていない単発の遠距離攻撃など恐れるに足りない。
スピードに任せて移動するだけで簡単にかわせる。
「速い……!?」
「チィ!!」
次の標的は、今、雷の魔法を放ってきた魔法剣士。
理由は一番近くにいたからだ。
手近にいる奴から狩っていく。
「舐めんな!! 《ソニックブレイド》!!」
魔法剣士が中距離攻撃のアーツで迎え撃とうとしてくるが、それは悪手だろう。
アーツは何も考えずに使えば、ただのテレフォンパンチだ。
《ソニックブレイド》は斬撃を飛ばすアーツ。
横薙ぎに剣を振るって放たれた斬撃を、身を屈める事で避ける。
来るとわかっている攻撃を避けるのは、実に容易い。
そして、アーツの反動で一瞬動きが止まった魔法剣士を、股下から頭にかけて切り裂いた。
「クソッ……!」
光の粒子となって消滅する魔法剣士。
その光を目眩ましにするかのように、前方から槍使いと斧使いが攻撃を仕掛けて来た。
「「もらったァ!!」」
その武器が振られる前に、俺はさらに前方に加速し、二人を追い越す事で攻撃を避ける。
そして、流れるようにアーツを使った。
「《デスワルツ》」
回転斬りが、軌道上にあった二人の首をはね飛ばした。
だが、アーツの反動を受けるのは俺も同じ。
それを狙ったかのようなタイミングで、炎の槍が俺に迫って来る。
俺はそれを、普通にサイドステップで避けた。
「なっ!?」
アーツは考えて使わなくてはならない。
反動も計算に入れた上で動く。
そうすれば足を止めずに、ノーリスクでアーツを繰り出す事ができる。
もっとも、技によるがな。
《デスワルツ》はレベル1のアーツなだけあって、大鎌のアーツの中では隙が小さく、反動も小さい。
扱い易いタイプの技だ。
「《フレイムラン……ぐ!?」
尚も俺に魔法を浴びせようとしていた魔法使いにナイフを投擲した。
ナイフは後衛職の紙装甲を簡単に突き破り、腕を吹き飛ばす程の大ダメージを与えた。
それで動きの止まった魔法使いにトドメを刺すべく距離を詰め、確実に殺す。
これで五人。
残りは俺の姿を見た途端に逃走を始めていたから、ここにはもういない。
賢い選択だ。
今回のルールは誰を倒しても獲得ポイントは同じ。
強い奴を避けて通るのは、実に理にかなっている。
だが、逃がしはしない。
バラバラの方角に逃げたから、何人か取り零しはするだろうが、それでも背を向けた獲物を放置する程、俺は優しくない。
1ポイントでも多く稼ぐ為に、一人でも多く殺す。
そうして追撃を開始しようとしたところで、《危険感知》が反応。
慌てずに、飛来した矢を避ける。
……ハンターに見つかったか。
だが、あいつらしくないな。
俺に対しては闇雲に射っても当たらないとわかっているだろうに、それでも射ってくるとは。
妨害が目的か?
とりあえず、射線を切る為に建物の陰に隠れる。
そして、少し移動し、消費した分のナイフをイベントリから出して腰に再装填する。
そうしていると、今度は《気配感知》に反応があった。
いや、スキルに頼らずとも、戦いの音がこちらに向かって近づいて来るのが聞こえた。
そして、その元凶がすぐに目の前に現れた。
「《ソニックブレイド》!」
「《風切り》」
ほぼ同じ効果を持った二つのアーツがぶつかり合い、相殺し、それを放った二人がこの場に降り立つ。
一人は狐の仮面を付け、和服に身を包んだ女。
もう一人は、軽鎧の上から白いマントを身につけた、金髪の青年。
……なるほど。
ハンターがあのタイミングで射って来たのは、俺をこの場に誘導し、この二人とぶつける為か。
嫌みな事をしてくれる。
二人の視線が俺に向く。
青年は純粋に驚いたという顔をした。
女の方は仮面で表情はわからないが、何となく顔をしかめたような気がした。
「驚いた。まさかここで君と遭遇するなんてね」
「……面倒な事になったわね」
まったくだな。
今日はよく強敵とぶつかる日だよ。
「俺も驚きだよ。ここでお前らとぶつかるなんてな。『妖刀』───そして『剣聖』」
決して侮れない強敵二人を相手に、俺は静かにデスサイズを構えた。