プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「二対一……という訳でもないのかな?」
剣聖が俺と妖刀、サクラをを油断なく見回しながらそう言った。
そう。
これはバトルロイヤル。
たとえ、同じギルドの仲間だろうと協力するとは限らない。
実際、俺はここに来るまでにマックスとマインを殺っている。
サクラも、この手のルールで仲間を斬る事を躊躇うような奴ではない。
お互いに背中は見せたくないというのが本音だ。
少なくとも俺はそうだ。
だが……。
「妖刀。一時休戦して手を組まないか?」
俺はあえてサクラに協力を要請した。
できる事なら、協力どころか、こいつらを無視して他を狩りに行きたい。
だが、この地点はおそらくハンターに狙われている。
いくら俺でも、ハンターの狙撃を気にしながら、この二人に背中を向けて逃走するのは危険すぎる。
だからといって、こいつらと長々と三竦みを続けるのも時間の無駄だ。
ならば、多少信用ならなくとも、サクラと組んで即行であいつを倒してしまった方が良い。
もっとも、サクラが了承すればの話だが。
「……わかったわ。それで行きましょう」
幸いにして、少し躊躇いながらもサクラはこの提案を呑んだ。
一応、こいつにもメリットのある提案だからな。
サクラの体には、細かい傷がいくつも付けられているが、それに対して、剣聖はほとんど無傷だ。
サクラと剣聖の戦い方は似ている。
使う武器が剣か刀かという違いだけで、どちらも正統派剣士。
そして、純粋な実力において、サクラは剣聖に一歩劣る。
同じスタイル故に相性を使って戦力差を覆す事ができず、正面から戦えばどうしてもサクラが不利。
俺と共闘するのは賭けではあるが、ありかなしかで言えば、決してなしではない選択肢という訳だ。
「気をつけろよ。ここはおそらく『狩人』に捕捉されている。それを意識して動け」
「あいつもいるのね……。ますます面倒な事になったわ」
俺達は顔を見合わせて頷き、まずは俺が剣聖に向けて飛び掛かった。
言い出したのが俺である以上、俺から行くのが筋というものだろう。
そうでなくとも、相性的に俺がメインで攻めた方が良い。
「やれやれ。結局、二対一になってしまったか。厳しいね……!」
剣聖が苦笑しながらもデスサイズの一撃を避ける。
さらに動きながら連続で攻撃を仕掛けるも、冷静に避けられ、さばかれ、防がれた。
……さすがの動きと剣さばきだな。
相変わらず強い。
「ハッ!」
反撃に振るわれた剣を受け止め、つばぜり合いになる。
だが、攻撃力では俺の方が上だ。
デスサイズに力を籠めて剣聖を弾き飛ばす。
剣聖はその力の流れに逆らわず、自ら後方に飛んで距離を取った。
しかし、そこにサクラの攻撃が突き刺さる。
「《風切り》」
斬撃を飛ばす、刀のアーツ。
その崩れた体勢じゃかわせまい。
案の定、剣聖はその攻撃を剣を盾にして受け止めた。
それなりにダメージは通っている筈だ。
そこをさらに追撃する。
斬撃を飛ばせるのは、お前らだけじゃない。
「《鎌鼬》」
《大鎌:LV5》で習得できるアーツを使う。
途端にデスサイズが重く感じる。
その重さを斬撃に乗せて解き放つように、デスサイズを振り抜いた。
サクラの攻撃よりも遥かに大きい斬撃が剣聖に襲いかかる。
同じ斬撃を飛ばすという効果のアーツでも、剣や刀と大鎌では攻撃力が違う。
その分、大振りになって隙が大きいから、俺は普段あまりこのアーツを使わない。
遠距離攻撃は基本的に《投擲》を使っている。
その方が隙が小さいからだ。
だが、今回はサクラとの共闘で、このアーツを当てられる程の隙が剣聖に出来た。
この状況。
ハンターの矢が怖いが、それにさえ気をつければ、重量武器の真骨頂である破壊力を存分に引き出す事ができる。
さあ、これをどう凌ぐ剣聖?
「《ソニックブレイド》!!」
迫る《鎌鼬》に、剣聖は手に持った騎士剣を振りかぶり、同じく空飛ぶ斬撃で迎え撃った。
もちろん、その程度の攻撃で《鎌鼬》を打ち消す事はできない。
だが、《鎌鼬》の軌道を僅かに剃らし、同時に自分の剣に合わせて体を捻る事で
サクラの攻撃を受けた直後の無理な体勢から、それをやってのけた。
見事だ。
しかし、それも所詮は一時凌ぎにすぎない。
すぐに終わらせる。
《鎌鼬》が剣聖に到達するよりも早く、サクラは走り出していた。
それに続いて、俺も駆け出す。
サクラの振るった淡い紅色に輝く刀『紅桜』が、《鎌鼬》を無理矢理受け流して完全に体勢の崩れた剣聖に迫る。
しかし、突如飛来した矢がサクラの進路を妨害し、その隙に剣聖は体勢を建て直した。
ハンターめ。
余計な事を。
だが、間を置かずに、今度は俺が剣聖に斬りかかる。
体勢を建て直したといっても、絶え間ない連続攻撃でかなりのダメージを与え、リズムも崩した。
ペースは完全にこちらが握っている。
事実、剣聖は反撃する余裕もなく防戦一方だ。
そして、防戦に徹しようとも、俺とサクラの連携の前に、剣聖は確実にダメージを蓄積させていく。
たまにハンターが妨害の矢を放って来るが、来る方向がわかっていれば余裕を持って避けられる。
あいつの狙いは、おそらく優勝候補を一ヶ所に纏めて足止めする事だろう。
この戦いが長引けば長引く程、ハンターを含めた他の連中がポイントを伸ばしてしまう。
特にハンターは遠距離攻撃の達人。
ここを牽制しながら、同時に別の場所を狙ってポイントを稼ぐ事なんて容易だ。
その思惑に乗るつもりはない。
早く終わらせる。
最悪、剣聖の撃破ポイントはサクラに譲ってもいい。
とにかく、早期に決着をつける事が望ましい。
だが、焦りは禁物だ。
このまま攻めて、確実に仕留める。
それでいい。
そして、その時はやって来た。
デスサイズの刃が剣聖の左腕を切り落とす。
同時に、紅桜の切っ先が脇腹を貫いた。
「くっ……!」
「終わりだ」
大鎌と刀が剣聖の首を目掛けて振るわれた。
とった。
そう思った瞬間、《危険感知》に反応があった。
直後、光が視界を埋め尽くす。
これは……!?
「避けろ! 妖刀!!」
「言われるまでもないわ!」
俺達が飛び退いた場所を、光の奔流が通過して行った。
《光魔法:LV15》で覚えられる
広範囲に効果を及ぼす魔法を、速度に特化した俺はともかくサクラは避けきれず、片足がごっそりと削れていた。
部位欠損だ。
あの足では機動力激減だろう。
そして、光が過ぎ去った後には、九死に一生を得た剣聖が立っていた。
あれだけ密着していた剣聖を巻き込まないようにして、あの範囲攻撃魔法で俺達だけを狙った。
相当の技術がなければできない事だ。
それだけの事をやってまで剣聖を守ろうとする奴には心当たりがある。
光の発射地点を見れば、剣聖に走り寄る銀髪の女の姿が見えた。
「ユリウス!!」
「ジャンヌ……! 助太刀無用と言いたいところだけど……正直、助かったよ。ありがとう」
「ううん! 無事で良かった!」
ユリウス。
剣聖のプレイヤーネームだ。
俺達PKと違って、あいつらには名前を隠す必要がない。
故に、あいつらの名前は普通に知られている。
問題はジャンヌと呼ばれた女だ。
「厄介な奴が来たな」
「リア充……!!」
隣のサクラがゾッとするような殺気を放っていたが、相手の女もそれに負けないような強い視線でこちらを睨んでいた。
今日は本当に強敵とばかり当たる日だ。
運が良いのか悪いのか。
イベントのルール的に考えれば、悪いのだろうな。
「『聖女』」
剣聖とだけは組ませてはいけない女。
β版時代の強敵の再来に、俺は仮面の下で凶悪に笑った。