プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「ユリウス! 今、回復魔法を……」
「させん」
聖女に向けてナイフを投擲して牽制しながら走った。
狙いは剣聖だ。
もうあいつのHPはほとんど残っていない筈。
回復される前にケリをつける。
だが、ナイフは剣聖に叩き落とされ、聖女は魔法を行使した。
「《アタック・エンチャント》!」
聖女の持つ杖から放たれた青い光が、剣聖を包み込んだ。
回復魔法じゃない……!?
支援魔法を使って来たか!
振るわれたデスサイズの刃を、剣が残った片手で受け止めた。
それでもまだ、攻撃力は俺の方が高い。
しかし、力の差が小さくなった事で、今までよりも遥かに簡単に受け流された。
「チッ……!」
「《リペア・ヒーリング》!」
今度は白い光が剣聖を包み込む。
HP回復ではなく、部位欠損を治す為の魔法。
みるみる内に斬り落とした筈の剣聖の左腕が治っていく。
ならばと聖女を狙ってみるが、両腕を回復させた剣聖が剣を振るって俺を牽制し、そのまま聖女を抱き抱えて距離をとった。
「お姫様抱っこォ……!!」
後ろのサクラが呪い殺さんばかりの殺気を放っていたが、無視して走り出す。
あいつらに時間を与えてはならない。
幸い、まだHPまでは回復していないのだから、一撃でも直撃させれば殺せる状態である事に変わりはない。
デスサイズを振り下ろす。
だが、両腕を取り戻し、支援魔法を受けた剣聖のパワーは、俺とほぼ互角の域にまで押し上げられていた。
デスサイズの刃は受け流され、返す剣を柄で受け止めた。
つばぜり合いにもつれ込む。
「ジャンヌ、下がっていてくれ」
「ユリウス!? でも、まだ回復が……」
「いいんだ。君のおかげで僕はまだ戦える。……それに、彼はそんな暇を与えてはくれないだろう」
よくわかっているな。
剣聖の言う通りだ。
HPを回復させる魔法は、部位欠損の回復と違って一瞬で終わる訳ではない。
魔法を発動している間、徐々にHPが回復していくという仕組みだ。
そして、その間、発動者は他の魔法が使えなくなる。
それを見過ごす俺ではない。
「大丈夫。僕は勝つよ」
「ユリウス……」
剣聖の勝利宣言を聞いて、聖女はまるで恋人を案じる女の子のような顔をしていた。
なんだ、この三文芝居は?
これはゲームだぞ?
実際に死ぬ訳じゃあるまいし。
だが、お前らは忘れている。
この場には、その三文芝居で状態異常『怒り』になるモンスターがいるという事を。
「死になさい、リア充……!」
「わっ!?」
「ジャンヌ!!」
《隠密》で気配を消して忍び寄っていたサクラが、怨念を刀に乗せて聖女に斬りかかった。
削られた足でよくやる。
そして、こっちは……
「隙ありだ」
「くっ!?」
つばぜり合いから急に後ろに下がってデスサイズを振るう。
剣道で言うところの引き技だ。
だが、それも剣聖の足を僅かに掠めるだけに終わった。
外したか……。
「戦闘中によそ見とは余裕だな」
連続で攻めたてなから、俺は口を開いた。
真面目にやれという意図を籠めて。
「……そうだね。すまない。だが、君は仲間が心配じゃないのか?」
「今はバトルロイヤルの最中。あいつとは一時的に手を組んでいるだけ関係だ。心配する必要性がない」
「……やっぱり、君のそういうところは好きになれないな」
好きになられても困る。
俺は適切な間合いを保ちながらデスサイズを振るい続けた。
剣と大鎌では、基本的な間合いが違う。
速度の差を生かして、剣の間合いの外側、大鎌の間合いを維持しながら攻め続ける。
だが、あと一手が詰められない。
あと一撃当てれば勝てるのに、巧みな剣さばきで全ての攻撃を防がれ、トドメが刺せない。
それどころか、たまに反撃が飛んで来る始末。
それでも問題はない。
今、剣聖がこれだけ戦えているのは、聖女のかけた支援魔法のおかげだ。
そして、支援魔法の持続時間はスキルレベルに依存する。
まだ正式サービス開始から一週間。
こんな短時間で上げられるスキルレベルなど、高が知れている。
この状況は、そう長くは持たない。
ならば、待つ。
焦らず、確実に狩りとれる瞬間を。
そして、その時はやって来た。
剣聖を包んでいた青い光が消え、武器越しに感じる力が急に弱くなる。
ここだ。
「ハァアアアア!!!」
武器ごと叩き潰すつもりでデスサイズを振り下ろす。
剣聖の元のステータスでは、正面からこの一撃を防ぐ事はできない。
避けるか、受け流すしかない。
だが、いきなり腕力が弱まったこのタイミングで、冷静にそれができるか?
たとえできたとしても、続く連続攻撃には耐えられまい。
詰みだ、剣聖。
「《スラッシュ》!!」
そんな俺の考えは覆された。
アーツにより予想外の威力で上から被せるように叩きつけられた剣がデスサイズの軌道を変え、その刃は目的から外れて地面に突き刺さった。
そして、デスサイズを抑えつけていた剣が振られる。
俺の体を両断する為に。
「ぐっ……!?」
咄嗟に後ろに下がったが、完全には避けきれず右腕を斬り落とされた。
それだけではない。
少しでも速く動く為に、デスサイズを手放してしまった。
今、デスサイズは剣聖の足元に転がっている。
やられた。
勝利目前で生じた僅かな気の緩み。
そこを突かれた。
あのまま続けていれば、俺が勝っていただろう。
互角の技術を持ち、速度で勝る敵を相手に、一撃も食らわないように戦うのは至難の技。
さっきまでの勝負は、小さなミス一つで俺に軍配が上がる戦いだった。
だからこそ、剣聖は自分の最大の隙になる支援魔法が切れる瞬間を狙って勝負をかけた。
支援魔法の効果時間にばかり気がいっていたのは、俺のミス。
そして、間抜けにも詰みだと勘違いして気を緩めてしまった俺は、まんまとハメられ、腕も武器も落としてしまったという訳だ。
「やあああああ!!」
形成は逆転した。
剣聖が鋭く踏み込んで来る。
勝負を決めに来てるな。
あいつの性格を考えれば、早く決着をつけて隣でサクラと戦っている聖女を助けに行きたいのだろう。
だが、勝利した後の事を考えるというのは、勝利直前の気の緩みと同義だ。
さっきの俺と同じように、そこには隙が生じる。
俺が犯したミスを、今度はお前がやらかしたな。
ピンチとチャンスは表裏一体。
デスサイズも右腕もHPも失った俺にとって、このタイミングが最後の勝機となるだろう。
ここは危険を犯して、飛び込まねばならない場面。
顔を狙った剣聖の刺突を、最小限の動きでかわして懐に踏み行った。
「ッ!?」
剣の切っ先が『死神の仮面』の一部を砕き、俺の左目を切り裂いた。
右腕を斬り落とされたダメージと合わせて、HPは風前の灯火となる。
だが、そのダメージに見合うだけの成果があった。
剣の間合いの外側は、俺のメインウェポンである大鎌の間合い。
そして、剣の間合いの内側は、俺のサブウェポンであるナイフの間合いだ。
今まで距離を取って戦っていた相手が、最後の最後で超至近距離へと飛び込んで来る。
その動きは、絶望的な状況から逆転し、勝利目前となって気の緩んだ剣聖の虚を突いた。
残った左手で腰から引き抜いたナイフが剣聖の喉を切り裂く。
「……また負けたか……悔しいなぁ……。ごめん……ジャンヌ……」
そして、剣聖は光の粒子となって消えた。
《レベルアップ! LV16からLV17になりました》
《ステータスポイントを入手しました》
《スキルポイントを入手しました》
……何とか勝てたか。
マックスとの戦い以上に危なかった。
そして、マックスの時といい今回といい、今日はよくナイフに助けられるな。
本当に持っていて良かった。
「ユリウス!?」
聖女の悲鳴のような声を上げた。
それを聞きながら、俺はナイフを手放し、急いでデスサイズを回収する。
そして構えた。
剣聖との戦いは終わったが、イベントはまだ終わっていないのだから。
満身創痍の俺の前に、多くのプレイヤー達が現れた。
「やっと終わったか」
「やべぇ戦いだったな」
「乱入する気も起きなかったぜ」
「でも、狙い通り死神ボロボロだ。今なら殺れる」
「俺らは既に上位入賞は絶望的。だったらどうするか? せめてトッププレイヤーの首取って自慢話にしたいよな!!」
「て、事で……」
「「「「死ね!! 死神!!」」」」
そう言って飛び掛かってくる雑魚軍団。
対して、俺は右腕を斬り落とされ、左目は潰れ、HPも風前の灯火。
しかも、近くにはまだ聖女とサクラという強敵がいる。
さっきから矢が飛んでこないが、ハンターもまだ近くに潜んでいるかもしれない。
かなり厳しい状況だ。
今回のルールなら協力プレイはまずあり得ないと思っていたが、甘かったな。
だが、わざわざ殺されてやるつもりはない。
俺は意外と負けず嫌いなんだ。
手負いの獣の恐ろしさを見せてやろう。
《残り時間5分となりました。これよりボーナスタイムに突入します。撃破ポイントが二倍となりました。現在のポイント数トップ10のプレイヤーを標的として設定しました。標的を撃破した場合、撃破ポイントは十倍となります》
突如、そんな音声ガイドが流れた。
雑魚軍団がにわかにざわめき出す。
「マジかよ!? どんでん返し来たな!!」
「これ、もしかして、またとないチャンスなのでは? 死神って絶対トップ10に入ってるっしょ」
「ヒャッハー!! 俺の獲物だ!!」
「あ!? こいつ、抜け駆けしやがった!!」
「待てゴラァ!!!」
「遅れは取らんぞ!」
「勝つのは俺だァ!!!」
さて。
残り5分。
最後の踏ん張りどころだな。
「行くか」
俺は残った左手でデスサイズを強く握り締め、残った右目でしっかりと前を見据えながら、戦いに臨んだ。