プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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16 決着

「《ライトボール》!」 

 

 挨拶代わりとばかりに、マインが光魔法を放って来る。

 こんな最弱の魔法でも、今の俺のHPでは耐えられない。

 デスサイズがあれば払いのける事もできただろうが、それはカタストロフに投げつけてしまった。

 避けるしかない。

 

「《ライトボール》! 《ライトボール》! 《ライトボール》!」

 

 それをわかっているからこそ、マインは容赦なく魔法を連発してきた。

 《ライトボール》は《光魔法:LV1》で覚える、最も初歩的な魔法。

 それ故に消費MPが低く、いくらでも連射ができる。

 この上、マインが《MP自動回復》のスキルを得ていたとしたら、MP切れは狙えない。

 しかも、

 

「《スラッシュ》!!」

 

 マインにあるのは魔法だけではない。

 このゲームに適応した生粋のゲーマーは、剣聖並みとまではいかなくとも、そこらの有象無象とは比べ物にならない程の剣技を披露してくれた。

 手に持った小さなナイフ一本でこれを防ぎ続けるのは、至難の技だ。

 

「《ライトボール》!」

 

 しかも、至近距離からの魔法攻撃まで避けなければならない。

 魔法剣士は物理と魔法の両方にステータスを振らなくてはならないから中途半端になりやすい。

 それをデメリットとするなら、メリットは圧倒的に手数が増えるという事。

 手数の多さは強さに直結する。

 その強さが、今の俺にとっては致命的だ。

 

「チッ……!」

「どうしたの、お兄ちゃん! 弱々だよ!」

「ぬかせ」

「わっ!?」

 

 調子に乗って隙の出来たマインの横腹をナイフで切り裂く。

 ……浅いな。

 それに、弱点でも何でもない場所を斬った程度では倒せないか。

 

「危なッ!? さすがお兄ちゃん……! 運動神経抜群男子め!」

「お前が油断してるのが悪い。それに運動神経はお互い様だろう」

 

 運動神経において、俺達兄妹のスペックはほぼ互角だ。

 そんな奴を相手に、俺がこんなに弱った状態でも何とか戦えている理由は一つ。

 純粋なステータスに差があるからだ。

 全てのステータスにまんべんなくポイントを振っているマインと、攻撃力と速度に極振りした俺とでは、このゲームにおける運動能力に大きな差がある。

 その差を生かして、何とか食らいついているにすぎない。

 

 ……だが、食らいついているだけでは意味がない。

 

《残り時間30秒です。カウントダウンを開始します。29、28……》

 

「もう時間がないね。……決着つけようか」

「ああ。そうだな」

 

 この勝負。

 俺は何としてでも勝ちたい。

 イベントのルールで考えれば、ポイントの損得だけを考えれば、このまま逃げてタイムアップでもいいだろう。

 だが、俺は勝ちたい。

 妹に負けるのは、兄としてのプライドが許さん。

 

 それだけじゃない。

 マインとこうして戦っているのが、同じゲームで遊んでいるのが、凄く楽しいんだ。

 楽しいからこそ負けたくない。

 俺は負けず嫌いだ。

 ゲームは、完全勝利で終わらせる。

 

《26、25……》

 

 お互いに、欠片の油断もなくにらみ合い、相手の隙を探す。

 時間だけが過ぎていく。

 勝負は───次の一撃で決まる。

 

《23、22……》

 

「いたぞ!! 死神だ!!」

 

 このタイミングで、路地裏から俺を探していた雑魚軍団が飛び出して来た。

 マインの意識が一瞬そちらに逸れる。

 

 今だ。

 

 俺は全速力で、マインに向けて突撃した。

 

「ッ!? 《スラッシュ》!!」

 

 迎撃に振られたマインの剣。

 マインにとっての左側、俺にとっての右側から袈裟懸けに振るわれた剣をナイフで受け止める。

 俺のパワーなら止められる。

 後は、このナイフをそのまま喉に……

 

 ピシリッ

 

 その刹那。

 俺の耳は確かにその音を捉えた。

 小さな、何かがひび割れるような音。

 何の音かすぐにわかった。

 これは、ナイフの悲鳴だ。

 元々、俺のナイフは投擲用の使い捨て。

 NPCの店で適当に買った安物だ。

 その分、耐久力が低い。

 そしてこのナイフは、何度も何度もマインの剣を受け止めた。

 いつ折れても不思議ではない。

 

 それを理解した瞬間、俺は反射的に上体を無理矢理後ろに倒した。

 直後、ナイフを叩き折った剣が俺の目の前を通過する。

 無理な動きでは完全に避ける事はできず、剣は俺の右目を掠め、切り裂いて行った。

 

 左目は剣聖に潰され、たった今、残された右目までも失った。

 視界が完全に闇に閉ざされる。

 それでも尚、視界にはHPやMPの残量が表示されている。

 HPは、ギリギリ残っていた。

 雑魚軍団から逃げている間に《HP自動回復》で回復した分のHPが、俺を守った。

 

 しかし、この状況では意味がない。

 目は見えず、コンマ数秒後にはトドメの剣が俺を切り裂くだろう。

 ここまでか……!

 

 そう思った瞬間、視界が開けた。

 目が見える。

 左目が回復していた。

 

 剣聖との戦いから約5分。

 部位欠損の時間経過による回復。

 その神がかり的なタイミングに驚愕しながらも、俺の体は勝手に動いていた。

 左目で見た情報を頼りに、勝利の為に動いた。

 

 マインの剣は俺を切り裂く直前。

 返す刃がすでに動き始めていた。

 それを防ぐ為に、左腕を盾にする。

 俺の防御力では焼け石に水だが、欲しいのはそれによって稼げる時間だ。

 ほんの一瞬で良い。

 死を遅らせたい。

 そうすれば、反撃の()がある。

 

 俺が左目を失ったのは、右腕を斬り落とされた直後。

 一瞬の攻防の最中、ほぼ同時と言っていいタイミングだった。

 つまり、左目が回復したという事は、右腕もまた回復している筈なのだ。

 

 その右腕で、渾身のパンチをマインの頭に叩き込んだ。

 

 同時に、マインの剣が俺の左腕を簡単に切り裂き、胴体にまで傷を付けた。

 視界に表示されたHPが0になる。

 体が光の粒子となって消滅していく。

 

 だが、俺は見た。

 マインの体もまた、光の粒子となって消えていくのを。

 

 

 

 

 

 気がつけば、深い森の中にいた。

 死んでリスタートしたのか。

 

《5、4、3、2、1、0。終了時間となりました。これにて第一回公式イベントを終了します》

 

 そして、音声アナウンスが終了を宣言した。

 周りの景色が変わる。

 森の中から、スラム街の雑多な街並みへと。

 イベントに参加する前に居た場所へと戻されたらしい。

 

《これより、第一回公式イベント結果発表に移ります》

 

 

《第9位 『妖刀』 50ポイント》

 

 

《同率9位 『ジャンヌ』 50ポイント》

 

 

 空中に大々的に写し出されたスクリーンに、華々しい演出と共に一人ずつ順位が発表されていく。

 ……というか、あいつらは同率か。

 互いに互いを足止めするような状況に陥っていたくせにランクインしているあたりはさすがだな。

 

 

《第8位 『深淵』 51ポイント》

 

 

 カタストロフか。

 何だかんだで、あいつもそれなりに強いからな。

 

 

《第7位 『狩人』 69ポイント》

 

 

 ハンターは7位か。

 ポイントが奇数という事は、一度は誰かに殺られたという事。

 途中から矢が飛んで来なくなったのは、そのせいかもな。

 

 

《第5位 『剛力』 76ポイント》

 

 

 マックスが5位。

 まあ、一度俺が倒して、周りにプレイヤーがいない所へ送った事を考えると、妥当な順位といったところか。

 

 

《第3位 『剣聖ユリウス』 81ポイント》

 

 

 剣聖が3位か。

 つまり、俺と当たる前に相当狩っていたのか。

 もしくは、ラスト5分のボーナスタイムで稼いだか。

 

 

《第2位 『マイン』 88ポイント》

 

 

 マインが2位か……。

 喜ばしいが、少し複雑な気分だ。

 

 

《第1位 『死神』 119ポイント》

 

 

 スクリーンが一際派手な演出で光輝き、俺の優勝を称えてくれる。

 俺は勝った。

 だが、最後の勝負。

 マインとの一騎討ちの結果は相討ち。

 引き分けだ。

 それも、限りなく敗北に近い引き分けだった。

 

 最後に攻撃ができたのは、あの神がかり的なタイミングで左目と右腕が回復するという奇跡に助けられたおかげだ。

 つまり、運が良かっただけ。

 その剛運を持ってして、結果は引き分け。

 俺はマインに勝てなかった。

 この優勝は、完全勝利にはほど遠い。

 

 悔しい。

 

 だが、実に楽しかった。

 

 マインとの戦いだけではない。

 マックス、剣聖、聖女、ハンター、ついでにカタストロフと雑魚軍団。

 どの戦いも、少し間違えれば殺られていたかもしれない。

 その緊張感が良い。

 

 やはり、このゲームは楽しいな。

 

 

『試練を乗り越えし者達よ。見事であった』

 

『しかし、この戦いは始まりに過ぎない』

 

『これより先、諸君らの進む道の先には、更なる試練が待ち受けている事だろう』

 

『今回の戦いにおいての勝利、そして敗北』

 

『その全てを糧として邁進するがよい、冒険者達よ』

 

『そして、この試練を乗り越えし者達へ。私からささやかな贈り物を授けよう』

 

『受け取るがよい』

 

 

 例の声が響き、運営から一通のメールが送られて来た。

 中身は『イベント参加特典、上位入賞特典、優勝特典をイベントリに送信しました』という内容。

 早速イベントリの画面を出してみると、『プレゼントボックス』というアイテムが3つ増えていた。

 

 それらをイベントリから取り出す。

 3つの箱はそれぞれ色が違った。

 1つは白。もう1つが銀色。最後の1つが金色の箱。

 それぞれが、参加特典、上位入賞特典、優勝特典なのだろう。

 まずは、参加賞と思われる白い箱を開けた。

 

 中から出てきたのは、『エリクサー』というアイテム。

 ポーションの一種であり、飲めば全ての状態異常を治し、HPを全快させるという凄まじい性能を誇る。

 だが、消耗品だ。

 参加賞にしては豪華といったところか。

 

 続いて、上位入賞特典と思われる銀色の箱を開けた。

 出てきたのは漆黒のローブ。

 装備品か。

 

ーーー

 

『死神の衣EX』

 

分類:胴体装備

効果:〈MP+15〉〈AGT+20〉〈INT-25〉〈自動成長〉〈自動修復〉〈破損無効〉〈譲渡不可〉

 

ーーー

 

 エリクサーなんかとは比べ物にならない、バカげた性能をしていた。

 それに、まるでデスサイズのような、俺に合わせて作られたかのような性能。

 これが今回の上位入賞特典か。

 豪華だ。

 

 そして俺は、最後の金の箱を開けた。

 

ーーー

 

『死神の仮面EX』

 

分類:頭部装備

効果:〈MP+15〉〈STR+15〉〈AGT+15〉〈VIT-15〉〈INT-15〉〈DEX-15〉〈自動成長〉〈自動修復〉〈破損無効〉〈譲渡不可〉

 

ーーー

 

 死神の衣に勝るとも劣らぬ凶悪な性能の仮面が出てきた。

 名称から考えても、今俺が付けている『死神の仮面』の上位的装備だろう。

 デザインも、何やら洗練されてかっこよくなっている。

 イベントにおいて破損、損傷したアイテムは、イベント終了後に元に戻るというルールがあった為、剣聖とマインに砕かれた死神の仮面は、今も無傷の状態で俺の顔に付いているが、今後はこっちを使うべきだろうな。

 せっかくの優勝特典なのだから。

 

 

 そうして特典の確認も済み、イベントは終わりを迎えた。

 凄まじく濃厚な一時間だったな。

 

 さて、この後どうするか。

 とりあえず、ギルドにでも顔を出してみるとするか。

 

 俺はスラム街の街並みを眺めながら、イベント後の感傷に浸りながら、ゆっくりと歩き出した。


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