プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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18 イベント後

 ギルドに向かって歩いている途中で、カタストロフから召集のメールが来た。

 イベント後の打ち上げ的なものをやりたいらしい。

 俺はとりあえずマインにも連絡を入れてみたが、カタストロフはギルドメンバーではないマインにもメールを送りつけたらしく、すでにこの話を知っていた。

 『後で行く!』との事だ。

 あいつは、イベントまでの1週間で、このゲームで知り合った連中とパーティーを組んだみたいだからな。

 まずは、そっちを優先するという事だろう。

 

 そして、俺は元々ギルドに顔を出すつもりで歩いていたので、さほど時間をかける事なく到着。

 寂れた酒場の扉を開けて、中に入る。

 そこには、カタストロフとサクラがいた。

 

「待っていたぞ! キョウ!」

「早かったわね」

「ああ。近くにいたからな」

 

 二人は酒場のカウンターではなく、テーブルと椅子を出して、そっちに座っていた。

 テーブルの上には、大量の料理と飲み物がある。

 カタストロフが買い揃えたのだろう。

 このゲームには飲食のできるシステムがあるが、ゲームの中なので当然腹は膨れないし、味も現実に比べれば薄い。

 だが、雰囲気作りには良い。

 俺もまた、席に座った。

 

「俺としては、サクラが先に来ているのが意外だがな」

「私はここからイベントに参加したのよ。何だかんだでここが一番落ち着くから」

「そうか」

「それよりも貴様! 何か気がついた事があるのではないか!?」

 

 カタストロフがこれ見よがしにマントを翻しながら、何事かほざいていた。

 そのマントは、イベントの時につけていたアーマードベアの毛皮を使ったものではなく、黒地に金色の模様が描かれた豪華なマントに変わっていた。

 ……面倒だが、一応聞いてやるか。

 

「ハァ……カタストロフ。そのマントはどうした?」

「よくぞ気づいた!! これこそが、私が今回のイベントにおいて授かった装備『支配者のマントEX』だ!! どうだ! 私にふさわしい高貴なるマントであろう!! フハハハハハハ!!」

 

 なるほど。

 このマントが、カタストロフの上位入賞特典という事か。

 よほど自慢したかったのだろう。

 そして、サクラにも散々自慢したのだろう。

 サクラは鬱陶しいものを見るかのように、顔をしかめていた。

 

「ついでに聞くが、サクラは何を貰ったんだ?」

「私は『怨霊の着物EX』っていう和服の装備よ。名前はともかく、性能と外見は私好みだったわ」

「リア充を呪っている貴様にはぴったりの装備ではないか!!」

「斬られたいの?」

 

 カタストロフ。

 そういう事は思っていても口に出さない方がいいぞ。

 

「まあ、いいわ。それで、そう言うあなたは何を貰ったのよ?」

「俺は『死神の仮面EX』と『死神の衣EX』の2つを貰った」

「なるほどな! 優勝者には特別なアイテムを2つ贈呈したという事か!」

 

 そういう事だ。

 

「とにかく優勝おめでとう。祝福するわ」

「うむ! 最後にやられたのは悔しいが、我がギルドから優勝者が出た事は喜ばしい!! 加えて、我ら『サクリファイス』の戦闘員は全員が上位入賞!! 私も鼻が高いぞ!!」

 

 「さあ、飲め!!」と言って、カタストロフがジョッキを差し出してくる。

 未成年の俺が飲酒する事はできないが、ゲーム内の酒にアルコールが入っている訳もなく、酔う事もない。

 故に、普通に受け取って飲んだ。

 

 そうして飲んで食べて話している間に、酒場の扉が開かれ、次のメンバーがやって来た。

 灰色の髪をした、二十代後半くらいの男。

 目の下に出来た大きな隈から不健康そうな印象を受けるが、それ以外はいたって普通のどこにでもいそうな容姿をしている。

 

「ハンターではないか!! β版の時以来だな!!」

「……あ、ああ。……ひ、久しぶりだ」

 

 どもったような話し方をするハンター。

 変わっていないな。

 基本的に一番連絡が取れず、会う機会も少ない奴だが、今回は普通に来たらしい。

 イベント後だしな。

 

「ハンター。さっきのイベントではやってくれたな」

「本当ね。あなたの妨害がなければ、あのリア充男を粛清できていたかもしれないのに」

「……す、すまん。……だ、だが、あれが俺の戦い方だ」

 

 そうして、ハンターも食卓に加わる。

 次の来訪者は、それからすぐに現れた。

 ウチのギルドで唯一イベントに参加しなかった武器子だ。

 

「皆さんお疲れ様です!! 中継見てましたよ!! 命を刈り取る『デスサイズ』!! 流麗に舞う『紅桜』!! 唸る『ロビンフットの弓』!! 翻る『鎧のマント』!!

 私の作った愛しの装備達!! 皆、大活躍で、私、大満足です!! やっぱり、武器も装備も、それをより魅力的に扱ってくれる人に託すに限ります!!」

 

 完全に、俺達ではなく武器の活躍を見守っていたな、こいつは。

 武器子は一通り自分の作った武器の活躍がいかに素晴らしかったのかを語り、カタストロフが他のマントに浮気しているのを見てぶち切れてから食卓についた。

 一瞬、武器子はサクラよりも強い殺気を放っていた。

 ……デスサイズは大事にしよう。

 

「む? 俺が最後か」

 

 次にやって来たのは、筋骨隆々の巨漢。

 『剛力』こと、マックスだ。

 筋肉を強調するかのように、サイズの合っていないパツパツの服を着ている。

 だが、イベントの時と違って半裸ではない。

 あのスタイルは、マックスの変装した状態だからな。

 

「おお! マックスも来たか! 素晴らしい! ギルドメンバーが全員集合したのは、いつ以来であろうか!!」

 

 カタストロフが歓喜の声を上げ、マックスも食卓についた。

 体がデカいから、椅子もテーブルもサイズが合っていない。

 窮屈な感じだ。

 それを気にせず、マックスは豪快に飲み食いを始めた。

 

 そして、久しぶりにギルドメンバー全員が揃い、当然、今さっき行われたイベントの事が話題となった。

 

「──なるほど。結局、聖女とは決着がつかなかったのか」

「ええ。最初に足を削られたのが痛かったわね。時間切れになっちゃったわ。……あのリア充カップル。次こそは必ず粛清してやるわ」

「その時は俺も共に戦うぞ!! 俺も先程、最後の最後で剣聖に敗れてしまった!! 我が筋肉が1日に二度も敗れるなど、あってはならぬ事だ!! リベンジは必ず果たす!!」

「ほどほどにしておけよ、お前ら」

「自重する気はないわ」

「キョウ!! 俺はお前へのリベンジも果たすからなぁ!!」

 

 サクラとマックスは再戦に向けて荒ぶっていた。

 しばらくは放置しておくのが正解か。

 

「キョウさん! キョウさん! 最後はデスサイズを手放して戦っていたみたいですね! そういう事態に備えて、サブウェポンであるナイフも私謹製の特注品にしませんか? 今ならお安くしておきますよ!!」

「……それも良いかもな。よろしく頼む」

「毎度ありです! あ、ハンターさんは矢の方を凝ってみては如何ですか? やっぱり、ロビンフットの弓に見合う矢があった方が良いと思うんですよね!」

「……か、考えておく」

「武器子よ。私は新しい杖を作ってほしいのだが」

「浮気野郎は黙っていてください」

「浮気野郎!?」

 

 武器子は新しい武器のアイディアで頭がいっぱいのようだ。

 ハンターはいつも通り、物静か。

 カタストロフは武器子に嫌われていた。

 イベント特典のマントに鞍替えした件が、相当頭にきているらしい。

 

 そうして宴会が進んでいた時、酒場の扉が開けられた。

 

「お、お邪魔しまーす……」

 

 おっかなびっくりといった感じでマインが入って来た。

 このギルドは奇人変人の巣窟だと言っておいたから、少し警戒しているらしい。

 そんなマインを見かねて、俺は手招きした。

 マインは、パッと顔を明るくさせて、俺の隣の席に座った。

 

「ほお! キョウの妹ではないか! 1週間ぶりだな!」

「久しぶりね。たしか、マインだったかしら?」

「へぇ! 妹さんですか! あれ? この子、イベントの2位の子じゃないですか!!」

「ど、どうも……」

 

 マインは少し気後れしていた。

 本来なら人見知りするような奴ではないんだが、前回の時のインパクトで、このギルドに苦手意識が出来てしまったのかもしれない。

 サクラとカタストロフのせいだな。

 

「む? 君はあの時の少女じゃないか」

「……ハッ!? その筋肉は!? まさか!?」

「うむ! 俺の名はマックス!! 『剛力』の二つ名を持つ男だ!!」

 

 そう言ってマックスはメニューを操作し、イベントの時の半裸姿になった。

 そして、筋肉を強調するかのようなポーズを決めた。

 

「やっぱり……! あの時の変態……!」

 

 そう言って、マインは俺の後ろに隠れてしまった。

 マックスは気にせずにポーズを決め続けている。

 

「ハッハッハ! 我が筋肉の美しさに目がくらんで直視できぬと見た!!」

 

 ……ウチのメンバーは、マインにとって悪影響しか与えないのかもしれない。

 少し、つきあい方を見直した方がいいかもな。

 

 すると、今度はマインの視線がハンターに向けられた。

 

「あの、さっきはすみません……」

「……き、気にしなくていい。……い、イベントでの事だ」

 

 ……何かあったのか。

 

「マイン。ハンターと何かあったのか?」

「あ、うん。さっきのイベントで最後の方に遭遇して……その、追いかけ回して倒しちゃって……」

 

 ……なるほど。

 途中から矢が飛んで来なくなったから誰かに殺られたのかもしれないと思っていたが、ハンターを殺ったのはマインだった訳か。

 それで、マインの順位にも納得がいった。

 ラスト5分のボーナスタイムに、ポイント数トップ10のプレイヤーを倒せば、十倍のポイントを獲得できるというルールだった。

 俺とハンターの二人を倒したからこそ、マインは剣聖を抜いて2位になる事ができた訳だ。

 

 と、ここでカタストロフが動いた。

 席を立ち、マインの前に歩み寄る。

 

「キョウの妹。マインよ。貴様に提案がある。我がギルド『サクリファイス』に入ってみな……」

「あ、それはお断りします」

 

 ……まあ、そうだろうな。

 

「何故だ!? お前の兄もいるし、メンバーは愉快な連中が揃っている!! ウチに入れば楽しい毎日が待っているぞ!! もうすぐギルド設立クエストが始まる!! その時、私は貴様のツッコミという武器がほしいのだ!!」

「何を基準にスカウトしてるんですか!?」

「そう! それだ!! ウチのギルドには常識人のツッコミ役が欠けている!! その才能をウチで伸ばしてみないか!?」

「結構です!! パーティーを組んだ人が今度立ち上げるギルドに誘われてるんで、そっちに行きますから!!」

「くっ!! 無念だ!!」

 こうして、カタストロフによるマインの勧誘は失敗に終わった。

 マインはこんな日陰者の中にいるような奴ではないからな。

 いくら身内の所属するギルドとはいえ、合わない場所に無理矢理入れるもんじゃない。

 これはゲーム。

 好きに遊ぶのが一番だ。

 

 それに、

 

「マイン。今度は俺が勝つぞ」

 

 他のギルドに行くのなら、お前は仲間ではなくライバルだ。

 今回は引き分け。

 決着は、いずれつける。

 

 

 また、一緒に戦おう(あそぼう)

 

 

「──うん! 私も負けないから!」

 

 マインも俺の言いたい事を理解したのか、実に良い笑顔でそう言った。

 ……やはり、家族と一緒に遊ぶというのは楽しい。

 次の機会が楽しみだ。

 

 ああ。

 それと、一つ気になっていた事があったな。

 

「そういえば、お前がパーティーを組んだのはどんな連中なんだ?」

 

 宿題をやらせる時や、食事の時にゲームの話題は何度も出したが、

 どこのエリアに行っただの、どんな事をしただのという話がほとんどで、こいつのパーティーメンバーについては聞き忘れていた事を思い出した。

 マインが、そいつらが作るギルドに所属すると言い出した事で、ふと気になったのだ。

 

 そう。

 本当に軽い気持ちで俺は聞いた。

 

 

「ユリウスさんっていう人がリーダーのパーティーだよ! 皆、凄い優しい人達だから、お兄ちゃんは心配しなくて大丈夫!」

 

 

 ……ユリウス?

 

「は?」

 

 突然出てきた聞き覚えのある名前に、俺はフリーズした。


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