プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「諸君!! 遂にこの日がやって来た!!」
イベントの翌日。
元ギルドホームの寂れた酒場にて、カタストロフが語り出した。
「本日より、ギルド設立クエストの受注が可能となった!! 最凶の闇ギルド『サクリファイス』の本当の意味での復活の日は、すぐそこにまで迫っている!!」
その演説を聞いている者など、ほとんどいない。
今朝、いつものように召集のメールがカタストロフから発信されたが、今回はほぼ全員がこれを無視した。
今、ギルドにいるのは、カタストロフを除けば、俺とマインの二人だけだ。
他の連中は、いつも通り好き勝手に動いている。
サクラはリア充狩り、マックスは筋肉の布教活動という名のプレイヤー狩り、そんなところだろう。
ハンターは知らん。
そして、俺も召集のメールに従って来た訳ではない。
昨日、ちょっとした依頼を出した武器子を待っているだけだ。
ここを待ち合わせ場所として活用したからな。
マインは用があるので、俺が連れて来た。
NPCの露店で買ったコーヒーを啜りながら、カタストロフの演説を聞き流す。
カタストロフは一人でとうとうと語り続ける。
マインは、少し居心地が悪そうだ。
「お、お兄ちゃん……。あの人、ほっといていいの?」
「問題ない。いつもの事だ。可哀想だと思うなら、お前が話しかけてやれ」
「ええー……」
嫌そうだな。
まあ、気持ちはわからなくもない。
あの変人の相手は純粋にめんどくさいからな。
「あ、あの~……。そのギルド設立クエストって、どんな感じなんですか?」
「よくぞ聞いてくれたマインよ!! ウチの薄情者どもに見習わせたいわ!!」
それでもマインは勇気を持ってカタストロフに話しかけた。
優しい妹を持って、兄は嬉しいぞ。
それの相手は任せた。
俺は、我関せずでコーヒーを啜る。
「よいか! ギルド設立クエストは、まず、ギルドホームとなる建物と土地の購入から始まる! これだけでも相当のゴールドが必要だ!
加えて、ギルドホームの改造にもゴールドは必要!!
さらに、我々闇ギルドは中央ギルドの支援を受けられない為、自力でそれだけの資金を調達しなければならない!!
結論!! ギルド設立クエストとは!! ただ、 ひたすら金策に奔走するデスマーチである!!」
「は、はぁ……」
マインがチラリとこちらを見てきたので、軽く頷いておいた。
カタストロフが言っている事は間違っていない。
まあ、俺はβ版の中盤からこのギルドに入ったので、ギルド設立に関しては又聞き程度の知識しかないが。
「あれ? でも、それならお兄ちゃんの首にかかった懸賞金とか使えばいいんじゃ……?」
「さらっと酷い事を考えつくなお前は」
まあ、手段の一つとしてありといえばありだが……。
「それはダメだぞマインよ!! 懸賞金はPKにとってステータスなのだ!! それを、たかが金策程度で手放すなど言語道断!! 私が許さん!! それでは、私が極悪賞金首を束ねる悪の組織のボスという、素晴らしいポジションを追われてしまうではないか!!」
「それ、カタストロフさんの私情ですよね!?」
完全にカタストロフの私情だな。
だが、俺とて金策の為にわざと殺されてデスペナルティーを受けるというのは、あまり気分のいい話ではない。
やらなくていいのならばやりたくはない、最後の手段だ。
と、カタストロフがひとしきり語り終えたところで、ギルドの扉が開いた。
来たか。
「お待たせしましたキョウさん! ご依頼の品を持って来ましたよ!」
「ああ。助かる、武器子」
「いえいえ!」
メニューを操作して、武器子から依頼したアイテムを受け取り、代わりにゴールドを支払う。
受け取ったアイテムは、普通の鎧と剣。
そして、そのままメニューを操作し、身に着けた装備を変更した。
ステータス画面を開いて、装備の性能を確認する。
ーーー
キョウ LV17
HP100/100 〈+15〉
MP 50/50
STR:90 〈+28〉〈+15〉
VIT:0 〈+25〉
AGT:90 〈+4〉 〈+15〉
INT:0
DEX:0
ステータスポイント 0
スキル
《大鎌:LV17》《攻撃力上昇:LV12》《速度上昇:LV12》《危険感知:LV10》《投擲:LV10》《隠密:LV9》《気配感知:LV5》《HP自動回復:LV3》《短剣:LV1》《剣:LV1》
スキルポイント 0
装備
武器:『グラム』
頭部:なし
胴体:『鍛鋼のブレストアーマー』
右腕:『鎧熊の籠手』
左腕:『鎧熊の籠手』
脚部:『俊足のレザーブーツ』
装飾:『力のペンダント』
ーーー
『グラム』
分類:両手剣
効果:〈STR+18〉
ーーー
『鍛鋼のブレストアーマー』
分類:胴体装備
効果:〈HP+15〉〈VIT+15〉
ーーー
『グラム』の攻撃力が、他の剣に比べて高いところに武器子のこだわりを感じるが、見た目的には普通の剣。
他の装備も、死神スタイルのように目立つ要素はなく、まさに普通の一般的なプレイヤーが着ける装備といった感じだった。
要望通りだな。
「変装スタイル、その2……いや、新しい普段着といったところか」
変装は、賞金稼ぎをはじめとした、PKをやる上での様々なトラブルを避ける為に始めた事。
そして、PK用の変装は死神スタイルで間に合っている。
この装備は、今後、普通のプレイをする時に使っていく事になるだろう。
そう考えれば、変装というよりは新しい普段着といった方がしっくりくる。
俺は腰に差したグラムを引き抜き、軽く振ってみた。
大鎌の感覚に慣れ親しんだ今となっては、少し違和感がある。
だが、それなりに戦う事はできそうだ。
「どうですか!? グラムの振り心地は!?」
「悪くはない。大鎌に慣れた俺でも、そこそこ使いこなせそうだ」
「そうでしょう! そうでしょう! その為に変な癖のないシンプルさを意識した作りになっていますからね!! いや~! 良い仕事をしました!!」
武器子は実に満足そうな顔をしている。
自信のある装備を作った時の顔だ。
この剣は、デスサイズの次くらいに信用してもいいかもな。
「……ていうか、お兄ちゃん、剣とか使えるの」
「使える。β版でも最初は剣を使っていたからな」
「え!? そうなの!? じゃあ、何で大鎌使いなんてロマン職にジョブチェンジしたの?」
「PKを始めた時に、より効率的にプレイヤーを殺せる武器を求めて試行錯誤し、最終的に大鎌に落ち着いた」
「ああ……。そこで道を踏み外しちゃったんだね」
「おい。その残念なものを見る目をやめろ」
実の兄に向ける目ではないぞ。
そういうのは、カタストロフにでも向けておけ。
「では、私はもう行きますね! まだまだ作らなきゃいけない武器が沢山あるので! 今度会った時には、グラムを実戦で使ってみた感想を教えてください!」
「わかった」
「ではでは! これにて失礼します!」
そして、武器子は去って行った。
この後は、また作業場に引きこもるのだろうな。
ゲームを楽しんでいるようで何よりだ。
「──さて、俺達も行くか。待たせたなマイン」
「いや、それはいいけどさ……。お兄ちゃん、本当について来る気?」
「ああ」
その為に、デスサイズをはじめとした専用装備を手放して、こんな格好をしたんだ。
今さら行かないなんて言える訳がないし、言うつもりもない。
「まったく!! 貴様まで行ってしまうとはな、キョウよ!! せっかく割の良いクエストを見つけて来たというのに、誰一人として参加しないとは!!」
「悪いな、カタストロフ。それに関してはまた今度にしてくれ」
「ハァ……。まあ、よい。他の連中もそれぞれのやり方で金策を行っている事に違いはないのだ。それを咎める程、私の器は小さくはない。それに敵情視察も大事な事だ」
別に敵情視察のつもりはないんだがな。
ただ、少し気になっただけだ。
だが、まあ、敵情視察には違いないのか。
なにせ、これから、
───剣聖のパーティーに潜入しようというのだから。