プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
マインと共にギルドを出て、奴らとの待ち合わせ場所である、『第二の街』の中央ギルドを目指す。
第二の街はイベント前の1週間の間に発見され、街の門番であるボスモンスターを倒せば、誰でも入れる状態になった。
俺も武器子を第二の街に入れる為に、アーマードベアに挑んだ時と同じメンバーで門番を突破しているので、普通に入れる。
そして、第二の街の開放に伴い、街と街を繋ぐ瞬間移動装置『ポータル』が各所に設置された。
これを使えば、長々と第二の街までの道程を歩く事なく、一瞬で移動できる。
当然、スラム街には設置されていない為、始まりの街までは歩く必要があるが。
そうして、始まりの街の正門近くに設置されたポータルを使い、第二の街の中央ギルド前に飛んだ。
「ここに来るのも久しぶりだな」
中世ヨーロッパ風の世界観である【アドベンチャーズ・オンライン】において、不自然な程に大きな建物。
これが、このゲームの中心部といっても過言ではない場所。
中央ギルド。
PKは、この中央ギルドの支援を受けられず、それどころか指名手配されているので、ここには基本的に寄りつかないのだ。
「ああ、お兄ちゃんにも、ここを使うような、まともな時期があったんだっけ」
「その言い方やめろ」
そんな会話をしながら、開け放たれた巨大な入り口を通って中に入る。
建物の大きさに見合う広大なエントランスに、大量のプレイヤー達がたむろしていた。
壁際には、膨大な数のクエストを記した張り紙が、討伐、採取などの分類をされて張り出され、
奥に行けば、受付嬢のNPCが何十人も座っており、今もプレイヤー達にクエストの説明を行っている。
懐かしい光景だな。
「で、待ち合わせ場所はどこだ?」
「え~と、3番受付の近くだから……あ! いたいた! お~い!」
マインは少し周囲を見渡した後、ある4人組の集団に向かって手を振りながら走り寄って行った。
俺も、その後に続いて歩く。
マインと4人組の話し合う声が聞こえた。
「遅いよマイン! いや、『勇者』様って呼んだ方がいいのかな~?」
「シャロさん! その名前で呼ばないでください!」
「え~。せっかくカッコいい二つ名がついたんだから、堂々としてればいいのに。ユリウスみたいに」
「う~! でもぉ……」
「まあまあ。僕も開き直るまでには時間がかかったし、そう急かすものでもないよ、シャロ」
「そうですよ。私だって未だに『聖女』と呼ばれると鳥肌が立ちます。恥ずかしがるのは普通の事です。ね、アイギス」
「……確かに。私も二つ名で呼ばれるのは、未だに少し抵抗がある」
そんな会話をしている4人組(マインを含めると5人)に近づく。
全員の視線が俺に集中した。
「マイン。彼が昨日メールで伝えてくれた人かい?」
「あ、はい。……兄です」
マインが微妙な顔をしているのが少し気になったが、深くは考えず、俺は剣聖に軽く頭を下げて挨拶した。
「キョウだ。今日はよろしく頼む」
「はじめまして。僕はユリウス。こちらこそ、よろしく。……ところで、今のは駄洒落と捉えるべきかな?」
「断じて違う」
ただの偶然だ。
「アッハッハ! 面白そうなお兄さんだね! あたしはシャロ! 弓使いやってます! まあ、そっちはおまけみたいなもんで、本職は感知系のスキル使った斥候だけどね」
「私はアイギス。見ての通り、鎧と盾を使った壁役だ。危なくなったら、私の後ろに来てくれ」
「最後は私ですね。ジャンヌと申します。光と回復、それと支援の魔法を使う後衛です。よろしくお願いしますね」
「ああ。よろしく頼む」
シャロとやらは、軽装に弓を背負い、腰にナイフを差した、俺と同い年くらいの少女。
アイギスは、ガチガチの全身鎧に身を固め、大盾を装備した正統派の壁役の女。
そして、聖女はイベントで遭遇した時と同じ、神官服のような装備を着こんだ魔法使いだ。
ちなみに、こいつらには俺が『死神』だというのは秘密の方針でいく。
バレると、めんどうな事になるかもしれないからな。
……それにしても、男1人に女4人のパーティーか。
こういうのをハーレムというのだったな。
サクラが見たら、我を忘れて殺しにかかりそうなパーティーだ。
……後でマインに忠告しておくか。
「じゃあ、メンバーも揃った事だし、そろそろ行こうか」
「はい!」
「了解!」
「うむ」
「わかりました」
「ああ」
そして、剣聖の一言で、パーティーが行動を開始する。
俺も事前にマインに聞いていたので、今日の予定は知っている。
ダンジョン攻略だ。
ダンジョンとは、その名の通り迷宮である。
このゲームの至る所に存在し、入る度に変わる地形や、凶悪なトラップ、無限に沸き出すモンスターが、侵入者を進行を阻む。
その代わり、ダンジョン内に設置されている宝箱からレアなアイテムを得たり、モンスターの討伐によって経験値やドロップアイテムを稼いだりと、リターンも多い場所。
それがダンジョンだ。
ダンジョン攻略は、このゲームにおける王道の楽しみ方の一つといえるだろう。
今回狙うのは、第二の街周辺にあるダンジョン『死霊の洞穴』。
その名の通り、アンデット系モンスターが多数出現するダンジョンだ。
剣聖達は、このダンジョンで手に入るアイテムを狙うと同時に、中央ギルドで『死霊の洞穴のボスモンスター討伐』というクエストを受けた。
つまり、今日の予定は、ダンジョンで稼げるだけ稼いだ後にボスを倒して撤収という事になる。
それをする理由はというと、
「───やはり、お前達も金が必要という事か」
「まあ、そういう事になるかな。やっぱりギルド設立クエストにはお金がかかるからね」
どこも同じという事だな。
剣聖がギルドマスターを勤めていたギルド『王道騎士団』は、β版においてかなりの知名度を誇る大規模ギルドだった。
話を聞いたところ、β版の頃のギルドメンバーも総出で金策に奔走しているらしい。
人数が多ければ、それだけ大きなギルドホームが必要になり、結果として金がかかる。
だからこそ、実入りの良いダンジョンに潜り、さらに中央ギルドのクエスト受ける事で報酬を得ようとしている訳だ。
このクエストの報酬というのが馬鹿にならない。
ゴールド以外にも、貴重なアイテムや、そのクエストでしか手に入らないものが報酬となる場合もある。
俺達闇ギルドには真似できない事だ。
「お前達もって事は、キョウもお金が必要なのかい?」
「ああ。俺もβ版時代のギルドを再興させようとしている最中だからな」
「え!? キョウってβテスターだったの!? いいな~! 羨ましい!」
話の途中でシャロが割って入って来た。
斥候の仕事はどうした。
「このパーティーの中じゃ、あたしとマインの二人が新参者なんだよね。最初は初心者同士二人で組んでたんだけど、なんやかんやあって、今はこのパーティーに入れてもらったんだ~」
「ほう」
俺がプレイヤーを殺して回っている間に、マインの方はそんな事になっていたのか。
まさに正統派の楽しみ方だな。
王道騎士団に入ろうとするのもわかる。
「でも、同じ初心者なのに、昨日のイベントでマインにも差をつけられちゃったんだよね……。あたしだけカッコいい二つ名持ってないとか、ちょっと悔しい!」
まあ、マインはこのゲームにおいては初心者でも、恵まれた運動神経と重度のゲーマーとしての経験値があるからな。
ゲームに慣れれば、他の初心者とは一線を画すだろう。
実際、多少運に助けられたとはいえ、剣聖を抜いてイベント2位になったという実績がある。
「うー……。昨日のイベントは散々だったよ。最初にいた森林エリアで突然『死神』に襲われて死ぬわ、リスタートした草原エリアでは、でっかい剣振り回してた人に殺されるわ、挙げ句の果てには山岳エリアで半裸の変態に追いかけ回されるわ……」
それはまた、なんとも運のない奴だな。
そして、気づかぬうちに、俺もこいつを殺していたらしい。
斥候のくせに危機管理が甘いんじゃないか?
「まあ、昨日のイベントは運の要素も強かったし、攻撃力の高い者が有利な内容だった。仕方がないといえば仕方がない。……それに、半裸の変態とは私も遭遇したしな」
「僕も最後の方で遭遇したね。変態だけど彼も有名なPK。強い者に負ける事は恥ではないさ。僕も『死神』にやられてしまったしね」
「私も、不意討ちなんてマネをしておきながら、満身創痍の『死神』を取り逃がし、『妖刀』も倒し切れませんでした。多かれ少なかれ、誰しも手落ちがあったのです。これから強くなればいいのですよ」
「み、皆……! そうだよね! こんな事で凹んでられない! よーし! 強くなって、次のイベントで大活躍するぞー!!」
俺が黙っている間に、他のメンバーが落ち込むシャロを慰めていた。
それを受けてシャロは心打たれたのか、なにやら奮起したようだ。
そして、マックスの言われようが酷い。
事実だから、フォローは入れないが。
そして、マインは何やら微妙な顔をしていた。
「どうした?」
「いや……。こうやって改めて聞くと、半分以上がお兄ちゃん達の犯行だなって思って、なんか微妙な気分になっただけ」
「そうか」
そんな、俺の正体に繋がりそうな会話だったが、小声で行われていた為に、騒ぐシャロの声にかき消されて、他のメンバーに気づかれる事はなかった。
そうしてエリアを移動する事しばらく。
ようやく目的のダンジョンに辿り着いた。
「よし、行こうか」
剣聖の声に従って、メンバー達がダンジョンに入って行く。
斥候のシャロが最前列。
そのシャロをいつでも守れる位置に、壁役のアイギスとアタッカーの剣聖。
その後ろに聖女が続き、背後からの襲撃を警戒して、最後尾にマインがつく。
俺はゲストという事で、パーティーの陣形を崩さないように、マインの更に後ろからついて行く形だ。
そして、ダンジョンに入ろうとした時、───俺は、ふと後ろを振り返った。
「?」
「お兄ちゃーん! 何してるの? おいてくよ!」
「……ああ」
視線を感じた気がしたんだが……気のせいか?
少し引っ掛かるものを感じながらも、俺は急かすマインに続いてダンジョンに足を踏み入れた。