プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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22 ドラゴンゾンビ

 ダンジョン『死霊の洞穴』最下層。

 そこには大きな扉があった。

 元は豪華な装飾がつけられた立派な扉だったのだろうが、今は錆び付き、所々が破損し、不気味な雰囲気を漂わせている。

 

「開けるよ」

 

 剣聖の言葉に全員が頷く。

 そして、剣聖は錆びた大扉を開け放ち、俺達はダンジョンの最深部、ボス部屋に足を踏み入れた。

 

 部屋の中心には、1体のモンスターがいた。

 

 全長10メートルはあろうかという巨体。

 全身が強固な鱗に覆われていながら、その一部は剥がれ落ち、腐った肉や骨が露出している。

 ここの扉と同じく、元々は立派だったのだろうが、今やその面影もない。

 絶対強者の成れの果て。

 それが、俺のこのモンスターに対する印象だった。

 

 そのモンスターの名は───『ドラゴンゾンビ』。

 このダンジョン『死霊の洞穴』のダンジョンボスだ。

 

 ドラゴンゾンビが伏せていた巨体をゆっくりと起こし、こちらを睥睨する。

 傷だらけの翼を広げ、何本かの牙が欠けた口を開き、咆哮を上げた。

 

「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 低く、くぐもった声。

 それと同時に、ドラゴンゾンビの頭上にHPバーが表示され、戦闘が始まった。

 

「来るよ!!」

 

 ドラゴンゾンビが、こちらに向けて突撃して来る。

 

「《シャインストリーム》!」

「《ホーリーランス》!」

 

 先程の戦闘時と同じように、聖女とマインの魔法がドラゴンゾンビに襲いかかる。

 あの巨体では避ける事はできず、アンデットの弱点である光魔法は二つとも直撃した。

 ……しかし、ドラゴンゾンビのHPはほとんど減らない。

 さすがはダンジョンボス。

 タフだ。

 

 そして、ドラゴンゾンビがの突撃が、俺達に到達する。

 

「《フルガード》!!」

 

 それを、アイギスが《ガード》の上位スキルを使って受け止める。

 

「うぐ……!!」

 

 しかし、さすがにこのレベルのモンスターを相手に完全には止めきれないらしく、アイギスは押され始めた。

 あれだけの攻撃を受ければ、盾と鎧の上からでもHPが減っているだろう。

 

「《エンチャント・ディフェンス》! 《ハイヒーリング》!」

 

 その問題は聖女が解決した。

 支援魔法の青い光と、回復魔法の白い光がアイギスを包み込み、それによって強化され、回復したアイギスは、ドラゴンゾンビの突撃を受け止めきった。

 

「《リフレクター》!!」

 

 そして、トロルゾンビの時と同じように、衝撃を跳ね返されたドラゴンゾンビは、腕を大きく弾かれ、体勢を崩した。

 

「攻撃組! 行くよ!」

「はい!」

「ああ」

 

 剣聖の指示に従い、俺とマインと剣聖のアタッカー3人がドラゴンゾンビに攻撃を仕掛ける。

 

「《エンチャント・アタック》!」

 

 聖女の支援魔法によって、攻撃力が底上げされる。

 イベントの時に苦しめられた魔法だが、味方となると心強いな。

 もっとも、これが終われば、また敵同士だが。

 

「《クロスソード》!」

「《ホーリーランス》! 《ソニックブレイド》!」

「《スラッシュ》」

 

 それぞれのスキルをドラゴンゾンビに叩き込み、その後も通常攻撃とアーツを交互に繰り出す。

 体勢を立て直したドラゴンゾンビが暴れる。

 振るわれる腕や尻尾を避け続け、攻め続ける。

 後方からは、ポーションでMPを回復させた聖女の光魔法と、シャロの矢が飛来している。

 それでも、ドラゴンゾンビのHPは、なかなか削れない。

 

 攻撃自体は、AIにより決められた動きしかしてこない為、避けるのは容易いが、この延々として進まない作業のような感覚はどうにも苦手だ。

 しかも、俺の防御力では、直撃を受ければ一撃でアウトだろう。

 緊張感があるといえばあるが……俺の求めているスリルとは、どこか違う。

 やはり、モンスターの相手は、あまり好きになれないな。

 

「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 そんな事を思いながら、HPを削る機械となっていた時、突如ドラゴンゾンビが咆哮を上げ、その口に黒い光が集まり出した。

 

「ブレスだ!」

「皆! 私の後ろへ!」

 

 言われた通りに、俺はアイギスの後ろに待避した。

 アイギスが守れる位置に、パーティーメンバー全員が固まる。

 

 そして、ドラゴンゾンビの口から、黒いブレスが放たれた。

 

「「《プロテクション》!!」」

 

 聖女とマインが《光魔法:LV10》で覚えられる魔法(プロテクション)という光の壁を、迫り来るブレスの前に展開する。

 しかし、ブレスはそれを軽く粉砕した。

 だが、勢いは確実に削れている。

 

「《ワイドガード》!!」

 

 勢いの削れたブレスを、アイギスが更なる盾のアーツで受け止めた。

 アイギスの盾を核とするように、《プロテクション》とも違う半透明のバリアが前方に現れ、それによって俺達は守られた。

 ウチの壁役である半裸の変態にはできない事だ。

 

「さすがだな。『鉄壁』」

「……あまり二つ名で呼んでほしくはないんだが」

 

 善処しよう。

 このパーティーにいる間は。

 

 そうこうしているうちにブレスが止み、俺達は攻撃を再開した。

 アイギスの守備範囲から出て、ドラゴンゾンビに飛び掛かる。

 

 叩きつけられる巨大な腕を紙一重で避け、グラムを突き立てる。

 狙いは鱗が剥がれ落ち、骨が露出している部分。

 ここが弱点だ。

 他の部分を斬るよりも遥かにダメージが通る。

 そのまま傷口を広げるように、グラムを突き立てたまま走り抜ける。

 

 これだけやっても、ドラゴンゾンビのHPは大きくは減らない。 

 剣聖とマインが俺と同じように削り、聖女の光魔法とシャロの矢が更に削り、それでもドラゴンゾンビのHPは半分以上残っている。

 

 これがボスモンスターの強さだ。

 アーマードベアもそうだったが、とても俺一人では太刀打ちできない。

 倒せなくはないだろうが、気の遠くなるような時間がかかるだろう。

 

 だが、そんな強敵でもパーティーで挑めば勝てる。

 少しずつ、だが、確実にドラゴンゾンビのHPは削れている。

 その巨体には、ダメージを受けた証である赤い光が増え続ける。

 こちらのダメージは、ポーションと聖女の回復魔法で回復できる。

 それによって生じる隙は、アイギスの守りが補う。

 

 共に戦ってみて、改めてわかる。

 こいつらは、凄まじくバランスが良く、隙のない強力なパーティーだ。

 

 ゲーム内屈指の個人戦闘力を誇る剣聖。

 それを十全にサポートし、なおかつ自身も大きなダメージソースとなれる聖女。

 パーティー全員を守って余りある鉄壁の防御力と、それを使いこなすだけのプレイヤースキルを持ったアイギス。

 それだけでも厄介なのに、剣も魔法も使えて手数の多いマインが補強する。

 シャロという索敵要員までいる為、不意討ちすらも容易には通らない。

 

 俺一人で正面から敵対すれば、勝ち目はほとんどない。

 イベントの時も、サクラが剣聖と聖女を引き離してくれなければ、勝率は半分を切っていただろう。

 

 こいつらは、まごうことない強敵。

 だが、だからこそ、戦う機会が待ち遠しい。

 ライバルは、強い方が燃える。

 マインがこのパーティーに入ってくれて良かった。

 

 そんな強いパーティーに俺まで加わって戦っているのだ。

 ドラゴンゾンビごときに遅れは取らない。

 倒すのに時間はかかるが、油断さえしなければ敗北はない。

 それくらい、こいつらの戦闘には危なげがない。

 

 そして、その時はやって来た。

 ドラゴンゾンビのHPが風前の灯火となる。

 

「《エレメンタルソード・ライト》!!」

 

 アーツにより、剣聖の持つ剣が光輝く。

 あれは、俺がアーマードベアに使った《斬首》と似ている。

 威力は高いが、モーションが大きく隙も大きい、トドメ専用の大技。

 

 それが、ドラゴンゾンビを縦に両断した。

 

「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 最後に咆哮を上げて……ドラゴンゾンビのHPは尽きた。

 巨体が光の粒子となって消滅していく。

 

《レベルアップ! LV17からLV18になりました》

《ステータスポイントを入手しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

 終わったな。

 実に面倒な作業だった。

 だが、とても有意義な時間でもあった。

 ライバルの強さを確認できたのだからな。

 

「皆、お疲れ様」

「ふぅ……。本当に疲れました。やっぱりボスモンスターの相手は気が抜けませんからね。ユリウスもお疲れ様でした」

「私はひたすら守っていただけだからな。一番労われるべきは、動き続けだった攻撃組だろう」

「本当にね~。あたしなんて、ちまちまと矢射ってただけだし。あとはポーションの補給くらいしかやってないよ。お疲れ勇者様!」

「二つ名で呼ばないでください! でも、シャロさんのサポートも助かりました! ありがとうございます!」

 

 剣聖達は、互いに互いを労う。

 こうして改めて見ると、マインはちゃんとこのパーティーに溶け込めている。

 元々、俺よりも遥かにコミュニケーション能力の高い奴だから、さして心配もしていなかったがな。

 楽しそうで何よりだ。

 

「キョウもお疲れ様」

 

 剣聖が俺にも話しかけてきた。

 

「どうだったかな?」

「……さすがに少し疲れた。慣れない事をしたからな」

「へぇ、何だか意外だよ。君も普通に疲労するんだね」

「お前は俺を何だと思っているんだ?」

 

 この短時間で化け物認定でもしていたのか?

 それにしたって、お前には言われたくないぞ。

 

「ふふ、冗談だよ。半分くらいはね。──さあ、帰ろうか。無事に帰るまでが冒険だ。気は抜かないようにしよう」

 

 そう言って、剣聖はボス部屋の突き当たり、ボスモンスターを倒す事によって出現したポータルに向かって歩いて行った。

 あれに乗れば、一方通行でダンジョンの外に出る事ができる。

 ダンジョン内には、その手のポータルが階層ごとに設置されている。

 

 そのポータルに順番に乗る。

 その順番はダンジョンに入った時と同じだ。

 すなわち、シャロ、アイギス、剣聖、聖女、マインの順で外に出て行った。

 俺もそれに続く。

 そうして外に出た瞬間。

 

「避けて、お兄ちゃん!!」

 

 マインの焦ったような声が聞こえた。

 それとほぼ同時に《危険感知》が反応。

 正面から迫って来る魔法の存在を知らせてくれた。

 

 俺は、それを冷静に避ける。

 この事態は予想できた事だ。

 それ故に、俺の行動には迷いはない。

 

 魔法を避けて周りを見渡せば、剣聖達を包囲するように展開する、無数のプレイヤー達の姿が見えた。

 なるほど。

 状況はわかった。

 俺がダンジョンに入る前に感じた視線。

 どうやら、あれは勘違いではなかったらしい。

 

「待ち伏せか」

 

 ボスモンスターのドロップアイテムが欲しい時などに、PKがよくやる事だ。

 アーマードベアの時に、俺達も似たような事をやった。

 故に、驚きはない。

 まさに剣聖が言った通り。

 無事に帰るまでが冒険という、ただそれだけの話だ。

 

 俺は、俺達を取り囲む同業者の群れを、油断なく見渡した。


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