プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
ダンジョン『死霊の洞穴』最下層。
そこには大きな扉があった。
元は豪華な装飾がつけられた立派な扉だったのだろうが、今は錆び付き、所々が破損し、不気味な雰囲気を漂わせている。
「開けるよ」
剣聖の言葉に全員が頷く。
そして、剣聖は錆びた大扉を開け放ち、俺達はダンジョンの最深部、ボス部屋に足を踏み入れた。
部屋の中心には、1体のモンスターがいた。
全長10メートルはあろうかという巨体。
全身が強固な鱗に覆われていながら、その一部は剥がれ落ち、腐った肉や骨が露出している。
ここの扉と同じく、元々は立派だったのだろうが、今やその面影もない。
絶対強者の成れの果て。
それが、俺のこのモンスターに対する印象だった。
そのモンスターの名は───『ドラゴンゾンビ』。
このダンジョン『死霊の洞穴』のダンジョンボスだ。
ドラゴンゾンビが伏せていた巨体をゆっくりと起こし、こちらを睥睨する。
傷だらけの翼を広げ、何本かの牙が欠けた口を開き、咆哮を上げた。
「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
低く、くぐもった声。
それと同時に、ドラゴンゾンビの頭上にHPバーが表示され、戦闘が始まった。
「来るよ!!」
ドラゴンゾンビが、こちらに向けて突撃して来る。
「《シャインストリーム》!」
「《ホーリーランス》!」
先程の戦闘時と同じように、聖女とマインの魔法がドラゴンゾンビに襲いかかる。
あの巨体では避ける事はできず、アンデットの弱点である光魔法は二つとも直撃した。
……しかし、ドラゴンゾンビのHPはほとんど減らない。
さすがはダンジョンボス。
タフだ。
そして、ドラゴンゾンビがの突撃が、俺達に到達する。
「《フルガード》!!」
それを、アイギスが《ガード》の上位スキルを使って受け止める。
「うぐ……!!」
しかし、さすがにこのレベルのモンスターを相手に完全には止めきれないらしく、アイギスは押され始めた。
あれだけの攻撃を受ければ、盾と鎧の上からでもHPが減っているだろう。
「《エンチャント・ディフェンス》! 《ハイヒーリング》!」
その問題は聖女が解決した。
支援魔法の青い光と、回復魔法の白い光がアイギスを包み込み、それによって強化され、回復したアイギスは、ドラゴンゾンビの突撃を受け止めきった。
「《リフレクター》!!」
そして、トロルゾンビの時と同じように、衝撃を跳ね返されたドラゴンゾンビは、腕を大きく弾かれ、体勢を崩した。
「攻撃組! 行くよ!」
「はい!」
「ああ」
剣聖の指示に従い、俺とマインと剣聖のアタッカー3人がドラゴンゾンビに攻撃を仕掛ける。
「《エンチャント・アタック》!」
聖女の支援魔法によって、攻撃力が底上げされる。
イベントの時に苦しめられた魔法だが、味方となると心強いな。
もっとも、これが終われば、また敵同士だが。
「《クロスソード》!」
「《ホーリーランス》! 《ソニックブレイド》!」
「《スラッシュ》」
それぞれのスキルをドラゴンゾンビに叩き込み、その後も通常攻撃とアーツを交互に繰り出す。
体勢を立て直したドラゴンゾンビが暴れる。
振るわれる腕や尻尾を避け続け、攻め続ける。
後方からは、ポーションでMPを回復させた聖女の光魔法と、シャロの矢が飛来している。
それでも、ドラゴンゾンビのHPは、なかなか削れない。
攻撃自体は、AIにより決められた動きしかしてこない為、避けるのは容易いが、この延々として進まない作業のような感覚はどうにも苦手だ。
しかも、俺の防御力では、直撃を受ければ一撃でアウトだろう。
緊張感があるといえばあるが……俺の求めているスリルとは、どこか違う。
やはり、モンスターの相手は、あまり好きになれないな。
「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
そんな事を思いながら、HPを削る機械となっていた時、突如ドラゴンゾンビが咆哮を上げ、その口に黒い光が集まり出した。
「ブレスだ!」
「皆! 私の後ろへ!」
言われた通りに、俺はアイギスの後ろに待避した。
アイギスが守れる位置に、パーティーメンバー全員が固まる。
そして、ドラゴンゾンビの口から、黒いブレスが放たれた。
「「《プロテクション》!!」」
聖女とマインが《光魔法:LV10》で覚えられる魔法
しかし、ブレスはそれを軽く粉砕した。
だが、勢いは確実に削れている。
「《ワイドガード》!!」
勢いの削れたブレスを、アイギスが更なる盾のアーツで受け止めた。
アイギスの盾を核とするように、《プロテクション》とも違う半透明のバリアが前方に現れ、それによって俺達は守られた。
ウチの壁役である半裸の変態にはできない事だ。
「さすがだな。『鉄壁』」
「……あまり二つ名で呼んでほしくはないんだが」
善処しよう。
このパーティーにいる間は。
そうこうしているうちにブレスが止み、俺達は攻撃を再開した。
アイギスの守備範囲から出て、ドラゴンゾンビに飛び掛かる。
叩きつけられる巨大な腕を紙一重で避け、グラムを突き立てる。
狙いは鱗が剥がれ落ち、骨が露出している部分。
ここが弱点だ。
他の部分を斬るよりも遥かにダメージが通る。
そのまま傷口を広げるように、グラムを突き立てたまま走り抜ける。
これだけやっても、ドラゴンゾンビのHPは大きくは減らない。
剣聖とマインが俺と同じように削り、聖女の光魔法とシャロの矢が更に削り、それでもドラゴンゾンビのHPは半分以上残っている。
これがボスモンスターの強さだ。
アーマードベアもそうだったが、とても俺一人では太刀打ちできない。
倒せなくはないだろうが、気の遠くなるような時間がかかるだろう。
だが、そんな強敵でもパーティーで挑めば勝てる。
少しずつ、だが、確実にドラゴンゾンビのHPは削れている。
その巨体には、ダメージを受けた証である赤い光が増え続ける。
こちらのダメージは、ポーションと聖女の回復魔法で回復できる。
それによって生じる隙は、アイギスの守りが補う。
共に戦ってみて、改めてわかる。
こいつらは、凄まじくバランスが良く、隙のない強力なパーティーだ。
ゲーム内屈指の個人戦闘力を誇る剣聖。
それを十全にサポートし、なおかつ自身も大きなダメージソースとなれる聖女。
パーティー全員を守って余りある鉄壁の防御力と、それを使いこなすだけのプレイヤースキルを持ったアイギス。
それだけでも厄介なのに、剣も魔法も使えて手数の多いマインが補強する。
シャロという索敵要員までいる為、不意討ちすらも容易には通らない。
俺一人で正面から敵対すれば、勝ち目はほとんどない。
イベントの時も、サクラが剣聖と聖女を引き離してくれなければ、勝率は半分を切っていただろう。
こいつらは、まごうことない強敵。
だが、だからこそ、戦う機会が待ち遠しい。
ライバルは、強い方が燃える。
マインがこのパーティーに入ってくれて良かった。
そんな強いパーティーに俺まで加わって戦っているのだ。
ドラゴンゾンビごときに遅れは取らない。
倒すのに時間はかかるが、油断さえしなければ敗北はない。
それくらい、こいつらの戦闘には危なげがない。
そして、その時はやって来た。
ドラゴンゾンビのHPが風前の灯火となる。
「《エレメンタルソード・ライト》!!」
アーツにより、剣聖の持つ剣が光輝く。
あれは、俺がアーマードベアに使った《斬首》と似ている。
威力は高いが、モーションが大きく隙も大きい、トドメ専用の大技。
それが、ドラゴンゾンビを縦に両断した。
「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
最後に咆哮を上げて……ドラゴンゾンビのHPは尽きた。
巨体が光の粒子となって消滅していく。
《レベルアップ! LV17からLV18になりました》
《ステータスポイントを入手しました》
《スキルポイントを入手しました》
終わったな。
実に面倒な作業だった。
だが、とても有意義な時間でもあった。
ライバルの強さを確認できたのだからな。
「皆、お疲れ様」
「ふぅ……。本当に疲れました。やっぱりボスモンスターの相手は気が抜けませんからね。ユリウスもお疲れ様でした」
「私はひたすら守っていただけだからな。一番労われるべきは、動き続けだった攻撃組だろう」
「本当にね~。あたしなんて、ちまちまと矢射ってただけだし。あとはポーションの補給くらいしかやってないよ。お疲れ勇者様!」
「二つ名で呼ばないでください! でも、シャロさんのサポートも助かりました! ありがとうございます!」
剣聖達は、互いに互いを労う。
こうして改めて見ると、マインはちゃんとこのパーティーに溶け込めている。
元々、俺よりも遥かにコミュニケーション能力の高い奴だから、さして心配もしていなかったがな。
楽しそうで何よりだ。
「キョウもお疲れ様」
剣聖が俺にも話しかけてきた。
「どうだったかな?」
「……さすがに少し疲れた。慣れない事をしたからな」
「へぇ、何だか意外だよ。君も普通に疲労するんだね」
「お前は俺を何だと思っているんだ?」
この短時間で化け物認定でもしていたのか?
それにしたって、お前には言われたくないぞ。
「ふふ、冗談だよ。半分くらいはね。──さあ、帰ろうか。無事に帰るまでが冒険だ。気は抜かないようにしよう」
そう言って、剣聖はボス部屋の突き当たり、ボスモンスターを倒す事によって出現したポータルに向かって歩いて行った。
あれに乗れば、一方通行でダンジョンの外に出る事ができる。
ダンジョン内には、その手のポータルが階層ごとに設置されている。
そのポータルに順番に乗る。
その順番はダンジョンに入った時と同じだ。
すなわち、シャロ、アイギス、剣聖、聖女、マインの順で外に出て行った。
俺もそれに続く。
そうして外に出た瞬間。
「避けて、お兄ちゃん!!」
マインの焦ったような声が聞こえた。
それとほぼ同時に《危険感知》が反応。
正面から迫って来る魔法の存在を知らせてくれた。
俺は、それを冷静に避ける。
この事態は予想できた事だ。
それ故に、俺の行動には迷いはない。
魔法を避けて周りを見渡せば、剣聖達を包囲するように展開する、無数のプレイヤー達の姿が見えた。
なるほど。
状況はわかった。
俺がダンジョンに入る前に感じた視線。
どうやら、あれは勘違いではなかったらしい。
「待ち伏せか」
ボスモンスターのドロップアイテムが欲しい時などに、PKがよくやる事だ。
アーマードベアの時に、俺達も似たような事をやった。
故に、驚きはない。
まさに剣聖が言った通り。
無事に帰るまでが冒険という、ただそれだけの話だ。
俺は、俺達を取り囲む同業者の群れを、油断なく見渡した。