プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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「ほう。完全に不意討ちが決まったと思ったのですが、避けますか。あなたもやりますね」

 

 軍服のような装備を着た糸目の男が、そう言って拍手を送ってきた。

 こいつが指揮官か?

 見たところ、俺達を囲んでいるPKは20人近くいる。

 しかも、ある程度、統率が取れている。

 イベントの時の雑魚軍団と違って、血気に逸る馬鹿がいないのが、その証拠だ。

 

「サーベルさん、もうやっちゃっていいっすかね?」

「俺ら、もう我慢できないんすよ!」

「ハーレム野郎、死すべし!!」

 

 訂正。

 あまり統率が取れている訳ではなさそうだ。

 今にも飛び掛かって来そうなのが何人かいる。

 

「ダメですよ。イベントで彼らの強さは知っているでしょう。連携して挑まねば犬死にするだけです」

「チッ」

「了解ー……」

「連携して殺す……!」

 

 だが、それを糸目の男が上手く纏めている。

 ……少し面倒だな。

 有象無象でも、連携がしっかりしていれば、それなりに強い。

 数は力だ。

 

「一応聞くけど、目的は何かな?」

 

 剣聖が武器を構えたまま問いかける。

 

「そうですね。自己紹介もかねてご説明しましょう」

 

 糸目の男は、胸に手を当て、おどけた調子で語り出した。

 

「我々はこの度新しく設立する予定の闇ギルド『ダークマター』の一員です。あなた方を狙ったのは、ギルド設立クエストに伴う金策の一環。───そして、腕試しの為ですよ」

「腕試し?」

「ええ。あわよくば、ボスモンスターあたりのドロップアイテムでも手にできればという思いもありますがね」

 

 そちらはあまり期待していないような言い方だな。

 まあ、PK行為が成功したとしても、目的のアイテムが手に入る確率は決して高くはない。

 死に戻りでどのアイテムをロストするか、キルによってどのアイテムを手に入れるかは完全ランダム。

 それに、ボスドロップが欲しいなら、わざわざ強い奴に挑む必要はない。

 

「我々は『死神』をはじめとした高名なプレイヤーキラーに感銘を受けて集った身。しかし、ご存知の通り、PKというものは意外と難しい。それも当然の事ですよね。ステータスというものが明確に定められたゲームにおいて、自身と同等の能力を持った相手を倒そうというのです。難しいに決まっている。それを容易く成し遂げてしまう『死神』は化け物としか言えません」

 

 糸目の男の言葉を聞いて、マインが俺にジト目を向けてきた。

 やめろ。

 そんな目で見るな。

 

「故に、我々は集まりました。1人でできないのなら、皆でやればいい。小さな力でも、集まれば『死神』に匹敵する強さとなる。それを証明したいのですよ」

「なるほど。それで、僕達を狙ったのか」

「ええ。『死神』の宿敵と名高い『剣聖』のパーティーを打ち倒したとなれば、これ以上ない力の証明となるでしょう。しかも、昨日のイベントにおいて『死神』と引き分けた『勇者』までもが加入している。挑まない理由がありません」

 

 そこまで言って、糸目の男は腰に差した剣を抜いた。

 どうやら、お喋りはここまでのようだな。

 

「私はサーベル。闇ギルド『ダークマター』の幹部を名乗っています。『剣聖』ユリウス、『勇者』マイン、並びにそのパーティーの皆さん。───いざ、尋常に勝負を申し込みます」

「ダンジョン攻略で疲れているから断る。……と言いたいところだけど、そう言っても引き下がってはくれなさそうだね?」

「はい、もちろん。疲弊したところを狙うのは、PKの基本戦術の一つですから」

 

 マインのジト目が強くなった。

 やめろ。

 あれと一緒にするな。

 俺はそんなせこいマネはしないぞ。

 基本的に、視界に入った奴を、無差別に襲撃してるだけだ。

 

「では、参ります。───皆さん」

「よしきた!」

「任せろ!」

「ハーレム野郎、ブッコロス!!」

 

 そして、戦闘が始まった。

 向こうの弓使いがこちらに向かって弓を引き、魔法使いが杖を向けた。

 まずは遠距離攻撃で牽制。

 正攻法だな。

 

「アイギス!!」

「わかっている! 《ワイドガード》!」

 

 それに対する、剣聖の対処法もまた正攻法。

 ドラゴンゾンビ戦でも見せた半透明のバリアが俺達を守る。

 

 ───だが、この場合は、こうした方が早い。

 

 俺は、アイギスの盾が展開する前に、奴らの攻撃が放たれる前に、奴らに向かって突撃した。

 

「お兄ちゃん!?」

 

 狙うは指揮官の首。

 統率が取れなくなれば、あとは如何様にも料理できるだろう。

 そうして振るったグラムの一撃を、糸目の男、サーベルは手に持った剣で防いだ。

 

「わ、重いですねぇ」

「ほう」

 

 しかし、どうやら攻撃力は俺の方が遥かに上。

 だが、グラムの勢いを止めきれなかったサーベルは、巧みな剣さばきで攻撃を受け流し、反撃してきた。

 そのまま数度剣を交え、互いに距離を取る。

 俺はアイギスの守備範囲の中に待避した。

 ……あいつ。

 弱いから徒党を組んだと言っていたわりには、普通に強いじゃないか。

 

「キョウ……。無茶をするね」

「ほんとだよ!」

 

 剣聖とマインが苦言を呈してきた。

 他のメンバーも、咎めるような顔で見てくる。

 無茶をしたつもりはないんだがな……。

 

「数の多い敵に対して遠距離での削り合いは悪手だろう。こちらから速攻で攻めるのが最善手だと思うが……」

「だとしても無茶は無茶だよ。僕が言ってるのは、1人で突っ走るなって事。僕達は今パーティーなんだから、一緒に戦うべきだと思うんだ」

「……わかった」

 

 確かに、その言葉には一理ある。

 今の俺は、こいつのパーティーの一員。

 リーダーの意向には従うべきだ。

 

「わかってくれたならいいよ。───じゃあ、反撃だ。次は攻撃組全員で出る。ジャンヌ、僕らに支援魔法を」

「わかりました。《エンチャント・アタック》」

 

 支援魔法の青い光が俺達を包み込み、攻撃力を底上げする。

 

「アイギス、《ワイドガード》は後どれくらい持つ?」

「10秒といったところだな。そんなに長時間展開していられるアーツではない」

「わかった。なら、《ワイドガード》が解除されると同時に突撃だ。マインとジャンヌは、その瞬間に《プロテクション》を頼む。シャロはアイギスの後ろでサポートをよろしく」

「はい!」

「わかりました」

「任せて!」

 

 剣聖を中心に、次々と作戦が決まってゆく。

 ……これが本物の連携か。

 大雑把に役割だけ決めて、あとは好き勝手にやる『サクリファイス』にはない強さだな。

 見習うべきかもしれん。

 

 そして、アイギスの《ワイドガード》が解けた。

 

「行くよ!」

「「《プロテクション》!」」

 

 前方に展開された二枚の光の壁が、《ワイドガード》に代わって俺達を守る。

 それが砕ける前に、俺達攻撃組は相手の懐に飛び込んだ。

 

「させるか!! 《ワイドガード》!!」

「「「「《ワイドガード》!!」」」」

 

 相手にも大盾使いの壁役は何人もいる。

 そいつらが一斉に《ワイドガード》を発動。

 何重にも重なった半透明のバリアが奴らを守る。

 

 だが、このアーツには弱点がある。

 相手の攻撃を防ぎ、味方の攻撃は通すという一見万能なバリアだが、実は純粋な近接攻撃に弱い。

 《ワイドガード》は、あくまでも範囲攻撃から仲間を守る為のアーツ。

 万能な技など、このゲームにはないのだ。

 

「《スラッシュ》」

 

 真っ先に辿り着いた俺の攻撃が、半透明のバリアを打ち砕く。

 そのまま、バリアの後ろに隠れていた魔法使いを1人斬り殺し、振り向きざまに大盾使いの1人の首をはねる。

 バリアを展開していた内の1人が殺られた事で、俺が破った部分以外にも、バリアに穴が空く。

 そこから飛び込んだ剣聖とマインが、俺と共にバリアの内部で暴れまわった。

 

「ハァ!!」

「とりゃぁ!!」

「クソッ……!?」

「やっぱ強ぇ……!」

 

 それでも、奴らは数に任せて俺達を取り囲み、袋叩きにしようとしてきた。

 だが、昨日今日集まった烏合の衆の連携にやられる程、俺も剣聖もマインも弱くはない。

 加えて、後方からの聖女とシャロによる援護射撃。

 良いタイミングで放たれる攻撃が、相手の動きを止め、ダメージを与えた。

 

 結局、息巻いていた『ダークマター』とやらは数分としないうちに剣聖パーティーの連携に敗れ、最後に残ったサーベル以外の全員が死に戻った。

 

「……さすがにお強いですね。やっぱり急ごしらえのパーティーでは勝てませんか……。それでも、1人くらいは殺れるかと思っていたんですが、どうやら甘かったようです」

 

 そう言うサーベルの体は、既にボロボロになっていた。

 四肢の半分を失い、体中がダメージを受けた証として赤く光っている。

 あと一撃でも食らわせれば、死ぬだろう。

 

 そんなサーベルに、俺は容赦なく剣を振り下ろした。

 

「今回は我々の負けです。ですが、近いうちにまたお会いしましょう。今度は()()()()()()()()()()も一緒に」

 

 それだけ言い捨てて、サーベルは光の粒子となって消滅した。

 こうして、予定になかった戦いは、わりとあっさり終結した。

 

 ただ、闇ギルド『ダークマター』という不気味な存在の事を、俺達は知ったのだった。


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