プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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24 冒険の終わり

 サーベル率いる『ダークマター』を撃退し、帰路を進む。

 当然、さっきのような事が二度起こらないという保証はないので、警戒しながら。

 だが、このパーティーには索敵に特化したシャロがいる。

 ポータルで移動した直後のような特殊な状況でもない限り、待ち伏せも奇襲も、そうそう食らわない。

 故に、俺達は警戒しながらも余裕を持って歩いていた。

 戦闘エリアに出ている間は、常にこうして程よい緊張感を維持する。

 それは、このゲームの基本だ。

 

「結局、さっきの連中なんだったんだんだろうね~」

「通り魔、もしくはモンスターの一種のようなものだ。あの手の輩を一々気にしていては、ゲームを楽しめないぞ」

「アイギスの言う通りです。……しかし、彼らがより人数を集めて規模が大きくなるというのなら、『死神』よりもタチの悪い事になりそうですね……。そこが心配です」

「ジャンヌは心配性だな~。大丈夫だって! 何人でかかって来ようが、今回みたいに勇者様が倒してくれるから! ね~、マイン~」

「だから、勇者って呼ばないでください!」

 

 女3人寄ればかしましい。

 そんなことわざがある。

 それを体現するかのように、パーティーの女連中はお喋りに興じていた。

 ……索敵が不安になってきたな。

 俺はもう少し、気を引き締めよう。

 

「キョウ。さっきはお疲れ様」

 

 と、そこで女連中に交ざらなかった剣聖が、俺に話しかけてきた。

 

「別に問題ない。対人戦は得意分野だ」

「そうか……。じゃあ、今日の冒険は楽しかったかな? ダンジョン攻略」

「……まあ、悪くはなかった」

 

 たまには、人を殺さない冒険というのも悪くはない。

 いや、最後の最後で殺しはしたが、PK相手は例外だ。

 PKを殺しても懸賞金は上がらないしな。

 

「そうか。良かったよ。君が楽しんでくれて」

「……お前は俺を楽しませようとしていたのか?」

「そうだね。君には普通の冒険の楽しさを知ってほしかったんだ。君は人と戦うのが好きみたいだからね。───そうだろう? 『死神』」

 

 …………。

 

「……気づいていたのか」

「動き方の癖や、人を相手にした時生き生きしてたのを見てなんとなくね。でも、確証はなかった。だけど、今の反応で確信を得たよ。やっぱりそうだったんだね」

「……チッ。鎌かけられたか」

「死神だけにね」

「駄洒落のつもりなら、おもしろくないぞ」

 

 まさか、こんな事で正体がバレるとはな。

 もう少し用心するべきだったか。

 

「で、どうする気だ? 言いふらすか?」

「いや、そんな事はしないさ。僕はそこまで陰湿じゃないからね」

 

 まあ、そうだろうな。

 敵同士とはいえ、β版の頃からの知り合いだ。

 こいつの人柄は、なんとなくわかっている。

 そういう事をする奴ではない。

 

「でも、そうだなぁ……。キョウ。僕らのギルドに入らないか? 今日一日、一緒に冒険してみて思ったんだ。僕らは仲間としてもやっていけるんじゃないかって」

「断る。俺は今のギルドを抜けるつもりはない」

「ハハ。残念。ふられちゃったか」

 

 わかりきった事を聞くな。

 冗談にしても笑えないぞ。

 

「前から聞きたかったんだけど、君はどうしてPKをやっているんだい?」

「そんなもの決まっている。楽しいからだ。好きなプレイスタイルが、たまたまPKだった。それだけの事だ」

「そうか……」

 

 俺の言葉を聞いた剣聖は、少し悲しそうな顔をした。

 

「……君がPKが好きなように、僕は王道のプレイスタイルが好きなんだ。

 このゲームでいえば、モンスターを倒し、ダンジョンを制覇し、クエストをクリアする。そういう王道のプレイがね。

 そして、そんな僕に賛同してくれた皆で作ったのが『王道騎士団』だ。

 君とは、君達PKとは、決して相容れない」

 

 ……まあ、そうだろうな。

 

「だから、次に会う時はまた敵同士だ。───次こそは君を倒すよ。『死神』」

 

 そう言って、剣聖は俺に宣戦布告をしてきた。

 ……ああ。やはり、こいつとは仲間じゃなくて良かった。

 こいつとは敵同士の方が……ライバルでいた方が、ずっと楽しい。

 

「上等だ。次も俺が勝つぞ。『剣聖』」

 

 俺は小さく笑いながら、そう答えた。

 それを聞いて、剣聖もまた不敵な笑みを浮かべた。

 

 次の戦いが楽しみだな。

 イベントの時になるのか……いや、フィールドで見かけた時に俺から仕掛けるのも良いかもしれない。

 剣聖1人ならまだしも、パーティー全員が揃っていれば勝ち目は薄いだろう。

 

 だが、それもまた良し。

 

 これはゲームだ。

 負ければ悔しいが、負けて死ぬ訳ではない。

 ゲームは楽しんでこそだ。

 負けを恐れて、楽しみから逃げる必要はない。

 

「お兄ちゃーん! ユリウスさーん! 何してるの? 置いてくよ!」

「ああ、ごめん! すぐ行くよ! さ、行こうか、キョウ」

「ああ」

 

 だが、今日一日はまだ。

 この冒険が終わるまでは、俺は剣聖のパーティーの一員だ。

 無事に帰るまでが冒険。

 あと少しの間だけ、俺達は味方だ。

 

 

 そうして俺達は歩みを進め、非戦闘エリアである街の中にまで戻って来た。

 そこで剣聖達と別れ、ポータルを使って始まりの街へ戻る。

 そして、正門を出てスラム街に向かった。

 チンピラNPCが絡んで来たのを見て、何故か少し安心した。

 やはり、こちら側が、このゲームでの俺の居場所という事なのだろうな。

 そして当然、チンピラNPCは斬って捨てた。

 

 

 そのままギルドに顔を出してみたが、まだ誰もいなかった。

 カタストロフもいないところを見ると、あいつもあいつで金策に行ったのだろう。

 

 だが、誰もいなくとも、この寂れた酒場の雰囲気は落ち着く。

 立派な中央ギルドよりも、剣聖のパーティーにいた時よりも、余程。

 

 ……さて。

 今日はなんだかんだでボスモンスターとも戦って、少し疲れた。

 ここまでにしておくか。

 

 俺は酒場のカウンターに腰掛け、そこでメニュー画面を開いて操作し、ログアウトのボタンを押した。

 

 

 こうして、俺と剣聖達の冒険の一日は、終わりを告げたのだった。


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