プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
サーベル率いる『ダークマター』を撃退し、帰路を進む。
当然、さっきのような事が二度起こらないという保証はないので、警戒しながら。
だが、このパーティーには索敵に特化したシャロがいる。
ポータルで移動した直後のような特殊な状況でもない限り、待ち伏せも奇襲も、そうそう食らわない。
故に、俺達は警戒しながらも余裕を持って歩いていた。
戦闘エリアに出ている間は、常にこうして程よい緊張感を維持する。
それは、このゲームの基本だ。
「結局、さっきの連中なんだったんだんだろうね~」
「通り魔、もしくはモンスターの一種のようなものだ。あの手の輩を一々気にしていては、ゲームを楽しめないぞ」
「アイギスの言う通りです。……しかし、彼らがより人数を集めて規模が大きくなるというのなら、『死神』よりもタチの悪い事になりそうですね……。そこが心配です」
「ジャンヌは心配性だな~。大丈夫だって! 何人でかかって来ようが、今回みたいに勇者様が倒してくれるから! ね~、マイン~」
「だから、勇者って呼ばないでください!」
女3人寄ればかしましい。
そんなことわざがある。
それを体現するかのように、パーティーの女連中はお喋りに興じていた。
……索敵が不安になってきたな。
俺はもう少し、気を引き締めよう。
「キョウ。さっきはお疲れ様」
と、そこで女連中に交ざらなかった剣聖が、俺に話しかけてきた。
「別に問題ない。対人戦は得意分野だ」
「そうか……。じゃあ、今日の冒険は楽しかったかな? ダンジョン攻略」
「……まあ、悪くはなかった」
たまには、人を殺さない冒険というのも悪くはない。
いや、最後の最後で殺しはしたが、PK相手は例外だ。
PKを殺しても懸賞金は上がらないしな。
「そうか。良かったよ。君が楽しんでくれて」
「……お前は俺を楽しませようとしていたのか?」
「そうだね。君には普通の冒険の楽しさを知ってほしかったんだ。君は人と戦うのが好きみたいだからね。───そうだろう? 『死神』」
…………。
「……気づいていたのか」
「動き方の癖や、人を相手にした時生き生きしてたのを見てなんとなくね。でも、確証はなかった。だけど、今の反応で確信を得たよ。やっぱりそうだったんだね」
「……チッ。鎌かけられたか」
「死神だけにね」
「駄洒落のつもりなら、おもしろくないぞ」
まさか、こんな事で正体がバレるとはな。
もう少し用心するべきだったか。
「で、どうする気だ? 言いふらすか?」
「いや、そんな事はしないさ。僕はそこまで陰湿じゃないからね」
まあ、そうだろうな。
敵同士とはいえ、β版の頃からの知り合いだ。
こいつの人柄は、なんとなくわかっている。
そういう事をする奴ではない。
「でも、そうだなぁ……。キョウ。僕らのギルドに入らないか? 今日一日、一緒に冒険してみて思ったんだ。僕らは仲間としてもやっていけるんじゃないかって」
「断る。俺は今のギルドを抜けるつもりはない」
「ハハ。残念。ふられちゃったか」
わかりきった事を聞くな。
冗談にしても笑えないぞ。
「前から聞きたかったんだけど、君はどうしてPKをやっているんだい?」
「そんなもの決まっている。楽しいからだ。好きなプレイスタイルが、たまたまPKだった。それだけの事だ」
「そうか……」
俺の言葉を聞いた剣聖は、少し悲しそうな顔をした。
「……君がPKが好きなように、僕は王道のプレイスタイルが好きなんだ。
このゲームでいえば、モンスターを倒し、ダンジョンを制覇し、クエストをクリアする。そういう王道のプレイがね。
そして、そんな僕に賛同してくれた皆で作ったのが『王道騎士団』だ。
君とは、君達PKとは、決して相容れない」
……まあ、そうだろうな。
「だから、次に会う時はまた敵同士だ。───次こそは君を倒すよ。『死神』」
そう言って、剣聖は俺に宣戦布告をしてきた。
……ああ。やはり、こいつとは仲間じゃなくて良かった。
こいつとは敵同士の方が……ライバルでいた方が、ずっと楽しい。
「上等だ。次も俺が勝つぞ。『剣聖』」
俺は小さく笑いながら、そう答えた。
それを聞いて、剣聖もまた不敵な笑みを浮かべた。
次の戦いが楽しみだな。
イベントの時になるのか……いや、フィールドで見かけた時に俺から仕掛けるのも良いかもしれない。
剣聖1人ならまだしも、パーティー全員が揃っていれば勝ち目は薄いだろう。
だが、それもまた良し。
これはゲームだ。
負ければ悔しいが、負けて死ぬ訳ではない。
ゲームは楽しんでこそだ。
負けを恐れて、楽しみから逃げる必要はない。
「お兄ちゃーん! ユリウスさーん! 何してるの? 置いてくよ!」
「ああ、ごめん! すぐ行くよ! さ、行こうか、キョウ」
「ああ」
だが、今日一日はまだ。
この冒険が終わるまでは、俺は剣聖のパーティーの一員だ。
無事に帰るまでが冒険。
あと少しの間だけ、俺達は味方だ。
そうして俺達は歩みを進め、非戦闘エリアである街の中にまで戻って来た。
そこで剣聖達と別れ、ポータルを使って始まりの街へ戻る。
そして、正門を出てスラム街に向かった。
チンピラNPCが絡んで来たのを見て、何故か少し安心した。
やはり、こちら側が、このゲームでの俺の居場所という事なのだろうな。
そして当然、チンピラNPCは斬って捨てた。
そのままギルドに顔を出してみたが、まだ誰もいなかった。
カタストロフもいないところを見ると、あいつもあいつで金策に行ったのだろう。
だが、誰もいなくとも、この寂れた酒場の雰囲気は落ち着く。
立派な中央ギルドよりも、剣聖のパーティーにいた時よりも、余程。
……さて。
今日はなんだかんだでボスモンスターとも戦って、少し疲れた。
ここまでにしておくか。
俺は酒場のカウンターに腰掛け、そこでメニュー画面を開いて操作し、ログアウトのボタンを押した。
こうして、俺と剣聖達の冒険の一日は、終わりを告げたのだった。