プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「割りの良いクエスト?」
「そうだ! 前に見つけて来たと言っただろう! そしてその時、お前はこう言った筈だ! 「また今度にしてくれ」とな!」
ギルド設立から数日後。
俺は、ギルドホームである酒場において、カタストロフに詰め寄られていた。
「……言ったか、そんな事?」
「言った!! そして、あれから数日が経った!! 今日こそは、このクエストに付き合ってもらうぞキョウ!!」
カタストロフは、思いっきり顔を近づけながら、鼻息荒くそう言ってきた。
近い。うざい。
だが、こいつがこうも強引に迫ってくるのは珍しいな。
大方、この数日で他の連中を誘ってみたが、ことごとく断られたとか、そんなところだろう。
それに業を煮やして、こんな言質と言えるか微妙なものを盾にして、俺を巻き込もうとしていると見た。
「……まあ、今日は予定もないし、別に構わないが」
「よし! 決まりだな! だが、クエストの参加人数は最低四人からだ!! あと二人、何としてでも勧誘するぞ!!」
「……それを俺に手伝えと?」
「如何にも!!」
ハァ……。
何故、そんなクエストを取って来たのやら。
ウチのギルドで四人以上の予定が合う事なんて滅多にないとわかっているだろうに。
どうりで、今日までクエストを消化できなかった訳だ。
面倒な事になったと、俺が内心嘆いていた時、ギルドの扉が開かれた。
「邪魔するぞ。む? どうしたキョウ? そんな難しい顔をして? 悩みがあるなら筋トレで解消する事をすすめるぞ」
「そ、それでは根本的な解決には繋がらないと思うが」
入って来たのは、筋骨隆々の大男と、灰髪の不健康そうな男。
マックスとハンターの二人だった。
珍しい組み合わせだな。
しかし、これは、またとないチャンスだ。
こいつらも巻き込んでしまおう。
それで、ちょうど四人だ。
「おお! マックスとハンターではないか! ちょうど良いところに来た! 貴様らもクエストに付き合うがいい!」
「む?」
「な、何の話だ?」
そう考えたのはカタストロフも同じだったらしく、天啓を得たとばかりに二人に詰め寄って行った。
どうやら、俺の出番はなさそうだな。
交渉はカタストロフに任せればいい。
それが上手くいきそうになければ、こっそりと逃げればいい。
完璧だ。
そして、カタストロフの話を聞いた二人は、
「なるほど、そういう事か。まあ、たまには皆で協力プレイというのもいいだろう。その話、乗った!」
「お、俺も問題ない。そ、そもそも、俺が普段一人なのはタイミングが悪いだけだ。
た、頼まれたなら、普通に協力する」
と言って、普通に協力を申し出てくれた。
意外だ。
こんな、すんなりと行くとは。
明日は雨かもしれない。
あるいは、クエスト中に血の雨が降るかもな。
「決まりだな! では、出発だ!」
そうして、メンバー集めは不気味な程簡単に終わり、俺達はクエストの会場となる場所へと行く為に、ポータルに乗り込んだのだった。
◆◆◆
「ここか? クエストの会場は?」
「その通りだ! 立派なものであろう!」
カタストロフに連れられて訪れたのは、第二の街にある巨大な屋敷だった。
貴族の屋敷か何かだろう。
だが、
絶対にまともな貴族ではない。
貴族は貴族でも、頭に悪徳とつく類いの奴だろうな。
まあ、悪徳貴族とは言っても、所詮はゲームの設定の話なんだが。
「『サクリファイス』の皆様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
そして、俺達は屋敷の門の前に出てきた執事に連れられ、屋敷の主の部屋に案内された。
ちなみに、俺達は現在、全員がPKをする時の変装をしている。
闇ギルドとしてクエストを受けるのは、PKをするのと大差ないからな。
どちらも同じ悪役プレイだ。
そんな事を考えている内に、目的の部屋の前に着いた。
「旦那様。サクリファイスの方々がお越しになりました」
「おお! いらっしゃられたか! お招きしろ!」
「かしこまりました」
そうして入った部屋の中にいたのは……
「いや~、待ちわびましたぞ~! さあさあ、お入りください!」
チビでデブでハゲなおっさんだった。
……予想以上に悪徳貴族という言葉がよく似合うな。
ここまでわかりやすいと、逆に、実は良い人パターンを疑ってしまうぞ。
「では、早速依頼の話と参りましょう。
今回の依頼は護衛依頼! ワシをとある場所まで護衛してほしいのですよ」
「ほうほう」
「そこには『お楽しみ』が待っていましてな~、グフフ。
もちろん、報酬は弾みますぞ~。なにせ、組合が推薦してくださった方々! 頼りにしておりますよ~!」
「お任せください」
カタストロフが矢面に立ち、クエストの進行に必要な会話を進めてくれる。
この時間は暇だから、早く終わってほしい。
「実は待ちきれませんでな~! 仕度は完了しているのですよ! すぐに出発といきましょう!」
そうして、悪徳貴族は執事を連れて歩いて行き、俺達はそれを追いかける。
そのまま悪徳貴族は馬車に乗り込み、俺達はフォーメーションを決めてから、用意された馬に跨がった。
当然、馬術などやった事はないが、これはゲーム。
馬は普通に動いてくれた。
そして、馬車が出発し、クエストが始まる。
さて、今回のクエスト、何が起こるのか。
現実の護衛なら、トラブルなんて滅多に起こるものではないのだろう。
しかし、これはゲームだ。
トラブル、というかイベントが起こらない筈がない。
俺は少しワクワクしながら、馬の背中の上で、その時を待った。