プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「死神、どうだ!?」
「そこの茂みに2体、高速で近づいて来るのが3体いる。どっちも小型だ」
「よし、我らに任せろ! やるぞ、狩人!」
「りょ、了解した」
俺の《気配感知》に引っ掛かったモンスターの情報を教えると、カタストロフとハンターが遠距離攻撃の準備に入った。
馬上から放たれる闇の魔法と矢が、道中のモンスターに突き刺さる。
それだけで、俺が見つけた5体のモンスターは消滅した。
だが、すぐにおかわりが来る。
「今度は後ろからだ。反応は1体。多分、そこそこ強い」
「我が筋肉に任せるがいい!」
今度はマックスが馬から下りて背後から迫ってきたモンスター、大型の狼キラーウルフの相手をした。
キラーウルフの突撃を真っ向から受け止め、そのまま彼方へと投げ飛ばす。
「どっせい!」
そんな掛け声と共にキラーウルフが宙を舞い、どこかへと消えた。
それを見届ける事なく、マックスはダッシュで馬車に追い付き、馬に飛び乗る。
筋肉の塊に勢いよく乗られた馬が、苦しそうな呻き声を上げた気がしたが、おそらく気のせいだろう。
それよりも次だ。
「正面に待ち伏せが1体。デカイな。これは俺がやる」
「うむ! 任せたぞ!」
言うと同時に俺は馬から飛び降り、馬車の数倍の速度で駆けた。
そのまま正面に立ち塞がるモンスター、巨大な二足歩行の豚、オークに対して攻撃を仕掛ける。
オークの股下を潜るようにスライディングし、そのまま大鎌の刃で股間を斬り裂く。
そして背後に回り、男の象徴を潰されたオークの首筋目掛けて、容赦なくトドメの一撃を放った。
「《斬首》」
アーツによって強化された斬撃がオークの首を飛ばし、HPを削りきられたオークが光の粒子となって消滅する。
そのタイミングでちょうど追い付いてきた馬車に合流し、馬の上へ。
次の襲撃はない。
どうやら小休憩の時間のようだ。
俺は軽く息を吐いた。
「ふぅ」
「ほう。さすがの死神もお疲れのようだな」
「……当たり前だろう。これだけ連続で戦い続ければ、誰だって疲労する」
悪徳貴族護衛クエストを受けた俺達は今、ひっきりなしに襲来して来るモンスターの対処に追われていた。
一度モンスターが現れると、十分はモンスターハウス状態が続き、小休憩を挟んでは、またモンスターが大量に現れる。
それが、このクエストの仕様なのだろうが、もう少しマシな道を選べと言いたくなる。
俺のような、事故れば終わりの極振り型にとって、この状況はなかなかにキツイ。
正直、苦手なパターンの一つだ。
極振りは、ハマれば強い代わりに苦手な事が多い。
「ん?」
と、その時、《気配感知》に新たな反応があった。
「どうした、死神? 次のモンスターか?」
「……いや、違う。だが、
「た、たしかに」
俺の言葉にハンターが同意を示した。
ハンターは、遠くの景色を見る《千里眼》というスキルを持っている。
おそらく、それで俺が感知したものと同じ光景を見たのだろう。
そして、馬車は進み、俺とハンターが感知した通りの者が俺達の前に立ち塞がった。
「止まれ!」
そんな声を上げたのは、馬車の進行方向に仁王立ちする、鎧を着こんだ中年の男。
その後ろには、同じ鎧姿をした男が十人程整列している。
格好からして騎士だろう。
王道騎士団ではなく、おそらく、このクエストに関係するNPCと見た。
俺達は、全員馬から降りて戦いに備える。
「その馬車! 悪名高いアクロイド家の者だな! 貴様らの行ってきた所業は許しがたし!
貴様らが今日この道を通り、次なる悪事の場へと赴こうとしている事はわかっている!」
先頭の中年騎士が声を張り上げ、後ろの騎士達もそれに同調した。
さしずめ、悪徳貴族を成敗しに来た正義の騎士団と言ったところか?
ならば、俺達にとっては敵だな。
「か、カタストロフ殿! 奴らはワシの命を狙っておる! 助けてくだされ!」
馬車の中から、悪徳貴族の悲鳴に似た懇願の声が聞こえてきた。
敵確定だな。
俺達は、まさに悪の役回り。
実に闇ギルドらしい。
「今ここに天誅を下さん! かかれぇ!」
『おおおお!』
騎士達が剣を抜いて襲いかかってきた。
NPC特有の、どこか人間になりきれていない、機械的な動きだ。
俺は背中の大鎌を抜いて飛び出し、カタストロフは杖を掲げ、マックスはマッスルポーズをとって馬車の前に立ち、ハンターは茂みの中に消える。
俺達は、それぞれの戦い方で、騎士達を迎え撃った。
「今までとは毛色の違う敵! おそらく最終関門か、その一歩手前であろう!
もう一息だ! 気張れよ貴様ら!」
カタストロフの言葉を無視して、騎士達に襲いかかる。
まずは一番先頭にいた騎士に向かってデスサイズを一閃。
騎士は咄嗟に剣でガードしようとしたが、攻撃力に差がありすぎたのか、まるで受け止めきれずに剣ごと真っ二つになった。
今、俺が身に付けている装備は、例の公式イベントの上位入賞特典。
その性能の凄まじさたるや、チートの領域だ。
加えて、武器子による改良によって、デスサイズの性能も向上している。
もはや、この程度の相手は敵ではない。
「《エンチャント・アタック》!」
俺に任せた方が早いと判断したのか、カタストロフが得意の闇魔法ではなく、支援魔法を俺にかける。
これで、更に戦力差は広がった。
ここから先は、蹂躙だ。
装備によって上昇した速度と、装備と魔法によって上昇した攻撃力を使い、超高速で駆け回りながらのヒットアンドアウェイ。
近づき、一人殺しては距離を取る。
その繰り返しによって、一人ずつ確実に始末していった。
俺を無視して直接馬車を狙う騎士もいたが、それはマックスによって阻まれる。
まさに肉壁。
筋肉の壁にぶん殴られ、騎士は消滅した。
更に、絶妙なタイミングで、茂みに隠れたハンターの矢が飛来する。
アーツによって放たれた矢は、魔法よりも速く飛翔し、騎士達を屠る。
だが、動き回る俺には決して当たらない。
あいつの弓の腕はゲーム内屈指だ。
本人のプレイヤースキルに加え、そうなるようにステータスもスキルも弓術に特化している。
味方に当てるようなヘマはしない。
ハンターを信頼し、俺は自分の仕事に専念した。
そうして、一分もしない内に騎士はほぼ全滅した。
弱い。
だが、それも当然。
こういう敵対NPCは、基本的に強いプレイヤーの下位互換だと思っていい。
なにせ、AIの動きは単調だからな。
たまに高性能なのがいるが、こいつらは違った。
俺の慣れ親しんだ
対人戦特化の俺からすれば、良い鴨だ。
そして、残った騎士はリーダーっぽいあの中年騎士だけ。
「お、おのれ! 覚えていろ!」
そんな、三下の悪役のような捨て台詞を残し、中年騎士は俺達に背を向けて撤退した。
まあ、逃がさんが。
簡単に狩れる経験値を逃すプレイヤーはいない。
俺は中年騎士の背中を追いかけようとして、━━やめた。
何故なら、《気配感知》に新たな反応があったのだから。
高速でこちらに接近してくる反応が1体。
それに追従するような反応が多数。
「どうした、死神?」
「敵だ」
戦闘態勢を取り続ける俺を見たカタストロフの疑問に、簡潔に答える。
そして、新たな敵が俺達の前に現れた。
逃げて行った中年騎士の身体が、現れた一人の男の振るった大剣によって、頭から真っ二つに斬り裂かれ、消滅した。
「よお。お前が『死神』か。会いたかったぜぇ」
男が、大剣を肩に担ぎながら、好戦的に笑った。
どことなく人間臭い仕草。
新しいイベント用NPCかと思ったが、多分違うな。
こいつは、
そして、こいつは、モンスターではなくNPCを躊躇なく攻撃した。
間違いなく、俺達と同じ
同業者だろう。
「レオンさん、あまり一人で先行しないでほしいですね。あなたは
「チッ。小うるせぇなぁ」
続いて、レオンと呼ばれた男に追従して現れた集団。
人数は、騎士達と同じく十人程。
だが、纏う雰囲気が違う。
彼らの雰囲気は、まるで山賊。
その目ほ、殺戮と略奪の意思に燃えている。
なにより、俺は今レオンに話しかけた男を知っている。
以前、剣聖とパーティーを組んだ時に遭遇したPK。
軍服のような装備を纏った、糸目の男。
「貴様ら! 何者だ!?」
カタストロフが吠える。
だが、その声は少し嬉しそうだ。
どうやら、このシチュエーションを楽しんでいるらしい。
余裕あるな。
「俺達は闇ギルド『ダークマター』。そして、俺がダークマターのギルドマスター、『破壊王』レオンだ。
覚えとけよ? お前らを潰す男の名だ」
ダークマター。
以前出会った同業者が、より強い奴を引き連れて再び現れた。
「おもしろくなってきたな」
俺は仮面の下で小さく笑い、デスサイズを構えたのだった。