プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「む!? こやつら!?」
ダークマターの連中は、カタストロフ達を無視して護衛対象である馬車を狙い始めた。
魔法が、矢が、飛翔するアーツが、馬車目掛けて放たれる。
あの馬車はイベントオブジェクトだが、決して破壊されない訳ではない。
モンスターの襲撃から必死で守っていた事からもわかる通り、攻撃を受ければ普通に破壊され、中にいる悪徳貴族は死ぬだろう。
そうなれば、クエスト失敗。
俺達は、何がなんでも馬車を守り切らねばならない訳だ。
「剛力!」
「ぬぉおおおおお!」
カタストロフの指示により、マックスが身を呈して馬車を守る。
その圧倒的な防御力と回復力に任せて耐えるが、どう考えても長くは持たない。
このゲームは、一人のプレイヤーかそこまでの突出した耐久力を得られるようにはなっていない。
援護がいる。
「《ダークボール》! 《ダークボール》! 《ダークボール》!」
カタストロフが連射性重視で闇魔法を放つが、正面の壁役に全て阻まれる。
隠れたハンターも矢を放って援護するが、それも焼け石に水。
ならば、俺が突撃し、奴らの隊列を乱すのみ。
結局、やるべき事は変わらない。
敵が手段を選ばず勝ちにきたというだけの話だ。
不利になったのではなく、本来あるべき形になっだけ。
そう思えば、何も不思議な事ではない。
俺は奴らの後ろから強襲した。
「死神ぃ! 今度は俺が相手をしてやろう!」
だが、そんな俺の前に破壊王が立ち塞がる。
ギルドマスター直々に来るか。
……いや、最も強い個人が俺を止め、お荷物を抱えたカタストロフ達は数で袋叩きにする。
なるほど、合理的だ。
考えている。
「死ねぇえええ!」
こんな脳筋全開のくせに。
破壊王が大剣を振るう。
唐竹割りだ。
俺は体を回転させながらそれを避け、そのままカウンター気味に大鎌を振り抜いた。
「ふん!」
「……ほう」
しかし、その一撃は即座に引き戻された大剣によって防がれる。
そのまま、力任せに大剣が振り抜かれる。
その一撃は大鎌を押しきり、俺の体を後方へと吹き飛ばした。
凄まじいパワー。
こいつも、俺と同じで攻撃力に極振りしているのかもしれない。
下手したら、俺以上に。
「そら、次行くぜ! 《大破断》!」
破壊王が大剣を振り上げ、振り下ろしながら飛ぶ斬撃を放つ。
その威力は、サーベルが使った《ソニックブレイド》よりも遥かに強い。
俺の《鎌鼬》に匹敵するが、凌駕しているだろう。
さすがは、大鎌と同じ重量武器。
その破壊力は折り紙付きだ。
「はっ!」
俺はそれを大きく横に避け、流れるように腰から抜いたナイフを放った。
さっきまでの、ただのナイフではない。
「小賢し……ぬぉっ!?」
武器子謹製の特注品。
標的に当たった瞬間に大爆発を起こす、爆裂投げナイフだ。
武器子がやたらと品質に拘ったが故に数が少なく、値段も高く、しかも危なくて近接戦闘では使えない。
だが、それだけのデメリットを許容できるだけの爆発力、攻撃力を持っている。
普通のナイフと思って迎撃を選んでしまえば、初見での対処はまず不可能。
破壊王の姿が爆煙に飲み込まれた。
「終わりだ」
その爆心地に向けて、俺は駆ける。
破壊王の姿は目視できないが、俺には《気配感知》がある。
大体の位置さえ捕捉できれば十分だ。
「ッ!? なめんなぁああああ! 《大破断》!」
「!?」
しかし、破壊王は視界が塞がった中で、的確に最善手を打ってきた。
放たれたのは、さっきと同じ飛ぶ斬撃。
だが、俺の《危険感知》が反応している。
当てずっぽうに放ったにも関わらず、俺に当たる攻撃。
すなわち、横薙ぎに撃った広範囲攻撃。
致命の破壊力を持った斬撃が俺に迫る。
だが、
「甘い」
「ぐあっ!?」
俺は八艘飛びで斬撃をかわし、上空から破壊王を斬りつけた。
手に持った大鎌から、標的をかなり深く斬り裂いたという手応えが伝わってくる。
しかし、急所は外したようだ。
殺した時特有の光の粒子が出ない。
「なら、もう一発……」
「いえ、そこまでですよ」
その声が聞こえると同時に《危険感知》が反応。
すぐに、その場を飛び退く。
直後、そこに大量の魔法と矢が飛んできた。
直線上にいた破壊王を巻き込みながら。
「うぉい!? 当たってんぞ!」
「ご安心を。レオンさんとパーティーを組んでいるメンバーによる攻撃です。ダメージはありませんよ」
「チッ! なら、まあ、いいだろう。気に入らねぇがな」
爆煙の中から破壊王が現れる。
肩口に大きなダメージエフェクトが付いているが、まだまだ健在そうだ。
そして、破壊王と呑気に喋っているのはサーベル。
こいつは、破壊王と入れ替わるようにカタストロフ達の相手をしていた筈だ。
つまり、こいつがこっちの戦いに手を出してくるという事は……
「ええ、お察しの通りですよ。こちらは今終わったところです」
「ギャー!」
見れば、ダークマターの連中によって馬車は破壊され、中から悪徳貴族が引き摺り出されて、剣や槍でグサグサと殺られているところだった。
そして、すぐに悪徳貴族も光の粒子となって消滅する。
近くにマックスとカタストロフの姿はない。
殺られたか。
「チッ」
俺は小さく舌打ちをした。
これでクエストは失敗。
こっちのメンバーも倒され、相手はまだ結構な人数が残っている。
加えて、ダメージを受けているとはいえ、健在の破壊王とサーベル。
正面からでは勝ち目がないな。
全くないとも言わないが、護衛対象を失った今、正面から相手をしてやる義理はない。
「退却だな」
「! 待ちやがれ!」
俺は近くの茂みに飛び込み、ハンターと同じように姿を眩ました。
それを追って破壊王が駆ける。
追って来るようならゲリラ戦だ。
俺の得意な戦場へと引き摺り込む。
……というか、足遅いな破壊王。
攻撃力の代わりに速度を犠牲にしたのか。
「待つのはレオンさんの方ですよ」
「ぶげっ!?」
あ、サーベルが破壊王の足引っ掻けて転ばせた。
チャンスだ。
俺は爆裂ナイフを投擲する。
しかし、それは残っていた大盾使いに防がれた。
俺が倒したのとは別の奴だ。
「何しやがる、サーベル!?」
「あなたが無策で追いかけようとするからですよ。こういうのは森の中などでのゲリラ戦は死神の土俵です。
追いかけても殺されるだけですよ」
「じゃあ、どうすんだ!?」
「どうもしません。彼らの護衛対象を殺し、『深淵』と『剛力』をも打倒した私達の勝利です。
死神の首は欲しいですが、まあ、無理してまで狙うものでもないでしょう」
どうやら、サーベルはここで退散するつもりらしい。
尚も納得できずに吠える破壊王を、他のメンバーが必死に宥めていた。
あいつがギルドマスターじゃなかったのか?
それでも、最終的には多数決の意見が通り、破壊王は丸め込まれて、しぶしぶ撤退して行った。
だが、最後に、
「おい、死神! 聞こえてんだろ!?
今回は俺達の勝ちだ! だが、俺の勝ちじゃねえ! 俺はお前を倒せなかったからなぁ!
次に会う時は、必ず俺の手でお前を殺す! 覚悟しとけ!」
大声でそう告げて、破壊王は去って行った。
追撃はキツイと判断し、俺は残っていたハンターと合流してギルドへと戻った。
こうして、闇ギルド『サクリファイス』は、闇ギルド『ダークマター』に敗北したのだった。