プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「諸君、よく集まってくれた」
ギルドホームに集結したメンバー達を見据えながら、カタストロフが静かに告げた。
そう。
静かにだ。
未だに賢者モードが続いているのか、その雰囲気にいつもの騒がしさや、やかましさはない。
ただ、用意したテーブルに実に偉そうなポーズ(司令官ポーズというらしい)で座っている様子を見れば、あ、こいつカタストロフだな、とわかるんだが。
そして、その用意されたテーブルに着席しているのは6人。
つまり、サクリファイスのメンバー全員だ。
しかし、残念ながらカタストロフの召集(という名のメール)で集まった訳ではない。
カタストロフ本人はそう思い込んでいるかもしれないが、おそらく、全員が集まったのは、召集メールの後にサクラが気を利かせて打ったメールのおかげだ。
『今回は本気でカタストロフの精神がヤバイわ。もし彼に少しでも友情を感じているのなら、助けると思ってギルドに集合してちょうだい』
という内容のメールが、カタストロフ以外のメンバー全員に送られた。
一斉送信のリストから取り除くのが面倒だったのか、一緒にいた俺にまで送信されていたがな。
だが、それでもサクラの優しさが垣間見える。
サクラは、リア充死すべしという危険思想こそ持っているが、それを除けばメンバー内で最もまともで仲間意識の高い奴だからな。
つまり、良い奴なのだ。
危険思想さえなければ、リアルでも友達になりたいと思える程度には。
「さて、まずは情報の共有といこうか。
非常に不本意だが、我らが昨日ダークマターの連中に負けたというのは事実だ。
ハンデを背負っていたとはいえ、負けは負け。
素直に認めねばなるまい」
素直に認められずに半狂乱で暴れた奴の言葉とは思えないが……まあ、この短時間で成長したのだと、好意的に捉えておこう。
「そして、奴らは我らを倒した事で調子に乗っている。
街道封鎖という大掛かりな事を仕出かす程にな。
しかも、情報によると街道を封鎖しているダークマターのメンバーは、100人に届く程の大人数だそうだ」
100人。
尋常な数ではないな。
ちなみに、情報源は掲示板だ。
ゲームというのは、こういう時の情報収集が楽で助かる。
「おそらく、我らを倒したという情報に食いついた野良のPKの多くがダークマターに流れたのだろう。
時間的な問題を考えれば、それ以前からメンバーを集めていたのだとは思うがな」
前にサーベルが言っていたが、PKというのは、普通一人でできる事ではない。
ステータスやレベルといった能力値が明確に定められているゲームにおいて、単独で自身と同等以上の力を持ったプレイヤーを狩るのは至難。
それができるのは、一部の高いプレイヤースキルを持ったトッププレイヤーだけ。
だが、悪役プレイに憧れる奴は意外に多く、弱くてもPKがやりたいという輩はそれなりにいるらしい。
今回の件は、そういう弱くて燻ってる大量の野良PKをダークマターが吸収したんじゃないか、というのがカタストロフの見解だ。
俺も、その見解は、当たらずとも遠からずだと思っている。
まあ、ダークマターには、明らかに徒党を組む必要がないような強者も交ざっているが、それはそれだろう。
そいつらは、大規模な悪の組織プレイがしたかったとか、そんな下らない理由でやっていたとても、なんらおかしくない。
これはゲーム。
楽しければ良いのだから。
「さすがに、それだけの人数を相手に我ら6人だけで挑むのは無謀だ。
よって、有効な作戦を立てる必要がある。
意見があったら、挙手して発言してくれ」
その言葉を聞いて、ハンターがおずおずと手を上げた。
意外だ。
あいつは、あまり自己主張しないタイプだというのに。
「そ、そもそも戦う必要がない。か、街道封鎖なんて真似、絶対に途中で飽きてやめるだろう。
た、単純にそれまで待てば……」
「却下だ!」
喝! とばかりの大声で、カタストロフはハンターの至極もっともな作戦を却下した。
ハンターは意気消沈した。
哀れな。
だが、いくら有効な作戦であろうとも、カタストロフの目的が雪辱を果たす事である以上、最初から通る筈のない作戦だったな。
「他にはないか?」
カタストロフが他の意見を求める。
それに対して、今度は俺が手を上げた。
正直、ハンターが撃沈した今、真面目に作戦を考えているのは俺くらいだろうからな。
武器子は上の空だし、マックスは脳筋。
サクラは、フォローはしても作戦まで考えてはくれないと思う。
何故なら、あいつには今回の戦いにおけるモチベーションがないから。
カタストロフを助けると思って参加はしてくれているが、それ以上の事をしてくれるかは怪しい。
つまり、俺がなんとかしなければ、この会議はいつまで経っても進まない訳だ。
そういう訳で、俺は意見を出す事にした。
「どこぞのギルドと一時的に同盟を結ぶのはどうだ? それで数の差を埋める事はできると思うが」
「む」
俺の作戦を聞いて、カタストロフが思案するように沈黙した。
どうやら、一考の余地ありと判断したらしい。
「……リベンジを他の奴らと一緒にやるのは嫌だが、背に腹は変えられないか。
よかろう。
他に意見がなければ、その作戦案を受理する。
反対意見はあるか?」
カタストロフがそう問いかけるも、反対意見は上がらなかった。
まあ、作戦なんてどうでもいいと思ってる奴が過半数だろうからな。
これは予想できた。
「では、作戦の詳細を詰める。まず、どこのギルドに声をかけるかだが……」
「王道騎士団でいいだろう。『剣聖』の性格を考えれば、ダークマター討伐という点では利害が一致する筈だ」
「待ちなさい」
我ながらナイスなアイディアだと思ったが、思わぬところから苦情がきた。
サクラだ。
「あのリア充どもと手を組めと? 私はごめんだわ」
「手を組むのではなく、利用するとでも考えておけばいい。実際、その通りになるだろうしな」
「それでも、嫌なものは嫌。リア充と一緒にいると、拒絶反応が出るのよ」
「……はぁ」
俺は思わずため息を吐いた。
本当に、サクラはこれさえなければな……。
仕方なく、俺は立ち上がってサクラの側まで歩き、サクラの耳元に手を当てて、小声で囁いた。
「今回だけだ。カタストロフを助けると思って呑み込んでくれ」
「………………それは、ズルいわ」
サクラが今回メンバーを集める為に使った言葉。
この言葉を使えば、断れないと思ったのだ。
サクラは、基本善良だからな。
たしかに、ズルい。
だが、許せよ。
「はぁ。本当に今回だけだからね。それと、これは貸しにしておくわ」
「それはカタストロフにつけといてくれ」
「……それもそうね」
こうして、サクラの説得には成功した。
これで、作戦を阻むものは何もないだろう。
「む、終わったのか?」
「ああ。サクラも一応は納得してくれた」
「どんな魔法を使ったのか知らんが、よくやった」
その魔法の代価は、いつかカタストロフが支払う事になるのだろうが、今は黙っておこう。
「では、我らは王道騎士団に共闘を持ちかける事としよう。
異論はあるか?」
サクラが落ちた今、異論を出すメンバーはいなかった。
そうして、俺達は王道騎士団に話を持ちかける事が決定したのだった。